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■夏の日の想い出・夏のセイテン(5)
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(C)Eriko Kawaguchi 2014-12-07
ローズ+リリーのステージも昨日のKARIONと同様午後1番に入っていた。おかげで政子はお腹いっぱいお昼が食べられないなどと文句を言っていた(昨日の美空と同じ)。
先にスターキッズおよび若干のサポートの伴奏者が上がっている。その段階で既に「ナナちゃーん」などという声が響き、七星さんが手を振る。今日は入ってもらったサポートミュージシャンは、トランペットの香月さん、ヴァイオリンの松村さん・伊藤さん・桂城さん、フルートの黒浜さん、オルガンの山森さんである。よく入ってもらっている宮本さんは今日は入っていない。最初は月丘さんがグロッケンの前に立ち、山森さんがキーボードの所に居る。
なお今日は炎天下で演奏することからヴァイオリンは全て電気ヴァイオリンを使用することにした。サマーガールズ出版が所有するヤマハの「サイレント・ヴァイオリン」を6丁持って来て使ってもらった。
そして「苗場ロックフェスティバル初登場、ローズ+リリーのおふたりです」というアナウンスとともに、私と政子はステージに上がった。
4万人(というが実際には5万近くいる気がした)の大観衆から物凄い拍手と歓声があがるが、私たちを見ると、やや戸惑ったような雰囲気。
「こんにちは!ローズ+リリーです」
とふたりで一緒に挨拶する。
私は観衆の戸惑うような声に応えるようにマリに尋ねる。
「マリ、今季節は何だっけ?」
「冬だよ。winter(ウィンター), l'hiver(リベール)」
「私夏かと思ってた」
「私は冬だと思っていた」
「それでこんなコートを着ているのね」
私もマリもアースカラーのロングダウンコートを着ている。
「それではマリが冬だと言うので『雪の恋人たち』」
と言って、私たちは最初の歌を演奏しはじめる。
月丘さんのグロッケンが雪の降る様を表すような美しい曲である。山森さんもフルー管系の音で美しい音のハーモニーを奏でる。ヴァイオリン三重奏が音に深みを与える。
観客は手拍子もせずに聞き惚れているようであった。
演奏が終わってからおしゃべりをする。
「この歌は私たちが高校1年の2月に山形県の白湯温泉にスキーに行った時書いたものです。その時実はスリーピーマイスのエルシーとティリーに偶然遭遇したんだよね」
「そうだったっけ?」
「マリ覚えてない?」
「いや、どこかで格好良いお姉さんたちに会ったのは覚えてるんだけどね。あの温泉スキーに行った時だったのか」
「そうだよ」
「ところでその時、ケイは男湯に入ったんだっけ?女湯に入ったんだっけ?」
「当時はまだ男の子だったから男湯だよ」
「当時既に女の子だったから女湯じゃないの?」
「そんなことはない」
「だってこういう証拠があるしね」
と言ってマリは松原珠妃の『ナノとピコの時間』のCDケースを見せる。わざわざカメラの人がそのCDを接写してジャンボビジョンにも映る。私の小学生の時のピキニ姿が4万の大観衆にさらされ、笑い声が起きる。
「それ偽装なんだけどなあ」
「でもこの写真を見る限り、この時点で既におちんちんは無いみたいだし」
と言ってから、スタッフの人のサインに気づき
「あ、済みません。おちんちんって言っちゃいけないそうです」
と言う。
「この写真、虫眼鏡で見ると、お股の所に縦筋があるのも分かるんですよね。だから割れ目ちゃんがあったのは間違いないと」
と言ってから
「あ、済みません。割れ目ちゃんって言っちゃいけないそうです」
と言う。
「マリ、あまりやってると来年からお呼びが掛からなくなるよ」
「それはまずいな。このフェス楽しいのに」
「結構個人的にチケット買って来てたよね」
「それでは次に、制作中のアルバムに入れる予定の曲で『雪を割る鈴』聞いて下さい」
拍手をもらい演奏を始める。
月丘さんは自分のキーボードの所に戻り、山森さんとダブルキーボードになる。3人のヴァイオリニストが奏でる美しい弦の音にフルートや七星さんのサックスが絡む。
舞台袖から、ふたりの女性ダンサーが登場して踊り始める。ローズ+リリーの公演にダンサーを入れるのは初めてである。
雪がしんしんと降るような雰囲気の、静かでメロディアスな曲に、ふたりのダンサーの静かでスローな踊りがうまくマッチする。ふたりは歩くように、そして舞うように踊る。ふたりとも身長がかなりある。長身のふたりが手をピシッと伸ばすと、物凄く美しい。ふたりともかなりダンスが巧い。
歌の方はAメロBメロ・AメロBメロと繰り返す。
ここで2度目のBメロ途中で唐突にXANFUSの2人が数人のスタッフさんとともに、舞台袖から巨大な鈴を持って登場する。ふたりの登場に拍手が起きる。音羽がサーベルを持って、大きく振りかぶり、
「えい!」
と大きな声とともに、その鈴をたたき割る。
すると小さな鈴が大量にその大きな鈴の中から飛び出し、物凄いチリンチリンという音が響き渡る。
突然アップテンポの間奏が始まる。
それまで弱い感じでチャチャチャチャチャチャとハイハットを打っていた酒向さんがズンタズンタズンタズンタという感じでバスドラとシンバルで強烈なリズムを刻み始める。七星さんのサックスが元気なモチーフを演奏する。
ふたりのダンサーも突然ジャンプを入れた激しい踊りに転じる。
私とマリのふたりは着ていたコートを脱ぐ。下に赤と白のAラインのドレスを着ている。私が赤でマリが白である。歓声が上がる。
ふたりとも大きな声で歌い出す。ギターとベースが時折駆け巡るような音の動きを見せる。月丘さんはエレピの音で、山森さんはリード管系の音で雰囲気を盛り上げてくれる。そしてお客さんも大きな手拍子をしてくれる。
サビ16小節の後、Cメロを提示してまたサビ、更にAメロをアップテンポにしたものからまたCメロ、サビサビで終了。
最後は走り抜けるかのような音で終止。ダンサーのふたりもくるくるっと各々2回転スピンした上で背中をピタリと付けて手前側の足を大きくあげたポーズで終止した。
物凄く大きな拍手が送られ、歓声も凄い。私たちは大きくお辞儀をした。
「踊ってくれたのは、元マリンシスタのダンサー、近藤うさぎさん・魚みちるさんでした」
と私が紹介すると、大きな拍手が送られた。
短いMCの後、『言葉は要らない』『ネオン〜駆け巡る恋』『時を戻せるなら』と演奏するが、この3つの曲では山森さんがオルガンの音でキーボードを弾いてくれる。
その後、七星さん・鷹野さんがヴァイオリンに持ち替え、私も彼女たちと同じヤマハの電気ヴァイオリンを持って伊藤/松村/桂城/ケイ/鷹野/七星の六重奏をフィーチャーして『花園の君』を演奏。
更に私が胡弓を持って『あなたがいない部屋』を演奏した。
「だけど歌っているうちに結構暑くなってきたよ。ねぇ、マリやはり今は夏だということはない?」
と私は尋ねる。
「そうだなあ。私は冬だと思っていたんだけど、ケイが夏だというのなら。夏ということにしておいてもいいよ」
「じゃ次の曲行く?」
「うん。じゃヴィヴァ!サマー!」
そんな曲はローズ+リリーのレパートリーには無いので、観客は「新曲だろうか?」という感じの雰囲気。
しかしヴァイオリンを持っている5人はヴィヴァルディ『四季・夏』の第3楽章を弾き始める。"Presto"(急速に)という速度指示が付いているアップテンポの曲である。それに酒向さんのドラムス、近藤さんのギターがリズムを刻む。月丘さんと山森さんのキーボードが和音を添える。そして私とマリは歌い出す。
つまり『ヴィヴァ・サマー』というのは『ヴィヴァルディ・サマー』の略だったのである。会場内でこの言葉遊びに気づいた人たちがポツポツと出たようで、ちょっと面白い反応が起きていた。
そして私たちはこの曲の間奏部分で着ていた赤と白のドレスを脱いでしまう。実は、背中のしつけ糸を切るだけで簡単に脱げるように作られていて、この切る作業は、UTPの窓香と、サポートで入ってもらっていた△△社の長沼さん(本来はピューリーズの担当)がやってくれた。
ドレスを脱いだ下は紅白のビキニである。私が赤いビキニ、マリは白いビキニを着ているが、実は白いビキニはとっても透けやすい。このビキニを着るのにその下に付けるアンダーショーツとブラカップは、ビキニの色と合わせて結構な試行錯誤を窓香がしてくれたようである。
私たちがビキニ姿になったので、また歓声が上がっていた。
その後、『あの夏の日』を演奏する。
冒頭のブラームスのワルツのモチーフがフィーチャーされている部分は今日は黒浜さんがフルートで吹いてくれた。
更に『夏の日の想い出』を演奏する。こちらはパッヘルベルのカノンを意識したストリングアレンジがされている。これを今日は本当に3人のヴァイオリニストでカノン(追っかけっこ)をしてもらった。2小節ずつずらして演奏してもらうのである。
観客が盛り上がっている所で『100%ピュアガール』に行く。ここでまたふたりのダンサーが入り、今度はちょっとエアロビっぽい雰囲気の踊りを踊ってくれた。
「だけど冬も以前は不純物が混じっていたけど、ちゃんと不純物を除去して100%ピュアな女の子になれたね」
などと曲が終わった後マリが言うと、またどよめきがある。
「不純物ってバナナ?」
という声が客席から掛かる。
「そうそう。ケイってバナナ嫌いだもんね」
私のバナナ嫌いはファンには結構知られているので笑い声が起きる。
「だからバナナとチェリーを取り除いてちゃんと桃になったんだよ。ケイのお股はほんとにスッキリしたね」
とマリが言うと、また客席がざわめく。
「マリ、だからそういう話はダメだって。ほら。運営さんが渋い顔してる」
「あ、ほんとだ。ごめんなさーい。来年もこのフェスに来たいので自粛します」
というと観客が「来年も来てね」と声を掛けてくれる。私たちはお辞儀して応える。
「だけど昔、このフェスじゃないけど、フェスが終わった後の会場で歌ったね」
「あの時、夜宴を書いたんだよね」
「じゃ、それ歌おう」
ということで『夜宴』を演奏する。この曲では月丘さんがグロッケンを打ち、ピアノは山森さんが弾いてくれた。
更に発売したばかりのシングルから『Heart of Orpheus』『恋人たちの海』を歌った上で、大ヒット曲『神様お願い』、そして『ピンザンティン』を歌ったが『ピンザンティン』は、ちゃんとお玉を振ってくれる人たちが居て、さすがに驚いた。わざわざこの曲のために苗場までお玉を持って来てくれたなんて、ファンは本当にありがたい。
「いよいよ最後の歌になりました」
観客の「え〜〜!?」という声を受け止める。
「この苗場の舞台にピッタリの曲。『苗場行進曲』」
と言うと大きな拍手・歓声がある・
酒匂さんのドラムスがズンタタタというマーチのリズムを刻む。この曲だけのためにスタンバイしてくれていたスポーツのユニフォームを着た女性の集団が入ってくる。彼女たちがステージ上で行進を始める。私たちは歌い始める。観客も手拍子を打ってくれる。
これまで何百曲ものヒット曲を書いてきた東堂千一夜先生の楽しい1曲である。歌詞も昭和的懐古調で、やや年齢層の高い今日の観客にもなじみやすい曲のようだ。
そして演奏が終わる。
「今年の第40回記念全日本クラブバスケット選手権で優勝した千葉ローキューツの皆さんでした」
と私は行進をしてくれた人たちを紹介する。
その後、更にダンサー、サポートミュージシャンをひとりずつ紹介する。そしてスターキッズの面々を紹介する。
「そして私たちローズ+リリーのマリとケイでした」
「またお会いしましょう」
私たちは熱狂する大声援の中を満面の笑顔で退場した。
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