広告:メイプル戦記 (第1巻) (白泉社文庫)
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■Powder Room(2)

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『休業中でも温泉が出るからさ。ゆっくりしていくといいよ』
「そうねぇ。そんなに言われるんだったら、お邪魔しようかな」
『うんうん。その彼の子供と二人暮らしなんでしょ。二人でおいでよ。えっと男の子だったっけ?』
そう聞かれて礼子さんはボクのワンピース姿をチラッと見ると悪戯っぽく笑って、こう答えた。
「ううん。女の子。順子ちゃんっていうの」
えぇ〜!?
 
そういう訳でボクはこの旅行中、順一ではなくて順子で通すことになってしまったのであった。女の子の格好のまま外に出たことはなかったのでボクはちょっと恥ずかしい気もしたが、うまく礼子さんに乗せられてしまった。
 
家を出て地下鉄の駅まで行く間は知り合いに会ったりしないだろうかとドキドキしていたが、幸いにも誰ともすれ違わずに済んだ。地下鉄に乗ってからもついうつむいてしまったが「何おどおどしてるの。いつも家の中でしているのと同じようにすればいいのよ」と言われて少し開き直ることができた。
 
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なんとなく車輌の中を見回すと、下手なお化粧して脚を大きく開いてシートに腰掛けているおばさんなどが目に付いた。『あれよりはずっとボクの方が女に見えるよな』そう思うとなんだか自信が付いてきた。
 
名古屋駅で食事をした後トイレに行った。コンコースをあちこち探してやっとトイレの場所を見付け、いつものように黒いマークの方に入ろうとしてハッと重大なことにボクは気付いた。
 
『やっぱり女子トイレに入らないといけない!?』
 
改めて自分の姿を見てみると可愛いフリル付きのブラウスにフレアースカート。この格好でまさか男子トイレに入る訳にはいかない。ボクはいったんトイレのところから離れたが、やはり我慢できない。乗り換えの電車が出るまでまだ30分以上あるのだ。ボクは大きく肩で息を吸うと、思い切って赤いマークの付いた方に入ったが、その中で列ができているのを見てびっくりした。何?この列?これに並ぶの??
 
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列に並んでいる間はもう心臓が止まりそうなのを必死で抑えていた。そして列の先頭まで来てから個室があくのを見るとすぐにそこに飛び込み、用を済ませた。しかし個室を出ると今度は更に手を洗う列に並ぶ羽目になった。女子トイレってどうしてこんなに混んでるんだ〜!?
 
川本さんのペンションに着いて「娘の順子です」と紹介され「こんにちは」と挨拶をする。女の子っぽい声の出し方については普段から家の中でかなり練習していたのでこれは平気だ。すると「あら可愛い子ね」と言われてボクはつい頬を赤らめてしまった。すると「なんだか最近珍しい純情そうな女の子だこと」
などと言われてボクはますます赤くなってしまった。
 
川本衣子さんたちはご夫婦だけでペンションをしていて、改装作業も御主人が一人でやっていた。元々大工さんをしていたらしく、こういうのは得意らしい。衣子さんはボクたちを近所の古い神社とか歴史遺跡などに連れて行ってくれた。しかしそれよりもその付近の自然がとてもきれいで、最初の頃ボクの心の中に少しあった女の子の格好をしていることに関する不安はどこかに消えてしまっていた。
 
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その晩ボクと礼子さんが二人でお風呂に入っていると、なんと衣子さんが中に入ってきた。ボクは慌ててタオルで身体の前を全部隠した。礼子さんとかなりじゃれあっていた。おっぱいなどつかみ合っているのを見るともうホントに目のやり場に困る。が衣子さんが「順子ちゃん背中流してあげようか?」などと声を掛けられると、それはさすがにヤバイので「あ、いえもう上がります」
と言って、慌てて浴室から逃げ出した。
 
翌日、礼子さんが化粧水を持ってくるのを忘れたというので買物をしに近くの町まで一緒に出かけた。ちょうど香水フェアをやっていてサンプルがたくさん置いてあるのを見て礼子さんはそれをチェックし始めた。ボクはちょっと手持ちぶさたになったので店内を少し歩いて回っていた。その時彼女の姿を認めた。
 
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「なんでこんな所に....」それは同級生の神崎幸子だった。小学校の低学年の頃まではいつも一緒に遊んでいたのだが、3年生の時にクラスが分かれて以降は少し疎遠になっていた。しかし中学に入ってまた同じクラスになり恋愛感情などは無いものの、お互いかなりハッキリ物を言い合える仲でもある。ボクはさすがに顔を合わせるのはまずいと思って、化粧品ショップを足早に出ると近くにあった本屋さんでセブンティーンを立ち読みし始めた。
 
やがて化粧品ショップで買物を済ませたらしく礼子さんが出てきてキョロキョロとしていたのでボクは雑誌を置いてそちらへ行った。近くに幸子はいないようだ。「ごめん。知ってる人がいたものだから」「えー!?こんな所に?他人の空似なんじゃない?」そういわれるとそんな気もしてきた。そうだ。似ている人は幾らでもいる。
 
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お昼近くになったので近くのファミレスに移動してお昼を食べることにした。地元の牛を使っているというステーキはとてもおいしく満足した。満足した所でトイレに行きたくなる。当然女子トイレに入らねばならない。ちょっと気が重いが名古屋駅ほどは混んでいないだろう。ドアを開けると誰もいなかった。ほっとして用を達し手を洗って出ようとした所で外側からドアが開いて女の子が一人入って来ようとしていた。「あ、御免」お互いに言って後ろに下がるがその瞬間、ボクは凍り付く気がした。神崎幸子だ。他人の空似じゃない。本人だと確信した。しかし向こうはボクに気付いた風はない。だって彼女がふだん見ているのは学生服のボクだ。ボクはさっと外に出るとドアをキープして彼女を中に入れてあげた。彼女は会釈して中に消えていった。
 
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「お母さん。やっぱり彼女だよ。間違いない」ボクはテーブルに戻ると、そう礼子さんに言った。「ふーん。たまたまこっちに旅行で来たのかな。じゃもう出ようか」ボクたちはすぐに席を立った。そしてそのままペンションに戻るかと思ったのだが、礼子さんはその前にお菓子屋さんに寄るとケーキを6個買った。「衣子に頼まれたんだ」「ふーん」。この時なぜボクは『6個』という数字について何も考えなかったのか、今思い出すと不思議だ。
 
やがてタクシーでペンションに戻る。「ただいま」と礼子さんが声を掛けると「はーい」という妙に若い女の子の声がしてパタパタと走ってくる音がするとドアが開いた。「お帰りなさい」とボクたちに笑顔で微笑みかけるその女の子の顔を見てボクは一瞬にして諦めの境地に到達した。
 
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それは間違いなく神崎幸子であった。
 
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