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■夏の日の想い出・高3の春(1)
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(C)Eriko Kawaguchi 2011-10-30/改訂 2012-11-11
ボクは高校2年生の8月から12月まで、女の子の格好をして友人の政子と一緒に「ローズ+リリー」という女子高生歌手デュオとして活動した。その活動がボクが実は男であったということをすっぱ抜いた写真週刊誌の報道をきっかけに終わってしまった後、ボクも政子も1月末までの45日間、学校に出て行くこともできず、外出もほとんどできない日々を過ごした。しかし琴絵たちの励ましで2月2日の月曜日からボクも政子も学校に復帰する。それで、ボクは普通の男子高校生に戻ったのだが、若干?「普通の男子高校生ではない」感じにもなっていた。
ボクは学校では一応学生服を着てはいるものの、下着は常時女性用を着けていた。また放課後や休日に友人と遊びにいく時は(父との約束でスカートは自粛していたものの)だいたい女の子っぽい装いで出かけていた。また家の中ではいつもスカートも穿いて、女の子の格好をしていた。
親に女装がバレた時はホント家庭内がたいへんで、父とはかなり激しいやりとりもした。ボクも親に黙って歌手活動していたことは謝ったし、受験が終わるまでは活動を自粛することも約束したが、父は更にボクに女装で外出するなと言った。これにボクは反発した。
結構シビアなやりとりの中でボクは「当面親の許可無くスカートで外出はしない」
という線で父と合意した。ボクが父とそういうやりとりしていたのを見て、母が「お前、大人になったね」と言った。「以前は人から何か言われたら言われたままにするばかりの子だったのに。ちゃんと交渉ができるようになったんだね」と。姉は「やはり、ここ数ヶ月の歌手活動で成長したんだよ」などと言ってくれた。
「スカート禁止」はあくまで、外出でのスカート禁止なので、落ち着くとすぐにボクは家の中ではいつもスカートを穿いているようになった。父は少し不満そうであったが、ボクは涼しい顔をしていた。
学校で体育の時間に着換える時、2学期までは女物の下着を着けていることがバレないように、ブラを着けた上に灰色や濃紺のシャツを着て隠し、また下もショーツの上にトランクスに見えないこともないフレアパンティを穿いて隠していたのだが、ボクの女装が写真週刊誌のお陰で全国民に!バレた後は、開き直って、堂々とブラとショーツ姿になって着換えるようになった。
体育の時間に男子更衣室に行って、学生服を脱ぎワイシャツをぬぐ。その下にはブラをつけている。ぎょっとする周囲の視線。しかしすぐにジャージの上を着る。ズボンを脱ぐ。下はショーツ1枚である。ボクはよく、イチゴ模様とか、花柄とかの可愛いのを好んでいた。しかも、そのショーツには男の子ならあるはずの膨らみがなく女の子のようなライン。周囲の視線がその付近に集中するのを感じるが黙殺して、ジャージのズボンを穿く。
3学期はよくサッカーやバスケなどしていたので、ゴール前で乱戦になったりすると、しばしば他の男の子と身体の接触があったが、ボクのバストに接触して「わ、ごめん」などという子もいた。そもそもみんな、ボクとの身体の接触があまり発生しないように遠慮がちにプレイしている感じだった。この遠慮がちのプレイは、実は(みんなに薄々女装を感づかれていた)2学期の半ば頃から感じていたのだが、3学期になるとかなり顕著になっていた。そもそもジャージは下着の線が出やすい。ブラジャーを着けているボクは、ジャージを着ると胸が膨らんでいて、髪も伸ばしていることもあり、女の子のような外見だった。2学期まではその胸があまり目立たないように気を遣っていたのだが、3学期になると「どうせバレてるし」と開き直って、むしろ胸を強調している時もあった。
「先生、唐本に男子更衣室の使用をやめさせてください」
と職員室に訴えに行った男子がかなりいたらしい。
「先生、唐本は女子と一緒に体育させたほうがよくないですか?」
と言いに行った男子もいたらしい。
それでマジで体育の先生たちで会議をやったらしい!
その結果、ボクは2月中旬以降、体育の時間の着替えについては、面談室を使ってくれ、ということになってしまった。面談室はたくさんの個室に分れているので、全部ふさがっているということはめったにないのである。
そもそも体育の授業を男子と一緒でいいのかという点についても、先生達の間で意見が割れたらしいが、当面は現状で様子を見ることになったようであった。
2月に学校に復帰してすぐ、ボクはコーラス部に入り、ソプラノのパートに入れてもらった。ボクのハイトーンはメゾソプラノの音域なのだが、高校のコーラス部のパートなら充分ソプラノでも通じる。
ローズ+リリーの活動で、ボクは女装も癖になってしまったが、歌手という仕事も癖になってしまった。ステージの上で、大勢の観客を前にして歌うことが、もうたまらない快感だったのである。それで受験が終わって大学生になったらインディーズででもいいから、また歌手をやりたいという気持ちが強かった。そこでコーラス部で歌唱力を鍛えておきたかったのである。
ただひとつ小さな(?)問題があった。それはうちの高校のコーラス部は女声合唱であり、男子の部員をそもそも取っていないことであった!
コーラス部に行ってボクが「ソプラノに入れてください」と言ったら、先生が「えー!?」と言ったが、以前からボクのことを知っていた副部長の詩津紅が
「ローズ+リリーのケイちゃんの声はきれいなソプラノでしたよ」
と言ってくれたので、
「じゃ、ちょっと出してみて」
と言われ、先生のピアノの音にあわせて、ソプラノ音域を歌ってみせた。
「うん。声域的には問題無いね。このくらい出れば高校の合唱で歌う曲ならソプラノパート充分歌える。本来はメゾソプラノ声域に近いけど、声が凄くクリアだから、声質的にはソプラノ向きの声だよね。発声練習してれば上の方はもっと出るようになるよ」
などと言ってもらった。実はその上の方がもっと出るようにしたいというのがボクがコーラス部に入れてもらいたかった大きな目的のひとつだった。
「でも、さすがプロの歌手だよね。音程が正確」
「いえ、ピアノの音に合わせて歌っただけですから」
「それとホントによくこんな高い声出るよね。去勢してる訳じゃないんでしょ?」
「してません。小学生の内に去勢しておきたかったですけど」
とボクは笑って(女声で)答えた。
もうすぐ3年生でもあり、プロ活動経験もあるしということで、6月に行われる大会には出ないということで、練習も受験勉強に差し支えない程度に出てくればいいということで合意していたが、部長の風花さんは
「もし時間が取れたら、10月の文化祭とか12月のクリスマスコンサートとかには出てよ。クリスマスコンサートは受験勉強まっただ中だけど、けっこう3年生でも最後の思い出に出る子もいるんだよね」
などと言ってくれていた。
政子とは「引き籠もり」期間中、毎日数時間携帯電話で話していたのだが、どちらも自宅からほとんど外出できず、会うことはできなかった。実際に顔を合わせたのは2月2日に学校に出て行った時で、ボクたちは校長室で一緒に校長先生、生活指導の先生、各々の担任といろいろ話をした。そしてふたりきりで話をすることができたのは3月に入ってから、ほんとに久しぶりにボクが政子の家に遊びに行った時であった。
土曜日で、ボクは途中でケーキ屋さんに寄ってケーキを持って政子の家を訪れた。父との約束でスカートは穿いていないものの、ブラは着けて、ブレストフォームもつけ、下もタック(この時期はテープタック)していた。わざと身体の線が出やすいレギンスパンツを穿いているので、お股に何も膨らみがないのが分かる。
「冬ちゃん以外にもお友達来ることになってたのかと思っちゃった」とお母さん。
「だって、どう見ても女の子だし、声も女の子だし」
「冬は女の子だもん」と政子。
3人でしばらく「ホントあの時期はたいへんだったよね」などという話をする。
「2月の中旬くらいまで、近くに記者みたいな感じの人たち張ってたよ」
「あ、こちらもそうだったみたい。姉が言ってました」
「寒かったのにご苦労様だよね。向こうも仕事とはいえ」
「私達は外に出るわけないのにね」
「でもワイドショーでこのネタ取り上げる度に『甘い蜜』が流れるから、そのおかげか、随分あの曲、売れてるみたい」
「あの曲のキャンペーンで1回だけでもいいから、サイン会か握手会でもしてくれないかと言われたんだけど、私一人では嫌だから断った」
「私にも連絡あったけど、お父さんからスカート外出禁止されてるから断った。ズボン穿いて出て行く手はあるけどね。写真は使ってもいいかと言われたから、お父さんに確認してそれはOK出した」
「うん。私も写真はOK出した」
「でもたぶんあの曲の印税だけで△△△に通う4年間の学資・生活費が出るね」
「あれ?冬ちゃんは国立志望じゃなかったの」
「△△△に変える予定です。政子さんと一緒に4年間通いたいと思って」
「あらら。じゃ政子は本気で頑張らなきゃ」
「うん」
「でもマーサ、もらった金額の半分は税金で払わないといけないこと忘れないようにね」
「うん。40%所得税で払わないといけないんだよね」
「それプラス10%住民税があるから結局半分だよ」
「えーー!? 更に払うものがあるの?」
「住民税は今年じゃなくて来年払わないといけないから、その分キープしておかないと、とってもやばいよ」
「それは知らなかった。。。。でも無駄遣いするような使い道無いけどね」
「まあ、マーサはシルバーフォックスのコートを買ったりはしないだろうし」
「コートはユニクロでいいよ」
「うんうん。で、結局今は勉強だよね」
「ほんと、ほんと」
政子は4月にある模試の成績が悪かったらタイに行って両親と一緒に暮らすことを約束させられていた。受験に差し支えるからといってタイに行くのを嫌がって日本にいたのに芸能活動などしていたとあって、お父さんはかなりのお冠だったのである。すぐにもタイに連れていくと言われたのを必死で抵抗して、そういうことにしてもらったのであった。そのお父さんとの交渉を通じて、政子もまた「大人になったね」とお母さんから言われたと言っていた。
「でも、あの時期、ずっと家の中にいて体重増えなかった?」
「増えた!お正月でお餅もたくさんあったしね」
「ファンからの激励の贈り物もかなりあったしね」
「うん、あれは有り難かった。なんか涙が出たなあ。激励のお手紙には全部お返事書いたよ」
「私も全部お返事書いた!」
あの報道で中には「夢を壊された」といって、カミソリなど送ってきた人もあったらしいが、激励のお手紙や贈り物もかなりの量になり、この手の作業に慣れている○○プロがファンから贈られてきたものを全部厳密にチェックして、安全確実なものだけ、ボクと政子の家に届けてくれていた。
「おひな祭りにって、私ひなケーキももらったよ。**堂の」
「私も**堂のひなケーキもらった。もしかしたら同じ人かな?」
「おひな祭り祝ってもらうと、やっぱり私女の子でいいんだよなって、あらためて思っちゃった」
「何をいまさら」
まだこの日はひな祭りの余韻で、ひなあられなどもつまんでいた。
1時間ほど話していたところで、お母さんが2時間ほど出かけるといって出かけてしまった。玄関のところで見送って、ドアが閉まりお母さんの足音が遠ざかる。それを聞いていた政子が玄関のところでボクに抱きついてキスをした。ボクもしっかり抱きしめる。ボクたちのキスはディープキスになってしまった。
「ね、ベッドに行かない?」と政子。
「うん」
ボクたちは政子の部屋に行き、ふたりとも裸になってしまう。裸のまま強く抱きあった。
「寂しかった」と政子。
「ボクも寂しかった」
「ふーん・・・」
「何?」
「お母ちゃんの前では『私』って言ってたのに、ふたりきりになるとやっぱり『ボク』というのね、冬って」
「えーっと、そのあたりは微妙な線で」
「でも、冬、今日も女の子ボディなのね」
今日はボクはブレストフォームを付けて、タックもしている。
「マーサの前では本来の自分の姿でありたいの。ボクにとってはこういう身体のほうが真実なんだもん」
「じゃ、Hできないか」
「女の子同士だもんね」
「お母ちゃんから、コンちゃん渡されたんだけどなー」
「いいお母さんだなあ。でもボクにおちんちんが無いから使えないね」
ボクたちは笑って、そのままベッドの中に潜り込んだ。あらためてキスして、しっかりと抱き合う。政子がお母さんからもらったというコンドームを枕元に置いた。
「私たち、ツアー先とかでいつもこんなことしてたね」
「枕元に須藤さんからもらったコンドーム置いてね」
「一度も使うことにならなかったけど。おまじないなんて言ってたね」
「今日も使わないみたい」
「使ってもいいんだよ。私、冬にだったらバージンあげていい」
「でもボク女の子だもん。ちなみにボクも念のためコンちゃんは持ってるよ」
「冬なら持ってるだろうとは思ったけどね。もしホントに使うことになった時は冬がたぶん持ってるのを使って、お母ちゃんからもらったのは未開封のままにしておこうかと思った」
「あはは」
その日はほんとに久しぶりだったので、ボクたちは、かなり濃厚に睦み合った。
「恋人でもないのにここまでしていいのかなあ」
「女の子どうしの悪ふざけだよ」
「でも他の女の子友達とはこんなことしないよ」
「したら私怒る」
「ふふ」
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