【女子中学生・冬の旅】(1)

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彼は夢を見ていた。
 
夢の中に千里ちゃんが出て来た。なんか全身金色の服を着ている。耳にも金色のイヤリングしているし、髪にも金色のカチューシャを着けている。腕にも金色のブレスレットを着けている。
 
「明けましておめでとう」
と言われるので
「あめでとう」
とこちらも言う。
 
「これは初夢だよ」
「あ、夢なのか」
「お正月だから、お年玉あげるね」
「そんな要らないよ。中学生同士で」
「遠慮しないで。お年玉は玉落としだよ」
「何それ?」
 
「玉、邪魔でしょ?落としてあげるね」
「玉?」
 

「これよ」
と言って、千里ちゃんは彼の股間に手を伸ばすと、あれを掴んで・・・・・
 
取っちゃった。
 
え〜〜〜!?
 
「じゃこれ、捨てとく?念のため取っておく?」
「まだ捨てないで」
「分かった。じゃ一応フリーズドライにして保存しておくね」
 
フリーズドライ〜〜!?
それってお湯を掛けて3分経つと戻るの??
 
「余計な玉は落としたから、もうこれで汚らしい男になることは無いよ。可愛い女の子になってね。じゃね」
 
と言って、千里ちゃんはどこかに行っちゃった。
 

そこで目が覚めた。
 
「夢かぁ」
と思ったが、そういえば、千里ちゃんも「初夢」だと言ってたなと思った。でも以前にも似たような夢、見なかったっけ??
 
ぼくこんな夢見るって、やはり女の子になりたい気持ちが強くなってきているのかなあ、と彼は心が揺らぐ思いだった。
 
でも初夢って、いつ見る夢のことだっけ??(*1)
 

(*1) 初夢がいつ見る夢かについては3つの説がある。
 
a. 12/31の晩から1/1の朝に掛けて見る夢
b. 1/1の晩から1/2の朝に掛けて見る夢
c. 1/2の晩から1/3の朝に掛けて見る夢
 
一般的にはb.の説が有力。a.はむしろ“年越し”の夢である。
 
c.の説は、1月2日に、初荷・初稽古・書き初めなどの行事が行われるので夢も2日からという考え方だと思う。
 

「玉取ってあげようか?」
と金ピカの服を着て金色のカチューシャを着けた千里Goldが言うと、少年は恥ずかしそうに俯いた。
 
「玉無いと困る?」
と訊くと少年は、ぶるぶると首を横に振る。
 
「じゃ取っちゃおう」
と言うと彼は、恥ずかしそうに頷いた。
 
「じゃ本当に取るよ」
と言うと、ドキドキしたような顔をしている。
 
千里Goldは、横になっている彼の股間に手を伸ばすと、彼を男にしてしまう諸悪の根源を取り去った。
 
「取っちゃったよ。10秒以内なら戻せるよ。10, 9, 8, ...」
とカウントダウンすると彼は俯いたままドキドキしたような顔をしている。
 
「7, 6, 5, 4, 3, 2」
「私がゼロと言ったら、もう戻せないよ」
と最後の意思確認をすると彼は再度小さく頷く。
 

「1, 0」
と千里Goldは最後までカウントダウンした。
 
「これでもう君は男の子ではなくなったよ。良かったね」
と言うと、彼、いやもう彼女は、嬉しそうな顔をしていた。
 
「じゃ、またね。ちんちんも取りたくなったり、おっぱい大きくしたくなったら、また私を呼んでね」
 
と言って千里Goldは立ち去った。
 
こうして千里Goldは、男になりたくない男の娘のために、女の子になりたい男の子のために、夜な夜な暗躍しているのであった!
 
“元少年”は目を覚ました。そしてお股に手を伸ばして、あそこを確認する。そして、物凄く嬉しそうな顔をした。
 

「本人が気が変わって、やはり男になりたいと言った時のために、保存しておかないといけないからな。全く面倒臭い」
 
と千里Goldはグチを言いながら、この夜回収した睾丸を1個ずつ別の保存機に入れて名前と日付・左右の別を記入した。
 
ちなみに左右を別にして保管するのは何かの事故で片方がダメになっても、もう片方が使えるようにである。
 
「いっそのこと、小学校に上がる時に、男子は全部睾丸取っちゃったらどうかね?睾丸要る人いるんだっけ?」
 
いや、大半の男の子は要ると思いますよ。
 

ちなみに、千里Goldのお仕事の主要部分は、生活の苦しい人や、病気で苦しんでいる人、また道に迷っている人などの支援である。仕事柄、亡くなっていく人を見送ることも多い。孤独死していく人に、般若心経を唱えてあげたりもする。千里が唱える般若心経を聞いて多くの人がおかしそうな顔をするのはなぜだろう?と思うが、最期の時を楽しい気分で逝くのは良いことだと思っている。
 
千里Gold(正式には千里γ)は、神様が直接は関与できないことを、眷属としてもう10年くらい遂行している。
 
男の娘の睾丸を取ってあげたり機能停止させてあげるのは、あくまで余技??である。
 

2005年1月1日(土).
 
朝6時。夜明前!
 
(この日の夜明け6:26 日出7:07)
 
「あけおめ、ことよろー」
と言って、千里のW町の家に、きーちゃんがやってきた。
 
「あけおめー」
と千里(千里G)も言うと、
「寒かったでしょう」
と言って、お汁粉を勧める。
 
「やはりお正月はお餅がいいねー」
と彼女は言い、お汁粉を食べた後、千里の勧めで、おせちなども摘まんだ
 

7時過ぎ。
 
「そろそろ日も昇るね。出掛けようか」
「はい」
 
それで2人はトイレに行ってから、千里が予め作っておいたサンドイッチ、それに暖かいお茶を入れたポットも持ち、
「いってきまーす」
と言って、家を出る、
 
きーちゃんのトリビュートに乗って車は出発した。
 

2人が出掛けた後、地下室から千里Vが1階に昇ってくる
 
「不安だぁ。私ひとりでできるかなぁ」
とVは、いきなり弱音を吐いた。
 
(この子はいつも自信が無い)
 

千里Gを乗せた、きーちゃんのトリビュートは、国道233号を東行し、沼田ICから深川留萌自動車道に乗る。深川JCTで道央自動車道に乗り、岩見沢SAで休憩する。更に道央道を走り続け、富浦PAでトイレ休憩した後、登別室蘭ICを降りた。国道36号を15分くらい走り、市道?をちょこまかと走って、12時前、一軒の純和風住宅に辿り着く。家の前に停めて、千里は車を降りた。
 
今どき珍しい土壁である。庭には松の木があり、石灯籠が立っていて、鹿威し(ししおどし)のある小さな池も作られている、もっとも今の時期は全て雪化粧で、水も凍結しているようだ。お正月なので日の丸が掲げられている。玄関の両脇には門松も立っている。玄関には、しめ縄が張られている。
 
門の所のピンポンを鳴らそうとしたら、その前に玄関の引戸が開いた。振袖を着た懐かしい友の顔が現れる。
 
「千里〜!」
「珠良〜!」
と言って2人は抱き合った。
 
彼女が室蘭に転校していった2000年2月以来、約5年ぶりの親友との再会であった。
 

「こちら、うちのおばさんの貴子さんね。お父ちゃんは新年早々漁に出ないといけないんで、代わりに連れて来てもらった」
 
「初めまして、よろしくー」
 
それで2人で中に入れてもらう。
 
「千里ちゃん、お久しぶりー」
と珠良の母・弥生。
 
「おお、千里ちゃん、元気してた?」
と父の平太(ペーター)、
 
「こんにちは」
と言っている妹の繭良は6つ下だったので、現在は小学2年生のはずだ。さすがに千里のことは覚えていないだろう。
 
一番下の妹・琴良(2)は、人見知りしない性格のようで、千里の傍に寄ってきて、結局、千里の膝に抱かれた。
 
弥生さんは色留袖、平太さんは紋付袴、繭良は四つ身の着物、琴良は三つ身の着物を着ている。お正月に家族全員和服を着る家は今時珍しいよね、と千里は思った。
 

千里は
「これお土産です」
と言って、留萌のお菓子“テトラポット”を弥生さんに渡した。
 
「気にしなくていいのに」
と言って弥生さんが受け取る。
 
「でも寒かったでしょう?取り敢えずお雑煮でも作るね。お餅は何個?」
 
「私は1個」
「私も1個で」
 
「千里、いっぱい食べないと、おっぱい成長しないぞ」
「あはは」
 
珠良は千里と同い年だが、既にCカップくらいある。お母さんもおっぱい大きいから遺伝かな?
 

弥生さんはハワイ生れの日系3世。お母さん、お祖母さんがポリネシアンである。顔の雰囲気もハワイ系が強く出ている。平太さんは、お父さんが日本とアメリカのハーフ、お母さんがブラジルとメキシコのハーフで4種ミックスである。
 
彼はペンシルヴェイニアのエリー(Erie エリー湖岸の都市)出身である。就職した会社のハワイ支店に赴任してる時にヤヨイと知り合い結婚した。結婚後に日系企業に転職。すると最初仙台支店に転勤になり、ここに勤めている時に日本に帰化した。
 
そしてヤヨイの妊娠中に根室支店に転勤。ここで珠良が生まれた。更に1994年に留萌に転勤。ここで繭良が生まれた。2000年に室蘭に転勤。ここで更に下の妹、琴良が生まれた。珠良と琴良は12歳違いである。平太さんは室蘭と留萌で副支店長を務め、室蘭では支店長になった。支店長なので当面転勤は無いかもと言っている。
 
「僕は、生まれがエリー湖岸で、その後、ホノルル、仙台、根室、留萌、室蘭、と水辺の町ばかり。龍神様に守護されてるのかもね」
「ああ、そういう人いますよね」
 
娘3人は全員両親の帰化後に生まれているから、生まれながらの日本人である。両親ともに日本人の血を引いているせいか3人とも、顔はやや無国籍だが、美しい黒髪である。和服がとてもよく似合っている。
 
「6年おきに3人作って“間欠泉姉妹”だとか言われてる」
「まあ子供がいつできるかなんて分かりませんからね〜」
「男の子が1人くらい居ても良かったんだけど」
「私が性転換しようか?」
と珠良。
「確かにお前は男でもやっていけそうだ」
 
一家は留萌に来た頃まではクェーカーだったが(*2)、その後、浄土真宗に転宗してしまった。お経もよく研究しており、般若心経を1万枚書写したらしいし、彼は観音経をそらで唱えられる。毎朝正信念仏偈を唱えるという。昨年は札幌の大学で、浄土三部経の講義をしたらしいから、本物である。
 
日本に来た頃からの仏像マニアで、今回訪問した室蘭の家には“仏像部屋”ができていた。後で見せてもらったが、阿弥陀如来、聖観音、千手観音、薬師如来、釈迦如来、地蔵菩薩、虚空蔵菩薩、大黒天、毘沙門天、吉祥天、などが並んでいるが、周囲に十二神将が揃っているのは美事である。
 

(*2) ペンシルヴェイニア州には実はクェーカーが多い。特にフィラデルフィアでは大勢力である。クェーカー(震える人)というのは初期の信者さんたちが祈祷時あるいは神秘体験で身体を震わせるようにしていたことから付いた名前。信者さんの中には“クェーカー”という呼び名を嫌う人もあり、キリスト友会またはフレンド派などを自称する人たちもある。実はこの宗派には呼び名が実に多数ある。クェーカーという名前が最も広く知られているので、ここでは便宜的にクェーカーと書く。筆者の個人的な知人さんはクェーカーを自称していた。
 

家の中にあげられた千里と、きーちゃんは、お雑煮を勧められた後、おせちも自由に摘まんで下さいと言われた。実に様々なおせち料理が並んでいる。
 
黒豆、数の子、栗きんとん、色とりどりの寒天、かまぼこ、伊達巻き、小女子、にしんの昆布巻き、海老の焼き物、鮭の焼き物、椎茸・蒟蒻・タケノコの煮染め、筑前煮、ローストビーフ、鶏肉のテリーヌ、と色々揃っている。
 
「弥生さんひとりで作られたんですか?」
「私も少し手伝ったよ」
と珠良。
「そうね。5%くらい手伝ったかな」
と弥生。
 
「餅は僕が杵と臼で撞いた」
と平太さん。
 
「すごーい!」
 
「お隣の山岡さんと協力して撞いて、半分こしたんですよ」
「確かに2人必要ですもんねー」
 
「いやこのお餅は本格的に撞いたお餅だと思いました」
と、きーちゃん。
 

千里は繭良にポチ袋のお年玉をあげた。琴良はまだ小さいので、チョコをあげた、2人とも喜んでいた。でも千里も弥生からポチ袋をもらってしまった。
 
「すみませーん」
「いや、こちらももらったしね」
 
でも、きーちゃんは珠良と繭良にポチ袋、琴良にはクッキーをあげていた。
 

ひと通り、歓談をした上で、本題に入る。
 
「それで年内に電話でお話ししたように、あの山の中の別宅の土地・建物を譲って頂けないかと」
と千里は言った。
 
「全然オッケーね」
と平太さん。
 
「それで一応50万円用意してきたんですが」
と言って、千里は10万円単位で紙テープで留めた札束を5つ積み上げた。
 
しかし平太は
「こんなに要らないね」
と言い、1つだけ取って残りの4つはこちらに返した。
 
「そんなに安くていいんですか?」
「だって元々20万で買ったものだし。減価償却しちゃってるよ」
 
「土地は減価償却されない気がします」
「あそこは鹿とか熊とか出るから」
「この半年で、ヒグマ5頭とエゾシカ4頭、捕獲しました」
「豊作だね!」
「美味しく頂きました。それでも余っちゃうんですけどね。今冬だから天然の冷蔵庫に保管しています」
 
「熊カレーとか鹿カレーとか売り出すといいかもね」
「ほんとに売り出そうかな」
 
「うちの会社で売ってるカレー粉使わない?安く卸すよ」
「お父さん、商売熱心!」
「美味しい馬鈴薯・玉葱作ってる農家も紹介しようか」
「じゃその件はまた後日打合せを」
 
ということで、取引は10分で終了した。平太はその場で登記変更の委任状を書いて実印を押してくれた。印鑑証明書も付けてくれるので、印鑑証明書の発行手数料分を押しつけるように渡した。
 

その後、一家は室蘭八幡宮に初詣に行くというので、千里と、きーちゃんもそれに付き合った。おみくじを引いたら、みんな吉とか中吉なのに、千里は大凶を引いて「ぎゃっ」と声を挙げた。
 
「お正月はおみくじから凶や大凶は抜いていると思うのに、抜き忘れかなあ」
と平太。
「そういう珍しい、おみくじを引く千里は運がいいね」
と珠良。
 
「これって運がいいの〜?」
と千里は困惑するように声を挙げた。
 
きーちゃんも笑っていたが、彼女は大吉であった。
 

その日、家に戻ってから、昔の友人たちのことで、情報交換した。
 
「ヒメは名古屋に行った後、お父さんは自動車工場に勤めてたけど、その後、バス会社に転職したらしい。だから当面名古屋から移動予定無し」
「安定しているならよいことだ」
 
「リサのお父さんは釧路に行った後、更に根室に移動している」
「そうそう。私、去年釧路に行く機会があったから、リサんちに寄ろうかと思ったら根室に引っ越したと聞いて断念した」
 
「ルアナはその根室にいたのが、お父さんが漁船員辞めて鹿児島のIC工場に勤めている」
「北から南へ大移動だね」
 
「イサオのお父さんはフィリピンで日本料理店をしている。イサオは勉強頑張ってるらしいよ。日本の大学を受験したいとこないだ手紙に書いてきた」
「身元引受人とか必要なら協力したいね」
「そうそう。そういう話をこないだリサとも電話でした」
と珠良は言っていた。
 
「でもどこを受けるんだろう?」
「イサオ、だいぶ日本語忘れてしまって、今頑張って勉強し直してるんだって。その教えてくれている先生が、お茶の水に留学してたらしいのよ」
「才媛じゃん」
「ぼくも先生の留学した大学に行こうかなと言ったら、あそこに入るためには君は性転換しなければならないと言われて、どうしよう?と悩んでるとか」
「ああ、別に性転換くらいしてもいいんじゃない?」
「リサともそう言ってた」
「イサオ改めイサコになってたりして」
 

2人はこの日、珠良の家に泊めてもらい、翌日は、室蘭の名所、白鳥大橋(はくちょうおおはし)と、そのそばの記念館に連れて行ってもらった。お昼を平太さんが出してくれたが、きーちゃんが名物“帆立の玉焼き”を買って全員に配った。
 
その後、地球岬を見てから珠良たちとは別れる。
 
そして道央道を走って旭川に行き、夕方、祖母・天子のアパートで降ろしてもらった。
 
「そうそう。これ、今回の交通費と報酬ね」
「さんきゅ、さんきゅ。報酬はいいのに」
「まあ“十二天将”としてタダで使わせてもらう時もあるけど、これは個人契約のほうで」
「じゃもらっとくね」
「うん」
「あと、法務局のほうもよろしく」
「OKOK。処理しとく」
 

それで千里Gは1月2日(日)の夕方、天子のアパートにやってきた。
 
まずは室蘭で買った「草太郎」を出して、天子・瑞江と一緒に食べる。おせちはVが12月28日に作ってくれているが、
 
「Vちゃん、私より料理が上手いな」
などと思いながら、味わった。黒豆にしわができてないのが凄いなどと思う。
 
「あれ?酢の物食べないの?」
「ごめんなさい。私、酢の物苦手で」
「でも作る時、味見しながら作ってたのに」
「あはは、そういうこともあるかもね」
 
そういえばVちゃん、らっきょうとか好きだよなあ、などとGは思った。
 

千里Gはこの日、天子のアパートに泊まり、翌日(1/3)は天子・瑞江と3人で旭川Q神社に初詣に行く。
 
大勢の参拝客に少し疲れて来ていた旭川Q大神(留萌Q大神の姉)は、千里に気付き
「何て可愛い子がいるの!」
と千里に一目惚れしてしまった。
 
「あの子、中学生かなあ。どこに住んでるんだろ」
などと独りごとを言っていたら、眷属の鴎子が
 
「あの子、留萌Q神社の巫女ですよ。大神のお気に入りみたいです」
と教えてあげた。
 
「妹が目を付けたか!目を付けるだろうなあ。中学生?」
「確か4月から中学3年生ですよ」
「だったら来年中学卒業したら、旭川の高校に来てくれないかなあ」
などと旭川Q大神は呟いていた。
 
千里Gは、旭川Q大神の“熱い視線”には気付いたが、気にしないことにした。
 
更にお客さんを先導して昇殿しようとしていた斎藤巫女長とも一瞬視線が合ったので会釈をしておいた。巫女長も会釈を返してくれた。巫女長が伊勢研修で会ったのは千里Bだが、Gはそれもちゃんと把握している。
 
神社を出て、ポスフール永山店で一緒にお正月の買物をした。それから駅前まで送ってもらい、高速バスで留萌に帰還した。
 

W町の家に帰ると、Vが
「心細かったよぉ」
と泣きそうな顔をしていた!
 
なお正月3ヶ日はRがひたすら休眠していて、Yが朝から夕方までP神社でご奉仕していた。買物は年内に4日くらいまでの分が済ませてあるが、夕飯は千里に代わって小春が作っていた。コリンはRが寝ているので、自分も小春の家でたっぷり寝正月を決め込んでいた。一方、星子は千里Bに代わって、Q神社でご奉仕していた。
 
ということで、Vのすることはあまり無かった筈である。
 

現在2005年正月で千里たちは中学2年生である。
 
間が空いたので、男の娘たちの状況を概観しておく。
 
原田沙苗 剣道部 男の娘→女の子
 
きょうだいは妹が1人(笑梨)。自分の性別について深刻に悩んでいた子。
 
中学入学の際に男子扱いされることに絶望して自殺を図るが千里に助けられる。結果的に女子制服での通学を認められた。1年生の間は白い道着を着て男子として大会に参加していたが、睾丸が無く女性ホルモン優位の状態が長期間継続していることから2004年から女子選手としての登録を認められる。
 
生理が来たことから性別修正して法的にも女性になった。P大神が埋め込んだ小さな女性器セット(本人のiPS細胞から作ったもの)を持つ一方で小登愛の左卵巣・子宮を移植されており、本当はこの小登愛由来の卵巣・子宮が生理を起こしている。本人の女性器セットは“お留守番”の報酬として、Q大神の手により、0歳女児状態から2004.12現在6歳女児の状態まで成長している。
 
剣道部では2003年春の大会で男子として3位。2004年から女子の部に出て春大会BEST8, 夏大会BEST16. しかし夏大会では公世の練習パートナーとして全国大会に付き添ってきた。玖美子・公世・沙苗の実力は伯仲してる。
 

高山世那 剣道部/合唱部ピニスト 男の娘→女の子
 
姉の亜蘭、弟の慧瑠が居て3人姉弟。自分の性別についてあまり悩んでない子。女の子に移行して以降は“セナ”とカタカナで書かれることが多い。
 
1年生の2学期までは男子制服で通学していたが、3学期からは女子たちに強引に女子制服を着せられ校内ではセーラー服を着ているようになる。2年生になった時、先生の勘違いにより、女子生徒として登録変更されてしまった。
 
2年生の春から女子剣道部に入る。でも1年女子にも簡単に負けるし、部活に出て来ても、ひたすらおしゃべりしている。
 
睾丸は2004年4月に、取っちゃったものの、ほぼ男子の身体のまま女子生徒・女子選手をしていた。但し小登愛の右卵巣を埋め込まれたため、その卵巣が出す女性ホルモンの影響で少しずつ女性化していた。更に千里の余計な親切で、法的な性別も女性に修正されてしまった。
 
本人もいいのかなあと思っていたのだが、2004年12月にP大神の手で男性器を取り外し、死産だった妹の女性器を取り付けられて機能的にも完全な女性になった。つまり彼の場合は、学籍簿上の性別変更→法的な性別が女に修正→肉体的にも女に性転換、という順序で進んだ。
 
結果的に彼女の身体の中には卵巣が3つある。
 

祐川雅海 Patrol Girls 男の娘(去勢済)
 
姉3人弟1人。家族は雅海の女性化を後押ししている。
 
以前から女装趣味はあったものの、1年生の時まではほぼ男子生活をしていた。2004年5月女装で札幌に遊びに行った時、大通公園でスカウトされて、パーキングサービスのバックダンサー、パトロール・ガールズに臨時雇用されてしまった(“伝説の北斗六星”)。
 
それ以来本人も女の子になりたい気持ちが強くなってきた。5月のマラソン大会は女子の部に参加。水泳の授業は女子水着で受け、女子たちに認められて更衣室やトイレも女子用を使う用になる。
 
にも関わらず、女子制服を着ずに2004年12月の段階ではまだ男子制服での通学を続けている。つまり男子制服のまま女子トイレ・女子更衣室を使用している。
 
肉体的には去勢している以外は男子のままだが、8月のパーキングサービスのライブの時、女子水着になる必要が出て、1日限定で女の子に性転換した。その後遺症?で骨格がやや女子化し、男子用ズボンが穿けなくなった。
 

福川司 野球部 男の子→男の娘
 
元々は女性指向などなかったはずが、微妙になりつつある。
男ばかり4人兄弟だったので、司の女性化は親や兄弟が歓迎している。
 
2004年4月に旭川に来ていて間違って女子トイレに入ってしまった。偶然それを見た千里は彼が痴漢と間違えられないよう声を掛けておしゃべりした。それで千里は彼が女の子になりたいのだろうと勝手に思い込み、古着ショップに連れて行きスカートを買わせた。
 
彼はそれでスカートにハマってしまった。6月、彼がまた旭川に出てスカートで歩いていたら、それに目を付けた天野貴子に拉致され、勝手に女の子に性転換されてしまった。「別に女の子になりたい訳ではない」と言って、男の娘!に戻してもらったものの、後遺症?が色々出る。
 
8月には雅海に誘われてパトロールガールズに参加し、この時また1日限定の性転換をされたので、後遺症は益々大きくなった。男子用ズボンが穿けなくなり、野球部のユニフォームも実はズボンは女子ソフト部のものを穿いている。
 
貴子が女子制服をプレゼントしてくれたので着てみるが、それで登校する勇気は無い。外見の女子化が進み、同級生たちからは性転換したのだろうと思われ、野球でもほぼ“女子選手”扱いになっている。
 
女子にしか見えないので大会の時に性別検査を受けさせられ、男子という診断を得たものの、お医者さんを誤魔化したのだろうとみんな思っている。ただ良い後遺症として、小学生の時に痛めた肩が治り、またピッチャーができるようになった。
 
少なくとも2004年12月31日までは!睾丸が存在した。
 

工藤公世 剣道部 一応男の子
 
姉と弟が居て、姉も剣道をしている。特に女性傾向は無いのだが、最近みんなが勝手に性転換したのではと思っている。
 
元々女顔て声もハイトーンだった。また男子にしては華奢な体格である。更に名前が本来は「こうせい」と読むのだが昔から「きみよ」と誤読され、性別を誤解されることもあった。最近はほぼ「きみよ」としか呼ばれない。
 
2004春の大会で自分の道着が洗濯されてしまい姉の白い道着を借りて出場したら、女子だと誤解され、対戦相手が手加減気味になったことからBEST8まで進出する快挙。夏の大会では会場で雨のため濡れている廊下で転び道着が汚れてしまったので千里の予備の白い道着を着て出場。また性別を誤解された感じで今度はBEST4まで行き、北海道大会に進出した。
 
千里や玖美子に誘われ道大会前の合宿に参加したら落合さんの指導で開眼する。道大会では玖美子から「これ穿くとパワーが出るよ」と乗せられて女子用ショーツを穿いて出る。すると組合せの運が良かったのもあり、準優勝して全国大会に進出した。
 
全国大会では朝起きたら女の子になっていた。ショックの反作用で開き直りができてBEST8まで行き敢闘賞をもらう。大会終了後は男の子の身体に戻った。
 
この夏の大会と合宿で実力が急上昇し、男子剣道部に彼と対戦できる部員が居なくなったので秋以降はずっと女子剣道部に行き、玖美子や沙苗と対戦している。しかしみんなからは「女子になったので女子剣道部に移籍したようだ」と思われている。
 
夏以降性別が不安定になり、しばしば女子の身体になっている。男子トイレでも個室を使うことが多くなり、男子たちから「ペニスを取ったのだろう」と思われている。本人としては女の子になるつもりがないのに、周囲から勝手に“配慮”され、最近ほぼ女子扱いになってきつつある。更衣室も男子更衣室が使えなくなり、保健室で着替えている。
 

ということで2005年の年は明けた。
 
1月1日。千里の家では、朝8時に、お屠蘇を飲むが、実際に飲んだのは母と父だけで、千里と玲羅はミツヤサイダーである。そしてお雑煮を食べ、おせちを摘まんだ。
 
武矢が
「初詣に行こう」
と言って、近くのP神社まで出掛ける。
 
それで拝殿前で1人100円のお賽銭(千里が配った)を賽銭箱に入れて、お参りした。帰ろうとしていたら、花絵さんが
「千里、元日から悪いけど、手が空きそうなら手伝って」
と言うので、千里(千里Y)は残ることになる。
 
すると玲羅も
「私も手伝う」
と言って残ったので、結局自宅に帰ったのは津気子と武矢だけである。
 
なお、“早川ラボ”は12月31日から1月3日までお休みにして、1月4日から練習再開ということにしていたので、千里Rはその間、丸3日、眠り続けていたようである(31日は天野道場で素振りなどをしていた)。
 

沙苗とセナは普通に女の子の格好で初詣に行き、千里と同様、花絵さんに徴用されて、神社のお手伝いをした。
 

雅海は1月1日、普通に女の子の和服を着せられ、同様に和服を着た姉たちと一緒に家族全員でP神社に初詣に行った。雅海はお盆にも女の子の服を着せられて姉たちと一緒にお墓参りに行っている。
 
今回は神社まで行く途中、同級生に遭遇しなかったので良かったぁと思っていたら、おみくじを引こうとした所で、そのおみくじ担当が沙苗だったので「わっ」と思った。でも沙苗ちゃんならまだいいかなと思った。お札を買おうとしたら、ここの販売担当がセナであったが、まあセナちゃんもいいかなと思った。
 
でも帰りがけに、優美絵に遭遇して
「わぁ可愛い!」
と声を掛けられ、更に駐車場で美都に遭遇して、やっと開き直りの境地?に到達した。
 
でも1月2日の初売りでは、女の子の服を着てジャスコまで行き、ここでも多数の同級生と遭遇して「可愛い!」と言われ、少し気分が良くなった。
 

公世は姉から
 
「可愛い服を用意したよ」
と言われて、女物の和服を見せられたものの
 
「ぼくは男の子だからそういうのは着ない」
と拒否したので、結局普通にフリースと厚手のジーンズのパンツという格好で、別の和服を着た姉、純粋に男の服装の弟と一緒に初詣に行った。
 
途中遭遇した沙苗から
 
「きみよちゃん、お正月くらい女の子の服を着ればいいのに」
と言われたけど
 
「ぼくはそういう趣味は無い」
と言っておいた。
 

公世は12月頭に唐突に睾丸と男性尿道が消失して小便器が使えなくなり困っていたものの、12/11-12 に千里と一緒に旭川に行き、天野貴子に“治療”してもらって、取り敢えず睾丸と男性尿道は復活し、普通の男子と同様に排尿できるようになって、男の子(男の娘?)の身体でお正月を迎えている。
 
冬休みに入った後、12月30日まで早川ラボでみんなと一緒に練習していた(この件後述)が、1月3日までは早川ラボも天野道場もお休みなので、その間は毎朝姉と一緒に国道をジョギングし、自宅の庭で素振りをしたり、腕立て伏せ・腹筋などをして身体を鍛えている。
 

福川家の部屋割り当て、歴史的経緯。
 
司の家は2LDKSである。最初に生まれた男の子・航(わたる)は小学校にあがる時に4畳半の部屋を与えられた。次の男の子・拓(ひらく)も小学校に上がる時に4畳半の部屋を与えられた。3番目の男の子・隼(はやと)は部屋が満杯なので小学校に上がると着に3畳の倉庫部屋を与えられた。(↓でBはBath。下記のレイアウトの左側にLDKがあり、両親はそこで寝ている)
┏━━┳━━┓
┃ 拓 ┃ 航 ┃
┗━━┻━━┫
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┃WC┃B┃隼┃
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四男の司が小学校にあがる時は、既に倉庫部屋まで含めて満杯なので取り敢えず両親と一緒に居間に寝ていた。司が小学2年になる時、長男の航が札幌の高校に進学して家を出た。航の部屋が空いたので、そこに隼が移動し、隼が使っていた部屋に司が入った。
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┃ 拓 ┃ 隼 ┃
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┃WC┃B┃司┃
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司が4年生になった時、拓は旭川の高校に進学し家を出た。拓が使っていた部屋を使う?と司に聞いたが「移動するの面倒くさいからいい」と言ったので、その部屋はそのりまま空き部屋になった。
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┃  ┃ 隼 ┃
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┃WC┃B┃司┃
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隼は地元・留萌市内の高校に進学したので、部屋の割り当てには変化が無い。
 

年末、札幌の大学に行っている長男の航(わたる)、旭川の大学に行っている次男の拓(ひらく)も帰ってきた。2人は、以前拓が使っていた部屋に、2つ布団を敷いて寝る。
 
大晦日は、みんなは紅白歌合戦を見ていたが、司は上戸彩・TOKIO・モー娘。・w-inds・aiko まで見たところで、その先はあまり興味を感じなかったので自分の部屋に入り“週刊ベースボール別冊”を読んでいた。
 
読んでいる内に唐突に女の子の服が着たい気分になり、服をいったん脱いでまずは女の子ショーツを穿く。
 
ショーツを穿く時、横になり、睾丸を体内に押し込んでペニスでフタをするようにして穿く。こうするとしばらく玉は降りて来ないのだが、くしゃみなどした拍子に飛び出してくると、ショーツがとてもみっともない状態になる。玉が無くなったら形が崩れないんだろうなあ、などと考えてドキドキする。
 
その後ブラジャーを着けるが、だいぶ練習したので、後ろ手でホックを留めることができる。でも胸が無いのが寂しい気もする。今年2度女の子になった時の胸の膨らみの記憶が蘇ってドキドキする。
 
スリップを着けるがこのナイロンの感触が凄く心地いい。ほんとこれ気持ちいいよなあと思う。
 
その後は、アンダーシャツ、ロングTシャツ、そしてスウェットの上下を着て、布団に入り『メイプル戦記』を読みながら、いつの間にか眠ってしまった。
 

2005年1月1日、司は悩むような顔をして居間に出て来た。
 
「あけましておめでとう」
と母が言うと
「うん。おはよう。あ、おめでとう」
と、どうも心ここにあらずの雰囲気である。母が首を傾げる。
 
航(わたる)兄が言った。
 
「昨日も思ったけど、司、少し可愛くなってない?」
 
拓(ひらく)も言う。
「可愛いというか、少し女の子っぽい雰囲気がある」
 
すると母が言った。
「司は女の子になることにしたのよ」
 
「え〜?そうなの?」
と兄たち。
 
三男の隼が言う。
「この子。女子制服持ってるよ」
 
「じゃ女子制服で通学してるの?」
「まだその勇気は無いみたいね」
 
司はもう真っ赤になって下を向いている。
 

「司、スカートでも穿いてきて、お兄ちゃんたちに見せたら?」
「恥ずかしい」
「今更じゃん。スカート穿いて普通に外出してるのに」
 
そう言われればそうなので、司は自分の部屋に戻ると、ロングスカートに穿き換えて居間に戻った。
 
「おお、可愛い」
「スカート姿に違和感が無い」
「だから司は、あんたたちの妹ということで」
 
「いいんじゃない?それで」
「妹ができるのは良いことだ」
「でも、ぼく、女の子になれるのかなあ」
「既に女の子になってる気がする」
 
父まで
「男ばかり4人だったから、娘ができるのは良いこと」
などと言っている。
 

それで、お屠蘇を飲み(隼と司はサイダー)、絵雑煮を食べ、おせちを摘まんでから、初詣でに行こうということになる。
 
「司、和服着せてあげるから」
と母は言い、和服かばんを持って司と一緒に部屋に入る。
 
スカート、フリース、シャツを脱ぐ。
 
「スリップ着けてるならそれでいいよ。本当は肌襦袢を着けるんたけどね」
と言い、母はスリップの上に長襦袢を着け、その上に長着を着けてくれる。紐で、おはしょりを作る。帯を締め、後ろで結び目を作ってくれた。
 
鏡に映して見ると凄く可愛い気がした。
 
「可愛い」
と思わず言うと
「うん。可愛い。さすが私の娘だね」
と母は言う。
 
「娘?」
「あんた私の娘でしょ?」
「そっかぁ。ぼく娘なのか」
「息子には見えないしね。ついでに“ぼく”はもう卒業しよう。自分のことは“わたし”と言おう」
「う、うん。頑張る」
 

それで、みんなで初詣に出掛けた。ほかのみんなは適当な格好である。ぼくだけこんな可愛い格好していいのかなあなどと思う。
 
それでP神社まで初詣に行くと、最初に留実子に遭遇する。ぎゃっと思うが、花和さんならいいかと思った。彼は男の子の格好をしている。
 
「あけおめー。可愛いね」
と向こうから声を掛けてきた。
 
「あけましておめでとう。花和君格好良い」
「福川さんは新学期からはセーラー服で出て来よう」
「え〜?どうしよう」
 
その後、麦美ちゃんと美那ちゃんに会う。でもこの子たちならいいかと思った。2人とも「可愛いね」と言ってくれた。でもはずかしー。
 
お参りしておみくじを引くと、おみくじの担当が沙苗ちゃんだ。でも沙苗ちゃんならいいかと持った。おみくじは大吉だった。
 
帰ろうとしてたら、野球部3年女子マネ・生駒優に遭遇した。彼女も和服だった。
 
「可愛い」
「そちらも可愛い」
 
彼女は言った。
 
「ね、ね、司ちゃん(*3)、中学卒業したら、札幌のSY高校に行かない?女子野球部があるのよ。私、今年そこを受けるからさ」
 
(*3) 彼女は普段は司のことを「福川さん」と呼ぶ。ちなみに“福川君”と呼ぶ部員は居ない!!
 

「女子野球部!?」
「司ちゃん、何とかうまく誤魔化して、男という診断書取ったみたいだけど、性別誤魔化すのは、中学生が限度だよ。今でも相当無理があるけどね。高校に入ったら、普通に女子として一緒に野球やろうよ」
 
優は実を言うと、S中野球部でクリーンナップを打てるくらいバッティング・センスを持っている。普段の練習でノックなどもやっているが、軽く外野にボールを飛ばす。紅白戦では選手として参加してホームランなども打ったりするし、守備ではセンターの深い所からダイレクトにキャッチャーに返球できる肩を持っている。
 
前川君とかよりよほどコントロールがいい。彼女は、きっとソフトボールでは不満なので野球部に来た口だろう。硬球を扱う感覚に慣れたら、軟球やソフトボールはおもちゃに思えてしまう。実を言うと、11月から12月まで司は彼女とペアを組んで基礎トレーニングをしていた。この後は、彼女は受験のため練習を離脱する。
 
「そ、そうだね」
「考えといて」
「う、うん」
 
女子野球か・・・。でも、ぼく、女の子になれるのかなあ。お医者さんの検査では男の子だと言われたし・・・などと司は悩んでいた(←かなり女の子になりたい気分になってきている)。
 
ちなみに、優も言っていたように、多くの野球部員、そして監督なども、司が“男子である”という医師の診断はうまくお医者さんをごまかして得た診断だろうと思っている。
 
司は諸事情により小便器を使うことができないのでいつも個室である。それでチームメイトには、ペニスが無いのだろうと思われているふしがある。
 

玲羅は4月から中学生になるので制服を用意する必要がある。ただ購入資金をどうするかというのが津気子の悩みだった。誰か譲ってくれそうな人は居ないかなあ、などとも言っていたのだが、千里(千里Y)が
 
「お金は私が出すから、新品で買ってあげなよ」
と津気子に言って代金分のお金が入った封筒を渡した。それで津気子は1月3日、玲羅を車に乗せてジャスコに連れていき、制服の採寸をしてもらいオーダーを入れた。なお千里Yは神社に出ている。
 

夕方、千里が神社から戻ってきてから津気子は言った。
「注文入れてきたよ。ありがとう。でもそういえばあんたのセーラー服って結局どうしたんだったっけ?」
 
「私もよく分からなーい」
と千里は答えた。
 
千里が着ているセーラー服にはネームが入っているので、オーダーしたものであることは確実である。でも他の人からもらったものもあった。
 
実を言うと、こうなっていた↓
 
青沼静子からもらったセーラー服→沙苗に譲った
神崎さんからもらったセーラー服→小春が使用
 
千里が着ているセーラー服は、千里が進学前の2003年2月2日に採寸だけして注文は保留してもらっていた所を、小春が勝手に注文を入れ制作されたものである。A大神が千里をデュプリケイトした時に、巻き添え?でセーラー服もデュプリケイトされて2着になった。A大神は、ミミ子に命じて「洗い替え用」にとこの制服を注文させ3着にした。更に3回デュプリケイトして、千里全員分のセーラー服を作った。
 
だからこの系統のセーラー服が実は6着存在して、千里RBYWGVの6人が着ている。(但しWとBは現在ほぼ休眠中)
 
A大神が残り3枚を買わずにデュプリケイトしたのは、1人の生徒が5着も注文したら転売目的では?などと不審がられるからである。
 

2005年1月4日(火).
 
千里の父の船は今年最初の漁に出た。少しでも漁獲を増やすため、例年より早い仕事始めとなった。母は朝3時に起きて父に御飯を食べさせ、港まで送っていく。他の奧さんたちと一緒に手を振って出港を見送った。しかし結果的にはこれが最後の“新年の出港”になったのである。
 
母の会社もこの日から始まった。直行すると長時間待つことになるので出港を見送ると、いったん帰宅して仮眠した。8時に千里に起こされ、会社に出掛ける。朝御飯とお弁当を千里が作ってくれていた。
 
「ありがとう。助かる」
と言って朝御飯を食べる、玲羅はまだ寝ているようだ。
 
千里は津気子に言った。
「玲羅の制服さ、私がお金出してあげるから新品で作ってあげなよ」
 
千里は津気子に封筒を渡す。津気子は一瞬またもらおうかと思ったがさすがに3万円を二重取りはできないと思い、言った、
 
「あんた一昨日にもそう言ってお金をくれたから、それで昨日、採寸してオーダーしてきたよ」
「あれ〜!?」
 
2日にそう言ってお金を渡したのは千里Yで、ここにいる千里は千里Rである!
 

1月4日から、山の中にある“早川ラボ”(早川家の旧別荘)での剣道の練習を再開した。12月31日からお休みにしていたが、眷属たちはしっかり除雪していてくれたのですぐ使える。
 
朝海岸に集合してジョギングする。そして保護者の車でラボに移動し、そこで夕方まで、みっちり鍛える。練習の参加者は下記である。
 
S中関係:千里、沙苗、公世、如月
R中関係:木里清香、田詩歌
指導者:道田大海、弓枝(公世の姉)
 
だいたい、千里−清香、沙苗−公世、如月−詩歌、大海−弓枝、というペアで練習する。たまに組み合わせをシャッフルするが、実力差がある場合は、上位者が下位者に胸を貸す感じになる。でも、弓枝(三段)と大海(四段)は積極的に中学生の6人と対戦して指導してあげていた。
 
沢田玖美子と前田柔良は、予備校の合宿に行っている。
 

例によって、清香はシャワーを浴びた後、裸で素振りとかしているが、公世はもう気にしないことにしていた。彼はそもそも周囲女子ばかりという中で、女性に対してほとんど不感症になっている。
 
「洗濯する時に男子下着があると面倒だから、あんたも女子下着を着けてよ」
などと姉から言われて、ショーツ・ブラジャー・キャミソールを渡されたものの
 
「取り敢えずパンツだけで勘弁して」
と言って、集中練習中はパンツだけ女子用ショーツを穿くことにした。
 
「せっかくブラジャーとキャミソールも5枚ずつ用意したのに」
と言われたが、取り敢えず逃げた。
 
しかしそれで早川ラボの物干しには夏の集中練習の時のように男物のトランクスが干されることは無かった。
 
「でも女子下着に慣れすぎると大会の時に女子下着を着けてリビドーでパワーアップする作戦は使えないな」
などと千里が言っていたが
 
「いや、そういう小手先の作戦じゃなくて本気でレベルアップしないといけないと思う」
と公世は言う。
 
「そうだ!来年の全国大会では大会の日に女の子に性転換してあげようか?そしたら性別検査も間違い無く女子と判断されるし」
「それ困るんだけど」
 
公世はまだこの時期は女子下着に“慣れすぎ”までは達していなかったので女子下着を着けているとかなりドキドキし、普段よりパワーが出る気がした(もう男子下着に戻れなかったりして)。
 
また早川ラボは立ってトイレを使うのが禁止(そもそも便座を上げられない)なので、座って便器を使用するが、これにはかなり慣れてきた。
 

公世は夏頃までは全然姉の弓枝に勝てなかったのだが、全国大会から戻ってきてから、やっと1本取ることができるようになった。しかしなかなか勝てない!10回に1度勝てる程度である。
 
「なぜ男子の全国5位になった人が普通の三段の女子高生に勝てない?」
と2人の対戦を見ていて詩歌が首をひねる。
 
「弓枝さんは実力的には既に四段レベルだとは思うけどね。でも要するに、全国大会では『こいつ女なのでは』と相手が思って無意識に手加減してしまったのだと思う。だから公世(きみよ)ちゃんは今年が正念場」
 
と沙苗が解説した。
 
「なるほどー」
 
「いくら女だったとしても昨年5位の相手には向こうも本気になるだろうからね」
「警戒されるでしょうね」
 
「剣道雑誌はたぶん優勝候補のひとりと書くだろうね。千里や清香ちゃんもそうだろうけど」
「書くでしょうね」
 
「あと弓枝さんは公世ちゃんの癖を知り尽くしてるから、攻撃パターンが先読みできるのもあるよ」
「あぁ」
 

合宿中に、九重がヒグマを1頭捕獲したので、
「新鮮な内にいただこう」
などと言って、獲れたての熊肉を味わったが、
「ここはワイルドだ」
と詩歌が驚いていた。
 
「でも私たちが卒業した後は、町中に移転させたほうがいいな」
「ひとつ間違えば、こちらが熊さんの御飯になりかねないからね〜」
 
千里は、自分の卒業後にここを監視してくれる子が必要だなと考えていた。ヒグマを簡単に倒せるパワーのある子をできたら2〜3人、スカウトしないと。人間でも精霊でもいいけど。
 
(人間でヒグマを倒せるのは、千里とか天津子とか歓喜・紫微のレベル以上なので、めったに居ないと思う)
 

1月4日(火).
 
きーちゃんは旭川法務局留萌支局を訪れ、早川平太の委任状を添えて、早川ラボの土地を天野産業名義に登記変更した。
 
千里の個人名義にしてもいいのだが、それをするには千里が未成年であるため、保護者同意書を取ったりして手続きが面倒になる。それで、仮に天野産業名義にしておくのである。天野産業の帳簿には、この土地代に相当する額の借入金を計上している。
 

2005年1月5日(水).
 
千里Yは三箇日も終わったので、また三重県の河洛邑に行き、光辞の朗読をすることにした。光辞も千里がどんどん朗読したことから、残りはあと少しになってきている。このまま行けば、今年の夏くらいには全て朗読が終わるかなと、千里は思っていた。
 
留萌13:30- 14:28深川14:40(ライラック9号) 15:00旭川/旭川駅前15:15- 15:50旭川空港/旭川16:25(ANA326便) 18:20名古屋(*4)
 
名古屋空港にはいつものように真理さんが車で迎えに来てくれていて、彼女の車で、千里は河洛邑に入った。
 

(*4) 名古屋空港は2005年2月16日まで基幹空港として使用された。2月17日に中部国際空港が開港して主要路線はそちらに移動した。千里が三重に行くのに名古屋空港を使ったのはこれが最後である。
 
筆者はこの年、2度名古屋出張があり、1度目は名古屋空港を使い、2度目はセントレアを使用した。名古屋中心部まで電車で入れるのがいいなあと思った反面、空港のレストランの相場が高くなり、しかも地元の店が少なくなっていた(最近は知らないが)のが残念だった。
 

千里Yが三重に行っている間、留萌は事実上千里Rだけの状態になる。
 
母は例によって千里が
「三重に行ってくるね。17日くらいに戻る」
と言って出掛けた様子だったのが、毎日千里を見るので
「まあいつものことか」
と思った。
 
もっとも千里Rは毎日練習でくたくたになり、買物したり夕御飯まで作る余力が無い。
 
それで買物して村山家の夕飯を作るのは、ほぼコリンの仕事になっていた。
 
「小春はYちゃんに付いて三重に行ってるし。ひとりで大変だよお」
とコリンは弱音を吐いていた。
 
コリンは村山家に長時間滞在すると身代わりがバレそうなので、夕食を作るとたいてい小春の家に戻ってそちらで寝るようにしていた。母と玲羅は最近夜は千里が居ないなぁとは思うものの、気にしないことにした。朝はちゃんと起きてきて朝御飯とお弁当を作ってくれるし!
 
でも千里が中学を出て旭川か札幌に出たら、村山家の食卓はどうなるんだろう?とコリンは余計な心配もしていた。
 

三重に来た千里(千里Y)は、ふとあることに気付いて、真理さんに尋ねた。
 
「お母さん(藤子さん)はどこかご旅行か何かですか?」
 
すると真理さんは困ったような顔をして言った。
「母は実は10月から大阪に引っ越して、そちらに住んでいるんですよ」
 
あぁ・・・・また1人減ったのか、と千里は思った。
 
その内、全員居なくなったりして!?
 
And Then There Were None.
 
 
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【女子中学生・冬の旅】(1)