広告:不思議の国の少年アリス (2) (新書館ウィングス文庫)
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■女子高校生・3年の夏(8)

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公世は祭りで留萌に来たついでに実家に寄ったが、卒業後の進路について訊かれたらしい。
 
「どこの大学行くの?」
「京都の大学を考えている」
「京都の大学って京都大学?」
「まさか。今狙ってるのは京都教育大」
「へー。でも京都は女子大も多いよね」
「女子大には行かないよ!」
「そうなの?」
「学費は奨学金で何とかなると思うから」
「分かった」
「ただ入学金だけは頼むかも」
「まあ父さんが払える程度なら」
 

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7月13日(日)、貴司の祖父・細川宝蔵の忌明け法要が礼文島の家で行われた。宝蔵は6月9日に亡くなったので四十九日は7月27日なのだが、子供たちの話し合いで五七日(35日目)のこの日で忌明けにしようということになった。
 
“東の千里”はこの法要に、貴司の両親や妹たちと一緒に出席した。
 

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7月14日(月・大安・なる)留萌P神社では桜組の柳里君と玲耶の結婚式がおこなわれた。和弥はこの式の祭主まで務めてから姫路に戻った。赤の千里もこの結婚式の祝賀会に出て祝辞などもしてから姫路に戻った。
 
だから月曜日の授業はジェーンと夜梨子で出た。
 
柳里君たちは東京に新婚旅行に行った。ついでに千葉の料亭に桜鱒を買ってもらう契約をまとめてきた!(全く仕事熱心である)ここには北総海運(苫小牧−勝浦)の船で魚を送ることになる。
 

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7月中旬。千里の銀色グループのセリアはロビンの部屋を訪れた。
 
「銀色の千里というのは蓮菜からは聞いたことあったけど、実際には初めて見た」
「蓮菜は観察力が凄いよね」
 
「まそれでさ」
「うん」
「フルート工房の太田さんにプラチナのフルートを作ってくれるよう頼んだのよ」
「へー」
「8月くらいにできると思う。連絡があったら受け取ってきてくれない?」
「分かった。代金は?」
「取り敢えず1100万渡してるけど足りなかったら追加で払って」
と言って。セリアは現金で500万円を渡した。
 
「ふーん。紙幣は銀色ではないのね」
「銀貨でも用意できるけど両替が大変だろうし」
「確かに」
「私への連絡はこの携帯に」
と言ってセリアは銀色の携帯を出したので赤外線で電話番号とメールアドレスを交換した。
 
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7月18日(金)、多くの学校で終業式がおこなわれ、夏休みが始まった。なお7月21日(月)は“海の日”の祝日である。
 
終業式の日はH大姫路の3年9組では「この夏の目標」をひとりずつ言った。
 
青沼君は「野球の強い大学に行きたいのでこの夏はお勉強です」と言っていた。清香も「インターハイのあとは勉強頑張ります」と言っていた。
 
片山君は「秋に高校最後の大会があるから、それまで卓球頑張ってそのあとお勉強です」と言っていた。
「性転換は?」
という声が男子の一部からあったが女子たちは
「それはもう終わってる。もう一度性転換したら男になっちゃう」
と言っていた。
 
「高崎君こそ性転換したら?」
「あたし女になったらスコート穿いてテニスしようかしら」
「スコート穿きたかったら穿けばよい」
「ちんちん切るのは自由だけど、高崎君は女になっても柔道は男子の部に出てよね」
「女子の部には出れないの〜?」
「女子に掴みかかったら即痴漢として逮捕。死刑で」
「ああ、高崎はチンコの1〜2本切ってもとても女には見えないからなあ」
「それって見た目問題なの?」
「うん。性別に関して見た目の要素は大きい」
「性転換手術してる病院でも見た目が女に見えない人は手術断るらしいね」
「高崎は100軒中200軒に断られるパターンだな」
 
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「雅ちゃんは元々女の子みたいだった」
「大会でもよく『君、女子じゃないの?』と言われてた」
「小学校の修学旅行では男湯に入ろうとして『小学生が混浴してはいけない』と言われて摘まみ出されたから仕方無く女湯に入ったらしい」
「入ってないよー」
「いや女湯に入ったという多数の証言がある」
「男湯に入らなかったのは認めるけど」
「やはり女湯に入ったんだ?」
「さすがに入れるわけない」
「いや雅ちゃんなら入れたと思う」
 

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学期末なので各学校では通知表が渡されるあるいは郵送される。
 
玲羅の通知表は郵便受けに入れられた所をロゼが、監視させていた眷属に横取りさせ
「これお母ちゃん向きじゃないから、少し改変しよう」
と言って“改変版”をライラ(玲羅のコピー)に持たせて母に渡した。
 
それで本来は全科目90点以上なのが、音楽・体育・保健のみが90点以上で基本科目は赤点ぎりぎりという通知表を津気子は見ることになる。
 
「こうしておかないと、お母ちゃんが大学にやるお金無いと焦るから」
「うまーい」
「大学の学費は青がきっと出してくれる」
「そんな気がする」
「青が出せなかったら赤が間違い無く出してあげるからお金のことは考えずに勉強頑張りなよ」
「ありがとう。頑張る」
 
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7月19日、宮城県北東部の牡鹿半島沖を震源とするマグニチュード6.6の地震、宮城県と福島県の沿岸部に津波注意報発令。
 

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7月22日午後9時40分頃、東京都八王子市の京王線京王八王子駅の駅ビル9階の書店にて、当時33歳の男が文化包丁を用いて、大学生でアルバイト店員をしていた当時22歳の女性と当時21歳の女性来店客を刺した。その後男はエレベーターで1階に下りて外に逃亡。アルバイト店員は死亡し、来店客は全治3か月の重傷を負った(八王子通り魔事件)。
 
同日午後10時頃、男は事件現場から300メートル離れたJR八王子駅北口近くの路上で、警察官に職務質問された際に自身を犯人と認め、八王子ターミナルビル1階に所在する八王子駅北口交番にて目撃者の立証が取れたため緊急逮捕された。
 
8月12日に男は殺人罪・殺人未遂罪・銃砲刀剣類所持等取締法違反で起訴された。
 
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一審では無期懲役とされたが、被告が控訴、2010年4月14日に東京高裁は一審の無期懲役判決を破棄し、懲役30年を言い渡した。
 

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7月24日、岩手県沿岸北部を震源とするマグニチュード6.8の地震が起きる(岩手県沿岸北部地震)。
 

夏休み中、H大姫路では補習も行われる。3年生は大学を受けるつもりの人は全員参加するようにと言われたので、千里や公世はもちろん、双葉や清香も参加した。補習は朝7時から午前中いっぱいなので、千里たちは午後からは剣道の稽古をしていた。
 

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留萌のS高校でも希望者を対象に補習が行われていた。特進の生徒は全員参加するが、普通科の生徒でも希望者は参加する。玲羅は普通科で第3位の好成績なので先生から
「君は参加するよね」
と言われ
「はい、参加します」
と答えた。
 
実際には補習に出るのは成績上位の生徒なのだが、津気子は成績が悪いから補習を受けるのだろうと思ったようである。費用は毎月旭川の千里からたくさん送金されてきているので、それで払った。(青は玲羅が公立に補欠合格したことを知らないので私立のU高校の授業料相当額を送金している)
 

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H大姫路剣道部では夏休みに入るのと同時に千里の家で合宿を始めた。合宿はインターハイのあと、お盆前まで続く。
 
なお学校の補習に出る人は朝6時半のマイクロバスで学校に行き、補習修了後合宿所に戻る。
 

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合宿の最初に今月末の玉竜旗に出る選手を決める選考会をした。女子では現在の“六強”の中で、4月には大が落ち6月には光が落ちたが、今回は香織が落ちた!ただし香織も補欠登録するので福岡には一緒に行く。それに遠征メンバーは偶数のほうが練習によいのである。ほかにマネージャー・雑用係として2年の知代と1年の春佳も同伴する。事務連絡やおやつ買い出しなどを頼むことになる。剣道ガールは腕力があるのでお弁当なども1人で10個くらい持てたりする。
 

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7月19日(土)。千里たちは県の剣道連盟に呼ばれ、今年も国体の代表に選ばれたことを告げられた。今年のチームはこのようになった。インターハイ予選の上位まで行った選手を中心に構成されている。男女とも大将と副将がインターハイ代表である。
 
少年女子
先鋒 花本涼世(1年・W学院)
次鋒 芳本愛美(2年・E高校)
中堅 島根双葉(3年・H大姫路)
副将 村山千里(3年・H大姫路)
大将 木里清香(3年・H大姫路)
 
少年男子
先鋒 木下唯太(1年・E高校)
次鋒 高村正樹(2年・W学院)
中堅 山崎一(2年・H大姫路)
副将 福田一鉄(3年・H大姫路)
大将 工藤公世(3年・H大姫路)
 
なお今年の国体剣道の開催地は大分県南部の豊後大野市である。
 
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7月24日は、土用の丑の日であった。スーパーのプリンセスでは、西日本新鮮産業を通して種子島産のうなぎを仕入れると共に、提携している大手スーパーHが持っているルートで中国産のうなぎも仕入れて店頭で蒲焼きにして売った。種子島産が1890円、中国産は966円(いづれも消費税5%込み)である。他に“店長お勧め”特選台湾産1260円というのも出してこれがいちばん売れた。この台湾産は片倉が個人的なコネを持っていた台湾人に紹介してもらった美味鰻魚(メイウェイ・マンユウ)という台北(タイペイ)の会社から輸入したものである。
 
 
(この頃は1000円で鰻が買えていた)
 
ほかに、神戸市のかまぼこ会社が作った鰻の蒲焼き風の練り製品“うなぎそっくり”(420円)も販売している。
 
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なお今年は土用の丑の日は2回あり、8月5日も土用の丑の日である。
 
(土用の期間は約18日間で十二支は12日間で一巡するから大雑把に言えば土用の丑の日は1回の年と2回の年がだいたい交互に来る)
 

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7月27日(日)は大手予備校が実施する大学入試模試(センター試験方式)がおこなわれ、千里・公世・双葉・清香はいづれもこれを受けた。模試の結果は9月に通知される
 

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7月28日(月)、大手の新聞が次のような記事を掲載した。
 
海産物取り扱い業者☆☆が販売していた“和歌山県産うなぎ”が実は中国産であったことが内部告発により判明し、農水省が調査を開始した。同社が販売した鰻は下記のスーパーで販売されていた。
 
記事には10軒のスーパーの名前が記載されていた。その中のひとつにプリンスが含まれていた。千里はまずプリンセス社長の片倉に電話して「当店では☆☆および神港魚類・魚秀の鰻は扱っておりません」という掲示を出させるようにし、次いでプリンス社長の田上に電話した。
 
「お客様に即返金しましょう」
「はい。その方針で今準備中です。代金の2625円を入れた封筒をたくさん作らせています」
 
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さすができる人は行動が速い、と思ったが千里は更に言った。
 
「返金はレシート無しでもOKにして」
「レシート無しででもですか〜?」
「だってレシートなんてすぐ捨てちゃう人多いもん。返金用の資金に取り敢えずそちらに1億円振り込んであげるから。返却に使った分は私に返さなくてもいいし。だから口座番号教えて。これ多分田上さんの個人の口座のほうがいいよね」
 
田上も一瞬考えたが確かに店の口座を使うと経理上の処理が大変だ。一方、自分の個人口座を暫定的に使っていても店の経理に付け替えることは可能だ。
 
「分かりました。それでは###銀行の※※支店*****で」
と田上は口座番号を伝えた。千里は即1億円を振り込んだ。
 
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千里はそこまでやりとりをした上で今度は岡山新鮮産業の山藤社長に電話する。
「鰻の産地偽装が相次いでるでしょう。それで“私が育ててます”みたいな掲示を出したいんですよ。鹿児島の鰻養殖場の所長さんか鹿児島新鮮産業の社長さんの顔写真を頂けませんか?」
「本人たちに聞いてみます」
 
すると鹿児島新鮮産業の社長が
「養殖場は種子島と大隅半島の2ヶ所にあるから私の写真のほうがいいでしょう」
と言って写真を送ってきてくれたのである。千里はそれを片倉に送り
「うちの会社で育ててます」
という掲示をプリンセスの店頭に掲示したのである。するとこの鹿児島産鰻の売れ行きが伸びたのである。この社長の顔がいかにも“九州男児”という雰囲気で日焼けしているのも好印象になった。
 
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安易に予想できたがプリンス各店に作った返金コーナーには長蛇の列ができて、一週間のうちに返金した人は実際にこの産地偽装鰻を買った人の10倍、約1万人に及んだ。
 
「約1万人に“返金”して2600万円ほど使いました。正確な精算は後日することにして、取り敢えず7000万そちらに振込戻します」
「返金求める人はこの後もまだ来るだろうし、こちらへの返却は8月末くらいでもいいよ」
「でも大きな金額だし」
「だって1億円程度で店の信用が買えたら安いもんじゃん」
 
田上はやはりこの人はただものではないと思った。
 

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田上は2枚の大量保有報告書を見て呆れた。
 
一つは7月30日(水)付けで村山千里の保有株数が32%になっている。そしてもう1枚は8月1日(金)付けで村山千里の保有率は27%まで減っている。つまり村山はこの報道を受けて暴落したプリンス株を大量に買い、レシート無しでも返金を受け付けているという報道で今度は株が急落の反発もあり高騰したところで大量に売り抜けたのである。この人はきっと他のスーパーでも似たことをしている。この売買で村山が得た利益は恐らく数千万円に及ぶ。つまりお客さんへの返金に使ったお金とほぼ同額か多分それより多い。ほんとにあの人はタダ者ではない!と思った。そして面白い株主を得たもんだと楽しい気分になった。
 
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むろんこの売買操作をしたのは青池で、千里は関与していない。
 
また今回の事件でお客さんのプリンスへの印象はよくなったので、プリンスの業績はよくなり、企業価値自体上昇することにもなる。田上は「1億円で信用が買えたら安いもん」という村山の言葉を思い起こした。
 
 
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女子高校生・3年の夏(8)

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