【春動】(2)

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ところで千里や桃香の子供たちは、11月13日(土)に青葉の新居が出来た時に、引越作業のため、千里・桃香・彪志が高岡に行った(Honda-Jet使用)ので、その時、一緒に4人とも連れていった(子供たちを浦和に残すと、残された貴司だけではとてもお世話できない)。
 
引越作業はその日の内に終わり、新居で引越祝いの焼肉パーティーをしたらしい。日曜日は子供たちを海王丸パークに連れて行き、夕方、千里・彪志・京平の3人だけがHonda-Jetで浦和に戻り、桃香および早月・由美・緩菜は高岡に残した。
 
これは、青葉が10月29日に熊谷に来て以来、高岡の家が朋子1人になっていたので、不慣れな新しい家で不安だろうということで、桃香を残すことにしたからである。子供たちはついでである(朋子は桃香はどうでもいいが孫たちと触れ合えて嬉しい)。
 
それに桃香は、料理や掃除洗濯・子供の世話ではあまり当てにならないが、工作ごとは得意なので様々な配線をしたり、新居に微妙な工作が必要な所が見付かった場合は頼りになる。(実際テレビが映らなかったのを解決した)
 
京平だけ浦和に連れ帰ったのは幼稚園があるからである。
 

12月25日(土)の朝、季里子は自分のアクセラに桃香(桃香A)来紗・伊鈴を乗せると、浦和に向かった。そしてここで千里(千里3)から京平を預かり、千里のセレナを借りて、そのセレナに、桃香A・来紗・伊鈴・京平の4人を乗せて高岡まで走った。
 
セレナを使うのは、アクセラではチャイルドシートの関係で運転手以外には3人しか乗れないからである。
 
同日夕方、千里1は桃香をヴィッツに乗せて高岡の新居から連れ出すと、11月13日に退去して空き家になっている旧宅に連れて行った。電気もガスも来ていないが、寝具だけは“2人分”眷属に持ち込ませていたし、上下水道は実は1月まで使えるようにしていた。それでこちらの桃香(桃香B)は千里と2人で年末年始を過ごすことになったのである。
 
電気が来てないので、夜明けとともに(千里が)起きて、日暮れとともに(千里が)寝る生活である。なおスマホの充電は千里が持って来てくれるモバイルバッテリーでしていたし、食事はカセットコンロで作っていた。食卓には電池式のランタンを置いた(充電池を入れている)。
 
「学生時代に電気もガスも停められてこういう生活してたこともあったなあ」
などと桃香は言っていた。
 

12月26日に季里子たちは高岡に到着し、6つの子供部屋が全て使われることになる。家が広いので、子供たちは家の中を走り回って、楽しそうに遊んでいたが、朋子はこれ自分1人ではとても手に余ると思った。桃香は役に立たないが、季里子が居てくれるおかげで何とかなる感じだった。
 
「だけど、こっちが男の子で、向こうが女の子なんだね。男女を分けたの?」
と来紗は言った。
 
この家の部屋の配置は各々の本命卦の問題でこのようになっている。
 
東側:桃香・京平・来紗・青葉
西側:千里・緩菜・由美・早月・伊鈴・朋子
 
来紗が言うのは、西側に入った、緩菜・由美・早月・伊鈴が女の子で、東側に入った京平と来紗が男の子だということである。
 
「え?来紗ちゃん、男の子なの?」
と驚いて、朋子が訊く。
 
(実は朋子は緩菜の性別のこともまだよく分かっていない)
 
来紗は答えた。
「私、長女だから長男を兼ねるんだって。マルカおばさんが言ってたよ」
 
朋子は意味が分からず困惑した!
 
マルカというのは、季里子の姉だが、元は兄(長男)で性転換して女性になり、男性と結婚している(一応男女婚)。次兄のルオは元女性の男性カズシと結婚している(実質男性同性婚だが、法的には男女として婚姻している)。
 
それで来紗の目には、季里子のきょうだいが、“長女”のマルカと、“長男”のルオに見えたのだが、ルオは「自分は次男」と言う。それで来紗は混乱して、「長男は誰?」と訊いた。するとマルカが
 
「私は長女だけど、最初に生まれた子が女の子だった場合は、長女ではあるけど、長男も同時に名乗れるんだよ。だから私は長男兼長女」
と言った。それで来紗も
 
「私は最初に生まれた長女だから長男も兼ねることにしよう」
と言って、長男を名乗っているらしい。
 
そういう説明を「お恥ずかしながら」といって季里子から聞いた朋子は、
 
『うちは家庭環境が複雑で教育に悪いかもと思ってたけど、季里子ちゃんちも、似たようなものかも』
と思ったのであった。
 

来紗・伊鈴の“父親”は桃香であるが、遺伝子上の父は古庄夏樹である。“彼女”は、男性時代に季里子と契約結婚し、セックスはしないまま(お互いの裸も見ていない)、人工授精で来紗・伊鈴を作った。もっとも夏樹はその時点で既に去勢済みだったので、去勢前に念のためと思って冷凍保存していた精液を季里子に提供しただけである。
 
2人の子供ができて義理を果たした夏樹は円満に季里子と離婚し、そのあと(誰かさんのせいで)性転換して法的にも女性になってしまった。そして、今度は自身の兄・春道に頼まれ、代理母となった。
 
これは春道と妻の柚希が、どちらも生殖能力に問題があって子供が作れないため、柚希の妹(元弟)麻夜の精子と、春道の妹(元弟)夏樹の卵子を受精させて夏樹が代理母として子供を産むという、物凄いプロジェクトだった。
 
夏樹はそれで妊娠し、2021年6月10日、自身の遺伝子を引き継ぐ子供としては3人目の子供となった女の子・美奈を出産した。赤ちゃんは、情が移らないよう出産後即別室に入れられたので、夏樹はその子の顔も見ていない。
 
夏樹は出産後、出産の傷が酷く痛む中、マタニティブルーに加えて、産んだ我が子と触れ合うこともできないことで、代理母をしたことを物凄く後悔した。
 
結局、夏樹は、来紗・伊鈴・美奈という遺伝子上の子供が3人いるにも関わらずその誰の親も名乗れないのである。そして落ち込んでいる時、府中優子とその娘・奏音に出会ったのであった(2021.10.17)。
 

12月30日の仕事納めが終わった後、夏樹は代理母の報酬としてもらったお金の一部で買った Mazda MX-30 (季里子の店で買った!)に乗ると、
 
東関東道−京葉道路−外環道−関越道−上信越道−北陸道
 
と走った。高岡砺波スマートICで降りてから、戸出駅近くにある、府中優子の家に向かう。優子の家に到着したのは、31日の朝10時頃である。呉羽PAで朝食を取りトイレにも寄っている。
 
「古庄さん、いらっしゃい」
と、優子の両親は夏樹を大歓迎した。
 
「これお土産です」
と言って、夏樹が“筑紫餅”を渡すので、お父さんは困惑した。
 
「博多からいらしたんでしたっけ?」
「いやあ、実は29日まで博多に出張していたんですよ。私、物凄く出張が多いから」
「海外にもよく行ってるみたい」
と優子が言う。
 
「ロシアとか中国とかインドとか行きました。その度にコロナ検査で2週間待機とか1週間待機とかで、現地で仕事始める前に疲れ切る感じでしたね。自由も利かないし」
 
「それは大変ですね!」
「国内出張は、まだ良い方ですよ」
と夏樹は言っていた。
 

今回の夏樹の訪問は、夏樹と優子が“結婚を前提とした交際をしている”ということで、夏樹が優子の家に挨拶に来たものである。
 
夏樹はもちろん女装している。彼女は戸籍の上でも女性になっている。しかし優子は元々レスビアンなので、優子が女性と結婚すると言っても、優子の両親は全く驚かない。奏音の父親も女装者だったし!!
 
(信次は普通のゲイなので本当は女装趣味は無かったのだが、ゲイというのが理解されにくいので、優子の両親に結婚を諦めさせるためわざわざここに来る時は女装していた。ゲイの信次とビアンの優子が交際できたのは、優子はビアンの男役で、信次はゲイの女役なので、奇跡的に?セックス可能だったことによる。だから2人は恋人というよりセフレに近かった)
 
それで夏樹は31日から1月6日まで府中家に滞在(出張の代休使用)、優子の両親と和気藹々と過ごし、優子とラブラブな夜を送り、奏音(年少さん)と仲良くして「お父ちゃん」と呼ばれていた。
 
信次のことを奏音は「パパ」と呼んでいたので、夏樹のことは「お父ちゃん」と呼ぼうと、優子が決めた!のである(桃香の家で子供たちが「パパ」「ママ」と「お父ちゃん」「お母ちゃん」を使い分けているのを参考にした)。
 
夏樹と優子の結婚生活であるが、夏樹が仕事上、千葉を離れられないし、優子は両親のそばを離れられない(というより優子の両親が奏音を手放したくない)ので優子が住民票だけ千葉に移し、夏樹とパートナーシップ宣言をした上で、奏音を夏樹の養女にしようという案が有力になっている(だから奏音は古庄奏音になる)。
 
それで夏樹と優子・奏音は実質別居生活になるものの、休みが取れた時は夏樹も高岡に来るし、優子・奏音もしばしば千葉に行くという形で夫婦関係(婦婦関係)を維持していく。
 
しかし優子と夏樹が結婚することにより、府中家の経済問題(2023年に父が定年退職した後の生活設計が立たない)が解決すると共に、3人の子供を作ったのに、その中の誰ひとりにも親を名乗れないでいた夏樹が、やっと自分の子供として触れ合える娘(奏音)を得られたのである。
 

12月29日、千里(千里2)が黒いインプレッサを運転して高岡の青葉家にやってきた。そして朋子・季里子に挨拶して、1泊する。
 
ここで千里は西側の自分の部屋に寝て、季里子は東側の桃香の部屋に桃香と一緒に寝ている(妻妾同居!)。
 
↓再掲

 
30日に千里はローズ+リリーのライブにゲスト出演することになっている早月をセレナに乗せて青葉家を出る。そして国道8号(津幡北バイパス)と石川県道59号(河北縦断道路)を走って宇ノ気(うのけ)まで行き、落合翠(落合茜=町田朱美の姉)を拾う。そしてふたりを乗せて、河北縦断道路→津幡バイパス→北陸自動車道→舞鶴若狭自動車道と小浜まで走って、小浜のミューズパークまで連れていった。
 
一方、東京に居た北陸組(吉田邦生・日高久美子・田中世梨奈)は12月30日にSCCのドライバーの車で熊谷の郷愁飛行場に移動し、他の出演者と一緒にA318に乗って小浜のミューズ飛行場に移動した。
 
青葉は12月の下旬は浦和の家の地下プールで泳ぐ傍ら、コスモスから頼まれる作曲や編曲の作業をしていた。12月30日には、RC大賞の授賞式に今年は羽鳥セシルの付き添いで、白河夜船社長と一緒に出た(桜蘭有好名義)。この授賞式に千里(千里3)は山森水絵の付き添いで出ている(鴨乃清見名義)。
 
31日は、千里はバスケットの練習?で夕方まで外出していたが、青葉は日中ずっと地下プールで泳いでいた。夕方、千里・青葉・彪志・貴司の4人で年越し蕎麦を食べる。そしてその夜は彪志と2人で甘い夜を過ごした。この時、浦和で年越し蕎麦を食べた千里は千里2(小浜から転送してきた)で、そのまま貴司と一緒に夜を過ごしている。
 
千里1も高岡の旧宅で、桃香(桃香B)と大晦日から元旦までをひとつの布団で過ごした。
 

金沢では、藤尾歩は12月31日、寒鰤を1匹持って青山広紀の実家を訪れた(鰤は重いので、広紀の兄たちが車から家の中に搬入してくれた)。早速広紀がお魚をさばいてお刺し身を作り、みんなで頂く。夕方には、一緒に年越し蕎麦を食べ、歩は広紀の父や兄と23時頃まて一緒に飲んでいた。
 
そして0時になる前に“歯磨きしてから”広紀の部屋に来て、一緒に熱い年越しをした。
 
夫になる予定の人が奧さんになる予定の人の実家を訪れて一緒に年越しした形である。双方の両親は、この組み合わせでも子供ができる気がするものの、歩と広紀のどちらが産むのか、いまいちよく分からない状態にある。
 

1月1日朝、千里(千里2?4?)に“アクアのアクア”で熊谷まで送ってもらい、ケイ・詩津紅・上野美津穂、三千花・七美花の姉妹と一緒にHonda-JetBlueで郷愁飛行場から小浜のミューズ飛行場に移動した。
 
青葉たちを見送った千里は転送で小浜に戻った(ということにしておこう、と誰かが呟いた気がした)。
 
一方この日の朝6時、勾陳(山村マネージャー)が操縦するヘリコプター(エキュレイユ2)が、八王子のアクア宅の庭!から飛び立った。乗っていたのは、アクアMF、今井葉月、千里3?6?であった。
 
この日はお昼過ぎから、国立代々木第2体育館で、Wリーグ・レッドインパルスの試合があったが、出場したのは、寝ている桃香を放置して東京に転送してきた千里1であった(ことにしているが、青葉を熊谷まで送っていった4だったりして)。
 
そしてそれと重なる時間で小浜のミューズシアターではローズ+リリーのニューイヤーライブが行われたが、これに青葉、北陸組の3人、早月、翠、そして千里2が出演している。アクアもゲスト出演したが、アクアは忙しいので、自分の出番が終わると、再び山村マネージャーの操縦するヘリコプターで、葉月・千里3(6?)とともに東京に戻った。アクアのヘリコプターに千里が同乗するのは、もちろんアクアの貞操を守るためである!!
 
(結局この日は、千里が最低3人稼働している)
 
千里1は試合が終わると、高岡に転送で移動して、お腹をすかせている桃香に御飯を食べさせた(ということにしておく)。
 

1月2日に、阿倍子(京平の法律上の実母で親権者)は桃香の携帯に掛けてきて、京平に代わってもらい、言った。
 
「京平、ランドセルを買って送ってあげるけど、色は何がいい?」
「そうだなあ。ピンクとかも可愛くていいかなあ」
「ピンクなの!?」
 
ピンクまずいのかなあ・・・・などと京平は思う。可愛いのに。
 
「じゃ赤にしようかな」
「うーん。あんたが赤がいいというのなら、じゃ赤を買って送ってあげるよ」
「うん。ありがとう」
 
なお来紗は「赤は嫌だ」と言って、青いランドセルを夏樹の父に買ってもらいそれをしょって通学している。
 

1月2日に、青山家では白山ひめ神社まで初詣に出掛けた。
 
数台の車に分乗し、渋滞に耐えて、何とか白山ひめ神社の広大な駐車場まで辿り着いたが、空いている場所を見付けるのが大変だった。またそこまで行く途中、雪道なので、いつものように、脇に突っ込んでスタックしている車を何台も見た。
 
この初詣に、歩は紋付き袴、広紀は振袖で出掛けた(でも足は雪道を歩けるようにスニーカー)。実はこの振袖は歩が成人式で着たものである(着付けは1ヶ月前に予約していた美容室で早朝!してもらった:早朝しか空いてなかった)。
 
昇殿して祈祷してもらったが、お正月なので昇殿する人も多く、ここでも結構待ち時間があった。
 
トイレに行く時、広紀はもちろん女子トイレを使うが、歩は堂々と男子トイレを使った。歩が袴姿のまま小便器を使うので
 
「よく袴で出来るね」
と広紀の兄が感心していた。
 
「慣れですよ」
と歩は言っていたが、つまり歩にはちんちんがあるのだろうな、と兄は思った。やはり赤ちゃん産むのは、広紀の方か??
 

小浜でのライブに出た千里2は1月3日の夕方、セレナに、下記のメンツを乗せると、金沢方面に向かった。
 
助手席:吉田邦生
2列目:日高久美子・田中世梨奈
3列目:高園早月・落合翠
 
実は北陸組を運ぶために、来る時もわざわざ大きなセレナを使ったのである。
 
千里2は、金沢で邦生を降ろし、宇ノ気で翠を降ろしてから、高岡に向かって、久美子・世梨奈を各々の自宅で降ろした上で、早月と一緒に青葉家に戻った。
 

1月3日の夜12時近く、高岡の青葉家に、小浜のライブに早月を連れて行っていた千里がセレナで戻って来た。早月はもうぐっすり寝ているので、千里が抱いて子供部屋の布団に寝せた。
 
そして千里は今度は黒いインプレッサに桃香を乗せて、青葉家を出たのである。
 
「じゃ千里さん、よろしく」
と季里子が見送る。
 
「OKOK。じゃ子供たちをよろしくー」
と言って、千里は車を出した。
 
桃香は塾の講師なので、この時期物凄く忙しく、長く休むことはできない。それで4日から塾に出る必要があった。それで千里の車で送ってもらうことにしたのである。
 
季里子としては、桃香と千里を2人っきりにはしたくないのだが、千里は
 
「決して桃香には手を付けない」
と約束した。それで季里子も千里に頼むことにした。
 
桃香に運転させる訳にはいかないし!!
 
それに季里子としては、桃香よりは千里の方を信用できる気分だったのである。
 
(桃香は色々な意味で信用が無い)
 

1月4日(火).
 
藤尾歩と青山広紀が(実は一緒に)出社すると、男の娘社員・恵利香のまわりに人が集まっている。
 
「どうしたの?」
「恵利香ちゃん、とうとう去勢手術したんだって」
「おお、それはおめでとう!」
「ちょっと悩んだりもしたけど、取って良かったと思った」
 
「まああんな邪魔な物付けておく意味は無いよね」
と昨年性転換してして女性社員になったルーシーが言っている。
 
「男の子は10歳の誕生日が来たら全員去勢したほうがいいよ」
 
ま、過激ね!
 
「でもこれでうちの事業部から睾丸が消滅したね」
 
「うん。もう医学的な男性は消滅した」
と歩も言っていた。
 

日高久美子は高岡T高校で、青葉たちより1つ下の学年だった。青葉たちと同じ合唱軽音部で合唱ではソプラノ、楽器ではテナーサックスの担当だった。むろんアルトサックスも吹ける。彼女は親にアルトサックスを買ってもらい、自宅ではそちらで練習していた。
 
青葉人脈で、ローズ+リリーのライブに、2016年以来サックス奏者として参加していたので、今回のアクアのトリビュートアルバムの制作でも声を掛けて、参加してもらった。
 
彼女は2021年春に地元の私立大学を卒業した後、入った会社がコロナの影響で倒産。取り敢えずつなぎのバイトと思ってやったコンビニのバイトがあまりにハードで体調を崩して退職。ちょうどその療養明けに、トリビュートアルバムに参加した。奨学金の返済ができない!と叫んでいたが、アルバム制作のギャラは高いので「助かったぁ」と言っていた:多分親が「助かった」と思っている。
 
彼女がこの後の仕事が無いなどと言っていたら、若葉が声を掛けた。
「うちのレストランでも良かったら、仕事する?」
「やりますやります」
ということで、久美子はムーランに勤めることになった。
 
それで今回のニューイヤーライブが終わって北陸に戻った後、あらためて、(1/4は午前中寝て夕方から美容室に行った上で) 1月5日、ムーラン高岡店に出向き、正式に採用される。そして同店で配膳スタッフとして働き始めた。ムーランは日によって和洋中+軽食で4種類の制服があるので面白がっていた。
 

ムーランはトレーラーレストランなので、トレーラー自体は、津幡・羽咋・高岡の3ヶ所を巡回し、調理スタッフはそのトレーラーと一緒に毎日違う場所で仕事をするものの、配膳スタッフは“現地採用”なので、高岡店で採用された場合は毎日高岡のトレーラー駐め場所に行って仕事をすればいい。しかしそこに駐めるトレーラーは毎日違うので、それに合わせて、和食用・洋食用・中華用・軽食用の制服を着るのである。(軽食はレンチン料理中心なので、調理スタッフはおらず配膳スタッフが温めをおこなう。コーヒーくらいはペーパーフィルターで入れる)
 
ムーランは若葉が「お金が余って困っているので少しでも減らしたい」と言ってやっている商売なので、飲食店にしては、わりと給料が良い。あまりに給料が良いので、風俗営業店と間違って応募してくるお姉様方もいるが、さすがに丁重にお断りしている。
 
もっともムーランは、コロナ流行によりテイクアウト・デリバリー部門が大きく伸び、若葉に莫大な利益をもたらしている。おかげで若葉の資産は既に1兆円を越えている(2017年3月にムーランを始めた時の資産は3000億円程度)。
 

「でもデリバリー担当の人たちって体格のいい女性が多いですね」
「スポーツやってる女子のほか、男の娘を積極的に採用してるからね」
「すごーい!」
「お客さんと1対1になった時、性被害に遭わないようにという選考基準なんだよ」
「なるほどー」
「男の娘さんにとっては、女子制服を着て仕事できて、同僚とあまり会話しなくても済んで声バレしにくいから天国らしいよ」
「確かに!」
「着替えも男の娘更衣室があるから、まだ身体を直してない人にも気楽だし」
 
(男の娘でも(物理的または化学的に)去勢済みでAカップ程度以上の生胸があり、下着姿が女子にしか見えない人には審査の上、女子更衣室に入れるIDカードを渡している。トイレについては良識に任せている)
 
「うむむ。私、背も高いし、男の娘更衣室に行けと言われたらどうしよう?」
「久美子ちゃんのおっぱいサイズあれば、ぎりぎり女に分類されるのでは」
「やはり、ぎりぎりくらい!?」
 

吉田邦生は、ライブの後、久美子たちと一緒に千里に金沢まで送ってもらった。1月3日夜22時頃、自宅アパートに近い、コンビニ前で降ろしてもらう。それでペットボトルのお茶とお弁当におやつを買い、自宅に戻る。
 
ところがアパートの所まで着た時、困惑した。
 
アパートが無いのである!
 
アパートがあったはずの場所は駐車場になっていて、多数の車が駐まっていた。
 
邦生は周囲を見回すが、周囲の風景からして、やはりこの場所だと思った。
 
彼は真珠に電話を掛けた。
 
「俺、今金沢まで戻ってきたんだけどさ」
「あ、帰ってきたの?お帰り〜。今夜はボクが優しく昇天させてあげるからうちに来ない?」
「いや、それより、アパートの所に来たら、アパートが無くなっている気がするんだけど、まこちゃん、何か知らない?」
 
「ああ、連絡するの忘れてた。12月にあのアパート、階段が崩壊してさ」
「え〜〜!?」
「誰も怪我無かったけど、消防のはしご車で脱出したんだよ」
「大変だったね!」
 
「それで大家さんも階段の補修しようかと思ったらしいけど、アパート自体がかなり傷んでてさ」
「確かに傷んでた」
「それでアパート廃業することにして、建物は崩したんだよ」
 

「えっと、うちの荷物とかは?」
「同じ不動産屋さんが管理してて、わりと近くにあるマンションに引っ越し。荷物の移動も、不動産屋さんが頼んだ業者さんに移動してもらった」
「そうだったのか!」
「実際、階段が無いから、業者さんに頼らないと、荷物の取り出しようが無かったね」
「業者さんでも大変そう」
「クレーンで上げ下ろししてた」
「それしか無いよね」
 
邦生は訊いた。
「その引越先の場所はどこ?」
「ちょっと説明が難しいなあ。ボク今からそちらに行くから連れてってあげるよ」
「あ、頼む」
「自宅から行くから1時間くらい待ってて」
「分かった」
 
それで邦生は、荷物は重たかったものの、さっき買ったペットボトルやお弁当をリュックの中に入れ(その分、衣類とかを旅行バッグに無理矢理押し込んだ)、さっきのコンビニに逆戻り。トイレを借りた後で、あらためてコーヒーとパンを買って、付属の飲食コーナーでコーヒーを飲みながら待った。
 

45分くらいで真珠が来たので、再度トイレに行ってから、真珠と一緒におやつとかビール(つまり今夜は帰らないつもりなのだろう)とかを買ってから、彼女のバイクの後ろに乗り、引越先のマンションに行った。
 
「しっかり掴まっててね」
「うん」
 
真珠に抱きつくようにして乗ったが、女体を抱きしめる形になるので、さすがにドキドキした。
 
ほんの5分ほどでマンションに到着する。
 
「なんか前の所より中心部に近い気がする」
「家賃は本来8万だけど、前の所と同じ4万円でいいって」
「それは助かる」
 
敷地内のバイク置き場に真珠のSuzuki GSX250Fを置く。隣に自分のNinja1000が置かれている。
 
「ここのバイク置き場は置き場所とか決まってるの?」
「特に無い。自由に置いてって」
「了解」
 

エントランスゲートみたいなものはなく自由に出入りできるようだ。ただ1階に郵便受けと宅配ボックスが並んでいた。そばに台車が数台置かれているので、重たいものはあれに乗せて自力で持って行かないといけないようである。
 
「郵便物も宅配も無いみたいね」
と真珠が覗き込んでいた。宅配ボックスは中央縦にガラス窓があり、中に何かあれば見える。
 
「郵便受けとかの鍵は?」
「部屋の鍵と同じ。カードキー」
「なるほど」
 
エレベータで7階まであがった。ここは12階建てである。
 
「ここの703号室ね」
「へー。並びの端か」
「わりと音を気にしなくていいと思うよ」
「確かに」
 
ここはコの字型に部屋が並んでおり、両翼に701-703, 710-712があって両翼を結ぶ長い部分に704-709が設定されている。
 
邦生に割り当てられている703は、窓が西向きの部屋である。
 

真珠がカードキーを1枚渡してくれた。楕円形の金属製カードキーである。開け方・閉め方を教えてくれたので、それで開けて中に入る。
 
「なんか広い気がする」
「3DKだからね」
「家族向けって感じだ」
「くにちゃんが、ぼくと結婚して子供3-4人できても何とかなるよ」
などと真珠は言っているが、邦生はスルーした。
 
「子供は4人できても、男の子と女の子で分類すれば男女2人ずつの2部屋で収まる」
 
「男の子3と女の子1だったら」
「1人性転換すれば問題無い」
「無茶言ってる」
 
「でも今夜は誰も来てないみたいね」
「ここの鍵は誰が持ってるの?」
 
「鍵は5個作ってもらった。クニちゃんの分を確保した上で、クニちゃんのお母さん、ぼく、(伊川)峰代さん、(南田)里菜さんが持ってる」
 
「やはり女子行員のたまり場になってるな」
「よく夕食とか食べて泊まっていってるみたい」
「やはり宿泊所か」
 

「取り敢えずごはん食べよう」
「そだね」
 
それで、コンビニのお弁当をチンして、邦生と真珠は一緒にお弁当を食べた。邦生はお茶を飲んでいるが、真珠はビールを飲んでいる。
 
「お前ビール飲んでるし、帰りは俺が家まで送って行こうか」
「今夜は泊めてよ」
「まあいいけどね」
「気持ち良くしてあげるから」
 
「そういうジョークはやめろってのに」
と邦生は言ったが、真珠はそれには答えず、笑顔で一番搾りを飲みながらお弁当を食べていた。
 
0時頃には一息つく。
 
「じゃお風呂入って寝ようよ」
「まあそれがいいね」
 
それで先に真珠がお風呂に入る。
 
彼女がお風呂から裸で出て来たらどうしようと思ったが、ちぉんとパジャマを着て出てきたのでホッとした。真珠はミッキーのシルエット模様のスカイブルーのパジャマを着ている。何か可愛いじゃんと思った。
 
邦生が入る。
 
「この着替え使って」
と真珠から渡される。
 
ウィングのピンクベージュのブラ&ショーツセット、大人っぽいゴールド色のミニスリップ(これもウィングだった)、それにくまのプーさんのシルエット模様のベージュのパジャマである。
 
「これもしかして、まこちぉんのとペア?」
「そうそう。ブラ&ショーツもだよ。ぼくのはブルー。ペアランジェリーしようよ」
「あはは」
 
まいっか。しばらく会えなかったし。
 

それでお風呂に入る。バスルームも広いなと思った。バスタブもおとな2人入れそうなサイズである。
 
邦生は、髪を洗い、身体を洗って、浴槽に浸かる(真珠が入ったあとの湯船だが、これまでもさんざん女子たちが入った後に入っていたので気にしない)。
 
しかし真珠は20分くらいであがった。その時間でお湯を溜められたとは思えないので事前にお湯を溜めていたのだろう。たぶんリビングにリモコンがあったのでは?あとで聞いておこう。
 
疲れてるので眠りそうになった。慌てて湯船を出る。熱めのシャワーを身体に掛け、顔も洗っていったん身体を起こす。
 
そしてお湯を流してバスルームを出た。
 
身体を拭いてから、真珠に渡された女物の下着を着ける。
 
なんか俺って、女の子の下着姿やヌードにも、女物の服にも不感症になってるよなあと思った。さっき真珠のバイクの後部座席に乗り、彼女に抱きつくようにした時は、さすがにドキドキしたけど(でも大きくはならなかった)。
 
「これ、こぼれる」
 
ショーツのサポート力が無いので、男性特有の器官がこぼれるのである。
 
「まあ寝る間だけならいいか」
 

できるだけこぼれないように穿き、ブラジャーとミニスリップを着け、パジャマを着た。髪をタオルでよくよく拭いてからバスルームを出る。真珠はリビングには居ない。
 
もう寝たのかな?
 
それで自分も寝ようと思い、部屋のひとつの襖を開けると2つ並べられた布団のひとつに真珠が寝ていた。
 
「あ、ごめん」
と言って、襖を閉め、別の部屋の襖を開けたのだが・・・
 
真珠に後ろから抱きつかれた。
 
真珠のおっぱいの圧力を感じる!(でも大きくはならない)
 
「一緒の部屋に寝ようよぉ」
「それはまずいよぉ」
「いつも一緒に寝てるじゃん」
 
そういえば、前のアパートで多数の女子が泊まっている時、女子たちを和室に寝せ、自分は台所で寝ていたが、真珠もよく台所で邦生の隣に布団を敷いて寝ていた。
 
「じゃ隣に寝ようか」
と言うと
「うん」
と嬉しそうに真珠は言った。
 

それで真珠が寝ている布団の隣の布団に潜り込む。
 
「おやすみ」
「おやすみ」
と言って、目を閉じる。
 
セックスしようとか言われたらどうしよう?と思ったが、真珠は純粋に一緒に睡眠を取りたいだけのようだ。
 
と思って、邦生は眠り掛けたのだが、ふと下半身に異常な感覚を感じて目を覚ます。
 
「ちょっと何してるの!?」
「クニちゃんは寝てていいよ。ぼくがしたいからしてるだけ」
 
「そういうのやめよぉよ〜。俺、まことは友だちでいたいからさ」
 
「うん。友だち。これはただのじゃれ合いだよ。でも2ヶ月逢えなくて寂しかったのは本当だからさ。お願い。今夜はさせて。朝にはお互い忘れるということでもいいからさ」
 
「・・・・じゃ忘れる」
 
「うん」
 
と真珠は嬉しそうに返事すると“作業”を続けた。
 
邦生はその夜、極上の黄金色の夢を見た。
 

翌朝、邦生が目を覚ますと、真珠は隣の布団ですやすやと寝ていた。何だか凄く幸せそうな顔をしていて、邦生はこの顔を涙でいっぱいにだけはしたくないなと思った。
 
邦生が起きたのは6時頃で、それから御飯を炊いて(炊飯器が新しいのになっていた。お米はライサーにたくさん入っていた)、下着を普通の?に交換。その上で、冷蔵庫の中を見繕って、目玉焼きを焼き、ウィンナーをチンして皿に乗せた(食器は10人分くらいになってた。確かにこの部屋の広さなら10人くらい泊まれそうだ)。
 
7時になる。
 
「まこ、そろそろ起きなよ」
 
「うん」
と言って、真珠は笑顔で起きてきた。ちゃんと服を着て寝ていたようだ。
 
「美味しいー」
と言って朝食を食べている。
 
「クニちゃん、料理上手いね」
「卵焼いて、ウィンナーはチンしただけだけど」
「でもセンスいいもん。クニちゃんがぼくの奧さんになってくれたら、朝御飯が毎日楽しみになりそう」
 
「俺が奧さんなのかよ!?」
 

真珠は今週の授業はリモートらしい。
 
「今日1日ここに居ていい?どうせ夕方には他の子たちも来ると思うけど」
「まあいいよ」
 
それで、邦生はライダースーツに身を包み、
 
「行ってきまーす」
と真珠に言って部屋を出ると、1階に降りてバイクを始動する。
 
昨夜確認しておくべきだったが、ちゃんとエンジンが掛かったのでホッとした。燃料もたくさん入っている。きっと時々起動しておいてくれたのだろう。
 
それでH銀行金沢支店まで行き、2ヶ月ぶりに使用する社員証で通用口を通ろうとしたのだが、ゲートを通れない!?
 
「おかしいなあ。磁気が弱くなってるのかな」
などと言って、もう一枚持っている女子の社員証を使うと、今度は通れた。
 
出勤の記録をしてから。いつものように!女子更衣室に行く。邦生のロッカーはずっとここに置かれているので、ここで着替えざるを得ない。ここで制服に着替える。邦生は何も考えずにロッカー内に置かれている制服に着替えた。クリーニングのビニールに入っていたので、誰か(南田さんかな?)がクリーニングに出してくれていたようだ。その袋を破って中に入っている“制服”を身に付けた。
 
それで渉外課に行く。
 
森田課長と、大野由海だけが来ている。少し早かったかなと思った。
 

「課長、長期出張より戻りました」
「ああ、お疲れさん。新たな精算があったらフォームから提出してね」
「大丈夫です。日々精算してもらっていましたから」
 
2ヶ月間の出張の経費をまとめて精算したら恐ろしいことになりそうだ。邦生は毎日その日の活動を日誌にまとめてVPN経由で支店のシステムとつなぎ、電子提出していた。もっとも日々の費用はほぼ§§ミュージックがもってくれているので、H銀行負担の費用はほとんど発生していない。
 
「取り敢えずお土産です」
と言って、“焼き鯖寿司”を出すと、由美が寄ってきて
 
「ありがとう!じゃお昼の時にみんなに配るね」
と言っていた。
 

「そうそう、吉田さん、新しい名刺ができたから」
と課長は言った。邦生はその名前の呼ばれ方に違和感を覚えた。課長はいつも彼を「吉田君」と呼んでいた。
 
それで課長から渡された名刺を見て、邦生は困惑した。
 
これまでの名刺は長方形の形状で、字が明朝体だったが、新しい名刺は角丸長方形になっていて、字は丸ゴシックである。思わず可愛い!と思った。
 
「済みません。なんかこの名刺、まるで女性の名刺みたいに見えるんですが」
 
「うん。君、東京にいる間に性転換手術を受けて女性になったんでしょ?うちの銀行は性別の移行に関して寛容だから、これまで通り普通に勤務してね」
 
「そんな手術受けてません!」
「え?そうなの!?」
と課長は戸惑っている。
 
由美が言う。
「課長、やはり私たちが言ってた通りですよ。くにおちゃん、性転換手術なんてとっくの昔に終わってたよね」
 
「えっと・・・」
「だったら何の手術受けたの?」
と課長が訊く。
 
「女子たちの間で流れていた説によると、以前にヴァギナを作る手術までは終わってたけど、今度は卵巣・子宮を移植したんだよね?これで妊娠出産もできるようになったんでしょ?」
 
「そんなのドナー居ないのでは?拒絶反応も起きるだろうし」
と邦生は呆れて言う。
 
「だから自分の細胞をiPS化して、それを卵巣と子宮に育てたんだよね?」
と由美は言った。
 
さて、この状況で、何から説明すればいいのだろう?と邦生は悩んだ。
 
そしてその日の休憩時間、トイレに行こうとして、自分の社員証では男子トイレに入れなくなっていることに気付き、ショックを受けたのであった!
 

「それで今日から女子行員になったの?」
と真珠は、笑いながら、その日帰宅した邦生に尋ねた。
 
「客先訪問用にスカートスーツ買いに行く?ぼくも付き合ってあげるよ」
と真珠は楽しそうな顔で言う。
 
「結局長谷課長に状況を説明して、無効化されていた男子社員証を再発行してもらった」
「良かったね」
「長谷課長は大笑いしてたけど」
 
長谷知香課長は、金沢支店の女子行員たちの事実上のリーダーである。キャリアが長いので、事務的な問題については、副支店長なども彼女を頼る。
 
「でも一度無効化された社員証は絶対復活できないらしいんだよ。だから社員番号も新しいのが振られた」
「そりゃセキュリティ上そうだろうね」
 
「お陰で男子トイレに入れるようになった」
 
「別に男子トイレに入る必要無いと思うけどなぁ。クニちゃんは可愛い女の子なんだから、トイレも男子トイレとか使わずにちゃんと女子トイレを使えばいいと思うよ」
 
「俺、男なんだけど」
「またご冗談を」
などと真珠は言っている。
 
こいつ俺の男性器を昨夜は“確認”した癖に、なんで俺のこと女の子みたいに扱うんだろう、と邦生は疑問を感じた。
 

「ところで今夜はぼくを抱いてくれない?」
と真珠は言った。
 
邦生は返事をしなかった。下手なことを言うと彼女を傷つけそうな気がした。
 
「明恵ちゃんとかはさぁ、女らしい性格だから、その内言い寄る男の人も出ると思うけどさ。ぼくって男っぽいし。元男だった女の子とか、わざわざ結婚する気になる人なんて無いと思う。でもクニちゃんはぼくのこと、女の子だと思ってくれるよね?」
 
「まこは可愛い女の子だと思うし、元男の子だったことなんて、何も気にしてないよ。明恵ちゃんとか、青葉とかについてもそうだけどさ」
と邦生は言う。
 
「やはりそう思ってくれるよね。だからクニちゃんくらいしか、ぼくを抱いてくれそうな子、思い付かないんだよね」
 
まだ若いんだし、無理して性的なことしなくてもいいのにと邦生は思った。
 
一方真珠は、“ユウキさん”はたくさんセックステクニックとか教えてくれるけど、絶対にぼくのバージンを奪ったりはしないからなあ、などと思っている。
 
「お前バージンじゃないの?普段はいかにも経験あるかのようなこと言ってるけど」
と邦生は指摘した。
 
「だから抱いてよ」
と言って、真珠は邦生に抱きついた。
 
邦生は彼女の背中を優しく撫でてあげた。
 

翌朝、邦生が出掛けるのに着替えようとすると、真珠はプラ&ショーツのセットを出してきた。
 
「くーにん、この下着着けて。これだと“こぼれにくい”と思う」
「俺、あまり女の下着を着ける趣味無いんだけど」
「またご冗談を。好きなくせに。一昨日も言ったけど、ぼくとペアランジェリーしようよ。ぼくもこのシリーズ着けるからさ」
 
なんか自分を見詰める視線が熱いのを感じる。可愛いじゃん。
 
「じゃパンツはこれ使う。ブラジャーは俺胸無いし、会社に行く時は着けない」
「でも女子社員になったんでしょ?ブラジャーは着けたほうがいいよ。女の子に胸が無いのは変に思われるし、最悪胸が無くても、ブラジャーも着けてないの着替えの時に見られたら性別を疑われるよ」
 
「お前、俺の話のどこ聞いてたんだよ!?」
 
真珠はきょとんとしていた!
 
(ほんとに全然話を聞いていなかったのでは?今日の夕方帰宅したら、邦生の身体に合うスカートスーツが用意されているという説に1票)
 

12月中旬、優子は、千里のスマホに電話をしてみた。
 
「ちょっと娘と両親を連れて東京まで往復してきたいんだけど、飛行機は空いてたりしないよね?」
 
「何人?」
 
「私と奏音、両親、それと私の彼氏で5人なんだけど、彼氏は車で走らせてもいい。親はいい年だから車での往復が辛いだろうと思って」
 
「いつ?」
「能登空港あるいは富山空港から熊谷までが1月7日、帰りが1月9日とか」
 
千里はどうもカレンダーを見ているようだ。
 
「1月7日(金)の午前中ならOK。帰りは1月11日(火)ではダメ?」
「OK」
「だったら能登空港2往復で予約入れるよ」
「ありがとう!お金はいくら払えばいい?こないだはついでだからってタダで乗せてもらったけど」
 
「そうだなあ。燃料費と着陸料くらい払ってもらえばいいよ。パイロット代はサービス」
 
「燃料費というと、20-30万かなあ」
 
そのくらいなら夏樹が払えるはずだと思う。実際航空会社の飛行機で往復すれば軽く20万飛ぶ。
 
「ホンダジェットが使えるから、熊谷と能登の往復500kmで2万円くらいかな」
「そんなに安いの!?」
「今回2往復になるから4万円で、それに着陸料2回分1万円払ってもらえばいい」
「分かった。じゃ5万円ね。でもなんか車のガソリン代並みだね」
「だってホンダだもん」
「凄いね!」
 
ホンダジェットの燃費は3.3km/kgなので、熊谷−能登1往復500kmで使う燃料は150kg=190Lほどである。灯油缶10本分くらいであり、価格はだいたい2万円程度と思われる。着陸料は1回4400円だが、“この”千里はアバウトな計算をした。
 
能登空港−熊谷市を車で走ると(道路がまっすぐ走ってないので)往復1000km, 12km/Lとして85Lくらいで、ハイオク180円/Lとして1.5万円。
 
ホンダジェットの凄さが本当によく分かる。
 

優子が千里とそういう話をしたのが12月中旬くらいだったのだが、それで1月7日は早朝高岡市南部を2台の車で出発して、能登空港まで走った。
 
ムラーノ:優子父が運転して、優子母が同乗
MX-30:優子が運転して、夏樹・奏音が同乗
 
夏樹ではなく優子が運転したのは、能越自動車道は、道幅が狭くてカーブ・アップダウンが多く、慣れてないドライバーには結構恐怖!を感じる道たからである(特に氷見市内の道幅の狭さは異常)。
 
なお能登空港より富山空港の方がずっと近いが、富山空港は結構な本数の飛行機が飛んでおり、自由が利かない。また無料駐車場が狭いが、能登空港は全て無料駐車場である!
 
能登空港に到着した所で言われていた電話に連絡すると、パイロットさん!が来て案内してくれて、一家はHonda-JetTigerに乗り込んだ。
 
「なんか虎の絵が可愛いですね」
「以前使ってた会社のシンボルだったらしいですね。だから夏頃までには再塗装する予定です」
「へー。なんかもったいない」
 
それで30分ほどのフライトで熊谷の郷愁飛行場に到着する。ここでレンタカーのセレナを手配していたので、それに乗って千葉に向かった。
 

その日は香取市内のホテルに泊まり、1月8日(土)、夏樹の実家に行った。
 
「どうもお世話になります」
「遠くからわざわざ済みません。こちらがそちらに挨拶に行かなければならなかったのに」
「って、この2人、どちらが嫁でどちらが婿なんですかね」
「よく分かりませんね」
 
などと双方ともに混乱しているようである。
 
お仏檀にお参りするが、夏樹がお遍路をして頂いてきた御朱印の掛け軸がかかっている。
「これ、お前が持って行くか」
と父に訊かれたが
「これはここに置いといて」
と夏樹は言い、引き続きここに置くことにした。
 
この御朱印は“父の息子”夏樹の遺品なのである。今は娘となった夏樹には不要のものである。
 

この日は実家に春道夫妻も来ていたが、美奈は連れてきていなかった。夏樹も美奈を見たら平常心を保てない気がしたので、ホッとした。でも写真は見せてくれた。夏樹は見て涙が出そうになったが、優子も両親とともに覗き込んで「可愛いね」と言っていた。
 
春道が手配して、高級仕出しが取られていたので、それを全員で頂く。あまり子供向きの料理ではないので、春道の妻・柚希がオムライスを作ってくれて、奏音は美味しそうに食べていた。
 
午後からは、2台の車(夏樹たちが借りて来たセレナと春道のプリウス)に分乗してまずは香取神宮に行って参拝した。要石(かなめいし)を見せて
 
「日本列島の真下に居る大鯰(おおなまず)をこの石で押さえつけてるんだよ」
などと春道が教えると、奏音は
 
「なまずさん、ごはんはちゃんと食べてる?」
と心配していた。
 
「日本の周囲は海ばかりだから、たくさんお魚食べてるのでは?」
と夏樹が言うと
 
「あ、そうだよね!」
と奏音も安心していたようである。
 

その後は、伊能忠敬旧宅を見てから水郷佐原の舟巡りを楽しんだ。これは夏樹の両親からのプレゼントである。両親はまた孫が増えて、嬉しそうであった。
 
「佐原と香取ってどういう関係なんでしたっけ?」
「元々は佐原町と香取町があったんですけどね。戦後間もない頃に合併して佐原市になったんですよ。でも平成の大合併で周辺の町を併合した時に今度は香取市になっちゃったんです」
「なんか微妙な勢力争いしているような」
 
「でも佐原市より香取神宮のほうが全国的には遙かに有名だった」
「確かに確かに」
 

優子たちはその日は香取市内のホテルに連泊した上で、1月9日(日)は優子・夏樹・奏音の3人で再度ディズニーランドに行き、優子の両親は、東京のデパートで買物を楽しんでいたようである。
 
この日は熊谷まで戻り、レンタカーを返却して郷愁リゾートのホテル昭和に泊まったが、優子の父がファミコンのマリオにハマっていた!(優子母も「飛び出すトースターとか懐かしい」と言っていた)
 
1月10日(月祝)は、午前中は白雪姫のお城を見た後、リゾート内のプール&スパに行ったが、奏音にとっては、プールもお風呂も大差無いものだったようである!
 
そして11日(火)午後、“夏樹以外”がホンダジェットで能登空港に移動。ここに駐めていた2台の車(ムラーノ・MX-30)に分乗して高岡の自宅に戻った。
 
(つまり夏樹のMX-30は富山に置き去り!)
 
 
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【春動】(2)