【春三】(5)

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それで帰ることにする。
 
「みんなちょっと待ってて。車をUターンさせる」
と千里が言う。
 
「誘導します」
と明恵が言ったが
 
「いや大丈夫だよ。危ないからみんな離れてて」
と千里は言い、車に乗るとほんの2〜3回の前進・後退で車の向きを反転させる。
 
こんな真っ暗闇な山中で細い道なのに脱輪させずに車を転回させられるって凄いと思って明恵は見ていた。
 
(“この”千里は元々目が悪いので、明るくても暗くてもあまり関係無い!実は目を瞑っても運転できる)
 
「いいよ。みんな乗って」
と言うので全員乗車する。
 

それで山を降りるが、車は山中でエンジンが変な音を立てて止まってしまう。
 
「オーバーヒートだね。ちょっと待って」
 
千里はボンネットを開け、車内にあるペットボトルの空き瓶に水を入れたものを持っていってクーラントの所に注いだようである。(*38)
 
それでエンジンを始動してスタートさせる。また止まる。また給水する。また始動して発進する。明恵や青葉は平気だが日和は不安そうにしている。
 
最後は国道が見えるところで、とうとうエンジンが始動しなくなった。
 
「ああ、寿命か」
と千里。
 
「この後は?」
「たぶんこうなるだろうと思ったから呼んである」
と千里は言った。それで車の中で10分ほど待つ。
 
九重は日和に
「これ膝に掛けてろ」
と言って自分のウィンドブレーカーをあげた。
 
やがて清川の運転するキャリアカーとコリンの運転するCX-5が到着する。実は近くに待機させておいたのである。
 
それで千里たち4人の女子はCX-5に移り、九重・清川に
 
「後はよろしく」
と言って引き上げた。(コリンが運転し、千里が助手席、青葉・日和・明恵は後部座席)
 
(この後、九重たちはヴィッツをキャリアカーの荷台に、ぽーんと放り投げて載せて、車両工場に運び完全廃車の手続きをした)
 
(*38) 水は緊急の際、ウォッシャー液代わりにもクーラント代わりにもなるので、ペットボトルの空き瓶に水を入れて車に積んでる人は多い。何?そもそもウォッシャー液など使わず水を入れてるって?かびても知らないよー。
 

伏木の青葉邸に辿り着いた5人はまずトイレに行く。
 
「山の中は結構冷え込みましたね−」
「コリンちゃんも寒い中待機ご苦労さん」
 
この家は本館1階だけでもトイレは5つあるので一斉に行ける。ちなみにトイレは2階にも3つあるし、他にスタジオ・地下室・B1の体育館・B2のプールにもある。(←トイレ掃除人を雇わなくていい?)
 
(再掲)


 
日和は出掛ける前と同じトイレ(サンルーム近くのトイレ)に行った。
 
股間の形は同じである。やはりぼく女の子になっちゃったみたい。
 
ぼくここ何ヶ月か、男女の境界地帯を迷走していたみたい。でもこれからは女でいいのかも。ぼくずっと男にはなりたくないと思ってたし。男にならないなら女にならないといけないよね?これからは女として頑張ろう。
 

日和が居間に戻ると
「打ち上げするよー」
と言われる。
 
朋子がシチューを作っておいてくれた。また千里が小楢に指示してパンを焼かせておいたので、暖かいシューを焼きたてのパンと一緒に頂く。
 
日和がシチューを3杯もお代わりし、パンも2きれ食べたので青葉と明恵は驚いた。
 
「たくさん食べられるじゃん」
「なんか入る気がして」
「きっと日和ちゃん自身が迷路から脱出できたんだよ」
「村山さん、ぼく§§ミュージックから誘われて少し悩んでたけど、自分の行く道を決めました」
「多分ひよちゃん、自分の人生の方向性も決めたでしょ」
「はい。なんか迷いがすーっと消えたみたいで」
 
“あれ”も消えちゃったし、と日和は思った。
 
「日和ちゃん、このあと背丈も伸びるし、おっぱいも大きくなるよ」
「そうかもですー」
 
「今何センチだっけ?」
「(公称)148cmです」
「もっと低い気が」
「このあと170cmまで伸びたりして」
「それはさすがに高すぎですー」
 
このあと、千里とコリンがCX-5で日和を自宅に送っていってあげた。
 

なお、千里は日和のお母さんに電話を入れ!住所を教えてもらい、それをカーナビに設定して自宅まで行った。その場で日和に道案内させると、要領が悪すぎてきっと辿り着けない!
 
千里はこの子、ローズ+リリーのマリと同じタイプだと思った。政子の道案内も酷い。タクシーを15分くらい迷走させて、運転手に「お客さんどこに行きたいんです?」と訊かれたこともある。政子に何か説明させてもまず訳が分からない。頭の構造が散文ではなく韻文でできている。日和ちゃん詩は書かないのかなあ。
 
春貴はこの子にマネージャーをさせようとしてるみたいだけど、この子がマネージャーをすると、ユニフォームを忘れてきたり、用具庫の鍵を紛失したりやらかしそうだ。春貴には再考を促したほうがいい気がする。
 
日和は“男の仕事”も体力的にできないけど“女の仕事”も性格的にできないと思う。お金を扱わせたら頻繁に過不足が発生しそう。彼女に向いた仕事はきっとアーティスト系の仕事だ。画家とか、音楽家とか、パフォーマーよりクリエイター。あるいは宗教家とか。この子霊感が凄いから、巫女さんとか尼さんもできる気がする。
 

11月9日(水).
 
この日、日和は制服のボトムをスカートにして登校した。ただし母が(寒くないか)心配したのでこれに厚手のタイツを穿いた。
 
「日和ちゃんスカートにしたんだ」
「うん。やはりぼく、女の子になろうと思って。そしたらスカートかなと思った」
 
これまで日和は上は女子制服だがボトムにはスラックスを穿いていたのである。
 
「日和ちゃんのことは、みんな女の子だと思ってたよ」
「そう?」
「男の子だと言ってたのは日和ちゃん本人だけだし」
「うーん・・・」
 
「でも女の子になるんだったら,自分のこと“わたし”って言おうよ」
「そうだね。ぼく頑張る・・・あ。えっと・・・“わたし”頑張る」
「うん。頑張れ、頑張れ」
 
「自称を変えるのは大変なんだよねー」
と元ボク少女の河世が言っていた。
 

この日の日和のお弁当箱を見たクラスメイトたちが驚く。
 
「日和ちゃんのお弁当箱が大きくなってる」
「うん。ぼく・・・じゃなくて、わたし、いっぱい食べなきゃ身体も大きくならないと思って頑張って食べることにした」
「おお、よいことだ」
「それでも私のお弁当箱より小さい」
「あ、そうかな」
 

この日、日和は§§ミュージックの川内部長(花ちゃん)に電話して、信濃町ガールズに無試験で入れるという話を辞退すると伝えた。
 
「やはり高校在学中はバスケットのマネージャーで頑張りたいんです」
「いいよ。そちら頑張ってね。でもレギュラーでなくてもいいから、大会とかとぶつかってなかったら、萌花ちゃんとセットでドラマや映画に出演してくれないかなあ」
 
「そのくらいはいいですよ。ぜひやらせてください。こないだの時代劇も楽しかったです」
「よしよし、ではぜひ出てほしい。だったら君の身分は“トラフィック”のメンバーということにしようか」
「ぼく男役はできませんけど」
「うん。トラフィック初の“女役メンバー”だな」
「はい!」
 
「それでトラフィックのお給料を毎月払うから」
「お給料とかもらってもいいんですか?」
「コロナの感染対策をしっかりやってもらう。その報酬だね」
「分かりました!」
 
「あと冬休みの間はこちらに来てよ。飛行機手配するから」
「はい、行きます!」
 

日和はこの日、バスケット部の練習では、ジョギングでも頑張り、いつも一緒に走ってあげている晃が
「ひよちゃん、頑張るね」
と感心していた。
 
練習でも積極的にトリブル練習やシュート練習をして、他の子も
「ひよちゃんが頑張ってるから私たちも頑張らなきゃ」
と言って練習に熱が入っていた。
 
練習後のモップ掛けも積極的に頑張り、他の子には大きく後れるものの、しっかりモップ掛けをしていた。
 

その日の夜、日和はお風呂でだいぶ大きくなってきたバストを洗い、また茂みの中の敏感な谷間を泡を付けた手で優しく洗った。
 
「なんかこの身体を素直に自分の身体として受け入れられる気持ちになってきたなあ。ちんちんも無くなっちゃったし」
 
学校を出る前にトイレに行った時は、ちんちんがあったのに、青葉さんの家に着いた時にトイレを借りたらもう無くなっていた。きっと迷路を抜け出すとともに男女の迷い道からも抜け出して、迷いの元のペニスは消滅したのだろう。ちんちんって人を迷わせる存在だよね。無くなって良かった!
 
日和はお風呂を出た後、部屋に入って“ちいかわ”のパジャマに着替え、布団を敷いて中に潜り込む(ちゃんと布団を畳んでるのは偉い)。そして目を瞑ってぐっすりと眠った。
 
夢の中に5ヶ月前に会った貴婦人が出て来て
「お前、美しい娘になったようだな。お前の戸籍はちゃんと私が女に直しておいたから」
と言った。
「ありがとうございます。せめてお名前を」
「私か?私はLady Ottawa だ」
「オタワ妃・・・」
「12年くらい後にいい男と結婚させてやるから」
「それもありがとうございます」
「今中学1年だったっけ?」
「済みません。高校1年です」
「高校生に見えん!じゃ12年後じゃなくて10年後くらいに」
「はい!」
 
その夜、日和は九重と手を繋いでバージンロードを進む夢を見ていた(←九重はやめといたほうがいいと思うけど)。
 
日和の部屋の椅子にはあの夜九重から渡されて返しそこない、何となくそのまま持って帰ってしまったウィンドブレーカーが掛かっていた。日和の宝物である。
 

11月9日(水)夕方。
 
初海と明恵が青葉邸にやってくる。
 
「ちょっと面白いことが起きてるんですよ」
と2人は報告した。なお真珠は卒論の修正を仕上げて、今日はひたすら寝ているらしい。
 
「幼稚園の先生と対立していた人ですけど、先週の火曜日に園長先生も交えて腹を割ってよくよく話しあった結果、園側も折れてくれて、ついに和解したそうです。それで水曜日からは楽しく通園できるようになったということなんですよ」
 
「良かったねー!」
 
「それから仕事で大きな失敗をした男性ですが、金曜日に会長から呼ばれて首かな転勤かなと思ったものの『若い内は失敗もよくある。若い頃たくさん失敗した人が大きく成長する』と言われて、ほぼお咎め無し。ただし12月のボーナスは半分、ということで軽い処分で済んだらしいです」
 
「ああ、ボーナス半分はきついけど、まあ良かった」
「逆に何の処分も無かったら同僚が納得しないでしょうしね」
「うん。だからわざと処分したんだろうね」
 

「それから最近恋人とうまく行ってなかった女性。この人実は彼氏から結構暴力を振るわれていたらしいんですけど、金曜日にきれいに別れることができて、スッキリしたそうです」
 
「うーん。それは良かったというか、まあ良かったんだろうね」
 
「逆に何度も恋人に振られていた女性は、高校の同級生から『ずっと好きだった』と言われてプロポーズされて結婚したらしいです」
「いきなり結婚なの〜?」
「11月3日に結婚式もあげて仲良く暮らしているそうですよ」
「すごいね!」
 
「彼女の連れ子も懐いてくれて可愛いし幸せだそうです」
「彼女?」
 
「男に“されて”いても今一気持ち良くなかったのが女性に“されて”いると物凄く気持ち良くて、そうか、これが私の生きる道だったんだと思ったそうです」
 
「まあ幸せならそれでいいよね」
 

「それから女装が会社にバレないかと不安だった人ですが、思いきって女装で会社に出ていったら『ああ、とうとう決断したか』と言われて、そのまま女子社員として会社に受け入れられちゃったらしいです」
 
「へー」
 
「ロッカーも男子更衣室から女子更衣室に移動されて、トイレも女子トイレを使うように言われたそうてす。名刺も女名前で作り直してもらったと」
 
「良かったじゃん。でも随分スムースに受け入れられたね」
 
「女性の声が出せるし、睾丸が無いなら女子扱いでいいよと女性の常務さんが言ってくれたそうです。他の女子社員たちも『若林ちゃんは心が女の子だし。男性能力も無いなら全く問題無い』と言っくれたらしくて」
 
「ああ、睾丸はもう取ってたんだ?」
「あれ?女の声が出せないからカフェで時刻を聞けなかったのでは?」
 
「それが迷路に迷い込んだ翌日、気付いたら睾丸が無くなってて、声も女の声になってたらしいんですよ。逆に男の声は出なくなってたそうです。それで男の服では出社できないと思って女の服で会社に出ていったらしいんですよね」
 
「うーむ・・・」
 
それヴァギナもできてて生理が始まったりしてないよね?と青葉はチラッと思ったものの、気にしないことにした!
 
他の件もいろいろ起きてるのではないかという気がした。
 

「この人再現ドラマを作ってもいいと言ってるので作ることになりました」
「へー!」
「当事者役は邦生さんです」
「ああ、適任者かもね」
「まだ本人には言ってませんがやらせますから」
「まあ、やってくれるだろね」
 
邦生が文句言いながらも演じくれるところが目に浮かぶ。でも彼は男の声が出ないぞと思う。まあ誰か男性にアテレコしてもらえばいいかな。
 
「その他の再現ドラマは墓場劇団・死国巡礼のみなさんが協力してくれるそうです」
「凄い。本職がやってくれるんだ!」
 

11月10日(木).
 
夕方、青葉邸に明恵と真珠が来て、また今回の事件についていろいろ話している時、千里姉が来た。
 
「瞬行さんから妖怪“藪入り”に関する記述の部分、コピーをもらってきた」
と言って瞬角さんの手書き文書のコピーを渡される。
 
青葉はそのコピーを見るが
「読めない」
と言って放り投げる。明恵と真珠も見るが首を振っている。
 
「まあ要するに、心の中に迷路を持っている人がこの妖怪に仮想的な迷路に誘い込まれる。でもその迷路を抜け出した時、心の中の迷路からも解放される。だからこの妖怪は手荒ではあるけど役に立つ妖怪なので完全封印してはならない、とある」
 
「そうだったのか」
「確かに全員人生の迷い道から脱出できたようですね」
 
「しかしあそこに立ってた石碑にあった“捲土重来”とか“九転十起”ということばは、人生の迷路に入り込んでいる人たちにまさに贈りたい言葉だね」
「ほんとに」
 

「迷路を抜け出す方法は2つ。ひとつは頑張ってその迷路を出る方法。左手法がお勧め。自分の知っている場所だと思わず、単純に巨大迷路を抜けるつもりで歩けば、だいたい3時間程度で抜け出せる」
 
「その『知っている場所だと思わず、単純に巨大迷路を抜けるつもりで』って凄く重要な気がします。こっちに行けばこうなってるはずという思い込みがよけい混乱させるんですよ」
と真珠が言う。明恵も頷いている。
 
「それやると、いわゆる“G型トラップ”(*39)に填まるんだよ」
「あ、そうでしょうね」
 
「左手法と右手法のどちらがいいんですかね」
「基本的には左手法がお勧め。人間は左に曲がるのを安心に感じるから、左手を壁に付けて歩いているとそれを忠実に守る。右手法をやってると、左側に魅力的に感じる道があった時、ついそちらに行ってしまう」
 
「ああ」
 
「そしてやはりG型トラップに填まる」(*39)
「やりがちですね」
 

(*39) G型罠(G-trap) とは迷路内で下記のようにGの形をした経路。下記は右手法の場合を示すが、左手法でもこれと対称の形の経路で間違いやすい。
 

 
右手法を厳密に適用していればちゃんと逆向きに進む正しいルートに行けるのだが、人間の心理として引き返すのには抵抗があるので、つい目の前の広い道に進んでしまい。ループに陥る。
 

「そしてもうひとつが誰かに声を掛けてもらう方法。これは人でなく、犬や猫でも効くとある」
 
「だからエモパーでも解除されたのか!」
 
「ただこの時、こちらから先に声を掛けても無効、あるいはこちらの声が相手に聞こえない。あくまで向こうから声を掛けてもらわないといけない」
 
「だからSiriとの会話では解除されなかったのね」
「電話が掛けられなかったのもそれですね」
 
「ただ人の居る場所にうまく通り掛かることができたら、そこに入ると声を掛けてもらえる可能性が大だと書いてある」
 
「ああ、女子大生の子も渡り廊下で座り込んだと書いてあった。敢えて、そこにいたら邪魔という場所で立ち止まる手もあるね」
 
「それはひとつの手だね。ただし道路の真ん中とかは車に撥ねられる危険が大」
「それは番組でも注意しておきたいね」
 
「そして最後の方法が、時間が過ぎるまでじっとしていること。この迷路は7-8時間で解除される」
 
「それが最後の手段ですね」
 

11月11日(金).
 
高校1年の松崎真和(月城としみ)に3度目の生理が来た。翌日には高校3年の藤弥日古(広瀬のぞみ)にも3度目の生理が来た。
 
真和の生理
1 09.16
2 10.14 +28
3 11.11 +28
 
弥日古の生理
1 09.17
2 10.15 +28
3 11.12 +28
 
ふたりとも今の所規則的に生理は来ているようである。生理が規則的に来るということは、生まれる前の胎内にいる時、女性システムがあまり破壊されずに残っていたということ(*40) で、2人が胎内では男性ホルモンの分泌が弱く、元々女性要素が強かったことを示す。
 
(*40) 人間の身体は女性の形が本来の形であり、男性の身体は胎内で男性ホルモンの作用により“改造”されて作られる。陰核が成長して陰茎になり、卵巣の髄質が発達して睾丸になり(*41)、下に降りてきて大陰唇を癒着させて陰嚢に改造しそこに収まる。また生理や妊娠を制御する機能も破壊される。和実が出産できたのは、和実の場合、胎内での男性ホルモンの量が少なく、女性システムがあまり破壊されてなかったためと思われる。
 
(*41) 原始性腺の外側の皮質が発達すると卵巣になり、内側の髄質が発達すると睾丸になる。ごく希に、片方の性腺は皮質が発達し片方の性腺は髄質が発達した結果、卵巣と睾丸を1個ずつ持つ人もある。(完全両性)
 

11月12日(土).
 
午前中、日和は母と一緒に車で高岡市のイオンモールまで行き、日和の新しいブラジャーを買った。
 
「ごめんねー。6月にも8月にも買ってもらったのに」
「女の子はバストが急成長する時期があるんだよ」
「ぼく女の子ということでいいのかなあ」
「あんたを男の子だなんて思ったことは(5歳頃以降は)一度も無いよ」
と母は笑って答えた。
 
吉川日和のブラジャー
 
中1:「いくら胸が小さくても女の子がノーブラはダメ」と叱られてジュニアブラのSTEP1を着け始める。
 
中3:胸が少し膨らみ始めたので(!?) STEP2に替える。
 
今年に入ってから
6.20 AA60
8.18 A60
11.12 ??
 

下着コーナーでお姉さんに計測してもらったら
「これはB65」
と言われた。
 
「うそー!?Bなんですか!?」
と日和は驚いた。
 
「今までA着けてた?」
「はい。Bなんて心の準備が・・・」
「この子春まではまだジュニアブラ着けてたんですよ。それを6月にAAにして8月にAにして」
「ああ。中学生は急に成長する時期があるんですよね」
 
(母も「高校生です」とは言えない!)
 

それでその日の午後バスケ部の“自主練習”(*42) に出て行ったら、春貴先生から言われる。
「ひよちゃん、胸がかなり成長してない?」
「ああ、大きくなってるとみんなで噂してました」
と同じクラスの五月。
 
「だったらスポーツブラ買い直そう。先月行ったスポーツ用品店に連れていってあげるよ」
「えー!?ぼく全然試合に出てないのに」
「いや、このあと大選手に成長するかもよ」
と夏生が言っている。
 
(*42) H南高校では18時以降や土日の部活は原則禁止である。それで舞花たちは部活ではなくあくまで個人のトレーニングと称してフラミンゴに出て来ては練習している。春貴は大抵出て来ているが指導はしない。
 
フラミンゴが学校の施設ではないことから、こういうことができる。舞花たちはフラミンゴの利用パスを個人で買っている。
 

それで春貴先生のパッソに乗せられて10月にも行った小矢部市のスポーツ用品店に行く。そこでバストを計測してもらう。
 
「急成長しましたね。女子はこういう時期があるんですよ」
と係のお姉さんは言っていた。
 
「生理が来たのはいつですか?」
「10月21日です」
と日和は手帳を見て言った。
 
基本的に女性のバストは生理前に大きくなる。これはバストを大きくする力のあるプロゲステロン(黄体ホルモン)が盛んに分泌されるためである。だから卵胞期に計測した場合は測ったサイズより少し大きめに作る。
 
それで日和は新しいスポーツブラを頼むとともに既製品のスポーツブラも買って帰った。すると翌日はミドルシュートが20本中5本も入り
 
「日和ちゃんが凄く進化してる」
とみんなが驚き、練習に熱が入った。
 

11月14日(月) 22:28.
 
最大震度4の地震がまたS市および周辺を襲った。
 
人形美術館は閉館後(22時閉館)だったが、すぐに地面との固定器具が外れ、S波による主振動を受けなかったので展示には全く影響がなかった。遙佳たち3姉弟で見に行き、人形に異常が無いのを確認した。ウォーキングドールのマリアンは座り込んでいたので起こし、スイスイ1号は自動停止していたので、歩く経路に何も落ちてないか確認の上、再スタートさせておいた。美術館の固定軸は翌朝手動で戻した。
 
レストラン・フレグランスのほうは閉店30分ほど前でお客さんは少なかったし、様々な地震対策のおかげで、食器が倒れたり落下したりする被害も皆無であった。S市の人は地震慣れしているので悲鳴も出なかった。
 
ただちにお店は閉め、その時いたお客さんには
「お代は要りませんから安全に自宅にお帰りください」
と言った。でも大半の客が
「全部食べてから帰るね」
と言って完食してから帰った。また代金を押しつけて行った客も居た。
 
お弁当・琥珀は、P波を感じた直後鍋からは離れたので誰も火傷などしなかった。揺れが4なので油がこぼれたりの被害も無かった(フレグランスの助言で水や油が鍋の半分以上にならないようにしている)。
 
その時注文中のお客さんの分だけ仕上げて渡したが、お金も返金して「気をつけてお帰りください」と言って送り出し、それで閉店した。
 

11月17日(木).
 
16時すぎ。松崎元紀(月城すずみ)は法務省のサイトに接続し、司法試験予備試験・口述試験の結果発表を見た。元紀は通っていた。念のため真和にもメールして確認してもらった。
 
これで元紀は来年、司法試験の本試験を受けることが出来る。
 

あとで分かったことだが、彼女のクラスでは35人の学生のうち30人が予備試験を受けて、短答式に合格したのが6人、論文式まで合格したのが元紀と松元典実の2人だけで、この2人がどちらも口述式に合格し、司法試験の受験資格を得た。
 
この2人は大学は休学または退学して司法試験の準備に専念する。
 
元紀はすぐに退学して試験準備に専念し、来年7月の司法試験に臨むつもりである。典実は親がうるさいから司法試験に合格するまでは休学にしておき、司法試験に合格してから退学すると言っていた。休学していれば授業料は払わなくていい。元紀は“退路を断つ”ためにも退学してから司法試験を受けようと思った。
 
なお予備試験合格者の司法試験合格率はとても高く90%くらいである。
 
今回の予備試験では、クラスの中で入試成績トップだった男子は論文式で落ちた。
 

元紀は§§ミュージックの花ちゃんに連絡した。
 
「司法試験の予備試験に思いがけず合格したので。このあと司法試験に向けての勉強に集中したいんですよ」
「おめでとう!1年生で合格するって凄いね」
「それでドラマの制作とかにご協力できないと思うので」
「分かった。トラフィックは退団ね」
「それなんですが、ものすごく厚かましいお願いだと思うのですが、来年度1年間司法修習が始まるまでそちらの男子寮に住まわせて頂けないでしょうか?家賃払いますので。そこの環境がものすごく集中できるんですよ」
 
(実は司法試験を受けるまでの勉強より、合格してから司法修習が始まるまでの勉強の方がよほど大変。司法試験はゴールではなくスタートにすぎない)
 
花ちゃんも一瞬悩んだものの2〜3秒で判断して答えた。コスモス社長も同じ意見だろうと思った。
 
「いいよ!君の部屋は女子寮に確保するから」
「え〜〜!?」
「だって君性別変更申請中なんでしょ?だったらもう女性と同じだよね。逆に戸籍上女性の人を男子寮に入れる訳にはいかない」
「はあ」
 
なんで性別変更申請中という話が部長に伝わってるんだ?と思う。(犯人は当然・・・)
 
でも元紀はどっちみち今のアパートよりずっと集中できそうと思った。
 
家賃高そうだけど!
 

11月18日(金).
 
松崎元紀は指導教官の部屋を訪ね、予備試験に合格したことを報告。教官は喜んでくれた。そして“退路を断つ”ためにも退学して試験準備に集中したいと言い、教官はその“退路を断つ”という考え方を理解してくれた。
 
「背水の陣だね」
「はい、戻れる所は無いと思わないと自分に甘えを与えると思うんです」
「分かった。頑張りなさい」
 
それで教官は彼の退学許可証を書いてくれた。元紀はそれをその日の内に学生課に提出して大学を退学した。
 
しかし先に元紀が退学許可を取ったお陰で、松元典実は休学許可を取りやすかった。
 
「君は試験まで一応学籍を残すのね」
「自分としては退学のつもりですけど親がうるさいんですよ。だから妥協です」
「色々大変だね」
 
それで教官は休学許可証を書いてくれた。彼女もその日の内に学生課で手続きして休学した。
 
こうして2人は「Q大学法学部中退」という法曹生としてはとても名誉ある肩書きを得た(得る予定)。
 
(弁護士や裁判官になった時、例えば、東大法学部卒業より東大法学部中退のほうがレベルが高い。筆者の妹の元彼氏の妹さんが九州大学法学部中退で弁護士になった。昔の外交官試験(2000で廃止)もそうだったので今でもまだトップ外交官の多くが東京大学中退)
 

11月18日(金).
 
吉川日和は6度目の生理が来た。生理期間中は結構辛いものの、ここまで回数を重ねると、もうごく日常のできごととなった。
 
日和の生理
 
1 2022.07.01
2 2022.07.29 +28
3 2022.08.26 +28
4 2022.09.23 +28
5 2022.10.21 +28
6 2022.11.18 +28
 
今の所きれいに規則的に28日おきに来ている。
 
「ぼく女の子になるんだから生理も頑張らなくちゃ。その内いい男の人と巡り逢えるかなあ」
などと思いながら、ふと九重の顔が思い浮かび、ぽーっと顔が赤くなる(←かなり危ない)。
 
「でもあの人、きっと奧さん居るよね?」
などと思った。
 

11月22日(火).
 
彪志(月子?)に2度目の生理が来た。前回は心の準備が無かったが今回はそろそろだろうと思い、20日くらいからパンティライナーの代わりにナプキンを着けていたので、無難に迎えることが出来た。ただし生理が来た日と翌日は定時(?)で帰らせてもらった。
 
やっぱり俺生理とこの後20年間くらい付き合っていかないといけないのかなあと思うと、やはり女って大変なんだなと思った。
 

11月23日(水).
 
彪志の生理2日目。
 
(吉沢)柚代と(田原)恵花がニヤニヤした顔で彪志の机の所に来る。
「つきちゃん、これあげる」
「あ、ありがと」
と言って受け取ったのは、アーモンドフィッシュ(乾燥小魚とアーモンド・ピーナツのミックス)である。よくおつまみなどに使う品である。
 
「生理の時はこれわりと効くんだよ」
「へー」
 
(↑報告書を書いていたので頭があまり働いていない)
 

11月22日(火).
 
松崎元紀は福岡市のアパートを“出て”、東京の§§ミュージック女子寮に引っ越した。正確には前日21日の朝、衣類や法律関係の本などと食料・飲料を車(タント)に積むと、福岡都市高速→九州自動車道→関門橋→山陽道→名神→京滋バイパス→新名神→伊勢湾岸道→新東名→東名→首都高速(一部短い区間の高速名を省略)と走り、22日朝に千住新橋出口を出て東京五反野の§§ミュージック女子寮に到着した。
 
途中200km程度ごとに休憩し、眠くなってきたら仮眠している。寝袋をいつもタントに積んでいる。
 
五反野の寮では、地下の駐車場に枠をもらっていたので車はそこに駐める。そして荷物は放置!して、用意してもらった部屋(C103)に入って夕方までひたすら寝た(寝具も用意されている)。夕方晩御飯まで頂いてから荷物を部屋に運び入れた。
 
21時頃、典佳が仕事を終えて戻って来て
「もと姉ちゃん、手伝おうか?」
と言った時はだいたい運び終えていた。
 
「あと食料が少し残ってるけど要る?」
と訊くと
「もらう!」
と言って全部持っていった。(典佳は隣のC102)
 

なお、元紀は福岡のアパートは解約していない。兄の松崎貴美が
「俺が使う」
と言ったので、寝具なども残している。貴美は現在鹿児島の大学3年生であるが、(怪我して野球ができなくなったりしない限り)大学卒業後に福岡の企業に入社することが内々々定?しているらしい。それで頻繁に福岡に出て行くのでその拠点にすると言っていた。(これまでも時々泊まっていて自分の寝具も置いている。元紀が残していった寝具はきっと貴美の彼女が使う)
 
「家賃はもとちゃんが払ってくれる?」
「うん。兄さんが大学卒業するまでは」
 
ということで、元紀はあと1年と4ヶ月ほど、福岡のアパートの家賃と東京の寮の寮費とを二重払いすることになる。なおこちらの寮費は、食事代・駐車場代まで入れて8万円と言われた。
 
但し時々“息抜き程度”にもドラマなどに出てくれるならギャラも払うし寮費2万円でいい(実質駐車場代のみ)というので、
「司法修習生はバイト禁止ですけど、それまではいいですよ」
ということにして2万円にしてもらった。それで元紀は“トラフィックだけど東京在住”という状態になった。結局トラフィックは退団しない。
 
彼の立場はフラワーサンシャインの子たちの立場に近い。彼女たちは本来女子寮に入れる筋はないのだが、桜井・安原・立花との接触が多いので、防疫の都合上入ってもらっている。彼女たちは元々安月給だったのでとても助かっている。居るついでに、特に高卒メンバーは、様々な雑用(若いタレントの付き添いやリハーサル役・ボディダブルなど)もしてもらっているがギャラよりそちらの方がよほど高い!
 
元紀がもし来年の司法試験(2023.7)に合格した場合、司法修習は2024年3月に開始される。つまりこれから1年4ヶ月ほどある。多分彼は来年の大型時代劇にも出ることになりそう。
 
でも23日(祝)は女子寮で部屋の大移動があり(*43)
「君、多分標準的な女の子よりは腕力あるよね?」
と言われて引越の手伝いをする羽目になった!
 

(*43) 女子寮では今月恒例の部屋大移動が行われた。19日(土)に第1弾の移動があり、松崎典佳はA203からC102に移動された。この時、元紀のためにC103を確保してくれた。真和は(東京に出て来た時は)C102に入り典佳と同居する予定である。1部屋に3人は多すぎるので元紀はC103になった。
 
23日は移動第2弾だった。
 

11月24日(木)、元紀は昨日の作業疲れで昼過ぎまで寝ていたが、そのあと予備校のネット授業を受けるなど、勉強をしていた。そして23時半ころ、そろそろ寝ようと思って布団に入った。
 
11月25日(金) 0:00.
 
時計が0:00になるのと同時に、“魔女っ子千里ちゃん”が出現する。
 
「こんばんわ、元紀ちゃん。ぼくは男の娘の味方“魔女っ子千里ちゃん”だよ」
 
「え、えーっと・・・」
「あれ〜?ぼく何するんだったっけ?」
などと本人は悩んでいる。
 
「ぼくは何も約束してないけど」
 
(きっと誰か他の子との約束を忘れている)
 
「そうだったっけ? あ、そうだ。元紀ちゃん骨格がだいぶ女らしくなってきたから、そろそろ卵巣・卵管・子宮・膣ができるようにしてあげるね」
「え?」
「要らない?」
「要る!」
 
「じゃ寝ててね。起きた時には出来てるよ。半月後には生理も始まると思うから」
「分かった。ありがとう」
 
それで元紀は眠ってしまった。
 

翌朝、元紀が目を覚ましてから身体に触って確認すると、お股に陰裂ができているのでドキドキする。ぼく本当に女の子になっちゃった、と思う。
 
その陰裂のいちばん奥に穴があった。わぁこれヴァギナかな。ペニスはまだあるが、陰裂のいちばん手前から生えている。また体内、下腹部の奥のほうに何か“温かいもの”が左右一対あるように感じた。これが卵巣かなと思った。
 
ぼく生理的に女の子になったのかもと思った。
 
ちょっとちんちんが邪魔だけど。
 
早く取ってくれないかなあ。
 
元紀はヴァギナが出来たのでパンティライナーが必要であることを数日後には認識した。
 
しかしパンティライナー付けるのにちんちんが凄く邪魔なんですけど!?
 
(ほんとちんちんって邪魔だよね。無ければいいのに)
 

11月某日。
 
千里は合鍵を使って火牛体育館氷見南分館(フラミンゴ)の地下に降りて行った。侍女が驚くものの丁寧にお辞儀をする。ここに来客があるのは珍しいだろう。
 
乙和御前も驚いて
「どうしたのじゃ?」
などと言っているが何だか焦っている。多分千里の用事に心当たりがある。
 
傍で娘の“浪の戸”姫(*44)も「やっばー」という顔をしている。侍女を呼んでまだ幼い花姫を託した。侍女は花姫を連れて「向こうで遊んでましょ」と言って連れていった。
 
(*44) 浪の戸姫は佐藤忠信の妹で源義経の妻のひとり。花姫は義経の遺児。
 

「つかぬことをお伺いしますが、御前は吉川日和(よしかわ・はるかず)の件で何かご存じじゃないですよね?」
と千里はあくまでも穏やかに笑顔で訊いた。
 
「わ、妾(わらわ)は何もしておらんぞ」
と御前は焦っている。
 
「別に御前を責めてはいませんよ。ただ、私は事実を知りたいだけです」
 
御前は少し考えていたが、やがて言った。
 
「あの娘、妾(わらわ)たちがここに引っ越してきた日にふらりとこの館の中に入ってきたのじゃ。普通の者は入ってこられないはずなのに。『喉が渇いた』と言うから、いいのかなぁとは思ったものの“乳礎茶”をあげた。胸の発達が遅いみたいだったから」
 
ああ、それで胸が膨らみ始めたのか。しかしそれを停めなかった守護霊も共犯だ。
 

「あの娘“花車”を見て『これは何ですか』と訊くから『性別の軸を動かす車だよ。逆向きにすれば女が男になり、男が女になる。90度回せば天使のような無性になるし270度回せば悪魔のような両性体になる』と説明したら、あの娘はダーツでもするかのようにグルグル何周も回転させてから元の向きと逆方向で停めた。私は何もしてないぞ。説明しただけだぞ」
 
「ああ、そういうことでしたか。ただの事故ですね。本人はきっと夢の中のできごとと思ってるだろうし」
 
でもそんなに回したら10回くらい性転換してないか?
 
「やはりあの娘、男になってしまったのか?嫁さん紹介しようか」
「いえ、女人(にょにん)になってしまいました。もし親切してくださるのでしたら、10年か12年後くらいに、よい婿さんを紹介してあげてください」
 
「なぜ娘が性別軸を反転させて女になる?」
「あの子、元は男の子でしたから」
「うっそー!?」
「でも元々女の子になりたがってたから、ちょうどよかったみたいです」
「だったら良かった(自分は責められないようなのでほっとしている)。あの子が男だったなんて、きっと神様の間違いだよ」
 
「私もそう思います。だったら。もしよろしければあの子の戸籍、元々女の子だったことにしてあげられませんか」
 
「ああ、そのくらいしといてやるよ。蓮の件で妾(わらわ)もだいぶ勉強した」
と乙和御前は言った。
 

06.07 日和がバスケット部に参加
(この時点ではジュニアブラを着けていた)
06.13 フラミンゴを借りられることになる
06.14 乙和御前の邸が(フラミンゴ地下に)引越開始(-6.20)
06.17? 日和が御前の館に迷い込む
(壁があるので普通の人間は進入できない)
 
06.18 美奈子がAAのブラを買ってあげる
06.20 母にAAのブラを4枚買ってもらう
07.01 最初の生理
07.29 2度目の生理
07.39 萌花の引越で東京に出て花ちゃんにスカウトされる
08.04-16 『竹取物語』撮影(千葉)
08.17 津幡の音楽教室に初参加
 
08.18 ブラジャーをAカップで買い直してもらう
08.26 3度目の生理
08.26-28 東京でライブに参加(ヴァイオリン)
 
11.08 迷路に迷い込む
11.09 信濃町ガールズ入りを辞退
11.12 ブラジャー買い直しでBカップに
11.18 6度目の生理
 

11月26日(土) 21:58.
 
最大震度3の地震がまたS市および周辺を襲った。
 
今回は3なので特に大きな被害は無かった。もちろん人形美術館の固定軸はすぐ外れ、人形たちには全く影響がなかった。スイスイ1号は自動停止したが、マリアンは座り込まなかった。薫館長が帰ろうとしていたところだったので、人形たち全体を見回りし、マリアンの歩行路に何か落ちてないか確認した上でスイスイ1号のスイッチを投入した。
 
レストラン・フレグランスも琥珀も被害は無かった。レストラン・フレグランスは客に全員怪我が無いことを確認の上「お代は要りませんからお気を付けてお帰りください」と案内したが、全員が「最後まで食べてから帰る」と言って完食後、帰った。お代は要らないと言ってるのに、ほとんどの客がお金を押しつけて行った。この人たちにはお土産にパンを押しつけた。(好意の押し付け合い!)
 
琥珀は地震が収まると点検後すぐに営業を再開。客がはけたところで今日は閉店した。
 

11月27日(日).
 
晃はまた生理になった。黒衣魔女絡み分を除くと晃の生理はこうなっている。
 
7.20 呪い解除/性別軸の調整 排卵起きず
8.17(+28) 排卵起きず
9.14(+28) 排卵再開
9.28(+14) 生理再開
 
1 09.28 本当に最初の生理
2 10.27 2度目の生理 +29
3 11.27 3度目の生理 +31
- 12.11 排卵予定日?
4 12.25 生理予定日?
 
日和が規則的に来ているのに対して晃の生理はどうも不規則なようである。
 
日和が女であることを精神的に受け入れているのに対して晃は男の子に戻りたいと思って“女”を拒否してるからかも(でも内心は女になりたいんでしょ?)。それに元々男の娘の脳下垂体の女性ホルモン制御能力は低い。あれ?男の娘じゃなくて男の子だっけ??
 

11月26-27日(土日).
 
青葉はまた伏木の自宅で『ミュージシャンアルバム』の取材をした。これが出産前最後の取材になるはずである。青葉は現在7ヶ月目に入ったところでかなり大きなお腹になっている。今回の取材分が3-4月の放送になるので、次の取材は4月に行えば5月の放送に間に合う。
 
まず11/26にお迎えしたのは“男の娘組”の弘田ルキアとキャロル前田である。この2組とラビスラズリ・千里をまとめてG450で運んできた。
 
なおケイは年末が迫っていてあまりに多忙なので欠席し千里が代理する。
 

午前中に弘田ルキアちゃんのインタビューをするが、自称マネージャーの坂出モナ(ルキアの伴侶)と一緒に来たので一緒にインタビューする。
 
「モナちゃんがマネージャーやってんだっけ?」
「臨時でーす」
「本来のマネージャーは若林歌織と言って初期の頃アクアさんの付き人してた人なんです」
「アクアの初期の付き人さんってあまりの多忙さに過労死するか(*45) 1〜2ヶ月で退職してたらしいですけど、若林は1年間も付き人を務めたんですよ」
「それは凄いねー」
「中学高校で長距離やってたから体力あるみたいですね。ぼくが声変わりして人気が急落した後も、頑張って仕事を見付けてくれて、安宿に泊まりながらけっこう“ドサ廻り”しましたね」
 
「ルキアはわりとそういう地道な活動から復活したんですよね。私なんか集団アイドルでチヤホヤされていた所から1円で売却されて♪♪ハウスに拾ってもらいましたから」
とモナは言っている。
 
(*45) 実際に過労死した人はいない。「すみません。体力持ちません」と言って辞めた人や、危ないと思ってコスモスの指示で交替した人は居た。一番危なかったのは付き人より鱒淵マネージャーである。彼女は辛くても顔に出さない性格なのでコスモスも気付けなかった。危篤状態に陥ったが、勾陳が特効薬(虚空謹製)を盗んできて注射しギリギリ生き延びた。医者も「助かったのは奇跡」と言っていた。
 

ルキアの略歴
 
2015年 スカウトされる。最初のマネージャーは後に§§ミュージックに再就職した城沼咲子(現ルビーのマネージャー)
 
2016.4 中学入学と同時にデビュー(鷺鷹マネージャー)
2018.5 声変わりて人気急落
2019.5 鷺鷹が解雇され、若林に交替
 
ルキアは声変わり防止のため鷲鷹マネージャーから女性ホルモンを渡され飲んでいたが、胸が膨らんできたので社長に相談。社長はすぐ飲むのをやめるよう言い、鷲鷹を厳重注意。しかしホルモンを辞めるとルキアは3ヶ月で声変わりして人気は急落した。その後、鷲鷹は他の少年タレントにも女性ホルモンを飲ませていたことが発覚し解雇された。
 
このような経歴はラピスラズリも聞いているがインタビューでは取り上げない。話題は2019年5月以降のことを中心に話した。
 

「2019年頃はよく旅番組とかに出てたよね」
「おかげてあの年は全国40ヶ所くらいの温泉に入りましたよ」
「ギャラ安かったでしょ?」
「です。2019年は所得税ゼロでしたから」
「ああ」
 
「だいたい女優さんと一緒にお風呂入ってるよね」(*46)
と隣からモナが悪戯っぽい顔で突っ込む(嫉妬ではなく面白がっている)。
 
「共演している女優さんがメインでぼくは刺身のツマですから」
 

「あれ半分くらい女湯だよね」
「なんでそういう所に突っ込む。基本的には女優さんは女湯に入るのでぼくもお付き合いして女湯に入りますが、ぼくは水着着けてますから」
 
「男湯を使うこともあるんですか」
と朱美も突っ込む。
 
「旅館によっては男湯は立派だけど、女湯は貧弱な所が結構あるんですよ」
「あぁ」
「そういう所は立派なほうの男湯を使います」
 
「でもルキアはちんちんが無いから女優さんも安心だよね」
とモナ。
「ちんちんあるの知ってる癖に」
「なんか重要な証言を聞いた気がする」
「中学生時代に女性ホルモン飲んでたので立たないだけで付いてるよ」
「まあそういうことにしといてもいいよ」
 
ここで千里が超重大証言をする。
「あれ〜。私一度岡山の旅館でルキアちゃんと一緒にお風呂入ったけど、ルキアちゃん、ちんちん無かったし、おっぱいもあったじゃん」(*46)
 
(朱美の対応能力を信じてこんなことを言っている)
 
「醍醐先生、それきっとアクアとの勘違いです」
と朱美は顔色ひとつ変えずに言う。
 
「あっそうかもね!ごめんごめん」
と千里はすぐ応じた。
 
ルキアはどう答えようか焦ったが、朱美に救われた。
 

(*46) 2019年4月8日夜、レポート番組でルキアは女優の里山美祢子と一緒に岡山に来て、有名旅館で夕食と温泉のレポートをした。この時は里山が実は男性なのでルキアひとりで温泉シーンは撮影している(男湯使用)。その後ルキアは「予算が無いので」と言われ、安宿に移動して宿泊した。
 
ここでお風呂に入り直そうと思って深夜大浴場に行くと、入口の前でバッタリ千里と遭遇した。ルキアが男湯に入ろうとするのを千里は“抱きしめて”停めた。彼が「ぼく男ですー」と主張するので千里は黙って見ていたが、ルキアは千里の予想通り男湯から追い出されてきた。
 
結局千里と一緒に女湯に入ることになる。女湯というので、よこしまな心半分で入ってみるとルキアは女の身体になっていたので本人が驚く。よく分からないまま女体で女湯に入ってしまったルキアだが、お風呂から上がったあと千里と“握手して”別れ自分の部屋に戻ると男の身体に戻っていた。
 
ただしこのような“後遺症”が残った。
 
・骨格が女性的に変化した。
・喉仏が消失した。
・ペニスは前より小さくなった。
・バストが膨らんでいて常時ブラジャー(Aカップ)が必要になる。
 
そしてこの後、ルキアは自分で女物の服を買うようになり、モナが唆したので高校の女子制服も作ってしまう。そして下着は女物しか着けなくなった。また若林マネージャーに励まされてボイトレに励み半年ほどで女声を取り戻した。
 
結局あの晩千里と出会って“女体経験・女湯経験”した後ルキアは「自分の思うままに生きよう。女の子らしくてもいいじゃん」と考えるようになり、テレビでの演技にも,大らかさが出て関係者の評価も高まっていくのである。
 
それまでは「女の子みたいに可愛い」とか言われても「ぼく男の子なんだから男らしくならないと、いけないよね」と思っていた。
 

「2020年頃から本格的に復帰してきたね」
と朱美は言う。
 
「あけぼのTVさんで結構使ってもらったから、そこから地上波でもバラエティの雛壇要員とか、サスペンスで殺される役とかに出るようになりました」
とルキア。
「やはりギャラは安い」
とモナ。
 
「でも深夜のバラエティとかで“オチ”要員とかにも使ってもらって。落ちぶれた元人気タレントみたいなポジションでしたけど。でもあの年にかなりお笑いのセンスを鍛えられました」
「ああ、深夜番組ってそういうのを鍛えられるでしょうね」
「やはりギャラ以上のものを頂いた気がします」
 
「そこから電場音場さんに“便利なタレント”として使ってもらえるようになって、電場音場さんの『電波音波』がゴールデンに移行したら一緒にレギュラーにしてもらったんですよ」
 

「ファンメール増えたでしょ?」
「あんた可愛い女優さんやね、とか書かれたファンメールたくさんいただきました」
「まあ君の容姿を見てふつう男とは思わない」
 
「まあそれは子供の頃からそうだから構わないんですけどね」
「普段着は普通に女物でしょ?」
と朱美は“モナに”訊く。
 
「そりゃルキアが男装とかするわけないじゃん」
「そうだよねー」
 
「でもあれ以来ドラマとかでもわりと重要な役を頂けるようになりました」
「でも8:2くらいで女役が多いね」
「『竹取物語』は久々の大きな男役(石作皇子)でした」
「でも最後は女の子になっちゃう」
「あれびっくりした!」
 
「プロデューサーさんの瞬間的な思いつきだったみたいね」
「最初の台本では初夜を前に『ぼくどうしよう?』と悩む所で終わってたから」
 
「でも“銀色の女”役の月城たみよちゃん、可愛いかったね。女の子にしか見えない」
「女の子ですから」
「・・・性転換しちゃったの?」
「生まれながらの女の子ですよ」
「うっそー!?」
 
「ああ。たみよちゃんは自分で『ぼく中学入る前に性転換手術受けて女の子になったんだ』とかジョーク言ってて、結構信じてる子いるし」
 

歌のコーナーでは『竹取物語』の中でモナに(ぼく下手だからと言って)代理歌唱してもらった『ぼくお嫁さんになっちゃった』をモナのピアノ伴奏でルキアが歌唱したが
 
「うまいじゃん」
と朱美に言われていた(放送時の視聴者の意見も同じ)。
 
最後にルキアにウェディングドレスを着せて撮影した。
(放送では3秒ほどだったが、視聴者にとても受けた)
 
取材終了後、ラピスラズリ、ルキアとモナ、千里の5人てリビングに移動して取材打ち上げと昼食を兼ねた焼肉をした(青葉は妊娠中なのでパス)。
 

午後からは“キャロル前田とアドベンチャー”の4人のインタビューをした。この4人はヴィジュアルは怪しげだが、とても紳士的(淑女的?)なので、CCDを迎えた時に似て、穏やかなインタビューになった。
 
「自己紹介をどうぞ」
「キャロル前田とアドベンチャー、ギター兼ボーカルのキャロル前田で〜す」
「ベースのスーザン高橋でーす」
「キーボードのメリー川本でーす」
「ドラムスのジェーン佐藤です」
 
「みなさん女名前ですよね」
「はーい。僕たち男の娘でーす」
「ヴィジュアルバンドではなく男の娘バンドですよね」
「そうでーす!」
 
「『竹取物語』で共演した“パシフィック”はヴィジュアル系バンドですけど僕たちは男の娘バンドです」
「世間の人には違いが分からないかも」
 
「似たようなもんじゃね?」
「そうなの〜〜?」
「いや世間体でヴィジュアルってことにしてるけど実はって奴は居る」
「それはあるでしょうねー」
「あとヴィジュアル系バンド作る時にその傾向で歌の上手い男の娘とかを誘うケースがある」
「ああ、それはあるある」
「ハイトーンが安定して出せる子多いし」
 

「だけどルキアちゃんとキャロルちゃんたちって同い年だよね」
と朱美が言うと
「え!?うそー?」
とはるこが驚いている。
 
「なんか僕たち25-26歳と思われてるみたい」
とスーザン。
「そそ。ルキアちゃんは美少女だけど、キャロルはおっさんと思われる」
とスーザンが笑いながら言う。
 
「まあ俺男だし」
とキャロル。
 
「シロガネーゼじゃなかったの?」
と朱美。
「あら、わたくし白銀(しろがね)の億ションに住んでおりますのよ。おほほほ」
「奥様言葉が不自然」
 
「それにルキアちゃんは自称が“ぼく”だけどキャロルは“俺”だもんね」
「自称ってただの癖なんだろうけど、一度付いた癖はなかなか直らない」
 
「ルキアちゃんは男役してても“男役してる女優さん”に見える。キャロルは女役してても“女装してる男”に見える」
とスーザンが言う。
「ルキアちゃんは睾丸あってキャロルは睾丸無いのに面白いねー」
と千里。
 

「でもせっかく性転換手術までしたのに」
と朱美。
 
「またそれが世間的に誤解されてるけど、僕たち性転換してないです」
「そうだったっけ?性転換したのキャロルだけ?」
「俺も去勢はしたけどチンコまだあります。他の3人はまだ身体にメス入れてないです」
「そうなんだ?でも将来的には取るんでしょ?」
「俺は取りたくねー。男の服は嫌だけど、いづれ女と結婚したいし」
とジェーン。
「レスビアンでもいいんじゃね?」
「うーん・・・」
「いやジェーン以外は、いづれ本物の女になりたいと思ってますよ」
とメリーは言う。
 
「メスを入れてメスになる、とかダジャレでは言ってますけど」
とスーザン。
「女にはなりたいけど、まだ手術は迷ってるんですよー」
とメリー。
 
「そうならたくさん迷うといいね。手術したら戻せないしね」
「後悔はしないと思うんです。でも踏み切れないんですよねー」
「ああ。なんとなく分かる」
と朱美が言う。
 

「でもキャロルちゃんは事務所クビになったあと、どん底から這い上がってきたね」
と朱美は言う。
 
「まあ音楽やるのは楽しいから本当にアマチュアという立場から再開しましたね。今日は来ておられないけど、ローズ+リリーのケイさんに随分便宜図ってもらったんですよ。スタジオ代を出してもらったり、楽器買ってもらったり」
「アレンジもだいぶチェックしてもらったし」
 
「楽しいからやるってのは音楽の基本だよねー」
「そうそう。事務所やレコード会社に言われてイヤイヤやるというのは、もうミュージシャンとしての姿を失ってる」
「俺たちはそれをアマチュアからやり直すことで実感してきました」
 

「ドラマでは“いかれた人”みたいなキャラが続いたね」
「俺たちそもそもいかれてるから」
「ああ、それは分かる」
「他人から言われるとむかつく」
「あはは」
 

歌の方では『竹取物語』から
 
『愛しいかぐやちゃん』
『山の鍛冶屋』
『金銀パールをプレゼント』
をメドレーで演奏した。
 
「この3曲を連続演奏するともはやお笑いにしかならん」
「いや俺たちお笑いバンドだから」
「そうだったのか」
「ドリフターズの孫と言われるように頑張ります」(*47)
「孫娘だね」
「そうですね!」
 
(*47) この発言は日本のザ・ドリフターズが元々アメリカのザ・ドリフターズ(『ラストダンスは私に』などで知られる)の息子と称して出発したことを下敷きにしている。当初は"Sons of Drifters"だったが、何度かの改名を経て単に“ザ・ドリフターズ”になってしまった。
 
 
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【春三】(5)