【春一】(5)

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※この物語はフィクションであり、出てくる地名・人名・会社名は全て架空のものです。“危ない”地区というのも架空のもので、そのような場所は実際にはありません。
 
今(2022年)から7年前。
 
2015年3月。遊佐真白は、何か得体の知れない困難に直面していた。しかし偶然出会った東京の占い師・中村晃湖さん、そしてほぼ同時期に父・貞治が知り合った川上青葉さんという40歳くらいと当時は思っていた(←笑)若い霊能者さん、年の離れた妹の村山千里さんが手助けをしてくれて、詳しいことは分からなかったものの、結局その3人の協力で真白も家族も危機を“一時的に”脱出することができた。
 
処理が終わった時、川上さんは言った。
 
「恐らく数十年前にここに封印されたと思われる式神のパワーを今回補強したので、そのパワーでこの家の中の人は一応守られています。でもこの土地の霊集団が物凄くて、この家はもって10年だと思います。5年後くらいには転居を考えたほうがいいです」
 
しかし家の経済的な問題もあったのだろう、実際の転居の話はその後、全く出ていなかった。それに合理主義者の母は霊能者とか占い師なんて、胡散臭いものと思っていた。
 

真白はその後、2015年4月から2018年3月まで、(自分としては)ごく普通の男子高校生生活を送った。文化祭で英語部の英語劇になぜか毎年女役で出演したのは、きっと人数の都合だろう。演じた役は、眠り姫を育てた7人の魔女のひとり、シンデレラの舞踏会に出席していた貴婦人、アラジンと魔法のランプで王女の侍女、と端役専門であった。
 
高校の合格発表の直後にキスしてしまった美里との関係はあの日ふたりで確認したように“友だち”という線を“あまり”飛び出さなかったつもりだ。
 
(↑きっと嘘だ)
 
キスも20回くらいしかしなかったし!(美里によると52回したらしい。半分は真白が寝ている間に勝手にしたものらしい!!)
 
でも周囲は2人はもう“できている”のだろうと思っていた感じもある。父は「ちゃんと付けてる?」などと言い、念のためと言って避妊具をくれた。
 
2人は「好き」とか言ったことも無かった。でも美里は
 
「うちの家、居心地良くなくてさ。ちょっと避難させて」
などと言ってよく真白の家に来ていた。当時真白は、
「美里の両親、仲が良くないのかなあ」
くらいに思っていた。美里の妹たちもよく友だちの家に行ってると言っていた。
 
美里はうちに来た日は、たいてい真白の部屋に泊まっていった。むろん布団は別々だし2つの布団は50cmくらい離していた。更に真白は(美里が夜中に勝手に真白の布団に侵入してくるので)2つの布団の間に衝立まで置いた。
 

「ここまでしなくていいのに」
「何かあったと誤解されたら困るし」
「それ今更だと思うなあ。でもこの部屋が凄く落ち着くのよ」
「以前ここに来た霊能者さんが言ってた。この部屋は女の子を育てるのに良い部屋だって」
「ああ、だから真白って女の子らしく育ったのね」
「別にぼくは女の子らしくはないつもりだけど」
 
「でもいつも一緒に寝てるのに私を襲わないし」
「人が聞いたら誤解するようなこと言って欲しくない」
「それに真白って男の子が好きだよね」
「ノーコメント」
 
美里は楽しそうに笑っていた。美里としては自分は“男性器の付いてる女友だち”という感覚なのでは、と真白は思っていた。だから将来男の子と付き合う時の練習をしているのではないかと。しかし真白は美里に“遊ばれながら”この美里を失いたくないという気持ちも少しずつ大きくなっていった。美里が本当の男の子の恋人を作ったら自分は耐えられない気がした。
 
美里はよく真白に避妊具を付けてみたりして遊んでいた。
「これ面白ーい。くるくると回転してぴったり装着できるって、よくできてるね」
「付けられるとなんか変な感じ」
「このまま私に入れてもいいよ」
「しない」
「やはり女の子に興味無いのね」
「そういうわけじゃないけどさ」
 
でもキスはしてほしいと言うのでキスしていた。
 

高校3年の時に〒〒テレビで『霊界探偵金沢ドイルの北陸霊界探訪』が始まる。
 
「あ、あの時の霊能者さんだ」
と思った。どうも以前この手の霊番組を担当していたものの最近ずっと休んでいた慈眼芳子の後任ということのようである。
 
「へー。こんな凄い霊能者さんだったのか」
などと思った。
 
真白の家を処理する時も連れていた妹の村山千里さんも一緒に出演していた。
 

2018年3月、真白と美里はどちらも金沢の同じ大学に合格し、4月からは実家を出て金沢市内で暮らすことになった。
 
2人は高校を卒業したら記念にセックスしようというのを、高校に合格した日に約束していたのだが、実際には大学の合格発表日まで保留していた。そして2人とも合格していたのを確認してから初めてのセックスをした。
 
その日、真白は美里に言った。
 
「結婚して」
「**君と結婚しなくていいの?」
と美里は悪戯っぽく言う。真白はそれには答えずに言う。
 
「美里のことが好きだから」
「私のことを好きだと言ってくれるのなら結婚してもいいよ」
「ありがとう」
と言って、真白は美里にキスした。
 
「でも逝くのに時間掛かったね」
「ごめーん」
 
「ま、真白は男性ホルモンほとんど無いから立たせただけでも偉いと思うよ」
「・・・・・」
 
2人は高校在学中1度もセックス“は”しなかったが、美里は日常的に!真白の性器に触っている。美里に触られても真白の男性器は必ずしも立たなかった。さすがに往復運動とかまでされると立ったけど。
 

「高校1年の時に精液を保存したから、それで子供は作れるけどさ」
と美里は言っていた。
 
美里はふたりが高校1年の時
「女性ホルモン飲み始める前に精液の冷凍をしてほしい」
と言い、真白は
 
「別に女性ホルモン飲むつもりはないけど精液の冷凍するのは構わない」
と言って、冷凍精液を作った。保管費用は真白の父が出してくれた。
 
父は女性ホルモン剤を渡して
「変な所から品質の悪いの買うよりはこれを飲みなさい」
と言った!
 
飲んでないけど(美里に欺されて飲んだ以外は)。
 

「ぼく別に女性ホルモンは飲んでないけど、男性機能が弱くなってるのは認める」
と、初めてセックスした時、真白は言った(*33).
 
高校3年間に顔や足のむだ毛は生えなくなったし、身体には女の子みたいな感じで脂肪が付き、丸みをおびた体付きになった。真白は身体測定も個別測定にされ更衣室も個室で着替えてと言われて男子更衣室使用禁止を言われた。
 
また中学生の頃まではあった喉仏も無くなってしまった。声のピッチもあがって、学校ではわざと低い声で話していたが(←無駄な抵抗を)、現在(2018.3) 真白の声はソプラノである。人気少女歌手・アクアちゃんの歌が原キーで歌える。
 
「走ると胸が揺れて痛い」
「ブラジャー着ければいいのに」
 
でも美里は真白の胸を揉むのが好きである。揉まれるから更に脂肪が付くのではという気もした(←多分3割くらい正解)。
 
真白は高校時代、水泳の授業では女子水着を着けるように言われた。
 
女子水着を着けた時にお股が目立つとみっともないよと美里は言って“タック”してくれたが、お股に目立つものが見られないことで別の誤解を招いた気もしないではない。
 
(↑全然“普通の男子高校生生活”してない。“普通の女子高生生活”の間違いでは?)
 

(*33) 真白がまるで女性ホルモンを飲んでいるかのように、いやそれ以上に女性化していったのは、多分青葉たちがこの家の防御壁を戻して、この家に封印されている“男の娘”式神のパワーを回復させたせい。真白の部屋は元々女の子用の部屋なので(後述)、そこの住人をせっせと女の子らしくしてくれていたのだろう。
 
真白に生理が来る日も近い?
 

「高校出たら女装生活するんでしょ?」
と美里は真白“に”入れながら聞いた。真白が気持ち良さそうにしている。
 
「別にぼく女装とかしないよ!」
「嘘つきには3本入れるぞ」
「やめてー。ぼくが壊れる」
 
「もうクローゼットはやめて女装で町を歩こうよ」
「やみつきになりそうで怖い」
「既にやみつきになっているというのに1票」
 
真白の部屋には多数の女物の服や下着がある。母は美里の服だと思っているようだが、父は女物の服に“2種類のサイズ”があることを認識していて、洗濯物はきちんと仕分けして各々の引出しに入れてくれている。サイズで区別できないものもほぼ正確に仕分けされているから凄い。各々の好みで見分けているようだ。
 
父は真白のことを理解しすぎている気がする。
 

真白用の女物の服というのはほとんどが、美里が買ってきたものである。自分用に買ったが好みに合わなかったものも押しつける。だから変なデザインのスカートとかは、たいてい真白のである。2人はウェストサイズがあまり変わらないのでスカートなどは共用できる。
 
(ピッタリフィットするTシャツなどは着られない。またショーツは美里はMで真白がLである(逆だったら怖い)。でもたまに間違って美里が真白のショーツを穿いていることもある)。
 
美里の制服も着られることを確認された。ついでに記念写真まで撮られた!更にその写真を女子の間で回覧していた。これはさすがに怒った。
 
「ごめーん。女子制服姿があまりに可愛かったから。でも真白が怒るの初めて見た」
「ぼくだって怒る時もあるよ」
 
でもお陰で卒業アルバムを作る時に
「真白ちゃんの写真、この女子制服で写ったの使う?」
などと制作委員の子に訊かれた。
「男子制服のでお願いします」
 
「遠慮しなくていいのに」
 
(↑やはり“普通の女子高校生生活だった気がする”)
 

初めてのセックスをした翌日、真白と美里は両親の前で言った。
 
●自分たちは結婚する約束をしたこと。
●金沢では同じアパートで暮らしたいこと。
 
両親は2人がこれまでも半分夫婦のような状態であったことも鑑みて
 
「結婚するまでは避妊すること」
「留年しないようにしっかり勉学に励むこと」
 
というのを条件に、2人の主張を認めてくれた。それで2人は金沢市内に共同で1DKのマンションを借りた。1DKというのは、正式に結婚する時は2DKに移りなさいという意味もある。
 

明日金沢に引っ越すという夜、真白の夢の中に“美里”が現れた。
 
「あのさあ、紛らわしいから美里の顔を借りるのやめてほしいなあ」
「そうか?だったら誰か別の人物の顔を思い浮かべろ。その顔にする」
 
真白は人気少女アイドル・アクアちゃんの顔を思い浮かべた。すると彼は美里の顔からアクアちゃんの顔に変化した。
 
「お前、面白い奴の顔を思い浮かべるな」
「そう?」
「アクアには物凄く強い守護が付いてる。俺でもかなうかどうか分からない」
「女の子の顔して“俺”とか言わないほうがいいよ」
「アクアって女の子じゃないだろう?」
「女の子じゃなかったら何なのさ」
 

「・・・・まあいいや。真白、ここを出て行くのなら、俺を・・・あ違ったボクを解放して一緒に連れて行け」
 
「嫌だね。お前は解放したら絶対悪いことする。解放はしない」
「お前のガードをしてやるだけだよ。お前を金持ちにしてやるぞ」
「そういう取引には応じないし、ぼくは別にお金持ちになりたいとは思わない」
「金要らないのか?」
「そりゃほしいけど、お前がすることなんて、絶対悪いことに決まってる」
 
「だったらそうだ。お前完全な女の子に変えてやろうか?子供も産めるようにしてやるぞ。女になりたいだろ?」
「ぼくは別に女の子になりたい気持ちはない」
「それは絶対嘘だ」
 
「それにぼく美里と結婚するし」
「美里はレスビアンだ。お前が女らしいほど喜ぶ。たぶんお前は美里の子供を産むことになる」
「精子は〜〜?」
「卵子同士合体させれば子供はできるはず」
「ほんとに〜?」
 
真白は言う。
「まあ本人も自分はバイだと思うとは言ってるね。だからぼくに性転換手術受けてもいいよと言ったけど、そんな手術受けるつもりは無いし、女の子になりたくも無い」
 
「絶対女になりたいんだと思うけどなあ。そうだ。だったらお前、有名になれるようにしてやろうか。政治家がいいか?学者がいいか?歌手とかがいいか?お前歌は上手いし、ピアノもフルートも上手いからきっと人気女性歌手になるぞ」
 
人気男性歌手じゃなくて人気女性歌手なのか。まあぼくも自分が男になれる気はしないけど。
 
「別に要らない。とにかくその手の取引には応じない。もうぼく夢から覚めちゃうからね」
 

「待ってくれ!お前が居ないと俺はここに存在してられなくなる。そうしたら多分この家は1年ともたないぞ」
 
「・・・お前と取引はしないけど、私と契約して私の眷属になるのなら連れていってやる」
「それでいい。真白の眷属にしてくれ」
「ぼくに絶対服従だよ」
「それで構わない。お前のガードくらいはするぞ」
 
「では壱越(いちこつ)、私の下僕(しもべ)となり、以降私に従え」
「なんでボクの名前知ってるの〜?」
「返事は?」
「はい、真白さんに従います」
「よし」
 

翌日朝、真白は自転車でこの家の封印に関わっている**神社まで行き、境内で“使える”石を拾った。そして朝一番にホームセンターに行くと細い棒がたくさん入っている袋を買ってきた。それを組み立て鳥居を作った。
 
そしてその鳥居を、自分の部屋の屋根裏に、正確に神社の方を向けて固定した。
 
「よく正確な方向が分かるな」
「そのくらい分かるよ」
 
真白は自分の部屋の荷物を完全に片付け、段ボールに詰めてしまった。本棚なども壱越に手伝わせて!倉庫部屋に移動し、部屋を空っぽの状態にした。そして妹の礼恩に言った。
 
「礼恩、ぼくの部屋完全に空けたからさ、ぼくの部屋に引っ越してきていいよ」
「移動するの面倒くさーい」
「朝日が差しこむから、朝起きやすいよ。ぼく金沢に行っちゃうから朝起こしてあげられなくなるからね」
「じゃ、荷物移動してくれたら引っ越す」
 
それで礼恩にはしばらく1階に行っててもらって、その間に妹の部屋の荷物を全部自分が使っていた部屋に移動しちゃった。
 
「すごーい」
と礼恩は驚いた。
 
「ひからびたパンの切れ端とか使用済みナプキン(←トイレに捨てろよ)とか、どう考えてもゴミとしか思えないものはこっちのゴミ袋4つに入れた」
 
「さんきゅ、さんきゅ。お兄ちゃんが男の子だったら結婚してあげてもいいくらい」
「ぼくは美里と結婚するからね」
 
(↑“男の子だったら”というのには答えてない)
 
「今度美里さんにビアンのこと色々教えてもらお」
 

それで、真白はその日の夕方、父に車で、荷物と一緒に金沢へ送ってもらった。
 
真白は新しいマンションにも“受信機”を作り、N町の実家とこのマンションを霊的に接続した。
「これでお前も動きやすいだろ?」
 
真白は結局封印を外していないので、壱越の“本体”はあの家に残したままである。でも真白が作った仕組みで彼のエイリアスが自由に動くことができる。
 
「神社と、つないだのが余計だけどな」
「お前、お目付役がいないと悪さしそうだし」
「真白さんに絶対従属ですよー」
「まあそれに部屋の留守番(礼恩のこと)も置いたしね」
「仕方ない。あの娘を少しは女らしくしてやるか」
 
大伯母(母の叔母)が間違って伝えたため、これまで真白が女の子用の部屋、礼恩が男の子用の部屋で暮らしていた。だから真白は女の子らしく育って、ピアノやフルートを習い、手芸や料理が好きで、運動は苦手だったし、礼恩は男の子らしく育ち、家庭科とかは苦手な一方で、電気工作は得意だし、スポーツ大好きで昨年までは中学のソフトボール部のエース兼4番バッターだった。バレンタインには“女の子から”多数のチョコをもらっていた。そんな妹も高校では少し変わるかもね、と真白は思った。
 

真白が新しいマンションで生活用品などを揃えたりしていたところで、一週間後に美里が同じマンションに引っ越してきた。
 
美里のお母さんは
「ふつつかな娘ですが、よろしくお願いします」
などと言っていた。
 
そして美里は真白の男物の服を全部捨てると宣言した。
 
「困るよ〜」
「女の服を着ればいいだけ。もう自分に嘘つくのやめようよ。ちゃんと女の子として暮らしなよ」
「ぼく女の子になるつもりないのに」
「まずはそういう嘘はやめよう」
 
そして美里はその日の内に真白のお股をタックしちゃった!
 
それでふたりは立派なレスビアン夫婦になり、真白は立派な女子大生になった!
 

美里と一緒に女装外出する・・・というか、男物が無いから女物を着るしかないが、そうしてても真白が恥ずかしがったりしないし、女子トイレに連れ込んで、何も教えなくても真白が普通に列に並んで待つので、
 
「女装外出慣れしてる。いつも女装で出歩いてたでしょ」
などと言われる。
「こんなの初めてだよぉ」
 
「悪質な嘘つきだな。女性ホルモン飲んでなかったというのも嘘だ」
などと美里は言っていた。
 
しかし真白は元々女の子のような声なので、女として声パスしており、高校時代、男子制服を着ていても!女子高生がコスプレでもしてると思われていた。男子トイレに入ろうとして注意されたことは多数である。
 
(そのあとどうしたのか美里に訊かれても真白は自白しない)
 
高校の研修旅行(事実上の修学旅行)では、
 
「遊佐さんを男子部屋には泊められない」
とクラス委員から言われて、結局女先生の部屋に泊めてもらった。
 

女の子の服を着ている真白を見て父は
「ああ、お前は女の子になりたいんだろうと思ってたよ。でも去勢手術とか性転換手術する時は事前に言いなさい。反対はしないから」
と言った。
 
また美里のお母さんは
「真白ちゃんが女の子の服を着てるのは普通よね」
と言った。
 
「真白理解されてるね〜」
と美里は言っていた。
 
「なんてぼくみんなから女の子になりたいのだろうと思われるんだろう」
「それが事実だからだと思うな」
 

大学に入ってすぐ健康診断がある。真白は書類上男子ということになっているので男子の指定時間に行ったものの・・・
「あれ?あなた女性ですよね?書類が間違っていたみたいです。女子は明日ですから、また明日来て下さい。書類は修正しておきますね」
と言われて、女子のほうに回されてしまった。
 
それで結局翌日美里と一緒に再度行くことになった。美里が何だかとても楽しそうにしていた。真白は他の女子学生と一緒に何のトラブルもなく健康診断を受けた。レントゲン、心電図、内科検診なども受けたが技師さんや医師は真白の性別に何も疑問を感じなかったようである。
 
そして真白の学生証は性別:女で発行されてしまった!
 
「いいのかなあ」
「真白は性別男の学生証持ってたほうがトラブる」
 

大学に入って当初、真白はハンバーガーショップのクルーのバイトをした。真白は履歴書でちゃんと性別男と書いていたのに、お店では女子の制服を渡された。まあいいかと思ってそれを着て勤務していた。美里は面白がって、真白の勤務時間に来るとその写真を撮って、また女子の友人に回覧していた!
 
「可愛い写真をシェアするのの何が悪いのよ?」
などと美里は開き直っていた。
 

礼恩は真白が引っ越した部屋に移動してから、すっかり女らしくなった。でもスポーツは相変わらず強くて、高校でも1年生でソフトボール部のエースになった。
 
でも今まで苦手だったお料理も結構できるようになり、基本的に多忙で家事をしない母、原稿の締め切りが近くなると家庭内のことは放置になる父に代わり自分で食事を作るようになったらしい。
 
礼恩は中学の頃は
「男になりたい。私もお兄ちゃん同様性転換手術受けようかな」
「女の子と結婚しようかな」
などと言っていたが
 
「まあ女になるのもいいかな。男装してればいいんだし」
「男の子でも優しくて女装が似合う男の子とだったら結婚してもいい」
などと言い出すようになった。
 
「“優しくて女装が似合う男の子”って真白のことじゃん」
などと美里は言っていた。
 
もっとも礼恩はは女の子から多数バレンタインをもらうのは相変わらずだったようである。
 

壱越はちゃんと真白のガードもしてくれていた。
 
6月、真白は富山市に行く予定があったのだが
「今日はやめとけ」
と言うので、富山行きを延期した。
 
するとその日、富山市内で交番が襲撃されて、警察官と近くの小学校の警備員が殺される事件があった。真白が行く予定だった場所は事件現場の近くだった。
 

ある時はハンバーガーショップのバイトからの帰り、暗い道を歩いていたら“セーラー服男”が出た。
 
スカートをめくって男性器を見せる。
 
こんなことして何が楽しいのかね?と思ってたら突然男は股間を押さえてうずくまったので、真白はそのまま通り過ぎた。
 
「ちゃんとセーラー服を正式に着れる身体にしてやったぞ」
「それはご親切に。でも年齢的に中学には入れてもらえないのでは?」
 

またある時は、片町の裏通りを歩いていたら、いきがったチンピラが観光客っぽい老人夫婦にイチャモンを付けていた。夫のほうが財布を出してお金を渡そうとしていた、真白はそのチンピラの右手首に強い視線をやる。
 
「うっ」
と言ってチンピラは右手首を押さえてうずくまった。
 
老夫婦は戸惑っている。
 
近くに居た若い女性が
「早くお逃げなさい」
と老夫婦に小声で言ったので、老夫婦は逃げて行った。
 
そして男がうずくまっている内に警官が寄ってきた。
「何かありましたか?」
 
「その男が老人夫婦から金をゆすろうとしてたんですよ」
と真白は警官に言った。
 
「隙を見て被害者は逃げて行きましたけどね」
と老夫婦に逃げろと言った女性が言った。
 
「お前ちょっと身体検査させろ」
と言って警官が身体検査すると、ナイフが見付かる。
 
「銃刀法違反で逮捕する」
と言って、警官は手錠を掛けて男を連れていった。
 
真白は老夫婦を逃がした女性と視線を交わして微笑んだ。
 

ハンバーガーショップのバイトは結構実入りが良かったので、そのお金を使って7月、真白は合宿で普通自動車免許を取りに言った。なお美里は4−5月の内にローンを組んで通いで免許を取得している。
 
真白は申込書には性別男と書いていたのだが・・・実際に入学する時に
 
「あれ?あなた女性ですよね?学生証か何かあります?」
と言われる。
 
それで真白が学生証を見せると性別:女と記されている。
 
「確かに女性ですね。やはり書類が間違ってたみたいですね」
と言われて、女子として入学することになっちゃった。住民票も提出してるのに!
 
それで合宿部屋も女性と同室になっちゃった。
 
これまずーい。万一美里にバレたら制裁食らう、と思ったものの、真白は女性として完全パスしているので、ルームメイトに性別に関する疑惑を持たれることもなく、約半月の合宿を終了した。
 
そして金沢に戻って運転免許センターに行き、真白は普通自動車免許と自動二輪免許を取得した。
 
(↑運転免許証上の性別も女になっているということは?)
 

真白は9月一杯までハンバーガーショップのバイトをしたが、ハンバーガーショップでは時々、昼間のシフトに入ってくれるよう頼まれることもあり、真白は学業との両立に困難を感じた。
 
結局そこを辞めて真白は電話占い師のバイトをした。これは自由な時間に入ることができるので、夜間に入ることで学業と両立できる。これで毎月2〜3万稼ぐことがてきた。ハンバーガーショップに比べて実入りは小さいけど、外にも出なくてもいいし助かった。
 

真白が占いができるというのがクラスメイトに知られると占ってほしいとよく言われた。でも真白は言った。
「ぼくは無料では占いはしない。それは無責任になりやすいから」
 
それで友人からは1件500円もらうことにした。
 
真白の占いは当たるという評判になり、他の学部学科からまで観てもらいにくる。あまりにも多いので、真白は
「クラスメイト以外は1回3千円!」
と宣言するはめになった。
 

本格的な鑑定を頼まれることもあった。
 
「ぼくが交通事故に遭って、妹は絶対確実と言われていた高校の受験に失敗したし、父は会社を首になって、母は初期の癌が見付かって、これって何か問題ありません?」
 
真白がタロットを引いてみると、悪魔とか剣の10とか出る。
 
「ちょっと家を見せて」
 
それで行ってみて「ギョッ」とした。壱越を見ると知らんぷりしている。
 
「この家にいつ引っ越してきたの?」
「去年の秋。やはり家のせい?」
「うん。ここ物凄くやばい」
 

真白は彼のお父さんと会って言った。
 
「この家に住み続けると、命に関わります。一刻も早くここを出るべきです」
 
彼のお母さんと妹さんも
「この家、ラップ音が凄いんですよ。ティッシュボックスが飛んだり勝手にドアが開いたりするし」
「電話が鳴って取っても発信音しかしないとか、ピンポン鳴って出ても誰もいないとか」
 
それで一家はすぐに引っ越した。すると、お母さんの腫瘍も消えてしまったし、お父さんもいい就職先が見付かったらしかった。
 
真白は謝礼として5万円もらってしまった。
 

真白たちが金沢に出て半年後、美里の実家が崖崩れに遭い、家が埋まってしまった。幸いにも全員事前に避難していたので無事だった。美里の家族は、平地にある町営住宅に移動した。
 
交通量があり、騒音は我慢しなければならないし、車には注意が必要だが、今までの所より凄く住みやすくなったと両親や妹たちは言っていた。新しい生活を始めるのに色々お金が掛かったが、義援金をもらえたので助かったと両親は言っていた。
 
そして美里のお母さんがずっと体調が悪くて、どこの病院にかかっても色々な病名は言われるものの改善が見られなかったのが、治っちゃった!
 
「あの土地が良くなかったからね。美里が住んでいる間は真白を通してギリギリボクも守っていたけど、美里が出たからボクも守りようがなくなった」
と壱越が言っていた。
 
お父さんは会社に出てるし、妹たちは学校に行ってたからまだ良かった。でも日中ずっと家に居るお母さんが最も強い影響を受けたのだろう。
 
美里がよく真白の家に「退避」してきていたのも、美里は敏感だから特に耐えられなくて“防護壁”の中にある真白の家に来ていたのだろう。妹たちもよく“里にある”友だちの家に行っていたらしい。真白の家や美里の家があった場所など、あの地区一帯が“難しい”土地なのだと壱越は言っていた。
 
「あの霊能者さんが言ってたように、あそこに療養所があった時代はそれが防御壁になってたんだよ。でも崩しちゃったし、その後建て直されたビルも会社倒産で空き家になり放置されて、防御壁として働かなくなった」
 
(↑説明的セリフ!)
 

2019年春、大学を卒業する同じ高校出身の先輩女子から
「コミュニティラジオのレポーターしない?」
と言われた。
 
町中で見付けた“面白いもの”やイベントの類いをレポートするのがお仕事である。何か面白いものを見付けた時から仕事が始まるので、勤務時間とかは無い。報酬は“採用された”レポート1件につき3000円という安いものであるが、1ヶ月に30件採用されたら9万円である。実際には先輩は月に3万程度しかもらっていなかったらしい。まあ大学生くらいしか、こんな仕事はしてくれないだろう。元々コミュニティラジオは予算が少ない。
 
でも楽しそうな気がしたのでやってみることにした。真白のレポートは採用率が高く、結局毎月7-8万もらい、充分なバイトになっていた。
 

2019年9月に放送された『北陸霊界探訪』の“究極の自爆営業”を見て、
 
「嘘!?金沢ドイルさんって現役の水泳選手なの!?」
と驚いた。
 
それでwikipediaを見て、川上青葉さんが1997年生まれと知り
「信じられなーい」
と思った。
 
番組内で妹の金沢コイル(村山千里)さんが言っていた。
 
「ドイルは小学生の頃から霊能者してたんです。そういう時、ドイルは小学生なのに、中学生か高校生くらいに見られていたんですよ。あの子すごく落ち着いた雰囲気がありますからね。クライアントも小学生に言われても今一信用しませんけど、中学生や高校生なら信用してくれる。そういう時、あの10歳くらい年上に見られる雰囲気が役に立っていたんです。そして今や20歳くらい年上に見られて、ベテランの霊能者だろうと益々信用されるようになりましたね」
 
でもテレビを見ながら壱越は言っていた。
 
「あの妹のコイルのほうがボクは怖い。一見普通の霊感人間程度に見えるけど、何か得体の知れない怖さがある」
 
(↑壱越にまでコイルの方が妹と思われている)
 
「多分それは家子(いえこ (*34) )が物凄く強いから分かることなんだろうね」
と真白が言うと、褒められたと思って得意そうにしていた。
 
(*34) 普段、壱越(いちこつ)に呼びかける時の名前。真名(まことのな)は普段は呼ばない。“壱越”をそのまま中国語読みすると“イーウェ”になるので“いえこ”という名前が生まれた。それに彼は女の子名前で呼ばれるのが嬉しいようである。
 

2020年の3月から5月まではコロナで授業が無かった。
 
6月になると、真白たちの大学は出席番号の奇数偶数で分けて、リモートとリアルの授業を週交替でするようになった。真白と美里はどちらも奇数で、同じ組になった。
 
七尾市で看護師をしている母は「家族に感染させてはいけないから」と言って七尾市内に1Kのアパートを借りてそちらに住むようになった。
 
実質的な別居だなと真白は思った。父と母の関係が限界っぽいのは前から感じていた。
 
スポーツ大会は軒並み中止になり、高校最後の学年で今年こそ全国大会に行くぞと言っていた礼恩はその夢を果たすことができなかった。
 
しかし真白・美里も、双方の家族も幸いにもコロナにやられることなくこの年を生き延びることができた。
 

2021年春、礼恩は金沢市内の大学(真白たちとは別の所)に進学し、金沢に出てくることになった。同居したいと言われるかと思ったのだが、なんと父が礼恩と一緒に金沢に出てくることにし、父と礼恩で大学に近い所にあるマンションを借りた。父はネットを通して原稿を納品するので、どこに住んでいてもよい。
 
父と娘の2人暮らしではあるが、父は実質女性なので、傍目(はため)には母娘の2人暮らしに見える。
 
一方、母は七尾市内のアパートのままである。
 
これで父と母は完全な別居になったようである。
 

壱越は言った。
「あの家に誰も住人が居なくなるのはまずい。何とかしてくれ」
「何とかと言われても・・・」
 
真白は母に電話した。
「あの家誰もいなくなるからさ、お互いに感染させる恐れないじゃん。アパート引き払ってこちらに戻って来ない?アパート代節約。それに
七尾市内に居るよりN町の方が感染確率も低いよ」
 
「家の周辺に人が居ないもんね!」
 
それで母が戻ってきたおかげで、この年はこの家を維持できることになる。
 
しかも壱越が母をガードしているおかげで、母は病院でクラスターが発生した時も無事だった。この時病院内で無事だったのはわずか5人だった。常勤の中では母が唯一だった。
 
更に、昨年まで母が住んでいたアパートが火事で燃えて死人まで出た。
 
「あのアパート出てて良かったぁ!」
と母は言っていた。
 

2021年の夏、バイトをしているラジオ局から言われた。
 
「実は“エキゾチックななお”を担当している前山さんが旦那さんの転勤で退職するんですよ」
 
ここは金沢・小松・七尾・高岡に放送局があり、相互に番組の融通もしているが一応各々が独立の会社になっている。真白がバイトしていたのは金沢の局だが辞めると言っているのは七尾局のパーソナリティである。
 
「え?前山さんの旦那さんって、転勤のあるような企業に勤めてたんでしたっけ?」
と真白は尋ねた。
 
確か石川県基盤の会社に勤めていると思っていた。
 
「それがこの不況で経営が苦しくなって、名古屋資本の会社に救済合併されたらしくって」
「ああ」
「男性社員はほとんどが転勤らしい」
 
ひゃー。ぼく男じゃなくて良かった、と思ってから、あれ?ぼく男だっけ?と一瞬自分の性別が分からなくなった。壱越が笑っている。
 
「それで良かったらリスナーにおなじみの遊佐さん、“エキゾチックななお”の後継番組として“ななおのーと”という番組作るから、その番組を担当してくれない?君確か七尾に実家があったよね」
「隣のN町ですけどね」
「まあ近所じゃん。やってくれない?」
「ぜひやらせてください」
 
それで真白は大学卒業後、実家に戻ることになったのである。
 

都会暮らしを楽しんでいた美里は「え〜〜〜!?」と言ったものの、
「毎週自分で車運転して金沢に出て来よう」
などと言ってくれた。
 
「東京で奥多摩とかから都心に出るよりは近い」
「確かにそうかもね」
 
(奥多摩から新宿までは80kmくらい、N町から金沢までは60kmくらい)
 
結局、美里は七尾市内の司法書士事務所に勤めることにした。自らも司法書士の資格取得を目指す。(司法試験予備試験も受けているがなかなか通らない)
 

母は
「戻って来てくれるの?ごはん作るの辛かったから助かる」
 
などと言っていた。真白は母が料理とか作っている所を見たことがない。(多分料理とか苦手なので料理が得意な父と結婚したのだろう)
 
「コロナもだいぶ落ち着いて来たしね」
などとも言っていたが、本当は父と別居する言い訳としてコロナを利用しただけだろう。
 
父は
「あそこ大丈夫か?あそこは10年くらいしかもたないと霊能者さんが言ってたけど」
と心配したが
「大丈夫。やりかたがある」
と言った。
 

大学の卒論を無事提出した後、真白は単身実家に戻ると、まずは以前住んでいた部屋(真白が出た後3年間礼恩が使った)に、正式の神棚を作った。そして家の周囲にバラを植えて、バラの生け垣で家を囲むようにした。
 
真白の家の周辺はほとんど空き家になっている。真白は一番重要な谷側の守りを固めるため、谷側にある隣家の家と土地を買った。
 
そこの住人は5年前にこの家を事実上放棄して七尾市内に引っ越していた。向こうは実質放棄した家だし、顔見知りでもあるので、わずか50万円で売ってくれた。真白はこの家にも周囲に薔薇を植えた。またここの神棚の向きを変えて、**神社と繋がるようにした。これでこの家を前衛化した。
 
次に重要な山側の守りのため、そちらの家も買い取ることにする。ここも3年前に放棄されていたが、調べてみるとここに住んでいた一家は金沢に引っ越していた。真白は金沢に残っている美里と連絡を取り、その家を買い取る交渉をしてもらった。結果わずか30万円で売ってくれた。
 
「この30万円は私が払っとく」
「ありがとう。あとで返す」
 
真白はここもバラで囲み、また神棚を調整して**神社に向けて霊的に接続した。
 

こまでの処理が終わると、母は
「なんか家の中が凄く明るくなった感じ」
と言った。
 
「この機会に照明も交換しようよ」
と言い、電機屋さんを呼んで、家の中の照明を全部LEDに交換してもらった。
 
「ほんとに明るくなった!」
と母は感動していた。
 
更に真白はボイラーを新しいものに交換。バスルームも最新のものに更新した。
 
「凄く快適になった」
「ぼくと美里の新居だから」
「ああなるほどー。お嫁さん迎えるならきれいにしなきゃね」
と言ってから母は小さな声で訊いた。
 
「あんたまだ性別変更してないんだっけ?美里ちゃんと婚姻できるの?」
「美里との婚姻優先。だから性別は変更しない」
「なるほどー!」
 
母はどうも真白が既に性転換手術を済ませていると思っているようだ。
 
だって体型がどうみても女の体型だし、バストもあるし。トイレには真白の生理用品もあるし!
 
「あんたヴァギナはS字結腸法で造ったんでしょ?だから降り物が多くて常時ナプキンが必要なんだよね?だってあんたのちんちん小さくて、陰茎反転法ではまともなヴァギナが造れなかったはずだもん」
などとも母は言っていた。
 
さすが医療関係者!詳しい!と真白は思ったか、どうして自分の周囲の人間って“理解”しすぎの人が多いのだろう?とも真白は思った。
 
ぼく女の子になりたい気持ちなんて無いのに。
 
(↑4年間完全女装生活しておいて何を今更?)
 

それで3月末までに家の改装が終わったところで美里は金沢から戻ってきて、新婚夫婦と母との“女3人”での生活が始まった。真白もラジオ局に週5日出て行って、仕事をした。
 
真白は「ついでだし」と言って、自分と美里のお弁当だけでなく母のお弁当も作ったが「助かる助かる」と母は言っていた。
 
ちなみに真白の年金手帳と健康保険証は性別:女になっていた!
 
(履歴書には性別:男と書いたはずなのに・・・)
 
社員証にも sex:F と書いてあったし、もらった名刺も角丸で女性的な名刺だった。
 

七尾のラジオ局での勤務を始めてすぐの頃、市内の病院で幽霊が出るという噂が出た。真白はそのレポートだけするつもりで行ったのだが、見ただけで“幽霊が出る仕組み”が分かったので、
 
「ここを直してください」
と病院の人に指示して、幽霊が出ないようにしちゃった!
 
でも自分が処理したと知れて霊関係の依頼が相次ぐと困るので、具体的な改善方法は番組では流さなかった。でも6月にも幽霊関係の処理を1件した。
 
そして8月になって番組のリスナーから多数寄せられたのが
 
“七尾城のお地蔵さんの謎”
 
だった。七尾城から下に降りて来る途中、1ヶ所しかないはずのお地蔵さんを2回、時には3回見るというのである。
 

真白は自分の車で何度か時間帯を変えて走ってみたもののそういう現象は全く起きなかった。それで真白は歩いてみようと思い、麓に車を駐めて、ウォーキングシューズを履き、所々景色の良い所などで写真を撮りながら、歩いて七尾城に登り始めた。
 
すると途中で、近くに車が停まり、声を掛けられた。
 
「真白ちゃーん!」
 
真白は笑顔になった。
 
「川上先生、お久しぶりです」
 
それは7年ぶりに会う川上青葉さんだった。運転席に居るのは『金沢ドイルの北陸霊界探訪』で助手を務めている伊勢真珠さんだ。もしかして自分と同じものを調べに来た?と思ったらその通りだった。
 
結局川上さんの車に乗せてもらってお地蔵さんの近くまで行く。そして車を降りて3人で歩いてお地蔵さんの所まで行った。
 
そしてお参りした時、男2人が穴を掘って女を埋めているヴィジョンが見えた。
 
「あ、分かった」
と真白は言った。
 
「私も分かった」
と真珠さんも言った。
 
もちろん青葉さんも分かったようである。3人で探すように歩いて行き、明らかに何かを埋めた跡がある場所を見付ける。それで3人は警察を呼んだ。
 

真白が放送局の名刺、川上さんが僧侶の名刺、伊勢さんが〒〒テレビの名刺を出したので3人はとっても信用された。真白は警察に説明した。
 
「先日からここの道を降りて行く時に1ヶ所しか無いはずのお地蔵さんを2回・3回見るという話をリスナーの方たちから頂いていたんです。それって、お地蔵さんが何かを知らせようとしているのではとも思って調べに来たんですよ」
 
伊勢さんたちも、同様の噂を聞きつけて番組で取材しようと思ってきて偶然知り合いの遊佐さんと遭遇したので、一緒に調べていたと説明した。
 
警察が掘り返した所、女性と思われる遺体が見付かり、検屍の結果、猛スピードの車にはねられて亡くなったと思われた。死後4-6ヶ月経っているとみられた。4月に行方不明になって捜索願いが出ていた女性と身長が一致することからDNA鑑定が行われて、その女性であることが確認された。着ていた服も本人が普段着ていた服と思われた。
 
現場に犯人につながる遺留品があまり無く、警察は目撃者を探すが、人通りのある所ではなく、麓は高速のインターがあって逆にどんな車が居ても人の記憶に残らない。各テレビ局・ラジオ局でも目撃者を求める広報をしたのだが一向に手がかりは得られなかった
 
そんな時、川上さんから連絡があったのである。
 
「ある特殊な方法で霊視してみたいんだよ。被害者の遺品、できたら事故に遭った時に身に付けていたものを借りられないかな。そのものは破壊しないしちゃんと返す」
 
「聞いてみます」
 
真白は遺族に連絡を取った。
「こちら、お嬢さんが埋められていた場所を発見した、ラジオηηの記者で遊佐と申します。可能だったらお線香を上げさせていただきたいのですが」
 
お父さんは見付けてくれた記者さんなら歓迎というのでお邪魔して、お仏壇に香典を備え線香を立てて合掌した。そしてお父さんに頼んだ。
 

「現場を発見した時に一緒に居たのが、私と、〒〒テレビのAD、そして川上瞬葉という住職の資格を持った女性なのですが、この川上さんは〒〒テレビの番組では“金沢ドイル”という名前で色々霊的な事件を解決していまして」
 
「ああ、金沢ドイルさんですか。あの人、霊能者としては凄くまともっぽいですね」
 
「その金沢ドイルさんが犯人につながる手がかりを霊視してみたいと言っているんです。御本人が今妊娠中であまり動けないので私に訊いてみてくれないかと頼まれたのですが、お嬢さんが亡くなった時に身に付けていたもので、できたらその後、洗ったりしてないものが借りられないかということなのですが」
 
「妊娠中ってあの人50代では?」
とお父さんが言うので、真白は可笑しくなったが笑いはこらえた。
 
40-50代に見えるよね?
 
「けっこう老けて見えますけど、わりと若いみたいですね」
とだけ真白は言っておいた。
 
お父さんはしばらく考えていたが「これなら」と言って、当時被害者が持ってた水筒を持ってきた。
「多分この蓋がいいです。御本人が口を付けておられますし」
「なるほどー」
 

それで真白はその水筒の蓋を預かって伏木の川上青葉の自宅まで持っていった。
 
教えられた住所にカーナビを頼りに行ってみると大きな家である。さっすがと思う。家の東側に車が駐められるようなのでそこに進入すると妹の村山千里(金沢コイル)さんが出て来て
 
「突っ込んで駐めて」
と言う。確かに他の車も突っ込んで駐めてある。それで車を駐めて降りると、村山さんが言った。
 
「そんなに強い“子”をそのまま連れてたら警戒されるよ。普段は隠しておいたほうがいい」
と言って、シールドの仕方を教えてくれた。壱越が見えなくなる。
 
へー、凄い!
 
それは物の前にカーテンをするような感じだった。
 
「君かなり力があるみたいだけど自己流でしょ?」
「実はそうなんです」
「まあこの世界、パワーのある人ほど自己流だけどね。強い人はその人に教えられるほとの人が、めったに居ないから」
「ああ、そうかも」
 

中に入るとリビングに、遺体発見の時にも居た伊勢真珠さん(金沢パール)、番組のもうひとりのアシスタントの沢口明恵さん(金沢セイル)も来ていた。
 
まず水筒のふたを川上さんに渡すと、青葉さんは
「お預かりします」
と言って、それを持って部屋を出て行った。そして村山さん、伊勢さん、沢口さんんと一緒に真白はサンルームに移動した。
「まあひと休みしていってください」
と言って沢口さんがお茶とお菓子を持って来てくれる。すぐに川上さんも戻って来て“つもる話”をした。
 
「ああ、遊佐さん、どこかで声を聞いたことがあると思ったら、ラジオκκレポーターの角間36号さんか」
と伊勢真珠さんが言う。
 
「はい。レポーターを3年やった縁で、今年の春から本名でラジオηηの番組を担当しています」
「その番組、ドライブ中に何度か聞いた」
と沢口明恵さん。
「ありがとうございます」
 

「ねえ、遊佐さん、以前片町で会ってない?」
と沢口明恵さんが言う。
 
「はい。チンピラが老人夫婦に絡んでいた件で協同しましたよね。テレビで見た時に『あ、あの時の人だ』と思いましたよ」
 
「何かあったんだ?」
と伊勢さんが訊くので、真白と沢口さんは、4年ほど前にあった出来事を話した。
 
「色々縁があったんだねー」
 

「ところで、遊佐さん、多分性別、あれだよね」
と真珠さんが言う。
 
「良く分かりますねー。めったにリードされないのに」
「この場に居るのは全員同じ性別だから」
と明恵さん。
 
「うっそー!?」
「でも全員既に女性になってるね」
「すごーい」
「あなたもきっと1年以内に女性になりそう」
「あははは」
 
やはりぼく性転換手術受けちゃうのかなぁ。
 
美里からはいつ性転換手術してもいいからねと言われてるし。礼恩はもう自分のことを「お姉ちゃん」と呼ぶし。
 
「きっと5年以内に妊娠する」
「え〜〜!?でも私、女性と結婚しているんですが」
「ああ、この世界にはビアンの子も多い」
「それでもきっと妊娠する」
「どうやって!?」
 
やはり壱越が言うように卵子融合??
 
でもぼく卵子あるんだっけ?
 
(↑きっとある)
 

霊的な事件についてもたくさん話した。
 
「そちらの番組で3年前に扱った幽霊屋敷で**にあった案件は私も少し関わっていたんですよ」
「あ、もしかしてここに住んでいたらやばいから退去したほうがいいと言った霊能者というのが」
「はい私です」
「じゃニアミスしてたんだね」
「でもあんな怖い案件を処理しちゃうのが凄いです」
「あれは金沢ドイルさんにしかできなかったと思う。私じゃ無理」
と明恵さんが言っている。明恵さんは電話占いでかなり稼いでいたらしい。番組の正式アシスタントになってから辞めたらしいが。
 

「真白ちゃん、今どこに住んでるの?」
「N町なんですが」
「もしかして以前の実家?」
「はい。夫婦と、私の母と3人で」
 
「お父さんは・・・」
「金沢に出ました」
「よかったぁ!」
 
真白が母と住んでいると言ったので、父は霊障で亡くなったかと思ったのだろう。7年前、父は「自分は真白の高校卒業を見られないと思う」とか言っていた。でも青葉さんが処理してくれたおかげであの家の霊的圧迫は消え、父もそういうことは言わなくなった。母も沈んでいたのが元気になった。
 
そして2人は別居した!
 
「だったら、あそこを防御強化したんだ?」
「あ、分かります?」
「防御強化してないと、真白ちゃんが、こんなに元気であることを説明できない」
「防御無しであそこに住んでたら死ぬか病気になるかだから」
 
「確かにあの地区に住んでいるの、今やうち以外には5軒だけなんですよ」
「まあ普通住めないよね。毎晩多数の兵士が攻めてきたら」
 
「特に里から来る上杉軍が凄いんですよねー。山側から来る長(ちょう)の軍勢はそれほどではありません。でも里側・山側両方の家を買い取って、そこを前衛・後衛にしたんですよ」
 
「なるほどー」
 
「それと青葉さんに作ってもらった、**神社との接続を強化しましたから」
「まあ最後は神社頼りだよね」
「はい。あれは人の力で抑えられるものではありません」
 
「そうそう。私の師匠は、人間の力でジェット機を止めようとするなと言ってたよ」
と青葉さんが言う。
 
「素晴らしいことばですね」
「この世界には相手の力量を見誤って命を落とす人多いから」
「怖いですねー」
 

話が盛り上がりすぎて、結局その晩、真白は青葉さんの家に泊めてもらった。別棟にスタジオのようなものが作られていて、そこに4つ宿泊室があり、それを真珠さん、明恵さん、真白の3人で使用した。
 
このスタジオでアクアちゃんとかに渡す楽曲が生み出されているらしい。真珠さんたちの話では、青葉さんの収入は99.9%が書いた楽曲の著作権収入という。なるほどー、経済的な余裕があるから、霊関係ではあまり高い鑑定料を取らないのかなと、真白は思った。
 

その日の“午後”。つまり、真白たちがサンルームで楽しくおしゃべりしていた頃、七尾警察署に電話が掛かって来た。
 
「七尾城山の遺棄事件で、今から言う番号の車を調べてください。車は廃車になってるかも。***-****。では」
「待ってください。もう一度」
「録音を聴いて下さい」(*35)
と言って電話は切れた。
 

真白がその晩ぐっすり眠ってから翌朝リビングに出ていくと、青葉さんが水筒のふたを返してくれた。
「終わったよ」
と青葉さんは言った。
 
「多分撥ねた車のナンバープレートが分かった。公衆電話から警察に匿名で密告した」
「公衆電話なんですか?」
「だって、私が霊視で犯人につながる情報を見付けたら、その後どんどん様々な事件の調査依頼が持ち込まれてくる。とても身が持たなくなる」
「ああ」
「だから霊能者なんて、お笑いで済ませておかないと、いづれ死ぬかダークサイドに墜ちるかどちらかだよ」
 
「ダークサイドに墜ちちゃう人多いですね」
 

(*35) 電話を掛けたのは青葉L(妊娠している側)で、わざわざ福井県内まで車(千里姉が貸してくれたダイハツ・ロッキー)で行って電話しているが、電話口でしゃべったのは眷属の玉鬘である。
 
そしてこの日伏木に居て真白と話したのはお昼までがLで午後が青葉Rだった!
 
真白から水筒の蓋を預かった青葉Lは、それを別室に持っていく振りをして、天野貴子に渡した。彼女は橋本に瞬間移動し、そこで待機していた青葉Rに渡した。そのまま天野が運転して★★院に行き、Rは水見式をした。
 
お昼過ぎにRが目覚めたので★★院を退出し、天野さんに伏木のスタジオに飛ばしてもらった。Rが来たところでLは席を立ちRと交替する。そしてLはスタジオ側に駐めていたロッキーに乗り、福井県内まで走って七尾警察署に通報した。県境をまたいだのは緊急配備しにくいようにである。
 
Lは久々の外出だったので、その後福井市内のパリオCITYまで行き、夕方には徳光PA(ハイウェイオアシス)まで戻って夜まで過ごし、夜中に千里姉と位置交換で伏木に帰り、翌朝真白にふたを返した。
 
Lが退屈そうにしてたので、Rは福井までの往復ドライブをLにさせてやった。眷属はL側からもR側からも呼び出せる。但し雪娘・海坊主は通常Lのそぱに居る。Rは雪娘の代わりに蜻蛉を傍に置いている。しかしRも3週間ぶりに日本語を使った!
 
グラナダではメイドたちとスペイン語で会話するし、千里姉までスペイン語で話すので、日本語を忘れそうである!
 
でもスペイン語で話しているとなんか思考がアバウトになっていく感覚がある。国民性って言葉から導かれる部分もあるのかも、などと青葉は思う。
 

真白は翌日被害者のお父さんに水筒のふたを返しに行った。
 
「すみません。霊視はしてみたものの、やはり時間が経ち過ぎてて、あまり明確なことは分からなかったそうです」
「やはり4ヶ月も経てば難しいですよね」
とお父さんは残念そうに言っていた。
 
真白は言付かっていった川上瞬葉名義と伊勢真珠名義の香典だけ供えてきた。
 

「お母ちゃん遠い所に旅行に行ってるんだって」
 
と幼稚園くらいの女の子が言っているのが涙を誘われた。たぶんこの年齢なら母が死んだことを理解していると思うけど、自分でもそういうことにしておきたいのだろう。この子と、近くでお人形さん遊びをしている3歳くらいの妹のためにも絶対犯人を見付けなくてはと真白は思った。
 
「可愛いお嬢さんたちですね。お嬢さんたちのためにも早く犯人捕まるといいですね」
と真白は言った。
 
「あ、はい。本当は2人とも男の子なんですが、こういう服が好きみたいで」
 
へ?
と真白は思ったが
 
まいっか。
 
と真白はすぐに思い直した。
 
「それに男の子に女の子の服を着せて育てると丈夫に育つといいますし」
「あ、それ結構ありますよね」
 
真白は自分の家の者が全員女だから持ちこたえていたのかもという気がチラッとした。初めて壱越に会った時も、あいつ言ってたじゃん。男はみんな死んでしまったって。今うちの近所に残ってる5軒も全部住人が女性ばかりだ!
 
 
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【春一】(5)