【女子中学生・冬の旅】(5)

前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6 
 
さてS中のスキー大会に話を戻す。
 
リレーのコースは5kmレースと同じで、裙側を走行し、上り坂を登坂して山側を走行して戻り、最後は下り坂を滑降で下りてくる。中止指令が出た時、最後尾を走っていた2年3組の菅原君は、上り坂を登っている最中に上から滑り降りてきた山原先生から
 
「レース中止。山を降りるよ」
と言われた。そこから一緒に下に滑り降り、そのまま本部には戻らず山を降りた。
 
先頭を走っていた2組の竹田君はもう牧野先生の所まで到達しつつあったので、そのままコースを滑降してゴールに向かわせた。
 
1組の公世は山側のコースを走っている最中だった。牧野先生は彼に中止を報せるため、コースを逆に走って彼を迎えに行った。
 
その時、何かが壊れるような音がした。
「何今の音?」
 
「全員退避!スキー場を出るよ」
という山口教頭の声がかかり、悲鳴があがる中、生徒が移動し始める。
 
香田先生がヒュッテのスタッフさんたちにも声を掛けたので、彼らも一緒に退避する。
 

「何してるの?千里、退避するよ」
と玖美子が言うが
 
「公世が・・・」
と言って千里は上の方を見ている。
 
「無事を祈るしか無いよ。林の中に逃げ込めば助かる確率が高い(と祈りたい)。私たちも逃げないと巻き込まれるよ」
と玖美子。
 
千里Rはいきなり、司令室に居る千里Gに“脳間直信”した。
 
『お願い。公世と牧野先生を助けて。最悪、公世だけでも』
 
Gはいきなりの直信に驚愕したが答えた。
『分かった。助けるから君も逃げて』
 
しかし千里Rはまだ逃げずに山を見ている。玖美子が泣き叫ぶように
「行こう、千里!ここにいたら死んじゃう!」
と言って腕を引いた。
 
でも千里はその腕を振り払うと、両掌を内側に向けて伸ばし、手の指を全部開いて、小指同士をくっつけ、印を結ぶかのようにした。そして千里は雪崩を見詰めて強く念じた。
 
ト・マ・レ。
 

玖美子が千里の身体を引っ張ろうとしてやめた。
 
「停まった?」
「停めた。たぶん1分くらい持つ」
 
雪崩の動きが止まったのである。
 
千里は印?を結んだまま、雪の塊から目を離さない。ずっと注視している。
 
それで、千里・玖美子・小春、そして千里たちがまだ逃げてないので駆け寄ってきた蓮菜の4人は山の上方を無言で見ていた。
 
スキーで滑ってくる2人の姿がある。
 
「公世(きみよ)だ!」
「大きな声出さないでよ。早く崩れるから」
「うん」
 
「あなたたち何やってるの?」
と広沢先生が駆け寄ってきた。
 
「あっ」
と言って広沢先生もその2人を見る。
 

彼らがかなり下まできた所で雪崩が再び動き始める。
 
「間に合うかな」
と蓮菜が不安そうに言うが
「2人ともスキー上手いから何とかなる気がする」
と玖美子は言った。
 
「あなたたちスキー履いて。多分歩くより速い」
と広沢先生が言うので、千里・玖美子・小春・蓮菜がスキーを付ける。
 
公世と牧野先生がかなり近くまで来る。そのかなり後方を雪崩が来る。
「行くよ」
「はい」
 
広沢先生と女子4人がスキーで滑って退避路に向かう。
 
その後を追うように、公世と牧野先生も下まで辿り着いて、退避路に向かう。
 
2人は降りてきた勢いがあるので、千里たちに追いついた。
 

そして全員安全な所まで逃げた時、雪崩が下まで来て、さっきまで千里たちがいた付近まで飲み込んだ。
 
「危なかった」
「助かったぁ」
 
「公世(きみよ)、良かった」
と言って、千里は彼をハグした。
 
「何が起きたか分からなかった」
と彼は千里にハグされたまま言う。
 
「雪崩が来て、ぼくも牧野先生も飲み込まれたかと思った。でもいつの間にか斜面に居たんだよ。それで2人で声を掛け合って、すぐ滑降してきた」
と公世。
 
「僕も何が何だか分からないけど、どうも生きているようだ」
と牧野先生。
 
「確かに2人とも生きてますよ」
と広沢先生は涙を流しながら言う。
 

山口教頭が駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
「何とか全員無事です」
と広沢先生。
 
「良かった、本当に良かった」
と言って、教頭は公世をハグして背中を数回叩いてから、牧野先生とも握手した。
 
「あれ?牧野先生、手袋は?」
「あれ?どうしたんだろう。取れちゃったのかなあ。そういえば髪の長いセーラー服の少女に手を握られた気がしたけどもあんな所にセーラー服の女の子がいるわけないし。山の神様だろうか」
と牧野先生。
 
「髪の長い少女といえば千里だけど」
と蓮菜。
 
「あれ?そういえば村山さんから『すぐ下に降りて』と言われた気がした。それで牧野先生に声を掛けて下に滑り降りたんだよね」
と公世。
 

「千里大活躍だな」
と言って玖美子が千里を見ると、当の千里はキョロキョロしている。
 
「何かあったの?」
と千里。
 
「何かあったって?今雪崩が起きて、公世と牧野先生が巻き込まれそうになったけど、千里が雪崩を一時的に停めて2人を助けたじゃん」
と玖美子。
 
「雪崩を停める?そんなことできる訳無い。神様でもあるまいし」
と千里は言っている。
 
「でも雪崩があったんだ?」
「千里何も覚えてないの〜〜!?」
 
蓮菜が玖美子の脇腹をトントンとし、千里が着けている腕時計を指差す。千里は黄色い腕時計をしている。
 
「別の千里か!」
 
「赤の子は力尽きたんだと思うよ。あれは本来の千里のパワーを遙かに越えていた。助けてくれたのは神様だと思う。千里は端末になっただけだけど、それでも激しく消耗したんだと思う」
と蓮菜。
 
「結局奇蹟か」
「うん奇蹟だよ」
 

そういう訳で、テレビのニュースでも報道され、新聞にも載ったこの雪崩事件(全層雪崩:春先に多い)では、ひとりの死者も怪我人も出さずに済んだのであった。
 
但しリフトは完全に壊れ、ヒュッテも歪んで危険なので取り壊すことになった。また森林の樹木もかなりなぎ倒されていた。それで経済的な被害は結構出た。スキー場は今季はもう閉鎖されることになった。
 
リフトに関しては市の予算が付いて夏の間に再設置されることが決まった。更にスキー場の上部に三角フェンスの設置による雪崩防止工事が行われることになった。ヒュッテについても再建のため市民の募金が集まった。
 
でも校長は教育委員会に謝罪文を提出したらしい!
 
むろん全員無事だったので、何の処分も無かった。むしろヒュッテスタッフの避難誘導もしてくれたことで学校は感謝状をもらった。
 
今回のスキー大会の時期設定について、学校ではまだ2月なので全層雪崩が起きる時期ではないと判断してスキー大会を実施した。しかし今回の事故を受けて翌年度からはもっと早い時期に実施されるようになる。
 
「やっぱ地球温暖化のせいかなあ」
「季節感を見直す必要があるかもね」
「冬でもスカート・生足で出歩くとか」
「風邪引きたければどうぞ」
 

小春はスキー場から唐突に移動させられたのでキョロキョロ見回して自分の家であることを認識する。
 
千里が倒れている。
 
「千里!」
と叫んで近寄る。
 
「小春〜。疲れたぁ。お腹空いたぁ。牛肉食べたい。鋤焼きがいい」
と千里は言う。
 
腕時計を見てRであることを認識する。
 
「分かった。今お肉焼くね。テーブルまで来れる?」
「うん。何とか」
 
コリンも転送されてきたので、コリンが助けて何とかテーブルの所まで行く。
 
小春は牛肉あったっけ?と思ったが、冷凍室を見たらあったので、それを解凍して、すき焼き鍋に放り込んで焼き始める。コリンが買い出ししておいてくれたのかなと思った。あり合わせのネギ、豆腐なども放り込む。
 
千里Rはもりもりお肉を食べた。結局1kgほどペロリと食べてしまった。小糸がまた呆れて見ていた。
 

買い出しに行かなきゃ、と小春は思う。
 
「ほんとにお腹が空いた」
「あれは物凄くエネルギー使ったと思う」
と小春もコリンも言う。
 
「うん。だから2度は発動できなかった」
と千里。
 
「あれ、どうやって停めたの?」
「あれは私が停めたんじゃない。誰か凄い人が助けてくれた。私は端末になっただけ」
 
「ああ。千里って巫女だもんね。何か印のようなの結んでた」
とコリンが言う。
 
「そのポーズをすると助けてくれる人の術を伝えやすい気がした。多分あれは伝える術により変わると思う」
 
「それどうやって分かったの?」
「勘」
「やはり千里って巫女だね」
 

「だけど玖美子も言ってたけど、牧野先生も公世もスキーが上手いから助かったんだと思う。スキーの下手な人だと転んだりして雪崩に追いつかれていた」
とコリンは言う。
 
「色々な意味で運が良かったよ」
と小春。
 
「でも教頭先生、公世はハグして牧野先生とは握手だったね」
とコリンは言った。
 
「そりゃ同性ならハグしていいけど、異性だと遠慮があるてしょ」
「やはり、公世ちゃんは女子だよね」
 
「へー。それは私見てないけど、あの子、高校は女子制服で通うと思うよ」
と千里Rは楽しそうな顔で言っていた。
 
そんな話をしてからRは
「疲れたから寝る」
と言って寝てしまう。千里はそのまま月曜日の朝まで2日半眠り続けた。
 
なお、小春・コリン・小糸は、千里が眠ってしまった後、あらためてお肉を追加してスキ焼きを食べた。
 

あの時、千里Gがしたのはこういうことである。
 
最初にGは千里との関わりが深く感応しやすい公世を滑降コースの中間付近まで瞬間移動させた。
 
続けて牧野先生も移動しようとしたが、先生とはあまり親しくないので同調ができず移動できない。仕方ないのでGは危険だと思ったが、自ら公世の居た位置に瞬間移動し、まさに雪崩に巻き込まれる寸前の牧野先生の手袋を外して直接手を握り、一緒に公世の場所に移動した。そして公世に「すぐ降りて」と声を掛け、自分はW町の自宅に戻った。
 
片方が千里と親しい人物だったから助けられた。2人とも親しくない人物ならそもそもそこに正確に到達することもできなかったので助けようが無かった。
 
2人を移動したのは滑降コースの途中でそこから下までは200mほど。2人のスキーの腕なら10-15秒ほどで滑り降りられると思った。これに対して全層雪崩の速度は遅いので下まで到達するには20-25秒掛かると思った。それでここからなら逃げ切れると判断した。それでも危なくなったら再度移動させるつもりだった。
 
無事避難した後、Rが消えたので、そのまま千里が居ないと雪崩に巻き込まれた?などと思われては困るのでYを同じ場所に出現させた(これはGでもできる)。
 
そしてA大神に頼んで、消滅したRを小春の家に転送してもらい、Gが自分で小春、続けてコリンを小春の家に転送した。
 
Rを小春の家に転送してもらったのは、あまりに消耗が激しかったので、眠る前に栄養補給すべきだと判断したからである。
 
ついでに自分の家の冷蔵庫にある牛肉を全部小春の家の冷蔵庫に放り込んだ!
 

さて、東京まで行き日本橋人形町の、どこにでもありそうな(1960年代ならどこにでもあったような)家で子牙と会った千里Vはどうったのだろうか。
 
3人が通された部屋は火鉢による暖房だった。明かりは裸電球である。この家にはテレビが無いようだったが、仙人みたいな人にはテレビは不要だろう。
 
3人は掘りゴタツ(*30) に座って話したのだが、最初にきーちゃんから
 
「足を伸ばすと火傷するから気をつけてね」
と千里は注意された。
 
千里も掘りゴタツなんて知識としては知っていたものの、実物を見たのは初めてであった。コタツの中央で炭が燃えているので、そこに触らないように気を付ける必要がある。きーちゃんは
 
「まるで1960年代の家みたい」
などと言っていた。
 
でも火鉢の上に載せた金網で焼いたお餅を頂いたのは美味しかった。
 
「ちゃんと杵と臼で撞いたお餅ですね」
と、きーちゃんは言った(きーちゃんは室蘭でもこのタイプの餅を頂いた)。
 

(*30) 部屋の一部の床板が取り外されていて、そこから深さ50cm程度の凹みが作られており、その底面中央で木炭や練炭・炭団(たどん)などを燃やし、その上にこたつの枠組みを置いたもの。こたつに当たる人は、膝を曲げて椅子に座るようにして座り暖を取る。
 
明治の終わり頃に、正座の苦手な来日外国人さんにより考案され、昭和に入った頃から全国の家庭に普及した。
 
こたつをどかした状態は囲炉裏(いろり)に似ているが、一般的に足が底面に着かないように囲炉裏よりかなり深いものが多い。しかし家の構造によっては、そんなに深く出来ず、30cm程度しかないものもある。足を中央の方にやると火傷するので注意が必要。特に掘りが浅くて足が余ってしまう場合、足を横座りに近い形で斜め横にしないと、まっすぐ前に伸ばすと火傷する。
 
靴下を履いておくの推奨。
 
凹みの底で燃料を燃やすと、二酸化炭素(分子量44)は空気(平均分子量28.8)より重いので、燃焼で発生した二酸化炭素が底面に溜まり、どうしても酸素不足による不完全燃焼を起こして一酸化炭素を発生しやすい欠点がある。絶対どこかに隙間がある昔の日本家屋ならいいが、サッシ窓の住宅では換気に充分気をつける必要がある。
 
1960年代には、現在の電気コタツのヒーター部分に、ヒーターの代わりに豆炭を入れた四角い金属の箱(空気を通すため側面に多数の穴が空いている)を格納する方式の豆炭コタツが登場し、これに移行した家も多かった。
 
豆炭コタツは場所を移動できるのが最大のメリットだった。豆炭は石綿!の上に並べていたので、火傷する危険も低かった。また、熱源が上部にあるので、こちらの方が一酸化炭素中毒を起こしにくい。
 
昔の電気コタツは発熱量が小さくあまり暖かくなかったので“東北地方では”(*31) 結構遅い時期まで掘りコタツ・豆炭コタツは使われていた。
 
(*31) 北海道ではそもそもコタツはあまり使用されない。寒すぎて身体の一部のみを暖めるコタツでは使いものにならないからである。
 
筆者は子供の頃、青森の親戚の家にお邪魔した時、掘りゴタツを体験した。美事に靴下に穴を開けた!
 

「正直、子牙さんってとっくに亡くなっていたかと思ってたから連絡を受けた時は、びっくりしたんですけどね」
と、きーちゃんは言った。
 
「まあいつお迎えが来てもおかしくないと思う。寿命は尽きてるかも知れないけど、大喜利を生きがいに、日々暮らしているよ。“子牙”の名前自体は、孫娘の照子(てるこ)に譲った。だから自分は“先代・子牙”だよ」
 
と言って、先代子牙は2代目子牙の連絡先を紙に書いて、きーちゃんに渡した。
 
孫に譲るというのは、やはり霊的な才能が隔世遺伝するからだろう。沖縄の“ノロ”(*32)も孫娘が継ぐケースが多かったという。
 
「お孫さんっておいくつですか?」
「今は80歳くらいかな」
「だったら、先代・子牙さんは?」
 
と千里が訊くと、彼は毛筆を取り、墨壺に付けて次のように半紙に書いた。
 
瞬嶽(長谷川光太郎)明治十九年六月三日生
虚空(楠本咲子)明治四十四年七月十七日生
虚空(久保早紀)平成六年十月五日生
羽衣(吉田那津乳)明治三十四年五月六日生
子牙(四島画太郎)明治七年七月二十八日生
子牙(五島照子)大正十一年十一月十九日生
 
「昭和生まれが居ないな」
などと言っている。
 
子牙は「これ写してもいいよ」と言ったので、きーちゃんは携帯で写真を撮った。千里はボールペンでノートに書き写した!(でも後で見ると、きーちゃんの写真は残っていなかったので千里が書いたメモを清書して共有した)
 
(*32) ノロは沖縄の伝統的信仰における正規の女性神職である。一時は政治に介入するほどの権力を持ったが現在は政治とは分離されている。現在沖縄全体に恐らく数十名のノロが居るものと思われる。
 
民間の霊能者である“ユタ”とは全く異なる。
 

「虚空さんも代替わりしてたんですね」
と、きーちゃんは言った。
 
平成6年(1994年)生まれならまだ10歳じゃん。それでここ10年くらい虚空の噂を聞かなかったのか。恐らく名前を継がせた直後くらいに先代は亡くなったんだろうな。でも虚空の名前を継がせたということは、きっと物凄いパワーの持ち主なのだろう。
 
霊的な才能は5-6歳くらいでも極めて強烈に発揮する子たちが居る。ただしそういう子は暴走して自滅したり“転んだり”“堕ちたり”“取られたり”することも多い。しっかりした守護者・指導者が居ないとまずい。高弟に面倒を見させているのだろうか。
 
などと、きーちゃんが考えたが、子牙は否定する。
 
「それは違う」
「はい?」
 
「虚空は単に生まれ変わっただけで同一人物だよ」
「どういう意味です?」
 
「まあ本人に聞いてみるといいね」
と子牙は楽しそうに言った。
 

「ぼくも可愛い女の子に生まれ変わりたいな」
「ああ、いいんじゃないですか?」
「そして素敵な王子さまと結婚して幸せになる」
「最近ではそういう夢を持ってる女の子は少ないですよ」
「そうか?」
「だいたい王子さまと結婚したら凄く苦労しそうだし」
「現実は厳しいね」
 
しかし彼が書いた一覧を信用すると、子牙は明治七年(1874年)生まれということになり、現在の年齢は130歳ということになる。本当だろうか?それともこれもジョークなのだろうか。
 
この人、見た目は70歳くらいにしか見えないのに。それともここに居るのは大正生まれの孫娘の2代目(82)だったりして!?だったら本当にこの人、女だったりして??
 

「ぼくは東京女子高等師範を出てずっと教師をしていた。最初札幌の第一中学校(現在の札幌南高等学校)(*33) で教えていたけど、大正八年(1919)に留萌高等女学校(*33) ができた時にそこの教師として赴任したんだよ」
 
「へー」
 
つまり留萌に来たことがあるというのは本当だったのか。明治天皇睦仁陛下ではなく、大正天皇嘉仁陛下の時代だけど!そして「女学校をでたあと」ではなく「女学校ができた時」に来た訳だ!でも女子高等師範と言ってるぞ??
 
(東京高等師範学校→後の東京教育大学:現在のつくば大学/東京女子高等師範学校→現在のお茶の水女子大学)
 
(*33) 戦前の中等教育は3つのコースに分かれていた。尋常小学校を出た後、普通以下の子は男女とも高等小学校(2年)に行くが、“物凄く優秀な”男子は中学校、“優秀な”女子は高等女学校(通称:女学校)に進学した。中学校・高等女学校はいづれも5年である。
 
中学校に比べて高等女学校の試験は易しく、昭和初期頃の場合、女子で高等女学校に進学する生徒は、男子で中学校に進学する生徒の倍程度居た。これは“あべこべ物語”の所でも述べたように“兵隊や工員になる男にあまり知恵を付けさせたくない”という方針から来ている。中学校に行くのは官僚や将校、教師などを目指す社会の核になる男子たちである。
 
これに対して女子は、子供を育てる母親の教育は重要であるという方針から、しっかり教育した。特に女学校を出た女子の結婚相手はエリート男子と考えられるから、次世代のエリート育成のためにも女子の教養は大事と考えられた。
 
しばしば古い時代を描いた小説や漫画で、当時の女学校を現代の女子高校程度の雰囲気で書かれた作品は多いが、女学校に通っている生徒は、親に経済力もあり、かなり頭のいいエリート女子である。多分現代なら国立大学に通う女子たちのレベル。
 

きーちゃんは千里に説明した。
 
「子牙さんが先日、物凄いポテンシャルを持つ巫女に偶然出会って、その子が北海道の留萌に住んでいるということだったが、その子と連絡を取る方法が無いだろうかと私にお手紙で相談されたんだよ」
 
「それで手紙に書かれていたその子の特徴が、千里を思わせたから、写真を送って、もしかしてこの子ですか?を聞いたら、確かにこの子だと言って。ぜひ頼みたいことがあるということだったから連れてきた」
 
「それはどんなことでしょう」
という千里の問いに対して、きーちゃんが言った。
 
「あまり楽しくない作業だと思うんだよね。だから嫌なら断っていい」
 
「セックスして子供を産んでくれとかでなければ」
と千里。
 
「どうせぼくのチンポはもう立たないからセックスは不可能だけど、君のクリトリスに触らせて欲しいんだけど」
と子牙は言った。
 
「え〜〜〜!?」
 

子牙は説明した。
 
「僕は少女時代から色々な術を覚えてきた」
 
あくまで少女時代を主張するのか!
 
「長い間生きてたからたくさんの術を覚えた。でも僕が消えてしまえば、それらの術も消えてしまう。誰かに伝えたいけど、ぼくは世界最高の霊能者だったから、これらの術を習得できる人は少ないし、また習得に時間が掛かる」
 
「お孫さんは学べないんですか?」
「あれがこの術全てを学ぶにはまだ200年掛かると思う」
「それは大儀ですね」
「それで、僕が習得した、あるいは編み出した術を君の身体にデッドコピーさせてもらえないだろうかと思った」
 
千里は一瞬身体全体に入れ墨を施された自分を想像した。
 
耳無し芳一!?
 
「でもそんな身体に書き込まれたら温泉とかに入れなくなるしー。紙に書くとかでは駄目なんですか?」
 
それで子牙は千里の勘違いに気がつく。
 
「いや、君の身体の表面に文字や絵で書き込むんじゃないんだよ。君の魂にイメージそのままを書き込ませて欲しい」
 

「それどうやるんですか?」
「ぼくが伝えたい術は全部で3000個近くある。これを両手の指と足の指の組合せをキーにして書き込んでいく。たとえば**の術なら、右手親指・左手人差指・右足中指みたいな感じにする」
 
「右手5パターン×左手5パターン×足の指10パターンで合計250パターン?」
と、きーちゃんは訊いたが、子牙は説明した。
 
「まず右手と左手の組み合わせのみで起動する術。これが最も重要な術になる。これが各指と掌との組み合わせで、6×6-1=35。掌−掌を除く」
 
「それから手の指1つと足の指の1つで起動する術。これがたまに使うかなという術で、10×10=100」
 
「それから天徳君が言った、左右の手と足の指の組み合わせが5×5×10×10=2500通り」
 
「すみません。最後の×10(掛けるじゅう)が分かりません」
「これは1つのキーにぶら下げて10個ずつ書いていく」
「え〜!?」
「個別に起動したい時はその中の何番目と念じる。いわば心の指を使う」
「よく分からない」
 
「更に片方の手の親指と他の指で足の指をはさんで起動するものが4×2×10=80通り」
 
「合計して2715通り記録できる。約3000個の内、2代目に既に伝えたものが500個くらいあるから、それを外せば何とか足りるはず」
 
「なるほどー」
 

「でも凄い沢山学ばれたんですね」
と千里は特に深い意味も無く言った。
 
「50の術を使うには500の術を覚えないといけないからね」
と子牙。
 
「そういうものですか?」
と千里は驚く。
 
「普通の知識などでもそうだけど、例えば君が将来何かの職業についてお仕事していく時、その仕事の中で様々な状況で23個の技術を使うことになったとするね。それなら、23個の技術だけを学校では学んでおけばいいだろうか?」
 
「どの23個を使うことになるかは分かりませんよね」
と、きーちゃんが言う。
 
「そうなんだよ。先のことは分からないから、自分が実際に使うことになるものだけを学ぶというのは不可能。だから100のものを覚えておいて初めて10のものを使うことができる。お医者さんとかも実際に患者を診察する時に見る病気の数は一生の間に200種類くらいも知れないけど、知識としては2000種類くらいの病気のことを知っていないと200個の病気を診断できない」
 
「確かに風邪という病気しか知らない医者は熱が出てたら全部風邪と診断するかも」
 
「だから実際に使う技術より遙かに多くの技術を覚えておく必要がある」
「なるほど」
 
「試験の勉強だって、試験に出る問題だけを勉強できたらいいけど何が出るか分からないから、実際に試験に出る問題の数より遙かに多くの問題を練習する」
「何が出るか分かってたら、もはや不正行為ですね」
「人生はカンニングできないからね」
 
「こういうのを“必要な無駄”というんだよ。難しい言葉でいえば冗長性、リダンダンシーだな」
 
リダン男子?女の子ならリダン女子?などと千里は考えていた。
 

「私どの指の組み合わせで何を起動するか覚えきれません」
と千里は言ったが、子牙は言った。
 
「君が使うわけではなく、君には伝えて欲しいだけだから問題無い。ある程度のレベルの者になら、どこに何が記録されているか分かるはず」
 
「そして各々の術を習得できる前提条件が揃っている者が君の所に来たら、君はその人に術を授けて欲しい」
 
「私が死んだら?」
「君の娘か孫娘で霊的な才能のある子が生まれた時に、その子にコピーして欲しい」
 
「娘さんでないといけないんですか?」
と、きーちゃんが訊くと
 
「男にはクリトリスが無いからコピーできない」
と子牙は答えた。
 
「性転換手術でクリトリスを作ったら?」
「性転換手術で作る人工クリトリスは亀頭部分だけで本体が欠落しているからこの作業の役には立たない」
「なるほど」
「身体の髄に響かせる必要があるからね」
「性感が開発されたりして」
「ああ、クリトリスが開発されて副作用として感じやすくなるかもね」
「まあ良いお嫁さんになれるかも」
 
千里はよくは分からなかったもののドキドキした。
 
「性転換手術ではペニスは切除せずに、体内に埋め込んで亀頭だけ表面に出せば本物の女体に近くなる」
「侵襲が大きくなるのが問題ですね。ヴァギナ造るだけでも痛いのに」
 
このあたりの話はさっぱり分からなかった!
 

「ところでそのクリトリスってどこで関わるんですか?」
と、千里は質問した。
 
「例えば左手親指、右手人差指、右足中指で起動する術を記録する場合、僕が自分の左手薬指で君の左手親指、自分の右手薬指で君の右手人差指、自分の左足親指で君の右足中指に触り、右足親指で君のクリトリスに触り、術を注入したいんだよ」
 
「アクロバットですね」
「3つが絡む術だと結構大変な体勢になる場合もあると思う」
 
「私が誰かに伝授する場合もクリトリスを使うのでしょうか?」
「いや。その場合、その者が君の所に来て**の術が欲しいと祈れば、自然とその者にコピーされるはず」
 
「良かった」
 

千里は質問した。
「ひとつ確認したいのですが、このコピーをした場合、私は普通に人間として生活できて、自分の意識を今と同じ状態で保てるのでしょうか」
 
千里は『最終兵器彼女』の“ちせ”の状態を想像していた。
 
ワンピースの“バーソロミューくま”も後に似たような状態になるが、この物語の2005年1月時点では、まだ“くま”は自分の意識を持っていた。
 
「むろんそれは全く問題無い。基本的に数学や社会の知識を覚えるのと同じ。ただし焼き付けるから忘れることは無い」
 
「だったら、クリトリスに触られるくらいはいいですよ」
と千里は答えた。
 

「天徳さんもいい?」
「千里がいいのなら私は異論はありません。ちなみにその名前はあまり呼ばないでください。天野貴子ということで」
「あはは、めんご、めんご」
 
千里は質問した。
「でも指の組合せで発動するなら、うっかりその指と指を合わせたら発動してしまったりはしないのでしょうか」
 
「それは二重に安全だ。ひとつ、これらの術を起動するには、各々の術を使えるための前提条件がある。例えば**明王の秘伝を習得するためには、密教の**の法、修験道の###の技(わざ)、神道の$$$の術を全て既に身に付けておく必要がある。その各々の術にもそのまた前提条件がある。それらを満たす人は今多分国内では瞬嶽さんと虚空ちゃん以外には居ないと思う」
 
「じゃ、私にはそもそも起動不能ですね」
 
「そうそう。それともうひとつ、こちらが重要だけど、実際の起動には指の組み合わせだけでなく、君自身が心の中で発動させようという明確な意志を持つ必要がある」
 

「だったら安心ですね。コピーするのって、どのくらい時間掛かるんですか?」
「1つ10分として1時間に6個。休憩をはさみながら1日6時間して36個」
「そのくらいが精神力の限界でしょうね」
と、きーちゃんも言う。
 
「2715個の内セットの物をまとめて465種類。これを36個ずつやれば 465÷36=12.9で13日かな」
と子牙は言ったが
 
「3日に1度休日を入れて17日ですね」
と、きーちゃんは言った。
 
あはは・・・。
 
「そうだね。その休日の間に僕はドキュメントを書こうか」
と子牙は言っている。
 
「私、学校は?」
「ごめん。休んで」
「分かりました。ちょっと電話連絡していいですか」
「ここは電話はつながらない」
「え〜〜?」
 
実際Vは携帯(Rの携帯のクローン携帯)をバッグから取りだしてみたが、圏外の表示である。この家の結界が電波を通さないのだろう
 
「だから今月中旬からこれまでも、私は子牙さんと手紙でやりとりした」
「あはは。お手紙書きます」
 

コピー作業は、千里の強い希望でお風呂に入ってから始めることにする。
 
それでお風呂を借りることにしたが、薪で焚く外釜方式らしかった。それで入(はい)れるようになるまで1時間近く掛かる(薪は石炭より火力が弱い)ので、その間に千里は星子宛の手紙を書いた。自分宛には出来ないし!それで、子牙に投函してきてもらうことにする。子牙が行くのは、きーちゃんが投函しに行くと、たぶんこの家に戻れないからである。
 
また風呂を焚いている間に、練炭2個に火を点けて、コピー作業をする予定の部屋の火鉢にも入れた。1時間ほどで部屋が暖まるはずである。
 
きーちゃんは
「だったら私は2人が作業している間に食事とか洗濯とか練炭の補給とかしますよ」
と言っていた。
 
「助かる。食材はたぶん地下収納庫にある分で足りると思う」
と子牙さんは言っていた。
 
台所の床にかなり広い地下収納庫があり、そこに多数の食材が置かれていた。冷蔵庫が無い!がそもそも暖房が火鉢などという家なので台所はかなり寒い。この家自体が冷蔵庫のようなものかと、きーちゃんは思った。練炭も納戸に大量に置かれていた。
 
お肉や魚については、子牙が時々外出して買ってきて補充すると言った、
 

御飯は炊飯器は無いので鍋で炊くと言っていた。鍋で炊く方法は、きーちゃんも千里も知っていたので、
「君たちは偉い。最近は炊飯器が無いと炊けない人が多くて」
と言っていた。
 
「私は古い人だし」
と、きーちゃん。
「うちの家、貧乏だから炊飯器とか昔無かったし」
と千里。
 
「それぞれに凄い」
 
貧乏なのも凄いのか?
 
3人それそれの炊き方翌日以降、やってみた。
 
子牙のは、とっても古い“始めチョロチュロ中パッパ、ジュージュー吹いたら火を引いて、ひと握りのワラ燃やし、赤子泣いてもふた取るな”の方式。
 
きーちゃんのは水と米を“厚手鍋”に入れ、強火で沸騰させてから弱火にし、10分ほど炊いた後、15分ほど蒸らす方式。つまり子牙さんの“始めちょろちょろ”が無い。これは昔御飯を炊くのに使用された“釜+炭”の特性で必要だったものであり、現代の鍋+ガスならこの作業が不要なので、最初から強火で沸騰させてよい。
 
千里は水だけ“薄手鍋”に入れて沸騰させた所に米を投入する“湯炊き”方式だった。つまり子牙やきーちゃんは最初から米を入れているのに対して、千里は沸騰してから米を入れる。薄手鍋で、きーちゃん方式で炊くとこげができやすい。薄手鍋だと湯炊きのほうが上手く行く。
 

どれも美味しい御飯ができるが食感は結構異なる。
 
「天野さんのはふっくらして“お米が立ってる”感じ、村山さんのは、お寿司を作るのに合う炊き方だ。天野さんのも村山さんのも、おこげが出来てない」
 
と子牙は言っていた。
 
「お米の炊き方も色々あるんですねー」
 
「ぼくの炊き方は現代の鍋には合ってない気がする。天野さんの炊き方に変えようかな」
と言って、子牙は2度目からは、きーちゃん方式に変更した。
 
年齢の高い人は自分のやり方を変えたがらないが、100歳を超えていてそれまでのやり方を変更できるのは凄い、と千里もきーちゃんも思った。彼は常に学習し続けている。
 

千里がお風呂に入り、子牙が手紙の投函ついでに買物に行って来て、炊きたてご飯でお刺身を食べてお茶を飲み、一息ついてから、作業を始める。クリトリスに触る必要上、パンティは脱ぐが、スカートはそのままでいいと言われた。
 
「寒いし」
「確かにこの部屋で下半身裸になったら風邪引きそうな気がします」
 
コピー作業は他の人の霊的影響を避けるため2人だけでしなければならないので、きーちゃんは隣の居間で待機する。襖で仕切られただけだから、声はお互いに聞こえる。
 

それでいよいよ作業を始めようとしたのだが、子牙は最初に言った。
 
「君の周囲を飛び回っているアイコン、邪魔なんだけど取ってもいい?」
「あ、はい。これもう用事は済んでいるんですけど、自分では取り外せなかったので隠蔽だけしてました」
 
「きれいに隠蔽されてるよ。さすがだね。でも邪魔だから取るね」
「どうぞ」
 
それで子牙は千里の周囲で飛び回っていた、十二天将のアイコン(ミニ精霊セット)を全部捕獲してしまった(*34). その付近にあった茶色袋!(*35) に入れてこちらに渡してくれたので、千里はバッグにしまった。
 
(*34) 十二天将アイコンの処理
 
G:全部捕獲
R:ひとりずつ本体を呼び出しながら接続できた分のアイコンは捕獲。
Y:自力でシールド
V:天空アイコンの力で隠蔽していたが、子牙が取り外した。
B:A大神がシールドした。
W:A大神がシールドした。
星子:Gが“偽アイコン”を周回させていたが、Vが隠蔽した段階で取り外した。
 

(*35) 薄い茶色の紙袋で筋がボーダー状に入ったもの。“筋入り茶袋”というのが、どうも正式?名称のようである。開け口の付近に小さな穴が空いていてそこに紐を通して店頭にぶら下げておく。
 
1970年代頃まで、駄菓子屋さんとか、たこ焼き屋さん・鯛焼き屋さんなどで買うと、この手の袋を1枚取って、それに入れてくれていた。
 
この家は全てがレトロである。
 

それであらためて作業しようとしたら、子牙は驚いたような顔をして、今度は声には出さず、“脳間直信”で千里に言った。
 
『どうしてペニスがあるの?君まさか男の子?』
『私は女です。でも私が2年前に死にかけた時、私の眷属の子が私と合体することで命を助けてくれたんです。その子がペニス(*36)を持っていたので、そのペニスが残存しているんです。私、クリトリスもちゃんとありますよ』
 
それで子牙は千里の身体を霊視していた。
 

『確かにクリトリスもある。亀頭だけでなく本体もちゃんとある本物のクリトリスだ。卵巣・子宮もあるし、性染色体もXXだから、間違い無く君は女性だね。でも作業するのにこのペニス邪魔なんだけど、取っちゃってもいい?それとも君を助けてくれた眷属さんの記念に残しておきたい?』
 
『ペニスは取っていいです。彼女の本体は私の体内で休眠してますから』
『確かに眠っているようだね』
『希に起きる場合もあります。でも私の命は彼女の命と二重化されているので死ににくいんですよ』
『なるほどー。それは術をコピーさせてもらう人としては最適だ』
と子牙は言った。
 
『じゃ取ってもいい?』
『取れるのでしたらお願いします。痛いですか?』
『少しだけ痛い』
『我慢します』
 
それで子牙は、千里Vの身体に残存していたペニス(*36)を取り外した。少し痛いと言われたが、注射針を刺される程度の痛みだった。ペニスを取り外した結果、その下に隠れていたクリトリスが姿を現す。
 
それでそのクリトリスを使用して、子牙はコピー作業を始めた。
 

(*36) このペニスは元々千里の身体に付いていたものだが、下記のような経緯を辿っている。
 
●3歳の時、“火取り”に行くのに、女の子でなければならないので、P大神の手により、一時的に?女の子の身体に変えられた。でも作業が終わった後は男の子に戻された。但しこの時P大神は“面倒くさがって”女の子の身体の上にかぶせて元々の陰茎と睾丸・陰嚢を取り付けた。卵巣と子宮も取り外さずに単に休眠させた、この時点から数年間、千里は事実上の“ふたなり”状態にあった。
 
●小4の時、母が癌治療を受けることになったが、そのままだと卵巣が放射線の影響で傷む。それでこれを千里の体内に退避させた。千里の睾丸は、この時に卵巣と作用が衝突しないように父の体内に移動させ、父の睾丸はP神社の宮司の体内に移動され、宮司の睾丸は廃棄された!(睾丸のドミノ移植)
 
男の娘の最弱の睾丸を移植された武矢は乱暴な性格が消えて(以前よりは)マイルドになり、高齢により体力が衰えていた宮司は元気すぎる武矢の睾丸を移植されて体力と精神力を回復させた。
 
この時、千里のペニスは母の卵巣の女性ホルモンの作用で萎縮しないように小春が取り外して自分の身体に取り付けた。
 
千里はペニスと睾丸を取った結果。その下に隠れていた女性器が姿を現し、これから小学校を卒業するまで千里は完全な女の子だった。ここでMRIなどを撮った場合に、母の卵巣はシールドされているので見えないが、3歳の時にできた卵巣・子宮は休眠しているだけで画像には見えるので、千里の身体はMRIで見ると完全な女の子に見えた。それで法的な性別も女性に修正された。
 
●中学入学直前、千里は死にそうになっている所を小春が禁断の法を使って千里と合体することにより、命を“複線化”して助けられた。その結果、小春の体内で培養中だった千里の女性器(iPS細胞から作った物)も自動的に千里の体内に入ったが、小春が取り付けていたペニスもおまけで千里の身体にくっついてしまった。
 
このペニスは2年半にわたって♀である小春の身体に付いていたので、その女性ホルモンの作用でかなり萎縮していた。(キツネの卵巣なので津気子の卵巣よりはずっと影響が小さい)
 
なお卵巣は母の体内に返し、津気子は生理が再開して驚くことになる。
 

一方千里Wの身体に付いていたペニスは、元々は留萌Q大神が千里のクローンを作ったらなぜか男の子になっていて、そのクローンのペニスである。
 
そちらのペニスは2012年7月に性転換手術を受けて人工クリトリスに改造されたが、人工なので本来のクリトリスとしての能力が無く(子牙が言うように本体が無い)、2011年7月に瞬嶽によって除去されて消滅した。時系列がおかしいのは、いつものこと。
 
瞬嶽はWの人工クリトリスの下に隠れていた千里Yの天然クリトリスを使用してコピー作業を行った。これは子牙が使用した千里Vのクリトリスとツインの関係になる。
 
千里Y/千里Vのクリトリスは、3歳の時にP大神が千里を女の子に変えた時に生まれたクリトリスである。
 

2月20日(日).
 
千里YはP神社宮司さん・花絵さんと3人で、先日神社を訪問して“人間は”お祓いを受けた鎹さんの御自宅を訪問した。鎹さんの不動産屋さんの事務所は留萌市街地にあるのだが、御自宅はB町の丘の上にある。
 
車を降りてから、花絵さんと千里は
「これ昔の鰊御殿(にしん・ごてん)みたい」
と言い合った。
 
鰊御殿(にしん・ごてん)というのは、ニシン漁が盛んだった時期に、大きな収益が出て建てられた巨大な邸宅のことである。この家も築100年近い雰囲気だ。千里は昨年増毛(ましけ)でもこんな感じの家のお祓いをしたなあと思い出していた。
 
「かなりどんよりとしてますね」
「ラップ音くらいするでしょうね」
と千里と花絵は話した。もっとも千里は、思ったほどは酷くない気がした。あの住人の雑霊の憑きかたからは、もっと酷い状況を想像していたのだが。
 
宮司はさすがに余計なことは口にしない。
 

中に入れて頂くが、この時、花絵さんが千里に小声で言った。
「家守さんが居ない」
 
うーん。梨花さんもそういうの分かるみたいだけど、私全然分からない!私って霊感無いもん、などと千里(千里Y)は思っている。
 
広い応接室でお話を聞く。
 
・基本的にラップ音が凄い。実際に家が古くなってきしんでいるのではと思い建築会社に見てもらったが、超音波などで調べてもらった範囲では建物自体に異常は無いと言う。むしろ太い柱や梁が使われており、物凄くしっかりしていてまだ200-300年は持つと言われた。
 
・昼寝などしていると、どこかで宴会などしているような声がすることがある。
 
・大量の魚の臭いがするが、実際にはどこにも魚は見付からない。
 
・多数の人が騒ぎながら敷地内に入ってきたような音がするので玄関を開けてみても誰も居ない。
 
・ピンポンが鳴るので玄関に出てみても誰もいないことがよくある。
 
・電話が掛かって来て取っても発信音しかしないことがよくある。
 
・階段を降りてくる音がするが誰もいなかったりする。
 
・全員何かと病気がちで通院している。食生活に問題があるのではと医者から言われ、妻は栄養計算しながら御飯を作っているが、症状は改善されない。
 

「実は上の2人の息子を産んだ女房はおかしくなってしまって、離婚して家を出たんです。今の女房はそのあと結婚して下の2人の娘を産みました」
と御主人は言う。
 
奧さん若いなと思ったらそういうことだったのかと花絵は思う。
 
「その前の奧さんは今は?」
 
「この家を出たあと1年くらい療養していたら健康を回復して、その後、深川の電器店をしている男性と結婚して2人男の子を産みました。だからこの息子2人の弟たちになりますね」
 
「健康回復したのならよいことですね」
と宮司は言ったが、その後妻さんが暗い顔をしているので、花絵は、この人も離婚しようと思い詰めているのではと想像した。
 

神棚が飾られている居間に移動する。
 
「すみません。神棚のお酒・塩・米を新しいものに交換して頂きたいのですが」
と花絵が言う。
 
「あ、すみません」
 
それで長女さんが塩と米を交換してくれた。それまでのは3〜4年は交換してない感じだった。
 
「お酒は先日のお祓いで頂いたもの使っていいですかね」
「はい、それでいいですよ」
 
それで長女さんは、P神社の名前が入った御神酒を神棚に供えた。
 
「榊をこれに交換して下さい」
と言って、花絵が(多分必要になると思って持って来た)榊を渡すので、長女さんが交換していた。それまでのは完全にドライフラワーになっていた!
 
たしか受験する人がいると言ってたし、この長女さん17-18歳に見えるから、この人が受験生かなと花絵は思う。来週くらいが国立の前期試験だよね?大変だなあと思った。
 

和太鼓を縦に設置する。花絵が2本の撥(ばち)で打ち始める。千里の龍笛(TS No.222) の演奏が始まる。宮司の祝詞が始まる。
 
神棚を中心に明るい光の玉のようなものが生まれ、次第にそれが広がっていく。
 
それはまずP神社の3人を包み込み、やがて居間全体に広がって鎹さん一家も包み込んだ。そして家全体に広がっていく。花絵は太鼓を打ちながらその光の広がりの“外縁”を感じ取っていた。
 
宮司は祝詞を終えようとしていたが、目でサインを送る。それで宮司は終わりかけていた祝詞を無理矢理延長し、根の国に持って行かれた穢れ禍を更にどこか遠くへ持ち運ばれ、神の光が津々浦々を明るく照らし、諸人の心が安寧になどど、アドリブで祝詞を追加してくれた。さすが50年以上神職をやっているだけのことはある。
 
それで祝詞は宮司が終わらせようとしていた所から更に3分続いて終了した。その時は、神棚の所で生まれた光の玉は、この家の敷地全体を包み込んでいた。祝詞が終わった時、花絵は天から神様が降りてきて神棚に収まったのを感じた。
 
お祓いは成功した、と花絵は確信した。
 

「部屋祓いを致します」
と千里は言い、カバンを持って席を立ち、御主人に案内してもらってこの広い家の各部屋を回る。千里はカバンの中から陶器の白い小皿を取り、各々の部屋で一瞬考えてから、千里が“最適”と思った場所に皿を置き、そこに盛り塩をした。
 
「この塩は一週間たったら適当に処分して下さい。普通のゴミに出していいですし、家の周りに撒いてもいいです。家の周りに撒くと結界代わりにもなります」
 
「じゃ家の周りに撒こうかな」
 
「皿も捨てていいですし、あるいは普段使いしてもいいです。もし一週間以内に誤ってひっくり返したりしたような場合は、新しい塩を似たような感じに盛って同じ場所に置いてください」
 
「分かりました」
「置いてあった場所が分からなくなったら」
 
「だいたい同じ場所なら問題ありません。不安ならマスキングテープでも貼っておけばいいかも」
 
「貼っておきます!」
 

子供たちの部屋は鍵が掛かっているので各々の子供に開けてもらって中に入った。下の妹2人の部屋は女の子らしい可愛い雰囲気の部屋で、ゴミなども落ちておらずきれいだった。
 
むしろ綺麗すぎる、と千里は思った。恐らくは、逆にそれがこの家に巣くっていた霊団の影響なのかも知れない。
 
チラッと斜め後ろに気配をやる。実は、祝詞を上げ終わった所で千里は密かに、びゃくちゃんを召喚したのである。そして部屋の守りを盛り塩で作った所で、彼女に“治せる範囲で病気の治療をしてあげて”と予め言っておいた。
 
びゃくちゃんは妹2人に生理不順があるのを見て卵巣の機能を回復させてあげた。他にも少しトラブルはあるが、多分生理不順が治ればそれも回復すると、びゃくちゃんは思った。
 
次男さんの部屋は足の踏み場が無いほど汚く本人も恥ずかしそうにしていたが、千里は気にせず、上手に床の物を踏まないように、この部屋の“ポイント”まで行って皿を置き、盛り塩をした。次男さんは便秘を抱えているようである。そのせいで身体に吹き出物などもできている。びゃくちゃんは腸内細菌が働きやすいように、下腹部を温めてあげた。
 
長男さんの部屋は明るい雰囲気でディズニーの壁紙に花柄のカーテンで、女の子らしい部屋だ。多少床に物があるが許容範囲で、充分きれいな部類と思った。
 
千里は本人を再度よくよく見た。
 
『この人は女の子でいいな』
と思い、女性用の置き方をした。
 
男性と女性でチャクラの回転方向が逆なので、盛り塩を置くべき位置も変わる。また生まれ年によっても変わる。千里は相手を見ただけで、その人の名前と(真の)生年月日が分かるので、その生まれ年(*37) に合わせた置き方、そして性別に応じた置き方をしていた。
 
ここに置いたら、花絵さんが「そこ違うのでは?」と言うかな?と思ったが、特に何も言われなかった(*38).
 

(*37) 長男は高3、次男が高2、妹1が中2、妹2が小6と見た。次男と妹1の間が微妙に空いているのは、離婚再婚があったせいだろうと千里は判断した。
 
実際には次男は離婚後に生まれたが父親が子供を引き取っている。後妻さんは次男が生まれた後で知り合った人で、鎹さんは浮気はしていない。妹1は実は亡くなった元夫との子だが、鎹さんが養女にした。妹2が鎹さんとの子。鎹さんは自分と血が繋がってない子も他の子と分け隔て無く可愛がっており、本人も新しい父親に懐いている。ということで妹2は実は法的には長女!上に“姉”が2人もいるのに!!
 
(*38) 花絵や宮司は千里がどうやってポイントを選んでいるのか知らないし、そもそも花絵はこの子を女の子と思い込んでいる。
 
千里Yは最初から男の子と思っていたが、女の子の服を着ているのは、女の子になりたい子なのだろうと考えていた。実際間近で観察してもチャクラが女性回転なので、やはり女の子と思って良いようだと判断した。
 
千里Yはやや目が弱い(Vも弱い:だからアイコンの捕獲ができなかった)ので、視覚より感覚に頼っている。それで最初からこの子が男の子だと思っていた。千里Bでさえ、この子を女の子と思い込んでいたので、むしろ千里Yが特殊である。
 

びゃくちゃんが千里に尋ねてきた。
『この人、睾丸の働きが悪いみたいなんだけど、回復させた方がいい?』
 
千里は一瞬考えたが答えた。
 
『むしろ機能停止できたら停止させて』
『了解〜』
 
と言って、びゃくちゃんは楽しそうな顔で、彼の睾丸を機能停止させてしまった!!
 
その後、夫婦の部屋にも盛り塩をしたが、奧さんは卵巣と子宮がどちらもトラブルを抱えていた。びゃくちゃんは卵巣優先で可能な範囲の治療をしてあげた。旦那さんの方は明確な糖尿病である。びゃくちゃんは膵臓の能力を回復させてあげた。その後は本人の節制次第である。
 
しかし全体的に生殖器付近に霊障が出ていたようである。女性は卵巣・子宮に来ていたし、卵巣の無い男性は下腹部のどこかに来ていた。長男さんの場合は卵巣の代わりに睾丸に来たのだろう。しかし結果的にはいちばん好ましい形の影響が出ていたのかも知れない!?彼が思い詰めた表情をしていたのは霊障より性別問題に関する悩みだったのだろう。
 

「これで全部ですか?」
「はい。ただあとひとつ倉庫があるのですが、あそこには近づけなくて」
 
増毛の家でもそういう蔵があったなと思う。
 
御主人の案内でその倉庫に向かう。
 
「そちらの建物ですか?」
「はい。あれ?」
「どうしました?」
「近づける気がする」
と言って近づく。鍵があるが古い、いわゆる“鍵穴型”の鍵である。
 
「この鍵は?」
「あります。持って来ます」
と言って、御主人は駆け足で鍵を持って来た。
 
それで開けるので御主人とP神社の3人が中に入った。
 
「生まれて初めてここに入りました」
などと御主人が言っている。
 
「空っぽですね」
「そこに位牌が」
 
倉庫の中央に小さな仏檀?祭壇?があり、位牌?のよう木の札が立っており、その前に線香立てと鈴(りん)があり、桴(ばち)も置いてある。位牌?の字は崩し字である。
 

「綿津見神(わだつみのかみ)と書かれていますね」
と千里が言うと
 
「よく読めますね!」
と御主人が驚いている。
 
「私も“綿津見神(わだつみのかみ)”と読みました」
と宮司。
 
「つまりこれは位牌ではなく御神札ですか」
「むしろ霊代(たましろ)(*39) かもね」
 
「私もそんな気がします。多分この家が昔網元か何かをしていた時に、海で亡くなった漁船員たちの鎮魂のための場所だったのかも」
と御主人が言う。
 
(*39) 霊代(たましろ)あるいは霊璽(れいじ)は、神道で死者の御霊(みたま)の依代(よりしろ)とする木製などの札。仏教の位牌に相当するもの。
 

「ここはきちんと供養すれば、きっとこの家を盛り立ててくれますよ」
 
「でもどうお祭りすればいいんですかね」
「ではお祭りの仕方を書いたパンフレットとかこちらにお送りしますから、実行可能な範囲でお祭りして下さい。あまり大仰(おおぎょう)なことをすると最初はできても、その内続けられなくなります。こういうのは継続することがいちばん大事なのですよ」
 
「なるほどー」
 
「例えば毎年春と秋のお彼岸にお供えをする、程度でもいいと思いますよ」
「そのくらいなら続けられる気がします」
 
「線香立てと鈴(りん)がありますが、神様なら線香じゃないですよね?」
「昔は仏教も神道もごっちゃでしたからね」
と宮司。
 
「明治になるまでは、袈裟を着た坊さんが鈴(りん)や木魚を叩きながら、祝詞(のりと)をあげていたんですよ」
 
「へー。面白い」
 
「仏教でも神道でもいいですが、仏式でお祭りするなら、檀家になっているお寺さんにあらためて位牌を書いてもらえばいいと思います。そして鈴(りん)を叩いて合掌ですね。神式でお祭りするのでしたら、お酒・お米・水を供えて拍手でよいと思います」
 
「神社さんにここまでしてもらったから神式でお祭りしますよ。お酒と米と水をお供えしよう」
と御主人は言っていた。
 

「しかしこの倉庫には全然近寄れなかったのに」
「さっきの祝詞が利いたんでしょうね」
「なんかあの祝詞で凄く清々しい気持ちになりました」
 
どうもそれで宮司や御主人は納得したようだが・・・千里、他の人が気付かない内に何かしたな?と花絵は思った。
 
 
前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6 
【女子中学生・冬の旅】(5)