広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・高3の春(4)

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みんなで会場に行ってから、会場の外の芝生で練習する。持って行っていたPortatoneで伴奏した。みんなで会場内に戻る。ボクは女性用の控室に行ってドレスに着替えてきた。
 
「わあ、なんか美しい」
「大人っぽい」
「これ以前ステージ衣装で何度か着た服なんだ。またステージの上で1度着てみたかったのよね。ステージに上がること自体久しぶりだから、使わせてもらった」
「なるほどー」
 
「ねー、冬ちゃん、ステージで上がらないコツってある?」
「うーん。何か別のことを気にしちゃうことかなあ。歌のこと考えちゃうと、上がりやすいよ」とボク。
「私、ステージに立つと歌っているうちに足がぶるぶる震えだして」
「その足の震えを気にしだすと、よけい上がるんだよね」
「そうなの!」
「だから、今晩のおかず何かなあとか、彼氏との今度のデートうまく行くかなあとか、次のテストちょっと頑張らなきゃとか、そんなこと考えていた方がいい。歌自体は、いやというほど歌い込んでいるから、半ば無意識でも歌えちゃうよ」
「ああ、それ、うまい方法だね」
 
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「冬ちゃんもそんなこと考えて歌ってたの?」
「最初の頃は、男の子とバレたらどうしようってのばかり考えてたよ」
「あはは」
「慣れてきて女の子に自信が持てるようになってからは、勉強のこと考えてることが多かった。学校が終わったあとFM局に行ってライブハウスに行ってなんてしてから、くたくたになって帰宅して、それから御飯とお風呂の後、宿題やって、作曲や編曲をしてから、更に実力アップのための問題集やってだもん。昨日途中で眠ってしまった分を今日は頑張らなくちゃなあ、とかよく考えながら歌ってた」
 
「わあ、なんか、それ他人事じゃない!」
「私たちは、そのお仕事の代わりに、クラブ活動とか塾とか入ってるもんね」
「高校生って、みんな忙しいんだね!」
 
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けっこう激戦区の地区なので、うちの高校よりうまいところがたくさんある。ボクたちは特に上位大会進出とかは意識せずに、のびのびと演奏をした。その雰囲気が良かったのか、特別賞というのをもらってしまった。
 
「特別賞ってなにかご褒美出るのかな?」
「賞状だけだよ」
「なーんだ。でもちょっと嬉しいね」
「成績では6位だったよ。よく頑張ったと思う」と成績表をもらってきた先生。
「今回参加した2年生・1年生に来年は頑張ってもらって関東大会進出してもらおう」
などと部長さん。
 
「次の部長は誰になるのかな?」
「当然、来美ちゃんでしょ」と部長。
「えー!?」と本人。しかしみんなが拍手している。
「正式には学校に戻ってから、全員いるところで決めるけど、もうほぼ決まりっぽいね。今の拍手は」
「このあと3年生は文化祭とクリスマスコンサートだけだから、練習自由参加になるし、あとは2年生中心に頑張ってね」
 
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6月10日。ローズ+リリーのベスト盤「ローズ+リリーの長い道」が発売された。一応レコード会社が「勝手に編集したアルバム」というタテマエではあったが、実際には、★★レコード担当の秋月さんとボクが電話で選曲や音源の選択などについて何度も話して、試作版などももらってそれを政子とふたりで聴いて感想なども言い、その意見も採り入れてくれたもので、ボクは事実上、ボクと政子の作品のひとつだと思っている。
 
このアルバムではボクは実は仮名で一部の曲の編曲もして、バレたら叱られそうと思いながらも、親には内緒で打ち込み伴奏まで作った曲もある。(実際あとで編曲についてはバレて、叱られた)
 
「長い道」は、このアルバムのタイトル曲で、ライブ音源から採ったものである。12月に出演したロシアフェアで歌ったものだが、このステージがローズ+リリーの最後のライブになってしまったし、そのライブの最後に歌ったのがこの曲だったので、このアルバムの事実上のプロデューサーとなった★★レコードの町添部長が敢えてそれをタイトル曲に採用した。
 
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ローズ+リリーの実際の活動は僅か4ヶ月だったのだが、この4ヶ月はほんとうはローズ+リリーの活動の、ほんの発端に過ぎない。ふたりは必ず復活して、長い歴史を刻んでいくと言って、ボクたちが歩む長い道、という意味も込めて、この曲をタイトル曲に選んだのだと町添さんは言っていた。
 
このアルバムには、過去に発売されたシングルの全てのタイトル曲をリミックスしたものや、「長い道」と同様にライブ音源から採られたものなども入っていた。「ふたりの愛ランド」は最初に作ったインディーズのシングルに入っていたもので、とてもシンプルな打ち込みで伴奏が作られていたのだが、人気曲なのでぜひアレンジを見直したいと言われ、△△社の甲斐さんが、須藤さんが退職する前に使用していたパソコンのゴミ箱!から、ミクシング前のデータを発掘して、その音声トラックに、ボクが新たに編曲した譜面に沿ってスタジオミュージシャンの人達に演奏をしてもらったものを再ミクシングして仕上げたものであった。
 
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この曲の編曲者名には「夜須譜津子」というクレジットがされていたが、熱心なファンは「yosu fuduko」が「sudo fuyuko」のアナグラムであることを見破ってネットでかなり話題になっていた。須藤さんの作品をベースにボクが編曲したので、ふたりの共同作品という意味合いを込めたものであった。もっともネットで話題になり、ワイドショーでも取り上げられたことから、親にばれてボクは叱られたのであったが。(但しボクは歌手活動は自粛すると約束したが音楽制作活動まで自粛するとは約束していない)
 
発売後にもうひとつネットで熱心なファンを発信源に話題になったのが「長い道」
というタイトルである。これは基本的にはタイトル曲の名前をそのまま転用したものなのだが nagai というのがアナグラムすると again になり、ローズ+リリーはいつかまた戻ってくるという意志を表明したものではないか、また「道」はそのままプロデューサーである、須藤美智子のことではないか、などと書かれていた。
 
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これにはボクたちも秋月さんや町添さんなども全く意図していなかったことだったので驚いたが、それについては特に否定コメントなどは出さないことにして、勝手に噂が広まっていくのを放置することにした。
 
ボクたちが後に須藤さんの会社と芸能活動の契約を再度結ぶまでの間、ローズ+リリーに関する様々な外部との交渉は、結果的に★★レコードの秋月さんが窓口のようになり、ボクと政子に意志確認しながら進めるというパターンが多かった。ボクらが受験勉強に集中していた間も、ローズ+リリーに関する様々なビジネスが持ち込まれ、「遙かな夢」などは福井県の和菓子屋さんのCMに採用され、地元では超有名曲になってしまったらしい。この曲の個別ダウンロード数も(大都市圏以外では)福井県で飛び抜けていた。
 
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ベストアルバムが発売されたちょうど一週間後が政子の誕生日だった。ボクは仁恵と琴絵を誘って、学校の放課後、政子の家に「押しかけ誕生パーティー」
に出かけた。
 
ボクが誕生日ケーキを買い、仁恵と琴絵もおやつやら、ジュースなどを買って一緒に訪問する。
 
「わあ、なんか嬉しい」と満面の笑顔の政子。
「政子が女の子の友達に囲まれて誕生日祝ってもらうのって初めてかも」
などとお母さん。
 
「あれ?そこに積み上げられている箱は?」
「ファンからのプレゼントなの。こんなに来てどうしようって思ってたから、みんな食べてよね」
「わ、すごい!」
 
ちょうどベストアルバムが発売された直後であったので、★★レコードにも△△社にも、ファンからのプレゼントがけっこう届いていて、★★レコード側でまとめて中身をチェックして、秋月さんが午前中に届けてくれていた。今日も届くかも知れないので、その分は明日持ってくるね、と秋月さんは言っていた。
 
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「あれ、でも冬、そういう服まではOKだったんだ!」
ボクは少し可愛いめのブラウスに、ほとんどスカートに見えるショートパンツを穿いてきていた。
 
「出がけに咎められたんだけど、買った時の明細表見せて、確かにショートパンツと書かれているのを確認してもらってから出て来た。でもお父さんからは、そのタイプのショートパンツも明日からは禁止って言われた」
「あはは。抜け道だもんね」
 
ケーキに18本のロウソクを立て、火を付けて政子が一気に吹き消す。
「おお、肺活量凄い」
「最近、毎朝2km走って身体を鍛えてるの。それで少し肺活量増えたみたい。私さあ、やはりもう少し歌がうまくなりたいなって思って」
「わあ、着々と歌手復帰に向けて準備中なんだ」
「うーん。今ここにお母さんがいるからこういうこと言う訳じゃないけど、私は、歌手として復帰するつもりは無いんだよね」
「えー!?」
 
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「取り敢えず乾杯!」
「よしよし」
 
みんな未成年なので、お母さんも含めて5人で、ジュースで乾杯し、ハッピーパースデイの歌をみんなで歌った。
 
「私はあの4ヶ月で完全燃焼しちゃったかな、って気がしてて。そこにいる子は不完全燃焼みたいで、復帰する気満々みたいだけど」
「あはは」
「でも、歌手として復帰しなくても、冬と一緒に時々アルバムの制作はしてもいいかなって思ってて。そのためには、やはりもう少しうまくならなくちゃと思って鍛えてるんだ」
「おお、やはり気合い入ってる」
 
「この子、受験勉強の息抜きにっていって、毎日カラオケ歌ってるのよ」
とお母さん。
「おお」
「サウンドカフェのシステム入ってるからね。私もここに来た時はけっこう歌わせてもらってる」とボク。
「政子って、おたまじゃくし見たら頭痛くなる私と同族かと思ってたのになあ」と琴絵。
「でも私よりずっと下手くそなアイドル歌手がたくさんいたから、私けっこう安心してたよ」と笑いながら政子。
 
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「琴絵ってロック系も苦手だよね」
「私、大音量の音楽が嫌いなの。だからPA入ってるコンサートには行かない」
「クラシックなら行くんだ」
「行くけど、眠っちゃう」
 
その日は夕方近くまで、5人でいろいろな話をした。ファンから頂いたプレゼントは、半分くらいしか消費できず、残りは後日、もう少し人数呼んできて勉強会?でも開いて、少し片付けようということになった。実際、翌日には秋月さんがまた大量のおやつ類を持ち込んできたのであった。
 
「でも、みんな夏休みはどうするの?」
「私、自動車学校に行く」とボク。
「大胆な受験生だな」
「お母ちゃんと、成績下がったら即退校って約束した。毎週模擬試験問題を制限時間つけて解いて、お母ちゃんに点数チェックしてもらって、85点未満だったら翌週は自動車学校禁止で、2回続けて85点未満だったら退校」
「おお、厳しい」
 
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「私は塾の合宿に行ってくる」と琴絵。
「わあ、さすが理系は頑張るね」
「いや、そのくらいやらないと、今の私の成績では、志望校通らない」
「わあ、頑張ってね」
「私も合宿行こうかなと思ったんだけどねー。私、合宿に行ってもみんなとおしゃべりばかりしてる気がして」と政子。
「ぎくー」と琴絵。
「だから、私は週3回塾に行って、あとは自分で勉強してようかなと」
「マーサの場合は、成績落ちたら日本退出だからね」
「そうなのよ!タイに来いって言われる」
お母さんが笑っている。
 
「私は塾には行かずに学校の補講に出ようと思ってる。冬も政子も補講は受けるんでしょ?」と仁恵。
「うん。補講は行くつもり。私、ひとりで勉強するほうが基本的には性に合ってるんだけど、ずっとひとりだとダレると思うんだよね。だから補講は刺激」
 
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「あ、私が塾に週3回行こうと思ってるのもそれ。補講も出るけど、補講は知ってる人ばかりだから、知らない人がたくさんいる所にも行った方がいいかなと思って」と政子。
 
少しずつ時の流れは急になってきつつあった。
 

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