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■夏の日の想い出・再稼働の日々(1)
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(c)Eriko Kawaguchi 2012-01-21
ボクと政子は高2の8月から12月まで「ローズ+リリー」という女子高生歌手デュオとして活動したのだが、その活動はボクが実は男の子であるという週刊誌の報道により突然中断を余儀なくされた。
あまりの騒ぎにとても学校に出て行けなくなったボクたちは45日間の「引籠り」
期間を経て学校に復帰し、ボクもおとなしく男子高校生(?)としての生活を送り始めたのだが、騒ぎも落ち着き、ボク達も受検に向けて集中し始めていた4月の下旬、ボクたちのレコードを出していた★★レコードの町添部長から「ローズ+リリーのベスト盤を出したい」という話があり、ボクと政子は横浜市郊外のビストロで会って話をした。
12月にボクたちの活動が突然停止になってしまった時、ボクたちは年明けに全国ツアーをする予定だったし、他にも様々な予定があったのが、全部吹き飛んでしまったので、その金銭的な被害も凄まじかった。そこでボクたちは自分達がここ数ヶ月でもらった印税や報酬を返上するので、その被害の弁済に充てて欲しいと申し入れた。
実際には弁護士さんに交渉してもらった結果、ボクたちは8月から12月までに得た印税・報酬の総額(から必要経費や税金などで払わなければならない額を除いた額)の半分を、ボクらのマネージメントをしていた△△社、プロモーション活動をしていた○○プロ、CDを出していた★★レコードの3者に等分して払うことで合意した。
ところが★★レコードはこの「迷惑料」の受け取りを辞退した。そして代わりに12月末発売予定だった『甘い蜜』を今からでも良いから発売させて欲しいということと、既存音源を編集したCDをボクたちの活動が停止した12月19日から向こう半年間の間は自由に出させて欲しいということをこちらに申し入れてきた。うちの父も政子の父もそれを了承したが、★★レコードは実際には『甘い蜜』を1月末に発売した後、特に次のCDを出す動きを見せなかったので、それで終わりなのかな・・・・と思っていた時、この話があったのである。
(実際問題として★★レコードは『甘い蜜』を発売することができたおかげで、迷惑料として受け取るはずだった金額の数十倍の利益を得た。またボクはこの印税のおかげで私立の△△△大学への進学をすることができた)
横浜での会談には、★★レコードの町添部長とローズ+リリーの担当である秋月さん、こちらはボクと政子、各々の母が出席して6人での会談となった。
「ベスト盤を出すんですか?でもベスト盤というほどCD出してないですが」
とボクは困惑するように言った。この日、政子は制服を着ていたが、ボクは中性的な服装で出て来ていた。(会話は女声で話したし、トイレもちゃっかり女子トイレを使っていた)
「それが昨年11月に全国ツアーをした時の録音があるんですよ。ひょっとしたらライブ版を出すかもという話があってたので念のため全公演の本番とリハーサルを録音してるのですよね」
「ああ、じゃライブ演奏をまとめたものを出すんですね」
「ええ。最初そのつもりだったのですが、津田さんと話している内に、この録音のリハーサル版のほうを使えないかという話になりまして」
「え?」
「リハーサルも本番も、おふたりの歌を始め、各楽器の音なども個別のマイクで拾ったものをマルチトラックで収録しています。そこでですね。おふたりの歌部分だけを使って、楽器パートはあらためてスタジオでミュージシャンを集めて録音してミクシングしようかという企画なんです。その場合、拍手や歓声などの混じってないリハーサル版のほうが使いやすいのですよね」
「なるほど。面白いですね」
「これなら、おふたりには負荷を掛けませんし。私もリハーサルの音源を聴いてみたのですが、おふたりの歌がとてもしっかりしていて、これならそのまま使えるなと思っています。またCDで出ている曲に関しても、リミックスして収録することを考えています」
「分かりました。私はいいですけど・・・・」
と言って政子や母の顔を見る。
「私は全然問題無いです」と政子。
「娘がまた時間を取って歌を吹き込んでとかいうので無ければ問題無いです」
と政子の母。
「こちらも、うちの・・子にそう大きな負荷が掛からないなら問題ありません」
と、うちの母。『うちの息子』と言おうとしてためらって『うちの子』と言ったなと思った。『うちの娘』と言ってしまう勇気はないけど。。。という感じか。
「ありがとうございます。一応、こちらで音源の選択や収録曲目を考えて、そちらに提示して、編曲なども仮のものができた段階でそちらにいったんお渡しして確認してもらってから最終的な制作作業に入りたいと思っています」
「ええ、それでいいです」
「ではこの件は秋月に細かいやりとりはさせますので」
「じゃ、データは私に送って下さい。まとまったものならCDにでも焼いて。曲単位くらいならMIDIデータをメールしてくださってもいいですし」
とボクは言った。
ゴールデンウィークにボクは政子に誘われて一緒に遊園地に行った。ボクは父との約束でスカートこそ穿かなかったが、姉が「スカートを穿くというのと女装するというのが全く別の事だということが良く分かった」と言うような服装であった。父がムスっとしていたが、母は笑って送り出してくれた。
本当は仁恵、琴絵、理桜も誘ったのだが「デートの邪魔はしないよ」などと言われたので、ふたりだけでの遊園地行きとなった。
午前中はまだ人が少なかったので、コースターや迷宮系の人気アトラクションに行く。11時半くらいに少し早めのお昼にした。
「でも私さ」と政子は切り出した。
「12月のあの騒動はクレージーで、確かにその分で精神的なストレスは受けたんだけどね」
「うん」
「それ以前にやはり9月下旬からのハードスケジュールでの活動で精神的に削られていた気がするんだよね」
「まあ、ほんとにハードスケジュールだったね」
「冬は落ち着いたら、また歌手やりたい?」
「まだ迷ってるけど、けっこうやりたい。あれ疲れるけど快感だったもん」
「そっかー。私も迷ってるけど、あまりテンション上がらないんだよね」
「無理することないんじゃない?曲作りを一緒にしようよ」
「うん。詩を書くのは好きだから。でも歌うのはパスかなあ。私、冬みたいに歌うまくないしね」
「マーサはローズ+リリーを始めた頃と12月頃では天地の差があったよ。物凄く歌が上達した」
「そうかなあ・・・・」
そんな会話をしていた時、中学生くらいの女の子が3人ほど寄ってきた。
「あのぉ、すみません。もしかしてローズ+リリーさんですか?」
「はい、そうですよ」とボクは笑顔で答えた。
「わあ、握手させてください」
「いいよ」
と言って、ボクたちは3人のそれぞれと握手した。
「わあ、ありがとうございます。でも、ケイさんって、ふだんもやはりこういう格好なんですね。それに声もリアルで女の子の声だし」
「最近、男の子の声はほとんど使ってないよね」と政子。
「けっこう友だちの間で議論があったんです。あの声は電気的に加工してるのか、生の声なのかって」
「ボイスチェンジャーとかは使ったことないよ」
「声変わりしてないんですか?」
「声変わりはしてる。でも実はみんな気付いてないだけで、男性でも女性のような声は出せるし、女性でも男性みたいな声は出せるもんなんだよ。声帯の使い方と喉の筋肉の使い方次第。あと口の開け方や息の使い方でも声質はかなり変わる」とボクは解説する。
「へー」
「声ってけっこう習慣の部分が大きいよね」と政子も言う。
「あと鍛えてないと筋肉の衰えで年齢とともに声質が変わっていく。40代や50代でも若い声持ってる人って、あれかなり訓練してるよね」
「やっぱり歌い込むことが大事だよね」
と政子は自分で言った後、何かを考えているようだった。
しばらく彼女たちと会話していたが、そのうちひとりが
「何か歌ってくれませんか?」
などと言い出す。
ボクは「いいよ」と言って、ウェルナーの「野バラ」を歌い出した。
「Sah ein Knab' ein Roeslein stehn, Roeslein auf der Heiden,....」
するとボクの歌に合わせて政子がハーモニーになるように歌い出す。
「Roeslein, Roeslein, Roeslein rot, Roeslein auf der Heiden」
と歌いきると、3人は喜んでパチパチパチと拍手をしてくれた。
「あともし良かったらサインもらえます?」
ボクと政子は顔を見合わせる。
「いいよ。書いてあげるよ。レコード会社の人に個別に承認もらえば書いていいことになってるんだけど、あとで連絡しておく」
とボクは笑顔で言った。
「わあ、ありがとうございます」
女の子たちの1人がスケッチブックを持っていたので、そこにボクたちは3枚、サインを書いてあげた。
「さっき、野バラを歌ってみて、私、自分って結構歌えるじゃんと思った」
と政子はお茶を飲みながら言った。ボクたちは3時すぎに遊園地を出て、電車で東京まで戻り、地下街のイタリアントマトで軽食を取りながら話していた。
「うん。マーサはかなりうまくなってるよ。音程が安定してるし、声量も出るしね」
「私、もっと歌を練習しようかな。歌手に復帰するかどうかは置いといて」
「たくさん歌い込むといいよ」
「自宅にカラオケ買っちゃおうかな」
「いいんじゃない?今、パソコンで出来る通信カラオケがあるよ」
「あ、それいいな。新曲がどんどん歌えるよね」
「カラオケ屋さんで歌える曲ならたいてい歌えると思う」
「声量とか息の長さとかは、やはりジョギングとかすると鍛えられるかな」
「うん。体力も付くし、肺の機能も鍛えられるしね」
「よし。早朝ジョギングしよう」
「お、少しやる気出て来たね」
「うん。1%くらいね」
「ふふふ」
お店を出てから駅の方に戻ろうとしたら政子が通路の端の方にボクを引っ張って行き、こんなことを言い出した。
「ねえ、ホテル行かない?」
「は?」
「だって、デートで遊園地行って、食事して、次はホテルだよ」
「マーサ、そういうのが好きじゃなかったのでは?」
「彼氏とはしたくないけど、冬とならしたい」
「理解不能!」
「疲れたから休憩するだけだよ。私のこと嫌い?」
「好きだよ」
「じゃ行ってみようよ。そういう所、行ったことないでしょ?」
「うーん」
「それにさ。去年のゴールデンウィークに私、とんでもない目に遭ったから、良い思い出で塗り替えたいの」
政子は昨年のゴールデンウィーク、デート中に恋人からレイプされかかったのである。
「分かった。行こうか」
そういうことで結局ボクは政子と一緒にファッションホテルに行くことになってしまった。
「わーい。こういう所、一度入ってみたかったの」
と言って政子はベッドの上で飛び跳ねてる。
「ゲーム機も置いてあるよ。ゲームとかする?」とボクは言うが
「そんなの時間がもったいないよ。今できることをしなきゃ」と政子は答える。
「いいこと言うね」
「シャワー浴びようよ。スッキリするよ」
「そうだね。マーサ先にシャワーする?」
「ううん。冬先に浴びてきて」
「了解」
ボクが先にシャワーを浴びてきて、政子と交代する。ボクはバッグの中からコンちゃんを取り出すと枕元に置いた。こういうことをする時のいつものルールだ。基本的にボクたちはセックスはしないのだけど、万一したくなった場合は開封する約束である。ボクたちはこれを「御守り」と称していた。
裸になり布団に潜り込んで目を瞑って待つ。あれ?と思う。こういう時、よく考えるといつもボクが先にシャワーを浴びて、政子が後から来るよな。ボクが女役なのかな?などとチラッと思った。
浴室のドアが開き、政子の足跡がする。政子はベッドの下から毛布に潜り込んで入ってきて、いきなりボクのお股を舐め始めた。
「ちょっと・・・・」
「今日のタック、いつものと違うね」
「接着剤で留めてみた。最近時々練習してみてる」
「冬がテープで留めてたら剥がすつもりだったのに、これ剥がせないや」
「だって女の子同士でしょ?」
「私、今日は男女でもいい気分だったけど、冬が女の子なら今日は女の子同士」
「ボク、男の子としてマーサとHするつもりは無いもん」
「なんで?」
「だってボクたちは女友だちなんだから」
「でもこんな所に来たのはさすがに誰にも内緒だよ。内緒だからしちゃってもいいのに。私、ヴァージンは冬にもらって欲しい気分なんだよね」
「ヴァージンは彼氏作って、その彼氏にあげなよ」
「冬がヴァージンもらってくれたら彼氏作る」
「変なの。あ、交替交替。今度はボクが舐めてあげる」
「うん」
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