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■振袖モデルの日々(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-01-01

 
それは10月のある日のことであった。
 
高校1年生の玲花(れいか)はネットショップの数字を見て
「うーん・・・・」
と悩むと、
「バイトしよっ」
と言って、情報誌を取りにコンビニまで出かけた。
 
コンビニに行ったついでにガルボを買い、レジ横に積まれているバイト情報誌を1部取り、出ようとして、コンビニのドア横に貼ってあった紙に気づく。
 
「へ〜、戦車ギャル・モデル募集かぁ。何か面白そう。あ、これ明日じゃん!行ってみようかな」
 

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それで翌日玲花はモデルのオーディションをやるという市の中心部にあるホテルまで出かけて行った。
 
「戦車ギャルのモデル・オーディションに来たんですけど」
と言って書いてきた写真付きの履歴書を出す。
 
「はい。ではここに名前を書いて下さい」
と言われるので名前を書き、番号札と案内の紙をもらった。
 
それで案内を読んでいてギョッとする。
 
・服装 半袖またはノースリーブのポロシャツ・キャミソール等、膝上のスカート。
 
私、ズボン穿いて来ちゃったよぉ。
 

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中学1年生の鈴佳(すずよし)は学校からの帰り、たまたま近所に住む尚美(なおみ)と一緒になった。彼女とは幼稚園の頃からの親友である。多くの他の女子の友人とは小学3〜4年頃から次第に縁遠くなっていったが、なぜか彼女とだけはずっと友人であり続けている。
 
むろんふたりの間には恋愛感情は無い(ということを中学に入る時にお互い確認し合っている)。
 
「そういえば大阪だかの高速のサービスエリアのトイレに『今だけ男』禁止って貼り紙がされたらしいよ」
 
「何それ?」
「トイレってさ、特に女子トイレは混むじゃん」
「混むじゃんと言われても、僕女子トイレは入ったこと無いし」
「一度入ってみるといいよ。いつも凄い列ができてるから」
「入ったら捕まるよ!」
 
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「そう。そこが問題。男の子が女子トイレに入ったら痴漢で捕まるじゃん」
「そんな変態は逮捕されて当然」
「でも女子トイレが混んでる時に、男子トイレに侵入していくおばちゃんがいるじゃん」
「ああ。見たことある! なんで女の人がいるの?と思って。ここ女子トイレだっけ?と焦ったことあるよ」
 
「だからそういうおばちゃんが『今だけちょっと男』とか言って男子トイレを使うの禁止ってことよ」
「男子トイレに侵入するおばちゃんも痴漢として逮捕すればいいのに」
「全く全く」
 
「だけど男子トイレに平気で入っていけるって、そもそもその人女を捨ててる気がする」
と鈴佳は言う。
「うん。だから『今だけ男』じゃなくて『ずっと男』なら、まあ男子トイレに入ってもいいかもね」
と尚美。
 
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「それは性転換して、ちんちん付けてもらわなきゃ」
「女の子の前で、ちんちんとか言わないでよ」
「えー!?じゃ、何て言えばいいのさ?」
「そうだなあ。男性専用排出器具とか」
「別にあれ器具じゃなくて、身体に作り付けなんだけど」
「不便ね」
「なんで〜?」
 

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「そういえば、スズ、電子辞書は買わないの?」
と尚美は話題を変えて言った。
 
「欲しいんだけどね〜。お父ちゃんに言っても、辞書なんて紙のものを使った方が覚えるんだって言われちゃって」
 
「まあそれはそうだけど、電子辞書だと1個で英和・和英・国語・漢和・古文と全部済んじゃうからね。重たい辞書いくつも持ち歩かなくて助かる。問題とかも解けるし」
 
「うん。そのあたり説明しても分かってくれないみたいで」
「私の貸すから見せてみたら? こんなに使えるんだって」
「場合によってはナオに頼むかも。でも1月にお年玉をもらえたら、それで貯金と合わせて自分で買えるかもとは思ってるんだよね」
 
「自分で買うなんて偉ーい」
「バイトでもできたらすぐ買えるんだろうけど」
「中学生でバイト雇ってくれる所は無いと思うよ」
「だよねー」
 
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一方オーディションに来ていた玲花はこの戦車ギャルの応募要項が掲載されていたネットのURLを自分のスマホで開いてみる。それで読んでみると、そこにもちゃんと「スカートで来て下さい」というのが書いてある。
 
あちゃぁ〜。見落としていたよ。どうしよう?
 
それで悩んだ末に自宅に電話してみた。5回くらい鳴った所で弟が出た。
 
「はい、大沼です」
と弟の鈴佳(すずよし)の声。
 
「なんだあんたか。お母ちゃんは?」
「出かけてるみたい」
「仕方ないなあ。じゃ、あんたでもいいからさ。ちょっと頼まれてくれない?」
「何?」
 
「私、今日オーディション受けに来てるんだけど、スカート穿いてこないといけないのにズボン穿いて来ちゃってさあ。悪いけど、私のスカート持ってここに来てくれない? うん。**町のKKホテル3階」
 
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などと話していたら、スタッフさんから注意される。
「済みません。オーディションが終わるまでは携帯の電源は切っておいてください」
 
「すみませーん」
と玲花は謝り、弟に
「じゃ頼んだよ」
と言って切った。
 

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鈴佳(すずよし)は尚美と自宅前で手を振って別れたあと、鍵を開けて中に入ると電話が鳴っているのに気づく。慌てて飛び付くようにして取った。すると姉からの電話で、
 
「私のスカート持ってKKホテルまで来て」
と言われて戸惑った。
 
どんなスカートなのかと聞きたかったのだが、電話は「じゃ頼んだよ」という言葉で切れてしまう。
 
しょうがないなあ。適当に何着か持って行くか、と思い姉の部屋に入る。
 
ちょっとドキドキする。
 
小さい頃はふつうに入って姉の部屋の本棚にある少しませた本など読みドキドキしたりしたものだが、やはりお互いある程度の年齢になると、姉弟とはいえ、異性の部屋に入るのは抵抗感を感じるようになった。実際ここに入るのも半年ぶりくらいである。
 
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「スカートとかタンスに入っているのかなあ」
などと独り言を言いながら整理ダンスの段を適当に開けると、ブラジャーとかパンティとかが大量に入っていて「わっ」と思う。
 
慌てて閉める。
 
その下の段も何だか下着でいっぱいだ。
 
姉ちゃん、どんだけ下着持ってるんだ!?
 
そんなことを思いながら更にその下の段を開けるとポロシャツやTシャツの類いである。更に下の段を開けると、やっとそこにスカートやズボンの類が入っていた。
 
さて、なんかのオーディションに行くとか言ってたみたいだし、可愛いのがいいのかなあと思い、幾つか取り出してみる。
 
うーん・・・・。
 
あまり可愛いのが無いなあ。
 

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と思っていた時、突然部屋のドアが開く。
 
「わっ」
と声を出して驚く。
 
母であった。
 
「お母ちゃん、お帰り」
「ただいま。鈴佳(すずよし)、あんた何やってんの?お姉ちゃんの服とか出して。あんた女装でもすんの?」
 
「まさか。お姉ちゃんからスカート持って来てくれって言われたんだよ。何かスカート穿いて行かないといけないのに、ズボン穿いて行っちゃったんだって」
 
「ふーん。じゃ私が見てあげようか」
「助かる!僕女の子の服って全然分からなくて」
 
それで結局母がわりと可愛い目のスカートを3つ選んでくれて
「ついでにこれも持って行った方がいいかも」
と言って、キャミソールを2着、水着を2着選び、全部まとめて紙袋に入れてくれた。
 
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それで鈴佳はバスに乗って町の中心部に出てKKホテルに行った。
 

鈴佳が3階まで上っていくと、受付の所の人たちがテーブルを片付けようとしていた。
 
「君は?」
と聞かれるので
「今日こちらのオーディションを受けるのに来た姉が忘れ物をしたということだったので届けに来ました」
と答える。
 
「じゃ、そこの鳳の間だから」
と言われ、
「ありがとうございます」
と答えて行こうとしたのだが
「あ。待って」
と言って呼び止められる。
 
「君、何かセンスいいね。君もオーディション受けない?」
「え〜?」
「お姉さんが受けるんでしょ? 一緒にいいじゃん」
「でも何のオーディションなんですか? 全然話を聞いてなくて」
 
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「戦車に乗ったり、横に立ったりして一緒に写真に写るんだよ」
「戦車ですか!?」
 
この時、鈴佳は世間で女の子が戦車に乗ってスポーツ競技する漫画が流行っているなんて夢にも思わなかったのである。
 
「どう、やってみない?」
と言われると
「戦車は割と好きかも」
と答えてしまう。
 
鈴佳は小学4−5年生の頃、戦車のプラモデル作りにかなりハマっていた時期があったのである。
 
「じゃここに名前書いて」
と言われるので
《大沼鈴佳》 
と記入。それで328番と手書きで書かれた番号札をもらい、首からさげた。用意していた番号が足りなくなって手書きになったのかな?などと思った。
 

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それで控室に入って姉を探す。
 
ふーん。戦車とかのオーディションにしては女の子が多いなあ、などと思いながら部屋の中を歩き回る。5分近く歩き回って、やっと見付ける。姉は121と数字が印刷された番号札をさげていた。
 
「お姉ちゃん」
「おお、助かった」
 
「お母ちゃんがちょうど帰ってきたからお母ちゃんに見てもらって、3つ持って来たけど」
「それは助かった。このスカートが好きかなあ。ちょっと着替えてくるから、ここで待ってて」
「うん。そうだ。お母ちゃん、念のためと言ってキャミソールと水着も入れてたけど」
「え?ちょっと待って」
 
と言って玲花は案内の紙を見ている。
 
「あぁ、半袖かノースリーブと書いてあった。じゃ、このキャミソール着よう」
 
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それで姉はスカートとキャミを1枚ずつ持つと控室から出てホテルのトイレに行き着換えて来た。
 
「ありがとね。この着替えたポロシャツとズボンは他の服と一緒に持ち帰ってくれる?」
「うん。いいよ」
と言って姉の着替えを受け取って袋の中に入れる。
 
その時、玲花は初めて「それ」に気づいた。
 
「あんた、なんで番号札掛けてるの?」
「案内の所でお姉ちゃんの忘れ物持って来たんですと言ったんだけど、あんたもオーディション受けなさいといわれて、名前書いて、この番号札もらった」
 
「だってこれ女の子のオーディションなのに」
「え〜〜!?」
「でもあんた、女の子と思えば女の子に見えるかもね。どっちみちすぐ落とされるだろうし、あんたも受けてもいいかも」
 
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「うーん・・・」
「あんたもキャミとスカートに着替える?その服貸してあげるよ」
「やだ」
 

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