【夏の日の想い出・龍たちの讃歌】(5)

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その日アクアは打ち合わせがあったので信濃町の§§ミュージックの事務所に来ていた。小浜ミューズパークでの夏のイベントが中止になったので、その代わりに8月23日(日)に、あけぼのテレビと★★チャンネルで同時放送する、アクア・ライブについて打合せるという話だったのである。
 
昨年は“夏休み最終日前日”の8月31日に実施した(9月1日が日曜だったので)のだが、今年はコロナによる4-5月の休校による授業日数不足を補うため、多くの学校が8月24日(月)から授業を始める。それでその前日の8月23日(日)アクアのライブを放送しようということになっている。
 
(リアル・イベントなら“帰宅”のため夏休み最終日“前日”にする必要があるが、ネット・イベントは自宅で見られるので、休み最終日でよい)
 

期日:8/23(Sun) 14:00 撮影場所:深川アリーナ・無観客(震災イベントと同じ方式で大量の観客モニターと書き割りを並べる)
 
第1部(8:00-11:00)§§スターズ 8:00 ラピスラズリ 8:20 リセエンヌ・ドオ 8:40 大崎志乃舞 9:00 信濃町ミューズ 9:20 桜野レイア 9:40 原町カペラ 10:00 石川ポルカ 10:20 桜木ワルツ 10:40 花咲ロンド
 
第2部(11:30-13:30)§§エクセレント
11:30 白鳥リズム 12:00 姫路スピカ 12:30 今井葉月 13:00 山下ルンバ
 
第3部(14:00-16:00)アクア
 
↑上記の3つの時間帯区分は課金の区切り。
 
なお、高崎ひろか・品川ありさ・西宮ネオンは、充分独立しているアーティストということで、アクアの前座には出場しない。実はアクアの番組がうまく行ったら、来月以降、月1回くらいのペースで、彼女たちの特例番組も制作する案も出ている。
 
11:00-11:30 にはブンブンの演奏(歌無し)、13:30-14:00には発足したばかりのColdFly5のバンド演奏(歌無し)、が放送される。いづれも無料放送である(スポット広告が入るし、またアクアのライブは特例番組であることの案内も流す)。
 
アクアのライブでは、前半に信濃町ガールズの関西北陸メンバー(前日にG650とホンダジェットで伊丹・小松から連れてくる)、 後半に信濃町ガールズの本部メンバーがバックで踊る。アクアは14:50-15:00に休憩をもらい、その10分間は山下ルンバと大崎志乃舞のトークで繋ぐ。今回は終了時間を厳守する必要があるので、15:50からアンコールに代えて“サービス・パフォーマンス”で2曲(龍と子供・旅人の休息の予定)歌って終了とする。
 

現時点で、あけぼのテレビの同時接続能力はだいたい300万回線なのだが、通信会社との話し合いでこのイベントに関しては臨時に500万回線まで使えるようにしてもらえる。更にこの放送に関しては特例処置として全ての会員にタイムシフト視聴を許可して翌日以降1ヶ月以内なら視聴できることにしている。また、ライブは14:00-16:00 なのだが、17:00-19:00, 20:00-22:00 23:00-25:00 にも再放送する。それによって負荷分散をしようという魂胆である。
 
一方の★★チャンネルの配信能力は現在70万回線くらいだが、当日までに100万回線程度まで増強するという話だった。こちらも1ヶ月以内はタイムシフト視聴できる。
 
★★チャンネルとは、この機会にあけぼのテレビの有料番組の再配信の契約を結ぶことになった。
 
ちなみに7月時点でのあけぼのテレビの加入者数は約500万人で、つまり今の会員数なら確実に全員がリアルタイム視聴できるのだが、アクアのライブ目当てで加入者数が急増する可能性があり、§§ミュージックでは、トリブルスター側に、場合によっては更に多くの回線数を貸してほしいという要請を出していた(費用も莫大にかかるがやむを得ない)。
 

それでこの日は、朝からアクア、葉月、花ちゃんの3人が来ていて、川崎ゆりこ副社長と簡単な打ち合わせをしていた。
 
§§ミュージックの営業時間は朝9時から夜22時までなので、だいたい、ゆりこ副社長が9:00-17:00, コスモス社長が14:00-22:00に勤務してどちらかがオフィスにいられるようにしている。もっとも2人とも営業での外出や出張も多いし、制作現場に入っていることもあり、桜野レイアやエレメントガードのユイがお留守番している日もわりと多い。もっともユイはわりとよくガードマンと間違われる!彼女は柔道五段で元プロレスラーでもある。性別もわりと間違われる!
 
「ユイさん、ズボンの中に特殊警棒を隠しているという噂もありますが」
「うん。両足の間に伸び縮みする警棒を隠してるよ」
 
などと冗談だかマジだかよく分からないことを言っている。実は彼女はライブ中にアクアが襲われたような場合に、アクアを守る特命が与えられており、そのため、エレメントガードとしてのお給料に加えてボディガードとしてのお給料ももらっている。2016年12月にアクアが放送局で襲われる事件があったので、そのあとエレメントガードに加入した。
 
彼女はライブの時は服の内側に防刃ベストを着込んでいるという噂もあるが真偽不明。実は射撃もうまくて、クレー射撃で国体に出たことがあるという噂もあるが、本人は否定している。散弾銃の免許自体は持っているらしいが、さすがに国内では拳銃などを携行することはできない。彼女が使用しているドラムスティックは実は先端を外すと小型の銃になるという噂もあるが「そんなんでドラムス打ってたら暴発するよ」と笑っていた(確かにそうだろう)。
 

なお今回のアクアのライブの放送は当然有料放送だが、月額定額料金(1000円)では見られない特例番組となっている。特例番組という存在はあけぼのテレビの立ち上げ段階で紅川相談役の提唱で会員規約上設定し、定額会員の入会申し込み画面でも「一部の特例的な番組は定額視聴の対象外になる場合もあります」と明記していたものだが、初めての適用となった。
 
視聴には特別視聴料金1500円(学生とプレミアム会員は1000円)が必要である。それでも通常のアクアのライブ(7200円)よりは随分安い。これは実は★★チャンネルが1500円で配信するのでそれと合わせたというのもひとつの言い訳にしているが、本音は有料にして接続を制限しないと、どんなにバックボーンを増強してもダウンする危険があるし、また回線費用を少しでも負担してもらわないと、下手すると莫大な赤字を出すからである。
 
先頭の10分間は無料で見られるが10分以降は特別視聴料金が必要であるというテロップが流れるので、その間に料金を支払うか、あるいは会費を先払いしている人はそこから減算するかの操作が必要になる。
 

「だけど7000円で7万人入れても売上は4億9千万にしかならない。1500円を600万人が見たら90億円だよ」
「まあ回線使用料で10億くらい吹き飛ぶけどね」
「いや、もう少し行くかも」
 
「昨日、前納金を振り込むのに沢村さんが『恐いから数字確認してください』と言って私も見たけど、私も不安になったから花ちゃんにも見てもらった」
「私もあんな金額数えたの初めて」
 
「でもリアルイベントでも会場代・設営費・運送費やバイトさんの報酬とかで2-3億飛んでますよね」
 
「まあそれは実はそうなんだけどね」
 
なお、アクアのライブに先立つ、§§ミュージックの他のタレントによるプロローグ・イベントは、第1部は無料番組、第2部は有料番組だが、月額定額料金で見ることができるし、定額会員でなくても、アクアのライブの特別視聴料金を払った人は無料で見ることができる。
 

それでゆりこ、アクア、葉月、花ちゃんが話していたら、入ってくる人がある。
 
「おはようございまーす」
「おはようございます、鮎川さん」
とゆりこが笑顔で応対に出た。レッドブロッサムの鮎川ゆまである。
 
「ケイは来てる?」
「お昼から来るんですよ」
「ありゃぁ、早く来すぎたか」
と鮎川ゆまは言っているが、この人の場合、時間感覚がアバウトなので、どちらかというと遅刻のほうが多い。ゆまの感覚では2〜3時間は誤差の範囲である。
 
「呼び出しましょうか?」
「いやいいよ。あの子も忙しいし。ここで待たせて」
「はい。それでは第2会議室でお待ちください。今ケーキでもお持ちしますね」
とゆりこは言ったのだが、窓際の打ち合わせスペースに、アクアがいるのに気付く。
 
「アクアちゃーん」
などと言って寄って行く。
 
「おはようございます、鮎川先生」
とアクアは挨拶する。葉月と花ちゃんも立ち上がって挨拶した。
 
「アクアちゃーん。大好き」
と言って、ゆまはアクアをハグする。
 
「濃厚接触はおやめください」
とゆりこ。
 
「ごめん、ごめん」
と言ってゆまはアクアを離す。
 
「アクアちゃんの写真集買ったよ」
「ありがとうございます」
「7冊買ってきて、部屋に並べてスリネタにしてる」
 
「スリネタ?」
「男の子はセンズリだからズリネタでしょ?女はアテコスリだからスリネタだよ」
「ゆまさん、中高生も見てるかも知れないところにあまり書けないようなこと、発言しないでください」
と花ちゃんが注意している。
 
「でもどうして7冊なんですか?」
と葉月が訊く。
 
「それは曜日ごとに別のアクアを楽しむためだよ」
「よく分からない」
 
うん。分からない!
 
「だけどアクアちゃん、いつの間に女の子になったのさ?やはり高3になってからちゃんと女性ホルモン飲むようにしたの?」
 
「別に女の子にはなってませんし、女性ホルモンも飲んでません。巻末に写真を載せたように女体偽装しているだけですから」
 
「うそうそ。ブレストフォームは単にくっつけているだけだから身体の軸から流れる。君のおっぱいはちゃんと身体と一緒に動いている。あれは本物のおっぱいでないとあり得ない動きなんだよ。女の子のおっぱいを20年観察し続けているボクには違いが分かるよ」
 
などとゆまは言っている。
 
この人鋭いなとアクアは思った。そういう観点の意見はネットでは見たことがない。
 

「話がよく見えなかったんですが、鮎川さんって男性なんですか?」
などと葉月が訊いている。
 
「ボクは女だよ」
「でも水着のアクアさんで・・・そのぉ、マスターベーションするんですか?」
「だからアテコスリって言ったじゃん」
「アテコスリ・・・・・あっ」
と言って葉月はようやく意味が分かったようで、真っ赤になっている。
 
「ゆまさんはビアンで有名だよ」
と花ちゃんは言ったが、
「ビアンって?」
と葉月はその言葉の意味が分からない。
 
「レスビアンの略だよ。世間ではレズと略す人が多いけど、その言葉は差別的に使われることが多いから当事者の間では避けられる傾向にある。代わりにビアンと略す」
と花ちゃんが解説する。
 
「へー!知らなかった!」
と葉月。
 
「bienne est bienne」
などとゆまは言ったが、意味が分かったのはフランス語のできる花ちゃんだけである。先頭のbienneは lesbienne レスビアン(の人)の省略形で、後のbienneは「良い」という意味の形容詞bienの女性形。つまり「ビアンは素晴らしい」という意味。ちなみに女性同性愛そのものは lesbianisme で、この名詞は男性名詞なのでそちらを使うと、lesbianisme est bien となって、あまり面白くない。
 

「そうだ!君たちにレスビアンのテクニックを伝授しよう」
と、ゆまは言い出した。
 
「はぁ!?」
とゆりこは呆れ顔である。
 
「いいじゃん、男には内緒の、女同士の会話たよ」
 
「誰かボクのパートナー務めてくれる人いない。実演してみよう。気持ちよく逝かせてあげるから」
 
「こんな所でやめてください」
「ゆりこちゃんって、ゆりだから、ゆりこちゃんじゃ無かったんだっけ?」
「紅川相談役が、名前何にしようかと考えていた時、ユリの花が咲いているのを見たからだそうです」
 
「なんだ、つまらん。アクアちゃん、ボクの相手しない?」
「遠慮します」
「葉月ちゃんは?」
「女子高生に変なことしないでください」
「ルンバちゃんは・・・・やめとこう」
と、ゆまは花ちゃんの目を見て素直に諦めたようだ。
 
「ルンバちゃんはバイだと思ったのに」
などとまだ言っている。
 

「まあそれでだね。レスビアンってみんな松葉崩しで結合してるように思っている人もあるけど、そんなのあまりしないから。あれはそもそも結合が不安定で、すぐズレるし、お互いの顔が見られないから、とても寂しい」
 
「すみません。マツバクズシというのが分かりません」
と葉月。
 
「あとでネットで調べなさい。ゆりこちゃんが睨んでるし」
と、ゆま。
 
「あるいは**ドーを使って男女のセックスと同じようなことしてると思っている人もあるけど、それも遊びとしてはするけどメインコースではない。処女を誘う場合には入れるわけにはいかないし、そもそも男が嫌いでビアンになった子は男みたいなのを嫌う。**使うなら男とした方がマシと言う子もいる。だから、入れるのはあくまで長く付き合っているカップルの場合だとボクは認識している」
 
「へー」
とアクアは感心している。葉月は**ドーというのが分からなかったようだ。
 

「ただ**ドーのいい所はポルチオ(Portio)を刺激できることなんだよ」
と、ゆまが言うと
「ポルチオって何ですか?」
と花ちゃんが訊く。
 
「ポルチオを知らないの〜?」
「知りません」
「ヴァギナの一番奥、子宮の先端がヴァギナに飛び出している所だよ」
「そういう部分があることは知ってますが、それをポルチオというんですか?」
「そうそう。イタリア語(**)で、Portio vaginalis uteriといって。直訳すると“膣の子宮部分”ということ。だからPortioだけでは本当は“部分”としか言ってないけど、まあその部分のことだよ」
 
(**)イタリア語ではなくラテン語。
 
「そこが気持ちいいんですか?」
「最高に気持ちいい」
「へー!」
と花ちゃんもゆりこも感心している。
 
「AVとか見てたら、女の子が“子宮に当たる〜!”とか叫んでるじゃん。そこだよ」
「AVとか見ないし」
 
「君たちセックスの経験無いとか」
「ありません」
「それはいかん。ボクの恋人何人か貸してあげようか?」
「ゆまさんの恋人って女の子ばかりなのでは?」
 
「そうだなぁ。去勢済みの男の娘もいるけど。(相手が)妊娠しないから安心だよ」
「(こちらは)妊娠はしないかも知れないけど、体験の役に立たない気が」
 
(話が通じていないことに双方気付いていない *1)
 
「ポルチオは物凄く気持ちいいんだけど、指では届かないんだよ」
「ヴァギナの深さを考えると、そうでしょうね」
 
「性転換手術で男を女に変える場合、陰茎亀頭は一部を陰核亀頭に転用して大半は捨てる医師が多いが、一部の医師はポルチオを重視して亀頭の残りを新設する膣の最奥部に埋め込んだりする(*2)」
 
「へー!」
 
(*1)ゆまは自分が妊娠する気は毛頭無い。それどころか恋人の女の子から「あなたの子供よ」と言われて、出産の費用を出してあげて養育費を払っているケースまである。認知しようとしたが役場の窓口の人から拒否された!でもゆまはその子に自分を「パパ」と呼ばせている。彼女とは恋愛関係自体は既に解消しているのでパートナーシップ宣言するつもりは無い。子供の顔を見るためしばしば会いに行くがセックスもしない。
 
(*2)1990年代に見た婦人科の医学書に掲載された性転換手術のやり方(アメリカ国内で実施された手術のレポート)では陰茎亀頭をまるごとポルチオに転用していた。この医学書の手法では陰核は形成していなかった。
 
当時の技術でポルチオの神経をつなぐことができたかは疑問だが、おそらく性交時に男性側がポルチオに当たっている感覚があることを重視してそのような手法をとっていたものと思われる。陰茎亀頭を陰核亀頭に転用する方法は2000年頃以降に、タイの医師がそういう手法をとっていると聞くようになった。日本の医師も多くはそういう手法をとっているようである。顕微鏡で確認しながら神経を繋ぐので、この陰核は実際に性感がある(もっとも2本しかつながない医師も多い)。ただこのタイ系統の手法ではどうもポルチオの形成はしていない医師が多いもよう。
 

「まあそのポルチオには届かないけど、フィンガーテクニックのうまい子は多い。ボクもかなり自信ある。これは出し入れされる感覚が気持ちいいし、Gスポットの刺激が凄くいい」
 
「ジースポットって何ですか?」
「ゆりこが睨んでるから、自分で調べて」
と言ってから、ゆまは続ける。
 
「指の出し入れをうまくやると、まるで男の子に入れられてるみたいに感じる。ストレート寄りのバイの子には好きな子が多い。達人になると、出し入れの感覚が絶妙で、女なのに、女性と結婚して、相手の女性がこちらを男と信じて疑わなかったというほどの人もあったらしいよ」
 
「それは凄いですね」
と花ちゃんが純粋に感心している。
 
アクアはフィンガーテクニックというのが何となく分かったが、葉月は意味が分からず困惑している。
 
「だからビアンの子で爪をのばしている子は居ない」
「ああ、ちゃんと切ってないと痛いですよね」
「そうそう。アクアも爪は・・・ちゃんと切ってるね、感心感心。アクアはちんちん取っちゃったから、女の子とする時は指が大事だぞ」
 
「取ってませんけど」
「睾丸だけ取ってちんちんは、あらためて時間が取れた時に除去するんだっけ?」
「睾丸も取ってません」
 
「いや、睾丸があるのにあのボディラインはあり得ない。このメンツの前で嘘をつく必要はないよ。だいたいこんな近くにいるとアクアから女の体臭を感じる。睾丸が存在したらこんな体臭にはならない」
 
ああ。さすがに体臭はごまかせないよな、とアクアFは思った。
 
「葉月は取ってるよね?葉月も未熟ながら女の体臭だ」
「タマは取ってません」
「じゃまだ女性ホルモンだけか。それで未熟っぽいのかな。卒業までには取るよね?」
「取りません」
「ゆりこちゃん、この子に3ヶ月くらいお休みあげて性転換手術受けさせてあげなよ」
「検討します」
とゆりこが言うと、葉月は困ったような顔をしている。
 

「でもレスビアンの基本はやはりトリバディズム(tribadism)なんだよ。男女で正常位で結合するのと同じような形で、あそことあそこを貝合せして、上にいる方が身体を動かして刺激しあう」
 
ゆまが具体的な双方の体勢まで詳しく説明すると、アクアが真剣に聞いている!葉月はよく分かっていない!
 
「このままの体勢から抱きしめると、お互いのバストも接触するし、同時にキスもしていれば、女同士って自然に三所(みところ)責めになる。これが物凄く気持ちいい。これをはさみながら体力の続く限り貝合せを続ける。くたくたになるけど、そのあとは熟睡できるよ」
 
「へー!」
とアクアは感心している。
 

「あと男の子同士でも、よくやるみたいだけど、実はミューチャル・プレジャリング(mutual pleasuring)が、とても気持ち良い」
 
「ミューチャ?」
「つまりお互いに相手のクリちゃんやGスポットを指で刺激しあう」
「それをMutual Pleasuringというんですか?」
と訊くのは花ちゃんである。
 
「うん。ミューチャル・マスターベーションと言う人もあるけどね」
「なるほどー」
 
「概してある程度楽しんで、もう寝ようかという時にこれをしながら眠ってしまうんだよ」
 
「ああ、眠くなるかも」
と花ちゃんは言う。
 
「今度彼女と寝る時にしてごらんよ」
「私、彼女いません」
「そう?女の子が好きそうな顔してるのに」
とゆまは言ったが、
 
「この子の場合は、むしろ女の子たちから好かれるタイプですね」
などと、ゆりこが言う。
 
「ああ。ルンバちゃん、女子校でバレンタインたくさんもらってたでしょ?」
「そうでもないですよ。毎年せいぜい20-30個だったし」
「ボクより多いじゃん!」
とゆまは言った。
 
そんな会話をしていた所に私が到着したので、ゆまの“ビアン講座”はそこで中断されたらしい。
 

少し時間を戻す。
 
2020年8月7日(金・大安・ひらく)、AYA・ゆみは所属事務所$$アーツの前橋社長と一緒に記者会見を開き、AYAが本日付けで$$アーツから独立して、個人事務所“ヴァッセルヴァルト(Wasserwald)”を開設することを発表した。
 
(AYAは元々、あすか・ゆみ・あおいの頭文字をとってAYAだったが、あすか・あおいが脱退してゆみのソロプロジェクトになっている。でもずっと1人なのでAYAがゆみの個人名と誤解している人も多い)
 
但し$$アーツとの業務委託契約を結び、仕事については$$アーツも窓口になる。またレコード会社(★★レコード)との契約はこれまで通りである。
 
Wasserwaldというのはドイツ語で“水の森”という意味で、ゆみの本名・水森優美香の苗字に由来する。
 
ヴァッセルヴァルトは資本金2000万円で設立される。ゆみの初代マネージャー高崎充子、現マネージャーの井深圭子の2人も$$アーツを退職して、ヴァッセルヴァルトに移籍する。高崎は“専務”、井深は“総務部長”に就任する。株式はゆみが66%, 高崎が34% を所有する。基本的には高崎が企画・営業面、井深は日常の事務やスケジュール管理に付き添いなどを担当する。
 
(高崎さん、鮎川ゆま、それに私はドリームボーイズの元バックダンサー仲間である)
 
AYAは2008年以来12年間$$アーツに在籍してきた(活動開始は2007年だが、当時は所属事務所が決まっていなかった)が、このタイミングで独立するのは、今後はマイペースで仕事をしていきたいからと述べたが、ネットでは$$アーツは企業的な事務所だから制約が多かったので、それから自由になりたいのではという見方が多かった。
 
「でも水森の苗字を使うんだね。お父さんとは確執があったみたいだし、旧姓を使いたくなかったのかな」
 
「遠上笑美子がいづれ合流するのだと思う。そのために2人の共通苗字である水森を使うんだよ」
 
などと、ゆみたち姉妹の家庭事情を知っている古くからのファンの間では意見交換があった。
 
しかしこれで08年組で大手・中堅事務所に在籍したまま活動しているのはKARIONだけになった!
 

それに先立つ8月1日、龍虎はゆみから、彼女が所有するマンション(4LDK2S-WTC, 専有面積160m2)を2億円で買い取る契約をした。今月中には荷物を彼氏の家に移動して、クリーニングしてから引き渡すねと彼女は言っていた。
 
結果的にはこの2億円がゆみさんの開業資金(と多分移籍金の一部)になったんじゃないかなと龍虎は想像した。もっとも彼女の年収は恐らく3〜4億円はあるだろうから、元々資金力はあったのではという気もする。ただお世話になった事務所に義理立てして、今までは独立を控えていたのだろう。結婚は独立するのに良いタイミングだ。レコード会社としては、AYAのCDはドル箱なので、独立してもしっかり営業してくれるだろう。
 
「ゆみさんの年齢になると、結婚したからといって人気が急落することは考えられませんよね」
とアクアはたまたま事務所に出て来た時、川崎ゆりこ副社長と話した。
 
「だと思うよ。ファンも多くはお祝いムードだしね」
「みたいですね。ツイッターは“おめでとう”で埋め尽くされていたし」
 
「アクアも今更性転換しても人気が急落したりすることはないだろうね」
とゆりこは言う。
 
「そうですかぁ?」
 

「アクアの人気が急落するとしたら、声変わりした場合だよ」
「うーん。でもそれいつかは起きますからね、言っておきますけど」
「だから、人気急落を防ぐために去勢しよう」
「結局はそこですか」
「手術は30分もあれば終わるらしいよ」
「遠慮します」
 
「だってみんなアクアは既に去勢している、あるいは性転換していると思い込んでいるから今更去勢しても何も影響無い」
「ボクは困ります」
「精液は保管しているんだから、別に睾丸とかなくてもいいじゃん」
「ボク将来は女性と結婚したいですー」
「睾丸とか、更にはちんちんが無くてもアクアと結婚したいという女の子はたくさんいるよ」
「うーん・・・」
 
「どっちみち、いづれは女の子になるんでしょ?だったら去勢くらいいいじゃん」
「女の子になるつもりはありません」
「可愛いスカート姿でそんなこと言っても説得力無い」
 
「出がけにズボンが無かったんですよぉ。昨日3本も買っておいたのに」
「アクアの家ってブラックホールでもあるの?」
 

2020年8月8日(土).
 
この日は政子のお父さんの65歳の誕生日で、この日をもってお父さんは長年勤めた百貨店を退職した。最後の役職は、2013年夏以降約7年間務めた、仙台店店長である。
 
お父さんは単身赴任していたのだが、退職の翌々日、8月10日(月)に仙台のアパートを引き払い東京の自宅に戻った。引越の手伝いには誰も行っていない!
 
政子は妊娠8ヶ月目なので動けないし、力仕事などは絶対にさせられない。お母さんは「不要不急の移動は自粛」と言って、行かなかった。それでお父さんは引越屋さんに頼んで荷造りをしてもらい、荷物の移動をしたのである。お父さん自身は自分の車(クラウン)で東京まで走って来ている。
 
またお母さんは、政子に「万一あんたがコロナに感染したらまずいから」と言って、お父さんが東京の家に戻った後、2週間、政子が実家に来るのを禁止した。政子としても実家に居るとあれこれ言われるので、恵比寿の私のマンションにいる方が気楽である。(あやめはずっとお母さんが実家で面倒を見ているが、政子はあまり母親という自覚が無い)
 
そういう訳でお父さんの退職慰労会のようなものは曖昧にされた!
 

ところでお父さんのクラウンを駐める場所であるが・・・
 
「あ、駐める場所が無い」
と政子は言った。
 
政子がこの春に隣の敷地に作ったガレージには3台の車を駐めることができる。1台がお母さんのフィット、1台が政子のアクア、そして1台は来客用ということに設定していた。取り敢えずは来客用の所にクラウンを駐めたものの、これではお客様があった時に車を駐められない。お父さんはスペースがたくさんあるから、ガレージの外に駐めればいいと思ったようだが、それはマズイのである。
 
「お父さんが戻ってくるの分かってたのに、なんで4台駐められるようにしなかったのさ?」
と言ったが、政子もきれいに忘れていたようである。私も思い至らなかったが!
 
ちなみに千里に照会してみたが、あそこは3台駐める前提で結界を作っているから、4台駐められるようにするには、いったん敷地全体に敷いたコンクリートを撤去して結界を作り直してから、再度コンクリートを敷き、ガレージを作る必要があるらしい。作業も(結界が安定するまで)最低2ヶ月必要で費用も最低4000万くらいは欲しい、という話だった。4000万というのは、きっと千里の取り分無しの実費だろう。むろんその間は駐車場が全く使えなくなる。
 
そこで、政子は自分が建てた離れの1階に車を駐められるように改造できないかと工事をしてくれた工務店に打診した。工務店は1階の床を撤去して土間仕様に変更するとともに、1階の壁をシャッターに改造してくれた(強度不足になる気がするが、そこは目を瞑る)。それでここに1台駐めることができるようになった。駐車場との間の塀の一部もアコーディオン・フェンスに置換してくれたので、そちらからこちらに容易に車を移動できる。この離れ1階の駐車スペースは“多く歩かなくて済む”と言って、お母さんがいちばん使うことになる。
 
「強度不足の件は、地震が起きる時はここに居ないようにすればいいよね」
「それどうやって分かるのさ?」
 

千里が西湖の住んでいたアパートを崩して新たに建てていたマンションであるが、ムーラン建設が施工して、8月末完成の予定で工事が進められていた。結局、このような構成になるらしい。
 
玄関は北側で、各階とも廊下が通っている。当面窓を開放して運用する。南側にはバルコニーがあり、非常脱出路を兼ねる。階段はエレベータのそばにひとつと西側の非常階段がある。地下室も北側に廊下があり、南側は空堀りで、やはり非常脱出路を兼ねる。当面換気のため空堀との間のフランス窓を開けて使用する。
 
完成予定図(§§ミュージック入居後)↓

 
↑で例えば6×8とは、6半間(5.4m)×8半間(7.2m)の部屋ということで6×8=48で、48半畳=24畳=12坪ということになる。平米で言うと12×3.3=40m2.
 
地階:会議室・音楽練習室×3(内1つは西湖専用)
1F:多目的室(109)・フロント(100)・管理人住居(101)・スタッフ室(102)
2F:201-204(1K), 205(1DK)
3F:301-304(1K), 305(1DK)
4F:401-403(2DK)
5F:501-503(2DK)
6F:241(2LDK), 243(3LDK)
 
管理人住居以外に18戸である。243が西湖の部屋で、オーナーズルームである!
 
6Fの部屋番号が不思議なのだが、西湖の部屋の部屋番号を243にしたかったからこうしたと千里は言っていた。
 
「2+4=6 だから問題無い」
とも言っていたがなぜ足す?しかし243って何の数字だろう?考えてみたが分からなかった。西見?? 245なら“西湖”かもしれないが!?
 
(但し西湖の読みは“せいこ”:杭州市の西湖(せいこ/Xi-Hu)が由来)
 
241も入居者は決まっていると言った。それで5階以下を不動産屋さんに委託して、たぶん賃貸にしようかなという話であった。
 

私は彼女に言った。
「半年くらいでいいから、1-3階を貸してくれない?」
「いいけど」
「家賃は月100万くらいでもいい?」
「そんなに要らない。10万でいいよ」
「そんなに安くていいの〜〜!?」
「趣味の建築だし」
 
確かに無意味に体育館を建てる趣味はあるようだが!?
 
しかしさすがに10万では悪いので月50万円払うことにした。
 

実はコスモスとも話し合い、男子の信濃町ガールズが増えているので、彼らのために、やはり“男子寮”を建てようということになった。川崎ゆりこ提案の“男の娘寮”は却下である。むろん食事に女性ホルモンを混ぜたりもしない!
 
男子寮の場所として、女子寮のある足立区とは離れた場所にしたかったことから東京都区内の西部方面を探した。東急田園都市線の桜新町駅から歩いて8分ほどの場所に300m2の売り地があったので、そこを2億円で購入した。ここに5階建て・15室程度のワンルームあるいは1Kタイプの部屋で構成するマンションを建てそこに男子メンバーに入ってもらおうという計画である。
 
それで、それを建築するまでの間、仮の男子寮として、千里が建てたマンションを使わせてもらおうと考えたのである。桜新町と用賀は隣の駅なので生活圏を変更する必要もない。
 
寮にするなら食事を用意しなければならないので、1Fをまるごと借り、管理人住居の隣のスタッフルームを調理室に改装し、多目的室をキュアルーム(後述)にすることにした。置き配方式で食事を配る。
 

調理係として栄養士などの資格を持つ専門家を雇おうかとも思ったのだが、「寮生はプロの料理は求めません」と桜木ワルツが言ったので、寮生の誰かのお母さんに頼めないかと考えた。管理人住居に入ってもらい、寮母になってもらうのである。
 
その時、私は門脇真悠(大崎志乃舞)のお母さんのことを思いついたのである。
 
現在、真悠のマンションに同居しながら適当なアパートを探しているらしいが、東京は広すぎるし、交通にも不案内で、住宅情報誌とか見ても高い所ばかりでアパート探しは難航しているという話を聞いていた。
 
「門脇さん、今度§§ミュージックの男子寮を作ることにしたのですが、そこの寮母とかしてもらえたりしないでしょうか?」
 
「それって住み込みですか?」
「そうです。2DKのお住まいを提供します。むろん家賃は要りません」
「仕事の内容は?」
 
「基本的には寮生たちに朝と晩の御飯を作ってあげることがメインです。調理の手が足りなければパートさんとか雇ってもいいです。それより、寮生たちのお母さん役になってあげて、何かの時に話し相手とか相談相手とかになってあげられたらと思って。一般的な悩み事に関してはカウンセラーさんを雇うつもりですが、カウンセラーさん向きではない相談事ってあるでしょう?例えば『どっちの服がいいですかね?』とか『ケイ会長、むかつくー』みたいな話とか。そのあたりを考えると実際の男子アイドルのお母さんが最適なんですよ」
 
「うちの息子2人とも女の子になっちゃったから(1人は進行中だけど)、私が寮母したら、寮生がみんな男の娘になっちゃったりして」
 
「それは実用上問題ありません」
「問題無いの〜?」
 
ということて、引き受けて下さったのである。それで、門脇一家は、取り敢えず8月末完成予定の千里所有のマンションに引っ越してもらう(101の管理人住居に入る。隣の102のスタッフルームを調理室とする)。
 
(再掲1F部分)

 
そして桜新町の男子寮が完成したら、そちらに移動することになった。それで、真悠の弟(妹?)の瀬那もその桜新町から近い中学に転入することにした。彼(彼女?)が男子中学生になるのか女子中学生になるのかは、現時点では不明である!?らしい。
 
「すぐ近くに今井葉月が高等部に通学している女子校のS学園中学高校もあるけど」
と真悠が唆すように言うと瀬那は
「え〜?私立は授業料高くない?」
などと言っていた。
 
いや、問題は授業料のことではない!
 

私はローズ+リリーの音源制作のお手伝いで高岡から東京に出て来ている、上野美津穂さんと話し合った。
 
「上野さん、カウンセラーなんだそうですね」
「はい、でも認定心理士と産業カウンセラーの資格しか持ってないんですよ。その上の臨床心理士の資格も取りたい気はしたけど、あれって大学院まで修了しないといけないから、そこまで親に負担を掛けられなかったし」
 
「だったら東京でその大学院に通わない?」
「え?」
「それで良かったらその傍ら、うちのタレントさんたちの相談員とかになってもらえたらという魂胆なんだけどね」
 
「でも私、1ヶ月ちょっと実務やっただけですよー。それもリタイアしちゃったし」
「青葉から聞いたけど、1000人くらい従業員のいる会社で毎日10人くらいの相談に1人で、のってたらしいね。それでは身が持たないよ」
 
「ええ、それで退職したんですけど」
 
「うちはそもそもタレント、研修生に練習生まで入れても100人程度だし、そんなに負荷は掛からないんじゃないかなと思うんだけどね。それにこういうのは人生経験豊かなベテランの40-50代の人に話を聞いてもらうのもいいだろうけど、10代の子が多いから、むしろ年齢の近いお姉さんとかの方が相談しやすいと思うんだよ」
 
「それはあるかも知れないですね」
 
「もししてくれるなら、大学の通学時間を避けて夕方から6時間程度で、土日祝休みで、月60万円とかの線ではどうだろう?」
 
「やります!」
と美津穂は即答した。
 
彼女は§§ミュージックと直接の利害関係が無い立場でなければまずいので、サマーガールズ出版で雇用する形にした。女子寮の寮母をしている高崎ひろかの母などと同様の扱いである。門脇真悠のお母さんも同じ扱いになる予定だ。
 
上野さんは『龍たちの讃歌』の制作が終わっても、当面女子寮にそのまま住んでもらい、9月以降は1日おきに男子寮の相談室に赴くことにした。行かない日は女子寮に設定するカウンセリングルームで相談に乗る。つまり男子寮と女子寮に1日交替で詰めることになる(偶数日=女子寮/奇数日=男子寮)。また、臨床心理士の受験資格が取れる大学院の秋入学試験を受験することにした。
 

8月17日(月).
 
アクアの5番目のオリジナル写真集『アクア:カナダの休日』が発売された。タイトルからは Canada国での大自然をバックにした写真を想像した人もあったが事前にテレビやネットで“撮影地:福岡県旧金田(かなだ)町”というのが、広く宣伝されていたので、多くの人がその盛大なジョークに大笑いした。
 
「日本にはハワイもあるしUSAもあるし」
「実はソビエトもある」
「シカゴ(**)もあるよね」
 
(**)和歌山県四箇郷村。現在は和歌山市に編入されている。
 
「カナダ国とカナダ町の違いだな」
「CanadaとKanadaの違いね」
 
しかし問題は内容であった。全編女子水着姿のアクアである。
 
「セクシーだ!」
「あかん。立っちまった」
「いや、これは立って当然」
という男子たちの声。
 
「可愛いー」
「身体の線がきれい」
「私もこういうボディラインになりたい」
という女子たちの声。
 
テレビ番組でも多数取り上げられ、早く買った人たちが一部の写真を無断でネットに転載したりもして、どんどん評判が広がっていく。
 
写真集はどんどん売れた。
 
たくさん売れることを見込んで書店などでは大量に平積みにしていたが、それがどんどん、はけていく。
 
ロマンティック街道の写真集が現時点で30万部売れていたのだが、今回の写真集はそれを大きく越えそうな勢いで売れ続けていた。
 

「水着写真なのに、まるでヌード写真ででもあるかのような色気を感じる」
「それはさすがヌードの熟練写真家・室田英之だもん」
「鹿島信子の『Lucifer Girl』を撮った人だよね」
「今回のはあの路線だと思う」
 
「今回の写真集って、やはりアクアが性転換して女の子になった記念?」
「アクアはとっくの昔に性転換していたはず」
「だけど男子水着写真で胸が無い写真も入っているよ」
「それ絶対加工したものだと思う」
 
「取り敢えずアクアが女だというのは確定だな」
「やはりアクアは女の子になりました、という発表をするための地ならしじゃないの?」
「いや、わざわざ発表しなくても、男でこんな写真が撮れる訳無い」
「バストを除いても身体のラインが間違いなく女だもんね」
 
「去年のタヒチでの水着写真より更に女らしく進化している気がする」
「そうそう。タヒチでの水着写真は12-13歳の女の子くらいのボディラインだったけど、今回のはもう14-15歳の女子のボディラインだと思う」
「やはり女性ホルモンが利いてきて身体がどんどん女として成長しているのだと思う」
 
「アクアは今年の紅白では紅組から出るべきだな」
 
「やはり女の子だよねー」
「元々女の子だったのか、性転換して女の子になったのかは分からないけど」
「既に戸籍の性別は変更済みという説もあるね」
「だいたい、アクアに生理があるという話が、わりと昔から、アクアに親しい女性タレントから結構出ていた」
 
といった感じで、アクアが女の子であると信じる人が大半な感じであった。
 

「じゃ9月1日くらいにアクアは女の子になりましたという記者会見しようか」
などと川崎ゆりこが言うので
 
「そんな記者会見はしないし、ボクは男の子です」
とアクアは言っておいたが、-
「いやもう日本国内にアクアが男の子だと思っている人は1人もいない」
とゆりこは言っていた。
 

写真集の巻末7ページについては意見が割れた。
 
この写真集は先頭の10ページに、青い振袖を着たアクアの写真が出ている。この振袖写真自体、凄く可愛いと高評価であった。
 
その後、80ページにわたって、水着のアクアが続く。だいたい8割がワンピース型の水着やラッシュガードをつけている。残り2割がビキニの水着である。このビキニの写真では、アクアのお腹に大きな傷があるのが映っているが、この傷を気にするファンはいない。
 
ちなみに80ページの写真に映っている水着の種類はしっかり数えた人によるとラッシュガードも含めて34種類らしい。
 
この80ページにわたる34種類の女の子水着写真を見る限り、この子が女の子ではないとは誰にも信じられない。
 
しかしその女の子水着写真の連続の後に唐突に3ページに渡って男子水着を着たアクアが映っている。これは胸を曝しており、バストが全く無いのが見える。この男子水着写真にもお腹の手術跡はちゃんと映っている。
 
わざわざコピーして重ねてみた人もあったようだが、傷跡の形は完全に一致する。ついでにボディラインもパソコン上で遠近法的に伸縮させて重ねてみると完全に一致する。それなのに、男子水着写真に写っているアクアにはバストが無い。男のように平らな胸である。ただ乳首は普通の男の子に比べるとやや大きい。
 
この3ページの先頭には「でもボク男の子だよ〜ん」という文字が躍っている。実は写真集の帯にも、「撮影地:福岡県旧金田(かなだ)町」という注記と並んで「アクアは男の子アイドルです。女の子ではありません」という注記まで書かれている。これは多分、商品の不当表示に問われるのを避けるために付けたものと思われる。どちらも充分目立つ大きな字で書かれている。もっとも
 
「男の子だなんて誰が信じるか!」
 
と多くの人に言われたのだが。
 

その3ページの後には、撮影した室田さんとアクアの対談が3ページあり、撮影時の想い出を語っている。その中では、わずか1日でこの撮影をこなしたので、現場でどんどん水着を着替えたこと、室田さんは着替えの最中は後ろを向いていたことなどが記されている。
 
「いづれ君のヌード写真も撮りたいんだけど」
という室田さんに対して
「じゃ、お嫁さんに行く前に」
とアクアは答えており、
 
「やはり嫁に行くつもりなんだ!」
と言われた。
 
そして最後の1ページに "Making of Female Aqua" という写真図解が掲載されていた(「撮影:川崎ゆりこ」と書かれている)。最初のコマでは、ビキニ水着のパンティ部分だけつけて、上半身裸で平らな胸を曝したアクアが映っている。ゆりこの字で「材料1:男の子」と書かれている。
 
次のコマには“おっぱいパーツ”と接着剤が映っている。ゆりこの字で「材料2:おっぱい」と書かれている。
 
そしてそれを片方だけ胸に接着した様子、もう片方も接着した様子の写真があるが、これは胸の部分だけ映っていて、アクアの顔は映っていない。更にそこにビキニのブラ部分をつけた写真もあるが、これにもアクアの顔は映っていない。
 
そして最後はビキニの上下をつけたアクアの写真があり、この写真では胸は膨らんでいるように見える。そして“女の子アクアのできあがり♪”という、ゆりこの字が躍る。
 
最後に「男の子+おっぱい=女の子」などとも書かれている。
 
(「いや、おっぱいだけではないだろ?もっと重要なパーツがあるだろ?」というツッコミ多数)
 

このメイキング写真については、実際にブレストフォームを愛用している男の娘さんたちから
 
「確かにブレストフォームを使えば偽装できると思う。接着剤で貼り付けると結構な耐久性があるんだよ」
 
「これ凄く精巧。たぶんオーダーメイドのブレストフォームだと思う。肌の色と正確に同じにしてあるもん」
 
といった意見が出ていた。
 
だいたいアクアがドラマなどの撮影で女の子役をする時はブレストフォームを使用していることは以前にも明らかにしていた。
 
しかし、それはただの建前では?という意見も強い。
 
本編のビキニ写真をパソコンに取り込みPhotoshopで超拡大してみて
「ブレストフォームなら存在するはずの、肌との境目が見つからない」
という分析結果を報告していた人もあった。
 
つまり本当にバストがある人のビキニ写真としか考えられないのである。
 
それでやはりアクアは実際におっぱいがあり、胸が平らな写真は加工したものではという意見が多数であった。
 

そもそももっと大事なのは、アクアが女の子水着をつけている多くの写真について、男の子であるなら、付いているはずのものの痕跡も見当たらないという意見が多い。股間のラインが女の子の股間としか思えないのである。
 
水着の下にはアンダーショーツを着けているようではあったが、1枚だけ微かに縦の割れ目と思わしき線が薄く映っているものがあることを指摘した人があった。多くの人がその指摘された写真の股間部分を自分のパソコンで拡大してみて、やはりこれは**筋だと思うと判断した。
 
そもそも最後のページのメイキング画像でも、下は普通のビキニのパンティで、男性器が存在するような気配は無い。
 
だからどっちみちアクアには男性器は存在しないし、たぶん女性器が存在すると多くの人が考えた。そして女性器が存在するなら、おっぱいもあると考えた方が自然だと多くの人は言ったのである。
 

ただ、これにまた異論があり、アクアが胸を曝している4枚の写真(男子水着写真3枚とメイキングの所のビキニのパンティだけをつけた写真)について、パソコンにスキャナで取り込んで超拡大して加工の跡を探した人が複数あったのだが、誰も加工の跡を見つけることができなかったのである。
 
Photoshopなどのソフトで加工した場合、どうしてもその修正の跡が残る。上手い人が加工すれば物凄く自然になるけど、それでもその手の加工に慣れた人が見ればだいたい分かる。これにはそういう点がない。
 
つまりこの写真は加工されていない写真としか思えないというのである。
 
実際、室田さんも「俺は写真では嘘をつかない」と発言していた。
 
それで、やはりメイキングにあるように、これは胸の平らな子(多分男の子)のリアル写真と考えられるという意見が出る。
 

そこで唐突に浮上してきた第3の意見があった。
 
「ひょっとしてアクアって実は男と女の双子なのでは?」
という説である。
 
「それなら傷跡が同じであることが説明できない」
「片方は偽装かも知れない。傷のある方の写真を撮って、それを元に精巧に作った“付け傷”を貼り付けたのかも」
 
「しかしいくら双子でもボディラインが完全に一致するだろうか。特に男女であればホルモンの関係で絶対に同じボディラインにはならない」
 
ということで、双子説は、あまり支持を得られなかったのである。
 

「まあアクアの性別については現在のところ3つの説がある」
とその日、うちに来ていた光帆は言った。
 
「3つ?」
 
「1つの説はアクアは元々女の子だったけど、男の子のふりをしていた」
「ふむふむ」
 
「1つの説はアクアは男の子だったけど、性転換手術をして女の子になった」
「あの子、とてもそんな手術受ける時間は無かったはずだけど」
「それがこの説の重大な欠陥なんだよね」
と光帆は言ってから
 
「最後の説は実は半陰陽で、デビューの頃は男の子っぽかったけど、本来は女の子だったので卵巣の活動が活発化するにつれてどんどん女らしくなってきて、ついに性器を是正する手術を受けて完全な女の子になった」
 
「アクアは男の子だという説は?」
「それは全くあり得ない」
 
「男女双子説は?」
「却下。そもそも2人いるなら、高額納税者番付に名前が2人分出てくるはず」
「それは鋭いけど、最近報道されているものはマスコミの推定値にすぎないから」
「税務署が発表した数値じゃないの?」
「その制度は廃止された。強盗推奨してるみたいなものだし」
「まあいいや」
 
光帆はいくつかの写真を並べた。
 
「これはハワイで撮ったファースト写真集の水着写真、これはプーケットで撮った2冊目の写真集の写真、これはタヒチで撮った3冊目の写真集の写真、4冊目のロマンティック街道のは水着写真が無いけど、これが今回のカナダで撮った水着写真」
 
「で?」
 
「明らかに女子として成熟してきてるんだよ。1枚目のは小学生並みに性別未分化。でもプーケットでは少し女らしさが出て来ていて、タヒチではもう初潮が来るくらいの年齢の女の子の身体、そして今回のは女子中学生くらいの女体になっている。つまり、ここ数年で女性ホルモンの働きで急速に女らしさが増してきている。これを説明するには、半陰陽説がいちばん自然なんだよね。性転換説だと、身体がもう少し男っぽくてもいい。この子の身体には男性ホルモンは全く作用していない。でも、元々女の子であったのなら、成長が遅すぎる。半陰陽説は、そのあたりをいちばんうまく説明する」
 
「ほほお」
 

ところが、極めて少ない“アクア男の子説”の人たちを勇気づけるものが公開されたのである。これはアクア女の子説があまりに強くなったことに危機感を抱いた、アクア・プロジェクトの事実上のリーダーである和泉が仕掛けたものである。
 
この夏に放送回数4回という短編ドラマ『サーファーたちの夏』が放送された。主演は最近話題の大学生男子バンド・スリルボカンの4人で、ヒロインとして松梨詩恩が出演しており、その松梨詩恩のビキニ姿が可愛いというので若い男子たちが熱心に見た。そのドラマの第4回(最終回)にアクアがゲスト出演したのである。
 
彼は松梨詩恩の“弟”で、九州の方に住んでいたが姉を訪ねて湘南に来たという設定だった。そしてそのアクアもサーフィンが好きということで、水着を着てサーフボードに乗るシーンがある。
 
これは一般の人たちもいる中で撮影されており、ここでアクアが撮影クルーや他の出演者、そして偶然その場にいた一般の人たちに水着姿を曝している。
 
“妹”ではなく“弟”という設定なので男子水着を着ている。当然胸を曝しているが、胸は男の子のように平らである。ただ、写真集でも指摘されていたが
 
「君、ちょっと乳首が大きいね」
と主役の男の子に言われ
 
「ボク、少し女性ホルモンが強いみたい」
「ああ、確かに体型だけ見たら女の子っぽい。最初ナツミの妹かと思った」
などという会話を交わす。
 
しかし大事なことは!アクアに胸が無かった!!ことである。
 

この撮影は見ていた一般の人がわりといて
 
「アクアちゃんってやはり男の子だったのか、とびっくりしたよ」
という投稿が複数あった。
 
更に元々高校でアクアの同級生でもあった松梨詩恩はこんなことをテレビのバラエティ番組で発言した。
 
「今回の撮影ではアクアの胸を見てるけど男の子みたいな胸だったよ。あの子の乳首が大きいのは、彼の中学の時の同級生によると、それこそ病気治療で一時期女性ホルモンを使っていたかららしい。中学生の頃は一時的に少し胸が膨らんでたらしいけど、少なくとも高校の頃はもう平らになってたね。それと、ナイショの話だけど、高校でどさくさまぎれにアクアちゃんのお股触ってみたことあるけど、ちゃんとちんちんあったよ」
 
この大胆発言には松梨詩恩のファンからも悲鳴があがった。
 
(テレビで堂々と発言して「ナイショの話」も無い、というツッコミ多数)
 
しかしドラマでサーフィンをするシーンに加えて松梨詩恩の発言もあり、確率は低いけど、アクアはひょっとしたら男の子なのかもという人が少しだけ増えたのであった。
 
それに今回は高校の同級生であった松梨詩恩が共演しているので、顔がよく似た身代わりの男の子を使って誤魔化す、といったことも不可能である。
 
それで“アクア実は男の子説”も少し増えたものの、写真集の売り上げには全く影響が無い。『アクア:カナダの休日』はどんどん売れ続けたし、8月下旬になると、福岡県旧金田町の宮田伯爵旧邸を聖地巡礼する人たちも出始めた。邸内は写真撮影も自由なので、写真集のアクアと同じ場所で同じポーズで記念写真を撮ってネット投稿する人たちも多かった。
 
この写真集の売上は年末までにプーケットで撮った写真集『Double Green Sea』(2017)の部数を越える120万部に到達した。室田作品としても『Lucifer Girl』(2015)の53万部を越える最大のヒット作となった。それで室田さんに水着写真を撮ってほしいというアイドルや女性ミュージシャン・女優などからの引き合いが増えたのであった。
 

コスモス社長は
 
「取り敢えずアクアの写真集は女の子写真だけでいいことが分かった」
 
などと言っていた。アクアMが不満そうな顔をしている。
 
「あ、そうそう、アクアの去勢手術、日程は決めずに予約だけしておいたから、都合のいい日を病院に連絡して受けてきてね。誰にも見られないように病院の営業時間外に手術してもらえるらしいから」
 
と言ってコスモスは病院の封筒を渡す。
 
「それ断固拒否します」
とアクアMは言った。
 
「親権者の長野支香さんにも田代の御両親にも承諾してもらったんだけど」
「ボクが承諾しません」
 
 
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【夏の日の想い出・龍たちの讃歌】(5)