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■振袖モデルの日々(4)

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撮影終了後はまた水戸駅まで送ってもらい、帰りの電車賃をもらったが、姉が「おやつをおごってくれる」ということで、ふたりは駅ビル内のケーキショップに入り、ケーキセットを注文した。
 
「こんな所、久しぶりに来た」
と鈴佳が言うと
「私もこういう臨時収入でもあった時くらいしか来られないよ」
と玲花も言う。
 
ケーキはとても美味しく、ふたりとも気分がよくなって会話が弾む。鈴佳は姉とこんなにたくさん会話したのって、もう4〜5年ぶりじゃなかろうかと思った。小さい頃はたくさん話していたのに、やはり姉が小学5−6年生頃、今から思えば思春期が来た頃から、ふたりの会話は事務的なレベルに留まるようになっていた。
 
「ところであげた服着てみた?」
などと玲花が言うので、鈴佳はギクっとする。
 
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「ああ、その表情だと着てみたな」
「ちょっとだけだよ」
「スカートもいいでしょ?」
「ちょっと足が涼しいんだけど、夏ならよけい快適かもという気がした」
「まあスカートはそれが長所でもあり短所でもあるね」
 
「でもお姉ちゃん、制服以外ではあまりスカート穿いてない気もする」
「うん。最近の女子はあまりスカート穿かないんだよね〜」
「へー。そういうもん?」
「最近はむしろスカートは女装男子の方がたくさん消費しているかも知れん」
 
鈴佳はむせ込んだ。
 
「女装男子が増えると日本経済は活性化するよ」
「なんで?」
「だって女装男子って、男の服も女の服も両方買うんだよ」
「なるほどー」
「しかも女装男子には、服のコレクションに走る人が結構多い。天然女子以上に女物の服を買う。そもそも男性は女性より経済力が大きい人が多いから購入力も大きい」
 
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「確かに」
「だから女装男子を増やすのは経済効果が大きい」
「なんかその結論だけ聞くと、凄く嘘くさい気がする」
 

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ケーキショップで1時間くらいおしゃべりしてから、そろそろ帰ろうかということになる。それでお店を出て切符売場の方に行こうとしていたら、
 
「大沼さん」
と呼ぶ声がある。そちらを見ると、戦車ギャル・プロジェクトの運営委員に入っていた女性で、確か東京の大手芸能プロに所属する・・・石原さんとか言ったかな。
 
「こんにちは、石原さん」
と取り敢えず笑顔で挨拶する。
 
「ねえ、君たち今3〜4時間くらい時間ある?」
「あ、はい」
と玲花が代表して答える。今16時くらいだ。4時間かかっても20時。ちゃんと親に連絡しておけば問題無い範囲だろう。
 
「もしよかったら、ちょっと振袖のモデルしてくれない?」
「振袖ですか?」
 
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「成人式用振袖の広告モデルを頼まれていたんだけどさ。アサインしていた子が体調が悪くて出て来られないという連絡が入って、それで誰か他の子で使えそうな子が居ないか、今事務所のほうで緊急に当たってもらっている所なんだけど、君たちけっこう振袖も似合いそうな気がして」
 
「着たことないですけど」
と玲花が言う。
「君たち高校生?」
「私が高校1年、妹は中学1年です」
 
と玲花が答える。
 
鈴佳はドキドキした。そっかー。僕、今女の子のふりしてるから、お姉ちゃんにとっては僕は弟ではなく妹なのか。
 
何かそれは凄く新鮮な発見のような気がした。
 
「だったら着たことないかもね。でもふたりとも結構背丈があるから。今回の戦車ギャル自体が身長160cm以上を実は内々の条件にしてたんだよね」
 
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「ああ、確かに背の高い子ばかり残ったなと思ってました」
「そういう身長の子は振袖でも映えるんだよ」
 
「確かにモデルさんって背の高い方が有利ですよね」
 

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それで結果的に振袖モデルに同意したような感じになった。石原さんは事務所に電話して、代役の子を確保したので、もう探さなくていいと連絡していた。
 
「済みません。先にトイレ行っておいていいですか?」
と玲花が訊く。
「うん。どうぞどうぞ。それから撮影場所に移動しよう」
 
それで玲花がトイレの方に行き、何となく鈴佳も一緒にそちらに行く。それでトイレの前で当然玲花は女子トイレの方に入る。鈴佳は男子トイレの方に行こうとしたのだが、玲花にキャッチされる。
 
「何してる?」
「え?トイレ」
「あんた今女の子でしょ?」
「あ、そういえば」
「だったらトイレも女子トイレ使わなきゃ」
「え〜!?」
 

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それで姉に連れられて、女子トイレの中に入ってしまう。
 
鈴佳はこれ先日尚美と話した『今だけ女』なんじゃないかと思った。あの時、鈴佳は尚美には「そんな変態、逮捕されて当然」などと言った。僕、逮捕されちゃったらどうしよう? 尚美が軽蔑した目で自分を見る所が想像されてしまう。
 
「お姉ちゃん、まずいよぉ」
と情けない声で言うが
「おどおどしていたら変に思われるよ」
と姉は言う。
 
鈴佳はマジでこれが女子トイレ初体験であった。まず見慣れた小便器がどこにもないので戸惑う。ひたすら個室のドアが並んでいる。男子トイレだと小便器がずらっと並んでいて、個室は1個しかないことが多い。何だか異界のトイレにでも来た気分である。
 
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そして更に戸惑ったのが「列」である。個室は数えてみると扉が10個あるのだが、どうも全部ふさがっているようである。そして空くのを待っている人が列を作っている。
 
男子トイレでは列ができるのって、めったにないことであるが、そういえば先日、尚美は女子トイレではいつも列ができてるんだと言ってたっけ?何でこんなに列ができるのさ?
 
列はゆっくりはけていく。そしてとうとう前に並んでいる人がいなくなり、次に個室が空いた時、玲花は鈴佳の手を引いて一緒に中に入ってしまった。
 
「一緒に入ってどうするの?」
「まず私がおしっこするから目をつぶってて」
「うん」
 
それで鈴佳が目を瞑っている内に玲花はおしっこをしたようである。何だかゴゴゴゴゴという音が鳴り、それに混じって水音が聞こえた。それが停まってから少しして水を流す音がする。
 
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「じゃあんたの番」
と言われる。
「お姉ちゃん、目を瞑ってよ」
「ダメ。見てる」
「え〜?」
とは言ったものの、トイレまで来てしまうと条件反射で、おしっこが凄くしたい。それで、もう姉の目は気にしないことにして、鈴佳はズボンのファスナーを降ろして、おちんちんを取りだそうとしたのだが
 
「それダメ」
と姉から言われる。
 
「なんで〜?」
「女の子は座ってするもの」
「そんなことまで合わせないといけないの?」
「当然」
 
それで鈴佳は便器に向かっていたのを逆にドア側に向き直り、ズボンとパンティをさげて便器に座った。
 
「どうしたの?」
と姉が訊く。
「おしっこって、どうするんだっけ?」
「あんたいつもしてるでしょ?」
「いつも立ってしてるから座ってする仕方が分からない」
 
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「男の子って不便ね。でも大する時は座るでしょ?」
「うん。でも両方一緒に出ちゃう」
「座った状態で、大は我慢して小だけ出すようにできない?」
「あ、それで行けるかも」
 
それで後ろの方を引き締めたまま、前の方だけ筋肉を緩めるような感覚にしてみる。
 
「あ、出た」
 
その瞬間姉が、壁にある操作パネルのどこかを押した。ゴゴゴゴゴという音がする。
 
「良かったね」
と姉が言う。
 
「でもこれ今まで体験したことのなかった感覚だよ」
「だったら、それに慣れるのに今度からはいつも座ってするようにしよう」
「え〜!?」
 
「最近、座ってする男性が増えているらしいから、問題無いよ」
「ほんとに?」
 
鈴佳は姉が操作したパネルのことも訊いてみた。
 
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「そこを押すと音が鳴るの?」
「そう。これは音消しだよ」
「音消し?」
「だっておしっこしている時の音を他人に聞かれたら恥ずかしいじゃん」
「なんで?」
「女は恥ずかしがるものなの。だからあんたも女子トイレ使う時はこの音姫を作動させなきゃダメだよ」
「へー。そういう女の子の心理はよく分からないや」
 
「昔はこういうものが無かったから、みんなおしっこする前に一度水を流してたんだよ。その流れる音がしている間におしっこする」
 
「水がもったいないよ」
「そうそう。それで水の使用量を減らすためにこの音姫が発明されたんだよ」
 
「でもそれの音、水が流れる音とは違うよ」
「おしっこの音が隠せたらいいんだよ」
「へー」
 
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それでおしっこが終わり、立ち上がろうとすると
「拭いて」
と言われる。
 
「何それ?」
「女の子はおしっこした後、あのあたりを拭くんだよ」
「拭くって何(なに)で?」
「トイレットペーパーに決まってる」
「へー!」
 
「知らなかった?」
「知らなかった!」
 
それで姉に教えられてトイレットペーパーを10cm程度取ると、それを丸めておちんちんの先のあたりを拭く。何かすごーく変な感じ。
 
それでパンティを穿こうとしたのだが
「それ違う」
と言われる。
 
「何が違うの〜?」
「おちんちんの向きは上ではなく下」
「へ?」
 
「おちんちんを上向きに収納すると、おちんちんの形がガードルの上からでも注意すると結構分かる。万一大きくなったら飛び出す。下向きにすると目立たないんだよ。女装サイトに書いてあった」
 
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女装サイトって何それ?と思ったものの、それで言われてしようとするが、下向きにパンティの中に入れようとすると、タマタマが邪魔である。
 
「障害物があるんだけど」
「タマタマは体内に格納できるはず」
「あ。確かに入る」
「やり方分かる?」
「うん。それは遊んでて入れられる場所見付けたことある」
 
それで鈴佳はタマタマを両方とも体内に押し込み、その上でおちんちんを下向きにしたままパンティを上げた。それでガードルも穿くと、本当におちんちんやタマタマが付いてないかのような外見になる。
 
「これすごーい」
「これからは毎日そうするといいよ」
「それじゃ立っておしっこできないよ」
「だから座ってすればいいんだよ」
「でも男子トイレ、個室少ないから」
「だから女子トイレに入ればいいじゃん」
「うっ・・・」
 
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あまり個室の中で時間を取ってもいけないので、それで流して個室を出る。そして手を洗ってトイレから出たら、女子トイレの前で石原さんは待っていた。鈴佳は内心ギョッとした。もし自分が男子トイレに入っていたら、ここで変に思われていたところである。
 
それで彼女に一礼して、一緒にタクシー乗り場の方に行った。
 
 
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