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■夏の日の想い出・夏のセイテン(4)

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「私は龍笛という笛の音を勘違いしていたよ」
と七星さんが言う。
 
「篠笛などと同じように吹く方が多いですね」
と千里は微笑んで言う。
「実は息の使い方が全く異なる楽器なんですよ」
 
「それを今、あなたの演奏を聴くまで知らなかった」
「でも青葉と、もうひとり、そのライバルと自称している天津子ちゃんという子の龍笛が、私の龍笛の何十倍も凄いですから」
と千里が言うと
 
「聴いてみたい!!」
と七星さんは本気で言った。
 
「あのふたり毎年のように演奏対決してるけど、ふたりともそれで毎年ぐんぐん上手くなってる」
と千里は言う。
 
「そういうライバルが居るっていいことだね」
と七星さん。
 
「近藤(七星)さんも、鮎川(ゆま)さんがライバルでしょ?」
と千里。
 
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「まあ、腐れ縁だな。あいつとは」
と七星さん。
 

「ところで今の曲って、ゆまの所のバンドの曲だよね」
と七星さんは訊く。
 
「はい。私の演奏を、ゆまさんが採譜してデビューアルバムに入れたんですよ」
と千里。
 
「そうだったのか!」
 
和泉はせっかくこんな凄い笛吹きさんたちが来ているならと言って今日のステージの演奏予定曲目『雪のフーガ』に含まれるフルート三重奏を、千里、七星さん、そして野村さんの3人で吹くことを提案したが、野村さんはクラリネットなら吹けるけど、フルートは自信が無いという。それで私が会場のどこかに居るはずの風花を呼び出し、演奏させることにした。風花は15分ほどでやってきたが、合わせてみて
 
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「こんな凄い人たちと一緒になんて出来ない!」
と尻込みしたものの、野村さんから
「いや、あんたのフルートもプロのレベル」
と言われて
「じゃ、やってみようかな・・・」
 
などと言っていた。
 
「ちなみに野村さん、この子は一応♪♪大学の管楽器科の卒業生で」
と私が言うと
「え?そうだったんだ。ごめんごめん」
と野村さん。
「すみません。あんた何科?打楽器科?とか言われます。もっとも私打楽器は何もできませんけど」
と風花は恐縮している。
 

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やがてKARIONの出番が来る。
 
私たちは伴奏者たちと一緒に5000人収容のRステージに出て行った。結局野村さんもステージ脇まで同行してくれた。ステージには、昨日の事件の影響で、警備会社の制服姿の屈強な男性が両脇に立っている。
 
しかし物凄い歓声である。それにお辞儀をして応えてから演奏を始める。
 
私はいつもこのフェスでは伴奏をしながら歌っていたのだが、楽器を弾かずに歌唱だけで出るのは初めてである。ちょっとこれも変な感じという気がした。
 
曲は4人での再出発というのを象徴する『四つの鐘』、年末年始にいくつもの賞を受けた『アメノウズメ』、遠上笑美子のカバーでこちらまで注目された『魔法のマーマレード』、ミリオンセラーとなった『雪うさぎたち』、人気曲『海を渡りて君の元へ』、最新シングルから『夕映えの街』『コーヒーブレイク』
と演奏していく。
 
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『雪うさぎたち』には超絶ピアノがあるが、これは美野里が難なく弾きこなす。『夕映えの街』ではいつの間にか巫女衣装を着けた千里が入って来てバックで舞を舞ってくれた。その厳かな雰囲気に観客の多くが手拍子を停めて見とれてていた(後で聞くと美空に乗せられてやったらしい)。
 
「千葉市で招き猫2体が居る玉依姫神社の巫女さんでした」
と美空が千里を紹介した。
 
『コーヒーブレイク』の演奏が終わった所でステージ脇から、七星さん、千里、風花の3人がフルートを持って出てくる。千里は巫女衣装を脱いで、控え室に来た時と同じジーンズ姿である。七星さんと風花もステージに立つ予定など無かったので普段着だ!
 
ここで七星さんが持っているのは彼女の愛用の木(グラナディラ)製フルート、千里が持っているのは彼女が高校時代に市民オーケストラで使っていたというヤマハの白銅製フルート(YFL-221)、風花が使用しているのは私が持って来ていた総銀製のフルート(ムラマツDS)である。
 
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そして彼女たちのフルート三重奏をフィーチャーした『雪のフーガ』を演奏する。
 
3人は全く別タイプのフルートを使っているのだが、それでも音は美しいハーモニーを形作る。その音に半ば酔いしれながら、私たちは歌を歌っていった。その4人の声がまた美しいハーモニーを作る。
 
フルートのハーモニーと声のハーモニーが美しく絡み合ってやがて終曲。
 
割れるような拍手に、私たちは深くお辞儀をした。
 

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ここで和泉が少しMCをするのだが、和泉がおしゃべりしている間に背後で動きがある。和泉が「ん?」という表情で振り返ると、なんとバスケットボールのゴールが設置されている。
 
和泉が私を見る。私は首を振る。バスケットのゴールを持って来たというのは恐らく『恋のブザービーター』を演奏しろということなのだろうが、その曲は演奏予定曲目には入っていなかった。
 
そして下手から出てきたのは何とどこかのバスケチームのユニフォームを着た薫である。筆記体なので読みにくいが Rocutes だろうか?? わざわざここに薫が出てくるというのは、これは前もって誰かが仕込んでいたものだ。
 
誰だこれを仕掛けたのは?と思ったら、美空がニヤニヤしている。
 
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「美空、何するの?」
と和泉が訊く。
 
「ブザービーター」
 
薫が千里めがけてボールを投げる。
 
すると千里は自分が持っていたフルートをSHINの所に投げる。SHINが驚いたような顔をしてそれをキャッチする。千里はボールを受け取るとボールをドリブルし始めた。
 
DAIが千里のドリブルに合わせてドラムスを打ち始める。HARUがそれに合わせてベースを弾き始め、伴奏が始まる。SHINは千里のフルートをそのまま構えて、本来はサックスで入れる前奏をフルートで入れてくれた(後で間接キスだとファンサイトで指摘されていた)。
 
据え膳食わぬは女の恥!ということで私たちは(美空以外)予定に無かった『恋のブザービーター』を歌い始めた。
 
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風花と七星さんはうなずき合って退場した。
 
千里が上手側でボールをドリブルしているので、それと同じリズムで、薫もステージの下手側で別のボールをドリブルしている。ふたりは時々パスしてボールを交換する(千里もこんなことをするなんて全く聞いていなかったらしい。つまりぶっつけ本番)。
 
そして曲の終わりで美空が審判が使うような笛を取り出してピー!と吹く。すると千里はその笛が鳴っている間に、ステージに置かれたゴールめがけてボールをシュートする。
 
ボールはバックボードにも当たらず直接ネットに吸い込まれる。
 
この掛け値無しのスーパープレイに会場は大きくどよめいた。
 
美空がマイクに向かって
「バスケットボールU18元日本代表シューターの村山さんでした。拍手!」
 
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と言うので、会場全体から大きな拍手と声援が送られ、千里はSHINからフルートを受け取って会場に手を振りながら退場した。
 
この後、私たちは『Crystal Tunes』を演奏してステージを終えた。
 

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「いや〜、びっくりした」
と控え室に戻ってから千里がタオルで汗を拭きながら言う。
 
「私もびっくりした!」
と美空以外の、和泉・小風・私。
 
「フルートが飛んできてびっくりしたけど、俺の手の中にフルートの側から飛び込んで来たんでキャッチした」
とSHIN。
 
「SHINさん、それ、twitterに書いといてください。あれ楽器を粗末に扱ったと誤解する人がいたらいけないから」
と美空。
 
「千里はコントロールがいいから、あの距離ならストライクで渡せるよな」
と便乗して控え室に付いてきている薫。
 
「でも千里、日本代表になってたんだっけ? そんな話聞いてなかった」
と私は訊く。
 
「U18だよ。ジュニアだから、正規の日本代表とは全然違う」
と千里。
 
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「千里は有力大学のバスケ部とかに入れば良かったのに」
と薫。
 
「それはこっちのセリフ。でもまあ、あの時は高校卒業でバスケは辞めるつもりだったから」
と千里。
 

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私は会話しながら、何かひっかかるものがあった。やがてその問題に行き当たる。
 
「千里、そのU18の大会って日本国内であったの?」
「ううん。インドネシアのメダンって所。マレーシアのクアラルンプールの対岸付近」
 
「そんな所にインドネシアの島があったっけ?」
と小風。
「スマトラ島だよ」
 
「千里、女子チームだよね?」
「当然」
「パスポートの性別は?」
「内緒」
「うーむ・・・・」
 
美空はクスクスと笑っている。
「千里も冬も多分本当は生まれた時から女の子だったんだよ。男の子の振りしてただけ」
 
「いや、それは違う」
と私も千里も言った。
 

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「え?滝口さん、辞めるんですか?」
 
私たちは着替えを終わってから食堂で休憩していた時、滝口さんが私たちを見つけてやってきて言ったことばに驚いた。
 
「うん。このフェスの成功をお土産にアーティスト担当からは離れることになった」
「へー」
 
と私や美空は反応するが小風は無視している。小風は滝口さんが大嫌いなのである。
 
「この後は私の後輩なんだけど、土居って人が担当するから、今度そちらの事務所に挨拶に行かせるから」
 
「滝口さんは別のアーティストを担当するんですか?」
と私は訊く。
 
「ううん。村上専務が主宰して『戦略的音楽開発室』というのを作るんで、それに入ることになった」
 
「へー。何かよく分かりませんが頑張って下さい」
 
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苗場ロックフェスは最終日になる。
 
この日も良く晴れていた。今年はほんとに天気には恵まれた。
 
この日はローズ+リリーがGステージ(4万人)に出場するし、Hステージ(5千人)にはローズクォーツも出場する。ローズクォーツの方はOzma Dreamがボーカルをしてくれるので、私も政子もノータッチである。ただ政子は「全然関わらないのは寂しいよ」と言い、私の人形を作った。
 
3Dプリンタを使って、私の等身大のコピーを作り、その人形を立てておいたのである。最初ステージにその人形が立っているのを見た時、観客は私がこちらにも出場するのかと思ったらしい。
 
この人形は演奏中ずっとOzma Dreamの隣に立てておいたのだが『Back Flight』を歌っていた時、この歌の振り付けでOzma Dreamのふたりが後ろ向きにステップする時、うっかりぶつかって倒してしまい、それでお腹のところで真っ二つに折れてしまったらしい。
 
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「きゃー。ごめんなさい。ケイさんを壊してしまいました」
 
ということで「ケイ死亡!」という書き込みがツイッターに多数出現することになる。苗場に来ていて、ツイッターをしている風帆伯母がギョッとしたらしい。
 
 
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夏の日の想い出・夏のセイテン(4)

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