【夏の日の想い出・龍たちの讃歌】(4)

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大崎志乃舞(本名門脇真悠)は、2016年のロックギャル・コンテストで3位に入り、§§ミュージックの研修生になった。男の子(男の娘?)であることを除けばとても優秀な子で、ドラマの端役などをやらせて度胸をつけさせていた。2018年12月で桜野みちるが引退した後は“信濃町シスターズ”のみちるの後任に選任。『3×3大作戦』に出演するようになり、2019年秋には別の局でもレギュラー番組を持つことになる。彼はあまりにも完璧に女の子なので、テレビ局でも“オカマ枠”ではなく、普通に女性タレント扱いだった。彼は2020年春に突然身体の変調が起きて、女の子の身体に変わってしまったので、裁判所に申請して性別を女に訂正し、通っていた高校でも男子生徒から女子生徒に身分を変更されて、“女装男子高校生”(女子制服での通学を認められていた)から本当の“女子高生”になった。
 
彼女の“性変”については、テレビ局の人たちも「ああ、本当は元々女の子だったから、あんなに女らしかったんですね」と“理解して”くれて、以降、全く普通の女性タレントと同じ扱いになった。
 
「ところでアクアちゃんも半陰陽で実は遺伝子的には女の子だったってのはいつ発表するんですか?」
などと随分訊かれたが!
 
彼(現在は彼女)はロックギャル・コンテストに上位入賞はしたものの、肉体的には男子だったので(最初から「ボクは男の子だけどもし優勝したら女の子歌手になります」と言っていたので、選考除外せず普通に審査した)、足立区の女子寮に入れるわけにはいかなかった(入れると女子たち“から”セクハラされるのが確実)。それで西宮ネオンが住んでいたマンションの別の部屋を借りて、そこに住まわせていたが、2019年春に高校に進学した時、通学の便のため、その高校の近くのマンションに引っ越した。
 

さて彼女(元は彼)は徳島の出身なのだが、彼女のお父さんが今年7月、東京に転勤になってしまった。実はお父さんが勤めていた徳島地場の会社の経営が行き詰まり、全国規模の同業会社に救済合併された。それで結構な整理が行われ、どうも転勤を拒否するなら辞めなさいという感じだったようである。お父さんは転勤を選択したら、東京支店に異動になった(本社は大阪)。
 
異動辞令があまりにも急だった(月曜日から東京で勤務するようにと金曜日に言われた)ので、一家は取り敢えず、東京の真悠のマンションに一時的に同居することにした。それで少し落ち着いてから、あらためて住む所を探そうということになった。真悠には弟(?)がいて中学生なのだが、住むことになる場所が不明確なので、それを決めてから転校先は決めようということにした。
 
「瀬那も立派な女子中学生になったみたいだなぁ」
と真悠は弟(妹?)に言った。
 
「5月まで休校だったし、6月に入ってからも週に3回の登校だから、性別問題は気付かれなかった。だからこれ私の転出校の書類」
 
と言って、瀬那が見せた向こうの中学の書類では、瀬那の性別は“女”になってる。
 
「だったら、お前、女子中学にも転入できるな」
と真悠は言う。
 
「ちょっとそこまでやるのは恐い」
と瀬那。
 
「何なら夏休み中に性転換手術しちゃってもいいし。そしたら夏休み明けには堂々と女子中学に入れる。手術代くらい出してやるよ」
 
「手術?」
 
「どっちみち、その内手術したいんだろ?」
「まだちょっと心の準備が」
「ちょっと女の子には余計なものを切り取って、お嫁さんになるのに必要なものを作るだけだよ。3時間もあれば手術は終わるよ」
 

『2020ビデオガールコンテスト』の二次審査は、一次審査通過者98名を12-13人ずつ8個のグループに分け、4つの審査員チームが午前と午後に1グループずつを審査した。それで各グループの上位2名、特に惜しい人がいる場合は3位までが本選進出である。
 
ちなみにこのグループは一次審査で優秀と思われた人を分散して、レベルが揃うように分割している。例年は地域による差が出るのだが(昨年の石川県予選は異様にレベルが高かった)、今回は実力のある人が本選に進出しやすいようになっている。各グループの審査委員長・副委員長はこのようになっている。
 
AB 秋風コスモス・桜野レイア
CD 川崎ゆりこ・桜木ワルツ
EF ケイ・醍醐春海
GH 日野ソナタ・山下ルンバ
 
昨年のロックギャルコンテストで2位になり、デビューを勧めたものの「(優勝の)月乃さんがあまりに凄かったから鍛え直してきます」と言っていた、雪渡知香は一次審査をトップの成績で通過。Aグループのラストに入れられている。優勝候補のトップである。彼女はこの1年で随分進化したようで、歌もパフォーマンスもかなり進化していた。
 

初めて副委員長を拝命した、桜木レイア・山下ルンバ・桜木ワルツの3人は、「うっそー!?」などと言って焦っていた。
 
結局この二次審査で20名が本選に進出した。今回ダークホースとなったのは、Gグループの先頭(つまりグループ内で一次審査が最低点)て出てきた須舞恵夢であった。彼女は伸びのある声と明瞭な受け答えでGグループの1位合格となった。あらためて一次審査の彼女のビデオを確認してみると、スマホで録画したものであるが、アングルが悪い上に遠すぎて声がきちんと拾えてなかったようだ。自分で録画録音してもらっているのでこういうことが起きる場合もある。
 
(後にそれがわざとだったことが判明する)
 
二次審査は条件を揃えるために、Webカメラはこちらから送付したものを使用してもらっているし、自由に使えるパソコンが無いという子には適当なものを貸し出している。
 
しかしどうも雪渡さんと須舞さんの戦いになりそうな感じであった。ほかにB組1位の横山さん、E組1位の植野さんも有望である。植野さんは昨年は県予選を1位通過したものの、ブロック予選で小学生であることが判明し失格。「来年また来てね」と言っておいたのだが、今年は中学1年になり、堂々と一次審査・二次審査を通過した有望株である。歌も昨年より更にうまくなっていた。
 
通過した20人は、7月19日に東京に集めて本選をする予定である。そのため前日7月18日に、近くの子は車で、遠くの子は§§ミュージック専用機のホンダジェット、江藤さん所有のG650, 千里所有のG450(「貸して」と言ったら何かぶつぶつ言っていた) で手分けして東京に運ぶことにした。関東方面の進出者も前日に東京に呼んで一泊してもらう。これも全員の条件を揃えるためである。
 
ちなみに川崎ゆりこは
「この20人の中に男の娘は何人いるかなぁ」
などと楽しそうに言っていた。
 

ところで、5月上旬にFireFly20のアルバム、下旬にはColdFly20のアルバム、6月上旬にはWaterFly20のアルバムが相次いで発売されたが、どのアルバムにも月村山斗の名前は無かった。FireFly20は望坂拓美の曲、ColdFly20は桧山羽麗の曲、WaterFly20は近藤早智子の曲で全編が構成されていた。
 
この件に付いてFlyグループのCDを制作しているレコード会社の制作部長は記者団の質問に答えて、月村山斗さんがまだ入院中なので、横居剣一さんからの要請で、たまたま余力のあった実力派の作曲家に協力要請をして楽曲を作成 してもらったことを説明した。
 
「月村さんは何のご病気で入院しているんですか?」
と記者から質問がある。
 
「巷では新型コロナなのではという噂も聞くのですが」
 
この質問について制作部長はひじょうに厳しい顔をしてから
 
「COVID-19です」
と、この噂を初めて認めたので、記者会見は騒然となった。
 
「制作スタッフやFlyグループのメンバーなどには濃厚接触者はいなかったのでしょうか?」
 
「入院して以降は面会謝絶状態が続いているので家族さえも接触していません。入院直前に接触していたメンバーが数人いましたが、全員PCR検査の結果陰性でした。奥さんと2人のお子さん、月村さんのお母さんもPCR検査の結果陰性でした」
 

「月村さんの退院の見込みは?」
「まだ分からないそうです」
「意識はあるんでしょうか?」
「個人情報に属すので、お答えを留保させてください」
 
意識があるのなら、そう言えばいいわけで、答えないということは、つまり意識不明の状態なのだろうと多くの記者は判断した。
 
これが6月上旬のことだったが、下旬に入っても月村さんの容態は変わらないようだった。入院は既に3ヶ月以上に及んでいる。
 
しかし今回、望坂拓美の曲、桧山羽麗の曲、近藤早智子の曲で構成されたアルバムの品質が、過去のFly20グループの作品に比べて物凄くできがよい!と評判だった。
 
(もっとも制作費は過去のアルバムの10倍くらい掛かっている)
 
またFly20グループのCDは100万枚以上売れているにもかかわらず、ラジオなどで掛けられることは希れだったのが、今回は3月に発売されたWindFly20のアルバムもそうだが、結構ラジオや有線で掛けられ、ファン以外の人にも知られる曲が出ていた。
 

2020年7月14日、KGレコードの制作部長が「重大発表があります」と言ってネット記者会見を開いた。
 
制作部長は記者会見の冒頭、
「先日から入院中でありました月村山斗さんなのですが」
と言ったので、多くの人が亡くなったか?と思った。
 
しかし部長は
「何とか治癒して退院なさいました」
と言ったので、安堵の溜息が広がる。
 
「ただ困ったことに」
と部長は言った。
 
「ご病気は治ったものの、後遺症がとても酷い状況でおそらくかなりの期間、自宅療養が必要な状態です」
 
「ウィルスは消えているんですか?」
「はい。PCR検査を3回しておりますが、全て陰性です。しかし肺機能に深刻な後遺症が出ておりまして、自宅で酸素吸入が必要な状態です。当面作詞活動などはできません。そのため、月村さんはFly20グループの運営から引退なさることになりました」
 
記者たちは騒然とする。
 
「退院なさったのはいつですか?」
「7月2日です」
 
「退院なさってから発表までに随分時間がありますが」
 
「実は月村さんが辞任なさった後、Flyグループの処遇をどうするかについて関係各方面と折衝をしていたものですから」
ということで、その調整に時間が掛かったと説明した。
 

「それで、Flyグループですが、現在全部で15個のFlyグループがあるのですが、FireFly20, WaterFly20, WindFly20 の3グループのみを存続とし、残りは一応解散とさせていただきます」
 
騒然となる。
 
「但し下記にあげるグループは各々の地域を拠点に活動をしていたので、その地域で継承していただける所がないか打診しておりました所、11個のグループの内、8個で引き受け手が見つかりましたので、KGレコードのflyグループとは無関係にはなりますが活動を継続します」
 
と言って、制作部長は活動が“受け皿”の企業や団体により継続されるグループと、本当に解散されるグループをフリップボードで提示した。
 
企業または団体が継承するグループ
 
北海道 NorthFly20 →北海航空
青森県 AppleFly20 →津軽新聞
埼玉県 MinumaFly20 →武蔵通運
富山県 HotaruFly20 →富山硝子
兵庫県 RokkoFly20 →西宮バイソンズ球団
岡山県 MuscatFly20 →岡山アイドル応援団
愛媛県 MikanFly20 →伊予交通
熊本県 AsoFly20 →肥後酒造
 
解散となるグループ
 
秋田県 KomachiFly20
長野県 DiamondFly20
佐賀県 BaroonFly20
 

部長は一部のグループは名称が変更される可能性もあると述べた。
 
「ColdFly20も解散ですか?」
という質問かある。
 
「済みません。順序立ててご説明しますが」
と部長は言い、東京拠点の残り3グループの処遇について先に説明した。
 
「私たちはFlyグルーブに在籍している才能豊かな子たちのことを考え、何とかプロデュースを継承してくださる方が無いか、かなり探したのですが、さすがにこの数のグループを全部まとめて面倒を見てくださる方はありませんでした。そのため、各々のグループは別管理ということになります」
 

「FireFly20については、月村さんの古くからの友人であった横居剣一さんが引き受けてくださいました。従ってFireFly20はホワイト▽キャッツの姉妹グループということになります。事務所もホワイト▽キャッツと同じ事務所シルバー・ヴァインに移籍になります。ホワイト▽キャッツは萌枝茜音先生がメインライターなのですが、FireFly20は先日のアルバムを制作した縁で、望坂拓美先生がメインライターになってくださることになりました」
 
恐らく望坂拓美プロジェクトの中心人物のひとりである里山美祢子が萌枝茜音と親しい(里山美祢子の娘・本坂愛菜がホワイト▽キャッツの中核メンバー)ことからの縁では思った記者も多かった。
 
「WaterFly20についても、先日のアルバムを担当してくださった縁で近藤早智子先生が引き受けてくださることになりました。事務所は近藤先生が以前運営していた集団アイドル“色鉛筆”が在籍していた$$アーツです。楽曲も近藤早智子先生が提供してくださいます」
 
「WindFly20については、3月のアルバムはローズクォーツの皆さんを中心に楽曲を提供していただいたのですが、その縁でローズクォーツに楽曲を提供しておられる、上島雷太先生が引き受けてくださることになりました。事務所はローズクォーツの事務所である○○プロが引き受けてくださることになりました」
 
正確にはローズクォーツの事務所はUTPで、○○プロはUTPの親会社なのだが、まあいいだろうと多くの記者は思った。
 
「そしてColdFly20なのですが、どうしても引き受け手が見つかりませんでした」
と部長は述べた上で
「ただ」
と言葉を続けた。
 
「Cold Fly20 のメンバーを集めまして、君たちの受け皿になってくれる人が見つからなかったので、申し訳無いが解散にしたい、と言いましたら、一部のメンバーが自主制作でもいいから活動を続けたいと申し出まして、彼女たちに便宜を図ることにしました。それで ColdFly の名前を継承して、ColdFly5 と名乗ることを認めました。一応自主制作ですが、三宅行来先生が面倒を見て下さることになりました。事務所は三宅先生の紹介で♪♪ハウスが引き受けてくれました」
 
「ColdFly5ということは5人ですか?」
 
「そうです。メンバーは米本愛心、田倉友利恵、花咲鈴美、栗原リア、木原扇歌の5人で、米本愛心がリーダー、田倉友利恵がサブリーダーです。バンド編成で演奏する場合は、リードギター田倉、セカンドギター栗原、ベース花咲、ドラムス木原、キーボード米本、となります」
と部長が述べると、ひとりの記者が質問する。
 
「すみません。私はキハラ・オウカちゃんというメンバーまたは研修生の名前を知らないのですが」
 
東京拠点の4グループだけでも、研修生を含めると150人ほどいるFly20グループのメンツの名前を全部記憶している人は少ないが、そのひじょうに少ない内のひとりの名物記者・花沢恵一さんであった。この人は、AKBグループや坂グループのメンバーも全部言えるし顔を識別できるという凄い人である。集団アイドル博士号をあげよう、と東堂千一夜先生から言われたこともある。
 
「はい、実は彼女たちだけでユニットを組むということになった所で、花咲鈴美ちゃんが自分のお姉さんで歌の巧い木原扇歌ちゃんを入れてもいいかと言いまして、私と横居剣一さんで実際に彼女の歌を聴いてみますと、本当に上手いので参加を認めました。つまり彼女は新メンバーということになります」
 
「姉妹なのに苗字が違うんですか?」
「腹違いの姉妹だそうです。お父さんが同じです」
 
父親が同じであるにも関わらず苗字が違うというのは、つまり正規の婚姻をしてないのだろうと想像されたが、さすがにそこは記者たちも追及しない。
 
また制作部長はColdFly20のメンバーの中で元々FireFly20とWaterFly20からレンタルされていたダンサー6人は、本来の所属に戻ることになったことも明らかにした。
 

そういう訳で、AKB48などの48グループ、乃木坂46などの46グルーブなどに唯一対抗できる存在とまで言われた20グループは、グループとしては解散し、分割継承されることになった。Fly20グループの活動拠点となっていた
ネットサイト Fly Channel は2020年8月いっぱいで閉鎖されるということだった。閉鎖までは各々分割継承される各ユニットがライブ中継などに使用することができる。料金を先払いしていた会員には現金またはAmazonあるいは楽天のポイントで返還されるということだった。Amazon, 楽天のポイントでの返還を選択すると500ポイントサービスということだったので、ほとんどの人がその形での返還を選択した。
 

7月18日(土・友引・たいら).
 
丸山アイと城崎綾香の結婚祝賀会がネット中継方式で実施され、2時間丸ごとあけぼのテレビで生中継された。2人は既に7月6日(友引・さだん)に中野区でパートナーシップ宣言をしており(その前にアイが中野区の綾香のマンションに住民票を移動している)、その証明書をカメラに提示していた。
 
例によって“参列者”には予めお料理とシャンメリー(+引き出物)が届けられている。参列者はテレビ局の調整室の操作によりしばしばテレビ画面に映ることになる。一般の視聴者はテレビを通じてこの祝賀会を見る。
 
結婚式の司会はあけぼのテレビの専任アナウンサー第1号となった小林雪恵アナウンサー(**)が務め、BGMは丸山アイと同じ事務所のゴールデンシックスのカノンがエレクトーンを弾いて務める。
 
(**)元ΛΛテレビでその後フリーアナウンサーに転じたが3年前に結婚・妊娠して事実上引退していた−実は男の娘ては?という噂があったが、妊娠・出産で女の証明をした!
 
会場は都内のホテルを使用している。カノンが演奏するメンデルスゾーンの結婚行進曲(ドドドドー・ドドドドー・ドドドミッ、ミミミミッ・ミミミソッ、ソソソソッ、ソソソソッ、ドーシミ・ラソファレ、ド(trill)レソレミ)に合わせて“新婦新婦”が手をつないで入場してきて、メインテーブルに就く。
 
(2人が入場してきた時、小林アナウンサーは『参列者の皆さんは各自シャンメリーを開けて下さい』とアナウンスしていた。以前の祝賀会でこれを忘れていて慌てる参列者が続出したことがあったので、ネット祝賀会では必ずこのアナウンスが入るようになった)
 
新婦新婦の紹介代わりに、丸山アイの歌のビデオ、城崎綾香が藤原佐為役で出演している『ヒカルの碁』のワンシーンが、各々3分ほど流れる。
 
∞∞プロの鈴木一郎社長(今年で72歳)が簡単なスピーチをして乾杯の音頭を取った。このあたりは、メインテーブルにいるのが2人とも女性(に見える)ことを除けば、普通の祝賀会と何も変わらない。
 
ウェディングケーキの入刀が行われる。
 
綾香が前日に手作りしたラウンドケーキに2人が一緒にナイフを入れる。
 
カノンがケラケラの『スターラブレイション』を演奏して、多くの参列者が拍手するのがテレビ映像に流れる。
 
その拍手の中、アイと綾香はキスした。
 

そしてこれからが本番!である。
 
参列者の余興が始まる。
 
2人の“親友”であるヒロシが率いる、いまや∞∞プロのトップスター、ハイライトセブンスターズの演奏に続いて、同じく2人の親友であり、ヒロシの法的な妻でもあるフェイがメインボーカルを務めるRainbow Flute Bands, やはりふたりの親友である鹿島信子がボーカルを務めるリダンダンシー・リダンジョッシーの演奏が続き、丸山アイの事務所∞∞プロから、山森水絵、ビンゴアキ、系列の事務所から、@@エンタテーメントのXANFUS、キャロル前田とアドベンチャーと続くが、このあたりで視聴者からは
 
「性別のあやしい人ばかりだ!」
という声。
 
ヒロシは今日も女装で演奏していたし、Rainbow Flute Bands はそもそも全員がセクマイというバンドである。鹿島信子は半陰陽であった。山森水絵とビンゴアキは多分ノーマルだが、XANFUSは音羽と光帆が先日女同士の結婚式をしたばかり、キャロル前田とアドベンチャーは男の娘バンドである。
 
城崎綾香の事務所の松梨詩恩が歌うと、ネットでもホッとした声。更に同じ事務所のガールズ・バンド、ブンブン、そして先日発足したばかりの ColdFly5 のバンド演奏がある。
 
§§ミュージックからは、アクア(またまた振袖姿!)、白鳥リズム、ラピスラズリの3組が演奏した(選んだのはゆりこだが絶対わざと性別疑惑のあるメンツを選んでる)。更に性転換歌手の奈川サフィー・島田春都・花村唯香が続くと
 
「やはり今日の構成はセクマイ路線では?」
という声が出る。
 
更に、鈴鹿美里、ローズクォーツ(ボーカル:ローザ+リリン)、フラワーフォー、スリファーズ、ローズ+リリー、と続くので
 
「やはり、そういう傾向の歌手を集めてる!」
「チンコ切った歌手が多すぎて何人いるか分からない!」
という声が圧倒的であった。
 
(鈴鹿美里の鈴鹿は元男の娘で現在は既に女性、スリファーズの春菜も性転換手術を受けている。フラワーフォーはWooden Fourに“そっくり”の女の子4人のユニットという建前−早まったことをしていなければ、ちんちんは切ってないはず)。
 
それでも多分ノーマルという感じの歌手やバンドの演奏も続く。ただ、結婚したのが女性同士ということもあり、その友人たちが主なので、女性歌手・女性ユニットが多く、男性歌手や男性バンドは比較的少なかった。男性ユニットで目立ったものとしては、ヒロシつながりで誘われたスカイロード、アイが昔からファンだったというので声を掛けたら参列してくれた海岸通りくらいである。
 
しかし90分近くも続いたこの音楽演奏で、この日の祝賀会の放送も大いに視聴率が上がり、レスビアンカップルの祝賀会だというのに、深い懐でスポンサーになってくれた家電メーカーの営業さんも笑顔であった。
 
なお祝賀会の最後は今日ずっと伴奏をしていたカノンが率いるゴールデンシックスの演奏で"Golden Wedding Song"を華やかに演奏して締めた。
 
この日のゴールデンシックスは、KB.カノン, Gt.リノン, B.美空, Dr.Yuki(XANFUS), KB.醍醐春海(千里) Glocken.葵照子(蓮菜) であった。キーボードが2つ入っているが、千里はトランペットやホルンなど、金管楽器の音を出して華やかさを演出している。
 

2020.07.19(日).
 
2020ビデオガール・コンテストの本選が今年は都内のホテルを会場に行われた。
 
参加者は全員昨日の内に、自動車や専用機(§§ミュージックのホンダジェット、江藤さんのG650, 千里のG450)で親権者とともに東京に来てホテルに1泊している。そして、この日の朝、全員検温の上で簡易検査キットによりコロナ陰性であることを確認している。
 
毎年のロックギャルコンテストと同様に、第1審査では1人ずつ審査員の前でパフォーマンスをする。各々が泊まっている部屋で部屋の端から端へウォーキングした上でマイクの前で歌を1曲歌う。そして椅子に座って審査員の質問に答える。参加者の部屋のモニターには審査員がずらっと並んでいる映像が見えているはずである。これは緊張しやすい精神的な負荷を与えるためである!その程度のプレッシャーにも耐えられない子はアイドルにはなれない。
 
これまで一次審査・二次審査を通って来ているだけあって全員歌は充分うまかった。
 
質疑応答に関してもだいたいよどみなく答える。
 

ダンステストをするので、全員水着になってくださいと告げる。カメラをOFFにするので、各自、自分の部屋で着替える。
 
「では皆さん、これから映る先生の動きを真似てダンスしてください」
と告げた所で参加者の一人が男子水着を着けていることに気付く。
 
「君、もしかして男の子?」
「はい、そうですけど」
「これは女の子アイドルを選ぶオーディションなんだけど」
「え〜〜〜!?」
 
付いてきている両親も全く気付かなかったと言っていた。
 
No.14(つまり二次審査の成績が7位)の菱田ゆかり君であった。ふつう「ゆかり」なんて、仮名書きの名前は女の子だと思うぞと思った。念のため提出されていた住民票を見ると、ちゃんと“次男”と書かれている。完璧に見落としである。本人のヴィジュアルは、髪も長いし顔立ちも優しいので、女の子にしか見えない。それでこちらも気付かなかったようである。
 
川崎ゆりこが何だか嬉しそうな顔をしていた!
 
だけどさっきの第1審査ではスカート穿いてなかった!??
 
ということで彼はここで選考除外される。彼には念のため用意していたレオタードを部屋まで届け、それに着替えてもらった。それでダンステストを受けてもらう。彼はこの後、採点はするが、順位には関係無くなる。
 

このダンステストは毎回その成績が面白いなと思う。このコンテストは歌唱審査が絶対優先なので、ダンスは必ずしもうまくない子が結構上位に入ってくる。それでダンステストについては、元々付けているランキングと大きく順位が変わることが多い。これがうまく行って最終審査もその勢いで良いパフォーマンスができる子もいれば、ここで失敗して最終審査まで響いてしまう子もある。しかしタレントには失敗した時のリカバー能力というのが大事なのである。だから気持ちの切り替えが下手な子はアイドルとしての適性が低い。
 
ダンステストでは、No.12(二次審査の成績9位)の新里好永ちゃんがトップであった。逆に二次審査で良い成績を出して優勝候補になっていたNo.16の須舞恵夢ちゃんは、全く踊れず“審査対象外”になり、がっくりしていた。
 
お昼を経て午後から最終審査を始めるが、実はそのお昼を食べている様子も例年、採点対象である!表面(おもてづら)だけ良くて、裏では態度が悪い、という子は、概して不和や揉め事の原因を作るので、絶対に採用しない。今年は各部屋のメインカメラはOFFにするのだが、実は別の所に仕掛けた隠しカメラで全て撮影している。
 

ふだんの年のロックギャルコンテストの場合、最終審査は、予め届けておいた3つの曲の中のひとつをその場で指定されて、生バンドをバックに歌う。しかし今年は、昔の“フレッシュガールコンテスト”の最終審査の方式をとることにした。この場合、その場で譜面を渡され、それを初見で生バンドの演奏をバックに歌うのである。ただ、歌いやすいようにメロディーラインをキーボードのフルートの音で演奏するので、不確かな所はその音を頼りにすることができるようになっている。(以前のフレッシュガールコンテストでは生フルートだったが。今年はコロナの折、管楽器を避けた)
 
使用する楽譜は実は、近いうちに§§ミュージックの歌手の誰かがCDとしてリリースする予定の楽曲で、今回は全て松本花子作品を使用している。松本花子作品は音域もあまり広くなく歌いやすいのが特徴である。ただ、それを初見で歌うには、ある程度の音楽能力を要する。
 
今回最終審査の審査員のひとりに名を連ねた品川ありさは、自分が優勝した、最後のフレッシュガールコンテストで、今は三つ葉のメンバーとなっている、月嶋優羽(つじま・ことり)が、譜面が読めなかったので、譜面を無視して堂々と違うメロディーで、まるでそれが本当のメロディーであるかのように歌いきり、ハイスコアをもらったのを思い出していた。あれこそ、芸人魂だ。
 
タレントというものは「できない」から何もしないというのは許されない。できないならできないなりに「魅せる」パフォーマンスをしなければならない。コトリちゃんとか、花ちゃんには、そういうスピリットを随分学んだよなと昔のことを回想していた。
 

そういえば花ちゃんは
「歌手というのは、ステージの上で歌手を演じる女優でなければならない」
とも言っていた。
 
「男の子でも女優なの?」
と突っ込んだのは、米本愛心だったかな?でも花ちゃんは
 
「女の子歌手を演じるなら男でも女優」
などと開き直って言った。
 
それってアクアのことだったりして??
 
花ちゃんはどれが本当の顔なのか分からない。物凄く可愛いアイドル歌手も演じることができれば、清楚なクラシック・ピアニスト、派手なメイクのロック・ギタリスト、正統派のポップス歌手、何にでもなりきってパフォーマンスする。それぞれの能力が高い。あの人は器用すぎるのかも知れないという気もする。それでかえってデビューが遅れたのだろう。花ちゃんの能力は底が知れない。
 
アクアも男役を演じる時はちゃんと男の子に見えるし、女役を演じる時は女の子にしか見えない。映画キャッツアイでは20代の男性刑事も演じてたけど、まだ16歳だったのにちゃんと20代に見える演技ができた。あの子は人気だけではない。物凄い実力を持っている。様々な表情のアクアがあって、アクアは実は7人いるという説もあるけど、本当に7人いるのかも知れない気がしてくる。
 
品川ありさはそんなことを考えながら最終審査に臨んだ。
 

今回の最終審査の審査委員(9名)はこういうメンバーである。
 
ケイ(§§ミュージック会長)、秋風コスモス(同社長)、川崎ゆりこ(同副社長)、シックスティーンの羽鳥編集長、ラララグーンのキセ∫、漫画家の赤坂七郎、作詞家のゆきみすず、§§ミュージックから、山下ルンバ、品川ありさ。
 
最初に生バンド(ホテルの一室で演奏:生バンドは3組が交替で演奏する。むろん別々の部屋に居る)の演奏をバックに高崎ひろかが歌う。その歌っている最中に1番の人に譜面が渡される。つまり高崎ひろかの歌を聴きながら、初見の楽譜を譜読みしなければならない。集中力が問われる。
 
高崎ひろかの歌が終わると、1番の人の歌唱である。別の生バンドの演奏を聴きながら初見の歌を歌う。彼女の歌が始まるのと同時に2番の人に譜面が渡されるので、2番の人は1番の人の歌を聴きながら自分に渡された楽譜の譜読みをしなければならない。
 
最初に高崎ひろかの歌が入ったのは1番の人を他の人と同じ条件にするためである。
 
審査員は最初の人に80点の点数を付けることにしている。それを基準にして、その後の人の点数を付けていくのである。採点していく過程で、100点を越える点を付けてしまったり、92点の人と93点の人の間だと思ったら92.5点などというのを付けても構わない。
 

ダンステストで大失敗した須舞さんは、美事に気持ちを切り替えて堂々と歌唱し、審査員たちを感心させた。彼女のリカバリー能力の高さを示すものだ。
 
ダンステストでトップになった新里さんは、やはりその勢いに乗って物凄く良い歌唱をした。品川ありさは、こんなに歌えるというのは自分が脅威を感じると思った。
 
最後に歌った雪渡さんはさすが美事な歌唱である。この子はもし1位にならなくても即デビューコースだとありさは思った。
 

全員の歌唱が終わった段階で、各審査員は自分が付けた点数を整理して、1位から20位までの“順位”を決めて、その順位表を提出する。この順位表を突き合わせて総合的な順位を決める(点数合計ではない)。合唱コンクールなどで行われる“新増沢式採点法”に準拠した方法である。そして審査員は全員対等である。
 
ただ最終的には若干の調整が入る場合もある。
 
先頭で歌う人は精神的なプレッシャーが物凄く、圧倒的に不利なので、先頭の人がハイスコアを出した場合は、そのスコア以上に評価される。またダンスパフォーマンスの良かった人も若干考慮される場合がある。
 

「同点か!」
と多くの審査員が驚いた。
 
この順位決定法は、ごく希に「同位」というのを生み出す場合がある。
 
実はNo.20の雪渡知香さんを1位にした審査員が4名、No.12の新里好永さんを1位にした審査員が4名いたのである(もう1人はNo.16の須舞恵夢さんを1位にした)。
 
この場合は、合唱コンクールなどではあらためて決選投票をおこなう。しかし最終審査の同位というのは、ロックギャルコンテストでは初めての事態だった。審査員は協議した。
 
「ダンスの点数を入れる?」
「ダンスは雪渡さんは3位、新里さんは1位」
「でも雪渡さんは二次審査までの点数が物凄く高い。今日の第1審査でも最高点だった」
「彼女は本来、昨年のロックギャルコンテストでも優勝にして良かった。東雲はることの差は僅差だった」
「でも新里さんは物凄いポテンシャルを感じる。この子は絶対伸びる」
 
意見はまとまらない。
 
審査員長のケイは、自分では意見を出さずにずっと目を瞑って他の審査員たちの意見を聞いていた。そして議論が尽きかけた頃
 
「同点でどちらも優勝にしようか?」
とケイは言った。
 

羽鳥さんが言った。
「昔のフレッシュガールコンテストでも同点1位が一度だけあったんだよ」
「あったんですか!?」
 
みんなそれは初耳である。
 
「実は2006年のコンテストで、満月さやかちゃんと、秋風メロディーちゃんは本当は同点1位だった」
 
「満月さやかさんの優勝でメロディーは僅差の2位じゃなかったんですか!?」
とコスモスも驚いて尋ねる。
 
(秋風メロディーは秋風コスモスの姉。コスモスは姉に用事があって事務所を訪ねて来た所をスカウトされた)
 
「2人は全く対照的だった。メロディーちゃんは物凄く歌が上手い。だけど、明らかにステージ度胸に欠けた。逆にさやかちゃんはステージ度胸があるけど、歌が絶望的に下手だった」
と羽鳥さんは語る。
 
「それは本当に極端だ」
とアイドル事情はあまり知らない赤坂七郎さんが言う。
 
「当時の審査委員は激論をした。それで結局、さやかちゃんはそのままデビューさせても何とかなる。歌が下手なのは目を瞑ろう。でもメロディーちゃんはデビューさせたら絶対数ヶ月で潰れるという意見が大勢になった。それで本当は同点だったんだけど、メロディーちゃんの点数を1点減点して準優勝ということにした。そして1年くらい鍛えてステージ度胸を付けさせてからデビューさせようということになったんだよ」
 

「それが直らなかったんですよね〜」
と妹のコスモスは言っている。
 
実はコスモス自身も最初事務所に来た時は、何を尋ねられても、はにかんで俯いているような内気な少女だった。しかし彼女は
「歌手を演じる」
という路線に転じることができた。本人の性格は物凄く内気で、ステージ前には足が震えるほどだった。自分はとても歌手なんて柄ではないと思った。しかし、ステージパフォーマンスを堂々とこなす歌手を演じたのである。それで彼女は爆発的な人気アイドルとなった(人気“歌手”とは言わない)。そして彼女は歌が下手なのは開き直り、“友だち作らない・努力しない・勝利しない”が自分のモットーだと発言し、当時の過度な努力を強要されることに反発する世相に乗った。
 
実は彼女は物凄く演技がうまい。だから彼女はずっと歌手を演じてきた。しかし彼女はドラマなどには出演しない。「私セリフ覚えきれないもん」などと言っていたので世間では「あの子は、そうだろうな」と思われていたが、本当は、出演すると演技がうまいことがバレて、自身のイメージに反する!からであった。
 
しかし姉のメロディーの方は妹のような開き直りがどうしてもできなかった。キャンペーンのステージで立っていられなくなって座り込んでしまうということを何度もやってしまいデビューの話がまとまらなかった。
 

フレッシュガールコンテスト歴代優勝者(括弧内は生年度)
 
2000 立川ピアノ(1983)
2001 大宮どれみ(1984)
2002 日野ソナタ(1984)
2003 春風アルト(1986)
2004 冬風オペラ(1985)
2005 夏風ロビン(1987)
2006 満月さやか(1989) 準優勝:秋風メロディー(1988)
2007 藤沢ナイン(1994) 準優勝:川崎ゆりこ(1992)
2008 浦和ミドリ(1992)
2009 桜野みちる(1994)
2010 海浜ひまわり(1995)
2011 千葉りいな(1995)
2012 神田ひとみ(1997)
2013 明智ヒバリ(1997) 3位:米本愛心(2001)
2014 品川ありさ(1999) 準優勝:月嶋優羽(2000)
 
川崎ゆりこのデビューは2009年までずれ込んだが、当時の主力であった、満月さやか・秋風コスモス・浦和ミドリの3人が全員音痴だったため、ゆりこは“§§プロの良心”と呼ばれた。
 
藤沢ナインはデビューを前にした研修期間中に“声変わり”してしまったことからデビュー辞退して退所した。
 
海浜ひまわり・千葉りいな・神田ひとみ・明智ヒバリが連続して短期間でリタイアしたため、2014年の春頃、§§プロは桜野みちるが1人で支えていた。その状況を救ったのが最後のフレッシュガールとなった品川ありさだった。
 

審査員長の私と、副委員長のコスモス、それに羽鳥さんの3人が“審査員室”に入り、そこに同点1位となった雪渡知香と新里好永、およびその親権者を呼び出した。これが19時頃である。
 
私は言った。
 
「実は雪渡さんと新里さんは同点首位だったのです。審査員で協議したものの、どちらも優秀で甲乙付けがたいということになりました。それで両者優勝ということにしたいのですが、構いませんか?」
 
先に反応したのは新里さんだった。
 
「嘘でしょ?てっきり雪渡さんが優勝、2位が須舞さんで、私は4位か5位くらいだと思ったのに。歌で全然負けてたもん」
 
雪渡さんは言った。
 
「本当に同点なんですか?私、新里さんにも須舞さんにも負けたと思ったのに。もし良かったら採点表を見せて頂けませんか?」
 
「いいよ」
と言って、私はプリントされた採点表を見せた。
 
「時刻が16:05。これ私が歌った直後の時刻ですね」
と彼女は言った。
 
時刻を見るというのは鋭い。何か恣意的な操作をした上でリプリントしたのなら、18時台の時刻になっているはずだ。
 

雪渡さんは、審査員9人の内4人が自分を1位、4人が新里さんを1位、1人は須舞さんを1位にしているのを確認した。そしてその須舞さんを1位にした審査員は、自分を2位、新里さんを3位にしているのも確認して、満足したように頷いた。実際には、その審査員が付けた順位は最終的な順位付けには無関係なのだが、それでも自分の方が評価が上だと判断したのだろう。新里さんの方は採点表を見ても、そもそも見方がよく分からないようだ。
 
ちなみに審査員の名前は出ていないので、誰がどちらを1位にしたのかは分からないようになっている(実は審査員の私たちも分からない)。
 
「いいですか?」
と言って私は採点表を下げた。
 
「同点1位というのは、もしかして彼女とペアを組むんですか?」
と雪渡さんは尋ねた。
 
「基本的には数ヶ月の研修期間を終えた上で各々ソロでデビューというのを考えています。むろんお二人が研修中に仲よくなってペアを組みたいということになれば、その時点で考えてもいいです」
 
「新里さん可愛いし、私はペアでもいいですけど、じゃ取り敢えずは各々ソロでの活動という方針ですね」
と雪渡さん。
 
「私も雪渡さん、凄くしっかりしているみたいだから、ペアでもいいですけど、ソロで頑張れということであれば頑張ります」
と新里さん。
 
2人ともうまく言葉を選んでいる。ペアを組んでと言われたらそれを受け入れることを表明しつつ、本音としてはソロでやりたいという気持ちのようだ。どちらも頭の回転が速いなと私は思った。
 

そういうことで、2人は同点優勝というのを受け入れ、その場で本人・親権者ともに契約書(A契約)にサインしてくれた。
 
私たちは(簡易消毒の上で)、続いて3位の須舞恵夢さん、4位相当だが男子なので選考外の菱田ゆかり君、5位の植野純央さん、と最終的に10位までの参加者を1人ずつ呼び出し、成績を告げた上で研修生にならないかと勧誘。須舞さん・菱田君とその他3人の参加者(植野・横山・緒方)が研修生になることになり、本人・親権者が契約書(B契約)にサインした。
 
12位だった杉浦舞美ちゃんが22時過ぎに「私まだ呼ばれてないんですが」と電話してきたので「10位以内に入らなかったので」と私は言った。しかし彼女は
「それでも研修生にしてもらえませんか?今12位でも12ヶ月後には1位になれるように頑張りますから」と言うので、彼女の積極性を買って研修生になることを認めた。羽鳥さんはもう帰っていたのだが、私とコスモスの2人で面談し、B契約を交わした。
 
今回の合格者・研修生(信濃町ガールズ)加入者
 
1.雪渡知香・新里好永
3.須舞恵夢
4.菱田ゆかり
5.植野純央
7.横山朋菜
9.緒方飛蝶
12.杉浦舞美
 

さて、優勝した2人と研修生になる6人の合計8人の中で、都内在住の5位・植野さん、男子の菱田君以外の5人に私は、女子寮の入寮申込書を渡していたのだが、夜遅くになって、3位の須舞恵夢さんから連絡がある。
 
「済みません。女子寮入寮申込書って頂いたんですが、男子でも女子寮に入っていいんですか?」
 
「は!?」
 
ちょうど一緒に居た川崎ゆりこが吹き出した。
 
「あのぉ、まさか須舞さんって男子なの?」
「そうですけど」
「これは女の子アイドルを選ぶオーディションなんだけど」
「え〜〜〜!?」
 
「だって2020ビデオガールってタイトルだし」
「それビデオ映えする人と女の子とを選ぶオーディションと思い込んでました」
 
それ絶対嘘だろ?確信犯(誤用)だろ?
 
「でも君、スカート穿いてたよね?」
「審査には足の動きがよく見えるようにスカートで参加して下さいということだったから、スカート穿いて出場しましたけど」
「普段もスカート穿くんだっけ?」
「え?誰でも穿きますよね?」
 
まあスカート好きな男の子もいるけどね。
 
「ダンステストでは女の子水着を着てなかった?」
「レオタードでもいいと書いてあったからレオタード着てましたけど」
 
気付かなかった!
 
しかし彼女、じゃなかった彼は充分優秀なので、そのまま研修生になって欲しいと要請。彼は受諾した。
 
「ちなみにアクアさんみたいに、性転換手術うけて女の子にならないといけないということはないですよね?」
「性転換は個人の自由なので、特に求めませんし、禁止もしませんけど、西宮ネオン君みたいに、ちゃんと男の子でデビューした子もいるし」
 
「あ、そうですよね。安心しました」
「ちなみにアクアも性転換してないんだけど」
「あれ?最初から女の子だったんでしたっけ?」
 
彼の住まいについては、選考除外した菱田君同様、都内のマンションを紹介することにした。夏休み中に物件確保を考える。
 
しかしスカートを普通に穿く子って、男の娘という訳ではないよね?ね?電話での会話でも、なんか性転換手術うけさせられたいみたいなニュアンス感じたし!(自分から積極的に性転換したい訳ではないけど、性転換してと言われたら、素直に手術を受けます、みたいな感じ)
 
だけど恵夢(めぐむ)という名前で男の子なのか?最近の名前の性別は分からん!と私は思った。でも彼(彼女?)を優勝させなくて、良かった!
 

「そろそろ男の娘寮を作った方がいいかも」
などと川崎ゆりこは言っている。
 
「男の子寮じゃなくて男の娘寮なんだ?」
 
「信濃町ガールズの男子メンバーの中にもけっこ怪しい子いるじゃないですか。木下宏紀とか、上田信貴とか、絶対女性指向ありますよ。本人は否定するけど。スカート穿かせると嬉しそうな顔してるし。宏紀なんて『ボクは声変わりしたからアルト音域までしか出ない』って言ってるけど実際は仮歌係をやらせていると、ソプラノまで出てますよ。あれ絶対女性ホルモンやってますよ。だいたい、あの子、喉仏が無いし、いつも女の子ショーツつけてるし」
 
へー。そんなに声が出るのか。凄いなと私は思った。彼がショーツを穿くのはダンスの時にぶらぶらしないようにサポーター代わりだと本人からは聞いている。
 
「喉仏は目立たない子もいるよ。でも木下君や上田君の性的な志向は置いといて、確かに男子寮はあってもいいかも知れないね」
 
「それで食事には女性ホルモンを入れて提供して、おっぱいが膨らんできたら女子寮への転寮を認めるとか」
 
「マリみたいな発想してるし」
と私は言った。
 

『ヒカルの碁』の撮影は7月中旬から本格的に始まり、8月下旬まで1ヶ月半ほどの間に集中して行われた。
 
物語の中でのプロ棋士試験は次のような流れで行われる設定になっている(現実の2020年度のプロ棋士試験に準じるが、リアルの夏試験(院生1位が自動合格)を無くして冬試験(本来2名合格)に統合し3名合格としている)。
 
●外来予選
 記譜審査で合格した人で総当たりのリーグ戦をする。
 1日2局。上位4名が合同予選進出。
 椿はこれを勝ち上がっている。
 
●合同予選
 院生B組(10名)と外来予選合格者の合計14名で総当たり戦。
 ヒカルはここから出場する。
 1日2局(持ち時間1時間)、上位6名が本選進出。
 
●本選
 院生A組(10名)と、合同予選の合格者6名の合計16名でリーグ戦。
 1日1局(持ち時間2時間)、上位3名がプロ合格。
 
●女流特別枠合同予選
 参加者は下記
 ・記譜合格したものの本選に出場できなかった女子
 ・院生B組以上で、本選に出場できなかった女子。
 総当たりのリーグ戦で上位6名が女流本選に進出。
 1日2局(持ち時間1時間)
 
●女流本選
 参加者は下記
 ・本選に出場したが合格できなかった女子
 ・女流合同予選通過者6名
 総当たりのリーグ戦で1位の人が女流特別枠で合格。
 女流特別枠で合格した場合は三段までは報酬が半額。四段になったら通常の本選を合格して四段になった人と同額になる。
 
ヒカルが万一女子であった場合、本選で上位3名に入れなかった場合も、女流本選に出場する権利が与えられる。むろん通常の本選でプロ合格すれば女流本選には当然出場しない!
 

今回の映画のストーリーの流れ
 
(1)前哨戦
外来予選の申し込みに来た門脇と対戦することになる。実際には佐為が打ったので門脇完敗。門脇は申し込みを中止。1年鍛え治して来年受験することにする。
 
(2)合同予選に出場。
外来からあがってきた椿と初日対戦するが、彼のペースに巻き込まれてまさかの敗戦。翌日もその影響が出て2連敗。
→椿に会わないよう対局開始ギリギリに飛び込み貴重な一勝。
その後は自分のペースを取り戻し、11勝2敗で本選進出。
 
(3)武者修行
院生A組の和谷・伊角に連れられて碁会所めぐりをするというのが原作だったのだが、後述の理由により、大学の囲碁部を巡る設定に変更された。
 
(4)明日美のデート(?)
 
(5)全員持碁!
ムシャクシャしていたミナコが、都議とその支援者を相手に全員持碁をやる。同じ日、大学の囲碁部で打っていたヒカルも、4面打ちで全員持碁になる・・・かと思ったら1人だけミスる。
 
実は今回の映画で女装のアクア唯一の登場シーン!
 
(6)本選開始
 
(7)反則
伊角との対局で伊角が反則負け。ヒカルは勝利を拾ったものの心理的に動揺して翌日負けてしまう。
 
(8)本選後半
自分を取り戻して勝ち続ける。椿は落選確定。伊角も越智との対局で自分を取り戻す。「越智、黙れ」はこの漫画の名場面のひとつ。
 
(9)大詰め。
越智は真っ先に合格を決める。最終日前日の和谷との対戦。ヒカルは負ければ落選。和谷は勝てば合格。そして絶体絶命の局面。
 
(10)最終日。
ヒカルは越智に勝って合格。和谷も苦手の福井に勝って合格。院生No.2だった伊角は落選。ヒカルとの対局での反則が何日も尾を引いてしまった。
 

実は最初に明日美のデートの場面を撮影した。これはアクアのスケジュールが空かなかったので、先にアクア抜きで撮影できるシーンを撮ったためである。
 
7月下旬に、昨年も撮影に協力してくれた熊谷市内の高校の囲碁部の人たちと、近隣の大学の囲碁部の人とで、予選の様子を、郷愁村に作られている日本棋院のセットで撮影した。
 
例によって参加者は検温の上、撮影現場に入る時は簡易検査キットで検査して陰性であることを確認したのだが、大学の囲碁部の人が1人この検査に引っかかり、正式のPCR検査を受けて陽性確定。本人は全く自覚症状が無かったものの自主的に自宅内隔離。3日目に熱が出始めたが、適切な治療のおかげで一週間ほどで回復。後遺症なども出なかった。検温だけでは見つけきれなかったケースで、あらためて簡易検査キットの威力が認識された。本人も早めに検出してもらって感謝していた。
 
予選の参加者は14名で各人13戦を7日間でする設定だが、実際には1日に4局ずつ3日で撮影している(1局分は省略!)
 
ヒカルの対局以外はほとんど撮影していない。
 
もっとも、いくら体力のあるアクアでも1日4局はさすがに辛いので、実際にはアクアが2局と葉月が2局打っている。対局は実は全部マジ!である。最初のデート編での葉月の対局を見たら三〜四段の人に負ける訳がないと思われた。アクアは葉月以上に強い。
 
「アクアちゃんも強いけど、葉月ちゃんも強いね」
と院生師範役の鞍持健治さんは言っていた。鞍持さんは“自称二段”らしい。
 
外来受験者の椿俊郎を演じるのは、三橋栄太さんという実際には28歳の俳優さんである。実はヒカルの碁が連載されていた当時は29歳まで受験できたのが、現在は“採用時に22歳以下”でないと受験できない。つまり大学4年生世代が上限になっている。それで椿俊郎の設定も原作では29歳だったが映画では22歳とし、門脇も大学3年生という設定に変更されている。
 
実はそれでヒカルは“おっさん”たちとの対局の経験を積む必要が全く無くなったので、武者修行編は碁会所ではなく、大学の囲碁部を巡ることになった。またタバコの煙が満ちている中での対局シーンというのが今の世相では好まれない問題もあった。
 
三橋さんの囲碁の腕前は、アマ初段の免状を持っているので石の打ち方などは格好いい。制作側では本人と手を別々に撮影するのは大変なので、最低限まともな石の打ち方ができる人というので探して彼を選んだらしい。ヒカルが彼にびびるという設定があるので、これまでアクアと接点の無かった俳優さんの中から選んだ。
 
が!
 
「幼稚園の娘に頼まれちゃって、アクアちゃん、サインもらえる?」
などと言ってきたりして、撮影後はとても仲よくなった!
 

8月、いくつかの大学の囲碁部に出張撮影に行き、ヒカル(アクア)・和谷(松田理史)・伊角(計山卓)の3人で打ちまくる。これを4日間撮影している。撮影は窓を開け、扇風機で風を起こして強制換気する中で行っている。昼間は猛暑でとても撮影できないので、全て夜中の撮影である。
 
もっとも、アクアにしても大学生にしても深夜の撮影は全く平気だった。
 
8月の中旬に1週間掛けて本選の様子を撮影した。出演者は和谷・伊角・越智・奈瀬・福井・椿のほかは、高校生や大学生の囲碁部員に参加してもらっている。1日2局で進行するが、これも重要対局だけアクアで撮り、それほどでもない対局は葉月が代行している。
 
鍵となる対局以外はマジ!で打ってもらっている。
 
撮影は8月24日(月)に全て完了した。
 
最後の会話
「奈瀬さんは女流枠の試験受けるの?」
「うん。本当は一般の本選で合格したいけど、いつまでも院生やってるのもかったるいしね」
「奈瀬さんならきっと合格するよ」
「進藤さんが女流枠試験に来るならかなわないと思ってたけど、一般本選で合格してくれたから、凄く楽になった」
「俺は女流枠試験には出られないよ!」
「それずっと怪しいと思ってるんだけど」
 
 
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【夏の日の想い出・龍たちの讃歌】(4)