【春三】(6)
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松崎元紀は夜中目が覚めてトイレに行くと、おしっこの出方が変だった。それでお股を覗き込むと、立派な男性器セットがあるのでギョッとする。
「きっとこれは夢だ」
と思うと布団に戻ってぐっすり寝る。でも4ヶ月ぶりの男の子オナニーをした。気持ち良かった。これもいいけど、やはりぼく女の子になりたいなあと思いながら、眠りに落ちて行った。
朝起きてからまたトイレに行くと、おしっこはいつもの位置から出た。ペニスはあるけどとても小さい。やはり夜中のは夢だったんだなと思った。でも男に戻ってる夢を見るなんて、ぼく心のどこかでまだ女になることに迷いがあるのかなあと少し悩んだ。
坂上透は“女子寮A803”の部屋で夜中目が覚めてトイレに行くと、おしっこの出方が変だった。それでお股を覗き込むと、男性器が消失して女の子のような形になっており、おしっこは凄い後ろのほうから出ているようだった。
「きっとこれは夢だ」
と思うと布団に戻ってぐっすり寝た。でも女の子オナニーをしてみた。物凄く気持ち良かった。これもいいなあ。ぼくよく女の子に間違われるけど、いっそ本当に女の子になってもいい気がする。などと思いながら、眠りに落ちて行った。
朝起きてからまたトイレに行くと、おしっこはいつものように出た。やはり夜中のは夢だったんだなと思った。でも女の子になる夢を見るなんて、ぼく心のどこかで実は女の子になりたいと思ってるのかなあと少し悩んだ。
『ミュージシャンアルバム』の取材で11月27日(日)は、鈴鹿美里と大内小猫ちゃんをお迎えした。昨日が弘田ルキアとキャロル前田の“男の娘組”だったが今日は“女の子組”?である。
鈴鹿美里と大内小猫は各々のマネージャーと一緒に5人でHonda-Jet
Goldに乗せて26日夕方富山空港に飛んできており、高岡市内で1泊してから、まずは午前中に大内小猫ちゃんが来てくれた。
小猫ちゃんを先にインタビューするのは、中学3年生の彼女を夕方には東京に帰したいからである。2013年4月に中学3年でデビューした鈴鹿美里ももう24歳である(彼女たちは8月生)。ただし放送順は逆になる。4月9日鈴鹿美里、4月23日大内小猫である。これはひとつはゴールデンウィーク直前に小猫ちゃんをプッシュしたいから。もうひとつの理由は後述する。
来る時の機内では
「ちょうど今の小猫ちゃんの年に私たちデビューしたんだよ」
などと話をしてきた。
青葉邸のサンルームでインタビューは行われる。この番組ではおなじみになったアラビアンなシールが貼られたアルハンブラ(千里が運転)から小猫ちゃんが降りる。ラビスラズリが案内して玄関からサンルームに移動するが、その経路には弘田ルキア、キャロル前田とアドベンチャーズ、鈴鹿美里、および小猫のポスターが貼られている。鈴鹿美里と放送順が逆になることを意識したものである。弘田ルキアの時はスカイロード、東青山少女合唱団、ハラマドラーとルキア自身のポスターだった。
「という訳で、“いつも元気な幸福の白猫”大内小猫ちゃんでーす」
と朱美が紹介すると、両手にVサインをし、猫耳カチューシャを付けた大内小猫がカメラに向かって手を振る。
「なんか元々猫に縁があるんだよね」
「はい。生まれが“ひこにゃん”の里・彦根市なんですよね。それにうちでも猫飼ってたんですよ。ミケちゃんっていう三毛猫とシロちゃんっていう白猫で」
「まんまやね」
「えぇ。シロちゃん亡くなった後はクロちゃっていう黒猫が来てくれたんですが」
「それもまんまやけど亡くなった時は悲しかったでしょ?」
「一週間くらい泣いてました」
「辛いよね。劇団にも入ってたんでしょ?」
「はい。現地の児童劇団に入っていたんですけど、発表会で最初にやったのが『11ぴきのねこマラソン大会』の“猫21”という役で」
「『11ぴきのねこ』って11ぴきじゃないんだっけ?」
「本来そうなんですけど、『マラソン大会』はマラソンに参加してる猫だけで20匹くらい、沿道の観衆とかまで入れると100匹くらいの猫が登場するんです」
「おお凄い」
「実際にはその時の劇でマラソンに参加したのが21匹で私はその21番目だったんですよね。でもマラソンコースの中の迷路で迷ってしまう猫の役で」
「それは割と美味しい気がする」
「でしょ?あの迷子になった小猫、可愛かったとか言われて」
「うんうん」
「それもほんとうは応援してる猫の1匹の予定だったんですが、21番目の猫の役の子が当日風邪で出られなくなって、急遽代わったんです。途中で迷子になって泣くだけの役だからと言われて」
「この世界、代役をした人が結構伸びるんだよ」
「東京の事務所の課長さんにも言われました」
「キー局でのデビュー作も『11ぴきのねこ』だったね」
「はい。2年前2021年の4-6月放送、実際には3月から撮影開始したんですけど。これも実は代役だったんです」
「凄いね」
「猫11をする予定の人が初回撮影当日の朝、階段から落ちて3針縫う怪我で出られなくなっちゃったんですよ。私は“Kitten Eight”というグループアイドルで5月にデビューする予定で、その日事務所に打合せのため朝から出て来てたんですよね。その時私が一番乗りで私だけが居たんです。そこに緊急の電話が入って。そしたら社長が『君ちょっと行ってきて』と言って」
「ああ、この世界ではよくある話。たまたまそこに居た人が使われる。ある映画とか主演女優が降板して、たまたまそこに居たウェイトレスさんが起用された」
「そんなのあったんですか!?」
「まあ色々なことがある」
「すごーい!それで私は5月にアイドルデビューだから1回だけの代役かと思ったんですよ。ところがブロデューサーさんに気に入られちゃって。セリフも台本修正してかなり増えて。“大内小猫”の芸名も頂きましたし。主題歌まで歌うことになって」
「結局1クール、12回最後まで務めたねー」
「そうなんですよ。あれ途中で辞めちゃって出てこなくなった人もあって最後は7匹しかいなかったんですが」
「うんうん。数が減ってる。タヌキにでも食われた?なんて言ってた」
「それで結局 "Kitten Eight" のほうは退団扱いになって、オーディション次点の久田抄花ちゃんが加入しました」
「そして続けて猫役『ブーツを履いた猫』の大熱演」
「びっくりしました。4月に端役でデビューしたばかりなのに大抜擢されて。他の猫仲間に嫉妬されるのではと思ったんですけど、みんな『おめでとう』と言ってくれて、いい友だちを持ったなあと思いました」
「この業界、妬む人もいるけど、性格のいい人も多いから」
と朱美は言う。
「でもあれも主題歌を歌わせていただきましたし」
「やはり君が歌がうまいから歌わせるんだと思うよ」
「当時プロデューさんに言われたのでは主演の新里耕児さんが歌は歌わない主義なので(*48)、歌の歌える女の子に猫をやってもらおうということになったということでした」
「あのシリーズは予算があるだけあって、歌にもかなりのレベルを要求するもんね。それで私たちもカメオ出演してほぼ歌だけ歌うってのあったし」
「ラピスラズリさん、それで結構歌ってますよね」
「なかなか演技もできて歌もうまいという人は少ない」
「でしょうね。でも後から聞いたのでは『11ぴきのねこ』の誰かを使おうということになったものの、最後まで残った7人の猫の内、女子が3人だったんですけど、その内2人は次のドラマが決まっていて、私だけスケジュールが空いてたから『この子にやらせよう』ということになったらしくて」
「あはは」
(*48) つまり下手ということ!友人の証言でも音楽はいつも1だった。もっともこの世界には音楽1で歌手をやっている人もたくさん居る。これはだいたい3つの類型に分類できる。
(1) その後努力してうまくなった。マリちゃんみたいなタイプ。それでも正確性には欠ける人が多い。女優さんやお笑いの人で歌も歌うという人には時々居る。
(2) 元々うまかったが音楽の先生と合わず良い成績がもらえなかった。このタイプは小学校では音楽の成績は悪くても中学や高校でコーラス部や吹奏楽部のリーダー格だったりする。バンドやってる人たちに結構居る。
(3) 今でも下手。アイドル歌手に多い。
「でもあのドラマでそちらの事務所の常滑舞音ちゃんと“にゃんこ同盟”を結んだんですよ」
「うんうん。舞音が楽しそうに言ってた。舞音が黒猫で小猫ちゃんが白猫とか」
「なんかそういう感じになったんですよねー。『ブーツを履いた猫』が白猫のコスチュームでしたし」
「あれ見てうちの部長(花ちゃん)が舞音に『八犬伝』の“八房”の役をさせること思いついたんだよね」
「あれも凄い熱演でしたね。さすがです」
「それで小猫ちゃんも『注文の多い料理店』の猟犬の役をしたし」
「あれはUFOの皆さんと楽しく演技できました」
「あと『クイズ七味唐辛子』のレギュラー解答者になって」
「あれも代役だったんですけどね。解答者に入る予定の方がコロナで隔離されて」
「代役が多いね〜」
「『七味唐辛子』は私みたいな新人がこんな大役いいのかなと思いました」
「他にも『青空高校の午後』に出てる」
「あれで芸能界に随分知り合いが増えました」
「歌の方もだいぶ出したねー」
「はい。『11ぴきのねこ』の主題歌を歌って、『ブーツを履いた猫』の主題歌を歌って、11匹の猫のOB会みたいになった『猫たちの大冒険』ではThree Cat Girls のクレジットで歌いましたし、『パパイヤ家族』でまたソロで主題歌を歌って。なんかドラマとかの主題歌が多いんですよ。あとはCM関連ですね」
「歌える女優さんという感じになってるよね。将来的には歌とお芝居とどちらを主軸にしたい?」
「どちらも好きですけどね。やはり女優がメインになっていくかも」
「10代であれだけ演技力がある人って貴重だから、頑張っていくといいね」
「はい」
「そして来月はとうとう初主演」
「ええ。今まで準主役みたいなのはいくつかあったんですが、主役って初めてだったんですよね。ほんとに緊張しました」
「凄く可愛いお嫁さんだったねー」
「ウェディングドレスなんて着るのも初めてだったからドキドキしました」
「でも昔は女の子は12-13歳で結婚してたからねー」
「もう初潮が来たら結婚可能ということになってたみたいですね」
「きっとあの物語の主人公もそのくらいの年頃なんでしょうね」
(この部分は台本でトークしている。実は小猫本人も何の役をするのか、そもそも何のドラマか全く聞いていない!ただ「お嫁さんの役」とだけ聞いている。朱美も結婚する娘の役らしいと聞いているだけである。だいたい脚本とかもできてないので、今回収録したセリフと合わなくなったらこの部分だけ撮り直す予定である!)
「いきなりヴァイオリン弾いてるところから始まったけどヴァイオリン上手いね」
「ヴァイオリン教室途中で辞めちゃったからお恥ずかしいです。簡単な曲しか弾けないから」
「それは難しい曲を弾かなければいいんだよ」
「そうですけどね!」
歌のコーナーでは最初に“先日のドラマでも演奏した”通称“バッハのメヌエット”(本当の作者はクリスティアン・ペツォールト)をはるこがピアノ伴奏して小猫ちゃんのヴァイオリンで演奏する。そのあとでデビュー作となった『11ぴきのねこ』の主題歌を朱美のエレクトーン伴奏で歌唱した。この歌唱音源は追って彼女のアルバムに収録されることになる。
小猫ちゃんはインタビューのあと、居間でラビスラズリ・千里と一緒に会食して午後からは追加の取材に行った。猫つながりで高岡駅のドラえもんポスト、ウィング・ウィング高岡広場にある“ドラえもんの散歩道”などで記念撮影。藤子・F・不二雄ふるさとギャラリーも見学してから夕方、富山空港から、来た時と同じHonda-Jet
Goldにマネージャーさんと2人で乗って熊谷に戻った。
午後からは鈴鹿美里のおふたりをお迎えした。彼女たちは双子姉妹のユニットである。ふたりは顔もよく似ているので、鈴鹿ちゃんと美里ちゃんを見分けるのはとても難しい。2人は髪型もそろえて、いつも同じ服を着ている。
ただし彼女らは一卵性双生児ではない。しかし容貌が似すぎているので千里や青葉の推測では“半一卵性”ではないかと。このことにはインタビューではふれない。
「今月でデビュー10周年ですね」
「そうなんですよね。芸能界は競争厳しいから2年も生き残れたら上出来かなぁと思ってたんですが、いつの間にか10年経ってました」
これはこのインタビューが2023年4月に放送されることを想定したセリフである。そして今日の取材の内、鈴鹿美里が大内小猫より先の4月9日に放送される理由のもうひとつが、デビュー10周年の4月3日(*49)に近いからであった。
「ところで、どちらか鈴鹿ちゃんで、どちらが美里ちゃんですか」
「さあ、どちらでしょう?」
「視聴者の方々にクイズです。左側が鈴鹿だと想う人は青いボタンを、右側が鈴鹿だと思う人は赤いボタンを押してください」
「いや、うちの番組そんなお金の掛かること、やってないって」
「でも正解は番組の最後に」
(*49) 2013.4.3 はデビューシングルの発売日で、初お披露目は 2013.2.23名古屋でのローズ+リリーのライブへのサプライズ・ゲスト出演。その後、いくつかのテレビ番組・ラジオ番組にも「デビュー間近の鈴鹿美里さんです」と紹介されて出演している。
「でも君達、今日は来てないけど、ケイとの関わりが大きいよね」
と千里が言う。
「はい。デビュー曲をマリ&ケイ先生から頂きましたし、ローズ+リリーのライブでお披露目させてもらいました。そしてローズクォーツの代理ボーカルもやりましたし。他にもいろいろ個人的に相談に乗って頂きました」
「今はお二人とも女性ですよね」
と朱美が訊く。これは聞いて良いと言われていた。
「2019年の10月にちょっとしたできごとがあって、私たち2人もマネージャーのクララも3人揃って女の子になりました」
と言いながら美里はチラッと千里を見る。
「ああ、3人揃って性転換したんだ」
「ええ。そうなんです。それで兄弟ユニットと男性マネージャーから、姉妹ユニットと女性マネージャーに大変身です」(*50)
と鈴鹿。
マネージャーのクララが笑っている。そこをすかさず撮す。
「そういう言い方をすると私まで元は男だったみたいに聞こえるのだが」
と美里。
「まあ過去は問わないということで。今女であれば問題無いよね」
と鈴鹿。
「そうですよね」
と朱美。
はるこは話は見えないものの、ドキドキしていた。
(*50) 2019年10月13日、香川県の善通寺境内で鈴鹿・美里・クララの3人はお遍路中の千里(暴走中!の千里1)と遭遇し、握手した。その夜、クララと鈴鹿は女性になってしまった。美里も握手したが、特に性別は変化してない。
このお遍路では古庄夏樹(現在優子の妻)とか現在大阪で飲食店を切り盛りしながらローザ+リリンのスタッフも(リモートで)を務めている藤山渚など大量の犠牲者が出ている。“お遍路すると女の子になれる”という噂まであった。
それに先立つ7月21日、ロックギャルコンテストの本戦で月乃岬(東雲はるこ)は優勝して、審査員の先生たちと握手した。この審査員の中に、暴走中!の千里1が居て、岬はその夜、性転換手術(4/24)で作った女の身体から、本物の女の身体に変化した。まだ残っていた手術の痛みも消失し、半月後には生理が始まっている。3位になった落合茜(町田朱美)も握手しているが、彼女は別に性別は変化していない。
「こんなこと言うと邪道だと思うんですけど『モスバーガーの歌』が好きです」
と朱美。
「いやそう言う方多いです。私たちの最大ヒット曲だし」
と美里。
「『モスバーガーの歌』派と『モスガバーの歌』派がいるね」
と千里が補足する。
「どちらも面白いですねー」
元は特撮映画『モスラ』シリーズの挿入歌で双子歌手のザ・ピーナッツが歌った『モスラの歌』である。作曲家は古関裕而大先生(*51)。『モスガバーの歌』はアニメ『星のカービィ』の中で歌われたもの(2003.3.15『モスガバーの逆襲!』)で、この曲の替え歌である。『モスバーガーの歌』はラジオ番組で美里がふざけて即興で歌ったものだが、リスナーにうけて「ぜひ音源化を」と言われ、権利者の許可を取って発売されたものである。あちこちのラジオ局でよくオリジナルとセットで流されたりして、大ヒット曲になってしまった。少なくともセールス的には鈴鹿美里最大のヒット曲となっている。
原曲「モスラの歌」(ザ・ピーナッツ・歌):
モスラーヤ・モスラ、ドゥンガン・カサークヤン、インドゥムウー、ルストウィラードア、ハンバ・ハンバームヤン、ランダ、バンウーンラダン
モスガバーの歌(ツインナッツ・歌):
モスガバーや、モスガバー、おっきいけれど、どうてんにん、ししゃ(支社?)は、かんだのびーる、ちっちゃな、やまなしに、けんはるは
モスバーガーの歌(鈴鹿美里・歌):
モスバーガー、美味しいね。でも持ち帰ってから食べた方がいい。 汁がたくさん垂れるからー、舐めたいけーど、他人には見られたくなーい
(*51) 「モスラの歌」の歌詞に関してはどうも関係者の証言が曖昧である。
ひとつの説では日本語の歌詞を“由起こうじ”が書いた。この“由起こうじ”の正体は、田中友幸、本多猪四郎、関沢新一の共同ペンネームとする説と本多猪四郎のペンネームとする説がある。そしてこの歌詞を日本留学中のインドネシア人留学生(氏名不詳)に訳してもらったというもの。
もう1つの説は、中野昭慶助監督が述べているもので、4人の助監督でフランス語の原詩を書き、それを英語読みしてからエスペラント語にし、それを歌ったものを逆再生して文字に起こしたものだという。
要するに何らかの方法で神秘の島の聖なる歌っぽく聞こえるようなものを作ったということらしい。
歌のコーナーでは千里推奨の『南海の待ち人』を東雲はるこのピアノ伴奏で歌った。2人の故郷の小浜島(こはまじま)をイメージして鈴鹿美里自身が歌詞を書いたもの(作曲は紅石恵子つまりケイ)である。実はシングル化されておらず、アルバムにだけ収録されている。
しかしこの放送をきっかけにシングル化の要請がけっこう来て、次のシングルと両A面で発売されることになる。
インタビューが終わった後、鈴鹿美里とマネージャー、ラピスラズリ、千里、の6人で能登空港近くの朱雀林業輪島支店に移動し、そこで夕食を取ってから能登空港に駐めてあるHonda-Jet
blackに乗って熊谷に戻った。
移動してから夕食を取るのは、お腹が満ちた状態で山越えの道を走りたくないからである!
ところでアクアであるが、『竹取物語』を8月20日まで制作していて、そのあと西宮で写真集の撮影、それからライブをやって9月の前半は大量のCM撮影。後半は『ザ・天下』の事前撮影で富山に行ったりシングルの音源制作をしたりしていた。10月いっばいは『ザ・天下』の撮影をしていたがその途中1日だけ再度西宮に行き写真集の撮り直しをしている。11月頭に解放されたかと思うとミニアルバムの制作をすると言われ、この制作に北陸組(吉田邦生・日高久美子・田中世梨奈・坂上透)とColdFly5がまた動員された。
邦生は11月5日に青葉邸で彪志のお化粧をしてあげて、6日はS市から戻って来た真珠と“お弁当琥珀”のお弁当を食べて一緒に休んだ。しかし11月7日(月)に出社すると
「あ、吉田さん、悪いけど1ヶ月くらい東京に出張してきて」
と言われて
「またですか〜?」
ということで着替えと楽器を持って能登空港に移動。久美子・世梨奈・坂上透と一緒にHonda-Jet
blackに乗せられて熊谷に移動して、またもやアクアの音源制作に参加することになった。彼女たちは女子寮のA801-A803に泊めた。
A801:久美子 A802:邦生 A803:坂上透
世梨奈は昨年同様、明日香のマンションに泊まる。
坂上透は邦生や青葉の2つ下の学年で、高岡T高校の合唱軽音部の部員だった。今年の春に大学を卒業したが、コロナ不況で仕事が無く、派遣で食いつないでいたところを偶然遭遇した世梨奈がスカウトした。
彼は普通の?“男性”であるが、そのことに花ちゃんは全然気付かず、彼をそのまま女子寮の8階に入れてしまった。彼は健康保険証を持っていない(国保にも入っていない)というので仮に§§ミュージックで健康保険証を作り“坂上透 1999.9.10女”という保険証を渡した。だから彼は当面§§ミュージックの社員である。彼は保険証の性別が女になっていることには全く気付かず、そのまま「ありがとうございます」と言って受け取った。
彼はサックス担当だが高校の時はクラリネットも吹いていた。どちらも高校の備品であった。音源制作に参加するという話が9月に出たので青葉が楽器を買ってあげてずっと練習していた。(邦生以外は9月に言われている)
「昨年は“ゼロティス”とか称してたけど、もう少しまともな名前にして“マリーン・コート”とかはどう?」
「どっからそんな名前が・・・」
なおColdFly5の内、栗原リアは音楽的技術が低いのでこのユニットには不参加(不合格)、田倉友利恵も今年はテレビ番組のレギュラーを持っていてこういう時間の取られる活動には参加できない。ということで今回の“マリーン・コート”の基本構成は下記である。
KB1 米本愛心(21)★Leader
KB2 花園裕紀(16)
Gt1 山鹿クロム(15)
Gt2 花咲鈴美(17)
Bass 三陸セレン(15)
Dr 木原扇歌(18)
結局ColdFly5+金平糖でリズムセクションを構成した。ベースは花咲鈴美よりセレンのほうが上手いので鈴美はリズムギターに回ってもらった。
Sax 日高久美子(24), 坂上透(23)
Tp/Tb/Horn/Tuba 吉田邦生(25)
Vn 大崎忍(19), 鈴木真知子(25), 生方芳雄(24)
Fl 田中世梨奈(25), 安原祥子(20)
Cla 上野美津穂(25)
Cello 田中成美(21)
Vib/Mar 桜井真理子(21)
Operation:南田容子(20), 立花紀子(20), 野中春美(23)
坂上は状況によってはクラリネットも吹く。クラリネットは安原祥子も吹ける。
この他に様々な楽器ができる広瀬のぞみを11月下旬に一週間“職場研修”の名目で呼ぶことにしているので、それでかなり助かるはずである。
リズムセクションは中高生がほとんどなので、この部分の制作は夕方以降におこなう。追加の楽器は主として昼間に収録する。だから実は高卒組は夜は早めに解放されて人間的?な生活を送れる。
なお金平糖(山鹿クロム・三陸セレン・花園裕紀)は遅くなったら女子寮のA704,A705,A708 に泊める。(A706=鈴原さくら、A707=長浜夢夜)
「クロムちゃんとセレンちゃんって結婚してるんだっけ?同じ部屋の方がいい?」
「ぼくたち別にそんな関係ではありません!」
と本人たちが主張するので別の部屋にした。さくら・夢夜はまだ中学2年なのでここには入れてない。クロム・セレンは3年生だから高校生に準じていいだろうということで参加である。彼らは一応20時で作業終了とする。彼らを帰した後は高校生の今川ようこ・左倉まみを使って22時まで主として曲の練り上げを行う。ただし最終音源はクロム・セレンの演奏を使う。
上野美津穂はカウンセラーとして超多忙なのだが「息抜きになる」といって参加である。カウンセラーは増員してほしいと申し入れていたのが、この秋から2人目のカウンセラー・城ルシアが加わったので少し楽になった。
オペレーションの助手として今回参加してもらった野中春美は花咲ロンドの大学の時の同級生である。大学を出ても仕事が無く、派遣は3ヶ月で切られてコンビニのバイトをしていたのをロンドがスカウトした。彼女は一時期バンドもしていたがコロナで活動不能になり解散している。しかし楽譜が読めるしCubaseは操作が分かりキーボードもできるのでオペレーション要員に使えると判断した。彼女はメゾン・ドゥラ・カデットに泊める。
ColdFly5の他のメンバーがいないところで、花ちゃんは長年の盟友である愛心に言った。
「しかしColdFly5も売れてないよね」
「まあ売れるような曲をやってないという問題はあるけどね」
「こちらも管理職が足りないからさ、あんたもそろそろ売れないバンドはやめて、こちらに戻って来て音楽部長補佐代理心得くらいにならない?月100万は払うよ」
「何その役職名は〜〜!?」
ところで『黄金の流星』が公開(6.14)されて以来、アクア姉?が松田理史と恋愛関係にあるのでは?という噂が出た。その問題について2人は特に否定せず
「アクアちゃんですか?彼女と恋人になれたら嬉しいですね」
「松田理史君かぁ。彼とはデビュー直後からの長い付き合いだし、もしプロポーズされたら考えちゃうかもね」
などと述べた。2人は事実上交際を認めたのではと世間の人は判断した。報道機関も§§ミュージック(というよりそのバックにいる∞∞プロの鈴木社長)のご機嫌をそこねたくないので、これ以上は突っ込まなかった。
しかしコスモスは、噂が一人歩きしアクアの熱狂的なファンが理史に危害を加えてはならないと考えた。それで理史の事務所社長とも話しあった上で、彼に運転手兼任でボディガードを付けることにしたのである。
“アクアが”雇ったボディガードは2人である。いづれも§§ミュージックと長い付き合いの警備会社から紹介された人で、その警備会社の元社員である。個人的な都合で円満に退職していたものだが、ちょうど仕事を探していたらしい。2人とも個人的にお金が必要とかで高額報酬のこの仕事に飛び付いた。2人の身分はその警備会社に形の上で復職した上でアクアの個人会社への出向とする。
2人とも常に防弾チョッキを付けている。またSP専門の高額の保険に入っている(保険料もアクアが払っている)。
東名高(とうみょう・たかし 34)は普通免許2種、大型免許、牽引免許、大型二輪免許、および国内A級ライセンスを所有していて運転歴16年。そして柔道四段の猛者である。堂々とした体格の持ち主であり、彼が理史のそばに居たら襲う気も失せるだろう。その存在そのものが防御効果を持つ。
結婚歴はあるが現在は独身。義父と2人で返していた住宅ローンが義父の急死で彼だけに掛かって来て返せなくなりお金が必要だった。アクアが保証人になってあげて信販会社は新たなローンに借り換えることを認めてくれた。
もう1人は中央圭(なか・おうか 32)という男の娘さんである。男の娘さんだが恋愛対象は女性と自己申告しているし、実は事実上の妻がいるので雇うことにした。運転歴12年、大型2種・牽引・大型自動二輪と国内A級ライセンスを持っており、剣道四段・空手初段である。
常に特殊警棒を隠し持っている。彼女は理史のマネージャーの名刺も持っている(理史の事務所から発行してもらった)。いかにも無害なおばちゃんに見えて実は無茶苦茶強いのがミソである。
彼女は以前の恋人女性(現在でも事実上の妻)との間に子供が居て生活費を毎月渡している(正確には給与振込口座のカードを奧さんが持っている!)。
向こうの親に反対されて結婚できなかったらしい。月に1回程度会っているが子供からは「おたあちゃん」と呼ばれている。現在はもう男性能力は無いが、性転換手術は受けていない。でも警備会社の同僚女性によるとヌードは女性にしか見えないらしい。
その子供のうち一番下の子が実は大きな病気をして保険外の治療などもして物凄い費用が掛かっていた。アクアがその費用を肩代わりしてあげてお子さんは無事治療を受けることができ、現在回復に向かっている。また消費者金融などへの借金も全て精算させ、アクアが保証人になって給与振込口座のある銀行に返していく形にした。(実際の作業はアクアの顧問弁護士さんにしてもらっている)
つまりふたりともアクアに大きな恩義を感じている。
一般に借金のある人は「買収される危険がある」としてガードマンなどには雇わないのだが、山村マネージャー(勾陳)はその状況を逆用してアクアの絶対的な味方を作ったのである。
千里はこの2人とは別に精霊のガードも2人、理史に付けている。そちらは常陽健龍・常陽開龍と名乗っている。茨城県出身だが、千里の北海道での事業に長年参加していて千里の信頼も厚い。この2人は(その気になれば)人間の目には不可視の状態でも付いていられるのが良い所である。また.44マグナム程度の弾丸が当たっても平気である。
更にもう1人、雑用係の付き人として山陽司(かげとも・つかさ 20)という俳優志望の男性?も雇っている。格闘技は学校で剣道をやった程度だが、中学時代に陸上部で長距離を走っていたということで体力はある。運転免許は持っている。4月に専門学校を出たものの、仕事を探していたらしい。
小学生の頃劇団に入っていて、実は理史の後輩になる。俳優を志望しているが高校の演劇部は『赤っぽかったので』入らず英語部で英語劇をやっていた。英語は英検の1級を持っている。朗読が日本語にしても英語にしてもとてもうまい。彼とボディーガード(2人の内どちらか)が、いつも理史のマンションに泊まり込んでいる。アクアの家に行く時もボディガードは運転手兼任で付いていく。
4人+1人は連携して行動しており、また交替で休むようにしている。万が一にも理史の生命が奪われるようなことがあったら取り返しが付かないしアクアが受けるショックは計り知れないので、千里は万全を期している。
「理史君、万一殺された場合に備えて君を2〜3人に増やしとく?」
「そういうのは勘弁してください」
理史には例えばコンビニやATMに行ってくるなどの雑用は付き人などにさせて、できるだけ不要な外出を控えるように言っている。また窓は絶対開けるなとも言っている。ちなみに彼のマンションの窓、彼の車の窓などは全部防弾ガラスに交換した。
またA大神によると分裂が可能なのは元々二重体・三重体などの多重体(multimer)の状態にあった人であり、そういう状態でなかった葉月の分裂は“一種の事故”だと言う。
桃香は?
(このシリーズの初期の頃からくすぶっている“桃香実は凄い”説)
11月11日(金).
司法書士試験の合格発表があり、遊佐美里(真白の妻?夫?)は合格していた。彼女は司法試験の予備試験も大学3年の時からずっと受けているのだが、昨年も今年も短答式は通ったものの論文式で落とされている。しかし司法書士試験の方は合格できた。
「おめでとう。独立する?」
とボス司法書士に尋ねられたが
「いえ、ここにこのまま置いてください。給料も今までと同じでいいですから」
「ああ、それは助かる」
やはり上げてくれないのか・・・と思ったが2万円だけ上げてくれた!でも仕事は1.5倍くらいに増えた!!
「なんでぼくがこの書類作らないといけないの?」
と真白は文句を言った。
「真白も法学部卒なんだから、このくらい書けるでしょ?」
「そりゃ法律の条文はだいたい分かるけど」
「じゃよろしくー。真白は試験受けたら行政書士の資格くらいは今すぐ取れると思うけどなー」
「資格取っても事務所開けないから取る意味無い」
という訳で真白に半分くらい下書きさせている状況である!
「あ、そうだ。私当面仕事忙しいからさー。赤ちゃん欲しかったら真白が産んでね」
「無理〜!」
11月13日(日).
大学を受験する生徒のための最後の模試が行われ、S市の遙佳、氷見市の愛佳と舞花、金沢市の双葉などがこれを受験した。この結果は12月上旬に通知され、その結果をもとに、志望校を絞り込むことになる。
11月14日(月).
“きつねうどん”南砺店がオープンした。スタッフは全員おキツネ様であるが、このお店は実は暫定的に留萌・旭川近辺の“一族”のキタキツネで運用している。
実は能登近辺でキツネの寄生虫駆除を始めてからまだ年数が浅く、地元の寄生虫フリーなキツネだけではスタッフの人数を確保できなかった。それでもう20年くらい寄生虫駆除をしている北海道留萌・旭川のグループに出張してもらったのである。ホームシックにならないよう一応一ヶ月交替ということにしている。
ここのグループが北海道に戻った時のために“きつねそば”留萌店・旭川店も作り、“きつねうどん”南砺店と一体にして運用することにした。
スタッフの移動は、(西の)千里のBeach Jet 400XPR(人間なら!9人乗り)を富山空港と旭川空港の間で飛ばしておこなう。
開店日を予告していたので『霊界探訪』の取材班(明恵・真珠・初海・双葉)が初日に来て、撮影して行った。この4人は“マイ丼”をこちらでも使いたいということで、氷見店のストッカーから出してもらい、それを持参してうどんを入れてもらっていた。
11月21日(月).
古庄夏樹(モニカ?)を中心に設計が進められていた火牛アリーナのパイプオルガンの建設がいよいよ始まった。冬季に入るが建設作業場自体を大きな屋根と壁で覆い、雪風を気にせず作業ができるようにする。こういうのは雪の多い播磨の山中や北海道などで長年仕事をしてきた播磨工務店の得意とするところだが、巨大な覆いを見て夏樹は感心した。
なお建設中もアリーナ自体は普通に使える。公演中は工事を中断する。防音性能は多少落ちるが、広い火牛スポーツセンターの中にあるので騒音害などは発生しない。また多少換気が良くなる!
建設に当たっては千葉本社の坂本課長がこちらに来て、指揮を執っている。また技術継承のため、本社にいた時の夏樹の部下でもある安藤拓朗・朝日なずなの2名も来ている。
この3人の住まいは火牛アリーナの近く、津幡町内に土地を買って播磨工務店にユニット工法で家を建てさせており、通勤用に自動車も貸与した。短期間なら火牛ホテルに泊める手もあるのだが、ホテルより家のほうがリラックスして休めるでしょうということになった。
このプロジェクトは最初に主導していた担当者が過労死しているので、労務環境にはかなり配慮されている。原則として21時以降の作業を禁止している。
なお作業の応援で1ヶ月程度以内こちらに滞在する技術者は火牛ホテルに泊める。また技術者の往復にはムーランが最近買ったDo228(定員19) を使用して、調布から氷見に運ぶが、「プライベート飛行機って凄い」と歓声が上がっていた。
「ムーランはジェット機も多数持ってるけど、熊谷の郷愁飛行場から富山空港か能登空港になるから、そこまでの移動が大変なんだよ」
「それは確かに大変な気がする」
「でも飛行機たくさん持ってるって儲かってるんだね」
(実態は若葉がお金を減らしたいから。でも資産はどんどん増えてる)
坂本課長たち3人に付いては雪道の運転に慣れていない彼らのために専任運転手を付けることにした。これはムーランのお弁当の配送をしている信頼できる各同性ドライバーを3人、冬季の間だけお願いした。彼らは昼間はお弁当の配送をするが、夜坂本らが帰宅する時に送っていき、そのまま家に泊まり翌朝火牛アリーナまで送る。
雪掻きが必要な場合は播磨工務店の雪掻き部隊が出動する(近隣の家々にもありがたがられることになる)。
朝日のドライバーに指名された寺島久美は言った。
「いくら1階と2階といっても男性の家に泊まり込むのは勘弁してほしいんですが。一応私未婚だし」
「大丈夫だよ。ぼくも女だから」
「え〜〜!?」
朝日さんはいつもパンツルックである(*52)。FTMでもビアンでもないと(本人は)言っているが、髪も短くしているし、お化粧など全くしないので、見た目は男性と思う人が多い。(一応スカートは持ってるしプライベートでは穿くこともあるらしい)
「一緒にお風呂入って見てるから彼女が女なのは間違いない」
と同僚の若松一恵の証言。
(*52) YY楽器には(音楽教室部門を除き)現在服装規定が実質無くなっている。一応“標準服”は定められているが(希望者に無料貸与)、私服で勤務してもよい。その際、女子のパンツも男子のスカートも構わないことになっている。音楽関係の会社だけあって、男子のスカートもわりと居る。一応客先訪問する時は、標準服かスーツか社名の入った作業服(無料貸与)を着る規定。朝日はそういう場合は作業服である。
夏樹と優子の子供・奏音(かなで/夏樹が正式に養子にしている)は来年度から小学校に入学する。ランドセルは、夏樹の母・優子の母・信次の母が3人で話しあった結果、優子の母が買ってあげることにして、夏樹の母と信次の母は入学祝いを贈った。奏音はさっそくランドセルをしょって楽しそうに走り回っていた(入学までに壊さなければいいが)。
富山市内に住む桃香の子供?海老珠那(えび・じゅな)が来年度から中学に進学するので、桃香は会いに行ってきて本人に「早めのお祝い」と母親の弥生には、制服代を渡してきた。ついでに電子辞書をねだられたので買ってあげた。
更についでに弥生の父と飲み明かした!(能登の地酒“竹葉”を持って行った)。桃香と弥生の間に既に恋愛感情は無いものの、弥生の父と桃香の関係は良好である。
弥生の父は桃香を男と思い込んでいる可能性がある!
弥生に毎月送金している養育費は実際には千里から借りているものだが(多分返せないし幾ら貸したか千里も桃香も覚えていない)、この制服代・電子辞書代とお祝いは桃香が自分の給料から払った。
11月下旬、青葉・明恵・真珠が青葉邸のサンルームでお茶を飲んでいたら初海がNinja250でやってくる。
「ねね、裏話とか聞きたくない?」
と初海は言った。
「聞きたい聞きたい」
「仕事で失敗したA男(26)さんさ、同僚で結婚とか諦めていた38歳の女性課長がさ、ネットで急速に親しくなった元同級生の子供を妊娠して急遽結婚することになって大阪に引っ越しちゃうらしいのよ」
「ほほお」
「38歳の妊娠なんてたぶん子供を産む最後のチャンスじゃん。だから結婚がバタバタと決まったらしくて。課長にまでしてもらったのに結婚のために退職なんて心苦しいけどと言ったけど、自分の人生を大切にしなさいと女性の専務に言われたらしい。この専務は社長の妹さんね」
「ふむふむ」
「その元同級生は5年ほど前に奧さんから離婚されて子供も母親に付いていったから凄く寂しい思いしてたらしい」
「ああ、それは寂しいよね」
「でもその課長さんが退職するとA男さんを処分した場合戦力が足りなくなるからクビにできなくなったらしい」
「それ誰も傷ついてないね」
「そそ。どうもこの妖怪さんはネガティブなことが嫌いみたい」
そのほか初海が教えてくれた“裏話”は下記である。
・幼稚園の先生と対立していたB子(27)の場合。いちばん対立していた先生が夫が昇進と同時に転勤したのでその先生は退職した。そのあと代わりに急遽雇用した先生、園長先生と3人で話しあったところ和解できたらしい。
「どうも誰かが自然に抜けることで妥協を成立させてるな」
・女装っ子のCちゃん(32)がなぜか性転換して声も女性になっちゃったのは既に聞いていたが、生理も始まったらしい。だから子宮や卵巣までできていた。それは半陰陽として診断書を取れば「性別の変更」ではなく「性別の訂正」ができるはずと教えてあげた。
これについては「やはり」「そんな気がした」との声多数。
・暴力彼氏に悩んでいたD子(25)の場合。その男に新しい彼女ができたのでD子は振られる形で解放された。ところが新しい彼女が空手の達人で、殴られたら3倍返しするという子らしく、今は完全に彼女のお尻に敷かれてるらしい。
「ああ、それはいい気味だ」
「お似合いさんかも」
「毎日が格闘技だ」
「攻撃は最大の防御」
「女は強くなきゃね」
「男に何度も振られたけど女性と同性婚したE子(23)の場合。その結婚した彼女って実は元々高校時代も恋人同士だったんだって。だから実はこれは元鞘婚」
「おお、それは気心知れてる」
「めでたい、めでたい」
「彼女の連れ子というのも実は元々2人が恋人だった時に作った子らしいよ」
「待て」
「どうして女同士で子供が出来た?」
「女同士ならなんとかなるんじゃない?子宮あるし。男同士なら子宮無いから妊娠不能だけど」
「いや男同士で子供作る方法は以前コイルさんが説明してた。マウスとかカエルでは実験に成功している」(*53)
「男同士でも子供作れるのなら、女同士はきっともっと簡単」
「そうかなあ」
「鮭なんかではメス同士で子供作らせてるよ。メスとメスの子供は全てメスになるから、イクラがたくさん穫れる」(*55)
「ほほぉ」
「メス同士で子供作れるなら、オスは不要じゃん」
「出た、男不要説」
「でもそれ人間でやるのは多分、技術上または倫理上の問題で難しい」
「この話、やはりどこかおかしい気がする」
「あまり細かいことは気にしない」
(*53) 物凄く大雑把に説明すると男性甲を父親とし、男性乙を母親とする子供を作りたい場合、乙のクローンで性別は女という個体を作る。この女性の卵子と甲の精子を結合させれば、甲と乙の子供になる。これは言い換えれば、男性の遺伝子がXYであることを利用し、そのXを母親にするのである。
ただこの方法には作業上、クローン作成のために誰かの卵子を借りる必要があり、作業の都合で作られたクローン女性の人権問題もあるので、人間で実行するのは倫理上の問題がある。
また『迷宮のアンドローラ』(*54)のような男だけの世界では卵子を提供してくれる女性が存在しないので実行不可能である。つまり男同士でも子供は作れるが、女が存在している必要がある。
(*54) 『迷宮のアンドローラ』では世界が男の世界と女の世界に分離され、女の世界は女同士で生殖して存続していくが、男の世界は子供を作れず滅亡してしまうという話。生殖は生殖として性的快楽を得るため女たちは機械とセックスしている場面が出てくる。
『迷宮のアンドローラ』は1984年に長嶋茂雄が企画し、長岡秀星がイラストを描いた本、長岡秀星のイラスト展と、小泉今日子が歌う楽曲が制作されたが、本と楽曲はタイトルを共有しただけでほぼ無関係である。↑は本のほうの内容。
楽曲のほうは宇宙人の恋人の行方を捜すという内容。フェアライト社の最新シンセサイザ CMI を使用して当時としては極めて斬新な、打ち込みによる制作が行われ、小泉が“松田聖子のコピー歌手”路線から独自路線に転換するきっかけとなった。実際既存のファンには評判が悪かったが新規ファンが大量に増えた。
男性消滅説:人間のY染色体は年々情報が欠落していっている。女性のX染色体は情報が欠落したらパートナーのX染色体からコピーして補えるが、Y染色体はそれができない。数百万年後、Y染色体は情報が空になって消滅し、その後は男は産まれなくなる。(きっとそれまでには女同士で生殖できるようになる)
実際70-80代以上の男性では既にY染色体が消滅しているケースが多いらしい。
(*55) 鮭の場合は単純で、メスの鮭を性転換させてオスにして、そのオスと他のメスとの子供を作ればよい。するとメス同士の子供が出来る。魚類は簡単に性転換するので、こういうことがやりやすい。
魚は体外受精だから性転換するのに外性器の形を変更する必要は無い。
人魚ってオスもメスも同形だったりして!
(人魚と結婚したら彼女が卵を産んで「早くあなたの精子を振り掛けて」とか言うマンガはあった)
11月28日(月).
舞花は妹?の晃に体温計を渡して言った。
「あんた毎朝起きてすぐに“この体温計”で体温測って記録して」
それでペーパーホルダーに留めた記録紙と紐で結んだシャープペンシル(4B)も渡す。
「いいけど、これ何か違うの?」
「これは婦人体温計」
「へ?体温計に男性用・女性用とかあるんだっけ?」
「これは基礎体温を計るための体温計。女性は排卵が起きると体温が上昇する。でもその変化は微妙だからこれで測定する。普通の体温計は0.1度までしか測れないけど、婦人体温計は0.01度まで測れるんだよ」
「へー!」
「基礎体温だから、朝起きてまだ何もしない内に測らないとダメ。寝たまま記録できるようにシャーペンを使う」
「測り忘れたら?」
「ロード20kmだな」
「勘弁して〜」
「だったらちゃんと測ろう。あんたの生理は不規則っぽいから、これできちんと排卵時期を見極めなくちゃ」
「なんでそんなに気にするの?」
「だって卵胞期に練習試合やらないとね」
「ああ」
11月30日(水) 17:07.
最大震度4の地震がこの日はS市南隣のN町地下を震源として発生した。S市は震度3であった。今回は14日の地震より深い所で大きなマグニチュードで発生したので、揺れた所は前回の倍の面積であった。
人形美術館は夕方なので入館者は少なく、薫がすぐ入館者を誘導したが、高齢の薫が誘導しているのを見て、客の30代カップルが誘導に協力してくれた。お客さんには入館料を返金した上でお土産にパンを配った。誘導に協力してくれたカップルには薫は商品券を渡そうとしたが辞退されたので、パンたくさんとケーキ・飲み物を渡した。
むろん地面との固定器具は外れたので、S波による主振動を受けなかった。あとで遙佳たちが来て手分けして確認したが、展示には全く影響がなかった。ウォーキングドールのマリアンとスイスイ1号は単に立ち止まっただけである。マリアンは座りこんだりもしていなかった。歩く経路を再確認の上で再スタートさせた。
レストラン・フレグランスのほうは夕方でお客さんがたくさん入っていた。しかし揺れも小さく(高摩擦テーブルクロスや倒れにくい食器のおかげで)物が落ちたりはしていないし、怪我人もいなかった。揺れが収まってから
「お代は要りませんから安全に自宅にお帰りください」
と言った。でもほとんどの人が
「食べかけだったから最後まで食べる」
と言って完食してから帰った。また例によってお金を押しつけていく客がいるので、お土産にパンを押しつけた。
お客さんたちが帰った後、従業員も帰した。遙佳たち姉弟はレストランの片付けを手伝ったあとで人形美術館に回った。
お弁当・琥珀も怪我人などはいなかった。揺れが収まって安全確認してから営業再開した。待ちきれないという客には割引券を配った。待ってくれた客にも割引券を配った!
『霊界探訪』の12月16日放送予定分についてはこのような内容を放送する予定で編集が進んでいた。
・金沢ドイルの妊娠経過報告
(1) 10月12日に犬帯を着けた様子
(2) 11月6日のお腹
(3) 12月4日のお腹(予定)
女性のお腹を映す凄い番組!
・長時間時代劇『ザ天下』の制作の様子
関連映像
(1) ロケ跡地に野菜(キャベツ・タマネギ・ジャガイモ・大豆)が植えられた様子
(2) “きつねうどん”南砺店の様子。
・七尾城の死体遺棄事件の経過
被告は起訴事実を全部認めたので早々に結審した。年内にも裁判員の評議がおこなわれ、年明けにも判決が出る見込み。この件はラジオηηの遊佐真白が報告した。ふだんラジオで話しているだけなので
「遊佐さんって美人ね」
「声だけじゃなくて姿も可愛い」
「それで結構な霊能者なんでしょ?」
「でももう結婚してるんだって」
「残念」
などと言われていた。
「でもパートナーも女の人なんだって」
「へー、レスビアン婚か」
「最近わりと多いね」
「奧さんは弁護士だって」(*56)
「すごーい」
・九転十起の像
浅野総一郎の事績紹介(初海)
・旧人形美術館跡の整備された様子
(また遙佳ちゃん出てる。やはりレギュラーになるつもりだと言われる)
(*56) 遊佐美里は弁護士ではない。司法書士事務所に勤めているだけで司法書士試験にも今年合格したばかりである。将来的には弁護士になりたいと思っており、司法試験の予備試験も大学3年の時から毎年受けているが、なかなか合格できない。
妖怪“藪入り”(メイン題材)
(1) 事件の状況(再現ドラマ)
初海の例/A男の例/DVに悩むD子の例/振られ続けE子の例/女装っ子Cちゃんの例
(ここにも遙佳ちゃんたち出てると言われる)
(2) 金沢ドイルたちの推理
(3) エモパーに助けられた例/Siriのナビでは脱出できない/日和のケース
(4) 封印作業のレポート
(5) 後日談
A男の例/D子の例/E子の例/Cちゃんの例
(6) 妖怪ファイルの記述紹介
(7) 迷路の歩き方(左手法)の解説(金沢パール)
(8) 迷子になった時の対処法(金沢セイル)
↓報告されたもの。★は再現ドラマ放送、☆は部分的に放送
★A男:スーパー/仕事の失敗/ボーナス半減のみ
_B子:病院/幼稚園の先生と対立/話し合いで和解
★C子:カフェ/女装がバレないか不安/女装勤務始めました
★D子:コンビニ/暴力彼氏に悩む/すっきり別れられる
★E子:ATM/恋愛失敗の連続/ビアンの彼女と結婚
_月子:洗濯/女装が妻にバレないか不安/女装が公認される
☆初海:警備室/遙佳たちに会って脱出
☆H男:郵便局/エモパーに助けられる
☆J子:教官室/Siriではうまく行かない
☆日和:自販機/電話・メールが使えない
再現ドラマを放送しなかったものは初海がレポートを読み上げて報告した。
後から後日談の報告があったもの
H男さんの場合は、大学院の卒業を前にしているのに就職先が見付からないので悩んでいたが、偶然遭遇した先輩が紹介してくれて仕事先が見付かったということだった。
J子さんの場合は、必須科目の単位を落としてしまい、このままだと留年必至だったのを温情で来年度2年生をしながらの再受講を認めてもらえたらしい。
日和は色々人生の決断ができたようだが、彼女の話は聞いてもさっぱり分からない!でも解決したようで何よりである。
初海についてはもう少し先に判明することになる。
なお、12月に入ってから撮影予定の再現ドラマのキャスティングだが、邦生に出演依頼するつもりだった女装社員Cさんについて、邦生が東京に行っていていつ戻るか分からないので、境界迷子さんにやってもらうことにした。
墓場劇団の公演が12月3日の予定なので、その後制作する。
それで境界迷子さんに頼むつもりだった女子大生の役は古屋あらたの姉の古屋あんころ(高1)・古屋きんつば(高3)にお願いすることにした。あの家は5人姉妹らしい。いちばん上のお姉さんは結婚しているが、相手は女装者らしい!ついでにこの姉妹の父も女装者らしい!
「5人姉妹って凄いねー」
「女の子が欲しいから男の子が生まれても出生届け出す前に性転換したそうです」
「まじ?」
「全員生理あるからジョークとは思いますが」
「5人で打ち止めになったのは父が性転換手術を受けたからだとか」
「ああ。性転換したんだ?」
「家族の前で絶対に裸を見せないので謎です。プールでは女子水着着けてますけど、女優さんみたいにスタイルいいんですよね」
「すごいね」
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【春三】(6)