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■女の子たちの花祭り(5)

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翌日、桃香は高校時代の同級生で法学部にいる子に頼み、この子の問題について弁護士さんを紹介して欲しいと頼んだ。学部の先輩で民事関係に詳しい弁護士を紹介してもらったので、千里とふたりでまずは相談に行った。
 
弁護士から言われたこととして、銀行関係の手続きや両親・姉の失踪宣告、などの申請についても、この状況では弁護士を使ってもらったほうがスムーズに行くこと、またそういう事情でその子を保護したのであれば、その子の法的な後見人になっておいたほうが後で面倒なことが起きずに済むということであった。ただ、未婚の女性が後見人に就任した場合、結婚の障害になる可能性はありますよ、とは言われた。それに対して、桃香も千里も「私、結婚する可能性ほぼ無いですから大丈夫です」と同時に言ったので、弁護士は目をパチクリさせていた。
 
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ふたりで折半して弁護士代を負担して、この件を正式に担当してもらうことにした。
 
弁護士は青葉本人および両親・姉の資産を調べてくれた。すると、父親名義の土地があり、また銀行にも父名義で150万、母名義で50万ほどの預金があったが、それ以外になんと青葉名義と姉名義の預金が200万ほどずつあった。生命保険は何件か存在したものの全て失効していた。負債については住宅ローンの残高とクレカのローン残高が判明した範囲で700万ほどあり、土地を売却するとちょうど相殺できると思われる額であった。結果的に父母の預金はほぼそのまま残る。
 
しかし弁護士は両親の分に関しては相続放棄することを勧めた。両親の生活がかなり乱れていたようなので調べきれなかったような所にも借金があるとまずいからである。青葉と姉の名義の預金はおそらく資産隠しだろうと言っていた。しかし青葉の名義である以上、当然青葉自身が使える。弁護士はすぐに青葉名義の預金の通帳とカードの再発行を銀行に申し入れたが、震災で混乱しているため半月ほど待ってほしいと言われた。預金の引き出しについては都度応じるということだったので青葉に尋ねてとりあえず30万引き出した。青葉はそれを先日の交通費の分と弁護士代だけでも返しますと言って桃香と千里に渡そうとしたが「色々お金がいるから持っておきなさい」
とふたりに言われた。結局青葉はこの分を自分名義の郵便局の口座を作って入金した。
 
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青葉の姉名義の預金については、青葉たちの佐賀の祖父が相続人になるので弁護士は「放置しておけばいいです」と言った。
 
青葉の後見人については、千里が特に熱心に自分が後見人になってあげたいと言ったので、その方向で進めようとしたらちょうどこちらに出てきた桃香の母が猛反対した。
 
「後見人になるというのは、その子の親になるというのに等しいのよ。今年中2なんでしょ?成人するまであと6年。あなたたちだって6年もの間にはひょっとして何かの間違いで恋人ができて結婚を考えるかも知れないじゃん」
「その言い方はさすがに少し傷つく」と桃香。
「だからさ、私が法的な後見人になってあげるよ。だから、あなたたちはこの子の姉代わりというのでどう?」
 
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「いいの?ちょっと複雑な子なんだけど」
「話は全部聞いたけど、桃香だってかなり複雑な子だからね」
「まあ確かに・・・」
「私も、千里さん・桃香さんをお母さんと思うのは少し無理があるけど、お姉さんと思うのなら」
などと青葉も言うので、結局桃香の母・朋子が名義上の後見人として裁判所に申請し、学校についても、朋子の家に置いてそこから学校にやるという方向で調整することにした。
 
「そもそもあんたたち、この子まで食べさせて学校にやるだけのお金は無いでしょ?」
「はっきり言うなあ。何とか頑張ろうとは思ってたけどね」と桃香。
「済みません。お世話になります。私の銀行の通帳が再発行されたらそれ預けますので」
と青葉が言ったが、朋子は
「子供が何言ってるの?そんなお金はあなたの将来のためにちゃんと取っておきなさい。代わりに養育費はこのお姉ちゃんたちからぶんどるから」と言う。千里と桃香は目を見合わせた。
 
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「私達が毎月、この子の養育費をお母ちゃんに送金すればいいのね」
「その方がこの子の面倒見てる気分になるでしょ?金額はあなたたちがきつくない程度でいいから」と朋子は言う。
「うん、ぜひ送金させて」と桃香は笑顔で言った。
「ええ、私も送金します」と千里も嬉しそうに言う。
「お姉ちゃんたち・・・・ありがとう」と青葉は涙を流した。
 
桃香はこの後見人と就学の件について青葉の祖父に連絡して意向を尋ねてみた。すると、向こうは驚いたようではあったが、特に異論は無いという返事であった。桃香は念のためこの電話でのやりとりを録音しておいた。数日後、青葉が向こうに残していた荷物が『着払い』で送られてきた。桃香は怒っていたが千里は「まあまあ」
となだめていた。「でも青葉がおじいさん嫌いって言ってたのが少し分かった気がする」
と桃香は言った。
 
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朋子、桃香・千里に付き添われて青葉は桃香の実家のある北陸の町に行った。「なんか、空気が私の住んでた町と似てます」などと青葉は言う。同じ港町のせいか。
 
千里の助言に従い、美容院で女の子らしい髪型にし(それまで青葉は姉とお互い髪を切り合っていたらしい)、できるだけ可愛い服を着せて、朋子が付き添って現地の公立中学を訪れる。
 
今回の震災の被災者で両親と姉を失い、保護する者がいないこと。それを縁があって保護していること。両親の死亡認定が取れ次第、後見人選任の申請をする予定であること。また住民票などについても、その後こちらに移動する予定であること。そういう訳で、現在はこの子の正式な後見人でもなく、また住民票もこちらには無いが、保護者として責任を持つので特例でこちらの中学に入れて欲しいと頼んだ。
 
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校長は教育委員会に確認する必要はあるが、青葉の学校への受け入れについては問題無いだろうと話した。
 
また朋子は、青葉が今まで両親にネグレクトされていて、その影響で感情表現に乏しいことを語った。でもそれについては自分や、この子の世話をいろいろしたがっている自分の娘とその親友が、日々優しく接していくことで少しずつ改善されていくのではないかとも語った。校長はその件に関しては、そういう問題に理解のある先生の担任にしましょうと言ってくれた。
 
「こんな可愛い子なのに無表情だから損してるんですよね」と朋子は言う。「ええ。笑顔になったら本当に美少女という感じですね」と校長。
「ね、先生この子美少女でしょ」
「ええ」
「まさか、この子が男の子だなんて思いませんよね」
「え?」
「実は、この件がいちばんやっかいなお願いなのですが」
「まさか」
 
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「この子、性同一性障害なんです」
「君、男の子なの?」校長はほんとにびっくりしたようであった。
青葉はこくりとうなずく。
「肉体的・法的にはこの子は男の子です。でも、ごらんのようにどう見ても女の子なんですよね」
「それで、ひじょうに難しいお願いというのは承知の上でなのですが、この子の性別についてできるだけ柔軟な扱いをしていただけないかと思いまして」
「うーむ。。。」
校長は絶句して少し悩んでいるようだった。
「ちょっと待ってください。女性の教諭を呼んできます」
 
校長は席を立ち、少しして女性の教師とともに戻った。
「この学校の保健主事で吉本と申します」
「よろしくお願いします」
「いきなりぶしつけですが、性同一性障害というのは、どこかで診断書などは取られましたでしょうか?」
「いえ。この子は両親からずっとネグレクトされていて、食事さえ与えられていなかったんです。とてもそんな病院などにはやってもらえていませんでした。私のもとに保護しましたので、落ち着いたらその方面に受診させる予定です」
「なるほど失礼しました」
と保健主事は謝る。
 
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「君、服はふだんからいつもそういう格好?」
「ええ。下着から全部女物しか着ません」
「ちょっと立ち入ったことを聞くけど変声はまだしてないのね」「はい」
「大事な問題なので正直に教えて欲しいのだけど、オナニーはしてる?」
「しません。射精自体しません。実は信じてもらえないかも知れませんが、睾丸が機能停止するように小学5年の時に性魔術を自分に掛けました」
「魔術!?」
「この子、いわゆる霊感少女なんです」と朋子が補足した。
「魔術とか密教とか道術とか陰陽道とかに凄く詳しくて。今回の震災でも津波を予知して、おかげでこの子のクラスは全員助かったんです」
吉本と校長が思わず顔を見合わせる。
 
「ええ。ですから私は今実質去勢状態です。だから変声は今後もしませんし、ヒゲや男性的な体毛も生えません。むろん勃起もしません。あの、私の下着姿を見ていただけますか?」
 
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「あ、僕はちょっと席を外す」といって校長が部屋の外に出る。
青葉が服を脱いでブラとショーツだけの姿になると吉本は息を飲んだ。
「体の曲線が完璧に女の子のライン。おっぱいも少しあるのね・・・・」
「小6の時から女性ホルモンを活性化させる修法をしています。これは気功に似たものですが。他に腕立て伏せしたり、バストマッサージしたり、ツボを刺激したりして、ここまで発達させました。一応Aカップはそんなに余ってないです」
「ふつうの女の子でも中2だとまだそのくらいも無い子いるわ。下の方もまるで付いてないみたいに見えるけど」
「ちょっと技術があるんです」
と青葉は少しニコッと笑った。朋子はその笑い方も初めて見た気がした。
 
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「触っていいですよ。前の学校でも同級生や先輩にけっこう触られました」
吉本がおそるおそる青葉のパンティに触る。
「触っても付いてないみたいに感じるんだけど」
「全部体内に押し込んでしっかりしたテープで留めてます。体育したくらいでは外れません。パンティー脱がない限り、女の子に見えると思います」
「これなら女子と一緒に着替えられるというか、男子とは着替えられないわね」
吉本は頷きながら言う。
「前の学校ではどこで着替えていたの?」
 
「実質空き部屋になっていた用具室を、私専用の更衣室として用意してもらっていましたが、しばしば友人たちに引っ張っていかれて女子更衣室で着替えてました。ついでに取り押さえられて下着姿をじっくり観察されたり、あちこち触られたりしたこともあります。さすがに裸には剥かれませんでしたが。そもそも体育の授業は女子と一緒に受けていたので、女子更衣室で着替えるのが流れ的に自然だったんですよね。水泳の水着も女子用を着てました」
「この体なら女子用しか着れないわね」
 
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青葉に着衣を促し、着たところで校長を呼び戻す。
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