【春動】(1)

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『霊界探偵金沢ドイルの北陸霊界探訪』(略して『霊界探訪』)はこれまで、このようなテーマを取り上げてきた。
 
2017.08.11 タクシーただ乗り幽霊
2017.09.29 タダ乗り幽霊後日談
2017.12.22 幽霊ホテル
2018.03.23 お墓に関する小ネタ
2018.06.22 食品工場の幽霊
2018.09.21 幽霊トンネル。みんなやられちゃいました!
2018.12.21 H高校七不思議
2019.03.22 (慈眼芳子追悼特集)
2019.04.26 能登半島不思議探訪
2019.06.28 『霊界探訪・関東編』人震
2019.09.27 『霊界探訪・浄土編』裏磐梯浄土平,究極の自爆営業
2019.12.20 浄土寺川ダムと射水市の浄土寺町,幽霊屋敷4件,津幡プール
2020.03.20 幻のワゴン車を追え
2020.06.26 『北陸大会運動』
2020.09.18 『緊急特番・北陸あ!くまっ!探訪』
2020.09.25 脇道から飛び出してくる車
2020.11,27 熊騒動顛末記
2021.03.19 北陸寺社探訪(加賀編)
2021.06.25 北陸寺社探訪(能登編)
2021.08.27 北陸寺社探訪(越中編)足つかみ情報募集
2021.10.29 妖怪足つかみ
2021.12,17 転ばぬ先の糸・経過報告
 
番組の主な出演者
 
霊界探偵・金沢ドイル(川上青葉)
霊界先生・金沢コイル(村山千里:ドイルの姉)
霊界レポーター・皆山幸花(〒〒テレビ・サブディレクター)
霊界アシスタント・沢口明恵
霊界サポーター・伊勢真珠
ディレクター・神谷内大
 
準レギュラー出演者
 
森下英(カメラマン)
城山次郎(ドライバー)
竹本初海(下調べ協力)
吉田邦生(下調べ協力)
 

「私ゲストなんですけど」
と真珠。
「その割りには毎回出演しているようだが」
と幸花。
 
「俺も準レギュラーなのかよ」
と邦生。
「結構よく出てるし。最近はクニちゃんのOL姿をよく放送してるし」
と明恵。
「あれ、嘘を垂れ流すのはやめてくれ〜。母ちゃんが大笑いしてた」
「笑えることなら問題なし」
「実際の写真を流しているだけで嘘は放送していません」
 
ちなみに伊勢真珠の“真珠”は“まこと”と読み、番組内でも“まこちゃん”などと呼ばれている。吉田邦生の“邦生”は本来は“ほうせい”と読むのだが、たいてい“くにお”と誤読され、番組内ではすっかり“くにちゃん”にされている。
 
明恵と真珠は、元々は男の娘だったが、誰かさんのせいで性転換してしまい、現在は法的な性別を女性に“訂正”済みである。むろん2人とも生理がある。
 

邦生は2020年4月にK大学法学部を卒業し、地元のH銀行に入社した。その時、性別を誤解されて、初日は女子行員の制服を着て窓口係を務めるはめになったのだが、その後、誤解が解けて(?)男子制服をもらい、それでやはり窓口係を数ヶ月務めた。でも窓口係をしているとお客様からは
 
「お姉ちゃん、この振込頼む」
とか言われること多々で、更には
 
「この銀行は女子がズボン穿いてもいいんですね」
と女子大生などに好感される?などという状態が続いた。
 
『霊界探訪』が勝手に(幸花としては事後承諾を取ったと主張)流したのは、邦生が初日女子制服を着ていた日の写真で、彼はその後は女子制服は着てない(着てないけど返却されても廃棄しないといけないしと言われて持ってる:でも明恵や真珠に乗せられて結構着てみせた:当然全部放送されている)。
 
社員証も、初日は女子に設定された社員証を渡されたので、女子更衣室・女子トイレには入れるが、男子更衣室・男子トイレには入れない、という困った状態にあった。でも翌日には男子の社員証を発行してもらい、男子トイレに入れるようになった。女子の社員証は返却しようとしたのだが
 
「あんた、女子更衣室の掃除とかお知らせの紙を貼るのとか頼みたいから、そのまま持ってて」
と先輩の長谷さん(女性)に言われ、そのまま持っている。
 
つまり邦生は男子更衣室にも女子更衣室にも入れるし、男子トイレにも女子トイレにも!?入れる状態にある。
 
なお邦生が勤めている支店の女子更衣室は、実際に着替える時は、プールの更衣室のように、カーテンを閉められるブースが多数設置されていてそこで着替えられるようになっており、実質女子休憩室の役割を果たしているので、邦生としても、女子の下着姿などを見てしまうことも(あまり)なく、わりと安心して中に入ることができる(でも下着姿で歩いてる子がしばしば居る!)。
 
更には、しばしば女子トイレのトイレットペーパー補充とか、花瓶の花交換とかも頼まれ「女子に頼んでくれ〜」と思いながらも作業している。むろん彼が女子トイレにいても誰も変に思わない(女子更衣室でも見てるし!)
 
ちなみに彼は自分の健康保険証や年金手帳の性別が修正されていないことに(1年半後の2021年秋時点でも)全く気付いていない!
 
邦生は2020年6月中旬には、渉外課でできた欠員補充のため、そちらに異動したので、彼が窓口係を務めたのは2ヶ月半のみである。
 

その日、体験入社に来た女子大生が
 
「御社のこの支店の渉外スタッフの男女比を教えて下さい」
と言ったので、渉外課長の森田は部屋の中を見回した。
 
佐藤広大係長、小林武史主任(外出中)、小田拓也、鹿原幹夫、前野連(外出中)、矢原弘武、吉田邦生、大野由海(外出中)、南田里菜、中村紗和
 
「男6・女4ですね」
「へー。女性の比率が高いんですね」
「そうですね。女性でもバリバリ仕事してくれる人は大歓迎です。うちは男女で仕事内容に差は無いし、給与も同じです。掃除したり、お茶入れたりするのも入社3年目までの社員が男女によらず順番で担当していますし」
 
と課長が言うと、女子大生は頷いていた。
 

邦生は、入社初日は性別を誤解されたし、その後も2ヶ月半にわたって窓口係に居たので、窓口係の女子行員たちとすっかり仲よくなってしまった。
 
それで彼女たちは、邦生のアパートがわりと金沢市の中心部に近いこともあり、しばしば邦生のアパートにやってきて、休憩したり泊まっていったりする。それで女子たちを部屋に寝せて、邦生は台所で寝ていたりする。彼女たちは邦生の部屋に衣裳ケースを数個持ち込み、自分たちの私服を勝手に入れているようである。渉外係に異動してからは、この勝手に泊まっていくメンツに渉外係の女子たちも入るようになった。
 
アパートの鍵は、女子たちの間で勝手にコピーされているようである!
 
ちなみに、女子の友人がここに泊まっていくのは、大学生時代から、いつものことであったので、このアパートには、邦生の布団以外に客用布団が3セット用意されている(お金を出したのは青葉!)。
 
学生時代の女子の友人たちも、また銀行に入ってからの女子の友人たちも、邦生のことをゲイあるいは、女の子になりたい男の子なのだろうと思い込んでいる。邦生本人はストレートのつもりではあるが、実際問題として女性に対して完璧に不感症になってしまっており、女性の下着姿や裸を見ても、特に何も感じない。それで真珠などは邦生に抱きついたり、べたべた触ったりしている。
 
真珠も邦生の部屋の鍵を持っており、しばしば親に叱られた時など、ここに来てほとぼりを冷ましたりしている。真珠は邦生の銀行口座の暗証番号とかも知っている!
 
邦生は朝目覚めたら、真珠が自分の布団の中に裸で!寝ていたのにギョッとしたこともある。同じ日に別の女子も3人泊まっていたが、彼女たちは“ゲイ”の邦生と真珠の間に“何か”あったとは全く考えなかった。真珠は実は居間が満杯だったので邦生の布団に潜り込んだだけである。それに元男の子である真珠としては、天然女子の布団に潜り込むよりは“ゲイ”の邦生の布団に潜り込むほうが抵抗が少なかった。裸になったのは単なる習慣!(元々自宅でもよく裸で寝ている)
 
「でもクニちゃん、ぼくとセックスしたかったらしてもいいよ。避妊具付けてくれるなら」
と真珠は言う。
 
「別にそんなことはしないよ」
「ああ、やはり女の子には興味が無いのね。誰か格好良い男の子紹介しようか?」
「要らん!」
 

女子たちの間では、邦生は既に男性器を除去済みであると思っている子も多い。ペニスまでは取ってなくても、睾丸はさすがに除去済みだろうと思っている子が大半である。実際、邦生の年齢(24歳)で、見た目充分女性に見える邦生の容姿は去勢済みでないと説明できないと多くの女子たちが思っている。しかも最近、女らしさが明らかに増幅している。
 
また邦生にヒゲや足のムダ毛が生えている所は誰も見たことがないし、彼がW66 H94 のレディスパンツを日常穿いており、衣裳ケースにはW66のスカート3着、Mのショーツが10枚くらいとミニスリップ(*1)数枚にA85のブラジャーも数枚入っているのも、彼の部屋に泊まったことのある女子は確認している(勝手に人の衣裳ケースを見ている)。
 
(*1) キャミソール代わりである。身長167cmの邦生が着ると、普通の女子がキャミソールを着けているのと似た状態になる。普通のキャミソールではお腹が出てしまう。
 

本人の主張では、女物の服があるのは、大学の笑劇団時代に、女役をやらされたためであり、女装趣味は無いと言っている。レディスのパンツを穿いているのは、単に男性用のではサイズが合わないから。彼は銀行の制服も、トップスは普通の男子用制服だが、ボトムは実は女子用スラックス(事情があってスカートが穿けない女子社員のために用意されている)を穿いている。それでトイレは基本的に個室を使用するが、男子の同僚たちは、彼が既にペニスを除去しているので、小便器を使えないのだろうと思っている!
 
彼は営業の時に着る紳士用スーツはイージーオーダーで、ウェストとヒップのサイズを指定して作ってもらっている、彼は通勤時はライダースーツを着ている。紳士用の背広スーツは通勤には使わないので、銀行に置きっぱなしにしている。彼が身体に密着するライダースーツ(*2)を着ていると、ウェストがくびれているので、やはり女子に見える!(お股には膨らみが無いし!?)
 
(*2) 実は女性用のライダースーツ。男性用ではヒップがきつい。でもそれでウェストがくびれているのが強調される。
 

彼は髪は学生時代はわりと長めにしていたが、銀行に入社する時に短く切ったら「短すぎ!」と言われて、ウィッグをかぶせられてしまった。結局、自毛を肩に付くか付かないか程度に伸ばしている。邦生の眉毛は、真珠とか、元同級生の世梨奈(〒〒スイミングクラブ所属)とか、銀行の同僚の伊川峰代とかが「整えてあげるね」と言って、勝手にカットして形も整えているようである。吉田の髪は最近は真珠お勧めの美容室でカットしてもらっている。
 
「ここの店長さんは元男性だから、男の骨格をうまくカバーして可愛くするのが上手いのよ」
「俺、可愛くされても困るんだけど」
「クニちゃんは、髪型を男らしくしようとすると、オカマに見えるから、むしろ可愛くした方がいい」
「それじゃ性別誤解される」
「正しく理解されるだけだと思うなあ」
 
でも真珠に紹介してもらう以前に1度行った美容室では変にカットされて、自分でも凄い違和感があった(銀行ではまたウィッグをかぶせられた)。ちなみに彼は大学時代から同級生たちのお勧めで美容室に行っており、床屋さんには高校の時以来、行っていない。
 
なお吉田の衣裳ケースの中の女子下着がしばしば増殖しているのは、明恵や真珠が勝手に「買ってきてあげている」せいである。真珠たちが吉田の男物の下着を勝手に処分してしまうので、吉田はやむを得ず女物のショーツやミニスリップを着て会社に出掛けることもある(ライダースーツを着た時にお股に膨らみが見えない原因だったりして)。
 
また自分で男物の下着を買っていると売場で「彼氏のですか」とか「御主人のですか」と訊かれることもある(立体裁断のとか勧められて、さすがにこれは大きすぎると思ったりする)。
 
邦生は“両声類”なので、銀行で電話を受ける時は女声で取ってよと言われている。でも女声で「H銀行渉外課でございます」と応答してから自分に掛かって来た電話だった場合は「少々お待ち下さい」と言って保留にしてから、すぐ保留解除して男声で「お世話になります。吉田です」などとやるので、同僚の南田里菜などが楽しそうな顔をしている。
 
ちなみに邦生は、入社以来、退勤時に、女子たちに誘われておやつを食べに行くことは多いものの、男性同僚から飲みに誘われたことは1度も無い!
 
ただコロナ下なので、おやつ類はお店では食べず、テイクアウトして公園などで食べたり、邦生のアパートになだれ込み、そこで食べたりしている。彼は元々飲酒の習慣が無いので、自宅アパートに置かれているチューハイやビールはここにたむろする女子たちが勝手に置いて飲んでいるものである。
 

なお青葉の元同級生たちの2021年現在の所属は下記である。
 
川上青葉:K大法→〒〒テレビ
田中世梨奈:H大→〒〒スイミングクラブ
石井美由紀:G大→北陸造形
山田星衣良:K大法→2020司法試験合格→司法修習生
上野美津穂:T大心理学→某社→§§ミュージック・カウンセラー
大谷日香理:東京外大→松本花子
鶴野明日香:H大→K製作所東京本店秘書部(橘ハイツ在住)
寺島奈々美:W大→サンドベージュ(Wリーグ)
吉田邦生:K大法→H銀行
呉羽大政→ヒロミ:K大医6年
清原空帆:東京工大→松本花子
奥村春貴:K大大学院2年
 
なにげに高収入の人、高収入になりそうな人が多い!(多分収入がいちばん低いのは世梨奈で次が美由紀)
 
奈々美は2022-2023シーズンから、フランスLFBのボルドーに移籍することで、チームと話が付いている。才能豊かな選手の多いチームで出番が必ずしも多くないし、奈々美は本来シューティングガードなのに、現在のチームではスモールフォワード扱いになっていることにも不満があった。
 
星衣良は2021年12月に司法修習が終わる(予定!な)ので、年明けから弁護士事務所に入ることになっている。当面はイソ弁生活になる。
 

さて『霊界探訪』のメインキャスト?である金沢ドイルこと、青葉は東京五輪に水泳代表として出場するため、2021年の春から夏に掛けては超多忙であった。姉(多くの視聴者にはドイルの妹と思われている)の金沢コイルこと千里も同じく東京五輪にバスケット代表として出場するために多忙であった。
 
それで制作部では、3月・6月・9月は、“霊界三人娘”(明恵・真珠・初海)による北陸寺社探訪という企画を作り、石川富山の様々な神社・お寺を巡ったのである(放送順序と取材順序は結構異なっている)。
 
2021.03.19 加賀編
2021.06.25 能登編
2021.08.27 越中編
 
多数の寺社を巡った(放送したのは取材したものの内7割程度)のだが、その日、取材班は人形供養で有名なW神社を訪れた。
 

「こんなにたくさん人形が並んでると恐いくらいだね」
と初海が言う。
 
「凄い風景だね」
と真珠。
「結構これインスタに上げてる人あるよ」
と幸花。
 
「インスタ映えするよね!」
と真珠。
 
神社の境内には膨大な数の人形が並んでいる。種類ごとに分類しているようで雛人形のコーナー、五月人形のコーナー、博多人形のコーナー、市松人形など日本人形のコーナー、ビスクドールなど西洋人形のコーナー、ぬいぐるみのコーナー、ソフビ人形のコーナー、こけし、マトリョーシュカ、信楽焼の狸、福助、だるま、キューピー、アヒル隊長、木彫りの熊、などなど、実に様々な人形の類いが並んでいる。その総数は恐らく1万点を越えている。
 
神社の宮司さんにお話を訊き。供養したい人の納め方についても詳しく聞く。元々は直接持参でしか受け付けていなかったが、コロナが収まるまでは暫定的に宅配便での受付もしているらしい。
 
「基本的に先に供養料をお納め頂き、それでこちらからお送りする特別な配送伝票を貼られたもののみ受け付けます。それ以外は全て受け取り拒否します」
と宮司は言った。
 
「ああ、人形だけ送りつけられても困りますよね」
「魂抜きをした上で、順次お焚き上げさせて頂きますが、どうしてもある程度の費用が掛かりますので。頂いているのはほぼ実費です」
「費用掛かりますよね!」
 
「供養できないものはありますか?」
「基本的に人形本体のみのお預かりになります。ケースとか箱とか付属品はお預かりできません」
「なるほど」
「あと動物の遺体・遺骨とかは受け取れません。ペット供養しているお寺に相談して下さい」
「人形とは違いますよね」
「むろん生身のペットとかは預かれません」
「生きてるペットですか!」
「餌代が掛かりますし、病気も恐いので」
「全くですよね!」
 

インタビューしている内に、初海がポロリと言った。
 
「でも凄い数の人形ですよね。これ夜中に動いてたりしませんよね?」
すると明恵が注意した。
「初海ちゃん、そういうことを想像してはいけない」
「ごめん!」
 
でも宮司さんは笑って言った。
「参拝なさる方や、供養に訪れた方の中にも時々そういうことをおっしゃる方がありますよ。動いてる気がするのは多分気のせいです」
 

次の取材地に向かう車の中。
 
「自動運動?何それ?」
と真珠が訊くので、明恵は解説する。
 
「心理学実験とか取ってたらやると思うんだけどね。真っ暗な部屋の中で小さなLEDライトを灯す。そして『これからこの灯りが動きますから何cmくらい動いたか記録して下さい』と言われる」
 
「うん」
「多くの学生さんは『3cmくらい』とか『7cmくらい』とか言ってた。でも私は3mくらい動いた気がした」
と明恵。
 
「それ実際は全く動いてないんだよね」
と幸花が言う。
 
「ああ、これやりました?」
「やったやった。要するに暗闇など、位置に関する情報の無い場所では、物との相対位置の感覚が混乱して、位置関係が変化しているように感じる一種の錯覚なんだよね。動きますよと暗示掛けられてるし」
 
「そうみたいです。位置関係の手掛かりがない所では人間の感覚が不安定になるんですよ」
と明恵。
 
「私は30cm動いたと答えて、そんなに動いて見えるのは異常と言われた。でもこれ霊感のある人は凄い距離動いて見えると思う。明恵ちゃんみたいな霊感人間なら3-4m動いて見えても不思議じゃない」
と幸花。
 
「どうもそうみたいです。金沢コイルさんは30m動いた気がしたとおっしゃってましたから」
「30mでは部屋から飛び出す気がする」
と真珠。
 
「夜中に田舎道などを歩いていると、遠くにある灯りが結構動いているように見えるらしいてす。動いてるから人がいるのかなと思うけど、実はただの街灯だったりする」
と明恵。
 
「それも自動運動か」
「だから夜中に人形が動いてる気がするのも、きっと自動運動ですよ」
「なるほどー」
 
「でも私が注意したのは、そうやって不安な気持ちを持つと、そこに変なのに付け込まれる危険があるんです。だから心をしっかり持って、人形が動いたりするはずないと思っていた方がいいです」
と明恵。
 
「確かにそれって危険だね」
と幸花も言った。
 

『霊界探訪』では、邦生や、以前番組のアシスタントをしていた青山広紀が性別を移行したかのような情報を勝手に流しているが、邦生は10月29日放送の回でも自身番組に出演して“女性化説”を否定しておいた。
 
でも視聴者からは「今日は邦生ちゃん、なぜ男装してたの?」などと言われた!
 
さらにこの回では真珠が邦生のちんちんを(ズボンの上からだが)つかむという凄いシーンがあり、
「女子が男子のちんちんをつかむシーンをテレビが流す訳無いから、やはりクニちゃんには既にちんちんは無いのだろう」
とネットでは感想が書かれていた。
 
(全く非常識な番組で申し訳無い)
 

一方、青山広紀のほうは、マジ女性化しつつあった。
 
彼は青葉たちより1つ上の学年で、2019年春にK製作所に就職した。研修を終えた後、金沢支店に配属され、ここで研修の時にも親しくしていた藤尾歩と同じ部署になり、急速に親密になっていくとともに、彼女に唆されて女装を頻繁にするようになる。
 
彼は2019年12月、歩と一緒に新しい部門・アマテラスパネル事業部に配属された。そして青山はここが“女性のみ”で構成する部門であることを知って仰天する。
 
ここは新型の太陽光パネル(アクアがCMをしている)の事業部なのだが、パネルの工事や点検の仕事で、女性だけでは不安だという声があった。そこで
 
「じゃ男の娘を使おう」
と言うことになったのである。それで青山を“含めて”3人の男の娘社員がここに配属された。
 
ここの制服は膝丈のスカートである。
 
ということで、広紀は毎日スカートを穿いて仕事をするハメになったのである。彼は女子扱いなので、社員証の性別も女になっているし、当然トイレや更衣室も女子トイレ・女子更衣室を使うことになる(彼の社員証のICカード情報では、男子トイレ・男子更衣室には入れない)。また、通勤着も、スカートスーツを歩に見立ててもらって購入。それで通勤するハメになった。当然下着も全て女物を使わなければならない!
 
また歩の指導でお化粧の練習もした(初期の頃は歩がお化粧してあげていた)。更に通勤用の車も、歩のお勧めで、女性らしいミラ・トコット(色はライトローズ)を買ってしまった。
 
広紀が女装で通勤するようになったのに、両親は驚いたものの
「お前は元々そっちだったかもな」
などと父は言い、広紀の兄たちも
「妹が欲しかったんだよ」
などと言って、家族みんなに“理解”されてしまった。
 
青山も最初の頃は女装勤務に抵抗があったし恥ずかしかったものの、やがて慣れてくると女装がかえって楽しくなり、ぼく、わりと女装好きかもと思うようになった。
 
2021年には運転免許の更新があり、彼(彼女?)はゴールド免許になったが、この免許更新には、お化粧してスカート姿で行ったので、広紀の運転免許証の写真は女性にしか見えない写真になった。
 
彼は毎日のヒゲや足のむだ毛の処理に疲れ(膝丈スカートを穿くので足の毛はいつもきれいに剃っておく必要がある)、歩の勧めでヒゲと足のむだ毛はレーザー脱毛してしまった。これで毎朝30分くらいかかっていたむだ毛処理の時間が不要になり、ほんとに楽になった。
 
広紀と歩は双方の両親とも会い、お互い相手の両親に気に入られた。
 
どちらの親も、広紀の女装・歩の男装は全く気にしないと言った。むしろ、お似合いじゃんと言ってくれた。歩は広紀の兄たちとすっかり飲み友だちになった。歩が広紀の家に泊まっていく時など、広紀の兄たちと飲んでて、結局酔い潰れてセックスしなかった夜もあった(さすがに「ごめんごめん」と広紀に言っていた)
 
それで、ふたりはフィアンセとなり、2022年春にも結婚しようということになっている(具体的な日付はコロナの状況を見て決める)。
 
ちなみに、彼が所属する部門に配属されていた他の男の娘2人は配属された時点でもう去勢済みだったし、その後追加で配属されてきた3人の内ふたりが2021年夏までには去勢手術を受けてしまった。残るひとりも
「年末のボーナスで去勢手術受けようかなあ」
などと言っている。
 
また彼女たちは女性ホルモンを飲んでいて、結構なバストもあった。(広紀はブレストフォームを着けている)。
 
なお、広紀を含めて男の娘社員は6人だったが、1人が性転換手術を受けて女性になった(女性社員として勤務を続ける:でも力仕事にも引き続き使われる!)ので、2021年秋現在男の娘社員は5人である。
 

2021年9月下旬の土曜日、広紀は3本目の冷凍精液を作った。
 
「これでもういつでも去勢できるね」
と歩から言われたものの、ほんとにぼく去勢することになるのかなあ、と不安を感じた。なんか歩に乗せられてふらふらと手術受けてしまいそうで自分が恐い。
 
この日もいつものように、女装の広紀と男装の歩でデートしていたのだが、デート中に〒〒テレビてバイトしていた時の同僚・皆山幸花に偶然遭遇する。広紀がたまたま転んだ所に、幸花が声を掛け、青山だということに気付いて幸花が仰天したのである。
 
幸花はこの時期“妖怪足つかみ”を追いかけていたのだが、広紀が「何かに足を掴まれたような気がして転んだ」というので、これはきっと妖怪足つかみのせいと言って、広紀に再度転んでもらって再現ビデオを撮影した。
 
結果的にすっかり女性化した広紀の映像が番組で流れることになった。
 
この時、歩は「結婚式では広紀がウェディングドレスを着なよ」と勧めていると言っていたし、結婚式までには取り敢えず去勢は済ませようとも言っていると言っていた。
 

そして幸花と別れた後、歩は
 
「本当に今日去勢しちゃおうよ」
と言い、広紀も心か揺れた。
 
彼を去勢手術をしてくれる病院の駐車場まで連れて行く。
 
「手術代くらい持ってるから、受付に行って去勢手術を受けたいと言うだけだよ」
と歩は言う。
 
「どうしよう!?」
と本当に悩むように広紀が言うので、これはあと一押しだなと思い、さんざん広紀を唆す。
 
そしてついに!この日、広紀は喉仏の切削手術を受けたのである。
 
あれ!?
 
(でも広紀は「とうとう身体にメス入れちゃった」と少し落ち込んでいた)
 

幸花が広紀たちに言ったように、この時期『霊界探訪』の取材班は人の足にからみついて転ばせる妖怪“足つかみ”を追いかけていたのだが、雲をつかむような話だったこの事件の解決の糸口は思わぬ所から得られた。10/16-17の短水路選手権が終わった後、10月19日に青葉はホンダジェットで北陸に戻ったが、この飛行機に優子一家が同乗していて、“妖怪足つかみ”の話を聞いた優子の母が“転ばぬ先の糸”を教えてくれたのである。
 
青葉はその話を子供の頃に聞いたことはあったものの、ずっと忘れていた。それで行き詰まりの様相も見せていたこの件の取材も急展開を見せる。『霊界探訪』取材班は手分けして、この話を知っている人を探した所、津幡アリーナの敷地内に立つ辺来里神社の宮司さんが結構詳しい話を知っていた。それで宮司さんや優子母にも番組に出演してもらい、番組スタッフが実際に“転ばぬ先の糸”をしてみて、後日結果報告することにした。
 
それで慌ただしく、10月29日放送分のビデオが完成したのである(結構ぎりぎりだった)。
 

ところで、常滑真音は『八犬伝』の撮影が10月末に終わった後、11-12月に多忙な日程の間を縫って、水谷姉妹と一緒に『こどものうた・はるのうた』の音源制作をしていた。舞音とスイスイ(水谷姉妹)の録音自体は、五反野の女子寮地下のスタジオで行うのだが(しばしば早朝に起こされてやるので、水谷姉妹もとっても早起き)、オーケストラによる伴奏は、越谷の小鳩ホールでおこなっていた。オーケストラは夏に『こどものうた』を録った時と同様、信濃町バンドのピックアップメンバーである。
 
ボーカルの監修は古城風花(本来はローズ+リリーのプロデューサー)、伴奏の監修は、信濃町バンドのプリンシパル・コンダクター清水春浩と、マスター・コンダクター佐良美結が管理している。オーケストラのスコアは実際佐良さんがほぼひとりで書いている(清書は何人かで手分けして行っている)。
 
夏に『こどものうた』を収録した時は、オーケストラの音は、熊谷リゾート内の小さなスタジオで録ったので結構音響に不満の声が出ていた。しかし今回は秋に完成した越谷の小鳩ホールを独占使用したので、非常に良い音が録れた。
 
ホールは3000人規模のホールであるが、人間の聴衆が入っているのと同じような音響にするため、座席に3000体の、洋服を着た人形を並べた。この人形は、洋服屋さんなどで使用されていたマネキンの中古を、買い集めてきたものである。だから実に様々なタイプのマネキンが混じっていた。マネキンだけでなく、“離婚して里帰りしてきた”ラブドール(女性が多いが男性や男の娘・女の息子!も居る)まで混じっている。ラブドールは凄く人間っぽいので結構ドキッとすると演奏者たちは言っていた(オーナーの若葉はわざわざ彼女たちを前のほうの席に並べた)。
 

小鳩ホールでオーケストラの演奏をやっていたのは、だいたい2021年11月いっぱいだったのだが、その噂は制作を始めて1週間くらいの頃に起き始めた。
 
「人形たちの座っている席が毎回微妙に違う気がする」
「この子たち、夜中に勝手に席を移動してない?」
 
指揮者の清水さんが
「誰もわざわざ移動したりしないし、人形は勝手に動いたりしないよ」
 
と言うものの
 
「いや絶対動いている」
と多くの演奏者の声。
 
困ってしまった清水さんは、この“小鳩シティ”(*3)の管理人、佐力梨沙さんに相談した。彼女は両親が日本に帰化した後で生まれたので、生まれながらの日本人だが、フランスとスーダンの血を引いている。肌がやや黒い外人さんに見える。彼女は千里の小学校の時の同級生で、現在越谷F神社の常勤巫女でもある。通常は神社に居て、呼ばれたらスクーターで駆け付けてくる。
 
(*3) 小鳩シティは、小鳩ホール、小鳩アリーナ、小鳩マンション、および広い駐車場から成る。マンション1階には、コンビニと牛丼屋さんも入っている。
 

梨沙は巫女衣装でホールのステージに立ち“観客たち”を見渡したが
「怪しい人形は居ないよ。みんないい子だよ」
と言う。
 
「ほんとに大丈夫ですか?」
と不安そうにオーケストラの団員たちが言うので
 
「じゃお祓いの祝詞を上げてあげよう」
と言い、F神社から巫女さんを2人呼ぶと、彼女たちに龍笛と太鼓を演奏させ梨沙は結構長い祝詞をあげた。
 
“外人”の巫女さんが美しい日本語で祝詞をあげるので団員さんたちは「へー」という顔をしていた。
 
彼女は神宮大麻をステージの隅に貼って行ったので、これで団員さんたちも結構落ち着いた。
 

しかし梨沙は神社に戻ると、千里に電話した。
 
「あれ私の手には負えない。祝詞とお札で取り敢えずは抑えたけど、数日で封印は破れると思う。シサト、手伝ってよ」
 
(彼女は千里のことを“しさと”と呼ぶ)
 
「そういう話なら、専門家を連れて来よう」
ということで、熊谷でアクアが歌う『ワンザナドゥ』のトリビュートアルバムの編曲をしていた青葉が、強引に呼ばれた。千里は深夜、自分が運転する車で、青葉を越谷まで連れて来たのである。
 
「私きついんだけど」
「青葉ならきっと30分で終わる」
と言って、千里は現場を見せた。
 
「これは酷い」
と青葉はホールの人形たちを見て言った。
 
千里は言う。
「何も供養されないまま、ここに連れて来られてるから色々な念が渦巻いている。私の手には負えない。青葉に頼むしかない。依頼料は若葉に出させるから」
 
『ちー姉だって、このくらい処理できるだろうに』と青葉が思ったら
「私ならこの人形たちをお焚き上げしちゃうくらいしか処理方法を思いつかないもん」
と千里は“声で”答える。
 
また私の心を読んでるし!(青葉が無防備なのも全く進歩しない)
 
「やるから、ちー姉、このホールに結界張って」
「了解」
 
瞬間的にホール全体を囲む結界が出現するので、さっすが!と青葉は思った。
 
青葉はローズクォーツの数珠を持ち、般若心経を唱える。その詠唱がホール内に響き渡ると、人形たちが静かにそれに聞き入っているようである。
 
“珠”を起動する。
 
珠の作用で、水のようなものがあふれだし、人形たちの持つ念を押し流していく。
 
物凄い量の歓喜の声が聞こえる。青葉はその間ずっと般若心経を唱え続けた。
 
そして静かになった。
 
「終わったね」
と千里。
 
「終わった。もう大丈夫」
と青葉。
 
見ていた梨沙が
「凄かったね!」
と感動するように言った。
 
「青葉さん、今の再現映像撮りたいからもう一度やって」
と言って、梨沙はiPhoneを取り出す。
 
「再現映像?」
「伊勢(真珠)さんから頼まれた」
「あはは」
 

話を聞いた若葉は、青葉に500万円の処理料を払ってくれた。更に
 
「人形たちが勝手に動かないように見張りを置くといいね」
 
などと言って、§§ミュージックの社員寮(12月オープン予定)にも導入予定の“見回りロボット”の簡易版(会話機能や相手識別機能などが省略されたもの)を1台買ってここに持って来た。そして団員さんたちが作業を終える18時から朝仕事を始める10時までの間、1時間に1回ホール内を巡回させるようにした。団員たちの中にはこのロボットの動きを面白がって、仕事が終わった後ずっとその動き回るのを見ている人たちまで出た。
 
しかしこの最終的には青葉のした処置で、その後は、人形が勝手に動くという噂も消え、団員たちは気持ち良く、童謡の伴奏をしたのである。
 

青葉は10月末から12月中旬に掛けて、熊谷の郷愁リゾートのコテージ“さくら”で、『ワンザナドゥ』のトリビュートアルバムの編曲をしていた。元々のアルバムは2003年に当事のワンティスが1年近くの時間を掛けて制作したアルバムだったのだが、高岡猛獅の急死に伴うワンティスの活動休止により、発売が延期されたまま放置されていたものである。そして延期されている内に音源自体が行方不明になっていた。それを§§ミュージック社長の秋風コスモスが偶然発見し、それでこれを18年ぶりに発売しようということになった。ところがここで、ケイ・千里・コスモス・雨宮三森の四者極秘会談で、このようなことが話し合われた。
 
・このアルバムを18年前に発売していたら、ミリオンになっている。しかし今更発売しても5-6万枚しか売れない、
 
・そこでこのアルバムを高岡猛獅の“娘”(全員“娘”でよいことにした)であるアクアにカバーさせ、トリビュートアルバムを発売したらそのアルバムは間違いなくミリオン行く。
 
・しかしアクアに昔のアレンジのまま歌わせても、アクアらしくない音源になる。当事のワンティスは25歳だった。だから今25歳くらいのミュージシャンに新たなアレンジをさせて、そのアレンジでやはり20代のハンドに伴奏させて音源を作ったほうがいい。
 
それで、アレンジャーとして、アクアに多数の楽曲を提供している青葉(24)が起用されることになったのである。コスモスが言葉巧みに青葉を高岡から熊谷に呼んで作業をしてもらった。
 
(それで青葉は短水路選手権の後10/19に高岡に戻っていたのがまた10/29に熊谷に出てくることになった)
 

2021年の青葉の所在
 
12/30 能登→郷愁 RC大賞の授賞式に出る
1/01 熊谷→小浜 ローズ+リリーのライブに出る
1/02 小浜→熊谷 作曲家アルバムの取材
1/06 熊谷→能登 帰宅
2/02 能登→熊谷 ジャパンオープン・作曲家アルバム
2/12 熊谷→能登 帰宅
3/06 能登→仙台 震災イベント
3/08 東京に移動 作曲家アルバム
3/13 熊谷→能登 帰宅
3/27 能登→熊谷 千里と貴司・桃香の結婚式/日本選手権/代表合宿(熊谷)
4/16 熊谷→能登 帰宅
6/01 能登→熊谷 ジャパンオープン
6/07 熊谷→能登 帰宅
7/20 能登→熊谷 東京オリンピック
8/16 Jヴィレッジで宇宙飛行士オーディションに出る
8/18 水連で鈴木会長と会い、現役続行を決める
8/19 熊谷→能登 帰宅
8/25 能登→熊谷 作曲家アルバム/舞音ちゃんタロット
10/04 熊谷→能登 帰宅 10/13 新居打合せ
10/14 能登→熊谷 短水路選手権
10/19 熊谷→能登 当日土地受け取り
10/29 能登→熊谷 トリビュートアルバム編曲
(年内は熊谷・浦和に滞在)
12/09 日帰りで高岡まで行き、青葉の新居を見る。
 

伴奏は“ゼロティス”という臨時編成のバンドを構成した。これはアクアの通常のバックバンド“エレメントガード”はアクアの通常の仕事の伴奏で多忙であり、とてもこういう仕事を割り込ませる余裕が無いこと、そして彼女たちでは年齢が高すぎるからである。技術が多少未熟でも“若い”音が欲しかったのである。
 
ゼロティスの主体は、実はColdFly5を起用した。彼女たちは17-23歳で若い。そして若い割りには結構上手い。これにコスモスは“青葉人脈”の演奏者を追加した。東京に住んでいる上野美津穂(Cla)以外は、北陸から呼び寄せている。
 
田中世梨奈(Fl)は、〒〒スイミングクラブのスタッフなので、青葉が言えば、2〜3ヶ月東京に来てもらうのは全く問題無い。
 
日高久美子(Sax)は無職だったので、そのまま連れてきた。
 
吉田邦生(Tp/Tb/Horn/Tuba)はH銀行の行員だが、東京への長期出張として処理された。これは青葉と銀行の課長さんとの電話で決まり、本人は能登→熊谷の飛行機の中で話を聞かされた。
 

しかしそういう訳で邦生は11月1日の朝唐突に
 
「ちょっと東京まで出張してきて」
 
と言われて、2-3日分の着替えしか持たずに、自分のバイクで能登空港まで行き、§§ミュージックのホンダジェットに乗った。そして3ヶ月くらいの仕事と聞いて仰天した。
 
制作作業をする五反野の研修所に付属する寮8階の部屋を与えられた邦生は、取り敢えず真珠に電話した。
 
「突然2〜3ヶ月の出張になってさ」
「え〜?3ヶ月も逢えないの?夜が寂しいよぉ」
「人が聞いたら誤解するようなこと言うな!」
 
ともかくも邦生は彼女に能登空港に駐めっぱなしにした自分のバイクの回収を頼み、またこちらに着替えを送ってくれるように頼んだ。真珠は邦生の部屋の鍵を持っているし、バイクのスペアキーの置き場所も知っている。また邦生は色々お金の掛かることも頼むかもと言って、彼女の口座に取り敢えず5万振り込んだ。そして時々でもいいから、自分の部屋の郵便物チェックを頼むと言った。
 
翌々日には、真珠からの荷物が「バレ・ドゥ・ラ・メール802号室吉田邦子様」宛で届いたが(わざと女性名にしている)、中身が美事に女物ばかりなので、呆れた。元々邦生が持っていた女物の下着や服に加えて、かなり買い足して送って来たようである。更に、邦生のお化粧品セットに“ウィスパーさらふわスリム”まで入っていたが、ナプキンとかどうしろというんじゃい?と思った。
 
下着は別に誰かに見せるものでもないので、女物でもいいことにしたが、真珠が送って来たアウターのボトムはスカートばかりだったので、邦生はユニクロの通販でレディスパンツを3本買った(前述のように邦生は女性体型なので、紳士用のズボンが入らない)。
 
邦生の不在中、アパートは女子の友人たちの集会所と化していた(普段からそうだった気もする)。一応郵便物はDMや請求書の類い以外は、毎週1回まとめて送った。請求書は真珠がコンビニで払っておいた。
 

邦生はこの五反野の“女子寮”に2ヶ月ほど滞在したが、ここが男子禁制の女子寮であることに、最後まで気付かなかった。なぜ気付かなかったのかは知るよしも無い!?
 
ちなみに邦生は緊急時のために、寮の事務をしている海浜ひまわりに保険証のコピーを取られたが、邦生の保険証が「性別女」になっているので、ひまわりも邦生の性別には何の疑問も感じなかった。青葉はコスモスに邦生の性別はちゃんと伝えているのだが、コスモスは彼を男の娘さんなのだろうと誤解したふしがある。実際の邦生にも会っているが、見た目ふつうに女性に見えるので
 
「さすが青葉さんの知り合いの男の娘は完璧だ」
とコスモスは思った。
 
(青葉人脈の男の娘:鐘崎絢水→葉月の付き人、谷口翼→招き猫バンド)
 
なお毎度性別の怪しい子が入居すると、密かに?隠しカメラや盗聴器などを仕掛けて、入居者の性別を確認しようとする“女子寮情報部”の面々は、邦生については何の疑惑も感じず、普通に女性と思ったので、隠しカメラを仕掛けたりすることも無かった!
 

青葉は10月29日から熊谷に来たのだが、11月6-7日には、宇都宮の日環アリーナ栃木屋内水泳場で“第4回日本社会人選手権水泳競技大会”が開かれたので、編曲作業を中断して、宇都宮まで行って来た。
 
800m自由形と、400m個人メドレーに出たが、どちらも優勝した。青葉は五輪では800mは金メダルを取ったものの、400m個人メドレー(iM)では金堂多江が金メダルで青葉は銅メダルだった。今回、金堂が五輪で出した日本記録には及ばなかったが、雪辱を果たした形である。800m, 400iMともに、2位はその金堂多江であった。(今回高校生の竹下リルは参加していない)
 
800mの3位は同じ津幡組の南野里美、400iMの3位は彼女のライバル永井蒔恵であった。南野は長身なので長距離のほうが有利である。今回金堂は200iMでは金メダルを取っている。また五輪代表を直前の怪我で泣く泣く辞退した広嘴さんが200iMで銅メダルを取得した。彼女はマジックテープ式の“転ばぬ先の糸”を足に巻いていた。糸を巻いたまま競技に出るのは違反なので、直前に外し、離水したらまた巻くのである。これがその後も彼女のスタイルとなり、結構真似する選手も出た。
 
〒〒スイミングクラブのスタッフである、田中世梨奈はこの大会まで選手たちのサポートをした後、東京に移動して『ワンザナドゥ』の制作に参加した。彼女は親友の鶴野明日香のマンションに居候する。
 

12月7-9日には、“作曲家アルバム”の最後の取材が行われた。この番組は、青葉とケイが、ラビスラズリとともに様々な作曲家のお宅を訪問する企画である。今回取材したのは下記である。
 
12月7日(火) 丸山アイ
12月8日(水) 望坂拓美
12月9日(木) 大宮万葉
 
アイの所には“ケイおよびラピスラズリ”と一緒に行ったのだが、インタビュー中に“ケイ”が奥の部屋から出て来て
「あ、ごめん。まだやってた?この場面カットしてね」
と言って、奥に引っ込むという一幕があった。
 
これは翌々日には「やはりケイは複数居た!」として報道されたが、ケイ本人は匙を投げて何もコメントしなかった。でも和泉やマリが「ケイはどう見ても5〜6人居る」とコメントしていた!
 
「やはりあの仕事量をひとりでできる訳ないよね」
「ケイは実際は10人くらい居るらしいよ」
などという噂も立つ。
 
丸山アイは
「アクアは7人:日月火水木金土、醍醐春海は6人:青青黄赤緑菫、ケイは10人ドレミファソラシド#♭、東郷誠一先生は20人、上島雷太先生は40人、居たはず」
などと言っていた。
 
「青を2回聞いた気がする」
「青は表と裏が居る」
「へー!」
 

「醍醐春海は3人だという説も聞くのですが」
などと、青葉は投げ槍気味に言った。
 
すると丸山アイはこんなことを東雲はるこに聞いた。
 
「ここに細菌を入れた瓶があって、この細菌は1分ごとに倍に増殖するとする。細菌が瓶いっぱいになるまで増殖するのに1時間=60分かかるとした時、細菌が瓶の半分になるには何分かかる?」
 
町田朱美が「あぁ!」という顔をしたので、彼女はこの答えを知っているようである。しかし東雲はるこは知らなかったようで、少し悩んでから
 
「60分でいっぱいになるのなら、半分は30分くらいかなという気もするけど、これ後の方になるほど増殖速度があがりそうだから、47分くらいですか?」
 
「ブッブー」
と言って、アイは不正解であることを示す。
 
「朱美ちゃんは知ってるみたいね」
「はい。59分です」
「正解」
 
「え〜〜〜!?」
と、はるこは驚いている。
 
「だって1分で倍になるんでしょ?59分で半分になったら、その1分後の60分で半分の倍になって、いっぱいになる」
と朱美は解説する。
 
「あっそうか!」
 
「倍々ゲームの恐ろしさって、結構みんな理解してないよね」
とアイは言う。
 
「ドラえもんのバイバインを掛けられた栗まんじゅうは、2時間50分で東京ドームの体積になり、6時間50分後には地球の体積、8時間35分後には太陽の体積、9時間15分後には、中性子星になる限界質量を超えて重力崩壊し、中性子星になる。この時間ではドラえもんのロケットはせいぜい火星軌道くらいまでしか飛べないから、この中性子星が持つ重力に太陽系は丸ごと飲み込まれて、太陽系は滅亡する」
 
「恐ろしい・・・・」
 
「あれどうするのが正解だったんですか?」
「燃やせばいいじゃん」
「あ、そうか」
 
「あけぼのテレビがアクアとか常滑真音のネットライブで、しばしば回線容量の95%とか98%とか行ってるけど、あれはとても危険な状態。本来、設備の使用率は50%以下に抑えておかないといけない。50%行ってたら、何かの拍子に100%行く可能性がある。これまで破綻しなかったのは単なる幸運にすぎないよ」
とアイは、ケイに言った。
 
「確かに危険だと思っていた。設備増強を考える」
とケイも答えた。
 
「飛行機には最高速度と巡航速度がある。通常最高速度で飛ぶことはない。それは機体に無理が来る。巡航速度に抑えておかないと、何かあった時にどうにもならなくなる。ケイちゃんは陸上やってたから“快調走”を知ってるよね」
 
「うん。あれもそうだね」
 
「快調走というのは8割の力で走る練習なんだけど、8割で走るって、結構きついんだよね。その状態でたくさん練習することで鍛えられる。全力走とかしたらしばらく動けなくなるから練習にならない。全力とはいざという時に出すものだよ」
 
「全くそう思う。常に全力を求められたら、全力出してるように見せて、実際には上手にサボる人だけが生き残る」
 
アクアが突然言われて白鳥の湖を踊った時とかが全力だろうなとケイは思った。
 
「アクアもしばしば2〜3人居ると言われているけど、彼女の活動量を見ていると、3人くらい居てもギリギリくらいの状態。その状態で運用していたら絶対破綻する。だからアクアは実際には7人くらい居ないとあの負荷には耐えられないはず。だからアクアは絶対7人いると思う」
 
「うーん・・・・・」
 
(アクアのことを“彼女”と呼ぶことには誰も突っ込まない)
 
「醍醐春海なんて、しばしば同じ時間に遠い場所で同時に活動している。割と堂々と。日本とアメリカで同じ時間に行われる2つの試合に同時に出たり、試合中に別の場所でライブに出演してたり、バスケットの大会と剣道の大会に同じ時刻に出ていたり」
 
確かに千里姉は大胆すぎるよなあと青葉も思う。ん?剣道??
 
「その3人がフル稼働状態では、持ちこたえられない。だから醍醐春海は実際には5〜6人居ないとあの多忙さには耐えられない。つまり醍醐春海は実際は最低6人、もしかしたら7-8人居る」
とアイは言った。
 
青葉は本当に千里姉はそのくらい居るかもしれない気がしてきた。
 
青葉はしばしば千里2と千里3がお互いに相手の振りをしているのに欺されている。あれは京平君にさえ見分けが付かないようだ。
 
それを考えると、千里4・千里5・千里6とかも存在して、それが千里2や千里3の振りをしていたら、誰もそのことに気付かないのではと思った。
 
だいたい千里1,2,3は極めて複雑に出入りしている。それで複数の千里が同時に姿を見せることはめったにない。それは5人か6人の千里の内の誰かが“千里たち”が遭遇しないように調整しているからかも知れないという気さえしてきた。
 
千里2は日本で活動している一方で、フランスリーグでも活動している、それは千里2が日本とフランスの間を数分で移動する手段を持っているからだと思っていたが、実は元々日本にいる千里2とフランスにいる千里2は別人なのかも知れない。遠くに居てもアクアたちみたいに肉体が連動していたら、フランスリーグで鍛えた身体を日本に居る千里2も使えるはずだ。
 
アクアたちの場合はその調整作業を和城理紗と竜崎由結が共同で行っている。しかしアクアは3人に分裂していたのが2人に戻ったと本人たちは言っているけど実は元々アクアも5〜6人いたのかも知れない。
 

12月8日に小山市で望坂拓美を取材した後、取材陣一行はこのシリーズ最後の取材者である大宮万葉、つまり青葉自身を取材するため、飛行機で熊谷から能登空港に移動した。
 
青葉の自宅は、高岡の伏木にあるが、これまで住んでいた家が区画整理に掛かり、10月13日に、伏木地区内に新たな土地を買って、そこに新しい家を建てることにした(10/19土地購入)。その打合せを播磨工務店とした後、青葉自身は10/29熊谷に来て、トリビュートアルバムに関する作業を始めたため、建築の進行については全く把握していなかった。
 
母から11月13日にその新居が出来たと聞き、青葉は仰天する。工事開始からわずか半月である。それで引越作業は、千里が桃香と一緒に行き、千里姉の友人と一緒に荷物を移動してくれた。
 
そして青葉自身はこの作曲家アルバムの取材で、初めて新居を見ることになったのである。
 

行ってみて、青葉は唖然とする、
 
「設計図と全然違うじゃーん!」
 
後で千里姉から説明されたが、要するに10月13日に打ち合わせて書いた概略設計図にはひじょうに多数の問題があることに、播磨工務店の南田社長が気づき、南田と千里で再度3日くらい掛けて詰めた所、設計が大きく変わることになってしまったらしい。
 
↓青葉の新居・完成図

 
でも事前に言って欲しい!!
 

中央に広いLDKや子供たちのためのプレイルームがある。子供部屋は、浦和に住んでいる4人(早月・由美・京平・緩菜)に加えて千葉の季里子の家に住む2人(来紗・伊鈴)まで泊められるようになっている。各子供部屋からはプレイルームに簡単にアクセスできる。
 
青葉のための創作部屋は、構想を練るためのピアノルームに、スタインウェイのコンサートグランドが鎮座しており、楽曲のまとめに使用する作業部屋には、DTMシステムを入れたパソコンと KORGのキーボードLP-380が用意されていた。
 
屋根には120枚もの太陽光パネルが載っており、この家で使用する電気はこの太陽光パネルで全てまかなえる。敷地内に降った雨を浄水して地下のプールに使用し、プールやお風呂の排水はトイレを流すのに使用する。また貯めた雨水は、浄水装置に通す前に屋根の上を流すようになっていて、これが夏は冷房、冬は暖房(+屋根の融雪)の効果があり、冷暖房の使用電力が小さくて済むようになっている。全体的にとてもエコな家である。
 

青葉はこの自宅の取材が終わると、ケイやラピスラズリと一緒に熊谷に戻った。そして、トリビュートアルバムのアレンジ作業を続けた。
 
この作業が終わったのは12月15日(水)である。青葉は熊谷からいったん浦和の千里家に移動した。また邦生たちがしていた、トリビュートアルバムの伴奏作業も12月17日には終わった、青葉も邦生たちも1月1日のローズ+リリーのライブに参加してもらうので、引き続き、東京に年内は滞在してもらうことになった。
 
年末年始はタレントがみんな忙しくなるので、実は伴奏の手が足りない。それで邦生たちは毎日のように放送局に行き、誰かの伴奏をしていた。トランペッターはギターやキーボードなどに比べてかなり人数が少ないので、随分重宝された。音源制作にも多数参加している。なんかアクアのアルバムの制作中より忙しいぞと邦生は思った。
 
「ありがとうございます。女性トランペッターは元々少ないのでとても助かります」
「あ、いえどうも」
 
そんな感謝されると「私男です」とは言えない気がした。
 

邦生が12月下旬、結構な頻度でテレビに出演しているのを、北陸に残る高校や大学の同級生、水泳部のメンバーたち・元メンバーたち、またH銀行の同僚たちは
 
「おお、クニちゃんが出てる」
と注目していた、
 
「でもすっかり女の子してるねー」
「やはりクニちゃん完全に女の子になったみたいね」
「うん。性転換手術は完了したんだろうね」
などと彼女たちは噂していた。
 
むろん邦生は性転換もしていなければ、女装もしていない!
 
女装していないのに女に見えてしまうのは、邦生の天然である。むろん彼は女性ホルモンなども飲んだりはしていない(本人談)のだが、真珠や明恵の目には、最近女らしさが増幅しているように見える。真珠は実際邦生がトランペットを吹いている映像を見てあまりの可愛らしさに胸がキュンとした(真珠は元々バイセクシュアルで結構可愛い女の子が好き)。
 
真珠などは「くにちゃん、生理来たのかなあ」などと思っているが、幸花や明恵は、たぶん邦生も広紀も女性ホルモンを飲んでいるのだろうと思っている。
 
 
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【春動】(1)