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■夏の日の想い出・高3の春(2)

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やがて3学期は終わり、4月になって、ボクらは高校3年生になった。
 
ボクは志望校を関東の国立某大学の経済学部から、私立の△△△文学部に変更することを先生に言った。政子がそこを志望していたもののまだ成績的に微妙だったので、一緒に行こうよという気持ちを示して彼女に奮起してもらいたかったことと、ボク自身、ローズ+リリーの活動のおかげで、たくさんお金をもらい、それで私立に行く学資が得られたことも大きかった。3年生は志望校別にクラス編成が行われたが△△△は私立でもレベルが高いので、ボクも政子も国立文系コースのクラスに入れられた。ただし、ボクたちは別のクラスであった。
 
2年生の後半から仲良くなっていた琴絵は国立理系コースなので隣のクラスになってしまった。一方、1年生の時に同じクラスだった仁恵が同じクラスになり、彼女とも急速に親しくなっていった。政子は相変わらず友人を作らない性格だが、ボクが政子も誘う形で、琴絵・仁恵と4人で廊下などでおしゃべりしたりしていることもよくあった。ふたりは結果的にボクと政子の最大の親友になったのだけどどちらかというと仁恵はボクたちと最も仲の良い友達、琴絵はボクたちの最大の理解者という感じだ。
 
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ボクは高2の2学期には、政子や琴絵など、ごく親しい友人と話す時だけ女声を使い、ふだんは男声を使っていたのだが、3学期に学校に復帰した後は少しずつふだんでも女声を使うことが多くなっていった。そして3年生になってからは、もう女声しか使わなくなってしまった。
 
また年末頃から伸ばし始めていた(実は10月末に切ったのが最後)髪がけっこうな長さになり、高3時代のボクのトレードマークのようにもなったポニーテイルが春頃完成していた。こうして、学生服は着ているもののバストがあり、髪型はポニーテイルで眉は細く女の子の声で話す、男子高校生?が完成したのであった。
 

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春からボクは週1回、エレクトーンのレッスンに通い始めた。姉が子供の頃ヤマハの音楽教室に行っていたので、うちにはエレクトーンが置かれていて、ボクも小さい頃からよく勝手に弾いていた。運指に関しては姉が教えてくれたので、指くぐり・指またぎ・指替えなども、ふつうに出来ていたし、ギター用のコード付き譜面で、右手はメロディー、左手はコード、という形で一応の演奏ができるくらいの状態であった。16分音符の連続も多少なら弾けた(忙しさでは有名な「ティコテイコ」は猛練習して弾けるようにしていた)。それでローズ+リリーの活動をしていた時もライブで間奏をキーボードで弾いたりしていた。しかし正式に習ったことは無かったので、一度きちんと習っておこうと思ってのである。
 
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高校生だから、もうおとな向けのコースである。最初ステップ1のレッスンに出たのだが、あなた上手すぎるからといわれて2回目からはステップ2のクラスに入れられた。
 
エレクトーンのレッスンに行く時、ボクは学校からいったん自宅に戻ってから私服に着替えて行っていたので、同じクラスの受講生はみんな、ボクを普通に女子高生と思っていたようであった。変な面倒を起こしたくないので男の子であることをカムアウトしたが「えー?うそ!?」などと言われる。ケイの名前で歌手活動をしていたことを明かすと「あ!ローズ+リリーのケイちゃんだ!今気付いた」とひとりに言われた。
 
エレクトーン教室では、幾人か同世代の女の子と携帯のアドレスを交換した。その中には後にガールズバンドを組んでプロデビューした子もいて、彼女との交流は長く続いた。
 
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7月にはエレクトーンのグレード試験も受けた。9級は受ける必要無いと言われたので、8級を受けたが、先生は「7級受けてもらってもよかったかなあ」などと言っていた。
 

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ボクはだいたい女の子の友人とばかり話していて、男子の同級生などとはあまり会話していなかったのだが、その中でも比較的話しやすい感じの状態をキープしている子たちも数人いた。そのラインナップにその4月から加わったのが、3年生になって初めて同じクラスになった正望だった。彼は東大法学部(文一)を志望していて国立文系クラスに入れられていた。当時は「木原君」「唐本さん」
と呼び合っていた。
 
彼と最初に言葉を交わしたのは体育の時間だった。
 
3年生最初の体育の時間、ボクは2年生3学期の時と同様に面談室でジャージに着換え、男子の集合場所に集まった。2年の時から同じクラスだった子などと目で挨拶して、みんなと一緒に体育座りをする。その時、彼に声を掛けられた。
 
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「あれ?君、女子は向こうで集合してるよ」と正望。
「あ、すみません。ボク、男子なんで」とボクは女声で答える。
 
「面白い冗談だね。でも早く行かないと先生に叱られるよ」
「いや、本当に男子なんですけど」
「ちょっと顔見せて・・・・冗談がきついよ。ふざけてないで早く集合場所に行ったほうがいいよ」
 
「おい、木原、そいつほんとうに男だぜ」と2年の時からボクを知っている友人のひとり、佐野君がフォローした。
「えー!?」と正望が驚いたように言う。
 
ところが、そこに琴絵など女子の友人が数人来て「冬はこっちに来てって」と言って「え!?」と言っているボクを女子の集合場所の方に連行していった。
 
後で佐野君に聞いたところでは、ボクが女子の方に連行されていった後、正望は「なーんだ、やはり女の子だったんだね」と言ったらしい。
「いや、マジであいつ男なんだけど」と佐野君は言ったものの、正望は信じていなかったという。
 
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ボクは女子の方に連れて行かれた後、女子の方の体育の先生から
「ちょっと話し合った結果、唐本さんは今学期は女子の方に参加してもらうことになりましたから」
と言われた。
 
なんでも春になって再度ボクの体育の授業への参加について体育の先生達に生活指導の先生なども加わって協議した結果、女子と一緒に受けさせるほうが問題が少ないようだという結論に達したということであった。
 
3年生は体育は1学期までなのだが、男子の1学期の種目にはハンドボールとかラグビーとかバレーボールとかが予定されていたらしい。どれも乱戦になりやすい種目で、ボクとの身体的な接触を避けようとして、他の男子が怪我したりしたら問題だという話になったようであった。特にラグビーなんて絶対男子と一緒にはやらせられないという意見が多かったらしい。それに対して女子の方では、ダンス、マット運動、バドミントンが予定されていて、それなら、全然問題ないのではということになったとか。
 
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女子と一緒に授業を受ける場合、柔軟体操とかどうするのかというのが問題になったらしいが、その点について、ボクが女子と一緒に体育の授業を受ける場合は同じクラスになることになる琴絵が先生から個人的に呼び出され、ボクと仲良くしているようだが、柔軟体操をボクと組んでやったりしてもらうことは可能かと聞かれたらしい。琴絵は「冬は女の子だから問題ないですよ」と笑って答えてくれたということで、それで高3の1学期、ボクは体育はずっと女子と一緒にすることになり、柔軟体操はいつも琴絵と組んでしていたのであった(政子とは体育は別のクラスだった)。
 
授業では創作ダンスなどというのも、これまでは女子達がやっているのを遠くから眺めていただけだったのを初めて実地に体験したが、なかなか面白かった。身体の動きでひとつのイメージを表現する、というのはボクの創作意欲も刺激した。マット運動では「冬身体柔らか〜い。新体操部に入らない?」などと言われたりしていた。
 
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「ごめーん。新体操やってみたい気はするけど、コーラス部だけで手一杯」
と答える。やはりこの頃から、ほんとに勉強にあてる時間が拡大してきていた。でも「やってみたいなら1度でいいから、ちょっと顔を出しなよ」と言われた。1回だけ練習に付き合ってレオタードも着せてもらった。「わあ、身体の線が完璧に女の子だね」「身体の動作が凄く女らしい」などと言われたが、この新体操の体験もまたボクの創作意欲を激しく刺激した。
 
4月には身体測定もあったのだが、ボクは1人だけ別の日に保健室で受けた。「下着は全部女の子の下着なのね」と保健室の先生から言われる。
 
「ええ。高2の2学期までは一応男物の下着、自宅にあったんですけど使ってなかったです。時々カムフラージュに洗濯機に放り込んでたけど。親に女装がバレてからは全部捨てちゃったので今は女物の下着しかありません」
 
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「胸はシリコンパッドか・・・・」
「服着ている状態で上から触られると、本物っぽいんですよね。もっとリアルなブレストフォームってのを貼り付けてることもありますけど、今日は身体測定だから付けてないです。水着になったり、胸が半分見えるような服を着る時はそういうの使うんです」
 
「なるほどね」
「ほんとは豊胸手術したいくらいだけど、高校生のうちはダメって親から言われてるし」
「私もあなたのこと知ってから、だいぶ勉強したけど、もう中学生くらいで、女性ホルモン飲んで、自前のおっぱい膨らませてる子とかもいるのね、最近は」
「ええ、ちょっと羨ましいです。ホルモンも高校のうちはダメと言われてます」
「でも、親御さん、あなたが大事だから、そんなこと言ってるのよ」
「ええ、それは分かっているので、高校のうちは従うつもりです」
 
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「でもお股の所に膨らみが無いのは?」
「タックって技法で隠してますが、おちんちんはまだ存在してますよ」
 
「なんか、あなた女子更衣室で着替えてもいいみたいな感じ」
「同級生たちから解剖されて、バストパッドとか外されてしまいそうなので遠慮しておきます」
「ああ、やられかねない!」
 
「歌手やってた間はふつうに女性用の楽屋で着替えてたし、辞めたあとでも、こないだ政子とふたりでプールに行った時は一緒に女性用の更衣室で水着と着替えましたし」
「着換えても問題ないでしょうね!」
 

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