【女子中学生・ひと夏の体験】(2)

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司は夢を見ていた。
 
村山さんが出て来て
「司ちゃん、睾丸は取っちゃおうね」
と言って、自分のお股に手を伸ばし、タマタマを掴むと引き抜いてしまった。それで見ると、ちんちんもタマタマも無くなっている。
 
「嘘!?ちんちんも取っちゃったの?」
と戸惑っていると、貴子さんが出て来て
 
「可愛い女の子にしてあげるね」
と言う、すると、お股に割れ目ちゃんができちゃうし、おっぱいも大きくなっちゃった。
 
きゃー、ぼく男子制服で学校に行けないよぉと思ったら母が出て来て
「あんた女の子になったの?娘が欲しかったのよ。明日からはセーラー服で学校に行こうね」
と言われた。
 
それで司がセーラー服を着て学校に出て行くと、
「司ちゃん、可愛いよ」
と女子たちから言われて、ぼくこれでもいいのかなあと思った。
 
野球部でバッテリーを組んでいる前川君が出て来た
「福川君、可愛いね。君はぼくの女房役だけど、ぼくの本当の女房になってよ」
と言って、司の指にダイヤの指輪を着けてくれた。
 
え〜!?ぼくお嫁さんに行くの?
 
と思ったら、司はウェディングドレスを着て、タキシード姿の前川君と結婚式を挙げていた。みんなに祝福されて、ウェディングケーキに入刀して、キスして。そしてホテルのスイートルームで、前川君にお姫様抱っこされてベッドに運ばれる。
 
「好きだよ」
と言われて、キスされる。
 
そして前川君の大きなおちんちんを見る。
 
きゃーっと思ってたら、それを“入れられる”。
 
司は「何か気持ちいい気がする」と思って、ぼーっとして前川君が腰を動かしているのを感じていた。何か声出さないと悪いかなと思い
 
「あ、あ、・・・・」
などと声を出していたら、誰か年配の女性に手を握られる。
 
「もっとしっかり力(りき)んで」
 
えっと??
 
「赤ちゃん、もうすぐ出てくるよ。頑張ろう」
 
ぼく赤ちゃん産むの〜〜!?
 
それでやがて赤ちゃんの「おぎゃー、おぎゃー」という声が聞こえる。
 
ぼくママになっちゃった!!
 
「おめでとうございます。玉のように可愛い男の赤ちゃんですよ」
と助産師さんが言っている。
 
男の子か・・・・
 
と思っていたら、前川君が言った。
 
「この子、凄く可愛いから男にするのもったいないです。ちんちん取って女の子にしてもらえません?」
「いいですよ。じゃ女の子にしましょうね」
と産科医さんが言い、赤ちゃんのちんちんをハサミでチョキンと切っちゃった!
 
「出生証明書も女の子で発行しますね」
「ありがとうございます」
 
「良かったね。女の子になれたね」
と言って、司は赤いベビードレスを着た娘を抱き、前川君と一緒に病院を出て自宅に向かった。
 

そこで目が覚めた。
 
何て夢なんだ!!
 
司はおそるおそる自分のお股に触ってみた。
 
そして溜息をついた。
 

6月中旬、千里(千里R)は映子から言われた。
 
「今年も吹奏楽の大会のヘルプお願いできない?」
「大会はいつ?」
「8月1日・日曜日」
「今の所特に予定は無いかな。たぶん大丈夫だと思うけど、剣道の大会に向けた練習すっとやってるから、合同練習にはあまり顔出せないと思う」
 
「うん。それでもいいよ。譜面渡しておくね」
と言って、映子はスコアを渡す。
「これのフルート2をお願い」
「了解、了解」
 
「それと最近合唱同好会の方、あまり出てこないけど、忙しいのかな」
「合唱同好会?そんなの作ったんだ!」
 
「・・・千里は発起人のひとりなのだが」
「え?そうなの?」
「練習場所を借りてくれたのも千里じゃん」
「うっそー!?」
と言ってから、千里は尋ねた。
「練習はどこで何曜日にやってんの?」
「毎日昼休みにQ神社の御旅所でやってるけど」
「Q神社!?遠い所でやってるね」
「遠くない。学校の正門出て左手に見える鳥居が御旅所」
「え?そんな所にそんなものがあるんだ?」
 
あまりにも話が通じないので、映子はもういいやと思った。姉の京子からは
「千里ちゃん最近Q神社に全然来てくれないけど忙しいのか訊いてくれない?」
と言われていたものの、何か訊ける雰囲気ではないので、そのことは訊かなかった。取り敢えず吹奏楽部の応援だけ頼んだ。
 

7月4日、美輪子や千里たちは10時にPARCOで待ち合わせした。この日は千里が最初からワンピース姿で現れたので
「その格好が自然な気がする」
と言われた。
 
PARCOでみんな水着を買う。愛子が
「みんなビキニ買おうよ」
と提案したが、優芽子に却下された。
 
それで全員ワンピース水着ではあるものの、吉子・愛子は結構可愛いものを選び、千里にも本人の意志は無視して!かなり可愛い水着を選んだ。
「こんな可愛いの着るの〜?」
と千里(千里R)がビビっていた。今回、水着の代金は
「私のおごり」
と言って、優芽子が出してくれた。
 
それで滝子が借りたレンタカーのエスティマに全員で乗り、美輪子の運転で、札幌市郊外にあるシャトレーゼ・ガトーキングダム・サッポロに行った(*3).
 
「レンタカーを滝子さんが借りて水着は優芽子さんが出してくれたから入場料と食事代は私が出すよ」
と美輪子は言ったが、千里が
「私にも半分出させて」
と言って、結局千里が入場料を払い、中の食事代を美輪子が払うことにした。
 
(*3) ここは元々は個人美容室から出発してブライダル事業などで急成長したソフィアという会社が、ドイツのフランクフルト・アム・マインで1980年に開設された新興クアハウス『タウヌス・テルメ(Taunus Therme)』と提携して、1988年に『札幌テルメ』として開業した施設である。
 
しかしメインバンクの北海道拓殖銀行の経営破綻がきっかけになり、資金繰りが行き詰まって、1998年にソフィアも破産。この施設も閉鎖された。整理回収機構の管理下に入り、2001年にシャトレーゼが落札。2002年7月15日に『シャトレーゼ・ガトーキングダム・サッポロ』の名前で新装オープンした。この時代はそのリニューアル・オープンして約2年が経った時期である。
 
なお、フランスフルトの本家タウヌス・テルメは2022年現在でも営業しているが、こちらとはもう無関係になっている。
 

更衣室に入る。
 
全員がさりげなく?千里を見ているが、こういう視線には慣れっこなので、千里は平気で着てきた服を脱いで裸になり、水着を身につけた。千里のヌードを見て、全員が納得していた(こういう役回りは千里Rにしかできなかった)。
 
ここは室内ジャンボプール、室外ジャンボプール、キッズプール、25mプールなど多数のプールがあり、かなり遊びがいがある。
「プールなんて10年ぶり」
という紀子は、滝子・優芽子と一緒にジャンボプールの片隅で水浴び的なことをしていたが、美輪子は吉子を誘って25mプールで泳いでいた。
 
そして千里は愛子から
「千里〜、スライダー行くぞ」
と言われてスライダーに連行され、これをひたすら滑ることになる。
 
列に並んでいると
「双子さんですか?」
と訊かれる。
「ええ。そうなんです。バストサイズは少し違いますが」
などと愛子は言っている!
 
「妹さんもきっとその内、お姉さんくらい大きくなるよ」
などと千里は言われた!
 
でも愛子ちゃん、胸大きいよ、マジ。
 

スライダーは80mのと120mのがあり、最初は80mから滑るが、何度も悲鳴をあげながら滑り降りた。3回目に120mの方を滑ったが、途中で3回くらい死んだと思った。この日はスライダーを10回くらい滑り降りた。
 
「でも吉子さんと愛ちゃんって、かなり性格が違う気がする」
と千里は言う。
 
「そうそう。何でも真面目で優秀なきっちゃんと、全て不真面目で出来の悪い私」
などと愛子は言っている。
 
「きっちゃんは、うまいこと東京の大学行ったから、私も行きたいんだけどね〜。早稲田慶應に合格する自信が無い」
「そのクラスに通れないと、道内の大学でいいじゃんと言われそうだね」
「そうなのよ!私、フライトアテンダントになりたいから東京の大学出たいんだけどね〜」
「愛ちゃん、英語得意だったんだっけ?」
「いつも50点くらいしか取れない」
「それは厳しい!」
「そうだ!ちーって英語得意だよね?英語の試験だけでもいいから、ちー、代わりに受けてくんない?」
 
「それはさすがにまずいよぉ」
 

お昼をはさんで14時頃までたっぷりプールで遊んだ。そのあと誘い合って温泉のほうに行く。
 
温泉は3階にあるが、男湯と女湯の間にかなりの距離がある。千里が平気な顔でみんなと一緒に女湯のほうに来るので滝子や優芽子は少し心配顔だが、愛子や美輪子は全く心配していない。それで脱衣場で普通に服を脱いだ千里を見て、優芽子が
「何か心配して損した」
と言っている。
 
「プールの着替えでもみんなの前で裸になってたじゃん」
と愛子は言う。
 
「まあそうだったけどね」
 
「少なくとも男湯に入るのは無理だな」
と吉子も言った。
 

身体を洗ってから普通っぽい浴槽に入る。
 
「千里ちゃんっていつから女の子なんだっけ?」
と滝子が訊いた。
「さあ。男の子だった記憶が無いので分かりません」
と本人は言う。
「私の見立てでは、生まれる前に性転換手術を受けたとみた」
と愛子は言う。
 
「お腹の中で!?」
 
「だって私、千里ちゃんがまだ幼稚園に入る前の頃に会った時、一緒にお風呂入ったもん。その時、千里ちゃんは間違いなく女の子だったから『何だ。男の子というのは間違いか』と思った記憶あるし」
などと愛子は言っている。
 
「そういえば温泉に入ったね」
と優芽子も思い出したように言う。
 
「あの時、ツキちゃんが急に呼び出されて、玲羅ちゃんはまだ小さいからツキちゃんが連れて帰ったけど、千里ちゃんは私が預かって、吉子・愛子と一緒にお風呂に入れた。小さいからいいだろうと思って一緒に女湯に入ったけど、千里ちゃんのお股までは見てない」
と優芽子。
 
「私は記憶曖昧だけど、千里ちゃんにちんちん付いてたら男の子のちんちんなんてめったに見られないからじっくり観察してた気がする。そういう記憶が無いから、千里ちゃんには、ちんちん無かったのかも」
と吉子。
 
「小さい頃、一緒にお風呂入ったお友達はたくさんいるけど、私を男の子だと思ってた子はたぶん居ないです」
と千里本人も言っているので
 
「うーん・・・・」
と悩みはしたものの、いいことにした!
 

その後は紀子を中心にふつうの話題で盛り上がった。
 
「まあ次に集まるのは、私か大治の葬式の時だと思うけど、葬式はいちばん安いのでいいからね。通夜を省略した直葬で。私もあの人も信心とか全然無いから坊さんも呼ばなくていいし、戒名も要らないから。これ清彦にも言ってるけどね」
と紀子は言っていた。
 
「最近無宗教のお葬式って増えてるよね」
「だってお坊さん呼んだら何十万だもん」
「お墓も作らずに納骨堂で」
「お墓作ると何百万だからなあ」
「貧乏人は、うかつに死ねない」
 
「そもそも日本人って無宗教な気がするよ」
「12月25日にクリスマスをして、12月31日にお寺の除夜の鐘を聞いて、1月1日は神社に初詣で、というのは外人さんには理解できない風習」
「元々何も信心してないから、できるんだろうね〜」
 
そういや、私も無信心だなあ。小学生の時は神社の巫女さんとかしてたけど、と“この千里”(千里R)は思っていた。
 
そもそも千里にとって神様というのは“信じる”ものではく、日々“認識して”“対話する”ものであったりする。千里YVRGはP大神と、千里BVはQ大神と、千里GVはA大神と、日常的に会話しているが、普通の人にはそういうことはできない!だいたいA大神なんて、下っ端の神様だと簡単にはお目通りできない超大物の神様なのに。
 

お風呂からあがった後は、お土産を買って、大治の家に戻った。そして紀子には休んでもらっていて、他の女6人で居間と台所を1時間ほど掛けて片付けた。滝子さんが感謝していたが、あれは1人で片付けるのはあまりに大変すぎる状態であった。
 
その後、優芽子は政人を回収して愛子と一緒に函館に戻る。吉子は新千歳に向かって東京に戻る。美輪子は
「途中まで送って行くよ」
と言って千里を自分の車(赤いウィングロード)に乗せ、深川駅でポストしてくれたので、その後はJRで帰った。
 
でも疲れたので途中で消えた!
 

「Rも結構疲れたから消えるっての多くない?」
とモニターしていたVは言った。
 
「Bの次に消えるのはRかもね〜」
とGも適当に答えていた。
 
「RBY全員消えたりして」
「あり得るあり得る」
 
「そしたらどうなるの?」
「どこかに隠れている本体が出てくると思うよ」
「そっかー。どこに居るんだろ?」
「A大神様が隠しているというのに1カペイカ」
「それ安すぎる」
 
カペイカはルーブルの100分の1だが、近年ルーブルの価値が低くなりすぎて今やカペイカは実用性を失い、ロシア本国でも全く使用されていない。2004年当時の相場では1ルーブル=3.75円なので、1カペイカは0.0375円ということになる。
 

2004年7月1日(木・とず).
 
ユングツェダーはほとんどの社員をこの日付けで解雇し、ペーパーカンパニー化された。
 
2月末のワンティスの会合で、ワンティスが少なくとも来年の春までは活動しないことを決めたのを受けて、左座浪源太郎(代表取締役・副社長に任命された)は村飼村飼藤四郎社長と話し合いの上で、事務所の実質閉鎖を決めた。
 
3月から5月に掛けて、その時点で在籍していた全てのアーティストを、∞∞プロに引き受けてもらうことにし、向こうの準備が整い次第、順次移籍させた。移籍金は“まとめて1円”とした。各々のマネージャーも∞∞プロに移籍している。それ以外にも、この業界に残りたいと言ったスタッフを∞∞プロあるいはそのグループプロダクションに移籍させた。
 
そして残りのスタッフに関しては、印税処理のために若い経理担当の女性・鮫島知加子(19)だけを残して、7月1日付けで、全員に割増し退職金を払って解雇したのである。登記上の事務所も、鮫島さんの家に間借することにし(彼女に給料+家賃を払う)、今までの事務所は(6/30付で)賃貸契約を解約した。解雇を7/1付けにしたのは7月分の給料にボーナスまで払ってあげるためであり、実質的には6/30に閉鎖されている。
 
もし来年の春に、ワンティスが活動再開することになった場合は、また事務所を借りて数人雇う必要があるかもしれない。しかし、現時点でのワンティスの実質メンバー9人(上島・雨宮・三宅・下川・水上・海原・山根・本坂・支香)の動きを見ていると、少なくともこの9人が揃ってのワンティスとしての活動再開は無いだろうと左座浪は思った。特に上島・下川と海原・山根の間の、音楽の方向性に対する考え方の違いは埋めようもない。
 
高岡は自分は無能なリーダーでバンドの中でも軽んじられていると思っていたようだが、彼のカリスマは捨てがたいものがあり、彼の存在でバンドはまとまっていた。上島にはそこまでのカリスマはない。あ、そうだ。雨宮もいるけどね。
 
そういう訳で、ユングツェダーは実質ペーパーカンパニー化されたのである。
 
上島・雨宮と左座浪の話し合いで、ワンティスの印税の30%を事務所がもらうことにした。
 
左座浪は事務所取り分の中から、村飼社長の治療費(名目上は役員報酬)、鮫島さんの給料、そして左座浪自身の給料を払うことにした。
 
ただ左座浪は自分の給料はできるだけ抑えて内部留保し、自身の生活費はプロレスの指導でできるだけ稼ぐことにした。プロレス時代の友人から誘われて、実は3月頃から彼の道場で若いレスラーたちの指導をしていたのだが、そちらに軸足を移すことにした。鮫島や上島から何か連絡があれば、その都度対処していく。
 

7月5日(月).
 
沙苗は3度目の生理が来た。数日前からお腹が痛かったので生理だろうなと思い、ちゃんとナプキンを着け、母に買ってもらった生理用ショーツも着けていたので安心だった。
 
「ああ、来たんだな」
と思って処理した。3度目になるとだいぶ気持ちも安定してきたが、自分はこれを50歳頃までこれから35年間くらい毎月処理しないといけないんだなと思うと、女ってわりと面倒な生き物だという気もした。
 
「でも夏季教室とぶつからなくて良かったぁ」
 

7月6日(火).
 
セナも3度目の生理が来た。沙苗同様、そろそろ来るだろうというので、夜用のナプキンを着け、生理用ショーツも穿いていたので、問題無く処理した。
 
ちなみにセナは夏季教室の後、(土曜日は疲れていたので休んで)日曜日にP神社に出て行った時、千里から
「セナちゃん、そろそろ生理でしょ?生理の邪魔にならないよう特別なタックをしてあげるよ」
と言われて、また例の“割れ目ちゃんが開ける”タックをしてもらった。
 
これをしてもらっている間は、おしっこの出方が変わるので、面白いなあと思っていた。確かにちんちんが普通の位置にあると、ナプキン着けるのに邪魔になるもんね〜。
 
生理が終わった頃、来週の月曜くらいにこのタックは解除してもらう予定である。
 

2004年7月10日(土).
 
中体連剣道留萌大会が今回は苫前町スポーツセンターおよび隣接する苫前町社会体育館で行われる。
 
苫前町(とままえちょう)は、留萌の北方、小平町(おびらちょう)と羽幌町(はぼろちょう)の間にある。留萌支庁の町村は北から南へ並べると、このようになる。
 
豊富町(宗谷支庁)
────────
幌延町(天塩郡)
天塩町
遠別町
初山別村(苫前郡)
羽幌町
苫前町
小平町(留萌郡)
留萌市
増毛町(増毛郡)
────────
石狩市(石狩支庁)
 
上記で実は豊富町までが天塩郡である。天塩郡は支庁境界に跨がっている。なお幌延町は2010年に支庁が振興局に再編された際、留萌支庁から宗谷振興局に移籍された(幌延は留萌より稚内とのつながりが強いため)。従って2010年以降は、留萌振興局は天塩町から始まる。しかしこの物語の時点では留萌支庁だった。
 
日本海に浮かぶ、天売島(てうりとう)・焼尻島(やぎしりとう)は羽幌町に属する。天売島にはオロロン鳥というペンギンに似た鳥がおり「オロロン、オロロン」と鳴く。この鳥は現在では天売島でしか見られないが、昔は北海道の日本海沿岸に広く住んでいた。この鳥の名前から採って、稚内市から留萌市を通り石狩市までを結ぶ日本海沿岸ルート (r106,R232,R231) を「日本海オロロン・ライン」という。留萌支庁はこの日本海オロロンラインに沿って分布している。そして営業しているバス会社は“沿岸バス”である。
 
苫前町は日本海沿岸にR232が通っており、町の南部(古丹別地区)から東方へ走る国道R239もある。R239は北海道を横断して網走市に至る。今日の会場のスポーツセンターはこのR239(霧立国道)沿いにある。R232,R239の交点は古丹別川南岸に近い香川地区の交差点である。ここから留萌市までは実はR232,R239の重複区間となる。
 
苫前町を語る時に忘れられないのは大正4年(1915年)に起きた三毛別羆事件(さんけべつ・ひぐまじけん)である。ヒグマが民家を襲撃し、7名が死亡、3名が負傷するという大惨事が起きている。警官隊に加えて陸軍部隊まで出動する騒ぎの中、最後はベテランのマタギがそのヒグマを仕留めた。現在その事件のあった場所には「三毛別羆事件復元地」が設置されている。今回の会場となるスポーツセンターは三毛別川が古丹別川に合流するポイントの近くにあるが、事件のあった場所はここから三毛別川沿い(旧・三毛別森林鉄道沿い)に道道1049号を約19km(車で多分40分−山道なのでもっとかかるかも)ほど遡上した場所である。
 
(道道1049号は“定義上”は小平町まで行くが、羆事件復元地の少し先から小平町寧楽までは未通区間で道路が存在しないので念のため。また冬季は一部区間が閉鎖される)
 
苫前町は最近では「風車の町」をアピールしている。苫前ウィンビラ発電所(風車8基3万KW 2000.12完成)、ユーラス苫前ウィンドファーム(風車5基2万KW 1999.11完成)という2つの大規模発電所(両者はすぐ近くにある)を持つ。両者合わせて2-3万世帯分の電力が供給できる。留萌から今日の会場のスポーツセンターに向かう途中、海沿いの国道からも多数の風車が並ぶ様子を見ることができる。
 
新エネルギーブームの中で風力発電所を作った所は多いが、苫前町のように成功した所はとても少ない。町では更に新たな風力発電所の建設も計画している。
 

さて、このスポーツセンターには留萌市街地から約40km 車で1時間ほど掛かる。剣道部員は今回も保護者の車に分乗して会場に向かうことになった。
 
女子剣道部部員は、このように分乗した。
 
鶴野先生の車:真南・聖乃・如月(若手ホープ組)
紅音の母の車:紅音・香恵(3年組)
玖美子の母の車:沙苗・玖美子・千里(精鋭組)
セナの母の車:セナ・好花・真由奈(おしゃべり組)
 
今回は仲良し組でまとまった!
 
鶴野先生が参加したのは。“女子監督不在問題”を剣道連盟の方から言われたからである。これまでS中では顧問の岩永先生が男女チームの監督を兼任していたが、岩永先生はいつも男子のほうに付いているので、女子の方は実質監督不在だった。その場合に、何かで協議が必要になった場合困ると言われたのである(これまでは主将が代理で協議していた)。
 
監督はその学校の教諭または校長でなければならない(外部指導者は監督補佐扱い)ので、どなたかお願いできないかと探した所、鶴野先生が引き受けてくれた。鶴野先生自身は剣道をしないのだが、お父さんが剣道をしていたので、小さい頃は道場に通わされていたこともあり、少しは剣道が分かるということだった。
 
「小学2年でやめちゃったから遠い記憶」
「へー」
「母からピアノか剣道かどちらかだけにしてと言われてピアノに飛び付いた。剣道あまり好きじゃなかったから」
「合う合わないがありますよねー」
 
「だから面と小手と胴の違いが分かる程度だけど」
「私たちもそんなもんです」
「あと中学生で突きは禁止だとか」
「よくご存じじゃないですか」
「取っ組み合いは禁止とか」
「剣道で取っ組み合いってあるんですか!?」
 
昔の剣道では竹刀を放り出し、相手につかみかかって、面を剥がしたら勝ち、などという凄いルールがあったが、剣技じゃないじゃんということで昭和2年(←要検証)に禁止された。現在では相手の竹刀を抱え込んだり、自分の竹刀を(故意でなくても)落とすことは反則である。
 
土方歳三などは勝つためには相手を足払いしたり、土を顔に投げつけて目潰ししたりしていたらしい。古来戦場では「何としても生き残る」術が発達していたと思われるが、単に勝てばいいというのであれば、日本刀より槍の方が優秀だし、いっそマシンガンを撃てばいいという話にもなりかねない。
 

千里たちはだいたい7時過ぎに各々適当な場所に集まって、車に相乗りし苫前町に向かった。この日は雨だったので、気温はあまり上がらず涼しいかもとは思われたが、湿度で床が滑りやすくなってるかも知れないね、などという話をしていた。千里は万一の時のために道着・袴の替えを3セット持って出た。(通常は午前と午後で1着ずつ、2セット持って行く)
 
さて、この日も午前中が団体戦で午後から個人戦ということになっていた。団体戦は男子16校、女子10校であった。
 
※剣道団体戦の出場校数推移
2003春 男12 女8
2003夏 男17 女10
2003新 男10 女6
2004春 男12 女7
2004夏 男16 女10
 
今回夏大会のスケジュール予定はこのように発表されていた。
 
8:45 開会式
9:00 男子1回戦(ABCD) 女子1回戦(EF)
9:20 男子1回戦(ABCD)
9:40 女子2回戦(ABCD)
10:00 男子2回戦(ABCD)
10:20 女子準決勝(AB)
10:40 男子準決勝(AB)
11:00 女子決勝)A) 三決(B)
11:20 男子決勝)A) 三決(B)
 
ABCD:スポーツセンター、EF:社会体育館
 
女子の組み合わせはこのようになっている。
E中┓
H中┻┓
 K中┻┓
 C中┓┣┓
 S中┻┛┃
 R中┓ ┣
 P中┻┓┃
 M中┓┣┛
D中┳┻┛
T中┛

春の大会でBEST4に入った、S中・R中・K中・M中は1回戦不戦勝である。ほかは抽選により、上記のような組み合わせが決まっている。しかし1回戦から戦うのと、1回戦は不戦勝だが2回戦でいきなりR中・S中とぶつかるのと、どちらがマシかというのは、かなり微妙である。
 

さて、S中は2回戦でC中と当たったが、先鋒・次鋒・中堅の3人だけで決着が付いて、玖美子も千里も出る幕が無かった。準決勝のK中戦では、次鋒戦は敗れたものの、先鋒戦・中堅戦・副将戦を勝ち、千里は座り大将であった。
 
ということで、あっという間にR中との決勝戦になる。
 
S中とR中での決勝戦は、昨年の春夏・新人戦、今年の春に続いて5回連続である。千里と玖美子がいる間はこれが続くかもねと千里は思った。
 
さて今回の両者のオーダーはこのようになっていた。
 
R中:風間・麻宮・田・前田・木里
S中:武智・月野・羽内・沢田・村山
 
このオーダーが決まるに至った経緯なのだが、S中は春の大会で微妙なオーダーを組み、作戦勝ちという感じでR中に勝った。でも今回は
「小細工無しで真っ向勝負しようよ」
ということになったのである。
「まあお互いに相手のオーダーの読み合いやってたらキリが無いよね」
「読み合いしてる内にぐるぐる回って最初のオーダーに戻ったりして」
 
一方のR中ではこのような経緯であった。
 
「どうして原田さんを団体戦に使わなかったんだろうね」
「あの人、うちの前田と充分対抗できる実力なのに」
「沢田さんといいライバルみたいですよ」
 
「でも多分今回も原田さんは使いませんよ」
ということで、R中はS中のオーダーをまずはこのように予想したのである。
 
武智・月野・羽内・沢田・村山
 
(実際にS中が提出したオーダーである!大当たり)
 
するとこれに勝つには、相性の問題でこういうオーダーが良い。
 
麻宮・田・大島・前田・木里
 
田は月野(清乃)には強いが羽内(如月)には弱い。
大島は羽内には強いが、月野には弱い。
 
しかし!R中は考えた。きっとS中はこのようなオーダーを読んで、こういうオーダーに変えるのではないかと。
 
武智・羽内・月野・沢田・村山
 
つまり月野と羽内を交換する。そこでR中は“別の選択肢”を取ることにしたのである。
 
風間・麻宮・田・前田・木里
 
テクニック勝負の大島を外して、代わりに正統派の3年生・風間を入れるのである。こうすると、田・大島で2敗になるのだけは避けられると読んだ。
 
しかし散々悩んで決めたオーダーで出てみたらS中は単純実力順で来ていたので「しまったぁ」と思ったのであった。
 

試合が始まる。
 
↓オーダー再掲
R中:風間・麻宮・田・前田・木里
S中:武智・月野・羽内・沢田・村山
 
先鋒戦、風間と武智はかなりいい勝負だった。しかし2分ほど経った所で風間が1本取り、更に終了間際更に1本取って、風間の2本勝ちとなった。次鋒戦、麻宮と月野(清乃)は麻宮が鮮やかに2本取って勝った。R中の2勝でS中は後が無くなる。しかし羽内(如月)が田に2本勝ちして1矢報いる。そして勝負の行方は副将戦・大将戦にもちこされた。
 
前田さんと玖美子の副将戦が始まる。お互い最高のライバルと認め合う2人だけに激しい攻防となる。本割で1本ずつ取り、延長戦に入る。しかし2分間の延長戦でも決着は付かず判定となるが、判定は引き分けであった。
 

ここまでの勝負
 
  白S中 赤R中
先鋒 ×0−2○
次鋒 ×0−2○
中堅 ○2−0×
副将 △1−1△
大将
 
ここまでS中は1勝2敗1分である。ただ、取った本数が、S中3本に対してR中5本なので、次の大将戦は千里が木里さんに2−0で勝たない限り、R中の優勝となる(千里が2−0で勝ったら代表戦による決定)。このことにR中の安藤監督と麻宮部長、S中の玖美子と如月は気付いていたが、どちらも何も言わずに各々の大将を送り出す。
 

それで優勝をかけて千里と木里さんの勝負が始まる。
 
どちらも気配の無い所から瞬間的に攻撃を繰り出す。見ているほうは一瞬たりとも目が離せないハイレベルの戦いである。1分ほどしたところで千里の面が決まる。しかし2分ほどしたところで木里さんの小手が決まった。玖美子と如月は「あぁ」と思ったが顔には出さない。試合は続く。そして終了苦際、千里の小手が決まり、勝負は千里の勝ちとなった。
 
千里は自分は勝ったから2勝2敗1分で、代表戦かなと思った。
 
ても玖美子は首を振っていた。
 
審判からR中の勝利が告げられる。千里は「え〜〜!?」と思ったが玖美子から「退場してから説明してあげるから」と言われた。一方木里さんも「なんで〜!?」と思わず言って、前田さんから「退場してから説明してあげるから」と言われていた。
 
「じゃ私が2−0で勝たないといけなかったんだ?」
と千里はスコアを見せられて言う。
「でも私が前田さんに勝てなかったのが全てだよ」
と玖美子は言うが
「その前に私が負けたし」
と武智さんと清乃が言った。
 
そういう訳で、この夏の大会ではR中が優勝し、北海道大会に2年連続の出場を決めたのであった。
 
一方S中男子は先鋒を務めた1年生の吉原君が物凄く頑張り、4位に入る健闘を見せた。男子も昨年春4位、夏3位、今年の春3位、夏4位と、ほどほどのポジションに食い込んでいる。
 

お弁当を食べて休憩する。休憩場所はS中の男子と女子は隣り合っているが、男子は11:40頃までなのに対して女子は11:20にはあがってしまうので先に御飯を食べていた。そこに3位決定戦に敗れた男子が戻ってくる。
 
「お疲れ〜」
「惜しかったね」
と女子たちも声を掛ける。
 
「まあ団体は1位にならないと道大会行けないしなあ」
「女子こそ本当に惜しかったね」
「また来年に向けて今の1年生を鍛えるよ」
「きゃー」
 
そんなことを言いながら、数人はお弁当を食べる前にトイレに行くようだった。ところがその数分後。
 
「工藤君、どうしたの?」
と武智部長が声をあげる。
 
「この馬鹿、トイレの前で滑ってしまって」
と一緒にトイレに行っていた佐藤君が言う。
 
「雨が降ってるのもあって、タイルの床が凄く濡れてて」
と工藤君は言っている。
 
「工藤君、替えの道着・袴と着替えてきなさい」
と岩永先生が言うのだが
「すみません。替えとか持って来てないです」
と工藤君。
 
「え〜〜〜!?」
 
「そうか。春の大会の時も、1枚しか無い道着・袴を洗濯されちゃったからお姉さんのを借りて来たんだった」
「春から進化してないな」
 
千里は言った。
「工藤君、私の替えの道着・袴でよければ貸そうか」
「村山さんは?」
「私は今日は雨で何かあったらいけないと思って念のため3セット持ってきていた。しかも午前中は私、準決勝まで座り大将だったから、ほとんど汗を掻いてなくて、だから午前中の試合の後も着替えてないんだよ。だから替えがまだ2セットあるんだ」
 
「・・・借りようかな」
「それがいい。どっちみちそんな汚れた道着・袴では試合に出るの拒否される」
と岩永先生も言った。
 
それで工藤君は千里の替えの道着・袴を借りると、更衣室(もちろん男子更衣室)に行き、着換えて来た。
 
但し、白の道着を着けたあと、更衣室を出ようとした所で入ってきた他校の生徒に「君、何やってんだ?ここは男子の更衣室だぞ」と叱られ、思わず「済みません」と謝ったらしい!!
 

そういう騒動があった上で、午後の個人戦が始まる。
 
今回、女子の個人戦は96人の参加である(男子は162人)。札幌などは学校が多いので、個人戦は1校あたり何人までという制限があるらしいが、留萌支庁ではそもそも学校の数が少ないので、この時期は特に制限はなく、S中は全員参加だった。
 
女子個人戦スケジュール予定
12:20 1r (ABCD)
12:52 2r (EF)
13:56 3r (EF)
14:28 4t (EF)
14:44 休憩
14:49 QF (EF)
15:01 休憩
15:11 SF (EF)
15:17 休憩
15:27 3rd (E)
15:33 Final (E)
15:50 女子表彰式・閉会式
 
女子個人戦は、男子の団体戦が終わった後、それに続いて女子の個人戦1回戦32試合が行われ、2回戦以降は隣の社会体育館に移って行われる。千里や玖美子は2回戦からである。今回沙苗や如月も2回戦からであった。
 
セナは今回も1回戦で負けた。真由奈も1回戦負けである。好花は1回戦は勝ったが2回戦で負けた。宮沢さんは2回戦負け、武智部長と聖乃・真南は3回戦負け(Best32)であった。真南は春の大会では2回戦負けだったから1つグレードアップした。ベスト16には下記が進出した。
 
村山(S中初段2年)
沢田(S中1級2年)
原田(S中初段2年)
羽内(S中1級1年)
前田(R中1級2年)
木里(R中初段2年)
麻宮(R中1級3年)
田(R中1級1年)
吉田(M中1級2年)
木下(M中2級2年)
井上(C中1級2年)
広島(K中1級2年)
富永(K中2級1年)
桜井(F中2級2年)
佐藤(H中2級1年)
松本(D中2級2年)
 
3年生でここに残ったのはR中の麻宮さんだけである!
 
組み合わせはこのようになっている。
 
村山┓
木下┻┓
田_┓┣┓
佐藤┻┛┃
羽内┓ ┣┓
井上┻┓┃┃
前田┓┣┛┃
富永┻┛ ┃
沢田┓  ┣
広島┻┓ ┃
麻宮┓┣┓┃
桜井┻┛┃┃
原田┓ ┣┛
吉田┻┓┃
木里┓┣┛
松本┻┛
 
4回戦、千里は木下さんに鮮やかに二本勝ちする。前回沙苗といい勝負をした人である。前回沙苗に3回戦で負けた佐藤さんは今回ベスト16に残っていたが、田さんと接戦の末勝利。ベスト8に進出する快挙である。如月は実力者井上さんに辛勝し、春に続いてベスト8に残った。前田さんは鮮やかに富永さんに勝った。
 
玖美子は広島さんに、木里さんは松本さんに鮮やかに勝つ。麻宮さんと桜井さんは本割で決着が付かず、判定で桜井さんの勝ちとなった。沙苗は吉田さんと際どい勝負だったが、終了間際吉田さんが1本取り勝った。
 
そういうわけでベスト8に残ったのは下記である。
 
村山(S2)佐藤(H1)羽内(S1)前田(R2)沢田(S2)桜井(F2)吉田(M2)木里(R2)
 
3年生が全員消えた。1年生は春の大会では如月だけだったが、今回は佐藤さんも残った。夏はベスト8まで来るかもという千里の予想が当たった。S中3人R中2人が残っている。春はS中とR中でベスト8の内7人を独占したが組み合わせの運もあると思う。
 

5分間の休憩を置いて行われた準々決勝では、千里は佐藤さんを圧倒して勝ち、木里さんは吉田さんを圧倒して勝つ。前田さんは如月に1本勝ちだったが、玖美子は桜井さんに1本ずつ取ってから終了間際に玖美子が1本取って勝ちベスト4進出を決めた。ベスト4に残ったのは結局シードされていた4人(=春のベスト4)である。
 
この4人が北海道大会に進出する。
 
村山(S2)前田(R2)沢田(S2)木里(R2)
 
ベスト4推移
2003春 1.田沼 2.曽根 3.村山・木里
2003夏 1.田沼 2.村山 3.木里 4.沢田
2003新 1.村山 2.木里 3.沢田 4.麻宮
2004春 1.村山 2.木里 3.沢田・前田
2004夏 村山・木里・沢田・前田
 

10分間の休憩を置いて準決勝が始まる。
 
がこれはどちらもあっさり勝負が付く。千里は前田さんに勝ち、木里さんは玖美子に勝つ。ここは実力差があるので、どうにもならない。
 
どちらも短時間で勝負が付いたので休憩は5分間とすることにした。
 
3位決定戦は玖美子と前田さんの激しい闘いになったが、どちらも譲らず延長戦になる。そして延長戦の2分も終了間際、玖美子の際どい小手が決まって、玖美子が3位を獲得した。
 
続いて決勝戦が行われる。
 

両者礼をして開始線の所まで歩み寄る。竹刀を構えたまま蹲踞の姿勢から立ち上がり、中段の構えになる。審判の「始め」の声で、両者いきなり打ち込みに行くが、決まらない。両者軽快なフットワークで細かく動きながら打ち込む間合いを探る。この両者が軽快なフットワークで動き回り、瞬間的に打ち込んでいくのが見られるのが、この留萌支庁の女子の試合では、千里と木里さんの試合のみで、ふたりのレベルが物凄く高いことを示している。どちらも常に動き回っているから、攻撃のタイミングが読みにくいのである。
 
目の離せない攻防が続く。
 
1分半ほどの所で、木里さんの小手が決まる。しかし終了間際に千里も小手を取って、試合は延長戦にもつれ込む。
 
延長戦に入っても、緊迫した攻防が続く。どちらも瞬間的に打ち込みに行くが、なかなか決まらない。このまま判定かと思われた延長戦終了間際、木里さんの面打ちが来る。が、それをかわして返し胴をねらう。が、それをかわして向こうは小手を狙ってくる。が、それを交わして千里は面を打つ。物凄い高速の打ち合いで、竹刀の動きを目で捉えるのが困難なほどの高速攻防のやりとりである。
 
ひたすら激しい攻防が続く中でブザー。
 
両者分かれて開始線に戻る。両者中段の構えのまま判定を聞く。
 
主審の「判定」の声に3人の審判が旗を揚げる。
 
赤1白2!
 
旗が割れた!!
 
が2−1で白の木里さんの勝ちである。主審は赤(千里)を挙げたのだが、副審はふたりとも白(木里さん)を挙げた。物凄く微妙な勝負だったようである。
 
(剣道では1本の判定でも勝敗の判定でも、主審・副審の判定に重みは無く、等しく1票である)
 
両者礼をして下がった。
 
それでこの夏の個人戦では優勝は木里さんとなった。
 
1.木里 2.村山 3.沢田 4.前田
 

男子の個人戦では、竹田君と工藤君が春に続いてBEST8に進出する健闘を見せた。(吉原君もBEST16)。準々決勝で竹田君の相手は春に優勝しているR中の来宮さんで、あっさり2本取られて負けた。工藤君の相手はK中の吉永さんだった。激しい攻防で1本ずつ取り合い、終了間際に工藤君が巧みに小手を取って2本勝ちした。工藤君はBEST4になるとともに、北海道大会への進出を決めた。
 
工藤君は準決勝ではK中の門田さんに敗れ、3位決定戦でM中の緑川さんに敗れ4位ではあったものの、ともかくもBEST4は昨年春の沙苗(3位)以来である。
 
1.来宮(R) 2.門田(K) 3.緑川(M) 4.工藤(S)
 
今大会、R中は男女の団体戦・個人戦の完全制覇である。
 
しかし工藤君は春はBEST8だったが、春に続き白い道着で今回はBEST4.
 
“白き稲妻”健在!!であった。
 
「でも工藤君凄かったじゃん」
「3位決定戦にも負けちゃったけどね」
「やはり白い道着が効くんだよ。今後はずっと白い道着にしなよ」
「それは叱られるよぉ」
「ぼく女の子になりたいから白い道着を着けてるんですと言えばいいんだよ」
「別に女にはなりたくない!」
 
今回も運営の人から尋ねられたものの、道着を汚してしまい、替えを持っていなかったので、女子のチームメイトから借りたと岩永先生が説明したら納得してくれていた。
 

剣道大会の翌日7月11日(日)には、剣道の級位・段位検定が行われた。
 
玖美子、R中の前田さん、M中の吉田さん・麻宮さん、F中の桜井さんなどが初段に認定された。これで留萌地区の女子中学生の初段もかなり増えた。武智部長はやっと1級に合格した。清乃も1級を取った。
 
男子では、竹田君が初段獲得、工藤君と1年生の吉原君が1級を獲得した。でも古河部長はまた1級に落ちた。
 
千里や沙苗、木里さんは来年1月の審査で二段を目指すことになる。
 

7月11日(日).
 
細川保志絵は困ったような顔をして、神社内の倉庫部屋で漫画を読んでいた貴司に声を掛けた。
 
「あんたさ、最近千里ちゃんとはどうなってんだっけ?」
「どうって特に変わってないけど」
「別れたの?」
「お互い忙しいからあまりデートできてないけど、こないだの誕生日にはクッキーくれたよ」
「じゃ続いてんだ?」
「そのつもりだけど」
 
「千里ちゃん、ゴールデンウィークの後、全然神社に来てくれなくてさ」
「あ、そういえばここでは顔見てないかな」
「来週のお祭りに出てくれるかどうか聞いてみてくれない?千里ちゃんが出てくれるのと出てくれないのとでは、体制がかなり変わるから」
「分かった。どうせ毎日顔は合わせるから明日聞いてみるよ」
「顔は合わせてるんだ!?」
「同じ体育館で練習してるし」
「へー!」
 
ここで保志絵は“同じバスケット部だから”同じ体育館で練習していると思っているが、貴司としては自分はバスケ部、千里は剣道部で同じ体育館で練習しているという認識である!
 

翌日、7月12日(月).
 
その日貴司は放課後体育館で千里に意向を尋ねるつもりだったのだが、昼休みに体育館に向かう廊下でバッタリと千里と遭遇した。それで貴司は千里に訊いた。
 
「ねぇ、千里、母ちゃんから頼まれたんだけど、来週のQ神社のお祭りに出てくれるかどうか、訊いてくれないかと言われて」
「ああ、ごめんねー。最近何かと忙しくてなかなか行けなくて。でもお祭りには出るよ。今日の放課後にも、Q神社に行って、お母さんや巫女長さんと少し話してくるよ」
「すまん。じゃ頼んだ」
「OKOK」
 

それで“千里”は、その日の放課後、授業が終わってすぐの時間にQ神社を訪れた。
 
「あら、千里ちゃん」
「細川さん、長く休んでて済みませんでした。来週のお祭りには出ますし、その後、夏休みには他の日程とどうしても都合がつかない場合以外は、こちらに出させて頂きたいと思っているのですが」
 
「歓迎歓迎」
「一応、お祭りの次第を確認させてもらっていいですか」
「うん」
 
それで香取巫女長、一応メインの笛担当の京子(映子の姉)と一緒にお祭りの次第を確認する。
 
「ここで吹く曲覚えてる?」
と巫女長が訊くので、千里は“織姫”を取り出し、吹いてみせる。
 
「美事だね」
と近くに居た平井宮司も言った。
 

ここで、貴司と“遭遇”して神社に行くと約束し、夕方実際にQ神社に行って織姫を吹いてみせたのは、実は千里Bを装った千里Vである。
 
「私が代役するの〜?」
とVが言うと、Gは
「だってBとVは音が似てるし」
などと言っている。
 
「それにYちゃんがたくさんP神社で神楽の笛を吹いてるから、神社の祭礼の笛については、私よりVちゃんの方がうまく吹けるはず」
とGは言った。
 
「うーん。それはあるかもしれないなあ」
とVも認めたので、Bの振りをして代役することにした。A大神は、Bが持っていた龍笛、Tes.No 224, 200の2本を(冬眠場所から?)回収し、Vに渡してくれた。
 
ただここでVはY同様に胸が小さい!という問題がある。
 
そこでブレストフォームを貼り付けられてしまった。
 
それでW/Bから取り外したおっぱいはVに付けられてしまったのである。
 
「これ重ーい」
「腕立て伏せがんばろう」
「筋力より皮膚の問題という気がする」
 
「ちんちんがあるのバレないようにね」
「それはわざわざあそこを見たりしない限りはバレないと思うけどなあ」
「中学生では普通そこまでしない」
「・・・貴司君とセックスしたりすることにはならないよね?神社にいる時に押し倒されたりして。私まだセックスするの恐い」
「大丈夫だと思うよ。貴司君って根性無しだから」
「確かに」
 
Vの小さなヴァギナには貴司君のちんちんは入らないだろうなとGは思った。
 
「万一の時はRをそこに転送するよ。Rなら喜んで貴司君とセックスすると思う」
「あの子、そういう面には結構大胆だもんね」
 

一方“千里B”がQ神社に現れたことに、小春とカノ子はびっくりした。(学校で貴司に会ったのには気付かなかった)
 
「こないだ札幌行きでも姿を現したし、Bが復活するのかなあ」
「完全復活すると、Rと三角関係に」
「そこは何とか調整していくしかないね」
 
ただ“千里B”は学校には全く姿を見せなかった。それで数学の授業は継続してYが受けている。
 
「神社にだけ行くつもりなのかな」
「ありえるかもね」
 

7月11日(日・仏滅・なる・一粒万倍日).
 
灰麗はついに霊山寺(りょうぜんじ)に到達して四国一周を達成した。
 
9日に88番札所の大窪寺(おおくぼじ)に到達して「結願(けちがん)の証」を頂いたのだが、そこから2日掛けて1番札所まで歩いて四国一周となった。これでお遍路は終了し、灰麗はバスと電車で徳島に移動。徳島市内の旅館で2ヶ月半にわたった四国一周を振り返った。
 
「私が生きてここまで来たというのは、まだ死ぬなという仏様の思し召しなんだろうな」
 
と灰麗は思った。灰麗は四国に入った時は、お遍路の途中どこかで行き倒れするかもと思っていた。またもし一周できても、その後、どこかあまり人の迷惑にならない所で静かに死のうとも思っていた。でも71日もの間“死の向こうの地”を旅して、新たな光が見えるのを感じた。
 
徳島市の旅館ではお風呂に入ったが、むろん女湯に入る。もう女湯に入るのが普通になってしまったので、心理的な抵抗などは全く無い。むしろ男湯には入れてもらえない身体だけどね!
 
翌日7月12日には、様々な交通機関を乗り継いで高野山・奥の院まで行き、そこで最後の御朱印を頂いた。これで御朱印の掛軸は完成である。
 
徳島港(沖洲)6:15(フェリー)8:10和歌山港/和歌山港駅8:30(南海電車)9:35天下茶屋9:55(南海電車)11:09極楽橋11:20(ケーブルカー)11:25高野山/高野山駅前11:41(バス)11:57奥の院前
 
お参りした後、旅窓(旅の窓口)(*4) で大阪市内のホテルを予約し、電車等で大阪まで戻って1泊する。
 
奥の院前14:43(バス)14:59高野山駅前/高野山15:08-15:13極楽橋15:21-16:58南海難波
 
(*4) 「旅の窓口」はこの直後、2004年8月1日に「楽天トラベル」に統合された。
 

ホテルにチェックインしてから、大阪市内で“普通の服”を買い求め、ホテルの部屋で着替えたが、Tシャツにスカートなんて格好をするのが久しぶりなので自分で違和感があった。「人間に戻った」という感じである。
 
この日はぐっすり寝て、14日は新幹線を使って東京に行く。
 
新大阪6:00-8:22品川
 
契約していた私書箱サービで郵便物をチェックした。特に郵便物は来ていなかった。町田市内の駐車場に移動する。車にエンジンを掛けてみようとしたが、予想通りバッテリーがあがっている。JRSを呼んでエンジンの起動をしてもらった。それで30分くらいアイドリングしてバッテリーの充電量を上げてからイオンに行き、食料を買って車内で食べ、お昼御飯とした。
 
「そうだ。貴子さんから、生きて戻って来たらメール頂戴ってメール来てたな」
と思い出すと、灰麗は貴子の携帯にメールを送った。すると速攻で返信がある。
 
「旭川まで来れる?」
「行きます」
と返事した。
 
今は“住所”さえ無いし、実はアパートを借りるのに貴子さんに保証人になってもらえないかとも思っていた。灰麗には今他に頼れる人が居ない。小樽にはもう親も無い。姉が(多分)札幌に住んでいるが、結婚して夫も子供も居る身だし、そもそも10年以上やりとりがないので頼ることはできない。本当に今も札幌にいるのか、生きているのかも知るすべがない。
 
それで結局車は契約駐車場に戻す。またバッテリーあがったりして、とは思いつつ、羽田に行き、旭川に移動することにした。
 
羽田15:50(JAL1109)17:25旭川
 

チケットを買い、預ける荷物も無いので、セキュリティを通り、出発ロビーで待つ。灰麗は飛行機の中のトイレが苦手なので、乗る前に行ってこようと思い、トイレに行った。灰麗はもちろん女子トイレに入る。列に並んで個室に入り、用を達して出て来た時、
 
「あんた男じゃないの?」
という声がしてギクッ!とする。
 
そのまま逃げ出したい気分だったのだが、声のした方をチラッと見ると、50歳くらいのおばちゃんに、30前後のあまりにも怪しすぎる人物が捕まっている。
 
赤いドレス、金髪のセミロングの髪に勘違いしたかのように、10代の女の子が着けるようなカチューシャ、センスの悪いイヤリング、真っ赤なマニキュア。喉には幅の広いチョーカーを巻いている。そして化粧が酷い!女を捨てたおばちゃんたちでもこんな酷いお化粧はしないと思う。
 
「女ですー」
と言っている声が明確な男声である。
 
「声が男じゃん。やっぱあんた痴漢だね。おいで。警備員に突き出すから」
と言って、おばちゃんはその怪しい人物を連行しようという体制である。
 
しかし灰麗はその声に聞き覚えがあった。そしてその人物の顔を見ると、どうも見覚えのある顔である。
 
順番が来たので手を洗い、ハンカチで拭いてから、灰麗はその人物のところに歩み寄る。
 
「ひろちゃん、何やってんのよ?」
と声を掛けると、彼?を捕まえていたおばちゃんが訊く。
「あんたこの男の知り合い?」
 
ああ。完全に男扱いされてる。実際男にしか見えんし。
 
「この子、声が低いし、身体付きも男っぽいから、よく男に間違われるんですよ。温泉でも捕まって警察に突き出されそうになったことあるんですよ」
「じゃ女なの?」
「もうあんたいっそ性転換して男になったら?とよく言ってるんですけどね」
「女だったんだ?ごめんね。疑って」
と言って、おばちゃんは出て行った。
 
「ひろちゃん、取り敢えずトイレしてきなよ」
「うん」
と言って、彼(でいいだろう)は空いている個室に飛び込み、やがて出て来て手を洗う。
 
「取り敢えず出よう」
と言って、一緒にトイレを出る。
 
 
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【女子中学生・ひと夏の体験】(2)