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旅は快適だった。天気も良かったし、途中までは列島の海岸線が見えていたので、鈴音は「わあ、○○が見える!」などといって喜んでいた。しかしやがて見えるのは海ばかりになってしまう。「私、寝るね」といって鈴音は寝てしまう。忍も鈴音と3時間も何を話したらいいのだろうと思っていたので、少しほっとした。しかし頭をシートにもたげてスヤスヤ眠る鈴音の顔を可愛いと思い、少し心臓がドキドキした。忍は機内に持ち込んだリュックから参考書を出して読み始めた。
那覇は天気が良かった。いったんホテルに向かい、まだチェックイン時刻ではないので、チェックインの書類だけ書いて、荷物をフロントに預け、波の上ビーチに出て昼食を取った。冬だというのに光がまぶしい。
「サングラス持ってきて良かったね」「うん。この光は裸眼では辛かったかも」
「忍は色ではどんな色が好き?」「うーん。黄緑とかオレンジとかかな」
「ふーん。中間色好きな人は複雑な性格だとかいうよね」「え?心理テストなの?」
「うふふ。でも確かに好きな色聞かれて、バーミリオンだとかセルリアンブルーとか答える人は赤とか青と答える人より複雑そうね」「確かに。鈴音は何色が好きなの?」「私はピンクとかライトイエローとかかな」「あ、鈴音も性格が複雑だ」
ふたりはすっかり『忍』『鈴音』と呼び合うことで定着していた。
「でも夏だったら泳げたのにね」「うん。またいつか夏に来たいね」
「夏なら水着姿だね」と鈴音が言ったので、忍は鈴音の水着姿を想像してドキリとした。「沖縄だとビキニかな」などというので、忍は頭の中の鈴音の水着姿で水着をビキニに修正して、またドキッとする。「忍もビキニの水着着る?」
「え?」忍は頭の中にあった鈴音のビキニ姿が突然消滅し、自分のビキニ姿が浮かび上がってしまった。「何?どうしたの?」突然むせた忍に鈴音が声を掛ける。「いや、自分のビキニ姿を想像したら、むせちゃって」「ふーん」
忍は頭の中で想像した自分のビキニ姿が《可愛かった》ことは黙っていた。ただ、想像の中の姿では、バストも大きかったが・・・・・
ふたりは国際通りまで歩いて出て、お店をのぞいて行く。「わあ、この服可愛い。お値段も可愛い」などと鈴音が嬉しそうに言う。忍は彼女の『可愛い』ということばの使い方に当初かなり戸惑っていたものの、この買い物に付き合って、少しだけ分かってきたような気がしてきた。要するに単純な褒め言葉か??
「ねえねえ、これ忍に似合いそう。忍の好きなオレンジ色だよ」「え?僕に?」
「あ、忍ちゃん、女の子が『僕』なんて言っちゃいけません。『私』って言おう」
「うーん」「ほらほら。ちょっと合わせてみて」と鈴音はそのジャケットを忍に当ててみた。鏡に映してみると確かにちょっと好みかも知れない気がした。「じゃ、これも買っちゃお」などといった感じで、鈴音はそこでスカートやら上着やら6〜7点買ったが、会計はなんと1200円しかしなかった。
ふたりは他にも洋服屋さん、食べ物屋さんなどをのぞき、洋服を結果的に20着くらいと、サーターアンダーギー、ちんすこう、紅芋タルト、などを買ってホテルに戻った。ホテルに着いたのは15時半だった。最初波の上ビーチにはタクシーで行ったのだが、そのあと3時間ほど歩いたことになる。部屋に入ると鈴音は「ちょっと疲れたかな」といってベッドに仰向けに寝転がった。鈴音の髪がバサリとベッドの上に広がる。忍はその無警戒な感じにドキッとした。
「僕も疲れた。。あ、『私』も疲れた」と言って、もうひとつのベッドに腰掛ける。鈴音はその忍の様子を首だけ回して見て、ちょっと微笑んだ。「ごめんね。荷物全部持ってもらっちゃって」「あ、それは平気平気」「私、シャワー浴びるね」といって鈴音は起き上がると、なにやら旅行鞄の中から取りだして浴室に消えていった。忍は部屋に置いてあったフリーペーパーを読んでいた。
30分ほどで鈴音が出てくる。鈴音はホテルのガウンを着ていた。その姿にまたドキッとしてしまう。「うふふ。忍も一緒に入ってきても良かったのに」
「え?」忍はその発想は無かったのでギョッとしたが、鈴音は「冗談、冗談」
と言って笑い「次どうぞ」と笑顔で言った。
忍が少し引きつった笑いをして浴室に行こうとすると「あ、ごめんごめん。新しい下着出しとくね」といって鈴音は、ファスナー付きのトートから忍の分の着替えを出してくれた。「ありがとう」「それとさ」「うん?」「これ」
「かみそり?」「足のすね毛剃っちゃおうよ。たぶん処理してないだろうなと思って今日は黒いタイツにしたんだけど、黒いタイツでもよく見られたらすね毛があるの分かっちゃうから」「あ・・・・」「このかみそりも新品だから安心して」「うん」「使い方分かる」「やってみる」「剃った毛はこの袋に入れて。流したら排水溝が詰まっちゃうから」といって白いビニール袋を渡してくれた。忍は「ありがとう」と言って受け取り、浴室に入った。
浴室の鏡に可愛い女の子の姿が映っていた。忍は改めて自分に惚れ込みそうな気がしたものの、首を振って服を脱いだ。脱いでしまうと、男子の肉体が鏡に映る。おっぱいも無いし、アレが付いてる。はぁと大きくためいきをつくと忍は浴槽に入り、カーテンを閉めてシャワーを浴び始めた。
だいたい汗を流し終えてから、いったんシャワーを停めて足の毛を剃ることにする。これ、石けん付けなきゃだめだよなと思い、忍はボディーシャンプーを手にとって泡立て、まずは左足の膝下に塗ってみた。足が泡でいっぱいになる。そこを鈴音から渡されたT字型のかみそりで剃りはじめたが、すぐにかみそりの歯が毛でいっぱいになり、剃れなくなってしまった。うーん、と悩んだが、トイレットペーパーで拭き取ればいいと思いついた。
泡を立てて肌につけ、かみそりで剃って、かみそりについた毛はペーパーで拭き取り、ビニール袋の中へ。少したつと肌が乾いてくるのでシャワーを当てて濡らすと共に、既に剃り終えた所の石けんを洗い流す。この繰り返しで足の毛を全部剃り終えるのに、けっこうな時間がかかった。体が少し冷えたので最後に少し熱めのシャワーを当てて、浴槽から出た。しかし・・・・
忍は毛を剃ってしまった自分の足を見て「美しい」と思ってしまった。いいな、これ。いつも剃るようにしようかな。。。。体の水分をバスタオルで拭き取り、鏡に映してみた。うーんとうなり、アレを股の間にはさんでみた。あ、これなら行けるかな。一応鑑賞に耐える。おっぱいは無いけど。
忍はしばらくその姿を見ていたが、ふっとため息をつくと、服を着始めた。ショーツ。今度は赤と白のチェックの柄だ。穿いてみたが、今朝空港でイチゴ模様のを穿いた時よりは、普通の気持ちで穿けた。ちょっと慣れたのかな。ブラジャーを付け、スリップを着て、その上に新しいカットソーを着る。スーパーフックは今着ていたブラのものを外して新しいブラに取り付けた。セーターとスカートは今まで着ていたのを着たが、タイツは穿かなかった。毛は剃ったんだし、『生足』でいいよね。
着替えなどをまとめて浴室から出ると、鈴音は「どれどれ、きれいになったかな」などと言って、忍の足をチェックした。「おっけー。これならそのままでもいいよ。でも素足をさらすのに慣れてないだろうから、明日はパンスト穿くといいかもね」パンスト・・・半月前なら少し性的な興味を持っていたかも知れないが・・・今はそういう感情は無く、むしろ穿いてみるのもいいかもねなどと思ってしまった。今日1日、ずっと女の子の格好で歩き回り、その状態に心が慣れてしまったような気もした。
夕飯は国道沿いの安食堂という感じのところでゴーヤチャンプルを食べた。最初1人1皿注文しようとしたら、店のおばちゃんが「女の子1人で1皿は無理。ふたりで1皿でちょうどいいよ」というので、ゴーヤチャンプルは1皿にして、御飯だけ1杯ずつ頼んだ。ほんとにボリュームがあって、ふたりで食べてもおなかいっぱいという感じだった。
帰り、手作りハンバーガーの店があったので、夜食用に買って帰る。ホテルに戻ると、忍はまた少しドキドキした。一晩彼女と同じ部屋で過ごすのだ。まあ「間違い」は起きないだろうけど。。。。と思う。
「ねえ、ベッドくっつけていい?」といきなり鈴音が言った。「え?」
「私、寝相悪いんだ。このベッドひとつだと夜中に落っこちそうで」
「うん、それならくっつけようか」
忍は、窓側のベッドを押して壁側のベッドにくっつけた。
「ありがとう。これで安心」と鈴音は笑顔で微笑んでいる。
「でもやはり、この旅行、忍と一緒で良かったな」
「そう?ありがとう」
「だって女の子同士だから、リラックスできるじゃん」
「女の子同士・・・・・だよね、うん」
忍が鈴音のことばに同意すると、鈴音はちょっと可笑しそうな表情をした。
「親と一緒に来るより、友達同士の方が気楽だもん」
「あ。そうだよね。僕も、じゃなくて私も友達同士の旅は初めて」
「これがひとりだと、また心細かったりもするんだろうけど、ふたりだと心強いなあ。忍しっかりしてるもん」
「えぇ?私のほうが鈴音に頼りっきり。戸惑うこと多くて」
「まあ、女の子になりたて1日目だしね。でも思ったより順応してる気が。素質あったりして」「そ、素質〜?」
ふたりはお勉強タイムに入ることにし、おのおの持参の参考書や問題集を出して、勉強をしはじめた。勉強しながら、時々友人の噂話をしたり、また分からない所を教え合ったりしているうちに少し小腹が空いてきたので買ってきておいたハンバーガーを食べる。冷めてはいたが充分美味しかった。「これ、明日は暖かい内に食べてみようよ」「うんうん」
ふたりは11時頃まで勉強をしてから寝ることにした。いつもは夜中1時過ぎまで勉強しているのだが、旅で疲れているしという事で早めに寝る事にしたのだった。
「じゃ電気消すね」といって室内灯のスイッチを切る。「おやすみ」「おやすみ」
忍はちょっと寝付けない気がした。手を伸ばしたら届きそうな場所に大好きな彼女が寝ている。それなのに下着は女の子用のを着けたままだ。少しあそこに触ってみたが、あまりいじってはいけない気がした。
鈴音は寝たのだろうか?と思って聞き耳を立ててみるが、よく分からない。「鈴音?」と小さな声で呼びかけてみたが反応は無かった。忍は『ふーっ』と息をつくと、鈴音に背を向けるようにして横になり、明日のことなどを考えていたら、いつの間にか眠りの世界に引き込まれていった。睡魔に落ちる刹那、『クスクス』という鈴音の忍び笑いの声が聞こえたような気がした。
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■バレンタイン・パーティー(4)