■春閼伽(10)
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ビキニの風は9人組のバンド(Gt/B/Pf/Dr/Vn3/Tp/Fl)で、ビキニを着て演奏するが全員男である。胸は無いし、パンティは膨らんでいるが気にしない。(最近参加したヴァイオリン担当の横河姉妹は性転換者で普通の女性体型)
朱美は投げやりな顔で紹介した。
「ビキニの風である」
「やっほー」とか「わー」
とか野太い声が聞こえてくる。
「以上で番組を終了します」
「こら、ちょっと待て」
「んじゃ演奏でもする?」
というわけでメンバーはピアノ室に移動してポールモーリアの『恋はみずいろ』を演奏した。
彼らは格好は色物だが、演奏はイージーリスニングが多く、FMではよく掛けられている。ポール・モーリアとかピエール・ポルトとかのカバーも多い。
「映像をオフにして音だけ聴けば素敵な音楽だ」
「俺たちのCDのジャケットには風景写真とかしか使われない」
「賢明だな」
「でもこのテレビ局好きだよ。ちゃんとビキニ着てる所を映してくれるから」
「多くの局ではビキニは勘弁してくれと言われてミニスカとか穿かされる」
男のミニスカは、いいんだ?
「この収録、夏の富山のサンルームじゃなくて冬の稚内の屋外ですれば良かったな」
「ケンネルさんには『北極でビキニになれ』と言われた」
「ビキニで北極点に到達したら世界の歴史に名を遺すよ」
「二度と北極点から戻れなかったりして」
「ああ生還は困難かもね」
「ビキニで北極行くよりは性転換手術受けろと言われるほうがまだマシだな」
「性転換手術ではめったなことでは死なないからな。性転換したら?」
「やだ」
「君たち、私の北海道の島に招待しようか?」
と千里が言い、ケイが
「ああ、『黄金の流星』でグリーンランドの島という設定でロケした所ね」
と言った。
彼らはこの話に興味を持ち、北鹿島(おっぱい島)でビキニの風が、クスコの『クールアイランド』をカバーしたアルバムが作られることになる。タイトルは『Bikini Wind plays CUSCO』である。
千里は彼らのために宿舎とガラス張り!のスタジオを建ててあげた。彼らは外が氷点下という中で(煖房のはいった室内で)ビキニで演奏をした。これは北鹿島の風景を入れたDVDがたくさん売れた。海外では数十万枚売れたらしい。ちなみに彼らはスタジオ以外では温かい格好をしていた(でないと簡単に凍死できる)。
「でもよくあんたらが着られるビキニがあったな」
「最初は女装ショップで買ってきた」
「なるほどね」
「今着てるのは事務所がオーダーで作ってくれた」
「良かったね」
「加藤と横河姉妹は既製品のビキニ着てる」
「ああ。加藤さんたちは着られるだろうね」
メンバーの中で加藤さんはパンティに膨らみが無い。胸も若干あるし、喉仏も無く、なで肩である。声もアルトである。身長も160cm程度である。本人も小学生の時から女性ホルモンを飲んでいたことを認めている。女装しているところをしばしば写真に撮られている。ツアーの時とかも彼は1人部屋らしい。これは他のメンバー“が”彼に襲われないための配慮らしい。
横河姉妹は性転換手術済みなので全て女性扱いである。但し彼女たちは女声が使えない(ボイトレ中)。遠征の時は彼女たちは2人で一室。週刊誌で美しい姉妹ヌードを公開していた。横河姉妹は女声遣いの加藤が羨ましいと言っている。
そういう訳で彼らは外を移動する場合は横河姉妹だけがレディスのスーツやワンピースで後の7人は男性用のジャケットとパンツである(加藤さんも男装:加藤さんは女装はただの“趣味”だと言っている。但しバストがあるし男性器は無い疑いが濃厚/彼は北鹿島の温泉では横河姉妹と一緒に女湯にはいったが、横河姉妹は彼の股間については「言わない約束だから言わない」と言っている)。
今日も全員スーツでエアバスに乗って熊谷から能登へ飛んできた。能登空港からは放送局が用意したマイクロバスで移動してきた。スリルボカンみたいな問題児とは違うのでこういう面は楽であった。
同じ日の午後からはセーラー服男子同盟を迎えた。
「セーラー服男子同盟である」
「わー!!」
女子プロレスラーが8人入ってきて全員を拘束する。
「何するんや」
「全員留置場にぶち込んで」
「待て」
「俺たち何もしてねーぞ」
「金曜日の夕方通学路で女子小学生を脅かしたりしなかったか」
「俺たちそんな悪いことしないよー」
「しかしそのセーラー服どこで買ったの?」
「コスプレ用の衣裳売ってる所あるんだよ」
「最近は変態もしやすくなったもんだ」
「セーラー服限定ライブとかやってたね」
「うん。9割が男だった」
「その中から5%くらいは将来性転換する子が出るな」
「出るかも知れん気はする」
「あんたらは性転換しないの?」
「小松以外はしないと思う」
「ぼく性転換するの〜?」
「してもいいよ。手術の後3ヶ月はお休みやるから」
「産休みたいだ」
「赤ちゃん産んでもいいよ」
「さすがに妊娠する自信は無い」
演奏は正統派のハードロックでケイと千里も頷いていた。この演奏を聴いてファンが増えたかも?セーラー服女装者も増える??
10日の午前中には白山未来を迎えた。
「白山未来さんでーす」
「こんにちはー」
「前回・前々回とビキニの風にセーラー服男子同盟をしたのでほっとします」
「それはハードな取材だったね」
「白山さんまで女装で出てきたらどうしようかと思った」
「女装は中学の時やらされたことある」
「マジですか」
「女子校の生徒役が足りないからセーラー服着てって言われて着せられました。セリフとかは無かったですけどね」
「貴重な体験ですね」
「歩くのに苦労しました」
「ああ。男の人はスカートで歩けないよね」
「スカートの裾に足がぶつかるんですよ」
「だいたい最初は転ぶ人が多い」
「転びました」
「やはりね」
この映像は誰も発掘できなかった。
「アルバム『東京』は面白かったです」
「ありがとうございます。カバーばかりですけどね」
「いやこういう企画は過去に無かったですよ」
「とにかく“東京”にまつわる曲を集めましたからね」
「東京音頭、東京行進曲、ウナセラディ東京、東京ブギウギ、東京ララバイ、TOKIO、テクノポリス、東京砂漠、TOKYO GIRL」
「実は東京と付く歌があまりに多すぎて選択するのに苦労したんですけどね」
「多いでしょうね」
「でも沢田研二さんの映像見ましたけど、あれは衝撃ですね」
「私も見た時はびっくりしました」
「あれを80年代にやったのが凄いですね」
「しかも沢田さんって1960年代にデビューしてるから、10年もやってきたら守勢になってもおかしくないのに、ああいう若い挑戦をするって凄いですよ」
「ぼくらもずっとチャレンジャーでいたいね」
「山手線ツアーをしたとか」
「はい。山手線の30の駅を1日1つずつ1ヶ月かけて回って、各駅の近くのホールとかイベントスペースで歌いました」
「日本一小規模なツアーかもね」
「各駅をテーマにした歌を松本花子先生に書いていただいて歌ったんですよ。これを集めて『東京2』ってアルバムにして来月発売予定です」
(放送予定日を基準に言っているので11月)
「面白いね」
「売れるとは思えないけどミニツアーの記念に」
「そういうのもいいと思うよ」
このアルバムは1万枚も売れてびっくりしたらしい。
歌唱では『東京2』から『高輪ゲートウェイ』を歌った。千里が「デパートか何かのCMソングみたいだ」と言っていた。
午後からは高橋康太を迎えた。
「高橋康太さんでーす」
「よろしくお願いしまーす」
「今年でデビュー3年ですね」
「ラピスラズリさんなんかも同じと思うけど、ぼくたちってコロナ流行下でデビューしたから、従来型のプロモーションが全然できなかったんだよね」
「ですよね。ライブとかCDショップでのキャンペーンとかもできない。ある程度売れてる人しかテレビには出してもらえないけど、テレビ局に声を掛けてもらえるレベルに到達する手段が無い」
「ネットに動画投稿したりしてますけど、テレビとは見てくれる人の桁が違いすぎる」
「テレビは視聴率1%でも100万人ですからねー」
「でも高橋康太さんと言えばエンジェルボイスですね」
「まああれはあくまでも“芸”ということで」
「こうやってお話ししてる時は普通の男性のお声に聞こえますね」
「あれは歌う時だけあの音域が出せるんですよ」
「『セレステ』聴きましたけど女の人が歌ってるようにしか聞こえないです」
「あのアルバム売れすぎたから、ぼくかえって色物と思われちゃったかも」
「女の子になりたいとかは無いんですか?」
「ぼく女の子と結婚したいので」
「レスビアンという道もありますよ」
「あまり唆さないでください」
「でもスカートくらいは穿きますよね」
「ちょっとちょっと」
(なぜ否定しない?)
ケイが「あまりそういう話はするな」というメモを渡したので朱美は次のアルバムや年末に計画しているツアーのことなどを訊いた。次のアルバムはテノールボイスで構成する予定ということであった。
ピアノ室の歌唱では、彼ははるこのピアノ伴奏で、美しいソプラノボイスで『セレステ』にも収録されている『小さな木の実』(ビゼー原曲・石川皓也編)を歌ってみせた。
しかしこの番組で彼のエンジェルボイスを初めて聴いた人も多かったようで、このあとスカートがたくさんプレゼントで送られてきたらしい!彼はブログで
「ぼくがもし女装にハマったら朱美ちゃんのせいだから」
と書いていた!
(でもスカートのプレゼントは以前からも時々あったらしい。彼は66のスカートが穿けるという出所不明の情報までネットには流れていた。もらったスカートは福祉施設に寄付したと報告していた。でもバラエティ番組でウェストを“女性式に”測ったら67と出て本当に66のスカートが穿けそうと言われていた。実際に穿いてみてというのは逃げていた。代わりに江藤レナが赤いスカートを穿かされた!(66のスカートが穿けた!)「何でぼくがスカート穿かないといけないんです?」「赤ずきんちゃんの役やらせてあげるから」「いやだぁ!」)
大学では前期の試験が終わったが、希望も和栄も俊夫も単位は全て取得し、あとは卒論を書くだけになった(そのほか就職準備のための講座がある。オフィス(ワープロ・エクセル・パワポなど)の使い方やビジネス関係のスキル、英会話など。これは卒業には無関係)
俊夫は姉が本当に振袖を貸してくれたので、念のため美容室に予約をいれておいた。キャンセルは最悪キャンセル料を払えば可能だろうが直前に予約を入れるのは困難である。
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春閼伽(10)