【夏の日の想い出・龍たちの讃歌】(1)

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2020年3月10日(火・大安・おさん)、XANFUSの音羽(桂木織絵)と光帆(吉野美来)は、2014年12月から5年3ヶ月ほど住んだ墨田区内のマンションを売却し、新たに江戸川区内に購入したマンションに引っ越した。
 
ファンの間では「ゴミが溜まりすぎて整理不能になったから新たな所に引っ越したのでは?」などと噂されていた。ふたりのマンションの酷さは、友人のミュージシャンたちの間でも超有名である。
 
なお、新しいマンションの選定にあたっては、千里がチェックして“危なくない”物件を選んであげている。音羽たちはこれまで住んでいたマンション(購入金額5200万円)を2800万円で不動産会社に買ってもらったが、新たに江戸川区に買ったマンションは4500万円で、差額の1700万円は現金で払っている。
 
なお引越については元のマンションの荷物(ゴミ?)はそのままトランクルーム!?に移動し、新たなマンションには、家電や家具にお酒!などだけを搬入して暮らし始めた、という噂がファンの間では流れていた。
 

隠れ家的なアニメグッズのお店に行くため“渋谷”の裏通りを歩いていたA子は通り掛かったマンションのエントランスから17-18歳くらいの女の子が出てくるのを見た。こんな場所の豪華マンションに住んでるのってお金持ちのお嬢さんなんだろうななどと思いながら、よくよく見るとアクアである!
 
うっそー!?
 
女の子かと思った!
 
でもスカート穿いてるじゃん!!
 
写真とか撮っちゃだめかなあと思いながらバッグからスマホを取り出すと、突然電源が落ちる。うっそー!?こんな時にと思うが、アクアがこちらに歩いてくるので、この際、写真とかいいやと思った。ペールピンクのマスクをしている彼(彼女?)に声を掛ける。(A子は普通の白いマスクをしている)
 
「アクアさん!私ファンなんです」
 
「ほんと?ありがとう」
と答える声はまるで女の子のような声だ。その笑顔も可愛い女の子が微笑んでいるようにしか見えない。
 
「あのぉ、エア握手でいいから、握手してもらえます」
「うん。エア握手」
 
と言って、ふたりはエア握手した。
 
ちょうどそこに水色のアクアがやってきて停まる。アクアがそのアクアのドアを開けて乗り込む。
 
「じゃね」
「はい、行ってらっしゃい」
 
それで水色のアクアは走り去った。
 
A子はしばらくその車に手を振っていたが、あらためてマンションを見上げた。
 
「へー。アクアちゃん、渋谷のマンションに住んでいるのか。さすがだなあ。ここまた通ってみようかな」
 
などと思ったが、彼女がこのマンション前でアクアを見ることは二度と無かった。
 

「最近、アクアちゃん、スカートで来ること多いね」
とミニアルバムのサウンド・ディレクターを務めていた近藤七星さんが言った。
 
「出がけにスカート以外のボトムが見つからなかったんですよ」
「はぁ!?」
と七星さんが呆れていると
 
「ああ、よくある話だ」
と雑用係として臨席していた河合友里マネージャーが言った。
 
「よくあるんだ?」
「アクアのおうちでは日常茶飯事」
 
「ボクにスカート穿かせたがる人が多いみたいで」
と本人は言っているが、
 
「いや、スカートが好きなんでしょ?」
という声もある。
 
「まあアクアもそろそろ『ごめんなさい、私実は女の子でした』と告白すべき時期かもね」
などと、エレメントガードのヤコは言っている。
 
「それはアクアとお風呂で一緒になったことのある女性はみんな知っているよね」
と、用も無いのにスタジオに顔を出しているAYAのゆみも言う。
 
(実は自分の録音に早く来すぎたのでここで時間を潰している)
 
「ゆみさんとも一度遭遇しましたね」
とアクア。
 
「まあアクアとお風呂で一緒になったことのある男性は存在しないからね」
と川崎ゆりこが言うと、アクアは
 
「でもこないだケイナさんと一緒になりましたよ」
と言った。しかし
 
「ケイナちゃんがいたのなら、それは女湯だな」
とみんなから言われた。
 

もっともアクアは3月で高校を卒業してしまったので、“男子制服を着て”学校に行くこともなくなり、スタジオや放送局には、「レストランに入るのに恥ずかしくない程度の服」で出入りしなさいとコスモスから言われた。
 
「たとえばどんな感じの服ですか?」
「豪華すぎないワンピースとか、レディススーツとか、小紋の和服とか」
「あのぉ、それって女物ということは?」
 
「今更無理して男物の服とか着なくてもいいよ。女の子だってのはもうバレてんだから」
 
「僕、男の子ですー」
「そうね。建前ではね」
とコスモスは言った。
 
「あ、そうそう。20歳になるまでには去勢してよね」
「え〜〜!?」
 
ともかくもアクアは、ある程度きちんとした服で仕事場に出かけるのだが、家を出る時は、河合友里や高村友香が“その日ごとに指定された”マンション前でアクアを拾い、仕事場に直行するので、どんな格好で出かけても、マンションのエントランスを出てから車に乗るまでの僅かな時間しか他人の目に触れることはない。
 
それでどうもアクアは積極的にスカートを穿いて出て来ているようだ、と川崎ゆりこは感じていた。「やはりこの子、女の子になるつもりになってきたんだろうな」とゆりこは考えていた。
 
なお、拾う場所をランダムにしているのは車を待っている間にファンから目撃される確率が高いので、実際の住所を知られないようにするためである。実際にはその日のピックアップポイントへ《わっちゃん》が直接転送している。
 

約4年前の2016年6月26日。
 
私とマリは、ローズ+リリーが大阪のイベントで演奏した時、フルートを吹いてくれた大波布留子さん(社会人のバスケット選手で、高校時代は千里たちのライバル校に所属していた人。ゴールデンシックスと愉快な仲間たちのメンツ!)に勧められてアルバム『やまと』のネタ探しも兼ねて、奈良県E村のN神社を訪れた。そしてそこでちょっと変わった元男児??の女医さん(!?)に出会い、神秘的な体験をした。
 
その時、私たちはまるで巨大な龍の中にでもいるかのような感覚だったのだが、そのことを言うと、その女医さん、西川さんは、
「あなたたちは勘がいい」
と言ったので、たぶん本当に龍の中に居たのだろう。
 
その人が上げる祝詞はとても心地良く、彼女が吹く龍笛は人間国宝クラスの腕と思われた。あの人はお医者さんと兼任で神社の神職でもしていたのだろうかと思い、後で「あそこには桃を持って行くといい」と言っていた千里に訊いてみたら
 
「神職じゃないよ」
と言う。
 
「だったら巫女さん?」
「それも違う」
 
「ただの氏子さん?」
「あそこの神様本人だよ」
「・・・・・」
 
私はあまり深く考えないことにした。
 

その時政子は『風の中の少女』という詩、私は『水中散歩』という曲を書いた。アルバム『やまと』に入れるつもりだったのだが、結局どちらも使用していない。
 
私は更にE村から大阪に戻った後『神の里』という曲も書いた。結局はこの曲を『神秘の里』と改題して、『やまと』には収録した。
 
それで『風の中の少女』も『水中散歩』もずっと未使用のままになっていた。
 

この年、私はNHKに頼まれて『みんなの歌』で放送するのに適した歌を書いて欲しいと言われ『泉を守る娘』という曲を書いて提供した。
 
杉田純子ちゃんが歌い11月に放送されたのだが、彼女が2017年早々に引退してしまったこともあり、この曲は音源化されていない。ファンからも『みんなの歌』の視聴者からも音源化の要望はあったものの、彼女が事務所と衝突しての唐突な引退だったこともあり、音源化は実現しなかった。
 

2020年3月、私とコスモス、それに千里、若葉、丸山アイは、唐突にあけぼのTVというインターネット放送局を立ち上げた。
 
おりしもコロナの影響で様々な番組の収録が中止され、放送局は過去の番組の再放送で何とか放送日程を埋めた。また感染症対策を巡って、§§ミュージック側と一部の番組の制作側との意見が対立して、コスモスはそれらの番組から§§ミュージックのタレントを引き上げた。
 
それで§§ミュージックのタレントたちが暇になってしまったのである。彼女たちの仕事を作ることと、感染症対策を施しながら番組を実際に制作する実験をしてみたかったというのがあった。その“制作実験”ということで、番組制作会社・大和映像の大曽根部長に打診してみた所、向こうも試してみたいということで、この“あけぼのTV”に参加してくれたのである。
 

そこで、私たちは、1月に立ち上げたばかりのサンシャイン映像制作のスタッフが大和映像のスタッフと合同でこのネット放送局の番組撮影をすることになった。
 
ローズ+リリーのPV制作は、一昨年までは★★レコード技術部のスタッフにお願いしていたのが、昨年の★★レコードの大騒動の中で向こうは手が回らないようだったので、サマーガールズ出版内に映像制作部門を設置し、専任のスタッフも取り敢えず5人ほど雇った。しかしローズ+リリーのPV制作は定常的にある訳ではないので、§§ミュージックのPV制作部門の人達と一緒に、そちらのタレントのPV制作もしてもらっていた。
 
それでコスモスと話し合い、いっそのことひとつの会社にしようと言って、§§ミュージックとサマーガールズ出版が半額ずつ出資して、サンシャイン映像という会社を作ったのである。
 
結果的にはこの会社があけぼのテレビの実働部隊に近い存在になったので、世間では、§§ミュージックは1月から、あけぼのテレビの設立準備をしていたんだ!と言われたのだが、実は、あけぼのテレビの設立は、3月15日に、感染症対策で、私・コスモス・千里・若葉・丸山アイの5人が話していた時に唐突に決めたものである。
 

「いっそ、インターネットテレビ局作って、そこに時間の空いたタレントを出演させない?」
「あ、それイイネ!」
 
という会話で決めたもので、何の計画も無かったし、
 
「費用はどのくらいかな?」
「取り敢えず10億円くらいあれば何とかならない?」
「行けると思うよ」
「じゃ、やろうよ」
 
ということで出資額も決めてしまった。むろん収支計画とかも無い。タレントの仕事を作り場数を踏ませるのと、顔を売るためだし、きっと1年か2年程度のものだろうから、赤字でもいいや、と私たちは考えていた。
 
「いつ始める?」
「明日?」
「さすがに無理」
「じゃ今月末」
 
ということで、3/31前後にスタートすることが決まった。しかし2020.3.31は0:10-20:43 という長いボイドがあるので、3/30に放送開始することにしたのである。
 
実際の立ち上げのための作業をしたのは、サンシャイン映像制作の則竹部長、大和映像の坂口さん、トリプルスターの松浦さん、千里のブレーン?の後藤節子さん、則竹さんの盟友らしい八重美城さん、丸山アイのスタッフのひとり・江川詩浮子さん、それに若葉の弁護士の樋森さんらのチームである。
 

連休明けの2020年5月7日、昨年秋にロマンティック街道で撮影したアクアの写真集『Aqua an der Romantischen Straße』が発売された。実は2月に、アクアの高校卒業前に発売したかったのだが、買い求める人が集中して、密集状況が発生しないようにと、ここまで発売日を遅らせたのである。
 
アクアの本格的な写真集は昨年のタヒチ編(Aqua dans les iles du paradis - 天国の島のアクア)に続き4冊目だが、お姫様姿のアクアが可愛い!と言われて、とても好調な売れ行きだった。「三密を避けるために、できるだけ通販で買って欲しい」という要請にこたえて、ファンクラブ通販にしてもアマゾンなどのネット書店にしても、飛ぶように売れていた。
 
「騎士姿のアクアは要らんよな」
「うん。お姫様姿だけで良かったのに」
 
と言われるのは、いつものことである。
 

2020年5月9日(土・友引)、青品リンナが俳優の高橋俊郎さんと結婚した。時節柄、披露宴はネット形式で行われ、その様子が在来局の情報番組で10分間にわたって放送されたほか、1日遅れで、あけぼのテレビで丸ごと無料放送された。高橋主演でこの春に公開予定だった映画『戦士の休息』の配信会社がスポンサーになり、あけぼのテレビにこの映画を始め同社の他の映画のトレーラーや過去の名作・話題作のビデオ発売の広報などのCMを挿入した。
 
人気歌手と人気俳優の結婚だけに披露宴の(ネット)出席者も豪華で、結果的に視聴率も凄いことになった。高額の独占スポンサー料を払ってくれた配信会社も「ほんとにあの料金で良かった?」と言うくらいご機嫌だった。
 
披露宴参加者の中には、リンナの元夫の百道大輔(娘の夏絵ちゃんも一緒)がギターソロで即興の祝福の歌を歌ったり、高橋の元妻で女優の坂元花美さん(やはり高橋との間の娘と一緒)も簡単なスピーチをしたりというのもあり、“懐の深い結婚式だ”という意見もネットには見られた。
 

2020年6月1日はXANFUSの結成12周年だった。
 
※XANFUS結成時期のこと
2008.06.01 "XANFAS"結成(逢鈴・碧空・黒羽・光帆)
2008.06.29 制作上の対立から碧空が脱退。
2008.07.12 黒羽(noir)が喉のポリープの手術で離脱。ボーカルからキーボードに回ることに。
2008.07.30 黒羽の親友で声の出せない彼女に付き添いで来ていた由妃(yuki)、そしてたまたまスタジオ見学に来ていた織絵(音羽)・鏡子(浜名麻梨奈)が録音現場で唐突にスカウトされる。由妃と織絵はそのまま加入することに。
2008.08.03 Parking Serviceから事故などにより4人離脱。公演が迫っていたこともあり、Parking Serviceのダンスチーム(Patrol Girls)の元リーダーである逢鈴がXANFASからParking Serviceにトレードされる。
2008.08.18 織絵(音羽)が東京に引っ越してきて正式加入。ギタリストとして加入するつもりだったのにメインボーカル(逢鈴)がいなくなったからあんたがそのメインボーカルやってと言われて仰天する。これで音羽・光帆のツインボーカル体制となる。
2008.09.03 Parking Serviceを離脱していたミッキー(mike:Gt)が友人の貴子(kiji:B)と一緒にXANFASに加入。逢鈴離脱後不在になっていたリーダーもmikeが務めることになる。結果的には逢鈴とmikeが交換トレードされたようなもの。
2008.09.15 ユニット名をXANFUSと改名。
2008.10.04 XANFUSメジャーデビュー。でも売れず!
2009.02.25 2ndシングル。前回よりはマシだが、売れたというレベルではない。
2009.03 XANFUSの1stツアーだが、last tourかも知れない状況だった。この金沢公演(3.25)の時、音羽・光帆・日登美(光帆の友人でたまたま観客として来ていた)が、骨折で入院中の鏡子を訪ね、4人の衝撃的!出会い(詳細は鏡子の名誉のため言わない)。
2009.03.31 制作中だった初アルバムに曲が足りないと言われ、日登美と鏡子が書いた『Down Storm』をスリーピーマイスのレイシーがアレンジし追加することに。この曲がXANFUSの出世作となり、このユニットは存続することになるとともに、日登美(神崎美恩)と鏡子(浜名麻梨奈)がXANFUSのメインライターになる、きっかけとなる。
 

今年の2020年6月1日(月)、音羽と光帆は予めツイッターに「当日重大発表をします」と予告していたのだが、なんとそれは2人の結婚報告であった。
 
この日、埼玉県のF神社(実は醍醐春海が副巫女長ということになっている神社−実際にはほぼ名誉職)で、2人はウェディングトレス同士の結婚式を挙げたのである。実際に三三九度のお酒を注ぐ役は醍醐春海自身が務めた。
 
この様子を2人はyoutubeに投稿した。
 
反響が凄かったが、2人はもう10年以上一緒に暮らしており、既に事実上の夫婦だったので、ファンの間からも「おめでとう」という声が圧倒的だった。
 
「赤ちゃんの予定は?」
などという質問がある。
 
「それどちらが産むのか、協議中」
と音羽は答えていた。
 
2人は同日朝一番に、住んでいる東京都江戸川区の区役所で、パートナーシップ宣言をし、その証明書も映像に映していた。
 
実を言うと、これまでふたりが住んでいた墨田区には、このような制度が無かった。それでこの制度を導入済みの江戸川区に引っ越したというのが、3月の引越の真相だったのである。
 

※2020年6月現在でパートナーシップ宣言制度を導入済みの自治体は下記。
 
1 2015-04-01 東京都渋谷区
2 2015-11-01 東京都世田谷区
3 2016-04-01 三重県伊賀市
4 2016-06-01 兵庫県宝塚市
5 2016-07-08 沖縄県那覇市
6 2017-06-01 北海道札幌市
7 2018-04-02 福岡県福岡市
8 2018-07-09 大阪府大阪市
9 2018-08-20 東京都中野区
10 2019-01-01 群馬県邑楽郡大泉町
11 2019-01-29 千葉県千葉市
12 2019-04-01 東京都江戸川区
13 東京都豊島区
14 東京都府中市
15 神奈川県横須賀市
16 神奈川県小田原市
17 大阪府堺市
18 大阪府枚方市
19 岡山県総社市
20 熊本県熊本市
21 2019-06-03 栃木県鹿沼市
22 2019-06-10 宮崎県宮崎市
23 2019-07-01 福岡県北九州市
24 2019-07-01 茨城県(全域)
25 2019-09-01 愛知県西尾市
26 2019-09-02 長崎県長崎市
27 2019-10-11 兵庫県三田市
28 2019-11-22 大阪府交野市
29 2019-12-02 神奈川県横浜市
30 2019-12-04 大阪府大東市
31 神奈川県鎌倉市
32 2020-01-01 香川県三豊市
33 2020-01-06 兵庫県尼崎市
34 2020-01-22 大阪府(全域)
35 2020-04-01 東京都港区
36 東京都文京区
37 埼玉県さいたま市
38 神奈川県相模原市
39 神奈川県逗子市
40 新潟県新潟市
41 静岡県浜松市
42 奈良県奈良市
43 奈良県大和郡山市
44 香川県高松市
45 徳島県徳島市
46 福岡県古賀市
47 宮崎県木城町
48 2020-05-01 愛知県豊明市
49 埼玉県川越市
50 2020-05-15 兵庫県伊丹市
51 2020-05-17 兵庫県芦屋市
 
更にその後、9月までに下記の自治体が加わっている。
 
52 2020-07-01 神奈川県川崎市
53 神奈川県葉山町
54 三重県いなべ市
55 大阪府富田林市
56 岡山県岡山市
57 2020-08-01 兵庫県川西市
58 2020-09-01 京都府京都市
59 大阪府貝塚市
 

youtubeの投稿が好評であったことに気を良くした、XANFUSの事務所@@エンタテーメントの斉藤社長は、あけぼのTVと交渉し、2人の“ネット祝賀会”をあけぼのテレビでまるごと生放送することにした。方式としては4月にFHテレビが地上波で放送したローザ+リリンの結婚祝賀会と同様の方式である。
 
6月20日(土・友引・たつ)18:00-20:00の2時間にわたって放送する。無料放送だが、普通のスポット広告は一切入れない。XANFUSをはじめとする@@エンタテーメントの所属歌手(うさぎょ・原野妃登美・キャロル前田とアドベンチャーなど)のCD/DVD,写真集などの広告だけが流れる。スポンサー料として@@エンタテーメントは800万円をあけぼのテレビに支払っているが、在来局なら3000-4000万円は必要な所である。しかし、あけぼのテレビとしては800万円でも充分黒字だ。
 
参加して演奏やお笑いなどを披露したのは、同じ事務所のキャロル前田・うさぎょ、などはもちろん、08年組の、ローズ+リリー、KARION, AYA, 最近08年組の準メンバーのようになっているゴールデンシックス、それにフラワー4!(ちゃんと女装している)、オリーブ・レモン(むろん全員女装)、更には、秋風コスモス(ほぼトークのみ)、川崎ゆりこ、アクア(またまた振袖姿)、小野寺イルザ、坂井真紅、ローザ+リリン、ローズクォーツ(臨時ボーカル:鈴鹿美里)、Hanacle, 三つ葉、トライン・バブル、青島リンナ、松原珠妃、スイート・ヴァニラズ、スリーピーマイス、などなど豪華メンバーで、その出演者リストを見て、それが目的でこの披露宴を見た視聴者も多かった。
 
それでまたまたこれが物凄い視聴率になったのであった。
 

「でもこの結婚式は町添社長でなければあり得なかったね」
「村上前社長は、社内の性別移行制度や、同性伴侶への配偶者手当とかまで廃止しようとしてたからね」
 
「次はケイとマリの結婚式かな?」
「でもケイは男の婚約者がいるのでは」
「あれはレスビアンを誤魔化すためのダミーだと思う」
などという会話がツイッターで流れていて、正望はむせこんでいたらしい。
 
「ケイとマリの結婚式より、アクアの性転換の方が先では?」
「いや、アクアは多分既に性転換済み」
「高校卒業した直後に国内で手術を受けて女の子になったという噂があるね」
「コロナでスケジュールが空いたから、そのタイミングを使ったらしい」
「もう戸籍も女に変更済みだと聞いた」
 
「だからアクアが男湯に入ったのは『気球に乗って5日間』の撮影が最後」
「わざわざ『アクア改造計画』で女の子になったアクアのアニメを流しているのは、性転換したことを正式に発表する前の地ならしだと思う」
「アクアの性転換手術の様子は全部撮影されていて、DVDで発売される予定らしいよ」
「それ今年のDVD売上トップになるのでは」
「女の子になった記念にフルヌード写真集も発売されるらしい」
「それはこれまでの写真集の最高売上部数の記録を更新するな」
 
この噂にはコスモスは大笑いしていた。
 
一方でせっかくアクアを男湯に放り込むという手法でアクアが男の子であることを証明しようとしていた、アクア・プロジェクトの責任者・絹川和泉は、ぶつぶつ言っていた。
 

その日、アクアは早朝、コスモスを私邸に訪ねた。
 
「ここに来るって珍しいね」
と言って部屋に上げ、美味しい紅茶など入れてあげる。
 
アクアは言った。
「社長、お願いがあるんです」
「何?Mを拉致して性転換手術しちゃうとかの話なら協力するよ」
とコスモス。
 
ああ、Mはきっと20歳まで男の子のままではいられないだろうな、とアクアFは思った。
 
「それもいいですけどねー、眠り薬とかもらったらあの子の食事に入れますけど」
とFは言った後、コスモスを驚かせることを言った。
 

ところで、私たちのユニット、ローズ+リリーは2008年12月19日の週刊誌報道をきっかけに実はちゃんとした契約を結んでいなかったこと、そもそも親の同意を得ずに活動していたことが明らかになったことから活動休止に追い込まれ、約3年間の紆余曲折の末、2012年4月14日の沖縄シークレットライブで復活した。しかし2012年の間は限定的な活動に終始しており、ライブも3回しかしていない。
 
4.14 沖縄シークレットライブ
10.20 札幌突発ライブ
12.23 大分ライブ
 
この当時、マリはまだ完全ではなく、私たちはリハビリを兼ねてローズクォーツのキャンペーンに帯同して、8.18-9.02に全国を駆け巡り、それに合わせて青葉から勧められた“三大弁天巡り”広島の宮島、宮城の金華山、滋賀の琵琶湖内・竹生島にお参りしたのである(最終的には天河と江ノ島にも行き“五大弁天”を全部廻った)。
 
そして竹生島に行っていた2012.8.24、私とマリは突然琵琶湖の湖面から龍が飛び上がって天に昇っていくのを感じたのである。ちょうどそばに居た神職さんもそれを見ていた。
 
私たちはその体験を『ウォーター・ドラゴン』という曲にまとめ、2013.1.2発売のローズクォーツのシングルに収録した。
 
私は2014年4月1日の“エイプリール記者会見”をもってローズクォーツから離れたが、その後ローズクォーツは毎年1年単位で交替するヴォーカルを迎えて活動を続けている。しかしこの『ウォーター・ドラゴン』は音域の広さ、細かい音符の連続、音程の取りにくい音などを含む難曲で、私がヴォーカルを辞任した後、誰もこの曲を歌えなかった。
 
ところが2020年6月3日(水)、ローズクォーツ初めてのベストアルバムが発売されたのだが、この中に『ウォーター・ドラゴン』が収録されていて、2019年度のローズクォーツのヴォーカルであるローザ+リリンが、この難曲を歌いこなしていたのである。私のパートを歌ったマリナが広い音域、正確な音程取りできれいに歌いこなすと共に、本当に龍が水面から昇天していくような、臨場感の高い歌として歌い上げていた。
 

この曲はアルバム発売後、物凄い評判になり、ダウンロードストアから、このアルバムの『ウォーター・ドラゴン』のみをダウンロードする人が相次ぎ、この曲の売上が物凄いことになった。きっと2020年度のローズクォーツの曲の中で断トツのヒット曲となるだろう。
 
私はアルバム自体を謹呈してもらっているので発売前に聴いたのだが、完全に
 
「負けた〜〜〜〜!」
 
と思った。
 

しかし本家が“ニセモノ”に負ける訳にはいかないのである。ローズ+リリーがローザ+リリンに負けたら、その時は、こちらこそがニセモノになる時である。
 
頭の中にブラジルの女性デュオ doces flores が、本来ニセモノだったはずの男の娘デュオ doces flocos に完全に圧倒され、付け物と化して、doces flocos に性的なサービスをしなければならないという契約まで結ばされているという話をチラッと思い起こした。(実際にはdoces flocosのふたりは去勢しているので立たないし性欲も無いので、そういうサービスは求めない、とdoces flocosの2人は言っていた。同衾する程度はあるらしいが純粋に寝るだけらしい)
 
負けるもんか!
 
という強烈な対抗心が生まれた。私はローズクォーツの事実上のリーダーであるタカに電話した。
 
「負けたけど負ける訳にはいかない。私たちも『ウォーター・ドラゴン』を歌っていい?」
と尋ねる。
 
「そう来なくちゃね。期待してるよ」
とタカは言った。
 

それであの曲を8年ぶりに吹き込むことにしたのである。
 
ただここでひとつ問題があった。それは、ローズクォーツは★★レコードからCDを出しているので、★★レコードは、ローズクォーツとの契約上、同社に所属する他のアーティストには、3年間は同じ曲を歌わせることができない。
 
(実際せっかく高評価を得られているのに私たちが競作を出したら、○○プロの浦中副社長は面白くないだろう)
 
私たちが他のレコード会社から出すのであれば、★★レコードとしては契約違反にならないが、困ったことにローズ+リリーは、★★レコードとの契約で他のレコード会社から勝手にCDを出すことは許されない。
 
つまりローズクォーツとローズ+リリーが同じレコード会社に所属しているため、競作作品をリリースすることができないのである。(他のレコード会社の歌手なら著作権使用料さえ払えば“アレンジを変更しない条件で”誰でもリリースできる)
 
そこで私は苦肉の策として、この歌をローズ+リリーの海外版CDを出しているFMI から出すことを考えたのである。FMIから海外で発売する限りは、★★レコードとの契約には反しない。無論FMIで発売された音源でも日本国内でiTunes, Amazon などを使えば普通にダウンロード・CDで買うことができる。
 
ただ、微妙な問題が絡むので私は★★レコードの町添社長と直談判した。
 
町添さんは最初難色を示したものの、結局2つの条件付きで“口頭で”認めてくれた。
 
・全く違ったアレンジにすること。
 
・最低6曲以上入りのミニアルバムで出すこと。
 
確かにシングルよりはアルバムの方が許容されやすいのである。
 
そこで私は『Loong Hymns』というミニアルバムの企画をFMIのアレクサンダー部長に提示し、この企画の背景となった事情も直接アメリカの本社にいる部長と電話会談で説明し、了承を得た。
 
ここで"Dragon"ではなく"Loong"という言葉を使ったのは“龍”が西洋のドラゴンとは全く異なる存在であることを示すためである。
 
それで私たちはこのミニアルバムをこの夏くらいにアメリカのFMIから発売することを決めたのであった。
 

私は千里3に電話した。この手の話は、策士の千里2より、わりとシンプル思考の千里3のほうが協力してくれそうな気がしたからである。
 
「ああ、あのCD私も聴いた。あれ丸山アイが監修したのね」
 
「うん。私もそう聞いた。あの曲のサウンドディレクターとしてクレジットされている oku というのがアイちゃんのペンネームのひとつらしい」
 
「桜の空で“桜空”なんだよ」
 
「へー!じゃ“おく”ではなく“おうくう”なのね」
「うん。日本語のローマ字は長音記号が曖昧になる」
 
「それでさ、あれを出されて黙ってはいられないから、あれに負けないものを作ろうと思う。協力してくれない?」
 
「でも同じレコード会社からは競作は出せないのでは?」
「FMIからアメリカで発売するんだよ」
「アメリカ?龍なんて理解してもらえるかなぁ。中国にしたら?」
「米中同時発売でもいい」
 

「じゃちよっと打ち合わせしよう。今夜とか会わない?」
「いいけど。何時頃にしようか?」
「夜の12時。マリちゃんは妊娠中だからケイだけにしようかな」
「うん。それでいい」
「じゃどこかに出て来ない?」
「いいよ」
「だったらマリちゃんの実家前で」
「いいけど」
「そうだ。スカートじゃなくてズボン穿いてきてね」
「いいけど」
 
それで私はその日、妃美貴に留守番(マリの監視役)をお願いして、政子の“アクアのアクア”に乗り、夜中の12時に政子の実家まで行ったのである。
 

隣の敷地に建てられているガレージに“アクアのアクア”を駐めて、バッグだけ持って実家前まで行くと、千里が後藤節子さんと一緒に来ている。
 
「後藤さんもご一緒でしたか。おはようございます」
「おはようございます」
 
「冬は秘密を守れるよね」
「うん」
「じゃ、せいちゃんよろしく」
と千里が言うと、突然私は上空に舞い上がっていた。
 
「え?え?」
「私にしっかり捉まっていて」
「うん」
 
よく見ると、私は何か大きなものにまたがっていて、千里の身体に手を回しているのである。まるでバイクにタンデムで乗るかのように。
 
そして私がまたがっているものをよく見ると、どうも龍のようなのである!青い龍だ。
 

「後藤さんは?」
と私が聞くと青い龍が返事した。
 
「私ですけど」
 
「え〜〜!?後藤さんって龍なんですか?」
「青龍ね」
と千里が言う。
 
「わっ」
「東の守護神・青龍だよ」
「わぁ」
 
私は千里に捕まったままそっと下方に目をやると、青龍はどうも横浜付近を通過し、三浦半島を横切って洋上に出たようだ、更に南下していく。
 
「今夜中には戻れるから心配しないで」
「うん」
 
「青龍と一緒に飛ぶ感覚をしっかり記憶してね」
「うん!」
 
そうか。千里は龍と触れ合う体験を実際にさせてくれるつもりで私を夜中に呼び出したのかと納得した。
 

「ついでにあけぼのテレビの件で少し話そう」
などと千里が言うので、私は千里、青龍と3人で結構ビジネス的な会話をした。
 
青龍は1時間ほど南方に飛行し、やがてひとつの島に降りる。五島さんは人間の姿に戻っている。
 
「ここは青ヶ島かな」
「さすがちゃんと地図が頭に入っているね」
「いや、さっき上空を通過したのが八丈島っぽい気がしたから」
「さすがさすが。ここでバトンタッチ」
 
若い女性が近づいてくる。
 
「あれ?南野鈴子さん?」
「はい。ご無沙汰しておりました」
 
彼女は、千里1が信次さん死亡のショックからようやく回復して正気を取り戻した後、千里1のリハビリに協力していた人で、プロ並みのバスケット能力の持ち主である。
 
「あなたもまさか龍なんですか?」
「Я чайка(私はかもめ).Нет(じゃなくて).Я маленькая птичка」
 
(маленькаяマレンカヤは小さい。птичкаプティーシュカはптицаプティツァ“鳥”の指小語で“小鳥ちゃん”という感じ。ちなみに「私はかもめ」は女性初の宇宙飛行士テレシコワのセリフ)
 
「小鳥さん?」
と私が訊くと
「まあ、迦楼羅(かるら)よりは小さいかもね」
と千里は笑って言った。
 
迦楼羅は羽根を広げると336万里あるという。1里を100mとしても34万kmで地球より大きい。
 

次の瞬間、私はまた上空に舞い上がっていた。
 
さっき同様千里の身体に捉まっていたが、今度は赤い大きな鳥に乗っていた。
 
「もしかして鳳凰?」
「鳳凰の一族ですけど、朱雀(すざく)です」
と鳥本人が言った!
 
「南の守護神、朱雀ね」
と千里。
 
「あまり羽ばたかないんですね」
と私は彼女の上に乗ったまま言った。
 
「私たちは最初に飛び立つ時とかは羽ばたきますけど、ある程度の高さまで行くと、あとは鷹などと同じ、帆翔(はんしょう )ですね」
 
「なるほどー」
 
つまり空中を行く帆船のようなものなのだろう。
 
「今夜はうまい具合に東風が吹いています。これに乗って西行します」
「はい、お願いします」
 
(風の向きは吹いてくる方角を言うので東風とは東から西へ吹く風)
 
それで彼女はずっと洋上を風に乗って滑空していく。
 
「この飛行感覚をよくおぼえておいてね」
と千里が言う。
 
「うん。ありがとう」
 
彼女がバスケットをすることから、私たちはこの飛行中はかなりバスケの話題を話した。
 

彼女はずっと海の上を飛んでいたのだが、やがて陸地が見えてくる。
 
「あれは紀伊半島かな」
「そうそう。あまり人目の無い所に降りるから」
 
それで紀伊半島の串本より手前の方の町の灯りから離れた浜に着陸した。もう南野さんは人間の姿に戻っている。
 
そこに別の女性が歩み寄ってくる。
 
「おはようございます。白鳥清羅さんでしたっけ?」
「おはようございます。よく覚えてますね。1度会っただけなのに」
 
彼女とは妊娠で入院中の和実の病室で会ったことがあった。
 
「あなたはもしかして・・・白虎?」
「ケイさん、勘が良すぎです」
 

そして次の瞬間、私はまた千里に捉まっていて、走る虎!の上に居た。白い毛並みが美しい。
 
「道路を走るんだ!」
「あいにく私は飛べないので」
と虎さんは言っている。
 
「西の守護神、白虎だね」
と千里が言う。
 
「でも車にぶつかったりしません?」
「大丈夫でしょ」
 
「でも凄く速い!」
「今時速150kmくらいで走ってますけど、オービスのある所では速度落としますから」
「大変ですね!」
 
と言ってから私は考えた。
 
「虎って、速度制限の対象になるんだっけ?」
 
すると千里が言った。
「牛や馬は軽車両の一種とみなされる」
「へー!」
「だから多分虎も軽車両」
「なるほどー」
 
「人間は軽車両ではないから、人間が一般道を時速100kmで走っても違反にはならない」
 
「そんな速度で走れたらオリンピックで優勝するよ!」
 

彼女は熊野大泊ICまで来ると高速道路(熊野尾鷲道路:無料)に乗り、尾鷲北ICからは紀勢自動車道に乗り、大紀本線料金所ではETCレーンを通った!
 
「ETCが使えるんだ!」
「普通乗用車の料金を払っている」
「あれ?でもさっき虎は軽車両と言わなかった?」
「軽車両の料金は無いし。尻尾まで測ると軽自動車のサイズ超えてるから普通自動車料金だと思うんだよね」
 
「そもそも通れるんだっけ?」
「アメリカだと馬でハイウェイ走ってる人いるけどなぁ」
「日本は?」
「さあ」
 
アメリカでも虎でハイウェイ走る人はいないと思うぞ!?
 
しかしその後、彼女は伊勢自動車道、新名神、名神、北陸道と走る。道中はアクアのことでおしゃべりしていた。白鳥さんもアクアのファンらしい。
 
「アクアは男の子と女の子の双子でしたと発表しちゃいけませんかね」
などと彼女は言っている。
 
「ずっと2人のままとは思えないし」
「じゃ女の子アクアが残ったらそのまま、男の子アクアが残ったら性転換手術受けさせて、アクアは女の子になりましたという記者会見を」
 
「Mちゃんは別に女の子にはなりたくないので」
「眠っている間に手術しちゃったら諦めますよ」
 
ここにも危ない人が居た!
 

やがて鯖江ICで降りた。料金は4560円と表示された。
 
ICから少し行った所で停止するので、私は千里と一緒に彼女から降りる。彼女はすぐ人間体に戻る。
 
「あ、高速料金払うよ」
と私は千里に言った。
 
「じゃそれだけもらっておこうかな。彼女たちの報酬はサービスで」
と千里は言ったが
 
「いや、みなさんの報酬も含めて50万とかでは?」
「さすがにもらいすぎ。1人1万で5万でいい」
「じゃ10万と高速料金5000円で」
「じゃそれで」
 
それで私は千里に10万5千円を払った。千里はその場で白鳥さんに2万円渡していた。
 

若い男性が近づいてくる。
 
「おはようございます。黒亀武志さんでした?」
「よく覚えてますね。おはようございます」
 
「あなたは玄武さん?」
「それもよく分かっている」
「北の守護神、玄武だね」
「へー。四神の中でも玄武さんだけは男の子なのか」
 
などという会話を交わした直後、私は上空に舞い上がっていた。また千里に捉まる形になっているが、大きな丸いものの上に居る。よく観察してそれが大きな亀の甲羅であることに気付く。
 
「ガメラみたいに回転はしないんですね」
「回転したら目が回ります」
と亀さん本人が言っている。
 
「ちなみにひっくり返ったら起きられます?」
「あれは気合いで反転します」
「へー!」
 
「一度ひっくり返してみたら、身体を揺すってその振動で起き上がったよ」
などと千里が言っている。
「なるほどー」
「あれ、さすがに楽しくないから、あまり実験しないように」
と本人は言っている。
 
それで私は「その起き上がる所を見たい」と言いそうになっていたのを止めた。亀さんは亀さんなりに大変なようだ。
 
「人間なら、ちんちんで逆立ちしている気分らしい」
と千里。
「その状態がよく分からないんですけど」
と私。
 
「逆立ちできるほど、ちんちんが長いのかも」
「それは驚異的だ」
 
「でもちんちんが無いと起き上がりにくいみたい。女の子の玄武は、ひっくり返されると自分で起き上がりきれない子もいる」
と亀さんは言っている。
 
「それ、ちんちんより筋力の問題では?」
「まあその可能性はあるかもね」
 
亀さんはジョークが好きなようで、私は彼と千里と3人で、半ば漫才のような会話を楽しんだ。
 

玄武さんは鯖江から白山・飛騨山脈・赤石山脈、更に富士山上空を越えた。少し明るくなってきた中での富士山越えは物凄く美しかった。
 
明け方、熱海近くの海岸に着陸する。玄武さんはもう人間体に戻っている。
 
山村マネジャーが近づいてくる!しかも今日は珍しく男装である。
 
「おはようございます。もしかして山村さんも?」
「彼は黄龍、別名勾陳だね、中央の守護神」
「わぁ」
 
次の瞬間には上空にいる。
 
が・・・高い!?
 
「ここ物凄い上空みたい」
「成層圏だから、空気薄いと思う。呼吸に気をつけて」
「どう気をつければいいの!?」
と私が言う間もなく、黄龍は飛び始める。
 
「どこ行くんですか?」
「80秒間世界一周かな」
「それ速すぎる」
「じゃ80分間世界一周で」
「そのくらいなら」
 
しかしそれって人工衛星並みの速度では!?と思ったら千里が言った。
 
「つまり手抜き速度ね」
「そう言うなよ」
「ほとんど重力だけで飛行できる。人工衛星の軌道速度はケプラーの第3法則に支配される。軌道半径の二乗が公転周期の3乗に比例する。静止衛星の高度36000kmなら24時間掛かるけど、国際宇宙ステーションの高さ400kmなら1時間半で回れる。ここは高度20kmくらいだから、それより少し速い85分程度」
と千里は言った。
 
さすが数字に強い千里3だ!
 
「へー!400kmと20kmってあまり差が無いんだ?」
と私は言う。
 
「地球半径で6400kmあるから」
「あ、そうか!軌道半径の大半は地球自体の大きさか」
 
「そうそう。6400km+400kmも、6400km+20kmも大差無い」
「そういう考え方って、大事だけど見落としがち」
「まあ、成層圏飛行できるのは、こうちゃんだけだね」
「ところで呼吸は大丈夫なんだっけ」
「まあ窒息死したらそれも運命ということで」
「え〜〜!?」
 

しかし私は窒息せずに地球一周を終えることができた。実際には2時間掛かっていたので、恐らく呼吸しやすいように手加減して飛んでくれたのだろう。
 
朝8時頃、恵比寿のマンション前に辿り着き、私は千里たちによくよく御礼を言って別れた。
 
私は疲れたのでそのままベッドに潜り込んで寝ていたのだが、政子に起こされる。
 
「ね、ね、出かけようと思ったらアクアちゃんがいないの。冬、どこに置いた?」
 
「しまった!マーサの実家の所だ」
 
「だったら冬、取ってきてよ」
「きついから玄子さんに頼む」
と言って私は玄子マネージャーに電話を掛けた。
 
「玄子さんが取りに行ったら、今度は玄子さんの車がおきざりになるのでは?」
「こういう時、玄子さんは大学生の弟さんを乗せて取りに行くんだよ。それで弟さんが玄子さんの車を運転してここまで来る。それでアクアのアクアを渡して一緒に自分の車で帰宅する」
 
「あ、パズルみたい」
と言ってから政子は再度私に訊いた。
 
「冬はどうやって車無しでうちに帰ってきたの」
「人工衛星に乗せられた」
「それ、冬ならいつものことだね」
 

そういう訳で、新しいミニアルパムのラインナップはこのようになったのである。
 
タイトル『龍たちの讃歌』
 
『青龍−瑞々しい大河』
『朱雀−熱き飛翔』
『白虎−千里を駈ける歌』
『玄武−泉を守る娘』
『黄龍−80分間世界一周』
『ウォータードラゴン - a capella -』
 
『青龍』は4年前にE村で書いた『水中散歩』をベースにしている。歌詞は私自身が書き下ろした。メインメロディーはあの曲だが、今回は青龍さんに乗っての飛行体験を元に瑞々しい中で青龍が空中を走って行くような躍動感のあるサビを加えた。
 
Aメロの“座する龍”とサビの“飛翔する青龍”とが対照的である。アレンジもあの体験をもとにかなりの工夫を施している。私の組んだCubase上で、私のレベルで納得の行くレベルまでまとめてから近藤さんたちに聴かせたら
 
「俺たちが伴奏する必要ない」
 
と言われてしまったが
 
「そこを何とか」
 
と頼み、一週間掛けて練り上げてくれたが、そこに私がまた色々注文を出し、本当に“静”と“動”の対照的な曲に仕上がった。
 

『玄武』は杉田純子ちゃんが歌った『泉を守る娘』をほぼ流用することにした、ただしこれも今回の玄武さんに乗っての飛行体験を元に、全く違う曲に聞こえるくらい、臨場感のあるアレンジを加えている。また2サビとして上空から見た日の出前の富士山の美しさを歌い込んでいる。
 
なお、私は元の杉田純子バージョンに沿ったアレンジ(但し私の好みの範囲で少し変更している)で、アルバム制作中であった、白鳥リズムにも歌ってもらい彼女のアルバムに入れてもらうことにした。これは『みんなの歌』版の音源化を待ち望んでいた人たちへのアンサーである。
 
§§ミュージックの歌手の所属はTKRなので、★★レコード所属のローズ+リリーと競作になっても全く問題無い!(そもそも同時発売の場合は同じレコード会社であっても許容する特約を結ぶことが可能−それでも歌詞を変更したりアレンジを大きく変えたりするのが一般的)
 

『朱雀』は実は4年前にマリがE村で書いた『風の中の少女』の詩に私が新たに曲を付けたものである。これも朱雀さんに乗っての飛行体験を元にしたアレンジをしている。
 
「今回のケイは要求水準が高い」
と近藤さんたちは言いながらも頑張って伴奏を作ってくれた。今回、彼らは1曲ごとに1週間以上掛かっている。
 

『白虎』と『黄龍』は今回の新作である。順序としては『白虎』を書いた後で『黄龍』を書いている。
 
『白虎』は高速道路を疾走していく白虎の臨場感を現した曲、そして『黄龍』は成層圏を飛行していくスペーシャスな感覚を表現している。どちらも歌詞は私自身が書いている。これはあの体験をした人にしか歌詞は書けないと思ったのと、現在マリは妊娠中で発想がやや“特殊”になっているのもある。
 
私は以前KARIONに『80分間都区一周』という曲を書き2015年2月のアルバム『四・十二・二十四』に収録している。今回は似たタイトルではあるが、全く違った曲である。またあの曲の影響が紛れ込まないように、私はかなり気をつけて書いた。
 

ところで今回伴奏作りに参加してくれたのはこういう面々である。
 
スターキッズ&フレンズ
AGt.近藤嶺児 B.鷹野繁樹 Vib.月丘晃靖 Dr.酒向芳知 Sax.宝珠七星
Tb.宮本越雄 Tp.香月康宏
私のお友達!
Pf.近藤詩津紅 Fl.田中世梨奈 Cla.上野美津穂 Vn.大崎志乃舞 龍笛.醍醐春海
 
ちゃんとMax12になっている。
 
基本的にはアコスティックな音を中心に構成している。使用した電気楽器は鷹野さんが弾くベースのみである。
 
醍醐春海こと千里はたぶん2番である。
 
「この曲、まるで実際に青龍、朱雀、白虎、玄武、黄龍に乗ったことがあるみたいな曲だ」
と感心していた。もっとも3番だったとしても、私を乗せてくれたことを本人が忘れている可能性はある!千里は元々そういう人である。
 
田中さんと上野さんは青葉の親友で高岡在住なのだが、今回の制作に参加するために、出て来てくれるということだったので、ホンダジェットでお迎えに行ってもらったが、
 
「この飛行機可愛い!」
とはしゃいでいた。
 
彼女たちは3月で大学を卒業したので、3月の震災イベント(無観客演奏)が最後の参加になるかとも思っていたのだが、田中さんは就職予定だった会社が4月1日に行ってみたら倒産していたらしく、結局現在は津幡のアクアゾーンの監視員をしているらしい。それで時間を取ることができた。
 
上野さんも4月に金沢市内の企業に就職したものの、病気になって退職したらしい。それで現在は無職なので参加できた。
 
「ご病気はもういいんですか?」
「青葉が治してくれました」
「さすが青葉!」
 

田中さんと上野さんは、音源制作中、§§ミュージックの女子寮空き部屋に泊まってもらった(女性なので泊まれる)が、
 
「ラピスラズリのサインもらっちゃった!」
などと言って喜んでいた。本当は寮内はサイン禁止なんだけど、まあ大目に見ることにした。
 
また今回のPVは一部演奏映像を入れた他は大部分をアニメーションで構成することにしたが、その制作は先日、アクアのミニアルバムで、お留守番の歌のアニメを制作してくれた会社に依頼した。ただし、青龍・朱雀・白虎・玄武・黄龍のヴィジュアルに関しては、私自身がデザイン画を描き、各々の動きなどについても細かい注文を付けて作り上げている。
 
それを見た千里が
「まるで本物を知っているかのようだ」
と感心していた。
 
実際このミニアルバムは、このPVの迫力もひじょうに評価されることになったのである。
 

私とマリの歌唱収録は、最初に『青龍』の伴奏が出来たあとから始めたのだが、今回私はマリの歌い方にかなりの注文をつけた。あまりに注文を付けるのでマリが文句を言ったが、焼き肉とかしゃぶしゃぶとかステーキとかで手打ちしてもらった。ただ妊娠中なので、あまりたくさん食べることは医者から止められており「もっと食べたーい。でもお医者さんに叱られる」と、マリなりの葛藤があったようである。
 
基本的に各々の曲で、日本語歌詞→英語歌詞→中国語(北京語)歌詞の順に吹き込んだが、英語・中国語の歌唱についても私は注文を続け、各々かなりハイレベルの歌唱に仕上がった。
 
なお、日本語版と英語版はアメリカ・カナダ・イギリス・ベルギーで、中国語版は中国と台湾で同時発売になる。TSUTAYA以外の日本の普通のCDショップでは発売しないが、Amazonなどでは普通に買える。実はTKRサウンズの店頭・通販でも(輸入盤として)買える。ダウンロード版はAmazon, iTunes などで買える。
 
(FMIは日本国内でも売れることを見込んで日本の工場でもCDを生産するので、実際にAmazonやTKRサウンズで販売される分は国内で生産されたものになり、関税なども掛からない)
 
むろん★★レコードは宣伝しないが、あけぼのテレビではプロモーションするし、ローズ+リリーのホームページやファンクラブ会報でも告知するしファンクラブの会員には特典(生写真とポスター・壁紙・スクリーンセイバーなど)付きの予約販売もする。なお国内のレコード会社が発売する作品ではないので、ランキングの集計対象外である!
 

アルバムの中で最後に制作したのが『ウォータードラゴン』である。
 
「アカペラで歌うんだ!」
と千里が驚いていた。
 
私は言った。
 
「山岸凉子さんの『アラベスク』にこんな場面がある。この『アラベスク』というのは、作品のタイトルであると同時に、作中で演じられる新作バレエのタイトルでもあるんだけど、その公演に主役のユーリが遅刻してしまい、代わりにライバルのエーディクが踊ることになる。彼は『ユーリの代役はしない。踊れというのなら僕のアラベスクを踊る』と言って劇場支配人に了承される。そして独自の解釈で本来の『アラベスク』とは全く違う斬新な踊りを踊って観客から絶賛される。そして翌日は本来のユーリが踊らなければならない。そのユーリが言ったことば」
 
『水色や肉桂色のあとに赤や黒を見せるなら効果もある。だがもうさんぜんたる黄金色が出てしまった。このあと、なに色を見せても観客の目にはなにもうつりはしない』
 
この時点でユーリは自分の敗北を認めている。でもそのユーリは翌日の踊りで男性踊り手の見せ場である跳躍を全く使わずに踊るということをしてみせる。それを見て衝撃を受けたエーディクの敗北の弁」
 
『黄金色にまさる色はない。となると残された道はただひとつ。色をまったくとり去ること。色のない色。さしずめ白光色かね』
 
こういう踊り方は、かつてニジンスキーが『牧神の午後』でやってみせたことがあるらしい。バレエの本質で踊ったんだと作者は語る」
 

「それで伴奏を取っ払うわけか」
 
「歌の本質で歌う。そのアカペラで龍っぽくなるように、私とマリの歌唱を指導してくれない?」
 
「私、厳しいよ」
 
と千里は言ったが
 
「それでも頼む」
と言った。
 
そして千里の指導は本当に厳しかった!彼女は声の出し方のひとつひとつから指導していった。実際に歌ってみせて「こんな感じでもっと上手く」などと言っていたが、彼女の歌自体が物凄く上手い。
 
マリがあまりの厳しい指導に泣き出したのを
「終わったらシャトーブリアンのステーキ」
などと言ってなだめて、歌わせた。
 
それで歌唱だけで3日がかりの収録になったが、完成した音源を聴くとマリは
 
「私、なんか凄く上手い気がする」
などとご機嫌な様子で言っていた。
 
でもシャトーブリアンのステーキで6万円飛んだ!
 
 
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【夏の日の想い出・龍たちの讃歌】(1)