広告:メイプル戦記 (第1巻) (白泉社文庫)
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■Powder Room(3)

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(c) 2002.12.12 written by Eriko Kawaguchi
 
ボクは起きあがっておそるおそる自分の両足の付け根の部分をのぞき込んだ。ウソみたい。。。。
 
そこには見慣れた物体は影も形もなく、スッキリした形になっていた。そして中央にはひとすじ、きれいな割れ目ができていた。ちょっと触ってみたら、指が触れただけで、ビクっと感じた。ボクは心臓がどきどきした。
 
「きれいにできてるでしょ」
 
そう言われてボクはちょっと頬を赤らめてうつむいた。
 

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ドアを開けてそこから神崎幸子が出てきた段階で、ボクはもう完全に開き直りの気分になった。
 
「どうも、お疲れさまでした」といって幸子はボクらを中に案内しようとする。その瞬間、彼女の目はボクの上に止まり「あれ、確かさっき会ったっけ?」といった。「偶然ですね」とボクはもう運を天に任せることにしてニッコリ笑って女の子ボイスで答えた。
 
ペンションのダイニングに移動しながら礼子さんが「あなたが衣子が言っていた人ね」と礼子さんが言う「はい、神崎幸子といいます」と彼女は答えた。「えっと何だったっけ?」とボクが尋ねる。「昨日、夕食の時に衣子が言ってたでしょ?今日、もうひとりお友達が娘さんを連れて来るって」「ついさっき着いたんですよ」
 
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ダイニングには衣子さんと、見覚えのある、幸子のお母さんが座って
談笑していた。幸子がそのまま紅茶を入れてくれようとする。礼子さんが「あ、私がするわ」といってサーバーを取ると、ティーカップを並べて5人分のお茶を入れた。
 
衣子さんがそれぞれを紹介した。「こちら私の高校の時の同級生の神崎恵子さんとその娘さんの幸子さん。こちらは大学の時の同級生の谷山礼子さんとその娘さんの順子さん」
 
お互いによろしく、と挨拶を交わしたところで幸子がボクを不思議そうに見つめて何かを思い出そうとするような顔をしている。「どうかした?」
「いや、なんか似た人に会ったことがあるような気がして」「さっきじゃなくて?」「うんーと。。。お名前、谷山順子?」「はい」「あっ」
 
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ボクはその彼女の表情を見て『バレた』と確信した。
 
「どうかしたの?」と礼子さんがきく。「誰かと思ったら、順ちゃんか。ほら、幼稚園の時一緒だった。覚えてない?」
 
彼女の意図が分からないが、ボクは取り敢えず話を合わせることにした。「あぁ、キーちゃんか。すっかり美人になってるから分からなかった」とボクは思いっきり可愛い子ぶって幸子と手を取り飛び跳ねてみせた。
 
「あら、奇遇ね」と衣子さんがいう。幸子のお母さんは気付いていないようで「キーちゃんなんて名前覚えてるなんて、ほんとに昔のお友達なのね」とのどかなことを言っている。彼女は小学校以降は「さっちゃん」だったのだ。
 
「ねぇ、衣子さん。部屋は空いてるんでしょ?私と順ちゃんでいっしょにお泊まりしたい。つもる話もあるし。ネ、順ちゃん」と幸子は悪戯っぽく言う。ボクが断る理由もないので曖昧に「うん」と答えると、衣子さんは「じゃ105号室を使って」といって、壁からキーを取って幸子に渡してくれた。
 
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その日夕食が終わってから、ボクはいったん礼子さんと泊まっている202号室に行って荷物を取ったあと、105号室に行った。ボクの代わりに衣子さんが202号には泊まることになっていた。礼子さんをひとりにするのはまずいと配慮してくれたのだろう。幸子のお母さんは201号室でひとりになるが、2日後には幸子のお父さんも来ることになっていた。
 
105号室では幸子はもう中で待っていた。彼女はもうパジャマを着ている。
 
「まぁ、お座りしてゆっくりお話しましょ、順一子さん」
と幸子はダブルベッドに腰掛けたままニヤニヤ笑って言う。この部屋はダブルベッドとシングルベッドが1個ずつ置かれていた。
 
ボクはすっかり開き直っているので彼女の隣りに座ると
「ちょっと冗談のつもりだったんだけど」と女の子ボイスのまま答える。
 
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「冗談って何?女子トイレや女子更衣室に入ってみたくて、そういう格好をしてるわけ?」
 
「とんでもない。こういう格好だから女子トイレは仕方なく入っているだけで。女子更衣室とかは入ったことないよ」
 
「冗談じゃないとすると、趣味?」
「うーん。。。。。」ボクは自分がなぜ女の子の格好をしているのか、自分で分からなくなってきた。
 
「それか最近はやりの性同一性障害ってやつ?女の子になりたいの?」
「それはないと思うけど」
 
「じゃ趣味なんだ。ふーん、順一子さんにこういう趣味があったとは」
 
「その『順一子』はやめてよ」
「じゃ何て呼ばれたい?」
 
「あ、えーっと。。。。」
「仕方ない。順子ちゃんて呼んであげる。それでいい?」
「うん」
 
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「じゃ、順子ちゃんと呼んであげる代わりに、今夜は私を抱いてよ」
「うん」と反射的に答えてからボクは「抱く」ということばは単に
抱き合って寝ることではないのではないかということに気付いて慌てた。
「まっ待って。抱くってまさか?」
「もちろん。あれよ。セックス」
「なんで?」
「私は抱くだけの魅力ない?」
「そんなことないよ。キーちゃん可愛いよ」
「じゃ抱けるでしょ。あっもしかして、女の人は好きじゃないのかな?男の人とセックスしたいの?」
「そういう趣味はないよ。私は女の子が好きだもん」
「ふふ。女の子言葉なのね」
「あ、ごめん。この格好してる時は男言葉が出てこないの」
「声も女の子の声だよね。学校の時とは違う」
「それもこの声で話してないと落ち着かなくて」
「じゃ。いいよ。今晩は女の子同士ということで、手を繋いで寝よ」
 
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手を繋ぐくらいならまぁいいか。ボクは同意すると、部屋の隅で手早く着替えて、彼女と同じベッドの中にもぐりこみ、手をつないで
「おやすみなさい」を言った。彼女がクスっと笑ったような気がした。
 
 
次の日から神崎幸子はボクにずっとべったりだった。彼女とのことに
ついて礼子さんは何も聞かないのでボクも何も言わない。実際問題と
して説明しなければいけないようなことはなにひとつ起きなかった。
ボクたちは実際問題としてほとんど女の子同士の友達のような感じで
毎日を過ごしていた。お風呂にも一緒に入ったが「間違い」は一切
起きなかった。
 
ペンションの改装は順調に進んでいるようで、1月下旬にはリニュー
アルオープンできそうということで、ホームページに「2月分より、予約をお受けします」という掲示を出した。ボクと幸子もペンキ塗り
などは手伝った。
 
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年が明けて1月3日の晩。それは唐突に聞かされた。
 
「明日女5人で町営温泉に出かけましょう」
 
ボクは最初その言葉を聞き流したが、ふとあることに気付いて焦った。「町営温泉?」「うん。すごく広い浴場でさ。温度の高い源泉もある
から冬でも露天風呂が楽しめるよ」「露天風呂って混浴?」「ううん、男女別よ。特にこの町のは女風呂の方が大きく作ってあるの。実際
観光客は女性が7割だからね」
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