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■夏の日の想い出・受験生の冬(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2011-11-11/改訂 2012-11-11
 
高校2年生の8月から12月までボクと政子は「ローズ+リリー」という女子高生歌手デュオとして活動していたが、その活動はボクが実は男であったという写真週刊誌の報道で停止することになってしまい、その後、ボクたちはふつうの高校生生活、そして受験生生活を送ることになった。
 
政子は最初志望校にしていた△△△大学文学部に少し厳しいくらいの成績だったが、ボクが一緒に通おうよと言って志望校をそこに変更したのに加え、成績が落ちたら父親が長期出張中のタイに連れていくという脅し?の効果もあり、頑張って勉強して成績を上げてきて、何とか夏以降は合格圏内をキープしていた。
 
12月。校内はほんとうに慌ただしくなる。早朝補講から放課後補講までみっちり鍛えられる。塾に行く子はその後毎晩9時頃まで塾で講義を受けているようだった。ボクたちのグループは塾には行かずに各自、自分のペースで勉強を続けていたが、政子の家に週2度、水曜と土曜に集まって合同勉強会をしていた。政子の家にはボクと同じクラスの女子2人に琴絵と同じクラスの女子2人も加わり、多い時は10人以上で居間を占領して一緒に勉強をしていた。みんな脱塾組であった。分からない所があると、分かりそうな友人に電話して聞いたりもしていた。
 
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そんな慌ただしい中で12月19日土曜日の午後、ボクはコーラス部で市内のクリスマスコンサートに参加した。受験勉強で忙しい時期なので3年生は6人しか出てきていない。ボクはその日の昼、政子の家に寄って制服を借りて着換え、市民会館まで行き、みんなと合流した。
 
「今日は女子制服で来たのね」と元部長の風花。
「はい。お昼に友達の家に寄って借りてきました。この制服で外を歩いたの初めて」
「外出体験できて良かったね」と少しニヤニヤしている元副部長の詩津紅。
 
今日は自由参加なので人数が当日まで確定していなかったのだが、結局50人ほどの大人数になった。ステージに登る。今日はピアノは1年生の絵里花が弾き、指揮は2年の副部長の聖子がした。「ホワイトクリスマス」を歌う。この曲、去年クリスマスライブで歌う予定でたくさん練習したなあ、などと思い出す。例の週刊誌のスクープはちょうど1年前の今日だった。
 
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そのクリスマスライブはボクたちが突然出られなくなってしまったので、△△社所属のピューリーズというまだデビュー前の女子高生3人組のユニットが代わりに出演した。ボクたちの活躍を見て、△△社に売り込んできた仲良し3人組で、当時はまだデビューに向けてレッスンなど受けていたのだが、そのクリスマスライブへの出演をきっかけに人気が出て、インディーズのCDを2枚ほどリリースした後、先月メジャーデビューを果たしていた。彼女たちのCDはボクも全部買っていた。代役か・・・とボクは思う。ローズ+リリー自体がリリーフラワーズの代役として生まれたユニットだったけど、この世界、代役って大事なんだなあと思った。
 
「ホワイトクリスマス」の後、続けて「恋人はサンタクロース」を歌おうとした時、指揮棒を持った聖子が突然指揮台でうずくまった。え?
ボクと風花、2年の部長・来美、袖で待機していた先生が駆け寄った。
他にも駆け寄ろうとした子がいたが、詩津紅が制止した。
 
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「ごめん、腹痛が・・・」と聖子。
「私が医務係の所に連れていく」と風花。
「先輩、ダメ。先輩は最後のステージなんだから。私が連れて行く」と来美。「すみません」と苦しそうな聖子。「指揮、誰か代わってください」
それを聞いて、風花が「冬ちゃん、指揮する?」と言った。
「します!」
 
ボクは反射的にそう言うと聖子から指揮棒を受け取る。来美と先生の2人で聖子を舞台の下手袖へ連れていき、風花は自分のパートの所に戻った。
 
ボクは客席に向かって「大変失礼しました。今医務に連れて行きましたので、大丈夫だと思います。それでは、演奏を続けます」と大きな声で言うと、みんなにも「行くよ」と声を掛け、ピアノの絵里花へ演奏開始の合図。前奏に続いて「恋人はサンタクロース」をボクの指揮に合わせてみんなが歌い出す。
 
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演奏が終わって袖に引き上げる。風花が医務係の所に走って行ったが、ほどなく戻って来て
 
「ただの食べ過ぎだって」と言う。
「お昼に、お餅8個食べてきたって」
「お正月にはまだ早いよ」と笑って美野里。
 
「冬ちゃん、指揮、ありがとうね。何かあったら私も呼ばれるかもと思ったから、冬ちゃんにお願いした。それに冬ちゃんなら上がったりしないだろうし、ハプニングにも対処できると思ったから」
「貴重な体験をさせてもらいました」
 
「あそこで冬ちゃんが一言客席に向かって言ってくれたので、客席も鎮まったし、うちの部員も気持ちを切り替えられたよね。あのあたりはさすがと思ったよ」
「いや、そのあたりは半ば反射神経で」
 
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客席の方にみんなで戻り、他の学校の歌を聴いているうちに、来美と先生に付き添われて聖子も戻って来た。「ごめんなさーい」と言っている。
「腹も身の内!」などと声が飛んでいる。
 
クリスマスのお祭りなので、みんなリラックスしたムードで、のびのびと歌っている。コンテストの場合はどうしても緊張感があるが、こういうのんびりしたムードの中で歌うというのもいいな、とボクは思った。
 
クリスマスコンサートが終わるのが遅い時刻なので、制服は明日政子の家に返しに行くことになっていた。その日は女子制服のまま帰宅する。
 

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市民会館を出て、みんなと一緒に地下鉄の駅の方に歩いて行き掛けた時、ボクはある人影に気付いた。みんなに「ちょっと御免」と言って、その人物の方に走って行った。その人物はこちらに気付いてビクッとした様子で、一瞬どこかへ行こうとしたようであったが、すぐに動きを止めてボクが寄ってくるのを待った。
 
「須藤さん!」
「冬ちゃん、久しぶり」
「お元気そうで何よりです」
「ちょっとここ目立つから、そこの公園に行かない?寒いけど」
「はい」
 
ボクたちは夜の公園に入り、ベンチに腰掛けた。今日は昼間晴れていた分、夜になると冷え込んでいる。今も星空が見えているが、その分寒い。
 
「私ほんとはさ、まだ冬ちゃんたちに会ってはいけないことになってるの」
「たぶんそうだと思ってました。あ、蜂蜜ありがとうございました」
「分かってくれたのね。冬ちゃんたちには多分通じると思ったから」
「じゃ、今夜は会ったりはしてないことに」
 
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「うん。今は女子制服で通学しているの?」
「ううん。学生服。これは今日コーラス部のクリスマスコンサートに出るのに政子から借りたの。私、一応コーラス部ではソプラノ歌ってるし」
「わあ」
「学生服着てるけど、学校では女子トイレ使うし、1学期の体育は女子と一緒に受けたし」
「へー」
「でも学校外で学生服のまま女子トイレに入ったら通報されちゃう」
「あはは」
 
「冬ちゃんの指揮見たよ」
「えー?今日のコンサートにいらしてたんですか?」
「1時頃、通りがかりにチラッと冬ちゃんを見かけたから、あれ?このコンサートに出るのかな、と思って当日券買って入った」
「わあ、ありがとうございます」
「でも指揮を代わったあとで客席に向かってひとこと。あれでさっと場を落ち着かせたね。さすがだね」
「ただの反射神経です」
 
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「冬ちゃんって土壇場とか修羅場とかにめちゃくちゃ強いんだよね。指揮は自分でするって言ったの?」
「部長さん、というかもう引退してるので元部長ですけど、その人に指名されたの」
「冬ちゃんの性格をよく知ってるんだね」
 
「でもちょうど1年前でしたね。例の週刊誌の記事」
 
「うん。でも、あれはもっと私がうまくやるべきだったよ。もっと早い時期に冬ちゃんの性別のことについてちゃんとした形で説明して、女の子の格好を続けるにしても、男の子の格好に戻るにしても、きちんとした道筋を作っていれば、あんな騒ぎにもならなかったし、冬ちゃんにも辛い思いさせなくて済んだと思う。でも、ベスト盤発売の時のラジオでのふたりの掛け合いの時も冬ちゃん『心は女の子』って言ってたし、こないだのBH音楽賞の授賞式にもミニスカで出てたし、その後の難病の子を御見舞いに行ったという報道でも、スカート穿いた写真だったし、今もそういう格好してるし、冬ちゃん、やっぱり女の子になる道を選んじゃったのね」
 
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「うん。私、もう男の子には戻れない」
 
「そうか。私が冬ちゃんの人生変えちゃったのかなあ」
「というより、あのお陰で私、本来の自分になることができたと思う」
「そう・・・」
須藤さんは微笑んだ。
 
「いつ頃、会えるの?私達の受験が終わってから?」
「半年後に会いましょ。来年の6月11日。でもまさか浪人しないよね?」
「それは大丈夫」
「お願いね。浪人されると会えるのも1年延びちゃう」
「電話番号教えとく。私も政子もあの後、携帯・家電とも番号変えちゃったし」
ボクは電話番号のメモを渡した。
「私の携帯の番号も念のため渡すね。でも自分の携帯には登録しないで。誰かに見られて連絡を取り合ってると思われるとまずいから」
「うん」
 
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「でも、これまでに甲斐さんも含めて100人近くスカウトさん来た。最初あまりの凄さに整理券配ったよ」
「うふふ。冬ちゃんたちはいい素材だもん。もし気に入った所があったら私に気兼ねせずに契約してね。そもそも私、お金無いから大した給料払えないし」
「私が稼ぐから大丈夫」
「お、自信だね」
 
「半年後か・・・それまでに私自身もっと鍛えるし、やっておきたい事もあるな」
「受験勉強忙しいのにコーラス部なんてしてたのも歌唱力付けるため?」
 
「うん。あとエレクトーンも習いに行ってるの。他に受験勉強の合間に和声法とか対位法とか、音楽理論の本をたくさん読んでる。政子の方も肺活量付けるといって毎日ジョギングしてるし、自宅にカラオケ入れて毎日歌ってるし」
 
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「へー」
「ただ政子はステージに立つ歌手として復帰するつもり、あまり無いかも。私と一緒にアルバム制作だけしたいって言ってる」
 
「ふーん。。。でも今は受験勉強頑張って」
「うん」
「今日会っちゃったことは誰にも言わないでね。政子ちゃんにも言っちゃだめよ」
「うん。10秒後に会ったこと自体を忘れる」
「ありがとう」
 
ボクは須藤さんにサヨナラして、駅の方に走って行った。誰かが待っててくれてるかもと思ったのだが、果たして地下鉄の入口のところで風花が待っていてくれた。
「ごめーん。ちょっとしばらく会ってなかった知り合いに会ったものだから」
「あと5分戻ってこなかったら探しに行くとこだった」
「ごめんねー」
 
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この日須藤さんに会ったことは、ほんとに誰にも言っていない。政子にも言わなかった。ボクは何でも政子にだけは打ち明けているけど、これだけはボクの秘密だ。なぜって、この日、須藤さんと来年6月に会えると知ったから、ボクはそれまでに、去勢と豊胸をすることを心に決めたのだから。
 
この頃、もうボクは性転換することをほとんど決めて、実はコーディネーターの人とも数回会って話していたのだけど、具体的な手術のタイミングはまだはっきりさせていなかった。しかし昨年、自分の性別のことでみんなに迷惑を掛けたから、次に須藤さんと会う6月までに、せめて女の子に見える身体にはなっておこうと決意したのだった。
 

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