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■夏の日の想い出・夏のセイテン(8)

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この日は、横須賀市内のホテルでローズ+リリー、KARION、XANFUSの合同打上げをした。スターキッズ・トラベリングベルズ・パープルキャッツほかサポート・ミュージシャンも都合のつく人は全員来ている。近藤・魚のペアも来ているし、風花や千里も来ている。無関係のはずのチェリーツインの紅ゆたか・紅さやか・桃川さんまで来ている。音楽番組で共演したことのある音羽が確保して、「まあまあ」などと言って引っ張ってきたらしい。
 
最初に加藤課長の音頭で乾杯するが、その後少し談話していた時トイレに行きたくなったので席を立つ。廊下を少し歩いてトイレの所まで行った時、そこから出てきた千里とばったり遭遇する。
 
「千里、音楽活動のこと、桃香には言ってあるの?」
と私は小声で訊いたのだが
 
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「言ってない。私の音楽活動は内緒」
などと言っている。
「でも遅くまで帰らなかったらバレない?」
「桃香はたいてい誰か女の子の所に泊まっているから、千葉のアパートは今実質誰も住んでないんだよ」
 
「よく分からない世界だ」
 
と私は音を上げた。
 
「冬子。私さ」
と千里は珍しく何か悩んでいるような顔をした。
 
「どうかしたの?」
「もしかしたら不義の子を作ってしまうかも」
 
私は千里の言葉の意味を取りかねた。
 
「それ千里が父親になるの?母親になるの?」
「それがどちらがいいのか、まだ分からないんだよね」
「うーん・・・・」
 
私も答えに窮したのだが、ひとこと言った。
 
「千里、その彼氏のこと好きなんでしょ? だったら作っちゃえばいいよ」
 
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すると千里は少し考えてから言った。
「そうだよねー。やっちゃおうかな」
「うん。そして桃香の子供も産んじゃいなよ」
「それもいいな」
 
「だけどさ」
と千里は言う。
 
「うん」
「何時間もベッドに寝たまま針を刺しては出し刺しては出しされるの、凄く痛いらしい」
と千里が言う。
 
「何だかそれマジで痛そうだね」
と私は答える。
 
「それを成功するまで、生理周期の度に、あと何度か繰り返すことになりそう」
「うーん。。。。私はそんなのやりたくないな」
 
と言ってからふと思って尋ねる。
「千里、生理あったんだっけ?」
 
すると千里はニコっと笑って言う。
「冬子も生理あるでしょ?」
 
「うん」
と言ってから、私はまた悩んでしまった。
 
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私の生理って、いつから始まったんだっけ??
 

私がトイレを終えて部屋に戻ると、もう席が入り乱れ始めていた。
 
紅ゆたか・紅さやかは、黒木さんや加藤課長などの近くで何だか男同士盛り上がっている雰囲気だった。土居さん(KARION担当)と福本さん(XANFUS担当)は和泉・小風となにやら話し込んでいる。魚みちるはどうも桃川さんと意気投合したようでハイピッチでお酒が進んでいる感じ。政子と美空は取り敢えず食欲に走っている。私は音羽・光帆に千里・近藤うさぎなどがいる付近に入る。
 
「近藤さんって、どこかで見た記憶があったんですけど、ローズクォーツの性転換ノススメのPVに出ていた方ですよね?」
と音羽が訊いた。
 
「よくご存じですね。一般に公開されたビデオでは顔出ししていないのに」
「個人的に興味があったんで、キャンペーンに応募したら抽選に当たったもので」
 
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「ああ、性的な違和感持つ人は興味惹かれたでしょうねー」
 
「醍醐さん、あなたも出てましたよね?」
と音羽は訊く。
 
「そのあたりは内緒で」
 
「近藤さんも醍醐さんも、手術は終わっているんでしょ?」
「あのビデオに出演した5人は全員終わってますし、戸籍も変更済みですよ」
「すごいなあ。ふたりともこうして見ていても、全然元男性だったようには見えないのに。あ、ケイもね」
と音羽は最後に思い出したように私の名前を付け足した。
 
「私は背が高いのがコンプレックスだったんですけどね。マリンシスタのダンサーにはモデル出身とかで背の高い子が多かったから気楽でしたよ」
と近藤さんは言う。
 
「音楽の世界は割と居やすいですよね。私もそれであまり苦悩せずに済んでいるような気がするし」
と音羽は言う。
 
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「バスケの世界も背が高い人多いでしょ?」
と近藤さんが千里に訊く。
「うん。バスケでは女子でも180cm以上が珍しくない。おかげで私は背丈のことではあまりコンプレックス持たずに済んでいた」
と千里も答える。
 
「女子でも180cm以上が普通かあ。やはり凄いなあ」
「バレーはもっと凄い。逆に背の低い人がいない」
 
という声に、私は蔵田さんのシークレットブーツのことを思い出して、つい、思い出し笑いをしそうになった。
 

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「近藤さんが小中学生の頃《どんな女の子》だったのか興味あるなあ」
などと、この手の話が大好きな政子が寄ってきて言う。
 
「私は取り敢えず高校までは男子として通学してますよ。でも高校出てすぐに性転換手術受けたんです。お金も親が出してくれて」
と近藤さん。
 
「そういう理解のある親はいいなあ」
という声が出る。
 
「醍醐さんは性転換すると言ったら父親から日本刀で斬られそうになったらしい」
と政子。
 
「ああ、その手の話もしばしば聞く」
 
「でも醍醐さん、小学生の時に性転換したんでしょ? やはりお父さんもびっくりしますよ」
と政子。
 
「私が性転換したの21歳の時だと言っても信用しないよね?」
と千里。
 
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「だって高校時代に女子選手としてインターハイとか国際大会とかにも出たんでしょ?高校に入る前に性転換が終わってないとあり得ないじゃないですか?」
と政子。
 
「うーん。そこを指摘されると弱い」
 

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「ケイなんて幼稚園の時に性転換しているからね」
と政子が言うと
 
「ああ、やはりケイちゃんって、ほんとに小さい頃に性転換したのね?」
と近藤さん。
 
「私が性転換したの19歳の時なんだけどなあ」
と私は言ったが
 
「そういう無意味な嘘はやめよう」
と光帆にまで言われてしまう。
 
「だって小学6年生で女の子ビキニ姿をこうやって曝しているんだから、それ以前に性転換は済んでいるのは間違いない」
と言って政子は松原珠妃の『黒潮』の写真集を取り出して開いてみせる。
 
「おぉ。こんな写真集があったのか」
などという声が出ている。
 
「そもそも男装のケイの写真って全く存在しないし」
と政子。
 
「正直言うと意識して抹消していた。男の格好をした自分の写真を残したくなかったから」
と私は言う。
 
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「ああ、それは私もやった」
と近藤さんも千里も言う。
 

「でも結構友達が私の男子写真持っているんですよ」
と近藤さんは言う。
 
「私も友達が誰か持っているだろうな」
と千里は言うが
 
「たぶんお友達は醍醐さんの女の子写真しか持っていないというのに1票」
と、いつの間にか寄ってきている美空が言う。
 
「美空ちゃんには色々知られているからなあ」
と千里。
 
「でも私も色々醍醐さんにしゃべっちゃってるからなあ」
と美空も言う。
 
「美空ちゃんにどういう秘密があるんだろう」
「取り敢えずおちんちんの話とか」
「美空ちゃん、おちんちん付いてたの?」
「内緒」
 

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「でもおちんちんなんて付いてたら、取り敢えず切っちゃえばいいよね」
などと光帆は大胆発言をする。
 
「やはり18歳の時点で性別は自分で選択できる制度に」
「性格が優しかったり顔が可愛かったりして女の子にしてあげた方がよさそうな子は強制手術で」
「ネット小説ではよくある話だ」
 
「私のパートナーはこれまでに、おちんちん3回くらい切られたらしい」
と千里が言うと
「おちんちんって切ってもまた生えてくるんだっけ?」
などと質問が出る。
 
「さあ、私はおちんちんなんて付けたことないから分からないなあ」
などと千里。
 
「醍醐さん、おちんちん付けたことないって、やはり生まれた時からおちんちん無かったとか?」
「内緒」
 
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その日はアルコールも入ってたことで、私・政子・音羽・光帆・千里・美空などが集まった付近では、どうもおちんちん談義に明け暮れた感もあった。
 
千里がバッグの中から《擬装用おちんちん》を取り出してみせると
 
「おお、これ私が使ってるのより精巧だ」
 
などと音羽が大胆なことを言っていた。
 
「なるほどこれでまだ手術受けてない振りしてた訳ですか」
「ケイはどんなの使ってたの?」
「使ってないって」
 
「これSTPできる?」
と音羽が訊く。
「STPは別途、適当なものと組み合わせるといいよ」
と千里は答える。
「メディスン・スプーン使える?」
と音羽。
「ああ、それは大丈夫。トラベルメイトもOK」
と千里。
 
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光帆も興味深そうに触っている。でも、何だか話が見えないんですけど!?STPって何さ? しかし千里のバッグも魔法のバッグだ。色々なものが出てくる。若葉の鞄とどちらが凄いだろうと私は思った。
 
美空まで
「見せて見せて」
と言って触って
「すごーい。本物みたい」
などと言い、
 
「本物に触ったことあるの?」
などと突っ込まれていた。
 
私も酔っていたのでよく覚えてないが、この「おちんちん」は最終的に音羽がお持ち帰りした気がする。
 

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翌日、政子とふたりで東京に帰ろうとしていたら、ホテルの1階で音羽・光帆のふたりに遭遇したので、一緒に帰ることにして、私のカローラフィールダーのリアシートにふたりを乗せ、横浜横須賀道路に乗った。
 
「醍醐さんとたくさん話したというの鏡子(浜名麻梨奈)たちに話したら羨ましがられそうだ」
などと音羽は言っている。
 
「彼女、これまでほとんど露出してなかったからね」
と私は答える。
 
「あの子、就活が20連敗とか30連敗とか言ってたから、やはり一般企業への就職を諦めて音楽業界でずっとやっていく気になったんじゃないかな」
 
「就活?する必要無いでしょ」
と光帆が言う。
「だと思うんだけどねー」
と私。
 
私は加藤さんが、千里が「こっそり書いている」と言っていたことから、実際彼女の年収は自分と大して違わないくらいあったりしないか? などとも考えていた。
 
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「ところで最近、ゆみ(AYA)と会った?」
と音羽が訊く。
「いや、なんか会う機会が無い」
と私。
「昨日も打ち上げに誘おうと思ったらもう帰ったと言われたのよね」
と光帆。
 
「私も美来(光帆)も全然話す機会が無いんだよね」
と音羽。
「そういえば私も半年くらい全然話していない気がする」
と政子も言った。
 
「笑美子ちゃん(ゆみの妹)の方とは何度か話したよ」
と光帆。
 
「あ、私もー」
と私も言う。
 
「しばらくテレビからは離れていたのが、最近いくつかドラマに出演したりしたね」
「まさか歌手やめて女優になるつもりとか?」
 
「それはもったいないと思うけどなあ。充分歌えるのに」
「この春にマネージャーも交代したんだよね。デビューした時からずっと担当していた高崎さんから、若い井深さんに」
 
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「そうそう。それでやっと運転免許返してもらったんで車買ったって」
「それは聞いてなかった。何買ったの?」
「ポルシェ・カイエンSハイブリッドだって。これ笑美子ちゃんから聞いた話」
「すげー車だ」
「一度乗せてもらったけど二度と乗りたくないと思ったって」
「危ない話だ」
 
「しかしカイエンなんて、私たちなら10年ローンだな」
などと光帆は言ってる。
 
「10年は無いでしょ。3年くらいで払えない?」
と私は言ったが
「お酒やめたら払えるかも」
と光帆。
 
「お酒飲みすぎると肌が荒れるよ〜」
 

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「ところで昨日の打ち上げに出てたメンツの中で性転換してる人って何人だっけ?」
と音羽が言うので私は数えてみた。
 
近藤うさぎ、千里、私。。。。桃川さんもかな? 確か造膣手術を受けていたはずだ。もっとも彼女は戸籍上の性別はチェリーツインのデビュー前に変更していたらしい。ペニスと睾丸さえ無ければ性別変更は通るんだとか言っていた。
 
「4人じゃないかな」
と私は答えた。
 
「あれ?4人いた?」
「どうかしたの?」
 
「私は3人かと思ってたから。でも5人ってのは勘違いかな」
「誰か5人って言ったの?」
 
「あ、いや多分適当に言った数字だよ」
と音羽は言った。
 
 
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