【女子中学生・冬の旅】(3)

前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6 
 
北国では、冬の間、野球は事実上できなくなるので、恵まれた環境を持つ一部の学校以外は、実質ゲーム練習やノックなどができなくなる。それでだいたい11月頃から3月頃までは、ひたすらジョギングしたり、キャッチボールしたり、素振りしたり、金取れ・・・ではなく筋トレしたり、といった練習を続ける、
 
それで司は11月中旬からは、投手・捕手組の専用メニューで練習していた。
 
・ジョギング5km
・上り坂ダッシュ50本
・腹筋・腕立伏せなどの筋トレ
・投球練習。
 
11-12月に、このグループに参加していたのは2年生の前川・福川、1年生の山園・宇川・田中の5人に加えて、女子マネの生駒優だった。だいたいこういうペアでやっていた。
 
前川−田中
山園−宇川
福川−生駒
 
(↑“女子”を分離したのでは?)
 

福川−生駒の所は司が投球するボールを優が受けたら、優が投球して司が受けるという方式である。
 
それで優は司の生きた球を受けていて、司をSY高校の女子野球部に勧誘したいと思ったのである。司も優がワインドアップから振り下ろして投げてくる球を受けていたが、彼女が凄い球を投げるのでほんとに驚いた。彼女は前川君や司より腕が太い!球の速度も120km/hくらいありそうだった。夏のT中との試合はもし彼女が投げていたら勝ってたかも!?
 
優はチェンジアップが分からないと言っていたので、司が教えてあげたが、すぐマスターした。彼女の急速の速球投手がチェンジアップを覚えると相手はそう簡単には打てなくなるだろう。
 
彼女は坂道ダッシュも男子と一緒にこなしてて、50本やっても平気そうだった。50本ダッシュして疲れてない感じだったのは、山園君と優だけである。
 

冬休みに入ると、基本的にS中は休み期間の部活は休止なのだが、司は優と2人で、国道沿いのジョギングと、市道での坂道ダッシュ、A町公民館の庭での投球練習を続けた。
 
山園君と宇川君もどこかで練習しているらしかった。前川君たちは「休みは休む」と言っていた。多分そちらが正しい。
 
しかし司は女子と2人だけで練習していても“何も感じ無い”!
 
司たちは練習中のトイレは公民館のものを借りるが、最初司が男子トイレに入ろうとしたら、公民館の人に注意される。
 
「あんた、そっちは男子トイレ」
 
優は司の手を掴んで
「司、何やってんのよ。女子トイレはこっち」
と言って、司を女子トイレに連れ込んだ。
 
「学校外では普段女子トイレ使ってるんでしょ?普段通りやればいいよ」
と彼女は言っていた。
 

A町公民館のホールでは、剣道部1年の女子が4人で練習していた。やはり練習する場合偶数でないとやりにくいよね。でも剣道部って強いだけあって、練習熱心だなと司は思った。村山さんたちが居ないけど、また別の場所で練習してるのかな?
 
4人の白い道着が美しい。剣道の道着って紺じゃなかったんだっけ?と思い聞いてみたら、特に規定はないけど、女子は白を着る人が最近増えているらしい。
 
公民館の人の指導で、国道でのジョギングはそちらの4人と一緒に6人ですることになった。やはり女子が2人とかでジョギングしているのは不用心である。(←既に司は女子扱い)
 
女子トイレでは剣道部の4人ともしばしば顔を合わせたが、彼女たちは別に司を見ても変な顔はしなかった(←性別は疑いようが無ければ何も感じない)。
 
(く、く、く、く、くえすちょん(だから古い!)。ここで練習していた剣道部1年女子4人って誰々なのでしょうか?)
 

1月からは受験準備があるので優は離脱したが、代わりに女子ソフト部のエース、前河杏子と一緒に練習した。彼女も上り坂50本ダッシュを平気でこなした。
 
「前河さん、脚力あるねー」
と、へばり気味の司が言う。
 
「私、遅刻魔だから毎朝、学校の坂をダッシュしてるし」
などと彼女は言っていた。
 
トイレはこれまでの流れで女子トイレを使用したが、前河さんはそれを見て頷いていた。
 
投球練習は硬球を使用する。杏子は硬球をウィンドミルで投げてくるが球速もあり、重たい球だった。打たれてもあまり飛ばないだろうと思った。
 
「でも前河さん、凄いボール投げるね」
「千里ちゃんには、かなわないけどね」
「そういえば村山さん、小学校の時はソフトやってたね」
「剣道に取られちゃったけどね」
 
誰も千里をバスケ部とは認識していない!
 
「でも、女の子同士なんだから、名前で呼び合おうよ、司ちゃん」
「えっと・・・」
「司ちゃんが性別誤魔化して男子野球部やってるのは、大概みんなにバレてるから」
 
うーん・・・。ぼくほぼ女子とみなされてたりして。4月からはちゃんとセーラー服で登校しなさいとか言われたらどうしよう?(←自分で妄想している)。
 
お母ちゃんに白いブラウス4枚買ってもらったし、一応リボン結ぶ練習はしたけど(←かなりその気になってきている)。
 
ちなみに司はブラウスは昨年だいぶプライベートに着たので、ブラウスのボタンを留めるのは普通にできる。
 

2005年1月19日(水).
 
始業式が行われて、3学期がスタートする。学期始めの全体集会で、冬休み中の部活の大会成績が報告される。男子サッカー部の地区準優勝、女子バスケット部の準優勝、男子バレー部の優勝、男子剣道部の優勝、女子剣道部の準優勝、個人戦で公世の優勝、竹田君の4位、千里の優勝、玖美子の4位、と発表され、各々賞状やメダルを披露した。
 

1月21日は実力テストが行われた。“勉強会グループ”の成績は下記であった。数字は(1年春→夏→冬→2年春→夏→今回)。
 
玖美子1-1-1-1-1-1 蓮菜2-3-2-3-2-2 田代3-2-3-2-3-3 美那22-14-12-10-9-8 穂花25-16-11-9-8-7 千里40-26-22-16-14-12 恵香43-32-28-22-18-16 沙苗65-41-36-32-31-30 留実子74-58-47-44-40-36 セナ78-81-68-69-60-64
 
セナ以外は全員前回より成績を上げている!
 
セナは勉強会に来ても漫画を読んだりおしゃべりしてるばかりから仕方ない。たまに顔を出す真由奈なども、ひたすらおしゃべりで全く勉強していない。
 
玖美子は圧倒的1位である。今回は5科目全て満点の500点だった。蓮菜と田代君は1回交代で2位と3位だったが、今回は蓮菜が連覇した。
 
「雌雄が決したら、そろそろ雅文は性転換して女になってもらわなきゃ」
「それって蓮菜は男になるわけ?」
「そそ。あいつのちんんちんを切り取って私の身体に付ける」
「まあご自由に」
 
なお今回千里たちは、数学・理科を千里Y、国語・英語・社会をRが
受けている。英語はどちらが受けてもいいのだがRになったのは、やはり最近Yの出現率が低下してきているからである。時々Rが苦手な理科の授業を受けていたりもする。
 
この時期、A大神は、やがて千里Yも休眠して、千里は事実上Rだけになるのではと考えていた。
 
その予想は半分当たり半分外れることになる。
 
神様だって先のことは分からない。作者だって先のことは分からない!!
 

1月22-23日(土日).
 
“千里Rは”12月12日以来、41日ぶりに旭川に出たが、公世が一緒に行きたいというので連れて行った。
 
「きみちゃん、いらっしゃーい。女の子になりたくなった。可愛い女の子に変えてあげるよ」
「いえ、それはいいので、村山さんと一緒に剣道の指導を受けたくて」
「了解了解」
 
それで初日は千里がきーちゃんにフルートとピアノの指導を受けている間、公世は数学と英語の勉強をしていた。14時頃からは公世はジョギングに出たが、コリンに自転車で伴走させた。“女子中学生”がひとりでジョギングするのは危険である。ジョギングの後は腹筋や腕立伏せなどもしていたようである。その後はシャワーを浴びて30分くらい仮眠してからまた勉強していた。
 
夕食は、コリンが作る。夕食の後は千里と公世で道場のほうで少し手合わせした。まだまだ千里の相手ではないのだが、夏休みの頃からかなり成長してるなと千里は思った。本人が自信を付けてきているのが半分と、毎日5-10kmのジョギングを欠かさずしているのが半分利いているのだろう。今のままなら沙苗では練習パートナーにならなくなるのは時間の問題かもと千里は思った。
 
この夜は、No.2に千里とコリン、No.3の部屋に公世が寝た(No.1は、きーちゃん)。
 

翌日は午前中千里は、きーちゃんからピアノのレッスンを受ける。一方、公世はまたジョギングに出たのでコリンに自転車で伴走させた。そのあとまた腹筋・腕立伏せなどしていたようである。なお落合さんは“彼女に”うさぎ飛び・スクワットなどは禁止している。“彼女”のような華奢な身体の子は、その手のトレーニングをすると腰や膝を痛める危険があるので無理をしない範囲の筋トレをしたほうがいいと言っている。
 
しかし、普通の男の子であれば、そういう身体を鍛えることをしていたら、男性ホルモンの働きが強まり男らしくなっていく気がするのだが、公世の場合は身体を鍛えて筋肉を付けるほど、むしろ女らしくなってきている気がするなと千里Rは不思議に思っていた。
 
貴司などは以前サボっていた基礎トレをちゃんとするようになってからどんどん男らしくなってきている。そういえば私、最近貴司とデートしてないなと、ふと千里は思った。別に“私が”貴司を好きな訳ではないから、いいけどね。
 
(デートの約束をするBが休眠中だからだと思う。だいたいBが約束するのに都合で行けなくなりRが代理でデートするパターンが多かった)
 

お昼を食べた後、13時に落合さんはやってきた。
 
まずは千里と公世で対戦するのを見てもらうが
 
「村山さんも見る度にレベルアップしてるけど、工藤さんの成長ぶりも凄いね」
と褒めてくれた。その後、まずは公世が個人的に指導してもらうので、千里は少し離れた所で、真剣の素振りをしていた。
 
「その刀は天野道場で振ってるのとは違うみたいな気がする」
「天野道場に置いてるけど、みんながいる時は出してない。本物の真剣だよ」
「ひゃー」
 
天野道場でみんなに振らせている“真剣”は本当は鉄に比重が近い亜鉛製のいわゆる“模造刀”で、元々は居合いの練習などに使用するものである。更に安全のため、刃先にゴムが付けられている。しかし千里が今振っているのは、本物の真剣である。
 
「後で貸すから振ってみなよ」
「うん」
「絶対に清香とかには貸せないけどね」
「あ、それは分かる。何とかに刃物だ」
「ね?」
 
それで千里はずっと素振りをしていた。
 

交替する。
 
公世に真剣を貸すが
「模造刀とは持った感触からして違う」
と彼は言っていた。
 
公世が真剣で素振りしている間に千里が落合さんの指導を受ける。
 
「君と対戦する時は、モードを切り替えないといけない」
と落合さんは言っていた。
 
落合さんは恐らく7-8割の本気度で掛かってくる。それを逃げずに受け止めてから反撃する。こちらも相手を殺さない程度の本気で打ち込んで行く。落合さんは基本的に逃げる!受け止めたら怪我をしかねない:少なくとも竹刀は確実に折れる。実はそれで昨年は落合さんの竹刀を3本折っている。竹刀代はきーちゃんが補償してくれている(落合さんも千里からは受け取らないだろう)。
 
素振りをしながらこちらを見ていた公世が
「すげー」
と思わず声を挙げていた。
 
10分くらい対戦してから、色々コメントをもらう。指摘された点についてイメージトレーニングで自分の動きを想像してからまた対戦する。10分ほどやってから、また検討する。この繰り返しだが、物凄く勉強になる。
 
1時間半指導を受けて15分休むというのを千里と2回、公世と2回して、18時に練習を終了する。コリンが買ってきた甘いケーキと、きーちゃんが入れてくれたフォションの紅茶を飲み、18時半頃
「ありがとうございました」
と行って、落合さんを送り出した。
 
千里も瑞江に迎えに来てもらって、きーちゃんの家を辞した。
 

「ちょっとおばあちゃんちに寄ってくから付き合って」
「うん」
 
それで2人で天子のアパートに移動したが、途中でお寿司屋さんに寄り、予約していたお寿司を受け取ってからアパートに行った。
 
「明けましておめでとう」
と千里(千里R)が言うと、天子は
「おめでとう。。。って、あんた1月2日にも16日にも来たじゃん?」
 
「うっそー!?」
 

千里は公世を天子に紹介する。
 
「こちら、剣道部のクラブメイトで、工藤公世ちゃん」
「初めまして、工藤です」
と公世が挨拶する。
 
「あら、可愛い声ね。私は目が見えないからお顔は分からないけど、素敵なお嬢さんみたい」
と天子は言った。
 
“お嬢さん”と言われて、公世は困ったような顔をしていた。
 

それで瑞江がお吸い物を作ってみんなに配り、千里が買って来たお寿司を摘まむ。この場に居るのは、天子・瑞江・千里・公世・コリンの5人である。
 
千里は8人前買って着ているので
「たくさんあるからどんどん好きなの食べてね」
 
と言った。公世も
 
「たくさん身体動かしてお腹空いたし、頂きまーす」
と言って食べていた。
 
しばらくして、公世が言った。
「天子さんって、目が見えないように見えない」
 
「天子さんはね、目が見えなくてもスーパーで普通に買物できるし、お肉のパックを必要な分量ちゃんと買ってこれる人」
「凄い!」
 
「目が見えないから運転免許取れないけど、実は車の運転ができる」
「うっそー!?」
 
「私、見えなくても“分かる”のよね」
「さすが、村山さんのおばあちゃんだ」
と公世が言うと
 
「その見解に大賛成」
と瑞江が言っていた。
 

「残っても女2人では持てあますから、食欲のある人が食べて」
と瑞江が言うので、公世は遠慮無く食べて、お寿司はきれいに無くなった。
 
それで少し休憩してから、20時すぎ、瑞江が彼女のRX-8に千里と公世を乗せ、留萌まで送ってもらった。
 
ここで助手席に千里が乗り、公世を後部座席に乗せた。コリンは千里が体内に吸収した。
 
「朝日さん、お手数掛けてすみません」
と公世は言うが
 
「ううん。私はドライブできて楽しいから」
と瑞江は答える。
 
「リアシート狭くてごめんね」
「全然問題無い」
 
「横になっててもいいからね」
「そうするかも」
 
実は公世が横になれるように、彼を後ろに乗せた。
 
実際公世は深川付近で眠ってしまったので、コリンに言って毛布を掛けてあげた。
 
22時前には公世の家に送り届ける。その後車は小春の家に行き、ここで全員降りる。千里とコリンはコリンの部屋、瑞江は納戸に布団を敷いてその夜は寝た。この時間、村山家には既に千里Yが帰宅しているので、Rとしても、こちらで寝る方が気楽である。
 
瑞江は翌日旭川に戻った。
 

1月下旬、P神社で勉強会に集まっている女子たちの間で「バレンタインをどうするか?」というのが熱い話題になっていた。勉強会をしているグループは千里たち世代、小学5-6年生のグループ、小学2-4年生のグループと3つあり各々が丸テーブルを使っているのだが、3テーブルともバレンタインの話題で盛り上がっていた。
 
小学5-6年生のグループはチョコを手作りしようなどと言っていた。千里は自分たちも小学生の頃は手作りをしたなと思っていた。その後、千里たちの年代の子は「チョコは買った方が良い」という方向に来ている。
 
「蓮菜と千里は渡す人が決まっているからいいね」
などと恵香が言っている。
 
「私別に誰にも渡す予定無いけど」
と蓮菜。
「私特に渡すあては無いけど」
と千里(千里Y)。
 
「あぁ普段からつながりがあれば特別に渡す必要もないのかな」
などと美那は言っていた。
 
セナがいちばんドキドキしていたようであった。
 

一方貴司は、
「今年は千里、どんなチョコくれるかなあ」
などとワクワクしていた。
 
彼は自分の思い人(千里B)が休眠中であるとは全く知らない!
 

1月29日(土).
 
千里、清香、公世の3人は、S中岩永先生の車で札幌に出た。
 
札幌市内の“中学生剣道札幌鍛錬会”という大会に招待されたのである。
 
この大会は札幌および周辺の中学生男女の大会(個人戦のみ)であるが、毎年、道大会の上位になった人は、札幌や周辺から外れる地区在住でも男女2名以内が招待されることになっている。むろん招待されるのは1-2年生だから、道大会の上位が3年生で占められていた場合は、招待者無しになる場合もある。実は昨年がそうだったらしい。
 
今年は女子では千里と清香、男子では公世と、もうひとり函館の桐生君(道大会BEST8)が招かれ2年ぶりに招待者を入れた大会になった。男子のもうひとり、北海道代表にもなった西田君は3年生なので出場しない。
 

3人は、岩永先生、桐生君と彼を引率してきた先生も入れて6人で、北海道剣道連盟の会長さん(凄く眼光の鋭い人だった)、この大会の主催者さんと会議室でお話しした。千里・清香・公世は、昨年の栃木県での全国大会での様子も色々と語った。
 
たいがい話してから、会長さんが
「今年の大会の招待者は、男子1名と女子3名?」
と訊いた。
 
清香が噴き出す。
 
主催者さんが
「いえ。男子も2名なのですが、到着が遅れてるのかな」
と言った。
 
岩永先生がやっと気付いて
「すみません。こちらの工藤が男子の招待者なのですが」
と言う。
 
「え?だってあなた女子ですよね?」
「え?あなた女子マネージャーさんじゃないの?」
 
それで岩永先生は公世に剣道連盟の登録証と生徒手帳を提示させて、公世は男子であると説明した。
 

「もしかして男の子になりたい女の子?」
「そうだったんですか。失礼しました。昨年京都で少し揉めたケースがあり、女子でも男子の大会に出場したいという選手については、女子としての登録証は返却する条件で男子としての登録証を発行し、男子の大会に出ることを認める裁定が降りているんですよ」
 
「ああ、そうだったの?」
「でも女子の登録証を返却したら女子の大会には出られないわけだ」
「そりゃ女子の大会に出たり男子の大会に出たりふらふらされては困りますから」
「それなりの覚悟が必要だよね。君凄いね」
 
ということで、公世は男装?女子と思われてしまったようであった。
 
「でも君、登録は男子でも医学的に女子なら、ちゃんと女子トイレ使ってね」
「それは心配ないでしょう。さすがに女子の身体では男子トイレは使えませんし」
「あ、そうですよね」
 
千里は可笑しさをこらえて
「大丈夫です。私が付き添ってちゃんと一緒に女子トイレに行きますから」
と答えておいた。
 
桐生君が憧れるような目で公世を見ていたが(一目惚れされたんだったりして)公世は困ったような顔をしていた。
 

札幌地区の一般的な大会なので、参加者は男子が212名、女子も168名居る。男女とも、1回戦→2回戦→3回戦→4回戦→5回戦→準々決勝→準決勝→決勝という流れになる。招待者は5回戦からの参加である。つまり一般参加で14人勝ち上がり、スーパーシードされた招待者2名を加えて5回戦をし、準々決勝進出者を決める。
 
大勢で試合をするので、初日は1回戦から4回戦までやって終わりである。
 
招待者4人は、この日は試合が無いので、主催者さんに案内されて男女の有望な人の試合を見学させてもらった。
 

ホテルはシングルが全員取られていたので公世も安心だったが、千里は彼の部屋を訪問しておしゃべりした。
 
「きみよちゃん、4月から女子剣道部に移籍してセーラー服で通学する?」
「ぼくはそんなことするつもりは無いけど、潮尾さんが女子剣道部に行きたいと言ったら受け入れてあげてよ」
「ああ、彼女は全然問題ない。女子の部に出場したいと言うなら、医学的検査を受けてもらわないといけないだろうけど」
 
「あの子何かあったのかな。1月になってから凄く女らしくなってる」
「心境の変化かもね。あの子ならセーラー服で通学し出すかもね」
「先生とかには言ってないけど、あの子、女子トイレ使ってるよ」
「いいんじゃない?あの子が男子トイレ使おうとしても叱られると思うし」
「あの外見なら、そうだろうなあ」
 
「いっそ強くなかったら、セナみたいに誤魔化して女子に出しちゃう手もあるけど、あれだけ強いと、性別移行は難しいかも知れないなあ」
と公世は言っていた。
 
彼女は沙苗路線かも知れないなあと千里は思った。でもどっちみちあの子は一度病院の診察を受けさせた方が良いよね。ホルモン濃度も毎月測定しておいたほうがいいし。
 

翌日(1/30)、朝10時の5回戦(8試合×男女)から、千里・清香・公世と桐生君は大会に参加した。
 
公世は
「ぼく、ちゃんと男子のトーナメントに入れられてるかなあ」
 
と心配していたが、ちゃんと男子に入っていてホッとしていた。
 
5回戦は4人とも勝った。
 
11時から男女の準々決勝(4試合×男女)が行われる。これも4人とも勝ち、全員BEST4に進出する。つまり男女とも招待者がBEST4の半分を占めた。さすが招待されただけのことはある。
 
11時半から準決勝が行われる。千里は札幌の2年生・木村さんに2-0で勝った。清香も北広島の2年生・山崎さんに2-0で勝った。つまり決勝戦は千里と清香の招待者同士の対決になる。
 
男子では公世は恵庭の2年生・敷島君に2-0で勝ったが、桐生君は札幌の1年生・富士君に敗れた。男女通じて準決勝まであがってきた1年生は富士君だけなので、むっちゃくちゃ強いということだろう。後で聞いてみると、小学生の時に全国大会に出たことがあるらしい。体格も凄い。まだ中1なのに高校生並みである。
 

12時からまずは女子の決勝戦がある。
 
千里と清香は気合を入れて試合に臨んだ。
 
お互いに70%くらい解放した激しい闘いが展開される。
 
「すげー」
「これが全国のレベルか」
「こいつら男子でもそう勝てる奴はいないぞ」
などという声が飛んでいた。
 
試合は双方1本ずつ取った後、終了際の両者面打ちで「面あり」の声がある。旗を見たら、3人とも千里に揚げていた。
 
それでこの大会は千里の優勝、清香の準優勝となった。
 

5分置いて男子の決勝である。
 
「なんで片方は女子なの?」
「あの赤の選手、女子だよね?」
と観客のささやき。
 
163cm 48kgで華奢な公世と、190cm 100kgでがっちりした体格の富士君では、そもそも対戦させるのが危険ではないか?と思えるくらいである。富士君も「なんで向こうは女なんだ?」という顔をしている。
 
両者礼をして開始線の所まで歩み寄る。竹刀を構えたまま蹲踞の姿勢から立ち上がり、中段の構えになる。
 
この時、富士君が考えていたことは、いかにして相手に怪我をさせないように1本取るか、ということだった。やりにくいなあ。全力で打ったら死んだりしないよね?
 

審判の「始め」の声で試合開始!
 
公世は審判の声と同時に相手の懐に飛び込み「胴!」というハイトーンの声とともに相手の面積の広い胴をきれいに打った。すれちがい様、富士君は公世の身体から甘い香りを感じ取り、一瞬くらっとくる。
 
「胴あり!」
の声。まずは1本である。
 
これで向こうも本気になった。
 
物凄いパワーの打ち込みが来るが、公世はいつもフットワークで動き回っているので、全く命中しない。それどころか相手が面を空振りしてややバランスを崩した所に、すかさず「めーん!」と女の子のような声を出して打ち込む。
 
「面あり!」
の声。公世の2本目である。
 
試合はわずか18秒で決着した。
 
富士君は「嘘だろ?」という顔をしていた。
 
多分負けた気がしてないだろう。
 

そういう訳で、男子の決勝戦はあっという間に決着してしまった。観客が騒然としていた。
 
引き上げてきてから桐生君が言った。
 
「工藤さんの強さの一端が分かった気がします。僕夏の道大会までにまた鍛え直してきます」
「うん。頑張ってね。ぼくも頑張るけど」
 
「道大会で、もし僕が勝てたらデートしてくれません?」
 
デート!?
 
公世は一瞬思考停止した。が、すぐ気を取り直して言った。
 
「悪いけど、ぼくは男には興味無いから」
 
すると桐生君は言った。
 
「さすが!ストイックなんですね!ますます工藤さんのこと好きになりました」
 
「好きになられても困るけど、道大会は頑張ろう」
「はい!」
 
それで2人は握手したが、握手後、桐生君は、心ここにあらずの状態になっていた。
 

12:30からの表彰式で賞状とメダルをもらい、千里・清香は3位の子たち(木村・山崎)とも笑顔で握手した。公世も金メダルをもらい、銀メダルの富士君と握手する。女の子のような手の公世と握手して富士君はぼーっとしていた。3位のふたり(敷島・桐生)とも握手した、
 
そのあと閉会式に移行し、敢闘賞をもらった5位4人×男女(賞状は後で渡す)と合計16人で整列し、大会長のことばを聞いた。これで大会は終了した、
 
更衣室は混みそうなので、道着のまま会場を出る。これが13時頃である。岩永先生の車でファミレスに行き、遅めのお昼を食べた。このファミレスのトイレで全員着替えた。むろん公世は女子トイレに連れ込んだ。
 
「でも3人ともメダルを取れて良かった」
「公世ちゃん、女子に来たりしない?」
「行かない行かない。ぼく男子だし」
「そうだね。中学の内はまだ男子ですという主張も何とか通せるかな」
「高校に行く時に女子に移行すればいいよ」
「ぼくほんとに男の子なんだけどぉ」
「はいはい、そういうことにしておこうね」
 
まあ彼(まだ彼女ではないと思うけど)が男を主張しても誰も信用しないよね。最近益々女らしくなってきているし。実際彼は高校には女子制服で通うことになるんじゃないのかなあ、と千里は思った。
 

「でも公世が女子に来ると、この3人の内の1人は全国大会に行けなくなる」
と千里は現実的なことを言う。
 
「今年の全国大会はどこだっけ?」
と清香が訊いた。
「三重県伊勢市」
と岩永先生が答える。
 
「松阪牛食べたいな」
「優勝したらおごってあげるよ」
「よし、松阪牛のためにも優勝しよう」
と清香が言うので、岩永先生も微笑んでいた。
 
「木刀もらって松阪牛を食べて、お土産は赤福かな」
「そうそう。あの木刀欲しーい」
「男女の個人戦優勝者だけだからね。あれもらえるのは」
 

食事をしている内に携帯にショートメールが入った。きーちゃんからなので、千里は席を立ってロビーで電話を掛けた。
 
「今日は千里、札幌に来てるんだって?」
「うん。剣道の大会があったんだよ。よく分かったね」
「こちらの携帯に繋がらなかったから、もうひとつの携帯に掛けたら、蓮菜ちゃんが出て、札幌だと教えてくれた」
ときーちゃんが言う。
 
実は千里Yが昇殿していたので蓮菜が取ったのである。
 
千里Rは。もうひとつの携帯って何だろう?と思いながら答えた。
 
「大会は一応お昼までで終わって、これから帰る所なんだけどね」
「だったら、ちょっとこちらに来てくれない?頼みたい“お仕事”があるのよ」
「了解〜」
 
それで千里は席に戻り、
「親戚のおばさんから呼び出しがあったので寄ってから帰ります」
と告げた。
 
「念のため、そのおばさんの名前を」
「天野貴子さんです」
と言って、千里は彼女の名前を紙に書いて先生に渡した。
 
「分かった。気をつけてね。今日中に帰れる?」
「分かりませんけど何かあったら連絡します」
「うん。よろしく」
 
それで千里は荷物を持ってファミレスを出た。これが14時半頃である。
 

タクシーに乗って、きーちゃんに指定された札幌駅まで移動した。
 
「ちょっと東京まで付き合って」
「え〜〜〜!?」
「ちょっと微妙な相談事をされてさ。で少し考えていたんだけど、この件は千里を連れて行けば解決するような気がしたんだよ」
 
「でも私学校が」
「誰か身代わりで登校させればいい」
 
千里は一瞬考えた後で、すーちゃんに電話した。
「ハロー、すーちゃん。頼みがあるんだけど」
「何ですか?」
「明日、私の身代わりで学校に行ってくれない?」
「え〜〜〜?そんなのすぐバレますよ」
「大丈夫だと思うけどなあ。私が変人なのはみんな知ってるから、また変なこと言ってるくらいに思ってくれるよ」
「だいたい私、千里のクラスメイトの名前も知らないし」
「玖美子は分かるでしょ?」
「はい」
「あの子に聞けば色々教えてくれると思う。あの子には身代わりだということをバラしてもいい」
「それにしても無理がある気がします。私、中学校の勉強なんてもう忘れてるし」
「勉強は私も分からないから普段と大差無いと思う」
 
すーちゃんは「無理ですー」「やはりバレますよー」と言っていたが、千里は強引に押しつけた。
 

「これで何とかなると思う(本当に大丈夫か?)。じゃ新千歳に行くの?」
「いや札幌駅から寝台特急に乗る」
「へー」
 
「相談された相手には、鉄道を使ってアクセスしないと会えないのよね」
「何か結界ですか」
「そそ。自動車や飛行機で来た相手は会うことができない」
 
「まるで仙人か何かみたい」
「あの人は仙人だと思うよ。もうとっくに死んだものと思っていたんだけどね。連絡を受けて私もびっくりしたよ」
 
「幽霊?」
「いやだから仙人」
「じゃ仙人の幽霊」
 
と千里は言ったが、この言葉を、きーちゃんは2週間後に思い出して愕然とすることになる。
 

千里はコリンに言って、リュックと若干の着替えを買ってきてもらった。それでリュックにその買ってきてもらった着替えと、スポーツバッグに入っているだ未使用の下着なども移した上で、コリンには
「悪いけど、防具・竹刀とこのスポーツバッグ持ち帰って」
と頼んで電車代を渡した。
 
「分かりました。私も明日くらいにそちらに移動しなくてもいいですか?」
「必要になったら連絡するよ」
「分かりました。お気を付けて」
と言って、コリンは切符売場の方に行った。
 

それで、きーちゃんと千里は、少し休んだ後で、駅弁(かにめし)・パン・飲み物を買ってから、改札を通り5番ホームに行く。少し待つと、寝台特急・北斗星2号(*13) が入線してきたので乗り込んだ。2人は8号車のA寝台2人用個室(ツインデラックク)に入室した。
 
部屋に入った所左手に洗面台があり、階段を昇って左右に座席/ベッドがある(*14). きーちゃんは、千里に進行方向向きの座席を勧めてくれたので、遠慮無くそちらに座らせてもらった。窓際のテーブルはわりと広い。部屋としては狭いけど、列車だし、まあいいかと千里は思った。
 
「最初カシオペアを取ろうとしたんだけど、満席だったのよ。北斗星は直前にキャンセルした人があって、この2人用個室を取れた」
「へー。でも個室って初めて乗った」
「飛行機なんかより贅沢な旅だよね、これ」
「そうかも」
「ヨーロッパの鉄道は個室が主流だけど、日本は開放型の座席が多くて最近まで個室は少なかったもんねー」
 
そういうわけで、先日千里Yが下りの北斗星3号(東日本編成)に乗ったばかりだが、今度は千里Rが上りの北斗星2号(北海道編成)(*13) に乗ることになったのである。
 

(*13) 北斗星の1-2号はJR北海道の所属、3-4号はJR東日本の所属であった。★が1-2号(北海道編成)と3-4号(東日本編成)で異なる所である。
 
1c 1.3=開放型B寝台(Bコンパートメント)
2-4c 1=B寝台2人用個室(デュエット) 3=開放型B寝台★
5c 1=B寝台1人用個室(ソロ) 3=開放型B寝台★
6c 1=B寝台1人用個室(ソロ)+半室ロビー 3=ロビーカー★
7c 1,3=食堂車「グランシャリオ」
8c 1,3=A寝台2人用個室(ツインDX)
9c 1,3=A寝台1人用個室(ロイヤル)+B寝台1人用個室(ソロ)
10c 1,3=A寝台1人用個室(ロイヤル)+B寝台2人用個室(デュエット)
11c 1,3=開放型B寝台
12c 1,3=荷物・電源車
 
(*14) 北斗星のツインDXの車両には2種類があり、大抵は上下2段ベッド型 オロネ25-500 に当たる。千里たちが乗ったのは1両だけ存在した豪華タイプの平行ベッド型 オロネ25-551 であった。
 

この列車はこのように停車していく。
 
札幌17:12 南千歳17:46 苫小牧18:06 登別18:39 東室蘭18:56 伊達紋別19:17 洞爺19:29 長万部20:01 八雲20:25 森20:52 函館21:48 青森0:11 仙台4:56 福島6:02 郡山6:39 宇都宮8:11 大宮9:13 9:41上野
 
千里ときーちゃんは、食堂車は混むから夕食は駅弁で済ませようということにしていた。それで“かにめし”の駅弁を買ってから乗車したのだが、列車に乗る直前までファミレスでおやつ食べていたし、ということでお腹空いてから食べようということにした。
 
それで2人は、最近音楽界に活きのいいアイドルが居ないね、などという話や激動のプロ野球の話題、また食の話題や地域の話題などの蘊蓄、歴史上の裏話などで盛り上がった。
 
長万部についたあたりで
「そろそろ入るかな」
と言って、駅弁を食べたが美味しかった。
 
「蟹もいいねー」
「普段はカニカマだけど」
などと言った。
 

千里Gは、千里Rが持つ携帯のクローン携帯を使って、すーちゃんに電話した。
 
「あ、すーちゃん?私明日学校に行けることになったから、すーちゃん代理はしなくていいから」
「ほんと?助かる!普通の場所での短時間の代理なら何とかなるかも知れないけど、千里のことよく知ってる友だちがたくさん居る学校での代理なんて、絶対すぐバレると思ったよ」
「ごめんねー。でもその内頼むこともあるかも知れないから友だちの顔写真とか揃えて、その内一度説明しておくね」
「あはは、あまり自信無ーい」
 
それで、すーちゃんは明日学校に出て行かなくてよいことになった。実際にはRが居なければYが1日中学校に出ているはずだから、何も問題無い。それでGは、すーちゃんにキャンセルの電話を入れたのである。
 
Yは丸一日稼働して辛いだろうけど!
 
きっと神社にも行かずに学校が終わったらすぐ消える。掃除とかサボるかも?
 

先日下り北斗星に乗った千里Yは、青函トンネル通過が深夜なので、寝ていたのだが、上り北斗星に乗った今夜の千里Rは、函館を21:48 に出た後、ずっと起きてて、木古内(きこない)駅を通過した後、青函トンネルに入るのを見た。
 
「これが青函トンネルかぁ」
と言って、千里が感動しているようなので、きーちゃんも微笑んでいた。
 
列車はずっとトンネル内を通過して行く。
 
「これ通過するのに何分かかるの?」
「うーん。30分くらいかな」
「そんなに掛かるんだ!」
「54kmくらい長さがあるからね」
「長いね!」
 
ということで、千里(千里R)はトンネルの景色を見ながら、座ったまま眠ってしまった!
 
それで、きーちゃんは千里を横にして、布団を掛けてあげた。そして自分も自分のベッドに横になり、眠ってしまった。
 

(1/31 Mon) 千里は朝6時すぎに目を覚ました。千里が起きると、きーちゃんも目を覚ます。トイレに行って来た後、きーちゃんが缶コーヒーのカフェオレを勧めてくれたので、それを飲んだらだいぶすっきりした。
 
昨夜は結局着替えずに寝てしまったので、起きてから下着から全部交換した。コリンが買ってくれた服はあまり高くないのに可愛い服で、あの子もいい趣味してるなあと千里は思った。
 
やがて6時半になるので、2人で一緒に食堂車に朝食を食べに行った。
 
「高ーい」
「まあ列車内だし」
「洋食と和食があるんだ?」
「千里にはたぶん洋食がお勧め」
ということで、千里は洋朝食、きーちゃんは和朝食を頼んだ。
 

それで席に座っていたら、料理が運ばれてくる。
 
「なるほどー。洋朝食がおすすめと言った意味が分かった」
「でしょ?」
「私、和朝食だと食べきれなかった」
「まあおとな向けかもね」
 

部屋に戻ってから、ぼーっとして景色を見ている内に9:41上野駅に着いた。
 
きーちゃんは旅行バッグ1個、千里はリュック1個という身軽な装備である。
 
「ここから目的地までは?」
「歩く」
「歩くんだ!」
「タクシーとか使ってしまうと会えなくなるから」
「難しいね」
 
それで2人で歩いたが、30分ほどで、目的地に到達した。
 
「ここ?」
「そう」
 
それは何の変哲も無い、普通の民家だった。築20-30年だろうか。
 
「仙人さんの住む場所というから、雀のお宿みたいなの想像してた」
「そんなのが町中に建ってたら目立つかもね」
「確かに」
 

それで、きーちゃんがピンポンを鳴らすと、玄関の所に現れたのは、先日千里Yが助けてあげた、おじいさんだった。
 
「おお、村山さん、また会えたね」
とおじいさんは嬉しそうに言う。
 
「私を呼んだのは四島さんでしたか。先日はその後、大丈夫でしたか」
と千里は笑顔で言った。
 
それで2人は家の中に入った。
 
「こちらは私が契約している凄い子、村山千里です。遠駒恵雨さんがこの子に“駿馬”という名前を付けてくれました」
 
「ああ、恵雨ちゃんか。あの子とは女学校の同級生だった」
 
どうも全部女学校にしてしまうようだ。でも恵雨さんと同級では、明治天皇の時代に留萌に来たという話と矛盾するぞ、などと思いながら千里は微笑んでいた。
 
きーちゃんが、その女学校出身のおじいちゃんを紹介する。
 
「こちらは四島画太郎(しじま・がたろう)さん。一般には子牙(しが)と呼ばれている。日本の四大霊能者のひとりだよ」
 
「へー!そんな凄い人だったんですか!」
 
「でも気をつけてね。この人のしゃべる話は99%がジョークだから」
「ああ、だいたい見当が付きます」
と千里も笑顔で答えた。
 

1月31日(月)の朝、千里Rが目を覚ますと、小春の家である。
 
「あれ〜?私どうしたんだろう?きーちゃんと一緒に寝台列車に乗ってた気がしたのに」
と思っていたら
 
「千里、おはよう」
と声を掛けられる。
 
「コリン?」
「千里、どうしたの?ここで寝てたから私びっくりした。貴子さんの用事は終わったんだっけ?」
 
「私、貴子さんと一緒に寝台列車に乗って、青函トンネルに入った所までは覚えてるんだけど、ほんとに私どうしたんだろう?」
 
「うーん・・・千里はその手の話が多すぎて」
「確かに!」
「貴子さんに電話してみたら?」
「そうだね」
と言って、千里は、きーちゃんに電話を掛けてみたがつながらなかった。
 
「まいっか。必要があったら何か連絡があるだろうし」
ということで、千里は気にしないことにした。
 
「千里、今日は昨日の大会の結果報告があるから朝礼に出ないといけないよ」
とコリンが言う。
 
「そっかー、私頑張る」
と千里Rは、コリンに作ってもらった御飯を食べながら言った。
 

そいう訳で子牙に会ったのは、千里Vである。先日彼に遭遇したのは千里Yなので、千里Rが会っても話が通じない。それでGかVが代わりに行くことにした。
 
“行かない側”は多分数日間、司令室をひとりで見なければならない。とてもその自信が無いVは
「私が行ってくる」
と言って、睡眠中のRと入れ替わったのである。実際にはRをコリンの所に移動させてから、列車内にVが飛び込んだ。
 
しかし結果的にこの作業はVにしかできない作業だったのである。そしてVに残存していたとても小さなペニスはこの作業をするために、とうとう除去され、Vは完全な女の子になることになる。
 
 
前頁次頁目次

1  2  3  4  5  6 
【女子中学生・冬の旅】(3)