【春紅】(4)

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吉田邦生はその日、融資課の梨田課長さんから声を掛けられた。
 
「吉田君さ、君、津幡の火牛スポーツセンターを建てた金沢ドイルさんと親しいんだって?」
「中学高校の同級生ですよ」
 
「へー。それは凄い。ところでさ、あそこも今月中旬くらいにグランドゴルフ場(課長の発音通り)が竣工するみたいで、その後は第2期の開発が始まるじゃん」
 
「そうだったんですか!?」
「あ、聞いてなかった?」
「ええ。全然」
「あそこの隣接地に2haくらいの土地を造成して、屋根付きのサッカー場・野球場とかを建設するらしいよ」
 
「それはまた凄い」
 
「それの資金源がどうなってるか聞いてる?多分200-300億円は掛かると思うけど、あの土地を売ったR銀行が融資するのかな」
 
「いえ。その話自体を今聞いたので」
「一度訪問してみたいから、君、一緒に来てくれない?」
 
「行くのは構いませんが、融資とかの話にはならないと思いますよ」
「もうR銀行か、あるいは規模が大きいから都市銀行でも入った?」
 
「金沢ドイルのお姉さんは資産をたぶん2000億円くらい持ってますから、そういう開発をするなら、お姉さんが資金を出すと思うので、お金を借りる必要ないはずです」
 
「2000億!?そんな凄いお金持ちだったのか!」
 
「それに彼女、今忙しいんですよ」
「霊的な相談とかで?」
「川上は東京オリンピックの水泳日本代表候補なので、今は全く時間がないはずです。だから霊界探訪も東京オリンピックが終わるまでお休みです」
 
「日本代表!?それはまた凄いね!」
 

結局、この件は取り敢えず顔見せだけということで、融資課長と吉田が、〒〒テレビの石崎部長と面会し、ほんとに挨拶と雑談などだけして帰ってきた。
 
しかし石崎さんに会い“第2期開発”の中身が全く異なることも判明した!
 
「いや、なんか期待されているのか何なのか、勝手な噂が広まっているみたいなので、情報を整理する番組でも流した方がいいのかも知れないですけどね」
と石崎さんは言う。
 
助手として同席した皆山幸花も笑いながら言う
 
「くにちゃんはこの話聞いてなかったか。これまでこちらでキャッチした“第2期開発の噂”では、大規模な団地の建設とか、ドーム球場の建設、ドームサッカー場の建設、巨大ショッピングゾーン、遊園地あるいはテーマパーク、メガソーラー、カジノを含む統合型リゾート、ゴルフ場、動物園・植物園・水族館、金沢S大学の新キャンパス、更には空港を作るなんて話まで、出てますね」
 
「で、正解は?」
 
「ただの公園なんですけどね〜」
 
「え〜〜〜!?何も施設は作らないんですか?」
 
「楽しく静かに散策できるような公園を作ろうということのようですよ。運動施設とかを作ると密を発生させるので、コロナが落ち着くまではその手の施設は作らないということのようです。散策でお腹空いた人のために多少の飲食店は作りますが、基本テイクアウトです。ハンバーガーとか、チキンとか、ドーナツとか、アイスクリームとか、お団子とか、たこ焼きとか、手に持って歩きながら食べられるもの限定になります」
 
「なるほどー」
 
「少し面白いのはロボット・ウォーカーですね」
「はい?」
「密も困るけど、あまり人が少ないと女性のウォーカーが不安がるので一定以下の密度になったらロボットが歩き回るんですよ。監視も兼ねて」
 
「それ結構資金が掛かりませんか?」
と融資課長は言ったが
「人間を雇うより遙かに安いと言ってました」
「ああ、そうかも」
「労働基準法も気にしなくていいし」
「なるほどねー。社会保険も要らないし」
 
「あとは貫通する道路を作ることになりました。今の取付道路は1本だけで袋小路になっているので、反対側に突き抜けられる道路を作って、何かあった時の安全性を高めるということのようです」
 
「ああ、それはいいことだと思う。僕もそれちょっと不安に思ってた。あの道路で山火事とか起きると脱出できなくなる」
と吉田も言った。
 

2021年2月3日、アクアは能登半島に行き、“アクアのアクア”Ver.2 "Leo"のCM撮影に臨んだ。
 
実際にはリハーサル役の花ちゃんと葉月が、撮影隊とともに2月1日夕方にG450に乗って能登空港に移動しており(それで千里は2/1に美映を送っていくのに自分のG450が使えなかった)、アクアは2月2日夕方に緑川マネージャーと2人で Honda-JetRedで現地入りして七尾市内のホテルに泊まっている。
 
今回の“アクアのアクア”は "Leo" というサブタイトルの通り、昨年同様のアクア色(水色)塗装のアクアだが、獅子座のマーク がエンブレムになっている。ベンチシートなどの内装は基本的にver.1 と同等である。招き猫アクアのシールについては、実際問題として「貼るのが恥ずかしい」という意見が多かったことから無料オプションとなった(アクア本人も貼ってない!)。
 
昨年の(Ver.1)は、アクアのクロスオーバー・タイプをベースにしていたのだが、結果的に3ナンバーになっていた。実は“アクアのアクアは欲しいけど3ナンバーでは”という声がわりとあったのである。それで今回は、アクアのGグレードをベースにすることになった。一応、クロスオーバータイプ・ベースのVer.1 も併売する(注文生産対応)。
 
(アクアの5ナンバー車はL・S・Gの3グレードがある。Sが標準で、Lは廉価版、Gが上級グレードである。Lは装備も削られているがSとGは主として内装の違いだけ)
 
Aqua of Aqua ver.1 4.060m×1.715m×1.500m
Aqua of Aqua "Leo" 4.050m×1.695m×1.455m
 
小型商用車(5ナンバー)の条件は、4.70m×1.70m×2.0m 以下で、排気量が2000cc以下ということになっている。クロスオーバーは車長は4.7m以下だが、車幅が1.7メートルを1.5cmだけ越えていたのである。なお、アクアの排気量は1500ccである。
 
ちなみに“レオ”というサブタイトルはアクアが獅子座生れ(2001.08.20 14:21 Sun=Leo27.27 Moon=Vir13.03)であることに由来する。それでエンブレムも獅子座のマークなのである。
 

撮影は、能越自動車道の七尾−氷見間の道で、新型車が走っている所を、前・後および空中から撮影する。空中撮影は、大型の自動操縦ヘリを使用する。農薬の空中散布などに使用される機体である。山岳道路で気流も複雑なので、万一の事故に配慮して無人ヘリでの撮影になった。
 
この新型車をマリクレールのメンズ仕立てのスーツ(*11)を着たアクア自身が運転し、助手席には、雌ライオンの着ぐるみを着た葉月が乗っており、ライオンの彼女とドライブデートしている絵である。
 
(*11)メンズ仕立てだが、アクアはレディス体型なので、事実上女性しか着られない服に仕上がっている。最初仕上がってきた時ボトムがスカートだったので
「すみません、ズボンにしてください」
と言ったら
「あれ?ズボンがお好きですか?スカートの方が可愛いのに」
と怪訝な顔をされた!?
 
室内の様子も前座席左右に取り付けた小型カメラを後部部席に同乗した技術者が操作して撮影する。むろん停まっている状態でも撮影したが、これは走行の撮影後に、この道路上にある県境PAで撮影したものである。映像上で見える“境界線”は石川県と富山県の県境の印に引かれるているものだが、CM放送後、わざわざこれを見に来る“巡礼者”が結構発生した。
 
リハーサルでは、イオンで買ってきた!女性用のパンツスーツを着た花ちゃんが運転席に座り、葉月がやはり雌ライオンの格好で助手席に座っている。葉月はこの時点ではまだ四輪免許を持っておらず、運転席には座らせられなかった(後述)。もっとも、この能越道の七尾−氷見間はカーブもアップダウンも多く道幅も狭い(特にトンネル内が狭い)し、片側1車線の道なので、難易度が高い。免許を持っていたとしても、初心者マークの人にはかなり辛い道であったが、花ちゃんなら運転歴も長く安心であった。実際、花ちゃんは
 
「峠を攻めたい人には、いい道だね〜」
などと言って、楽しそうに運転していた。
 
アクアは実はこの道を走ってみて、ちょっと恐かったが、演技力で笑顔をキープして運転していた。
 
撮影終了後は、お昼に氷見(ひみ)名物の氷見うどん(稲庭うどん同様の“手延べうどん”:見た目はむしろそうめん)と、この時期美味しい
氷見の寒鰤(かんぶり)をお刺身で食べてから、お昼過ぎに G450, Honda-Jet で熊谷に帰還した。
 
(2/1-3にG450を使用したので、2/2に能登→熊谷の移動をした水泳の“津幡組”は Do228 での移動になった↓参照)
 

Time Line
 
2.1 16:30 学校から帰宅した葉月(F)が裁判所からの通知を見て仰天
17:00 HondaRedで千里・美映・日倉が伊丹へ
18:00 G450で葉月(M)たちと撮影スタッフが能登へ
 
2.2 (夜明6:19 日出6:54)
6:30-8:30 リハーサル
7:00 Do228を郷愁から能登へ回送
8:00 HondaRed千里が伊丹→郷愁
10:00 Do228で水泳津幡組が能登から郷愁へ
18:00 HondaRedでアクアが能登へ
※葉月Fは戸籍が変更されているのを確認して免許証の書き換えに行く
 
2.3 (夜明6:19 日出6:53)
6:30-7:30 本番
15:00 G450, HondaRedでアクアたちが能登から郷愁に戻る
 
2.03-07 ジャパンオープン(3日は公式練習日)
 
2.05
聖子は名前変更済みの免許証で自動車学校に入校する
2.07
18:00 千里が金堂をナンパ?する
2.08
14:00 Do228で津幡組を能登へ
2.09-11 作曲家アルバム
2,12
8:00 青葉がHondaRedで能登へ戻る
 

この能登でのCM撮影の直後、2月5日(金)、天月聖子(今井葉月)は都内の自動車学校に入校した。
 
普通免許を取るためである。
 
アクアの代役という性格上、運転できることは必要で、これまでは運転する部分は、姫路スピカや花咲ロンドなどに代役をしてもらっていた。今回の能登での撮影でも、花ちゃんに運転してもらっている。聖子もできたら卒業前に免許を取っておきたかったのだが、昨年夏頃からひじょうに多忙な状態が続いていたので、時間が取れなかったのである。
 
それで最初は卒業してから取ろうと思っていたのだが、千里さんから3月1日の卒業後には1人に戻ってしまうことを宣告されたので、まだ2人でいる内に取りに行こうと決めたのである。通学手段についてはバイクを使いたいと言ったら、花ちゃんが Ninja250(黒)を貸してくれたので、それを使うことにした。
 
「花ちゃんは困りません?」
「私は250SLの方を使うから大丈夫」
と彼女は言っていた。
 
「そんなに色々あったんでしたっけ?」
 

「研修生になってから免許があった方がいいみたいと思って、東京に出て来てすぐ原付免許を取って(2014.8) スーパーカブを買った。それを1年乗ってお許しが出たから17歳でバイクの免許取って(2015.8取得)、 Kawasaki ZZR400 を買ったのよ。その後、メグミちゃん(仲原恵海:現在“透明姉妹”)が退所する時、彼女の Ninja 250SL を実家のマンションには置けないというから私が買い取った(2017.3). 大型免許は18歳になってすぐ取りたかったけど、社長から最低2年は普通二輪車を経験してからにしなさいと言われたから、19歳になってから取って(2017.8), Ninja 1000 を買った。それで Kawasaki が3台になってたんだけど、250cc って、使い手がいいし乗りやすいから、女子寮に駐めとくと、誰かしら勝手に使ってるんだよね(犯人は海浜ひまわり・姫路スピカ・松梨詩恩あたり)。それで、去年もう1台、新型の Ninja 250 も買った」
 
つまり聖子に貸してくれたのはその新車の Ninja250 ということのようである。
 
「それでカワサキが4台ですか!」
と聖子は感心する。
 
「250ccは車検が要らないから(*12)維持費が安くて済むんだよね。それでいて高速も走れるし。だからもう1台買ってもいいかと思って買った。125ccは高速NGだから使い手が悪い。でも250cccは、乗りやすいから勝手に使われる」
 
(*12)二輪車の区分↓再掲

 

「だったら、その人たちが困りません?」
「きっと、250SLの方を使うだろうし、それが出てたら、きっと祭梨(花咲ロンド)ちゃんのスクーターが勝手に使われる気がする」
 
「ああ」
 
(ロンドのスクーターは真っ赤な Vino である。海浜ひまわりのバイクも空いているが、誰も近寄らないし、ひまわりは“そのバイクには”他の子を同乗させることをコスモスから禁止されている:だからひまわりは花ちゃんのバイクを使う!)
 
「カブも空いてるけど、50ccなら祭梨ちゃんのヴィーノを使いたがる。私の400ccもたいてい空いてるけど、みんな400ccは恐いと言うのよね〜。250ccと大差無いのに」
 
花ちゃんには大差無いだろうなと聖子は思った。
 
ともかくもこの半月間、聖子は Ninja250 (Carbon Gray) を借りることにしたのである。
 
借りてみて聖子は、あ、これ『少年探偵団』で北里ナナちゃんが乗ってるバイクと同型だと思った。聖子もドラマの撮影で結構乗っている。なお、撮影用のナナちゃんのバイクは誰の趣味なのか、ピンクの塗装に花柄模様入りである!
 
(花ちゃんのバイクはカブも含めて5台とも黒なので、女子寮に駐めておくと、すぐ誰のかが分かる。彼女は四輪もエクストレイルの黒で車の趣味がとっても男性的である:兄3人の下の長女という生い立ちから、いつも兄たちのまねをしていたせいだと言ってた。彼女は物心ついた頃から立っておしっこしていたらしい。今でも床置き型の小便器ならFUD無しでおしっこできると言っていたが、服を濡らさずにできるのか!?)
 

聖子が入校当日、“裏書き”で名前が天月聖子に変更されている(自動二輪の)運転免許証を提示して入校手続きをすると
 
「ああ、最近改名なさったんですね」
と言われる。
 
「はい。名前が格好良すぎて、男性と誤認されることがあったので」
などと言っておく。
 
聖子は見た目は女の子にしか見えないので、トラブルなどは一切なく、入校することができた。
 

2月頭に、裁判所から性別訂正と名前変更を認める手紙が来て、仰天した聖子だが、母に電話してみると
 
「あれ〜。私があんたに渡したのは名前変更するだけの申請書だったのに、どうして性別も訂正されたのかしら?」
と言う。
 
「でも好都合じゃん。来年の4月を待たずに女の子になれて」
などと母は言っていた。
 

要するに、あの時、聖子は母から渡された改名申請の書類と、《こうちゃん》が勝手に作ってバッグのサイドポケットに差していた、性別訂正・改名申請の書類の両方を持っていた。そして橘ハイツの玄関で、後者を落としてしまった。
 
それを弘原如月が拾い、ツキが投函した。裁判所からは(こうちゃんが書いていた連絡先に)呼び出しが来た。
 
《こうちゃん》は、西湖が性別変更には消極的である気がしていたので、裁判所からの呼び出し状を見て驚いたものの、女の子になる気になったのなら、“気が変わらない内に”協力してやろうと、多忙な西湖たちに代わって、身代わりを面談に行かせた。裁判官は女の子にしか見えない面談者を見て、性別訂正を認めてくれた(聖子本人が行っても結果は同じだったろう)。
 
つまり、今回の事件は、誰も悪くなかった!
 
(親切な人は多すぎたが)
 
まさに偶然の悪戯だったのである。
 

なぜそういうことになってしまったのかは分からないものの、聖子ももう戸籍上の性別は女ということで、いいことにした。
 
それで健康保険証、運転免許、パスポート、マイナンバーカードの名前変更手続きもすぐにしておいたのである。パスポートは新規発行になったが、とにかく2月中にこれらの手続きは終わっていた。
 
特に運転免許証の書き換えは真っ先にしたので、2/5に自動車学校に入る時には既に訂正されている免許証を使用することができた。
 
聖子は、基本的に午前中Fが学校に行き、午後からMが仕事に行くというパターンの生活をしていたので、学校を終えた後のFが自動車学校に通うかたわら、保険証やパスポートなどの変更手続きに行った。免許証の変更については、Mが能登にCM撮影に行っている間に、Fが都内でしておいた(Fはこの間ちゃんと学校にも行っている:実は出席日数がもうギリギリで休めなかった)。
 
「だけど、健康保険証、パスポート、マイナンバーカード、全て性別は女と記載されていたよ。だから変更したのは名前だけ。鮫洲(免許試験場)では、念のため、運転免許証の内部に記録されている性別を確認してもらったんだけど、『ちゃんと女性になってますよ』と言われたし。要するに、ずっと前から私たち、戸籍以外は全部女になってたみたいね」
 
などと手続きをしてきたFはMに言った。
 
西湖は、確かにパスポートが女になってるのは何でだろうとは思っていたけど、要するにボクはもう既に女の子になっていたのかと、少しショックを覚えた。
 
そして新しいマイナンバーカードを提示して改名したことを学校にも言ったら
「うん。お母さんから聞いてる。卒業証書の名前はちゃんと“聖子”になるから安心してね」
と言われたので、どうもその件は母が学校に連絡してくれていたようであった。それが2月22日のことだった。
 

2021年2月4-7日の水泳ジャパンオープンでは、長距離女子は“津幡組”がメダルを独占し、仙台在住の金堂多江は、1個もメダルを取ることができなかった。
 
何度か津幡にも長期滞在している多江は
「やはりあそこは環境いいもんなあ。24時間泳げるんだもん。私も高校卒業したら津幡組に入れてもらおうかなあ」
などと考える。
 
彼女は現在高校3年生で来月高校を卒業する。多江は現在全国に多数のプールを所持しているSTスイミングクラブの仙台教場に所属している。オリンピック候補生は優遇はしてもらえるものの、多数の会員で共有するプールなので、どうしても練習時間に制約がある。
 
友人でライバルの竹下リル(金堂より1つ下)からは「高校出たら、うちに来ない?」とも誘われている。STスイミングクラブ側に内々に打診してみたら、STスイミングクラブに所属したまま、津幡で練習をするのは構わないと言われた。
 
それで高校を出た後は、津幡に移動することも考えているのだが、問題は4月頭の日本選手権である。オリンピック代表を決めるこの大会で2位以内に入らないと、そもそもオリンビックに出ることができない(3位でも選ばれる可能性はあるが、あくまで例外扱いである (*13))
 
(*13) FINAの規定では「各国でOSTを越えている選手2名まで」が五輪に出場できるが
「上位2名がいづれもOQTを越えている場合、3位の選手がOSTを越えていればその選手まで出場できる」となっている。自分はOSTは当然越えられる。そして2位以内に入ればOKだが、万一3位になった場合は、上の2人がOQTを越えているかという“人まかせ”になる。もっとも4位では全く話にならない!
 

高校の卒業式は3/1だから、津幡への移動はそれ以降になるが、本当はそれ以前からひたすら練習していたい。日本選手権まで2ヶ月。南野さんもリルもきっとその2ヶ月間、毎日12時間以上練習するだろうに自分は少なくとも今月中は、毎日限られた時間しか練習できない。
 
「もういっそ高校退学しちゃおうか」
とも考えたものの、親が絶対許してくれないだろう。
 

そんなことを考えながら、新木場駅に向かって歩いていたら、ポンと肩を叩かれたのである。
 
「こんにちは、金堂さん」
「こんにちは。川上さんのお姉さんでしたっけ」
 
津幡に行っていた時に見た気がする。
 
「そそ。ね、金堂さん、水泳練習場とか要らない?」
「は?」
 
「仙台だったよね?家まで送っていくよ。道々話そう」
と言われ、少しアクアティクス・センターの方に戻り、駐車場に駐めてあった、黒いインプレッサに乗った。
 
「実は、私こないだ引っ越してね」
「はい」
「それで新しい家の地下に妹の練習用のプールを作ったのよ」
「自宅にプールですか!凄い!」
「いや、妹が地元ではたくさん練習できるけど、大会とかで東京に出て来た時に充分な練習ができないとか言ってたからさ」
「確かにそれは私も思うんですよー」
 
「それで今まで使ってた室内水泳練習場が要らなくなってさ、誰か使わないかなあと思ってたんだけど、金堂さんなら使うかもと思って」
 
「どのくらいの大きさなんですか?」
「長さ6m・深さ2m・幅2m」
「へー」
と言いながら、さすがに6mじゃすぐ向こうにぶつかっちゃうと思う。
 
「でもこの水槽の水が流れるんだよ。速度は調整可能」
「へー!」
「だから長さは6mしか無いのに、ほぼ永遠に泳いでいられる。要するにルームランナーの水泳版かもね」
 
「面白いかも」
 
「誰も要らなかったら捨てるしかないし、もし興味あったら、もらってくれないかなあ。24時間水泳の練習ができるよ」
 
「速度調整はどうやるんですか?」
「手動でも調整できるけど、オートにしておけば、泳いでる人の速度に合わせる(青葉はこの機能使ってなかったみたいだけど←千里が教えてないからだと思う)」
 
「じゃ気にせず単純に泳いでいればいいんですね」
「そそ。速度とか、泳いだ距離・時間とかは側面の大きな液晶表示板に表示される」
 
「欲しいかも」
「じゃ持って行かせるよ。金堂さんの住所教えて」
 
「あ、でも3DKのマンションには入らないかな」
「じゃ金堂さんの学校に置かせてもらうとかは?」
「それいいかも知れない」
 

それで近くの友部SAに車を駐め、金堂さんが高校の水泳部の顧問の先生に電話する。途中から千里に代わり、直接顧問の先生と話した結果、学校に置くと結局夜間に使用できないので、顧問の先生の御自宅の離れに置こうという話がまとまった。
 
「水道代・電気代が掛かりますけど」
「そのくらいは構わないよ」
 
それで年末に青葉が浦和に来た時、青葉が使用した“生け簀”は金堂さんの学校の水泳部顧問の自宅に移設されることになったのである。(結果的には金堂さんが津幡に移動した後も、後輩が使えることになる)
 
なおこの“生け簀”は元々は《せいちゃん》の趣味の工作である。制作費は100万も掛かっていない。
 

話がまとまり、東北自動車道を北上する車の中で多江は訊いた。
 
「でもこれで私がたくさん練習したら、川上さんを追い抜くかも知れませんよ。いいんですか?」
 
「私自身もバスケット選手で、今オリンピックに向けて代表サバイバル戦をしている最中だけどさ」
と千里は言う。
 
「あ、そうか。バスケットの日本代表候補だったんでしたね」
 
「なかなか厳しいよ。最初は30人くらいから合宿の度に招集される人数が減っていく」
「きびしー」
 
「でも私はライバルが強くなるのは、根本的に嬉しい」
 
多江は千里のことばを深く胸に受け止めた。
 

夜23時前に仙台の自宅に到着する。金堂多江は千里にお礼を言って降りた。
 
車内でもほとんど寝ていたが、大会の疲れもあって翌日8時近くまで寝ていた。多江は「遅刻するよ」と母に起こされ、朝御飯におにぎりを持って学校に出かけて行く(朝礼の後で食べる)。そして昼休みに水泳部の顧問に呼ばれた。
 
「さっき自宅からメールがあって、水泳練習場が“届いたらしい”」
「もうですか!」
と驚く。
 
それでその日、夕方まで学校のプールで練習してから、顧問の先生と一緒に御自宅に行くのだが、離れ1階のガレージに置かれた“練習場”を見て
 
「結構大きなものですね」
と驚いた。
 
「水が入ってる」
「水はトラックで持って来て入れてた。補充は済みませんけど水道からよろしくと言われた」
と先生の奥さん。
「もっとも冬の間はその辺りに積もってる雪を給水タンクに放り込んでもいいという話」
「いや水道にしよう。不純物が混じるとよくない」
 
「このケーブルは?」
「太陽光パネルにつながってるのよ。屋根に設置してた。それである程度の電気はまかなえるけど、特に冬場はそれだけでは足りないから家庭電源を消費するという話だった」
「ああ。夏は結構節約できるかもね」
 
(実際には夏はむしろ余るくらいになり、奥さんは余った電気で御飯を炊いたりしてた!)
 

先生がマニュアルを見ていたが
「消毒薬はここに入れておけば、投入は自動で行われるみたいね」
と言う。
「学校から次亜塩素酸を持ってくればいいな(強い部ならではの適当さ)」
 
「排水はどうするんでしょう?」
「その辺の道路に流しちゃえばいいよ(田舎ならではの適当さ)」
「凍りません?」
「雪が少し融けるかもね」
 
「温度設定は5度から40度まで設定できるんですね」
「40度ならもうお風呂だな」
と言って、先生は26度に設定する。
 
「5度だと寒中水泳の練習ができるかな」
 

それで早速泳いでみたが、なかなか快適だった。
 
「私、日本選手権近くまで先生の御自宅に泊まり込んで泳いでていいですか?」
「親御さんの許可があれば」
「だったら一晩中泳いでよう」
「いつ寝るのよ?」
と奥さんが訊く。
「授業中に寝てます」
 
卒業したら津幡に行こうかとも思っていたのだが、こういう練習施設があるならかえってここの方が集中して練習できる気がした。ターンやタッチは学校のプールで練習できるし。
 
「でも私、なんか生け簀(いけす)で飼われているお魚みたい」
 
「ああ、太りすぎたら活け作りにして食べてしまおう」
 
「私、体重全然増えないんですよねー。軽いと流されるからあと2-3kgは増やした方がいいと先生からも言われてるけど」
「練習量増やすなら、食事も増やした方がいいな」
「頑張ります」
 
「お母ちゃん、毎日この子に焼き肉を食べさせよう」
「はいはい。毎日1kgくらい買ってこようかしら」
「牛1頭まるごと買ってくる?」
「あなたがさばいてくれるのなら」
 

聖子の自動車学校は順調に進んでいた。
 
聖子は既に二輪免許を持っているので、必要な教習時間数は
 
第1段階 学科0+実車13, 第2段階 学科2+実車19
 
である。学科はほとんど免除されるし、実車も免許無しの場合より1日少なくて済む。
 
西湖は2年前にバイクの免許を取って以来、結構運転していたこともあり、四輪の運転もスムーズにできた。
 
第1段階 2/5-11
仮免試験 2/12(金)
第2段階 2/13-18
卒業試験 2/19(金)
 
と、ひとつも落とさずに進んで、2月19日には自動車学校を卒業した。
 
なお、仮免試験と卒業試験は午前中で、学校の授業とぶつかるのでMが受験した。ふたりは全ての記憶が連動するので、どちらも同じ経験をしている:でもMは自分で一度も運転せずに実車試験を受けるのは不安だったので、和紗に協力してもらって夜中に少し実車で運転を練習した。仮免試験前日には、深夜のあけぼのテレビ駐車場で練習している。
 
「それともMが学校に行く?」
「ボクが女子高に通うのは無理」
「まあ1年の時はよく通ってたね」
「バレなかったのが奇跡だよ」
 
それで2月22日(月)に鮫洲の運転免許試験場で学科試験(これもMが受けた)に合格してブルーの帯の新しい運転免許証を手にした。
 

「おお、免許取ったか。おめでとう」
と川崎ゆりこ副社長が言った。
 
「はい、何とか取りました」
「まだ多忙な状態が続いてるし、卒業してから取るかと思ったのに」
「卒業すると忙しさが増す気がしたので」
と葉月。
 
「君はいい勘をしている」
「あはは」
 
私、1人になっちゃうのに、体力持つかなあと少し不安になる。
 
「免許を取ったのなら、君に車をプレゼントしよう」
「え〜〜!?いただけるんですか?」
 
「君のためにスペシャルカーを用意した」
と言って駐車場に連れて行く。
「これを使って」
と言ってキーを渡してくれる。
 
「わぁ、アクアのアクアだ!」
「新バージョンのレオ3号車だよ。君はアクア信者だから嬉しいかと思って」
「嬉しいです」
 
ということで、以降葉月の移動は、これまでのアウディから“アクアのアクア”に変更になった。
 
ゆりこの本音としては、アクアと行動を共にすることの多い葉月の車をアクアの専用車と同じ車種にしておけば“目くらまし”になるというところである。早い話が、影武者である!葉月に ver.2 の3号車を渡したが、アクアが乗っているのは ver.1 の3号車である。2つの車はナンバープレートの4桁の数字も同じにしてあるし、エンブレムも同じ物に交換した。エアロパーツも同じ仕様にしている(結果的に葉月の車も3ナンバーになったが、ゆりこには好都合である)。
 

聖子は1月以来、男の身体で生きていくのか、女の身体で生きていくのか、ずっと悩んでいたが、2月28日の朝、千里に電話した。
 
「どちらにするか決めた?」
「それなんですけど、あと一週間くらい待ってもらえませんか?震災イベントが終わってから、ゆっくり考えたいんです」
 
「いいよ。でも明日には、1人になっちゃうよ」
「はい。それは構いません」
 

2月28日の夕方からは、あけぼのテレビで“曲水の宴”のイベントが放送され、これには§§ミュージックと♪♪ハウスの多くのタレントが参加した。
 
平安衣装を身につけた出演者が、その場で出されたお題に添った歌を詠み、歌ができたら、コーラを飲んでいいという趣旨である。本来の曲水の宴はお酒を飲むが、未成年が多いし女子が圧倒的なのでコーラになった。
 
ここで平安衣装だが、西宮ネオン、白鳥リズム・花咲ロンド・恋珠ルビー・米本愛心・坂出モナ・佐藤ゆかの合計7人だけが狩衣姿で、他の24名は全員五衣唐衣裳(いつつぎぬ・からごろも・も。いわゆる“じゅうにひとえ”)を着た。
 
つまり・・・アクアも葉月も五衣唐衣裳であった!
 
実際にこれを着たのはアクアMと葉月Fである。
 
アクアMとアクアFは最近、ふたりの見た目が微妙に違うようになってきており、その差を縮めるため、原則としてMが女装し、Fが男装している。葉月の方はFが出たいと言ったので、Fにやらせた。葉月の場合はMとFはお股の形とバスト以外はほぼ同じである。
 
ここに出ているメンツの多くが『とりかへばや物語』でも平安衣装を着けているが、約3ヶ月ぶりの平安衣装に、
「毎日着るのでなかったら、平安衣装もいいねー」
という声が多数あがっていた。
 

『曲水の宴』の放送は20:00に終わったが、21:00からアクアは『少年探偵団』の撮影を少ししておきたいという話があったので、放送が終わってから六本木のΛΛテレビに向かった。実はリハーサルは20:30頃から始まっていたのだが、これには葉月が先行して出席していた。
 
つまり葉月は20:00まであけぼのテレビで五衣唐衣裳の衣装を着けていたのに、20:30にはΛΛテレビに出なければならない。五衣唐衣裳は脱ぐのにも10分以上かかる。あけぼのテレビからΛΛテレビへは車で15分かかる。
 
計算上は移動可能だが、かなり困難である。
 
ということで『曲水の宴』には葉月Fが出たのだが、ΛΛテレビの方には葉月Mが行った(葉月が2人いることを前提にスケジュールが組まれているとしか思えない)。
 
和紗がMを“アクアのアクア”でΛΛテレビに連れて行ったので、Fは和城理紗にシビック(和紗の私有車)で世田谷区の橘ハイツに送ってもらった。
 
それとなく自分の荷物を整理した。また、疲れて帰ってくるMのために御飯を作った。しかし最近ずっと晩御飯は自分が作っていたなと思う。
 
「私、まるでMの奥さんみたい」
 
などと思ったりする。でも明日からは和紗が御飯を作ってくれるのだろう。ちょっと嫉妬する。
 
「和紗が第一夫人で私が第二夫人でもいいけどなー」
 
お風呂にも入って身体をきれいにした。
 
Mは12時すぎに帰ってきた。高校生をこんな時間まで使うのは明確な違法だけど、葉月の場合は(セシルなどもだが)無視されている。
 
「お疲れ様」
「疲れた−」
「ごはんにする?お風呂にする?それとも私とセックスする?」
「ごはん食べる。このままお風呂に入ったら倒れる」
 
セックスについては返事しなかったなと思った。
 

聖子Fは数日前に用意していた、シャトー・メルシャンの“山梨マスカット・ベーリーA”を開け、お揃いのクリスタルガラス製ワイングラスに注いだ。
 
「ごはん前に飲んだら酔うかも知れないけど」
「ううん。飲む」
 
2人で乾杯した。
 
「まあ2人で交替で仕事するのも楽しかったねー」
「何とか学校も卒業できそうだし」
「今日の授業で卒業に必要な出席日数はクリアしたと言われた」
「ありがとー。お疲れ様」
 
「まあどちらが消えても恨みっこ無しだよね」
「それボクも言おうと思ってた」
 
と言って、2人は微笑んだ。
 
そしてゆっくりと、おしゃべりしながら“最後の会食”をした。
 
Mがお風呂に入ってくるのを待ってから寝室に行き、例のキングサイズのベッドに並んで寝た。
 

これが最後かもと思ったので、ベッドの中で握手した。
 
「何ならセックスする?」
とFは再度言ってみた。
 
「和ちゃんを裏切ることになるからしない」
とMは言う。
 
「他人とセックスしたら浮気だけど自分とするのはオナニーと同じだから構わないと思うけどなあ」
「いや、その論理はおかしい」
とMは言ったもののFがキスしたいと言ったのでキスだけした。
でもギョッとする。
 
「何で裸なの!?」
「気にしない」
「女の子に触られてもホントに反応しないのね」
「こら勝手に触るな」
「いいじゃん、同じ自分なんだから」
 
その後も少し触っていたが、本当にMは触られても何も感じないようだった。
 
この時、Fはたぶん自分が消えるんだろうなと思っていた。曲水の宴に出たいと言ったのも、自分の最後のテレビ出演になると思ったからである。
 
Mちゃん、私の分まで頑張って生きてね。多分私はMの心の中に二重人格に近い形で、ずっと居れると思うし。きっとアクアFさんの中に居るアクアNさんと似たような感じ。。。と思いながらFは眠りに落ちていった。
 
Mの方はFに触られているのはもう気にしないことにしたものの、こんなに反応しないちんちんで、本当に和紗との結婚生活ができるだろうかと不安を感じていた。でもボクが消えてFが残るかも知れないよね。その時はレスビアンになっちゃうけど、F頑張ってね、などと思いながらMも眠りに落ちていった。
 

龍虎F(アクアF)は《じゅうちゃんさん》を八王子の家に呼び出した。
 
「お前最近女らしさが増したな」
「そうかな」
「俺が埋め込んだ卵巣はしっかり仕事してるようだし。ちんちん無いのもすっきりしていいだろ?」
「じゅうちゃんさんも、ちんちん取っちゃう?」
「この年で女になっても、言い寄ってくる男いないだろうし」
 
若かったら性転換したかったのか??
 
「でもお前、女になったこと4月2日に発表するんだろ?これからは普通の女優として頑張れよ」
「なんで4月2日?」
「4月1日じゃエイプリルフールだからな」
 
「それよりさ」
と言ってアクアFは自分の思いつきを彼に説明した。
 
「なるほど、ここに3DKの家を建てたいのか」
「車は立体駐車場にして収納すればいいと思うんだよね」
「うん。その手はある。金はかかるけど」
「それは問題無い」
 
土地の寸法などを実測して確認してから《じゅうちゃんさん》は言った。
 
「確かに40坪あれば4LDKくらいの家が建てられる」
「そんなに広い家が作れるんだ?」
 
「だけど、お前がデビューしたての頃ならまだしも、今や毎年何十億と稼いでいるトップ・アイドルなんだから、無理してこんな狭い土地に建てなくても、どーんと2000-3000坪の土地を買って、そこに建てた方がいいと思うぞ」
 
「そっかー」
 
この40坪の土地はデビューした年に、ポルシェの置き場として800万円で買ったものである。そこで古い家屋(24坪)を崩してガレージを建てた。現在龍虎が仮眠所として使っている建物は元々の家の離れだった建物である。
 
この時の母屋の取り壊し賃とガレージ(ユニットハウス)設置費は合計220万円ほどで、龍虎は約1000万円でこの物件を手にしている。デビュー1年目の時はそれでも“大きな買物”だった。
 

「雨宮の川崎の家の敷地があれ3000坪(=1ha)だよ」
「あれで?そんなに広い気がしないね」
「駐車場がむっちゃ広いからな。あそこは元々運送会社の支店だったんだよ」
「へー」
「だからトラックが50台くらい駐められる」
「そこまで必要無いけど」
 
「何なら雨宮の倍の広さの家を作るか?」
 
「絶対嫉妬されるから、あれよりは小さくして」
「分かった」
 
「じゃ、あまり広すぎない範囲で、できたらこの近くに適当な土地を買って、3LDK程度の家を建ててくれない?とにかく同じ広さの部屋が3つあることが絶対条件」
 
「100 LDKくらい作れるのに」
「そんなの家の中で迷子になっちゃう。でも最低3LDK」
 
「分かった。取り敢えず土地を探す。しかし愛人3人囲うのか?」
 
なんか《じゅうちゃんさん》も《こうちゃんさん》もこういう発想だよなーと龍虎Fは思った。
 

3月1日(月). 〒〒テレビに今月大学を卒業予定の新人アナウンサーが3人入ってきた。そしてこれを機に、青葉は明日2日から休職させてもらうことにした。この後、取り敢えずはオリンピック代表を正式に決める日本選手権まで、ひたすら水泳に集中する。休職期間は、オリンピック代表になった場合はオリンピック終了後まで延長するという約束になっている(青葉は自分がアナウンサーに復帰するのが2年後の2023年5月になるとは夢にも思っていない)。
 
なお。今月の『北陸霊界探訪』は、明恵と真珠の2人に、北陸の寺社の案内をさせた。今回は、金沢市街地に存在感を放っている《金沢別院》、ユニークな神門を持つ尾山神社、飴買い幽霊の伝説が残る光覚寺(山の上町)、以前次郎杉の件で取材をしたHH院、忍者寺として有名な妙立寺、などを取材したものを放送した。6月はたぶん能登、9月はたぶん富山になる!
 
でも明恵と真珠が2人ともバイクスーツに身を固めてあちこち走り回る様には若い女子たちから「かっこいー」という声があがっていた(森下カメラマンと神谷内ディレクターは四輪で移動している)
 
ちなみに、明恵のバイク (Yamaha YZF-R25-ABS Blue) は青葉のバイクの借りっぱなし、真珠のバイク (Suzuki GSX250F Blue) は兄・金剛のバイクの借りっぱなしである。20年乗り続けたら時効取得できる??
 

なおついでに“火牛パーク第2期開発計画”についても触れ、まずは↓のような様々な噂が流れていることをわざわざフリップで示す。
 
統合型リゾート→5000億円?
テーマパーク→500億円?
屋根付サッカー場→500億円?
ドーム球場→400億円?
サーキット→400億円?
空港→300億円?
巨大ショッピングゾーン→200億円?
動物園→200億円?
金沢S大学新キャンパス→150億円?
大規模団地→100億円?
遊園地→100億円?
水族館→100億円?
メガソーラー→50億円?
ゴルフ場→50億円?
植物園→50億円?
 
「金沢ドイルさんの収入源って、アクアのCD売上ですよね?」
「はい。アクアのCDがミリオンになるとだいたい500万円の収入になるそうです」
「なんでそんなに少ないんですか?半分くらいがアクアちゃんの取り分?」
「アクアちゃんの取り分は300万円くらいらしいですよ」
「いったい誰が搾取してんですか?」
「まあ収益の半分は税金として納めないといけないみたいですし」
「国が取ってるのか!」
 
「ともかくもミリオン1回につき500万円とするとドーム球場建設にはアクアのCDが8000回ミリオンにならないといけない計算になります」
 
「アクアが毎日CDを発売しても22年かかりますね」
「石川ミリオンスターズ専用ドーム球場への道は遠いなあ」
 
ということで、ここにあげたのは全て根も葉もない噂で、実際には公園を作る(整備予算10億円)のだということを明恵は説明した。
 
また公園が寂しくないように歩き回らせるロボットのプロトタイプも紹介した。真珠が悲鳴をあげたら近くのロボットがこちらに集まってくる所も放送で流した。
 

3月1日朝、橘ハイツ。
 
起きると聖子は1人になっていた。パジャマを着ている。Fは裸で寝ていたから、ボクは多分Mだと思った。
 
トイレに行く。ズボンとパンティを下げて便器に座り、おしっこする。
 
聖子は「え?」と声を挙げた。
 
戸惑っていたら“自分の内面から”
 
『どちらが消えても恨みっこ無しと言ったよ』
という声がある。
 
「そうだね。でも最終的には3月8日に確定かな」
『ボクも覚悟してたから、このままでもいいよ』
 
ともかくも聖子は京平さんからもらった指輪を鏡の所に置いて「ありがとうございました」と御礼を言った。
 

いつものように3年間使用した女子制服を着て学校に行き、卒業式に出席。教室に戻ってから“天月聖子”と改名後の名前が書かれた卒業証書をもらった。
 
帰宅すると鏡の前に置いた指輪は無くなっていた。
 
これからは1人で頑張らなきゃと思う。
 
疲れが溜まっているので、取り敢えず仮眠したが、寝ている内に和紗が来て、お料理を作ってくれていた。ちらし寿司である。
 
卒業のお祝い、そして“結婚祝い”を兼ねて、和紗が持って来たワインで乾杯したが、今日は何だか横文字の書いてある白ワインだった。
 
「グレイヴズ?」
「グラーヴと読むんだって(*14)」
「へー」
 
(*14)グラーヴ(Graves)はボルドーワインの集積地である。基本的にワインというものは、産地表記が細かくなるほど上等のワインになる。
 
ワインとだけ書かれた物<フランスワイン<ボルドーワイン<グラーブワイン<産地名<シャトー名
 

聖子は昨日もワイン2杯飲んだし、連チャンだなと思いながらも、そのグラーブの白を1杯飲んだ。そして机の引き出しから水色の宝石箱を出してきた。まさかボクがこれを渡すことになるとは・・・と思う。
 
「あの、これ。良かったら受け取ってくれない?」
 
「うそ!?もらえるの?」
「指のサイズはたぶん合うと思うんだけど」
「じゃ、せいちゃんが填めて」
「うん」
 
それで聖子は和紗の左手薬指に大粒のダイヤが載ったエンゲージリンクを填めてあげた。指輪はピタリと納まる。
 
感動した和紗が聖子にキスをし、舌まで入れてくるので、聖子は「きゃー。こんなことまでされるのか」とドキドキした。
 
「マリッジリングもあるよ」
と言って、出してくる。
 
「じゃマリッジリング填めてからエンゲージリングかな」
と言って、填め直した。
 
ふたりとも指輪をつけている所(聖子がマリッジリング、和紗がマリッジリングとエンゲージリング)の“手の写真”を記念に撮影した。
 

あれこれ話ながら、ごはんを食べ、けっこういい雰囲気になってくる。
 
聖子は調子に乗ってワインを3杯も飲んでしまった。酔ったかも!?と思う。(迎え酒だったかも知れない)
 
「そろそろ寝る?」
と和紗が言うので
 
「そうだね」
と聖子も答えた。まあ、何とかなるかな。ボク女優だし。
 

手をつないで、奥のキングサイズのベッドのある部屋に行った。ベッドのシーツは新しいものに交換している。
 
「あのさ、かずちゃん」
「うん?」
「ちんちんが“立たなくてもいい”と言ってたけど」
「うん、それは気にしないで」
「ちんちんが無くてもいいかな?」
 
「え〜〜〜!?」
 
それで聖子は服を脱いでみせた。和紗は悩んでいる。
 
「でもMちゃんとFちゃんは実は同一人物だと言ってたよね」
「うん」
「だったらFの身体でも私のこと好き?」
「好きだよ(嫌いじゃないし)」
 
「だったら、私、気にしないことにする」
と言って、和紗は自分も服を脱ぐと、彼女のEカップのバストで、聖子のBカップのバストを押し倒した!?
 
「ちんちん無くても、気持ちよくなれるようにしてあげる」
「うん」
「もしかしたら、ちんちん無い方が、より気持ち良くなれるかも」
「そうなの?」
 

ふたりはベッドの中で抱き合って熱いキスをした。和紗は聖子の乳首を舐める。気持ちいいかもと思う。更に和紗の手が下に伸びてくる。
 
「ここ気持ちいい?」
「・・・凄く気持ちいい」
「ちんちんは自分で触っても何にも感じないと言ってたね」
「そうなんだよね。ほとんど、イボみたいな感じだった」
「イボなら、液体窒素で冷凍して切り落としてもよかったかもね」
「って、アクアFさんから、随分言われた(実はボクも言ってた)」
 
「あはは。でもせいちゃん、ちんちん無くても意識は男の子てしょ?」
「そうなんだよねー(ということにしとこ)」
「だったら私たちは“普通の夫婦だよ”」
「そうかも知れない気がして来た」
 
聖子は明日ちゃんと起きれるかな?と若干の不安を持ちながら、快楽に身を委ねた。
 
まあ女の子とするのもいいよね?自由な時代だし。
 

3月2日、聖子と和紗はパートナーシップ宣言をするのに“良い日”を選びたいといって忙しそうなのに申し訳なかったが、千里さんに電話してみた。すると特に急がないなら3/16の7:25-12:00の間が良いということだった。
 
3/16(火) 大安・なる(旧暦2/4)日出5:50入17:49 月出 7:25入20:23
 
「万一12:38を過ぎたら延期して。絶対まずいから」
と千里さんは言っていた(ボイドが始まってしまうのである)。
 
午前中(多くの場合仕事はない)に世田谷区役所に電話して確認したところ、3月16日10:00で予約が取れたので、それまでに必要な書類などを揃えることにした。
 
また、2人はこの日の午前中、写真館に行き、聖子がタキシード、和紗がウェディングドレスを着て、記念写真を撮ってもらった。
 
また神社でも式を挙げようよと言っていたら、話を聞いたアクアFが
「郷愁リゾートで式を挙げればいいよ」
と言って、若葉に直接電話して3/16 6:00 で結婚式の予約を取ってくれた。
 
(大安なので、さすがにこういう時間しか空いてなかった:この日の日出は↑の通り5:50頃。つまり日出直後の結婚式である)
 
しかしそれで双方の親に連絡したら、聖子の両親はその時間なら舞台に影響が無いから出られると言った。つまり6:00というのがかえって良かったようである。
 
また和紗の両親と兄2人(独身)も川内(せんだい)から出て来てくれることになった。アクアFは「だったらHonda-Jetで運んであげるよ」と言い、その手配もしてくれた。それで両親には、鹿児島空港まで自家用車で移動してもらい、そこからHonda-Jetで郷愁飛行場に連れてくることになった。アクアFはコスモス社長に頼んで、直接和紗のお兄さんに電話し、決して公共交通機関は使わないで欲しいということと、一週間前から外食は控えて欲しいということをお願いした。お兄さんはコスモスのファンだったらしく“生電話”に感動して「必ず守らせます」と言ってくれた!
 
 
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【春紅】(4)