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■夏の日の想い出・再稼働の日々(4)

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翌朝、ボクたちがのんびりと帰り支度をしていたら、秋月さんが昨日出演したFM局の番組のパーソナリティの人が、政子の書いた詩に興味があるといって、よかったら一緒にあれこれしゃべりながら、沖縄方言バージョンを作らないかと電話してきたので、良かったら会ってみません?というので、放送局に出かけた。
 
「これ、なんだか楽しい詩ですね」と女性のパーソナリティさんは言い、
「沖縄のことばで書くと、これはこんな感じになりますね」
と言って、政子の書いた詩のコピーの隣にどんどんことばを書き綴っくれた。政子は微妙なニュアンスを質問する。それで「ああ、それならこちらがいいかも」などという形で、調整をしていった。
 
「だけど昨日はオンエア中だから聞きませんでしたが、ケイさんは今女子高生として学校に通ってるんですか?」とパーソナリティさん。
「そうしろって、私も友だちも煽ってるんですけどね。いまだに学生服着て通ってるんですよ」と政子。
「でも家の中ではいつもスカート穿いてるみたいだし、友だちと会う時もほとんど女の子にしか見えないような服着てるんですよね。今回の旅でもごらんのようにスカート穿いてるし」と政子。
ボクはただ笑っていた。
 
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「学校側が女子制服での通学を受け入れてくれないんですか?」
「いえ、学校の先生も女子制服でいいよって言ってるみたいですけどね」
「えっと。例の騒動の時に父と、高校は男子の制服で最後まで通うなんて約束しちゃったもんで」
「そんな約束、再度お父さんと交渉して解除してもらえばいいと思うんだけどなあ」
「ケイさんの心の問題ということなのかな」とパーソナリティさん。
 
「でも男子制服で通ってても、体育は女子と一緒だったね」
「うんまあ」
「トイレは女子トイレしか使ってないし」
「というか男子トイレに入ろうとすると追い出される」
「当然じゃん。春にはレオタード着て新体操やってたし」
「おお!」とパーソナリティさんが喜んでいる。
 
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「いやあれは・・・」とボクはさすがに照れた。
 
「いづれ性転換なさるんですよね?」
「ええ、そのつもりです」
「20歳までに性転換しなかったら、私があそこ切り落としてあげます」と政子。
「昨夜は25歳までにとか言ってなかった?」
「日進月歩よ」
 
「おふたりって・・・・やっぱり恋人ですよね? 仲良さがハンパじゃない」
「はい。レスビアンですよ。一応オフレコで」と政子。
「ああ、そう明快に答えていただくと気持ちいいです」
とパーソナリティさんは言った。
 
ボクは取り敢えず笑っておいた。パーソナリティさんは、ボクたちに
『サーターアンダギー』沖縄方言版のイントネーション指導もしてくれた。ボクたちが歌ってみせると「わあ、沖縄っぽい音階」といって喜んでいた。
 
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沖縄から戻った翌日の勤労感謝の日、ボクたちは勉強道具を持ってカラオケ屋さんに行き、一緒に歌いながら勉強の方もした。直したい所が出てくればその場で修正してまた歌う。一方で問題集も解きながら分からない所を教え合いしていた。
 
「一緒に『勉強』しない?」と言って誘った仁恵は、ボクたちが歌と勉強を同時進行させているので「あんたたち器用だね」などと言いながら(琴絵はカラオケと聞いてパスと言った)、カラオケ屋さんのフードを食べていたが、時々「その言い回しは変な気がする」などといって歌詞の表現のミスを指摘してくれたり、ここはこう歌いたい気がするなどと言って、ボクが持ち込んでいるポータブルキーボードを自分で弾いてみせたりしてくれた。
 
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「仁恵に来てもらって良かった」と政子。
「コトだと寝てるか、変な方向に誘導するかだな」とボクもいう。
「私もまた少しエレクトーンしようかなあ」と仁恵は言っていた。
「指がなまらない程度には弾いてたほうがいいよ。勘を取り戻すのに時間かかるよ」
「なのよねー」
「ただしあくまで受検勉強優先」
「そうなのよね!」
 
ボクたちはその後その週の水曜日にも再度ふたりでカラオケ屋さんに行き、ひとつひとつの曲を歌いながら調整を掛けていった。そしてその週の土曜日都内の貸しスタジオに入って、伴奏音源を聴きながら歌を歌って録音した。ボクが単独で歌ったもの、政子が単独で歌ったもの、を最低2回ずつ録音した。その日3時間で6曲分を収録し、翌日また3時間借りて6曲収録した。ボクはその歌をMIDIのデータと仮ミクシングしてみたが、少し直したい所が出てきた。そこで翌週の土曜日にまた3時間借りて、直した分の録り直しをした。
 
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取り敢えず仮ミクシングの状態で政子に聴かせると喜んでいた。これはいわば「第2自主制作アルバム」である。ただしこのアルバムの最終的なミクシングは大学に入った後、5月から7月に掛けての時期に行った。
 
ボクたちはその後も受検勉強の合間に創作を続けていたが、これより後に作った曲は大学1年の夏に須藤さんの制作で仕上げられ『Rose+Lily After 2 years』
として大学2年の夏に発売されることになる。
 

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ボクが3度目のスタジオ録音を終えて帰宅し、晩御飯を作っていたら、母が郵便受けをチェックして、郵便物やチラシなどを持って来た。
 
「ああ、クリスマスケーキか。。。このケーキ屋さん、いつもチラシが入ってるところだね」と母。
「○○屋さんでしょ?」
「うん」
「そこ、ボクの中学の陸上部の、先輩のお父さんのお店なんだよ。どれか、お母ちゃんの好きなクリスマスケーキ選んで、注文票に○つけて24日希望でファックスしておいてくれない?お金はボクが出すから」
 
「へー、先輩のお店? それで時々買ってるのね」
「うん。以前は◇◇町にお店があったんだよね。今は◆◆駅前に移転しちゃったんだけど」
「あら、遠くなっちゃったわね」
 
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「そうそう。それで以前買いに来てくれていた人がなかなか買いに来れなくなっちゃったからってんで、そのチラシ配り始めたんだよね」
「へー」
「電話かファックスで送れば配達してくれる。実は携帯からメールというのもできる。おそば屋さんとかピザ屋さんとかは出前が確立してるけど、ケーキの出前って珍しいでしょ」
「うんうん」
 
「このチラシはそういう訳で移転前のお客さんに配慮して始めたものだから以前のお店のあった場所から2km以内に配ってるんだよね。チラシはお店にも置いてるから、お店から持ってって注文してくれる人もあるんだけど。あと総額で1000円以上なら宅配の対象で、人数あればコーヒーとかだけでも注文できるから、意外にオフィス関係の需要もある」
「でも配達もたいへんだよね」
 
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「配達はその陸上部の人脈でバイトしてる。ボクもやったことあるよ」
「へー。そうなんだ」
「元々この近くに住んでるからね。みんな」
「あ、そうだよね!」
 
「駅前の商店街は人通りも多いけど競争も激しいからね。商店街の中にこのケーキ屋さん以外にもケーキ屋さん2つ、和菓子屋さん2つあるし。更には大手チェーンのドーナツ屋さんとパン屋さんもあるからね。結果的にはこのチラシ宅配の分が、お店の売り上げの3割を占めていて、純粋にサービスで始めたのに、それがお店を支えてるんだよね」
「ニーズのあることをすれば商売になるものなのよ」
「うんうん」
 
「ところで、あんたその宅配のバイトした時って、男の子の格好でしたの?」
「まさか」
「じゃ、女の子の格好でしたの?」
「うん」
「まあ、あんたなら誰も女の子としか思わないでしょうね」
「ふふ」
 
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「高校卒業したら、やっぱり歌手に復帰するの?」
「そのつもり」
「女の子の格好で歌うんだよね?」
「うん。高校卒業したら、もう完全に女の子の生活にしちゃうつもり」
 
「なんか既にもうほとんど女の子の生活になってる気もするけど。。。。。。ね、もしかして、あんた、大学の試験も女の子の格好で受けに行くつもり?」
「もちろん」
「でもさ、受験票が男の子で実物が女の子だったら、試験会場で面倒なことにならない?」
「うん。高校入試の時も『受験生のお姉さん?』なんて訊かれたからね」
「・・・・あんた、高校入試も女の子の格好で受けたの?」
「あ、えっと、まあ、いいじゃん」
「呆れた」
 
「ということは、受験票がそもそも『唐本冬子・女』になってればいいのかな?ひょっとして。どうせボク写真は女の子だし」
「えー!?」
 
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そんなことができるのかどうか、ボクはあちこち調べたものの分からなかったので翌週直接受検する予定の大学に問い合わせてみた。すると3日後に会って話したいという返事が来たので、ボクは「女子高生風の服」を着て、学生部の人に会ってきた。その結果、ボクは本当に『唐本冬子・女』で受検できることになり、合格後はその名前・性別・写真で学生証も発行してもらったのである。
 

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12月19日の土曜日の夕方、うちの地域の高校のコーラス部が集まってクリスマスコンサートをした。ボクはソプラノで歌うので、政子から女子制服を借りてこのコンサートに出演し、遅くなったので、その日はそのまま帰宅して、翌日政子のところに返しに行くことにした。
 
コンサートの日に帰宅した時、ちょうど玄関のところで会社から戻って来た父と遭遇。父は驚いたようであったが
「お前、女子制服が様になってるんだな」
などと言われた。
 
翌日はふつうの?服に着替えて朝から政子の家に出かけた。その日はセンター試験を目前にして最後の模試が行われるので、ボクは政子の家に寄ってから、一緒に模試会場に行くつもりだった。
 
「おはようございます」
と挨拶して政子の家に入る。
「おはよう。いらっしゃーい」
と言うお母さんともすっかり顔なじみである。
 
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ボクは朝御飯を(家族分作って)食べてから出て来たのであるが、政子は今朝食を取ろうとしていたところであった。良かったら食べてなどと言われるので、少し頂いた。
 
「最近ご飯はお母さんが作られることが多いんですか?」
「ええそうなのよ。政子受検が忙しいからお母さん作ってなんて言うし」
「確かに勉強はしっかりやってますよね。もうこの2学期以降はだいたい合格圏内で安定しているし」
「まあ、この子もよく頑張ったとは思うわ。ひとり暮らししていた2年生の時だって、歌手やりながらでも成績上げてたんだから、偉いといえば偉い」
「私天才だもん」
などと政子は言う。
 
「冬は御飯、今の時期でも自分で作ってるの?」
「最近、姉ちゃんが帰り遅いこと多くて。実質ボクとお母ちゃんとの2人で交替で作ってる」
「受検も忙しいのに冬は凄いなあ。私、大学に入ったら晩御飯は冬の所に食べさせてもらいに行こう」
「大学は実家から通うの?」と政子の母。
 
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「アパートか何か借りるつもりです。政子さんはもうやらないかも知れないけどその場合、ひとりででも歌手に復帰するつもりなので、どうしても不規則な生活になるから、実家では家族に迷惑掛けると思うし」
「だったら、冬がうちに下宿する? 私歌手はしないかも知れないけど、冬が作る曲の歌詞は私が書くからね」
「それは当然あてにしてる。それに、ここは中央線沿線だから、うちよりは都心に出やすいけどね」
 
「いつでも歓迎だよ。大学に入ったら、お母ちゃんタイに戻ると言ってるし。冬がいたら寂しくないから」
「寂しいとかいうことより、御飯の確保だね。それ」
「もちろん。それが目的に決まってるじゃん」
「あらあら」
 
「私、冬をお嫁さんに欲しいなあ」と政子が言うと
「冬ちゃんの方がお嫁さんなんだ!」とお母さんは目を丸くした。
「うん。冬に赤ちゃんができたら、私がきっと父親」などと政子は言っている。
「冬ちゃん、妊娠するの?」
「子宮無しでどうやって妊娠するのか、政子さんに訊きたいです」
「冬だったら何とかするよ」
 
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やがて着換えて出かけることにする。政子はボクが返した制服を身につけた。ボクと政子は洗濯などしなくてもお互いが着た服をそのまま着るのは平気である。
 
政子が着換えたので、さあ出かけようと言ったら、政子が「冬も着替えなよ」
と言った。
「え?」
「昨日着て来た服があるじゃん」
「えっと・・・」
「その服で受けるより、こちらの服で受けた方が高い点数出るよ」
「うん」
 
実はボクは昨日クリスマスコンサートに出るのに、母からスカート外出の許可をもらったのをいいことに、自宅で「女子高生風の服」に着換えて政子の家まで行き、そこで政子から女子制服を借りて、それを着て会場に行った。そういう訳で「女子高生風の服」が、政子の家に置いたままだったのである。
 
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「そうだねー。着換えちゃおう」
ボクは政子からその服を受け取ると、さっと着換えてしまった。
 
「あら、似合ってるわね」とお母さんが言う。昨日来た時はちょうどお買い物に行っていたので、政子のお母さんがボクのこの服を着た所を見るのは初めてである。
 
そういう訳で、ボクは女子高生風の服、政子は学校の制服、という状態で一緒に家を出て、模試の会場に向かった。
 
今回はボクは模試の申し込みをふつうに学校を通して出していたので、同じクラスの生徒と一緒である。ボクが受検する教室に政子と一緒に入ってくると、先に教室に入っていた仁恵が「わあ、冬が本気モードだ」などと言って喜んでいる。
 
「本気モードって?」と言って寄ってきた正望が仁恵に尋ねた。正望はボクのこういう姿を見るのはたぶん初めてだ。
 
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「冬はさ、模試の成績で時々突発的にいい点数を取ることがあるでしょ。それって女の子の服を着て受検した時なんだよね」
と仁恵が解説した。
 
「だいたいこういう服で受検する時は、わざと申込書をみんなと別に出してひとりだけ別の教室で受けてたんだけどね、今日は最後の模試だし、みんなにお披露目」
と私が言うと正望が
「へー。でもやはり、こういう服を着ている方が、唐本さんは自然だよ」
などと言っていた。
 
「ふだんが男装状態だよね」
と近くの席にいた松山君も言った。
「男の唐本も女の唐本も、それぞれありだと思うけど、まあ女の唐本も可愛いな」
などと佐野君は言っている。
 
「でもさあ、そういう服を着て来れるんだったら、うちの女子制服買って学校にもそれで来たら?」と理桜。
「私もしょっちゅう言ってるんだけどね」と政子。
「うーん。。。。」
 
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やがて試験が始まる。うん、感触が違う、とボクは思った。男子制服を着ている時に感じる変な圧迫のようなものがなく自然に頭が動く。やはり自分は基本的に女なんだろうなというのを感じるとともに、男としての自分に強いコンプレックスがあるんだろうなというのも感じた。10月の模試でも、ボクは中性的な服装で来たのだが、中性的な服装をしている時も微妙なわだかまりが残る。もっと女の子っぽい服を着たいという気持ちがあるのに、それを実行できない自分に対して不満がある。でも今日のような服装をしている時は自分が100%自分であるような気持ちになれた。
 
小学生の頃に揺れ出した自分の性別問題・・・それが自分にとってのゴールに辿り着きつつあることをボクは意識し始めていた。
 
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そしてまた同時にボクは自分が目指している音楽家という仕事では、自分の性別が、会社勤めのような仕事に比べて、あまり障害にならないことに気付いていた。(発声ではホントに苦労したけど)
 
自分の性別問題について悩み始めた頃から、ボクは自分の将来像を描くことができなくなってしまった。しかし、音楽の世界では他の世界に比べると、性別はあまり問題にされない。あまりにもとんでもない人たちが多いから、ボクみたいなのも個性のひとつとされてしまっている気がする。音楽家というのは自分の天職なのかも知れないとボクは思い始めていた。
 
そして同時に、自分にとって政子というのがとても重要なパートナーであることも強く認識していた。
 
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