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■夏の日の想い出・雪月花(7)
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10月も下旬になってから11番目の曲『光る情熱』を制作した。
これも能登半島絡みで、キリコ祭りを見て書いた曲だが、『花の祈り』が能登半島なので、能登半島に偏りすぎるのをきらって、加藤課長の提案により、この曲のPVは青森市のねぶた祭りの映像を多数取り込んでいる。これも音源制作の前にPV撮影が先行した形になった。
実際の青森のねぶたを使用して、私とマリが「ハネト」の衣装を着て踊っているが、実はねぶた祭りの期間中に撮影したものではない。祭り中の撮影を地元の祭実行委員会に打診した所、やはり祭りの最中の撮影は不測の事態があった場合にまずいということになり、祭りが始まる前の7月末に、既に完成しているねぶたにリハーサルを兼ねて実際の祭りの参加予定者なども入ってもらい小学校の校庭で撮影した。実際の祭り囃子に合わせラッセーラーの声が響く中、私とマリが踊っているのを撮影しているし、七星さんほかスターキッズの面々が小型の「金魚ねぶた」を持っているシーンも映っている。「ななちゃん可愛い」と七星さんの浴衣姿は評判になっていた。
演奏も和楽器を多数使用している。祭りの囃子の雰囲気を出すのに大型の和太鼓を打楽器の専門家である福岡在住の伯母・若山鶴里(里美)に叩いてもらい、私が昔唐津で地元の祭り囃子の人から頂いた独特の横笛を千里に吹いてもらった。この部分の収録は私と千里と七星さんの3人で福岡に行き、福岡のスタジオで収録している。つまりこの曲は映像は青森で、音は福岡で作ったのである。むろん政子も付いてきて、しっかり博多ラーメンを食べていた(名代ラーメン亭で庶民的な価格のラーメンを8杯食べた所で七星さんがストップを掛けた)。
なおこの祭り囃子の笛は頂いた時、いつかこの笛を入れてCDを作ってねと言われていたものである。私が練習しなければならなかったのだが自信が無いので、和笛の専門家である千里に任せた。
この福岡で収録した音に東京のスタジオで近藤さんのギターと鷹野さんのベースを重ね、七星さんのフルートと月丘さんのマリンバを加えている。千里の和笛と七星さんの洋笛の共演はなかなか美しいことになった。今回は酒向さんは演奏お休みである。
10月の下旬、古い友人である鮎川ゆまが私のマンションを来訪した。彼女は私とはドリームボーイズのダンサー仲間であり、七星さんの音楽大学でのクラスメイトであり、雨宮先生の弟子であり、また青葉のサックスの先生である。
「冬、この曲を今作っているアルバムに入れてよ」
などと言う。
取り敢えず聴いてみたが、なかなか素敵な曲だ。
「これアルバムに入れるのもったいないです。次のシングルじゃだめですか?」
「いや、わざわざ制作時期を延長してまで作っているアルバム。絶対ミリオン行くよね?」
「そのくらい行かせたいですけど、こればかりはファンの方々次第なので」
「いや、私も南藤由梨奈の制作作業ずっとやってるけど、儲からないのよ」
「ああ、歌手が売れても、制作スタッフは潤いませんよね」
「私、お金欲しいからさ。ローズ+リリーのアルパムなら印税凄そうだもん」
「でも売れなかったらごめんなさいですよ」
「それは構わないよ」
そういう訳で、12番目には最初別の曲を予定していたのだが、鮎川ゆまが書いた『ファイト!白雪姫』という曲を制作することにした。
「だけど、ゆまさんっていつもこういう男っぽい服ですよね。髪も短いし。FTMとかじゃないんですよね?」
と政子がゆまに訊く。
「別に男になりたい訳じゃないよ。トイレも女子トイレしか使わないし。ちんちんくらいは時々付けるけどね」とゆま。
「ちんちんって、どうやって付けるんですか?」
「政子ちゃんになら、見せてあげようか?」
などと言って、ゆまはズボンと下に穿いてる男物のトランクスを脱いじゃう。
「すごーい! おちんちん付いてる!」
「女の子とセックスする時はあると便利だよ」
「ゆまさん、ビアンですか?」
「私はバイだよ。男の子とも寝るし」
「でも女の子とする時はタチなんだ?」
「もちろん。でもマリちゃん、ケイの使ってた付けおちんちんも触ってるでしょ?」
「やはり、ケイってこの手の付けおちんちん使ってたんですか?」
「そりゃそうだよ。私がドリームボーイズに参加した時、ケイは中学2年生だったけど、その時既におちんちんは無かったもん」
「凄い情報を知ってしまった!」
楽曲のコンセプトは最近はやりの「戦う白雪姫」である。ファイト!は戦うという意味と「頑張れ」という意味を掛けている。タンタラ・タンタラ・タンタラ・タンタラ・という鼓舞するようなベース音に合わせて、私とマリの歌が掛け合いで進行する。私の歌に合わせてビューグル(軍隊ラッパ)のファンファーレが鳴り、マリの歌に合わせて突撃の太鼓が鳴る。
このビューグルは海上自衛隊出身のローズクォーツのサトの友人で海上自衛隊の楽隊に居た人に吹いてもらったが、「かっこえー!」と近藤さんや鷹野さんが感心していた。太鼓の方はスタジオに来たついでにサトに打ってもらっている。
「結局俺もヤスもまたローズ+リリーのアルバムに参加することになったみたいだな」
とサトは笑っていた。サトとヤスはローズ+リリーの最初のアルバム『After 2 years』以来、毎回アルバム制作に何らかの形で関わっているのである。
PVの方は白雪姫の衣装を着けたマリが剣を持って、居並ぶ敵(氷川さんの依頼で、△△△大学のフェンシング部の人たちが出演してくれた)をなぎ倒していき、最後は魔法使いの衣装を着けた私を切り倒してしまうのである。私の首が飛んで地面に落ちるところ!?まで映っている。この撮影のためにマリはフェンシングのレッスンを一週間受けている。この首が飛ぶ所は実はサマフェスで使用してジュリアが2度も破壊した「ケイ人形」を補修して撮影した。元々首が取れているので、初心者のマリの一撃でも首を飛ばせる。でも自分の姿をした人形が破壊されるのは何か嫌だ!
13番目に制作したのは『花の里』という曲である。これは『ムーンライト・トーク』を書いた日の日中にローカル線に揺られていて書いた曲だが、後に換骨奪胎的な大改造を掛けている。
同じ「花」でも『花の祈り』の方は寂しい情景を歌った曲だが、こちらは優しい情景を歌ったものである。スターキッズのアコスティックバージョンを基本にして収録したが、アコスティック系の曲で「花」とタイトルに付く曲が随分増えたような気がするなと私は思った。
伊藤さん・桂城さん・松村さんのヴァイオリン、水野さん・千里と黒浜さんのフルート、更に七星さん・鮎川ゆま・私のサックスをフィーチャーしてソフトな音作りをした。(但し私は生サックスではなくEWIを吹いている)また政子が暇そうな顔をしていたので、オープニングとサビに含まれるピアノソロを弾かせた。
PVは私がこの曲を書いた唐津線の車窓風景を夏の間に撮影しておいたものを使用したので、旅情豊かなPVに仕上がり、あとで話を聞いたJR九州が同社のCFに使わせてくれと言ってきた。私と政子がおそろいの白いワンピースに麦わら帽子をかぶり、手をつないで田園を散歩する様子なども映っている。また、田園をバックに演奏するスターキッズも映っているが、これはどちらも小城町で夏の間に撮影したものである。
最後に制作したのは大いに話題を呼ぶことになった『Step by Step』という曲で、なんと作詞作曲は「水森優美香作詞・戸奈甲斐作曲」である。ゆみ自身が10月に私たちの所に楽曲を持ち込んできて、ぜひ歌って欲しいと言ったので収録することにした。
PVではインスタレーション作家・ 戸田敦美の監修で作った《永久階段》を登るゆみ自身の姿を映している。いわゆるペンローズの階段と呼ばれる図形である。本当は三次元空間上に実現できないものではあるが、映像上循環しているように見えるのは、実は上手なアングルから撮影しているのと、「つなぎめ」の位置が別の2個のセットが作られていて、両方での撮影画像をうまくミックスしているせいである。
登っても登っても階段はどこまでも続く。しかし終わりの無い階段を登るゆみは笑顔である。エッシャーの不思議図形のTシャツを着たスターキッズが永久階段をバックに演奏する姿を映した後、映像の後半では、私とマリ、ゆみの3人が永久階段を登っている。私はマリを追い、マリはゆみを追い、ゆみは私を追う。3人とも前を登る人を追いかけているが、永久階段なのでどこが先頭なのかは分からない。でも3人とも楽しそうに歌を歌いながら登っていく。
その3人の顔を並べて映したところで映像は終わる。
アルバムの配列上もこの曲を最後に置くことにした。結局アルバムの曲の配列はこのようにした。
1.『雪を割る鈴』2.『月下会話:ムーンライト・トーク』3.『花の祈り』
4.『可愛いあなた』5.『カオル』6.『眠れる愛』7.『白い虹』8.『光る情熱』
9.『神様ありがとう』10.『ファイト!白雪姫』11.『月を回って』12.『花の里』
13.『スティル・ストーム』14.『Step by Step』
先頭と最後の方とに「雪月花」の文字が2度並ぶ配列にしている。当初マリ&ケイの作品は10曲にする予定だったが、持ち込む人が増えたので8曲に留まっている。
English Version
1.Snow Break Bell 2.Moonlight Talk 3.Flower envy 4.How cute are you 5.Kaoru 6.Sleeping my Love 7.White Rainbow 8.Light of Passion 9.Thank Thee 10.Fight! Snowwhite 11.Around the moon 12.Flower Country 13.Still Storm 14.Step by Step
英語とスペイン語の歌詞を全てマリが書き、ネイティブの人にチェックしてもらった上で、自動翻訳による逆訳を示して原詩作者の承諾を得て、英語版・スペイン語版は11月下旬から12月上旬にかけて歌唱部分を一気に録音している。PVも歌が日本語のもの、英語のもの、スペイン語のものを制作している。
なお『雪を割る鈴』の衣装チェンジがやはり魅力的なので日本語歌唱のみにはなるが、8月31日大宮アリーナでの同曲ライブ映像を全ての言語版のDVDにもサービストラックとして追加した。
英語版・スペイン語版に関する作業を除く全ての作業が終了したのがもう11月下旬で、そのあと七星さんと麻布先生の指揮下でマスタリングが行われ、11月30日にマスター音源が完成した。そして発売日は、日本語版が12月10日、英語版・フランス語版は1月21日と告知された。
昨年は何とか費用を1億円未満に抑えたのだが、今年はPV撮影に多大な経費を使ったものがあり、制作費は軽く3億円を越えてしまった。
価格設定はCDのみの版が4000円(本体価格3703円)、CD+DVD版が6800円である。
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