広告:ここはグリーン・ウッド (第5巻) (白泉社文庫)
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■バレンタイン・パーティー(5)

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翌朝、起きたら鈴音がぴったりくっついていた・・・などということはなく、少し離れた所でスヤスヤと寝ていた。忍は起きて顔を洗い、ヒゲを剃るのに浴室に行こう・・・・としたら、寝ていたと思った鈴音が声を掛けた。「忍、ヒゲを剃るんだったら待って」「え?」「剃るんじゃなくて、抜いて欲しい」「抜く?」「毛抜き買っといたから。100円ショップのだけど」といって、バッグから毛抜きセットを取り出して手鏡と一緒に忍に手渡す。
 
「剃ると剃り跡が残っちゃう。抜けばそういうのが無いから。顔を洗ってから窓際で手鏡を見ながら抜くといいよ。明るい所でないとよく見えないから」
「分かった」「私、もう少し寝てるね」といって、また横になり目を瞑る。
 
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忍は顔をお湯で洗ったあと、窓際に椅子を置き、ヒゲを抜く作業を始めた。毛抜きセットは先が細くなっているのと、広めのとの2本入っていたが、広いものの方が抜きやすい感じだった。抜いてはティッシュに置いていく。抜くのは最初ちょっと痛かったが、すぐに慣れた。確かに抜いていくと、跡がきれいになっていく。でも抜いた毛が、すごく長いのには驚いた。肌の表面にはちょっとしか出ていないのに。
 
でも・・・・これ時間掛かるね。結局ヒゲをあらかた抜き終わるのに30分以上掛かった。しかしそれで顔を再度洗うと、あごや鼻の下がすべすべで気持ち良かった。ふだんはヒゲに触れてざらざらの感じなのに。足の毛も剃っているし、女の子って、このすべすべ感がたまらないな、などと思う。
 
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やがて鈴音も起きてきて、一緒に1階のラウンジに行き、朝食をとった。
「ホテルの朝のバイキングっていいよね。私、昔から旅行する時はこれが楽しみで」鈴音はトーストに野菜サラダにオレンジジュース、オムレツにウィンナー、りんご、バナナ、マッシュポテトととっていた。そんなに食べるの?と忍が驚いて言ったが「女の子同士だから本音の食事。これが男の子の前なら少食を装って足りない分隠れて食べるけど」などと言う。忍は苦笑した。その忍は麦ごはん、味噌汁、焼き鮭、ウィンナー、生卵、納豆、それに野菜サラダ、ポテサラ、牛乳ととっている。
 
食事しながら会話は弾んだ。昨日は何を話していいのか分からない感じだったのが、1日いっしょに過ごして心の垣根が取れたせいか、何でもないことを気軽に話せる感じがして、忍は昨日より饒舌になり、鈴音とたわいもないおしゃべりを楽しんだ。
 
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しかし話をしていて、自分の話す話題が男の子の友人と話をする時とは全然違うことに気づいていた。話題はどちらからともなく出てくるのだが、話題そのものはお互いわりとどうでもいい感じのもの。5分前に何を話したかさえ覚えていない。それなのに、ただ話していること自体が楽しい。こんな会話の仕方もあったんだな、と忍はちょっと不思議な感覚がした。
 
朝食後、また部屋に帰ってから問題集をしながらおしゃべりを楽しむ。そして10時すぎにホテルを出て、ゆいレールで空港に行き、宮古島行きに乗った。今回は金属探知機には引っかからなかった。天気は良くて機内から見える沖縄の海はきれいだった。特に空港を飛び立ってすぐに見えた環礁は天国を思わせる美しさだった。
 
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宮古島に着いたのが午後1時頃だったが、ライブは3時からなので、会場の近くにある張水ウタキを訪れた。静かに手を合わせてお参りし、旅の安全を祈願する。
 
「ウタキって、神聖な場所だから、本来はあまりヨソ者が勝手に入ったりしちゃいけないんだけどね、ここのウタキの神様は特別で、誰でも歓迎してくれる、気の良い神様らしいんだ」「へー」「それと、そもそも宮古はは特殊なんだよね」「特殊?」「うん。沖縄本土とは違う空気が流れてる。そんなことを去年宮古島に来た先輩が言ってたから来てみたかったんだけど、私も何だかこの島に入った時から、那覇より心地良い感じがしてた」
鈴音は少し遠い目をしながら語っていた。
 
「私はよく分からないけど、少なくともこの場所は何だか気持ちいいよ」
忍もその場所の感覚を心静かに受け止めていた。
 
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ふたりはウタキを出たあと、スーパーでおやつを買ったり、商店街をのぞいたりしながら、会場まで歩いてきた。カメラや携帯などもバッグに入れて、まとめて預かってもらい、手ぶらで入場する。胸にワッペンを貼り、忍の生体認証でゲートを通った。
 
開演まで少し時間があるのでロビーで待っていたが、入場ではけっこうトラブルが起きていた。生体認証が通らず、身分証明書を求められたのにそれも持ってないというので、押し問答をしていた人はあちこち電話を掛けまくり、確かに本人ですと電話の向こうの人に保証してもらって、やっと入場することができていた。ワッペンを忘れてきた人はあまり問題にされずに入場できていた。下手な女装した男と入場しようとした人はバレてお帰り頂いていた。それを見た忍と鈴音は思わず顔を見合わせた。
 
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「今の人は私もこの距離から見ただけで男だと思ったよ。歩き方が男だったもん」と忍。「私も雰囲気で男だと思った。かつらかぶってスカート穿いてもあれじゃね」と鈴音。「あ、確かに雰囲気が」「男女をどう見分けているんだろう?と私一時期疑問に思ったことがあって、自分が男女の判断をしている基準を自己観察してみたことがあるんだけど、やはりズボンかスカートか、髪が短いか長いか、背が高いか低いか、胸が出てるかどうか、とかもあるんだけど、いちばん大きい要素は雰囲気だと思った」「へー」
 
「ちなみに忍は昨日の朝はまだ男っぽかったけど、今は完璧に女の子の雰囲気が出てるよ」と嬉しそうな顔でいう。
「そう?1日女の子で過ごしたからかな」「下着までちゃんと女の子のを付けていて、むだ毛とかもちゃんと処理してるしね」と鈴音は何だかホントに楽しそうである。「女の子って、女の子に生まれるのではなくて、女の子になるんだって誰か言ってた。私も今、女の子の友達と一緒にここにいる気分でいるよ。男の子の前だと、もう少し緊張してるかも、という気がするんだ」
「あはは」忍はまた苦笑した。「でもこの感覚も悪くないね」
 
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「やみつきになっちゃったりして」「うーん・・・・」
その時、忍は、鈴音といつもこんな感じで接することができるのなら、女の子でいるのも悪くないな、という気もチラッとした。
 
まもなく始まりますという案内で、中に入る。指定された席に着いたが、演奏が始まると全員総立ちになる。『椅子の意味ないな』・・・と忍は思った。ビートの強いオープニングナンバーに続いて、バラード調の2曲目が始まると会場の初期の騒然とした雰囲気は静まり、手拍子を打ちながらも曲に聴き入る感じになった。その曲が終わってから、メンバーの挨拶があり、拍手や歓声が上がった。『しかし・・・』忍は女の子だらけの観客から出てくるすさまじいパワーに圧倒されていた。凄いエネルギッシュだ。
 
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しばらくのおしゃべりの後、忍も知っている曲の演奏が始まる。CMか何かででも聞いた曲だろうか。そしてノリのいい曲。会場も一緒に乗ってくる感じだ。鈴音も楽しそうに手拍子を打ち、時々大きな声を出している。こんな鈴音も素敵だ。
 
演奏は時折MCを混ぜながら12〜13曲おこなわれ、やがて幕が下りた。しかし拍手は鳴り止まず、アンコールを求めるゆっくりとした手拍子に変わる。やがて衣装を変えたメンバーが登場し1曲演奏したあとでアンコール感謝の挨拶。そして最後の1曲を演奏してライブは終わった。
 
忍はどっと疲れた感じで椅子に座り込んだ。鈴音も座っているが、まだ興奮冷めやらぬ感じである。その昂揚した鈴音がまた色っぽくて忍はドキッとした。
 
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会場から空港まで臨時バスが運行されていたので、それに乗ってふたりは空港に行き、宮古空港の食堂でタコライスをまたふたりで分けて食べて夕食にした。そして夜8時に那覇に戻る。ゆいレールでホテルの近くまで戻ったあと、昨日買った手作りバーガーの店でまたハンバーガーを買い、ホテルの部屋に戻って今日はすぐに食べた。
 
「美味しい」「うん美味しい美味しい」「でも今食べちゃうと、夜中おなかが空いたときに困るよね」「コンビニがあったから、僕が買ってくるよ」と忍が言う。「ありがとう。でも夜中の外出の時は気をつけてよね。今は忍、女の子なんだから」「あ、うん」忍は室内では『僕』、外では『私』と一人称を使い分けていた。
 
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食べ終わってから交代でお風呂に入った後、またお勉強タイムである。問題集を解きながらおしゃべりを楽しんでいたが、昨夜より今日のほうが話が盛り上がった。
「ね、時々うちにきて、一緒にお勉強しない?京統大学を受ける人少ないからさ。レベルの近い子がいなくて、困ってたのよね」「うん。行く行く」「女の子同士なら気楽だしね」「そうだね」と言ってから忍は自問した。『女の子同士?もしかして、鈴音の家に行く時は女の子になってということ?この後も??』しかし忍はそのことは取りあえず深く考えないことにした。それより、この後も頻繁に個人的に会えそうだというのが嬉しかった。
 
10時頃になると、鈴音が「眠くなってきた。もう寝ようかな」という。忍も少し疲れがたまっていたし寝ることにした。お互い後ろを向いてホテル備えつけのガウンに着替え、明かりを消してベッドに入る。ベッドはまたくっつけている。ふたりの寝ている場所の距離は1mほどあった。
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