【夏の日の想い出・龍たちの讃歌】(6)
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(C)Eriko Kawaguchi 2020-10-03
「ちょっと一緒に来て」
と言われて、彼はいつものように可愛いスカートを穿いて一緒に出かけた。
付き人さんの車で新宿まで送ってもらう。バスや電車は使わないように通達されており、代わりに数人の付き人さんたちを自由にプライベートな移動手段にも使ってよいことになっている。
ビルの中に入っていく。**病院と書かれている。
「ここで何するの?」
「去勢手術」
「・・・・」
「受けたくない?」
「どうしよう?」
「迷うなら受けた方がいい」
「そうなの〜!?」
普通は“迷うならやめろ”って言わない?
彼も少し考えたものの、去勢しちゃってもいいかなという気がした。
「じゃボク手術受ける」
「よしよし」
それで受付で体温計と問診票をもらい、体温を計りながら問診票に記入した。問診票最後の「生殖能力を永久に喪失することを含む別紙の副作用の発生を了承して睾丸を除去する」という所にチェックマークを付けると心臓がドキドキした。別紙には陰茎が高確率で勃起しなくなること、ホルモンバランスが崩れて様々な症状が出る可能性があることなどが明記されている。でもいいよね?そもそも既にあれは立たないし。
最後に署名する。
「睾丸を取る前に精液を採取して冷凍保存できますが。最初の1年間は保管料サービスです」
「冷凍保存、お願いします」
と言うとガラスの容器を渡されたので、彼は指示された採精室に入った。
女の人の裸が表紙になっている本とか、男の人!の裸が表紙になっている本まで並んでいる。こないだ出た、アクアさんの水着写真集まである!アクアさんって、やはり性転換してるのかなあ。
ベッドに横になるとスカートをめくりパンティを下げる。指で押さえて回転運動をかける。できるかな?と不安だったが、これがもう最後だと思うと、珍しく昂揚して何とか出すことができた。先端に容器を接触させ、流れ出てきたものを受け止める。
でもこれ“中身”入ってるかな?と不安になる。
お医者さんは顕微鏡で見て確認していたが
「精子はありますよ。濃度が低いし運動性も悪いけど、顕微鏡受精ならできる可能性あります。保証はできませんが」
と言っていた。
いったん病室に入り、女性の看護師さんに剃毛された。それで手術室に運ばれていく。姉も手術室の前まで付いてきてくれる。手術台に乗せられ足を曲げるように言われる。部分麻酔を打たれる。
「本当に取っていいですか?取ったら戻せませんよ」
と最後の確認をされる。
「お願いします」
と彼は自分の意志で医師に答えた。それで手術が始まった。
「右の睾丸を取り出しました。切断します」
「お願いします」
「左の睾丸も取り出しました。切断します。これを切ると永久に子供が作れなくなります」
「切ってください」
「切りました」
ボク、男の子辞めちゃった!
「縫合完了。手術が終わりましたよ」
と言われた時、自分が解放されたような、とても楽な気持ちになった。
「ついでにちんちんも切ります?」
と言われてドキッとする。
切りたーい!
そもそもこれまで、何度切ろうとしただろう。
でも・・・
「済みません。そこまでは今日は心の準備が!」
「だったらまた今度ね」
「はい!」
その年の7月、音楽雑誌が「歌姫2020」という読者投票を実施した。人気よりもとにかく歌が上手い人を選ぶという投票である。雑誌に投票券(QRコード)が封入されており、そのQRコードでスマホから投票するというものであった。
通常のネット投票ならIPアドレスを変え、クッキーを消去して、別人を装い1人で何百票と投票する人が出るのでその結果は当てにならない。しかし雑誌の投票券を使う場合は、雑誌自体をたくさん買われる可能性はあるものの、ネット投票よりは操作しにくい。
それでその結果が8月中旬に発売された号に掲載されたのだが、こういう結果であった。括弧内は“生年度”。
1.松原珠妃(1987) 2.松浦紗雪(1982) 3.ケイ@ローズ+リリー(1991) 4.絹川和泉@KARION(1991) 5.山森水絵(1999) 6.アクア(2001) 7.花山波歌@三つ葉(2001) 8.フェイ@Rainbow Flute Bands(1994) 9.マリナ@ローザ+リリン(1985) 10.小野寺イルザ(1993)
ローザ+リリンのマリナがランクインしている。やはり先日の『ウォータードラゴン』の高評価が反映されているのだろう。
また、三つ葉でメインボーカルで、高校生や大学生男子に人気が高い八島(やまと)ではなく本当に歌がうまい波歌(しれん)が選出されている。シングルのタイトル曲では八島がメインを取っているものの、昨年夏以降に出たCDのカップリング曲では波歌や優羽(ことり)がメインを取っている。3曲入りCDなら1人ずつメインを取っている。
こういう方針は実は昨年の★★レコードの大激震で三つ葉を担当していた日吉室長がMSMに転出し、その後任となった明智光代主任(**)の意見からそう変更されたものである。そしてこの“新体制”の下で今年春に出た『四季の栞』のカップリング曲『愛の誓い』での波歌の歌唱はひじょうに高く評価された。恐らく今回のランキングはその影響が出ている。
(**)係長だったが、アーティスト大量流出の責任を取って本人が自主的に降格を申し出、現在は主任。但し実際には係長と同等の予算執行権が与えられている。
ちなみにこの雑誌の前身となった雑誌が2013年6月に行ったランキングはこのようであった。
1.松浦紗雪(1982) 2.保坂早穂(1978) 3.松原珠妃(1987) 4.芹菜リセ(1980) 5.しまうらら(1966) 6.篠田その歌(1984) 7.絹川和泉(1991) 8.ケイ(1991) 9.Elise(1984) 10.百瀬みゆき(1987)
7年前にも入っていたのは、松浦紗雪、松原珠妃、私、和泉、の4人で、この7年間にかなり様変わりしていることが分かる。
しかし!!
今回のランキングで騒然となったのがこの“歌姫”ランキングにアクアが入っていたことである。6位というのはかなりの票を集めている。
「とうとうアクアが女子認定された!」
とネットでは騒然となる。
この件に付いて「アクアは男性歌手では?という問合せが多数あったので」と述べて編集長名で見解が出た。
「歌姫(diva)の定義が難しいのですが、当社では「ある程度の知名度があり、歌唱力が充分に高い“女声ボーカル”」という定義が最もふさわしいのではと考えました。するとアクアさんはソプラノ歌手であり、間違いなく女声ボーカルです。そもそも各々の被選者の法的な性別や肉体的な性別を確認する方法も存在しませんので、女声ボーカルであれば選考対象としてもよいのではないかということになり、そのままランクインさせました」
そういう訳で、アクアは“歌姫”であると認定されてしまった!
確かに肉体的性別を確認する方法は無いよね!?
ランキングといえば、10代の男子向けファッション雑誌が“お嫁さんにしたいタレント”ランキングというのも実施した。これはネット投票なので信頼度が低いのだが、こういう結果になった。
1.アクア(2001) 2.雪丘八島@三つ葉(2001) 3.宮村尚子@ファレノプシス(2001) 4.奏和@ボニアートアサド(2000) 5.鈴鹿@鈴鹿美里(1998) 6.いとは@トラインバブル(2001) 7.ビンゴ・アキ(2004) 8.本坂愛菜@ホワイト▽キャッツ(2005) 9.奥奈@UFO(2006) 10.ミント@スパイスミッション(2006)
アクアが2位以下に大差をつけてトップであった。
「“お嫁さんにしたいタレント”と書かれていて“お嫁さんにしたい女性タレント”とは書かれてないし」
「いや、アクアは“女性タレント”でよいと思う」
などといった会話が交わされていた。
ちなみに鈴鹿美里の鈴鹿がランクインしたことについて本人は
「なんで美里じゃなくてボクなんだろう?」
などと美里の前で呟いたが、美里は
「性別を変更したのは私の方だと思ってる人多いからね〜」
と言って笑っていた。
ちなみに本坂愛菜も実は男の娘だが、情報統制がしっかりしていて、ほとんど彼女の性別は知られていない。彼女は既に睾丸は除去しているが、まだ性転換手術は受けていない。しかしセーラー服を着て女子中学生をしている。
6月に結婚したXANFUSの音羽と光帆だが
「妊娠しました!予定日は3月です」
というFAXを報道各社に送った。
これだけではさっぱり分からないので、記者会見を開いて欲しいという要請があり、2人はネットで記者会見を開いた。
「妊娠なさったのはどちらでしょうか?」
という質問に音羽も光帆も
「私です」
と同時に答えた。
「おふたりとも妊娠したんですか?」
「そうです」
「予定日はふたりとも同じです」
「私たち、元々生理周期が連動していたので」
生理は“移る”ので、女性が複数一緒に生活していると、その周期が合ってしまうのはよくあることである。家族や、ルームシェアしている人同士で、しばしば見られる現象である。実は私とマリの生理周期もほぼ一致している。
「父親はどなたでしょうか?」
「お互い相手の子供を胎児認知しようとしたのですが、女ではダメと拒否されました。男女差別ですね」
いや、それはさすがに男女差別ではない。
「実際はどなたなのでしょう?」
「光帆に中出しされた後で妊娠したから光帆の子供だと思うんですけど」
と音羽。
「音羽に生で出された後で妊娠したから音羽の子供だと思うんですけど」
と光帆。
「あのぉ、おふたりとも男性器を持っていたのでしょうか?」
「光帆は時々あるみたいですね」
「音羽もたまにあるみたいですね」
といった感じの質疑に終始し、結局、記者たちは2人とも妊娠していること、母子手帳はもらったこと、そして3月に2人とも出産予定であること以外には何の情報も引き出せなかった!
なお、どっちみちコロナの折りライブなどできないので、音楽制作活動自体は出産前後以外は休まない方針だということであった。
2020年8月12日(水).
ローズクォーツは、7枚目のオリジナル・アルバム『String Quartz』を発売した。特に発売記者会見のようなものは無いが、タカ・サト・マリナの3人で、アルバム内の曲を流しながら、このアルバムのコンセプトや制作中のできごとなどを語る動画を、動画配信サイトにアップロードした。
この制作は先月完了しており、ローズクォーツは続けてRose Quarts Playsシリーズの制作に入っていた。テーマは『Rose Quarts Plays Love Song』である。
2011年12月に、私とローズクォーツの面々(当時はマキ・タカ・サトの3人)がやよい軒でお昼を食べていた時、「ローズクォーツってレパートリーが広いから、様々なジャンルの曲を演奏してシリーズで出していかないか」という話が出て来た。その時、たまたま近くでお昼を食べていた太田恭史さんが寄ってきて、
「だったらこういうアルバムを作ろう」
と言って、一緒に様々なジャンルのものを書き出してみた。
(太田さんはこれがきっかけで、なしくずし的にローズクォーツのメンバーになってしまう(正式加入は1年後)。当時キーボードはサトが弾いたり私が弾いたりしていたが、彼の加入で全ての曲にキーボードを入れることができるようになった)
当時書きだしたジャンルは↓である。
Rock →RQP1
Jazz →RQP2
Minyo →RQP5
Classic →RQP4
Latin →RQP3
Pops →RQP14
Sakura →RQP8
Summer →RQP10
Autumn →RQP12
Anime Song →RQP11
Christmas →RQP13
Love Song
しかし、そのほとんどをこれまでに実際にリリースした。時系列で書くと
2012.02 RQP1 Rock
2012.05 RQP2 Jazz
2012.07 RQP3 Latin
2012.10 RQP4 Classic
2012.12 RQP5 Minyo
2013.03 RQP6 Girls Sound★
2013.06 RQP7 Easy Listening★
2014.03 RQP8 Sakura
2014.07 RQP9 Sex Change−性転換ノススメ★
2015.07 RQP10 Summer
2016.08 RQP11 Anime Song
2017.09 RQP12 Autumn
2018.11 RQP13 Christmas
2020.01 RQP9r Sex Change Reboot −女になりました ★
2020.04 RQP14 Pops
★を付けたものが当初のリストには無かったものである。RQP9については今年リブート版を出している。
Girls Sound については、元々 Rose Quarts Plays GS という企画を進めていた。たまたま居合わせた雨宮先生が「GSっ何?」と訊くのでグループサウンズですと答えたら「そんなの買ってくれるのは浦中部長みたいなお年寄りだけだよ」と雨宮先生は言い「GSなら Girls Soundsだね」と言って強引に企画を変更させたのである。プロデュースもしてくれたが、雨宮先生は
「女の子の気持ちになって演奏しなきゃ」
と言って、制作中、メンバーに女装するように言った。それで身長190cmで筋骨逞しいサトは女装でスタジオに向かっていて警官から職務質問されるハメになる!
そういう訳で、当初リストアップしたものの中で残りは "Love Song" のみになっていたのである。
それで『Rose Quarts Plays Love Song』は区切りのアルバムとなるものであり、一応これでPlaysシリーズは完結だが、状況次第では来年以降もこの系列の作品を出す可能性はある。2011年時点で候補にはあがったものの最終ラインナップには入れなかった、フォークとか童謡唱歌はあり得るし、ロシア民謡歌謡、アイドル、デュエット曲、バラード、ゲーム音楽なども可能性はあると思う。
千里が仙台の若林公園内に建設していた“ツイン体育館”牽牛と織姫は予定をかなり遅れて8月下旬に竣工した。
深川アリーナや火牛アリーナで色々試行錯誤し、また4月に建てたクレール若林店2号館での実験なども踏まえた上で、この2つの体育館には最高の感染防止対策がなされており、テープカットしたあと内部を見学してまわった仙台市関係者や、現地のスポーツ関係者も、そのシステムに感心するというより驚いていた。
「感染防止以前にコロナをシャットアウトする感じですね」
「そうです。感染を発生させず、ウィルスを漂わせず、感染者を入場させずです」
「非核三原則みたい!」
「あちらは抜け穴が多すぎて」
元々は防音のためだった二重壁を逆に換気のために使用し、ライブをする時は内側のドアや窓などを開放して演奏する。強制換気された空気は若林店2号館のために作った浄化システム(の処理能力を増強したもの)で処理し無害化してから排出する。これに予約制による人数制限、入場時の検温、更にはスタッフは簡易検査キットによるチェックをおこなうなど、徹底した対策をとる。
クレール若林店2号館と同様に、天井に空気の吹き出し口、床に吸気の仕組みを作っている。床は小浜のミューズアリーナを参考にした二重床で、床板は火牛アリーナで使用した孔空き床板のみでなく、小浜で導入した“木製グレーチング”も使用している。網状になっていても、端は丸く加工し表面を樹脂でコーティングしているので、そこで回転レシープなどしても安全な造りになっている(一応グレーチングブロックはコート外にしか使用していない)。それで、ここの空気は原則として上から下へ流れ、横の空気の移動が少ないので万一ウィルスの保菌者がいても、他の人には伝染しにくい。また体育館をアクリル板で区切った状態では各々の区分単位で空気が循環するので万一クラスターが発生してもそのブロックのみに留まる。
そもそも誰かが使用した後は、清掃班がきれいに清掃・消毒した後でないと他の人には貸さない。この作業をする清掃班の主力は(消毒用に改造した)ルンバ隊である!システム稼働のために使用する電力の大半は体育館の屋根に並べた太陽光発電パネルが生み出す(むしろ余る)。
ただしもう少しコロナの落ち着きが見え出すまでは、ライブや物産展などの開催申し込みは受け付けない方針である。スポーツの練習と大会のみ受け付ける。
当面赤字運用になるが、千里は「まあ1〜2年は仕方ない」と言っていた。もっとも採算は最初から考えられていない気もするが!?
教頭先生と校長先生は、セーラー服の少女とその両親をにこやかな笑顔で迎えてくれた。
「ああ、徳島から引っ越してこられたんですね」
「はい。急な転勤だったもので、こちらでの住まいとかも決める暇も無く、取り敢えず出て来たんですよ、この子の姉が東京に住んでいたので、そこにいったん仮住まいして住む所を探していたのですが、結局深沢に住むことになりまして」
「深沢何丁目ですか?」
「*丁目です」
「だったらこの学校でいいですね」
「ただ、そこはこれから建築されるらしいので来年の春くらいまでは用賀に仮住まいするんですよ」
「そちらも近くですね。ちなみに用賀は何丁目ですか?」
「*丁目です」
「すみません。*丁目の?」
と言われたので、その住所のメモを提示する。
「ああ。この番地なら、やはりこの中学でいいです」
「区役所でも詳しく聞かれたんですが、校区境界が細かいんですね」
「そうなんですよ。だから隣に住んでいるのに別の学校になったりすることもあるんですよね」
「難しいですね。ただその用賀の仮住まいも住めるようになるのが来週なので、それまでこの子の姉の1Kのマンションに無理矢理同居している所で」
「ああ。お姉さんが東京にお住まいだったんですね」
「そうなんですよ」
「ご家族はそのお姉さんとこちらの妹さんの2人ですか?」
と言われて“妹”は少しドキッとした。まだ“妹”と言われ慣れていないので心理的に開き直りができないのである。
「もうひとり一番上の姉がいるのですが、その子は徳島のほうの大学に通っているので、実家に1人置いてきました」
「なんか大変ですね!」
「でも女の子3人なんですね」
「ええ。嫁にやる時が恐いです」
書いておいた家族表を提出する。
「おや、お姉さんは赤羽のC学園に通っておられるんですか?」
「そうなんですよ。実は芸術コースなんです。あの子ヴァイオリンを弾くものですから。そこに入るのに徳島から出てきて単身でマンション住まいしてたんですよ」
「それは将来が楽しみですね」
「芸術コースは狭き門だけど普通科なら入れてもらえそうだったので、お前もお姉ちゃんと同じC学園に行く?と聞いたら、共学の方がいいと言うものですから」
「ああ。女子校には独特の雰囲気がありますしね」
と教頭は言ったが、本人はまだドキドキしていた。
教頭と校長は、この区立中学校のことについて色々説明してくれた。教科書などはすぐ手配して、新学期から使えるようにしてくれるということである。
「今年は8月24日から新学期が始まりますので」
「どこも変則的になってますよね。それでまだ住まいも仮住まいのままなのですが学期が始まる前にと思って今日お邪魔したんですよ」
「みんな大変ですよね」
「制服は、こちらのお店で作っていただけますか」
と言ってプリントされた紙をもらう。
男子制服はお店は定めず常識的な黒の学生服なら良いと書かれているが、女子制服は下記のお店でと書かれている。
「分かりました」
「女子は制服が学校ごとに違うから大変ですよね」
「そうですよね。男子は大抵学生服で済むのに」
それで、学校からの帰り、両親と一緒に指定店に寄って採寸してもらい、女子制服を注文した。
「本当に公立でよかったの?」
と母は再度“娘”に尋ねた。
「お姉ちゃんの話聞いてると、私、女子校は絶対無理。すぐ性別バレちゃう」
「女子校ってスキンシップすごいみたいだもんね」
と母も言った。
「それともいっそ学校始まる前に性転換手術しちゃう」
「あれ予約してから何ヶ月も待つみたいだよ。手術希望者が多いから」
「そんなに性別を変えたい人が多いんだ!」
と母は驚いていた。
8月14日(金)、映画『ヒカルの碁』の撮影は、クライマックスにさしかかろうとしていた。
この日は、プロ試験本選中盤の“事故”が描かれる。
ヒカルは院生No.2の伊角と戦っていた。ここまで伊角と越智が全勝。ヒカルは大島だけに負けて1敗である。ヒカルとしては今日伊角さんに負けると、2敗になり、先の対戦相手に院生順位1位の越智もいることを考えると苦しい。合格は上位3人だから順当に行くと、全勝・1敗・2敗までが絶対安全圏、3敗以下は運次第である。
伊角は考えた。こいつは本当に凄い勢いで成長してきた。しかしまだ自分の方が上だ。慎重に戦いを進める伊角にヒカルは敗色濃厚で苦難の表情である。
一方、自分の対局を勝利で終えた越智は、伊角とヒカルの対局が気になり、そちらをモニターしてみる。「ふたりとも物凄く時間を消費してる。でもこれは、もう勝負ついてる。もうすぐ進藤が投了するな」と思い、他の対戦者の対局の観覧に切り替える。
持ち時間がどんどん過ぎていく。ヒカルは必死に挽回方法を考える。ダメだ。勝てない。でもこの対局を落とすと物凄く辛い。ヒカルはほとんど思考停止ぎみになりながら、自分の持ち時間が残り僅かになっていくのを見ていた。ひとつの手がひらめく。可能性は薄いけどやってみる価値はあると思った。それでその手を打つ。
すると伊角は「そんなことしても無駄だ」と思い、遠慮無くヒカルの石をアタリ(次の1手で相手の石を取り上げられる状態)にしようとした。ところがタブレットの変な所に指が触れてしまい、あり得ない場所に石を打ったことになってしまった。
しまったぁ!タップミス!と思って、つい「待った依頼」のボタンを押してしまった。
へ!?と思ったのはヒカルである。そもそもあり得ない場所に伊角さんの石が打たれた。それに驚いたところで、待った依頼??
ヒカルは考えた。
待った依頼を承諾する場合は20秒以内に「承諾する」のボタンを押せばよい。しかし本来、待った依頼には応じる必要は無い。そもそも待ったは反則である。これは一般のネット碁のシステムを利用しているから、そういうボタンが付いているけど、プロの対局や、それに準じるプロ試験の対局で使ってよい機能ではない。ここで自分が「承諾しない」を押すか、または20秒放置すれば、この「待った」は拒否され、伊角さんの明らかに間違ったクリックが有効になる。そうなれば今自分が打った石が生きてしまい、この局面は完全に逆転する。そしたら勝てるかも知れない。
一方の伊角の方は顔面蒼白になっていた。
進藤のあまりに早い成長のことをあれこれ考えていて、この対局がプロ試験であるという認識が一瞬飛んでしまった。それで普段のネット碁でタップミスした時の感覚で反射的に「待った依頼」ボタンなど押してしまった。これは反則だ。リアルの対局なら「待った」は即負けである。どうする?
時間が過ぎていく。
進藤は「承諾」ボタンを押さない。
伊角は減っていく数字を見ていた。
10 9 8 7 6 5
と進んだ所で、伊角は投了ボタンを押した。
そして「ありがとうございました」のメッセージを送る。進藤からも少しあって「ありがとうございました」のメッセージが帰ってきた。
他の人の対局を観覧していた越智は、伊角さんと進藤の対局が終わったことに気付いた。ああ。進藤が投了したか、と思ったのだが・・・
進藤の中押し勝ち!?
馬鹿な!どうしたらあの局面から、そんな大逆転が起きるんだ!??
越智は訳が分からない思いだった。
しかしこの日の対局は、進藤・伊角双方に深刻な心理的動揺を与えた。
ヒカルは悩んでいた。なぜ自分は「承諾する」ボタンを押さなかったのだろう。あれは単純なクリックミスだ。そんなのは即承諾して、普通に打ち進めば良かった。それでもあの時ひらめいた手で勝てたかも知れなかったのに。
自分を責める気持ちの中でヒカルは対局に集中することができず、翌日の福井との対戦を落としてしまった。せっかく昨日強敵の伊角さんに勝って1敗を守ったのにこれでは昨日の幸運?な勝利が台無しだ。
対戦が終わってからヒカルは叫んだ。
「俺が弱いからだ。弱いからあそこで伊角さんの待ったを承諾しなかったんだ」
そしてイライラをぶつけるように枕を壁に叩き付ける。
佐為はヒカルを真剣なまなざしで見詰めながら言った。
「ヒカル、あの対戦の続きを打とうよ。私が伊角さんの分を打つ。それであの対局を最後まで打って、心に決着を付けよう」
それでヒカルは碁盤を出してきて、あの一局を並べて行った。そして中断した所から先を佐為と打ち続けたのである。ヒカルは誓うように言った、
「二度と昨日や今日のようなみじめな対局はしない」
ヒカルはこの佐為との一局で心の整理がつき、翌日から連勝を続けた。しかし伊角はヒカルの翌日の和谷、更に翌日の福井にまで負けて3連敗。そして明日は院生順位1位の越智である。
この日の撮影はここまでであった。ヒカルを演じるアクア、伊角を演じる計山卓さん(伊角の設定は18歳だが、計山さんの実年齢は25歳)の心理描写を表す独白が続く場面である。撮影自体は無言でおこなわるのだが、各々別室でアフレコする。アクアは朗読もうまいのですんなり行ったが、計山さんはかなりNGを出して「すみません」とみんなに謝っていた。
予定より1時間遅れて19時、今日の撮影を終了する。
監督は言った。
「今日の佐為はすごく格好良かったね」
脚本家さんも
「うん。ボクも感じた。今日の佐為は男らしい」
それは実はアクアも感じたので、今日の城崎さんはノリがいいなあ。まるで性転換でもしたみたい、などと思っていた。
この後、ラストに向けて集中撮影が続くので明日は休養日とすることが宣言された。
「三密になるような場所には行かないでください」
という注意だけされた。
城崎綾香は夫の丸山アイと連絡を取り、デートすることにした。アイが昨年もデートに使ったフェラーリJ50を綾香が撮影のために泊まり込んでいるコテージ型ホテル“桜”の横につけた。可愛くメイクアップした綾香が出て来て、フェラーリに乗りこむ。2人は軽くドライブデートすることにした。
関越道に乗り新潟方面に走る。おしゃべりしながら、北関東道・東北道・圏央道とループして東名に出る。休憩中にお互いのおっぱいを揉んだりはするものの、さすがにセックスまではしない。この車はドライブには良いが、セックスするには不適だ。左右の座席が独立型なので、横になることができない!それに何といっても目立ち過ぎる!実際PAとかに駐めている最中にもたくさん人が寄ってきていた。
東京ICから首都高に入り、結局ふたりのマンションに付けた。
「あれ〜、食べるものが無い」
と綾香は冷蔵庫を覗いて言う。
「ごめーん。ボクもしばらく作曲に集中してたから食べ尽くしちゃった」
とアイ。
「いいよ、いいよ。私コンビニで何か買ってくるね。何か食べたいものある?」
「そうだなあ。カツサンドとか」
「OKOK。じゃ行ってくる」
と言って、綾香はマスクと布手袋をして出かけた。
コンビニでアイからリクエストされたカツサンドをはじめ、自分が食べたかった牛丼(なぜか入る気がして大盛り)、それにパンやカップ麺を適当に。ポテチやチョコなども買う。それにコーラとスプライト、早紀は飲むかなあと思って恵比寿ビール350mlを2缶。そしてペットボトルの2Lのお茶を2本。
重い!
えーん、早紀(アイ)と一緒に来れば良かったと思う。
買ったものをエコバッグに入れてもらい、ファミペイで支払う。
本当に重いなあ。でも何でだろう。今日はわりと力が出る気がする。
それでマンションに戻る。
「重かったぁ」
「ごめん。ごめん。ボクも一緒に行けばよかったね」
それで腹ごしらえする。
「よく牛丼大盛りとか入るね」
「うん。なんかお腹空いて」
ビールは結局1缶ずつ開けた。綾香がビールを一気飲みしたので、アイが
「今日の雅希(綾香)は男らしい」
などと言うと
「今日はまるでちんちんでもあるみたいだよ」
と本人まで言っている。
それでお茶なども飲んでから、一戦交えようとする。お互い愛撫しながら服を脱がせて行く。アイが綾香の敏感な所を刺激しようとしたら・・・・
「何これ?」
「あれ〜〜〜!?ホントにちんちんがある」
「いつ生えたの?」
「分からない。そういえばさっき厚木でトイレ行った時、なんかおしっこの出方に違和感があった」
「いつからその違和感あったの〜〜?」
「うーん。いつからだろう。朝は女の子だったと思うけどなあ(自信無いけど)」
「これじゃセックスできないじゃん」
とアイが文句を言っている。
「じゃ早紀、女の子になってよ。私久しぶりに男役したい」
「いいけど」
「その後、私を女に戻して、早紀が男になれるよね?」
「できるけど」
「じゃそれで」
アイが自分の身体を女に変える。
「可愛い!早紀好きだよ」
「待った。コンちゃんつけてよ」
「結婚したんだから、いいじゃん」
「そんなあ」
それでふたりは生でしてしまったのである。
「交替交替」
「OKOK」
それでアイは綾香を女に戻し、自分は男に変えて、第2戦に入る。
「待って。生なの?」
「さっきの仕返し」
「え〜〜!?」
それでアイ(早紀)も生で綾香(雅希)に入れたのである。
「結構気持ち良かったね」
「少し寝ようよ。早紀、女に戻ってよ」
「うん」
それで2人は女同士になり、お互いの女性器を相互に指で刺激しあいながら、いつしか眠りに落ちていく。アイは夢うつつに思っていた。
ここの所、同性(?)カップルの結婚が続いたけど、パターンが全部違うよな。
・ケイナとマリナは元男同士のカップル(但し、ケイナ♂マリナ♂→ケイナ♀マリナ♂→ケイナ♀マリナ♀→ケイナ♂マリナ♀と変化して婚姻届提出。性別を変更したのは、夢魔→ボク→千里ちゃん。その後、青葉ちゃんがロックを掛けた)
・音羽と光帆は元々女同士の結婚
・そしてボクたちは性別が無い者同士の結婚かも!?
あ、そうだ!雅希(綾香)にはロック掛けてなかったから、きっと何かの拍子にフラッシュバックして男に戻っちゃったんだ。バストはあるのに下だけ男とか、混線してたし。ちゃんとロック掛けるべきかなあ、でもロックしたら性転換させたい時に外すの面倒くさいなあ、などと考えている内に眠いので明日でいいやと思った。
そして翌朝にはロックのことはきれいさっぱり忘れていた!
(アイも千里ほどではないが物忘れの天才である。200年?も生きていると全てのことは覚えていられない)
私はアニメ制作会社から『龍たちの讃歌』のビデオができあがってきたので、自分で見て内容を確認した上で、千里3に連絡した。川崎の練習場から浦和の自宅に帰る途中に寄るということだったので、作曲作業をしながら待っていたら夕方やってきた。
「リーグは開催できそう?」
「今のところ9月19日開始の予定」
「良かったね」
「フィジカルディスタンスを確保して入場者数を減らす。勝手な席移動禁止。マスク着用義務。ゲートで検温。声を出しての応援禁止。肩を組んだりしての応援禁止。コンコースの回遊禁止。サインや選手との握手禁止。万一感染者が出た場合の濃厚接触者チェックのため、半券は試合後2週間保管しておいてもらう」
「たいへんそうだ」
それで出来上がったビデオを見せる。
「きれいに出来たねぇ」
と言って見ていたのだが、何だか首をひねっている。
「何か変なところあった?」
「いや、青龍が女の子になってるなと思って」
「青龍は後藤節子さんが女性だったから、それに合わせて女性の龍として描いたんだけど」
と私が言うと、千里は頭を抱えている。
「何か変だった?」
「そうか。冬にも女に見えたか」
「え!?後藤さんって女性じゃないの?」
「5年前にさぁ。私大学院卒業した後は、バスケと作曲の専業になるつもりで、就職とかするつもり無かったから、何も就活とかしてなかったのよね」
「うん。あれびっくりした。なんで会社勤めとかするんだろうと思った」
「どうも変な運命の輪に巻き込まれてしまったみたいで。私、プログラムとか組めないのに、ソフトハウスに就職するハメになって」
「それも不思議だった」
「で、私にはプログラム無理だからさあ、後藤さんがプログラム経験長いから彼に私の代わりにJソフトに勤めてもらうことにしたんだよ」
「彼?」
「彼もそれはいいよと言ってくれたんだけど、私の代理するんだから、ちゃんと女装してよねと言って」
「女装!?」
「最初の頃は『女装なんて嫌だぁ。女子トイレなんて恥ずかしくて入れない』とか言ってたけどね。それ以来5年間女装しているから、女装が板について、もう違和感が全く無くなってしまったね」
「後藤さんって、男性なの〜〜〜?」
「ちなみに性転換手術してもいいよと言ったけど、嫌だと言った」
「どうしよう。女性とばかり思い込んで、そういう造形しちゃった」
「まあいいんじゃない?青龍にも男の龍、女の龍いるし。男の娘・龍ということで」
「えーん。ごめーん」
むろん今更変更はできないので、このまま発売するしかない!
2020年8月19日。
千里がこれまで葉月が住んでいたアパートの場所に建てていたマンションが竣工した。千里は1〜3階の全室の鍵と1-3F用マスターキーを、受け取りに出て来たコスモスに渡した。
桜新町(正確にはその南側の深沢町)に建設予定の男子寮が完成するまて、ここが仮の男子寮になる。寮生は2-3Fの1K(一部1DK)の部屋に住み、1階を管理用として使用する。101=管理人住居 102=調理室、109=キュアルーム(後述)。
なお、2-3Fの部屋の入口ドアだが“液晶シャッター・ドア”が設置されている。
実はコロナ対策で、朝晩の食事の配送は“置き配”方式にして、基本的に、配る人と住む人が直接接触しないようにすることにしたのだが、それを千里に話したら
「だったら接触しなくてもコミュニケーションはできるようにするよ」
と言って、2-3階の部屋のドアは、普段は不透明なのだが、部屋の内側のボタンを押して通電すると液晶素子が回転して透明になり、お互いの姿を見ることができるようにしたのである。
都会に出て来た子たちは1人暮らしで不安だろうから、毎日食事の配送・食器回収の時だけでも同じ人と接触していたら、随分気持ちが安定するだろうというのが千里のアイデアだった。
この寮の、朝夕の御飯の配達係については、西湖の推薦で彼の知り合いの女子2名が担当してくれることになった。ユキさん、ツキさんという(たぶん)双子の姉妹である。西湖が先輩と言っていたので、あるいはS学園の先輩なのだろうか。年齢は20歳前後に見えた(西湖は220歳と言っていたが、さすがにジョークだろう)が、ふたりとも学校等には行っておらず、ロッテリアのバイトなどをしていたと西湖は言っていた。
ユキちゃんとツキちゃんはそっくりなので、最初寮生たちは同じ子が朝夕宅配してくれていると思い込んでいたようだ。しかし別人だと分かると、寮生間で「ユキちゃんとツキちゃんの見分け方」が議論された!
どっちにせよ、ユキちゃんとツキちゃん、そして寮母になった門脇純江のお手伝いで、しばしば顔を見せる真悠の“妹”で女子中生の瀬那は、男子寮生たちのアイドルとなるのである!
1階の東側109号室は“キュア・ルーム”であり、看護師の資格を持っている、海老原さんという30代の女性(大学の看護科を出てから、内科に10年、外科に12年勤めたという話:年齢の計算が合わない気がする)に日中は常駐してもらうことにしているし、1日おきの夕方には、カウンセラーをお願いした上野さんが来訪して男子寮生たちの心の相談にのる部屋でもある。海老原さんと上野さんは、ほぼすれ違いになるが、たまに両者在室していることもある。
(再掲1F部分)
ここは食事宅配係のユキちゃん・ツキちゃんも控室として使用する。2人は主として↑の図のラウンジに居る。
信濃町ガールズに入るような男子には、あまり男性ホルモンの強い子は居ないので大丈夫とは思うのだが、万一クライアントが“欲情”した場合も海老原さんや上野さん1人ではなく、ユキちゃんかツキちゃんがいれば安心である。
他に、寮生たちの荷物の受け取り・保管などもフロントで、主としてユキちゃん・ツキちゃんがしてくれることになっている。実はこのキュアルームのラウンジからも、管理人住居のリビングからも、フロントのカウンター内側にアクセスできる。
またここには音楽理論の本や楽譜類、CDなども多少置くようにして、それを寮生たちに貸し出すことにもしている。
なお、ユキちゃん・ツキちゃんは、すぐ近くに住んでいると聞いた。
この日は、千里が播磨工務店の人と一緒にコスモスと私を案内してくれて、私たちは色々説明を聞いていたのだが、一通り見て回ってから、コスモスはおもむろに言った。
「ねぇ、ケイちゃん」
「何?」
「桜新町の建設はやめて、ここをそのまま男子寮にしない?」
「え〜〜!?」
「だって今引っ越して、また半年後に引っ越しとか面倒くさいじゃん」
とコスモスが言うと
「あ、それは感じました」
と私たちに付いて廻っていた、篠原倉光も言った。
「だって、なんか理想的な部屋構成なんだもん。ここは向こうの土地の倍の広さがあるし。駅までの距離も向こうは不動産屋さんの掲示で8分、実際には12分かかる。ここは用賀駅まで本当に6分で行ける」
実は交通の便を確認するため、駅前でおろしてもらい、歩いてここに来ている。
「でも部屋数は10しかないよ」
「これ以上男の子ガールズが増えるのも問題あるし。まあ何人か適当に見繕って性転換させて女子寮に移動させる手はあるけど」
などとコスモスが大胆なことを言うと
「ボク性転換しなくてもいいですよね?」
と篠原君が不安そうに言っている。
「君の性的傾向は理解しているよ。君くらいだな。間違い無く西宮ネオン路線なのは」
とコスモスは言っている。
「まあ性転換してと言ったら喜んで手術室に行きそうな子が多いよね」
と私も言う。
「場合によっては4Fも借りてもいいんじゃない?」
とコスモスが言うと、千里は
「なんなら1Fから5Fまで全部貸そうか」
と言う。
「いっそそれがいいかもね。6Fも性別のかなり怪しい今井葉月が入るし。6Fのもうひとりの入居者というのはどういう方ですか?」
「青葉の友人で、東京で就職した女の子なんですよ」
「天然女子?」
「生まれながらの女子です」
「でも大宮万葉先生のお友達なら、身内ってことでいいよね?」
「いいと思いますよ」
「じゃ西湖専用練習室を除いた地下から5階まで、月200万とかで貸してもらえません?」
「じゃその金額で」
ここには結局、これまでワンルームマンションに住んでいた西宮ネオンまで引っ越してきて5階2DKの部屋に入居することになる。
「ここで結婚してもいいですよね?」
「いいけど相手は男の子?男の娘?」
「女の子ですよ!」
結婚年齢規制が解除されたので彼は今すぐでも結婚できるが、彼女がまだ女子大生でもあり、向こうの親との約束で、彼女が少なくとも大学を卒業してから結婚する約束らしい(つまり今までは実は無断交際していた)。
ということで、結局ここが男子寮になってしまったのである!
「桜新町の方はどうする?」
「まだ工事の見積もり取ってる段階だったし、まだ古い建物を解体もしてないから、そのまま放置で」
結局、仮男子寮になるはずが、正式に男子寮となったこの用賀の“橘ハイツ”に入ることになったのは(葉月やネオンを除くと)下記の8名である。入寮は9月くらいまでに各々都合のよいタイミングで入居してと言ってある。
201 菱田ユカリ(2007 中1) 2020VG 4位相当
202 須舞恵夢(2007 中1) 2020VG 3位
204 末次一葉(2006 中2) 2020春.応募加入
205 上田信貴(2005 中3)と上田雅水(2007 中1)の兄弟 (この部屋は1DKで少し広いので兄弟で一緒に住みたいと言った彼らに割り当てた)
301 弘原如月(2004 高1) (**)
303 篠原倉光(2004 高1)信濃町ミューズ
305 木下宏紀(2002 高3)信濃町ミューズ
さてこの名前を眺めてみて、この中で男の子は何人でしょう?
などと言いたくなるほど、まるで女の子みたいな名前の子が多い。ついでに見た目も女の子っぽい子が多い。例外は篠原倉光くらいである。
(実際には女の子みたいな名前で、見た目も女の子っぽいから、性別を気付かれずにオーディションで女子たちに紛れて上位まで進出している(篠原君はロックギャルコンテスト出場者ではなく信濃町ガールズ自体への応募参加))。
堂々とスカートを穿いて入居してきた子もある。
「あんたたち、女子寮でなくて良かったんだっけ?」
「まだ、ちんちん付いてるから」
「“まだ”ということは、その内取るんだ?」
「そういう訳ではないんですけどぉ」
なお、弘原如月だが、彼(多分まだ彼女ではない)は関西在住の信濃町ガールズだったがこの春、内部試験に合格。東京に出て来て、都内の私立高校に入学した。高校生ではあるが、新加入なので今年度いっぱいはガールズをしてもらう。2021年春にミューズ移籍予定である。彼は東京本団の入団試験を受ける時
「スカート穿けと言われたら穿きますので入れてください」
などと言った。ゆりこが目をキラキラさせていたが、コスモスは
「大丈夫だよ。男の子はショートパンツだよ」
と言って、彼の歌とダンスを見た上で合格を告げた。
でも実はむしろスカートを穿きたいのだったりして!?
千里はこの子たちを見て「睾丸の無い子が3人もいる」などと言っていたが。誰が睾丸が無いのかは「見れば分かるじゃん」としか言わなかった。しかし8人中3人も既に男子を辞めてるのか!?
コスモスも「**君と**君は睾丸取っちゃったみたいね」と言っていたが、なぜ分かるんだ〜〜!?
どうも西宮ネオンの系統の子は少数で、大崎志乃舞の系統の子が多いようだ。川崎ゆりこは「やはり男の娘寮になった」などと言って嬉しそうにしていた!
上田兄弟など、退寮までに姉妹になっていないか不安である。
川崎ゆりこは、男子のメンバーたちに「君たち女子のユニフォーム着てもいいからね」と言って女子用のユニフォームを配っていた!ついでにセシールとフェリシモのカタログまで置いていた!
更に上田兄弟のお母さんなどコスモスに「性転換手術は高校卒業までに受けさせたらいいですかね?」などと聞いていた!
『ヒカルの碁』の撮影は8月20日のお昼過ぎにほぼ終了した。あと数シーン残ってはいるが、後日追加撮影することにして、これでクランクアップとした。
打ち上げ代わりに、出演者・スタッフ全員にケーキと松花堂弁当と飲み物が配られ、解散した。
アクアと葉月は、桜木ワルツの運転するアクアにアクアMと葉月M、和城理紗の運転する別のアクアにアクアFと葉月Fが乗って、代々木のマンションに帰宅した。
「葉月ちゃん、いつ用賀のマンションに移るの?」
「23日のイベントまではとても時間が無いから、29日か30日くらいに引っ越そうかと思ってます。それまでこちらに居ていいですか?」
「もちろんもちろん」
「葉月ちゃんたちが居なくなると寂しくなるなあ」
「取り敢えず4人のお誕生会をしようよ」
と桜木ワルツが言う。
「お料理作っておいたよ」
と言って、和城理紗が、鶏の唐揚げとか、一口カツ、海老フライ、など、また酢豚・エビチリ・青椒肉絲に、春巻き・焼売なども出してきて、レンジでチンしては、各自の前のトレイに置かれた容器に盛り付けていく。
「大皿は禁止だから、こういうのも大変」
「ああ、手間がかかりますよね」
丸テーブルに椅子を7個出している。アクアM・アクアF、葉月M・葉月F、ワルツ、理紗だが、アクアMとアクアFの間の椅子には“アクア人形”か乗せられている。アクアNの分である。(正七角形の頂点の位置に椅子を置くと、真正面に対面する子が出ない)
小さめのラウンドケーキを3つ出してくる。ワルツが各々を2等分して、その内4つにロウソクを立てる。火をつけて、2人のアクアと2人の葉月の前に置く。あとひとつのケーキを半分に切ったものは、ワルツと理紗の前に置いた。こちらにはロウソクは立てない。
「じゃ各々自分の前にあるケーキのロウソクを消してね」
と言って部屋の灯りを消す。
「Happy Birthday!!」
パチパチと拍手。
灯りを点けてから、アクアFとアクアMが各々の前にあるケーキの3分の1をカットして、アクア人形の椅子の前に置いた。これでMFNの3人で3等分したことになる。
「Nの分はどうするの?」
「あとでMが食べるよ」
「頑張る」
それでスプライトで乾杯して食べ始める。
「来年も4人で祝おうよ」
とアクアMが言うが
「まあ2人か3人かも知れないけどね」
とアクアFは言う。
「6人か8人になってたりして」
と葉月Fが言うと
「それもあり得ることはあり得るよなあ」
とアクアMは言った。
30分くらい食事しながら歓談していた所にピンポンが鳴る。
「こんにちは。水森ですけど、1803号室のクリーニングが終わったので、鍵を渡そうと思いまして」
「あ、はいはい」
と言ってアクアFが玄関に出た。
「鍵は5本あります。全部お渡ししますね」
「分かりました」
「一応確認してもらえますか?」
「はい、行きます」
それでアクアFは受けとった鍵の内1本を除いて居間のテーブルに置き、「ちょっと確認に行ってくる。20-30分で戻ると思うから先に食べててね」と言った。
(でも朝まで戻れなくなる!)
アクアFが、ゆみと一緒に18階に行く。前回は押し倒されて服を脱がされたなあと、あの夜の記憶が蘇る。まさか今日は大丈夫だよね?今日はズボン穿いてるし、などと考える。
「傷とか無いのを確認してもらえる?後で揉めるとお互い嫌だし」
「じゃしっかり確認しますね」
と言って、荷物が全て搬出されて空っぽになったリビングとキッチン、そして各部屋を丁寧に見てまわった。棚なども開けて確認する。和室の畳は新しくなっているし襖はきれいに張り替えてある。これ結構お金が掛かったんじゃないかなあなどと思いながら見て廻った。
「大丈夫みたいですね」
「あと1部屋あるよ」
と言って一番奥の南側の部屋に行く。ゆみがドアを開けて身体をずらすので、龍虎は何気なく、そのまま部屋に入った。
「あれ?ベッドがまだありますよ」
と龍虎は言ったが
「じゃね」
と言って、ゆみはその部屋のドアを閉めて、向こうに行ってしまう。
「え!?」
と戸惑うような声をあげた時、部屋の中から声がした。
「龍、お誕生日おめでとう」
とベッドの中から“彩佳”の声がした。
龍虎は思った。やはり、女の人の部屋に安易にひとりで入るものではない。ワルツさんか葉月に付いてきてもらえば良かった、と。
「アヤ、なんでここに居るの?」
「だって龍にお誕生日プレゼントあげようと思って」
「誕生日プレゼントって?」
「わ・た・し」
「えっと・・・」
「今日は逃げないでよね」
龍虎Fは思った。こないだケイナさん言ってたじゃん。あんまりこの子を拒否してたら、思い詰めておかしくなっちゃうよって(**) ボクたちも19歳だもん。デビューの頃みたいな中学生ではない。ただ自分の立場としてまだ結婚できないし、交際したとしても人に知られてはならないのは重々承知である。
(**)言われたのはアクアMだが、2人は“長期記憶”を共有するので、Fもその内容を記憶している。
「私のこと好き?嫌い?」
「シャワー浴びてきていい?」
「いいよ。バスタオルとお風呂セット、私のを置いてるから、良かったら使ってね」
「分かった」
つまり、彩佳はシャワーを浴びてきて、きっと裸でベッドに入っているのだろう。
龍虎Fはシャワールームに行く。彩佳の服が畳んで置かれている。自分も服を脱いでシャワーを浴びた。ここはMと交替すべきところかも知れない。でもMはきっと逃げる。それではここまでした彩佳が可哀想すぎる。ボクも恋愛とかよく分からないけど、彩佳の気持ちには応えるべきだ。
あの付近もよくよく洗う。
そして彩佳の残したバスタオル(少ししけっている−やはり彩佳が自分の身体を拭くのに使ったのだろう)で自分の身体を拭くと、そのバスタオルを胸から腰にかけて巻き付けた。
そして寝室に戻った。
「アヤ、ボクさ、今日はアヤとここで会うなんて思わなかったから、ちんちん自分の部屋に忘れてきちゃって。今、ちんちんが無いんだけど、それでもいい?」
「忘れてくるようなものなんだ!」
「20歳の誕生日の時は、ちゃんとちんちんも使ってアヤを抱くから(きっと1年後はボクが消えてMが残っているだろうしなどと思う)、今日は“手付金”だけで勘弁してくれない?」
「いいよ。じゃ手付金だけもらう」
それで龍虎Fは寝ている彩佳にキスした。
彩佳が激しく吸う。口が離せない。
それで龍虎Fは彩佳と顔をくっつけたまま、バスタオルを外し、毛布をめくってベッドの中に入った。
あ、Mが気付いて抗議してる。でもここで交替できないでしょ?交替したらMがこの子を抱くことになるけど、その勇気無いでしょ?
彩佳はもちろん裸である。肌と肌が接触する。
「龍、おっぱい大きい!」
「アヤとおっぱい同士くっつけるためだよ」
「龍、ほんとにちんちん無い。割れ目ちゃんがある。やっばり取っちゃったの?」
「あるけど、忘れてきただけ」
と言って、龍虎Fは先日、鮎川ゆまから聞いたテクニックを思い出しながら、最初に彩佳の敏感な部分を指で優しく刺激した。自分の身体でもよくやっているから、いちばん気持ち良くなる強さと速度は見当が付く。
「気持ちいい!こんな気持ちいいの初めて!でも、ちんちん無くても、ちゃんと私のバージンもらってよね。5年前みたいに肩透かしはもう嫌だよ」
「悪いけどバージンもらっちゃうよ。アヤをボクのものにしちゃうよ」
「うん。私は龍のもの。龍は既に私のものだけどね」
実は5年前のデビュー直前、彩佳は龍虎のヴァギナ(なぜかあった)に指を入れ「龍のバージンもらっちゃった」と言っている!あの時、彩佳は龍虎の(突然復活した)おちんちんに避妊具まで装着したが、龍虎は「今日はやめようよ」と言って彩佳には入れなかったのである。
「でも龍、ちゃんと爪切ってるんだね」
「レスビアンの人に爪伸ばしてる人はいないって、こないだ鮎川ゆま先生が言っていたよ」
「確かにこれはレスビアンかも」
「実際には“ヒカルの碁”の撮影で、指がたくさん映るのに、伸ばしていたら変だから、ちゃんと切っていたんだよ」
「なーんだ」
龍虎Fは彩佳が充分濡れてきた所で彼女の足を大きく広げると同時に膝を立てるように言い、彩佳の敏感な部分と自分の敏感な部分がきれいに合うようにする。こちらもかなり濡れている。
「ね、まだ私の質問に答えてない。龍、私のこと好き?嫌い?」
「それに言葉で答えないといけない?」
とアクアFは言って、彩佳に再度キスをした。
この日、彩佳は龍虎のものになった。
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【夏の日の想い出・龍たちの讃歌】(6)