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■夏の日の想い出・受験生の冬(5)

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入学試験があった翌週に、合格発表があった。私も政子も無事合格していた。しかし私たちと一緒に同じ文学部を受けた友人の礼美の受験番号は合格者リストの中に無かった。
 
私も政子も「ちょっと声掛けにくいね・・・」などと言っていたのだが、当人から私の携帯に電話が入り「落ちちゃったぁ」などと明るい声。
 
「どうするの?」
「併願してたM大学には通ってるから、そちらに行く。とても浪人とかはさせてもらえないもん」
「残念だね。でも同じ都内だし、また会えるよ」
「うん。また一緒に遊ぼうね」
 

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3月4日、ボクたちは卒業式を迎えた。
 
思えば色々なことがあった3年間だった。1年生の時は教室の中ではおどおどしている時間が多くて、いわゆる「目立たない子」だったし、勉強もあまりよく分からなくて、放課後に書道部に行き、政子や花見さんなどと雑談しながら毛筆で色々字を書いてる時間だけが楽しかった。2年生になって英語の先生との相性が良かったことから結構勉強するようになったけど、やはり夏休みに始めたローズ+リリーの活動がボクの全てを変えた。その活動の期間は短かったけど、それ以降のボクの高校生活は超濃厚密度という感じだった。様々なイベント、様々な友人との交流の記憶が頭の中に去来する。
 
卒業式の朝、ボクはその日の朝御飯当番だったので、鮭を焼きながらお味噌汁を作り、作り置きの、ひじきの煮物、父の好物である梅干しなどを並べた。みんなそろった頃にロースターの鮭が丁度焼けたので皿に取って配り、家族4人で朝御飯を食べる。
 
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終わってから食器を片付け、そのあといつものように学生服に着換えて出かけようとした時、母に呼び止められた。
 
「冬、今日はこれを着て行きなさいよ」
と言って、母が出してきたのは、うちの高校の女子制服だった!
 
「これ・・・・どうしたの?」
「昨日、仁恵さんが持ってきてくれたの。仁恵さん、洗い替え用に制服を2着持ってたのね」
「あ・・・・それは聞いたことがあった」
「だから、そのうちの1着を冬にあげるって。もう卒業で洗い替えも必要なくなるしって。昨日、冬に見せたかったんだけど、あんた昨夜は遅かったから」
 
昨夜は実は政子と2人で『高校時代最後のカラオケ』などと言って、夜10時まで政子の家のカラオケシステムを使って、歌いまくっていたのであった。
 
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ボクは涙が出て来た。これを持ってきてくれた仁恵に、そしてそれを着なさいと言ってくれている母に、感謝の気持ちでいっぱいだった。父の方を見ると、わざと視線をずらすように新聞を広げて向こうを向いている。その父の姿にもボクはまた涙が出てくる思いだった。
 
「うん。着る」
ボクはそう言うと、ズボンと学生服を脱ぎ、女子制服の上下を身につける。学生服の下はブラウスなので、そのまま普通に着れた。仁恵のスカートはウェストが少し大きいので、サスペンダーで留めた。
 
「あんた、ローファーは持ってたよね、学生っぽいの」
「うん。あれ履いてくよ」
 
「いってらっしゃい」
「ありがとう。行ってきます」
 
ボクは初めて自宅から女子制服で出かけた。(コーラス部のクリスマスコンサートの時は女子制服で帰宅したのだが、翌日政子の所に制服を返しに行く時は普通のジーンズで出かけたので、自宅から制服で出る経験は一度もしていない)
 
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駅に行き改札を通って階段を上り下りし、電車に乗る。この3年間ずっとしてきたことなのに女子制服を着て、こういう行動を取ると全てが新鮮な気分になる。不思議だ。ボクは少しドキドキしながら校門を通り、教室に行った。
 
「お早う!」と大きな声で教室に入っていく。
一瞬入口近くにいた子が『誰?』という感じの表情をしたが、すぐに気付いて
「あ、冬ちゃんだ!」
「どうしたの?その制服?」
などと言って寄ってきた。
 
仁恵もそぱによってくる。ボクは感極まって、思わず仁恵をハグしてしまった。
「ちょっと、ストップストップ」
「ごめん。でも凄く嬉しかったから。ありがとう」
「政子の家でカラオケやってると聞いて、私も行こうかと思ったけど、こちらはまだ試験の結果が出てないからさ。手応えはあったけど万一の場合に備えて後期試験のため、まだずっと勉強してるからパスした」
 
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「あ、仁恵の制服なんだ?」と理桜。
「そう。私、洗い替え用に2着持ってたから1着、冬にあげたの。もう最後だし」
「昨夜はマーサの家から帰るなりバタンキューだったから、今朝聞いて、思わず涙を流しちゃった」
「今まででも、女子制服作ってそれで通学してれば良かったと思うんだけどね」
と仁恵は笑っている。
 
やがて担任の先生が入ってくる。ボクは担任の先生の所に行き、今日は最後なので、この女子制服で卒業式に出させてもらえませんかと言った。先生は驚いていたが「構わん、構わん。卒業記念アルバムにもその制服で写れば良かったのにな」
などと言った。
 
簡単な先生のお話のあと、みんなで体育館に行き、卒業式をした。卒業式なんて、詰まらない儀式だと思ってたけど、何か色々な思いが胸の中を行き交って、校長先生の話や、在校生代表の送辞、卒業生代表の答辞を聞いていても、たくさん涙があふれてきて、何回もハンカチで拭いた。
 
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やがて式が終わり、教室でひとりひとり担任の先生から卒業証書をもらった。ボクは苗字が唐本で全体の3番目なので、すぐ呼ばれて先生から「色々あったけど頑張ったな」と言われて証書を受け取った。卒業証書の名前が唐本冬彦なのが、ちょっとだけ恥ずかしいような不思議な気分。受け取って席に戻ろうとしたら「あ、ちょっと待って」と言われる。
「はい?」
「これもやる」と言われて、もう1枚の卒業証書をもらった。
「あ・・・」
 
「唐本冬子名義の卒業証書だ。今は『唐本冬子』が法的に存在しないけど、そのうち君が『唐本冬子』になったら、こちらが有効だな」
ボクはまた涙が出て来た。
「ありがとうございます」
ボクは深々と御礼をして、その2枚目の卒業証書を受け取った。
席に戻る途中、ボクの次の順番の正望が呼ばれて席を立ち、彼は手を広げてハイタッチの姿勢を見せたので、ボクは彼とポンと手を合わせてハイタッチした。
 
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全員に卒業証書が渡ってから、先生が話をする。もうこれがホントに最後なのもあって先生の話は長かった。感激しやすい精神状態になっているので、そのお話の間にもまた涙が出て来た。やがてホームルームが終わり解散となる。
 
ボクたちは、もうこれっきり会えなくなるかも知れないという思いから、多数の子と手を握り合ってあれこれ話をしたりしていた。
 
コーラス部の2年生の子が教室にやってきて「冬子先輩いますか?」などと言っている。ボクが寄っていくと「わ!女子制服着てる」と言われた。「これ、記念品です」と言って、コーヒーカップをもらった。
「ありがとう。頑張ってね」「はい」
 
やがて隣の教室から政子がやってきて、「冬〜、まだいるか?」などと言う。ボクが仁恵と一緒に行くと「おお!今日は女の子なんだ」と言われた。
「その制服で卒業式にも出たの?」
「そうだよ。これ、仁恵にもらったの」
「私、もともと2着持ってたからね」
「わあ、気付かなかった」と言って、ボクの制服のあちこちに触っている。
 
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「このまま琴絵も誘ってドーナツでも食べに行きたい所だけど、仁恵と琴絵はまだ受験生だもんなあ」
「うん。そういうのは、またあとでやろうよ」
 
実際その日はみんなあちこちの教室に激しく出入りしていたので、結局琴絵とはすれ違いで会えなかった。そういう訳で、琴絵は3年間でただ1日だけ、女子制服で通学してきたボクを見逃したのであった。
 
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