【春一】(2)
1 2 3 4 5 6 7
7月27日(水)。
香川県でインターハイのバスケット競技が始まり、高岡C高校女子バスケット部は準々決勝(7/30)まで進出。ここで優勝候補に敗れて今回はBest8に留まった。
それでもここ数年ではいちばん良い成績であり、やはり先週のH南高校との死闘でみんなレベルアップしたなと矢作先生は思った。
しかしかなりマジで鍛えないとウィンターカップは下手するとH南高校に負けるぞと気を引き締める。(10月まで猛練習確定!)
ところで真珠と邦生は、7月9日に“生解禁”したのだが、ジャンケンすると全部真珠が勝つので、毎晩真珠が男役で邦生が女役になっていた。邦生としては“自分でして”しまうと、ジャンケンに勝っていざという時に立たないと困るのでずっと我慢していた。邦生のは元々とても立ちにくい。恐らく身体が5年半にわたり女性化していた(←過去形ならいいね)後遺症である。
ところが7月27日夕方S市から(人形探しの後)帰ってきた真珠は言った。
「今日は疲れたからぼくが下になるよ。くーにん好きにしていいよ」
「え?ほんと?それ生でやっていいの?」
「もちろんいいよ。私の旦那様」
と言ってキスする。
「やったぁ!」
「ぼく途中で寝ちゃうかもしれないけど、寝てても好きにしてね」
「分かった」
それで、結婚以来初めて!邦生は生で真珠に入れることができたのである!
そもそも立ちにくいので入れられる硬さにするのにやや苦労する。でもこれは真珠も手伝ってくれて何とか挿入に成功!(性交に成功!)
やはり生って凄く刺激が強いなあ、などと思う。付けてるとどうしても感覚が“間接的”な感じになる。
それでしているが、慣れてないこともあり、なかなか逝けない。逝けないと焦り始める。早く逝かなきゃ真珠は自分があまり気持ち良くないのではと心配するかもしれない。などと考えていると性的興奮度が下がり、更に逝けない。
でも頑張るぞ。せっかく生でさせてくれたんだからと思い、邦生は自分のペニスが強制切断される場面を想像する。『やめてー』『いや君にはもう男を辞めてもらう』とか言われてメスを根元に当てられる。そんなこと妄想してたら少し興奮度が上がる(←危険な傾向)。それで10分くらい掛けてやっと逝けた!
やった!初めての膣内射精しちゃったよ。
真珠がギュッと抱きしめてくれた。真珠可愛いなあ。こんな可愛い子が俺の奧さんだなんて、ほんとに素敵だ。そう思って邦生は真珠にディープキスした。
「一休みして2回戦行こう」
「うん」
それで真珠がフェラしてくれる。
「うっ」
「痛い?」
「ううん。大丈夫」
ほんとは射精したばかりで敏感になっているペニスを舐められると結構痛いのだが、折角してくれてるんだからと思い、痛いのは我慢する。真珠はその後、手でしてくれたり、睾丸を握りしめたり(これは痛いというより苦しい)色々してくれる。その内ペニスがまた立った。
「2回戦行けるかな」
「今度はバックで行こうよ」
「うん」
それでバックでする。なんか悪いことしてるみたいで結構興奮する。でもこの形では逝けないので体位を変える。座位でやってみる。密着感が凄いので、とても気分がいい。性的な興奮度はあがるが、やはりこの体勢では逝けない。それで最終的には正常位にして、何とか逝くことができた。
2人は結局4回戦までして、邦生はクタクタになった。
男役って気持ちいいけど疲れるなあ。これ毎日やってたら足腰立たなくなりそう、などと思う。
それで疲れ果ててうとうととしていた時のことである。
0時の時報が鳴る。
と同時に、空中に和服の少女が現れる。
だ、だれ?
「邦生(くにお)、ハッピーバースデイ。誕生日になったから、邪魔な睾丸は除去してやるな」
と言って邦生(ほうせい)の睾丸を掴むと
取っちゃった!
え〜〜〜!?
「これでもう男っぽくなる心配は無いぞ。じゃな」
と言って少女の姿は消えた。
邦生は股間を確認する。
「うっそー!睾丸が無くなってる」
陰嚢も無くなり、ご親切にも?割れ目ちゃんができている。そして女の子の陰核があるべき位置から陰茎がはえているような感じである。
実は大きな陰核だったりして。
真珠が言った。
「姫様。日付を勘違いしている。くーにんの誕生日は来月の28日なのに!」
「今の誰?」
「神様だけど」
「俺どうなるの?」
「うーん。無くなったものは仕方ないんじゃない?睾丸くらい無くてもちゃんと愛してあげるから」
と言って真珠は邦生にキスした。
「もう1回戦行く?」
「睾丸無いと無理〜」
「軟弱な。立つと思えば立つから頑張りなよ」
「そんなぁ」
ということで邦生は誕生日の1ヶ月前に姫様の勘違いで睾丸を取られてしまったのである。それで真珠が自然妊娠するかどうかは、今夜のセックスで受精するかどうかに掛かることになった!ちなみに真珠は先週生理が来たばかりなので、まだまだ排卵予定日までは1週間あり、受精の可能性はとっても低い!
明け方、邦生が放心状態なので真珠は
「どうしたの?」
と声を掛けた。
「俺もうダメかも」
「どうしたのよ?」
「おしっこが凄い後ろのほうから出る」
「見せてみて」
「うん」
それで真珠が邦生の股間を確認すると、陰裂の中、ペニスの付け根より後の通常の女性の位置に新しい尿道口が出来ているのが分かる。陰裂のいちばん奥の所にはヴァギナがある(これは前からある)。
「姫様も親切に。でもこれでおしっこ失敗すること無くなるんじゃない?」
今まではペニスがあるためにおしっこが前に飛び出して便器の外を濡らしてしまう事故が度々起きていたという話だった。しかしここに尿道口があればおしっこは真下に出るので、その手の事故は無くなる。
「俺。女になってしまったかも」
「そんなこと無いよ。ちんちんがあるんだから男だよ(多分)」
「そうかな」
「今夜も“させて”あげるから“性能確認”しようよ」
「うん」
7月29日(金).
H南高校女子バスケット部の公式練習が行われたが、そのあと数人の部員たちが更衣室で話していた。
「ねー、明日金沢に出て古着屋さんとか見ない?」
実は月末でお小遣いをもらい、懐がやや温かい子が多い。
「うちのお母ちゃんが車出してくれると思う」
話していたメンツはふと日和に目を留めた。
「ね、ひよちゃん、明日一緒に金沢に行かない?」
「可愛い服買ってあげるよ」
日和で着せ替え人形遊び?するのが目的である!
「ごめーん、今週末東京に行くー」
「旅行?」
「それがうちの妹が東京の芸能事務所のオーディションに通って」
「え?すごいじゃん」
「それで8月から東京で暮らすから家族で送って行くんだよ」
「へー。どこの事務所?」
「§§ミュージックという所」
「有名どころじゃん」
「アクアちゃんや常滑真音ちゃんの事務所だよね」
「そこのタレント予備軍の信濃町ガールズというのに入るんだよ」
「ああ、アクアちゃんや舞音ちゃんのバックで踊ってる子たちか」
「なんか舞音ちゃん人気で今年は8万人も応募があったらしいね」
と美奈子が言う。
「それに優勝したの?」
「5位だったって」
「全国5位って凄い優秀じゃん」
「東京の寮で暮らすことになるんだよ。そこに今50人くらい住んでるんだって」
「さすが大手だけあってたくさん居るね」
「だから歌手デビューとかは無理だろうけど20歳くらいまで芸能活動するのも楽しいんじゃないかって言ってる。ちゃんと高校にも行かせてもらえるらしいし」
「課外活動みたいなものかもね」
「でも妹さん送って行って、ひよちゃんもスカウトされたりして」
「まさか。スカウトされるのは中学生までみたいだし、そもそもぼく男の子だし」
みんなが顔を見合わせる。
「いや君は女の子にしか見えない」
「そうだ。ひよちゃん生理来た?」
「さすがに生理じゃないと思いますけど、今朝またお股から出血してました。今回は2〜3日前から少しお腹が痛かったから、一昨日くらいからナプキン付けてたんで、パンティ汚さずに済みました」
いや、それが生理だと思うぞ。しかしきれいに1回目の28日後に来たことになる。
その日の夜、邦生と真珠は邦生のペニスの“性能確認”をしてみた。
邦生も睾丸が無くなったのはショックだったが1日経過して少し落ち着いた。おしっこが後ろのほうから出るのは気にしないことにした!
真珠に励まされて「きっと立つ」と自分を元気づけて、2人で協力して刺激すると立った!
「やった!立った!」
「そのままぼくに入れてみて」
「いいの?」
「いいよ。中で出していいよ」
「うん」
それで真珠に入れる。やや不安だったがちゃんと入れることができた。そして腰を動かしていると5分で逝けた。しかも精液は“新尿道口”ではなく、ちゃんとペニスの先から出た。
「これどうなってるんだろ」
「新しい尿道口はおしっこ専用で、おちんちんの先のは精液専用になったのね」
「なんて不思議な」
「でも昨日より速い」
「ごめん。もっと維持したほうが良かった?」
「ううん。速い方がこちらも楽」
「あ、そうかもね」
「でも睾丸が無くてもちゃんと立つことが分かったね」
「安心したぁ。でも睾丸がなくても精液は出るんだなあ」
「今日は普通の精液だね」
「今日(きょう)は?」
「たぶん明日からは精子の入ってない精液になる」
「あはは」
しかし邦生としてはちゃんと立って膣内射精もできたことから、結構男としての自信を回復することができた。
真珠は辺来の里神社に行って、姫様に抗議した。
「姫様ひどいです。邦生の誕生日は8月28日なのに」
神様に文句が言えるのは、きっと千里と真珠くらい。
「あ、そうだった?ごめーん。でも1ヶ月くらいいいじゃん。とにかくこれで邦生は男っぽくなることはなくなった。何なら完全な女に変えてやってもいいぞ」
「それはお断りします」
「でもこれで私自然妊娠できなくなりました」
「冷凍精液はあるのだろ?」
「それはありますけどね」
「結婚一周年の時に一晩だけ睾丸を復活ざせてやろうか」
「お願いします!」
「どっちみち、あの睾丸はほとんど死んでたぞ。あれでは生殖能力のある精子は生産できなかったはず」
「ああそうかも」
でないと、邦生があんなに女性的な外見であることは説明できない。
「スーパー精子が生産できて特大サイズでゴールド塗装のものに替えてやろうか」
スーパー精子って何?
「普通の睾丸でお願いします」
「んじゃあの死にかけの睾丸を何とか再生させるか」
「お手数ですが、よろしくお願いします」
※アクア(M)・花園裕紀・吉田邦生の比較(OXはこの順)
●喉仏XXX
●声:両両女
●おっぱい:OXO
但し裕紀も常時ブレストフォームを付けていてあるように見える。
●ちんちん△×O
アクアのは体内に埋没。
●勃起OXO
●たまたま:XXX
●陰裂OXO
●排尿位置:女男女
●膣内射精:OXO
●ヴァギナOXO
●子宮?×?
●卵巣?X?
つまり邦生の状態とアクアの状態がとても近い。アクアも邦生も誰かの意図で勝手に女性化されているが裕紀は(自然に?)無性化している。本人の性別意識はアクアも邦生も男性だが、裕紀は性別意識自体が曖昧である。
7月30日(土)。
アクアのアルバム編曲作業に参加していた南田容子と立花紀子は27日夕方に作業が終わった後、ひたすら寝ていたが、この日の午後、初海の運転するVolvo XC40 で、高岡大仏と海王丸を見せに連れて行った。
2人はお土産に「ますの寿し」をたくさん買っていた(南田容子はヴァンドール+1の5人分、立花紀子はFlower Sunshineの7人分)。
そして31日(日) 能登空港に連れて行き、熊谷行きのHonda-Jet
Redで帰した。
7月30日(土)。
この日の**テレビの深夜番組で金沢市某所の“願い石”のことが報道された。それでこれ以降、そこに行って石を削り取って来ようとする人が殺到することになる。
8月1日(月)。
奥村春貴は宝くじの当選金10万円(と勝手に思い込んでいる)を受け取ってこようと思い、パッソに乗って金沢に向かった。
夏休みに入ってすぐ行きたかったのだが、この日まで都合が付かなかった。
7/21(thu) 書類が溜まっている
7/22(fri) バスケ部練習日
7/25(Mon) 給料日。その後色々会議。
7/26(Tue) バスケ部練習日
7/27(Wed) 富山市で数学教師向けの研修があった
7/28(Thu) 高岡市で担任・副担任向けの研修があった。
7/29(fri) バスケ部練習日
夏休み中の先生たちというのは結構忙しいものである。
それでやっと今日有休をもらって金沢に出たのである。
氷見南ICから能越道(無料区間)に乗り、高岡北ICで降りる。県道32号を西に向かう。この県道は国道8号とほぼ並行していて、こちらのほうが一般に空いているので、道を知っている人は結構こちらに来る。
メルヘンおやべ交差点で国道8号(小矢部バイパス)に合流。そのまま、くりから(*13) バイパス、津幡北バイパス、津幡バイパスと走って金沢市内に入る。そして山環(金沢外環状線山側)に入り、鈴見ICから市街地に入る。そこから約10分で南町界隈に到達するので、裏通りの適当な時間貸し駐車場に駐めた。
(*13) 漢字で書くと“倶利伽羅”。“火牛戦法”によって人数的に圧倒的に少数だった木曽義仲の軍が平氏の大軍を壊滅させた“倶利伽羅峠の戦い”があった場所の近くを通る。
“倶利迦羅”の名前は、近くの倶利迦羅不動寺に基づき、そのお寺の名前はそこに安置されている倶利迦羅不動明王像(*14)に基づく。“くりから”とは、サンスクリットで“福徳円満の黒い龍”を意味するらしい。元正天皇の時代に始まる古刹だが、上記の戦いで焼失。後に再建された。
(*14) ご本尊は養老年間に、来日したインドの善無畏三蔵法師が敬刻なさったと伝えられるもので、3年に1度、ご開帳される。通常は御前立のお不動様を拝見できる。
春貴は道路を渡り、みずほ銀行に入る。番号札を取って待つ。やがて番号を呼ばれるので窓口に行く。
「すみません。これ10万円当たっているらしいんですが」
と言って宝くじを袋ごと出した。
「ご確認しますね」
と係の女性は笑顔で言って、機械に掛ける。女性は一瞬息を飲んだ。長く窓口係をしていても、こういう瞬間は何度も体験することではない。
「少々お待ちください」
と言って、女性は席を立ち、後方の奥の方にいる50代の女性に声を掛けた。その女性と一緒に窓口の所に来る。副支店長の名刺をくれた。
「お客様、応接室にご案内します」
「はい?」
なんか10万円くらいで大げさだなと春貴は思った。
応接室に入ると、コーヒーとケーキ!が出てくる。
「どうぞお召しあがり下さい」
と言われるので春貴はマスクを取って口紅を拭いてからコーヒーを飲み、ケーキを頂いた。副支店長はしばらく中座していた。春貴がケーキを食べ終わった頃、何やら大量の資料を持って入ってきた。春貴はマスクをした。
副支店長は言った。
「お客様、前後賞の1億円と6等300円が当たっています」
「え〜〜〜〜〜!?」
と春貴は驚愕した。
「あのぉ、10万円じゃ無かったんですか?」
「1億円です」
と言って彼女は説明した。
春貴が持っていた宝くじの番号は、82組136980-89 であった。今回のドリームジャンボの当選番号は 82組136990 だった。それで 136989 が前後賞にヒットしたのである。当選番号の下1桁が偶然にも 0 であったために、こういう現象が発生した。逆に言うと連番で買って1等を当てた人は、3億円+1億円×2=5億円ではなく、3億円+1億円=4億円だけ受け取ることになる。
そのほかに 136987 が6等の300円である!
そんな1億300円なんて夢みたいと思う。
そしてこれだけ資金があれば生徒たちにたくさんおごってあげられると思った。
(↑なぜそういう発想になるのか?)
副支店長は最初に、高額当選金の受け取りには1〜2週間掛かるということを説明した。また金額が大きいので現金ではなく振込で受け取ることをお勧めするというので、春貴はみずほ銀行に口座を作り、その口座で受け取ることにした。それで口座開設の書類を書いた。
その上で、“【その日】から読む本”という小冊子を渡される。そして宝くじが当たってから、気をつけるべきことをたくさん言われた。
・当たったことはどうしても話さなければならない人(基本的には配偶者のみ)以外には、親兄弟子供も含めて絶対誰にも言わない。
「私未婚なんですが」
「でしたら、どなたか秘密を守ってくれて絶対に信頼できる同性の御友人、お客様と利害関係の無い人、そしてお金に困ってない人に相談することをお勧めします。同僚や上司は概して不適格です。日常生活であまり関わりのない人がいいです」
春貴は、“同性”と言われて邦生の顔が思い浮かんだ。彼女きっと既に女性になってるよね?元男子だったというのまで同じだし(呉羽では頼りない気がした)。彼女なら絶対的に信頼できそうだ。銀行員で給料いいだろうし、結婚式で見たエンゲージリングは凄い大粒のダイヤ使ってたし、きっと経済的に余裕があるのだろう。そして日常生活ではほとんど関わりがない。
副支店長の注意は続く。
・仕事は辞めない。
・借金があったら最初にそれを全部返す。
・結婚資金や結婚してから生まれた子供の学資、自分の老後資金などを確保し、自分でも簡単には取り崩せない形にする。
・残りのお金の使い方は、焦らずに半年くらいゆっくりと考えて決める。
よくある投資詐欺などについても詳しく説明された。
副支店長とのお話はお昼近くまで掛かった。それで春貴は6等300円だけ受け取り、みずほ銀行を出た。
春貴は駐車場に戻り、車の中で邦生にメールしてみた。本人から電話が掛かってくる。
「ちょっと相談があるんだけど」
「今どこ?」
「金沢市内」
「だったらお店とかで会うのは感染も怖いし、人に聞かれるし、夕方うちに来ない?」
「まだあのアパートだっけ?」
「あそこからわりと近くのマンションに引っ越したんだよ。住所と緯度経度を送る」
「ありがとう。近くに駐車場あるかな?」
「時間貸しの駐車場はいくつかあるよ」
「じゃ夕方。何時頃がいい?」
「銀行は17時半で終わるから18時くらい以降ならOK」
「じゃ19時頃に」
「OK」
ということで、春貴は夕方、邦生の自宅に行くことにしたのである。
邦生から送ってもらった住所・位置情報を見て、イオンもりの里店から比較的アクセスしすいことに気付く。それでまずは駐車場の精算をしてから車を出し、そこに移動した。マクドナルドを買ってきてお昼御飯にする。
それから春貴は念のためアラームを掛けて仮眠した。
16時頃、目が覚める。イオンでトイレを借りて、お土産にミスドを買い、春貴は邦生のマンション近くに移動した。カーナビで目的地まで100mという所に空きのあるTimes駐車場があったので、そこに入れて駐車した。そして念のためまたアラームを掛けて後部座席で横になり、銀行でもらった飼料を見ていた。
18時半。起き上がり、アルコールウェットで顔、耳の後ろ、首筋、胸などを拭く。化粧水と乳液のあと口紅だけ塗って車を降りる。Google Map を頼りにマンションに辿り着いた。
「いいマンションに住んでるなあ。さすが」
ということで、マンションを見ただけで邦生への信頼感が高まる。
マンションの中に入り、7階にあがる。そして703号室のピンポンを鳴らした。
すぐにドアが開く。
「ひさしぶりー」
「これお土産」
「こんなのいいのに」
と言いながらも中に招き入れられた。
「急がないなら御飯食べてって」
「わっ、ありがとー」
それで邦生、パートナーの真珠(まこと)さん、妹の瑞穂さん、そして春貴の4人で楽しく会話しながら食事をした。
「へー。女子バスケット部の顧問してるんだ?」
「最初ルールも知らなかったから大変だった。実は3月に千里さんの知り合いのプロレベルの選手に3週間指導を受けた」
「おお、それは凄い」
「インターハイの予選では富山県3位になって、インターハイには行けなかったけど北信越大会に行って、1回戦は勝ったけど、準々決勝で負けた」
「元々強い所?」
「いや、少なくともここ5年ほどは1度も勝ったことないと言ってた。地区リーグでも最下位争いしてたらしい」
「そのチームを数ヶ月で県3位にしたのは凄いと思う」
「ラッキーだった部分が大きいけどね。県予選で2度も不戦勝があったし」
「コロナで?」
「それもあった」
「だけどラッキーも実力の内だよ」
「そう選手たちには言ってる」
「来年が正念場かもね」
「それは千里さんとかにも言われた」
30分くらいした所で、真珠さんと瑞穂さんが
「部屋に行ってるね」
と言って、真珠さんがドーナツ2個、瑞穂さんが4個持ち、リビングから出て行った。
それで本題になる。
「実は宝くじに当たったんだよ」
「ドリームジャンボ?」
「そうそう」
「5億円?」
「前後賞の1億円だけ」
「それにしても凄いボーナスだね。その件、誰々に話した」
「邦生ちゃんが最初のひとり」
邦生は目を瞑って腕を組んで考えていた。
「春貴ちゃん、恋人とかいるんだっけ?」
「全く。その候補になるような人もいない」
「親とかにも話してないの?」
「銀行の人が親には話さないほううがいいと言った」
「それ賛成。親に話すとだいたい悲惨な結果になる」
「それで邦生ちゃんに話した。誰にも言わないのがいちばんいいかも知れないけど、それって人間の心理的に凄く難しい。だから誰か1人だけと秘密を共有したほうがいいと思ったんだよ」
邦生は頷いていた。
「“【その日】から読む本”もらった?」
「さすがだね。こんな本のこと全然知らなかったよ。もらって一通りは読んだ」
「だったら基本的にその本に書いてある通りなんだよ」
と邦生は言った。彼女は仕事柄その本は読んでいたらしい。
「まず当たったことは誰にも言わないこと。仕事は辞めないこと。借金があったらまず最初にそれを全部返すこと」
「車のローンは夏のボーナスで全部返した」
「成人式の振袖ローンとかは?」
「それはもう完済してる」
「奨学金は?」
「忘れてたぁ!じゃ当選金もらったら最初にそれを返すよ」
「うん。それがいい」
「あとは結婚資金・子供の教育費」
「私結婚とかしてくれる人いるかなあ」
「大丈夫だよ。世の中には色々な人がいるんだから」
「そうかもね!」
かえってそんな言われ方したほうが、もしかしたら結婚できるかもと思った。
「春貴ちゃんは、むしろ結婚詐欺には気をつけたほうがいい。宝くじとは関係無く。普通の女性でも容貌や教養が劣っている女子とか、水商売の女性とか詐欺に遭いやすい。甘い言葉を言われて、この人は自分を認めてくれる。結婚してくれるかもと思って多額貢いでしまう」
「ああ、それは肝に銘じたい」
「だから男性と交際する場合も、結婚するまでは、場合によっては結婚したあとも、資産を持っていることは言わない方がいい」
「結婚前に言うと、かえってそれで関係が壊れるよね?」
「残念だけど、とてもありがち」
「借金返して結婚資金確保したら、ひとつだけ何か楽しむといい。普通なら買わないようなもの買っちゃうとか、海外旅行に行ってくるとか。基本的には換金性の低いものがいい。趣味の道具とか。楽器とかバイクみたいな。家を買うのはそれを担保にお金を借りるという道を残すから、特に親きょうだいから何か言われる危険がある」
「うん。それってわりと危険だよね」
と春貴は先日、花山星子さんと話したことを思い出していた。
「だから不動産買う場合は、ローンで買ったように装うのがお勧め。それでローンの返済が苦しくてとか言っておく」
「なるほどなるほど」
「そして楽しむのはひとつだけにして、あとは自分でも簡単に取り崩せない形にして、そのことは忘れる」
「うん。忘れるって大事だよね!」
「お金があると思っていると、お金ってすぐ無くなっちゃうんだよ。気がついたらもうほとんどゼロになってるとかあるから」
「ありそう〜!」
「まあ使い道はゆっくり半年くらい掛けて考えるといいよ。ぼくにはいつても相談して。電話くれてもいいし、取り敢えずメールでもいいし」
「うん助かる。誰にも話してはいけないけど、ひとりだけで抱えるには重くて」
「まあ1億円は重いよね」
春貴は相談に乗ってもらったお礼も兼ねてH銀行に定期を作ろうかなと言ったが、邦生は
「ぼくと春ちゃんとの間に利害関係は作らないほうがいい」
と言い、
「定期作るなら、みずほ銀行でもいいのでは。みずほ銀行は支店が金沢市・富山市にしかないから、より“手を付けにくい”」
と言った。
「普段使いの銀行と資産運用のための銀行は分けたほうがいい」
とも言う。
それでその方向で考えることにした。このあたりも、邦生ちゃんに相談して良かったと思った。
彼女は投信を買う場合に買ってよい投信と絶対やめとくべき投信を“個人的見解”として教えてくれた。
「一般的に美味しそうに見える投信、信頼できそうに見える投信ほど危険」
「ああ、そんなものだろうね」
「特に****系は絶対やめた方がいい。いかにも信頼できそうに見えて実はタコ足投信が多いから」
「要するにババ抜きか」
「そうそう」
また株をやる場合の基本的な注意、FXをやる場合の基本的な注意、仮想通貨をやる場合の注意なども教えてくれた。特に“やめといたほうがいい”銘柄については、仕事上はあまり言えない話だと言っていた。話を聞いていると、彼女はかなり自分でも投資経験が豊かなようである。多分給料がいいから、それで投資しているのだろう。
この日の話は4時間くらいに及んだ。彼女と話したことで、春貴は随分心が楽になったし、お金の管理方法について、だいたいの指針をかためることができた。やはり邦生に相談して良かったぁと思った。
彼女は最後にも
「絶対儲かるという話は絶対詐欺だから」
と言っていた。
春貴は結局この日はここに泊めてもらい、翌朝(8/2)、氷見に帰還した。
8月2日(火).
S市にランチ専門店“琥珀”がオープンした。事前に大量にチラシも配ったし初日は人形美術館の建設(?) をしている人(?) たちが大量注文してくれたこともあり、100食も売れる好スタートとなった。
食材が足りなくなり、オーナーの桜坂は、最後レストラン・フレグランスから食材を少し分けてもらって何とか乗り切った。それと同時に輪島まで走って食材を大量に仕入れてきた。(近所では夕方にはお肉とかがあまり残ってない)
8月2日(火).
H南高校女子バスケ部の公式練習があるが、土日に東京に行って来た日和が
「お土産〜」
と言って、“信濃町ガールズ人形焼き”を配っていた。
「おおこれは珍しいものを」
「24個入りだけどメンツは半年に1回変わるんだって」
「Best24に入るのも熾烈な競争なんだろうな」
「妹さんもこのメンツに入れたらいいね」
「はい!」
なんでも型は3Dプリンタで作るらしい。一応この商品ができてから歴代の型が保存されているので復刻版を作ることも可能らしい。
「あ、それで部長、済みません。来週いっぱいと、もしかしたら再来週の火曜も休むかも知れません」
「いいけど何か用事あるの?」
「それが東京に行って妹の部屋に荷物運び込んでいたら、向こうの部長さんに声掛けられて」
「もしかしてスカウトされた?」
「そういう訳じゃないんですが、ドラマに出てくれと言われて来週その撮影があるんですよ」
「ほんとにスカウトされたんだ!」
「さすがに違うと思いますけど、今感染防止対策でエキストラって使わないらしいんですよ。それで身内の関係者を端役に使ってるらしくて」
「なるほどー」
「だからきっとセリフも無くて立ってるだけですよ」
「ふーん」
でもただ立ってるだけの人の役をわざわざ富山から呼ぶか?
と愛佳たちは疑問を感じた。
「東京では一週間ホテル暮らし?」
と舞花は何気なく訊いた。
「いえ。寮の妹の部屋に同居します。布団は貸し出してくれるらしいです」
「ふーん」
そこって女子寮ではないのか?と舞花たちはツッコみたかったが、やめといた。
8月6日(土).
この日ホーライTVの中日本地域限定放送(*15) で墓場劇団の公演が有料放送(*16) されたが、その放送の最後で座長の泣原死亡は先日、“願い石”のおかげで劇団が上昇気流に乗ったと言ったのは勘違いであったと謝罪。実は妻の泣原戦死が頂いていた、一言主神社の御札のおかげだったと訂正。その御札をカメラに映した。
(*15) プレミアム会員は他地域からも視聴できる。また、あけぼのテレビなど姉妹ネットのプレミアム会員(など)も視聴可能。
(*16) 中日本地域の一般会員は1000円。ホーライTVのスーパープレミアム会員は追加料金なし。プレミアム会員や他ネットの会員は各々設定された料金で視聴できる。
最初の5分は無料で見られ、そのあと料金が必要になるので、番組制作側は最初の5分で大いに笑わせたりするなどの工夫が必要である。
死亡の謝罪は正確には番組放送が終わった直後の無料放送時間帯のCMとして放送された。それで死亡は規定の広告料を払っている。
8月11日(木).
宝くじの当選金1億円が春貴の、みずほ銀行の口座に振り込まれた。
春貴は邦生のアドバイスに基づき、まずは大学時代・大学院時代に借りた奨学金を繰り上げ返済した。それから先日大型免許を取った時のローンも一括返済した。
また予め作っておいたSBI証券と楽天証券の口座から3000万円ずつ“吸い上げ”をネットで指示した。これで無料で資金移動できる。また500万円×4=2000万円はみずほ銀行の総合口座に設定されている定期預金口座に移動させ500万円ずつ4本の定期預金にした。
また、みずほ銀行金沢支店とH銀行金沢支店の間(約50m)を5回往復して、H銀行の口座に500万円移動した。一度にやらずに100万円ずつ5回に分けて移動したのは万一ひったくりにあった場合の用心である。(貧乏性なので振込手数料がもったいない)
春貴が500万円を普通預金に入れたことから、渉外課の森田課長から邦生に照会がある。
「この人、先月も君が手続きして20万円の定期預金作ってるよね。自営業者さんか何か?」
「いえ。学校の先生ですよ」
「へー。先生か。こんなにお金があるならもう少し定期預金作ってくれないかなあ」
「じゃ連絡してみましょう」
それで邦生が連絡する。
「ぼくらの間には利害関係作らないようにしようと言ったばかりで申し訳ないんだけど」
「ああ、定期くらいいいよ」
と春貴は笑って答える。
それで結局300万円の定期を作ることにして、邦生がその手続きをした。
春貴としては当選金の使い道はゆっくり考えるつもりなので、定期にしておいたほうが無駄遣いしなくて済むし、というところである。
8月13-14日(土日).
「ミュージシャンアルバム」の取材を高岡伏木の青葉邸で行なった。
13日はGulfstream G450 に CCDの4人と、ラピスラズリおよびケイが乗り、能登空港に飛んでくる。真珠がハイエース10人乗りに7人を乗せて伏木に連れてくる。座席は
助手席:ケイ
2列目:東雲はるこ・町田朱美
3列目:松井・四本
4列目:明山・初沢
CCDはわりと紳士的なので、ラピスたちと同じ便でも大丈夫だろうとケイや取材スタッフは判断した。ドライバーも女性の真珠を使っている。実際彼らは熊谷から能登までも、能登空港から伏木までも、ずっとケイや町田朱美と普通の会話をしていて、楽しい取材旅行になった。会話の話題は主として芸能界の話や海外のミュージシャンの話で、洋楽に詳しい町田朱美が結構突っ込んだ話をするので彼らも感心していた。
道々話したことをインタビューでも話題にして盛り上がったインタビューになった。バンドなので、ミュージックルームでの演奏も本人たちに実際に楽器を弾きながら歌ってもらった。
「さすが大作曲家さんの御自宅は広いサンルームがありますね」
とか
「凄い広い音楽室だ」
などと彼らは感心していた。
取材終了後は、邦生がアルハンブラを運転して、〒〒テレビの長江ディレクターと一緒に氷見漁港に行き、お刺し身を食べ、また氷見糸うどんを食べる。そして能登空港に移動して長江さんと一緒に、Honda-Jet
blackで熊谷に帰した。
Blackは最近能登空港に駐めていることが多い。
邦生はこちらに残り、能登空港IC近くに最近建てたパイロット用宿舎に泊まった。ここはコンビニのすぐ近くでとても便利が良い。
翌日(8/14)はそのBlackの機体に長江さんと一緒に問題児のスリルボカンを乗せて能登空港に戻る。彼らは機内でも女性パイロットのエリッサにセクハラ発言を繰り返しエリッサから言われる。
「あんたたち、スカイダイビングさせてあげようか?」
「エリちゃんと抱き合ってダイビングしたいなあ」
「あんたたちはパラシュート無しでね」
「え〜?」
「ちんちんの皮を広げたらきっと安全に降下できる」
「俺のはしっかり立つから皮が余らない」
「じゃ金玉の皮で」
何か凄い会話になってた!
空港からは邦生が運転するアルハンブラで伏木に移動する。彼らが邦生にもセクハラ発言する。
「俺男だけど」
「うっそー!?」
「それに俺結婚してるから君たちとセックスできない」
「うーん・・・」
「でも女みたいな声だ」
「ああ、電話では女に間違えられることよくあるよ」
「へー」
それで少しはおとなしくなった!
しかしインタビューではまたラピスラズリにセクハラ“行為”をしようとするので、朱美と彼らのバトルになる。これはサウザンズの取材の時と同じパターンだとケイは思った。
ケイやディレクターが止めても聞かないし、はるこがマジで悲鳴をあげるので、朱美は、はるこを守るのにスリルボカンのメンバーをマジで殴る!蹴上げる!(さすがにしばらくうめいている)乱闘しながらインタビューが進むので青葉が困っていた。でもミュージックルームではちゃんとマジメに演奏した。
インタビュー終了後は、邦生が運転するアルハンブラで氷見漁港に行き、お刺し身と氷見糸うどんを食べさせる。
「このうどん、稲庭うどんに似てる」
「同じ系統のものですね」
「でも漁港で食べるお刺し身はさすがうまい」
ということで美味しいものを食べさせてると少しは静かにしていた。むろんこういう様子も撮影している。熊谷から伏木までの往路の映像はとても使えないものだった。
それで帰りは男性パイロット2人で操縦するG450で帰した。
一方、ケイとラビスラズリは真珠が運転するCX-5で直接能登空港に行き、Honda-Jet
blackで一足先に熊谷に戻った。
スリルボカンに同行してG450に乗った長江ディレクターはBlackの帰りの便で能登空港に戻った。
こうして嵐のような1日が過ぎた。スリルボカンのセクハラ行為については◇◇テレビが彼らの事務所に抗議した。それで事務所社長とスリルボカンの連名で謝罪のお手紙が来ていた。
「謝るくらいならセクハラしなきゃいいのに。根性ねえな」
と町田朱美が言っていた。
次の取材は来月くらいにする予定である。
泣原戦死が書いた台本の校正をしていた地獄大佐は、泣原死亡のマンションを訪れて言った。
「この物語は凄く登場人物が多いよね」
「うん。結構出てくる」
「今そちら何人居るんだっけ?」
「極楽昇天と草場影見が離脱して境界迷子が入って5人。それにカノンとコーラスを入れて7人。場合によっては弟の有明も出して8人かな」
「この台本には14人の登場人物が出てくる」
「1人2役して何とかするしか無いな」
「8人の内、幸助君と有明ちゃんの2人を除く6人が全員1人2役すると、見ている人が混乱するぞ」
「でも人が居ないからやむを得ない」
「これ、いっそ、うちと合同公演にしないか?」
「大歓迎!」
それで9月の公演『クラインの墓穴』では、墓場劇団と死国巡霊の合同公演が行われることになった。両者のメンバーを合同すると13人である。
★墓場劇団
泣原死亡(座長)
夜野棺桶
黒衣魔女
泣原戦死(脚本)
境界迷子(新人)
槇原歌音(カノン:本名可能)
槇原合掌(コーラス:本名幸助)
槇原安里愛(アリア:本名有明)
★死国巡霊
地獄大佐
成仏霊子
死神大鎌
涅槃安楽
三途川守
また上記の中で演技し分けが上手い成仏霊子が2役することにした。他の役の男女比は地獄大佐が脚本を調整して合わせ付ける。元の台本は男が多かったので何人か見繕って性転換させた。それでお医者さんも女医さんになった。
「境界迷子ちゃんは女の子?」
「はい、女の子ということでお願いしまーす」
ということで彼女の役も女子大生に性転換された。
有明は初舞台となる。もちろん美少女役である!!
可能はこれまで“カノン”とクレジットしていたが、“槇原歌音”の名前が多分全国区になったと見て今回からはその名前で表記することにし、弟たちも同じ槇原の苗字にした。しかし“三姉妹”の中でコーラスだけ可哀想な名前になっているのは見た目の女性度の問題か?歌音は充分女の子に見える。合掌は女の服を着ていても男にしか見えない。安里愛は男の服を着ていても女の子にしか見えない!
有明が出るので合掌は今回男の子役をしてもらうことにした。
「男に戻れるの?嬉しーい」
と彼は喜んでいた。
それで両者合同の舞台稽古を8月14日(日)に行なったのだが、それを見た、ホーライTVのプロデューサーが言った。
「この人数が出演するのに舞台が狭すぎる」
「確かに演技しながらうっかりぶつかっちゃうことがあります」
「うちの親会社の友好会社が所有している津幡アリーナを使いませんか?」
「そんな大きな会場だと借り賃が高いのでは?」
「借り賃は意外に安いです。公共施設並みです。ただ、コネが無いと貸さないんですよ。感染拡大防止の観点から使用制限しているので」
「ああ・・・」
「うちの会社から申し込めば貸してくれると思います」
「ではぜひ」
使用許可はすぐ出たが死亡たちが行ってみて驚いたのが、客席に大量に並んでいるモニター群である(*17).
「これは何ですか?」
「親会社のあけぼのテレビが所有しているシステムなんですが、ステージを視聴している人の中でWebカメラ持っている人とつながるんですよ。モニターが1万台とスピーカーが2万台あります。だからライブだとリアルタイムで反応が返ってきて、まるでリアルの観客が1万人居る場でライブしているかのような感覚になります」
「凄い」
「使用料は50万円掛かりますが使います?」
「たった50万円で、そんな凄いシステムが使えるんですか!?」
死亡たちはシステムの概要を聞いた時は、そんな凄いシステムはてっきり300万くらい掛かるだろうと思ったのである。
その50万円は死亡が個人で払うつもりだったが、地獄大佐もこのシステムに関心を持ち、半分出させてくれと言うので2人で半額ずつ負担することにした
なおあけぼのテレビで有名アーティストのライブをする時はつながる人をファンクラブの抽選などで決めるのだが、墓場劇団の公演ではどう考えてもWebカメラを持つ観客が1万人も居るとは思えなかったので自由接続で使うことにした。この場合
1万人未満なら画像はデュプリケイトされ、同じ人が複数のモニターに表示される。2番目に表示される場所は1番目の表示場所からは遠い場所になるので同じ人が再表示されているとは見た目では分からない。
1万人を越えた場合はランダムに選択されて表示される。ランダム選択は5分単位で再抽選される。抽選で外れた人は次回の抽選で当選確率が上がる。
(*17) 津幡北体育館ができたので、こちらは当面公演専用にすることにして常時座席を並べている。1万個の座席を並べたリ撤去するのはこれまで1日掛かりであった。しかも撤去作業の度に毎回モニターを数台破損していた。その作業をしなくなったので、システム使用料も50万円に値下げした。
1 2 3 4 5 6 7
【春一】(2)