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■夏の日の想い出・食事の順序(6)

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料理が来ると政子は嬉しそうに300gの巨大ステーキをナイフで切っては食べ、切っては食べる。
 
「美味しい、美味しい。私、お肉大好き」
「お魚も好きだよね」
「うん。今度、お寿司屋さん行こうよ」
「はいはい」
 
「そうだ。千里、もし作曲能力に余力があったら、ローズ+リリーの制作中のアルバムに1曲書いてもらえないかな?」
と私は言った。
 
「いいよ。葵の詩にストックが充分あるから、書けると思う。2〜3日中に書いて送るよ。私は今実質修士論文書くのと、就活しかしてないから」
「就活するの?」
「するよ」
「作曲家の専業になればいいのに」
「専業になれるほど儲かってないよ」
と千里は笑って言う。
 
「作曲の専業で食っていけるのは頂点のひとにぎりだけでしょ」
 
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似たことをそういえば櫛紀香さんからも言われたなと私は思った。あれ?でもそういう状況なら帝国ホテルの食事をおごってもらったのは悪かったなと思う。もっとも、千里は今更半分出すよとか言っても受け取らないだろう。
 
「そうだなあ。私たちもスリファーズが無かったら、何かバイトでもしないといけないなという方向に行ってたよ」
「ローズ+リリーが実際問題として商売になるようになったのって一昨年からでしょ?」
「そうなんだよ。色々な問題でなかなか思うように活動できない期間が長かった」
 
「でも今の時期、就活は厳しいでしょ?」
「厳しい。特に女子の修士卒は厳しい。更に私は性別を変更しているから、それでそもそも門前払いをくらってる」
 
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「千里、性別を変更したなんて言わなきゃいいじゃん」
と私は言う。
「同感。千里を見て男だったかもと思う人なんて居ない」
と政子も言う。
「いや、言わないのはフェアじゃないし」
と千里。
「そんなの気にすることないじゃん。バレた時はバレた時だけど、千里はまずバレない」
 
「でも受け入れてくれる所はきっとあると思うから頑張るよ」
 

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そんな話をしながら、私は頼んでいたステーキを食べるのだが「うーん」と小さな声を出して、いったんナイフとフォークを置いてしまった。
 
「どうしたの?」
「いやちょっと・・・」
「調子でも悪い? このステーキ美味しいのに」
「うん、いつもならこれ凄く美味しいと思うと思うんだけど」
 
千里が微笑んでいる。
 
「いや、実はここに来る前にお呼ばれして帝国ホテルでディナー食べてきたんだよ」
と私は言った。
 
「えーー!? 帝国ホテル? なんで私も連れてってくれないのよ?」
と政子。
「じゃ、今度連れてってあげるよ」
と私は答える。
 
「千里、葵照子さんの時間の取れる日を教えてくれない? こちらも時間調整して一度一緒にお話したい」
「いいよ」
「じゃ、葵照子さんと一緒に帝国ホテルでディナーね」
 
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政子を帝国ホテルなんかに連れてったら、一体何十万掛かるだろうと少し恐ろしくなってくるが・・・。
 
「それでさ、普段ならロイヤルホストのステーキなんて凄く美味しく感じるのに、帝国ホテルのディナー食べた後だと、何だかあまり美味しく感じられないんだよ」
と私。
 
「ああ、それはさすがに比較の対象が悪すぎる」
と政子。
 
「プロフェッショナルの庭師が整備した素敵な花園を見た後で、素人の家庭花壇とか見たら、落差を感じるのと同じだろうね」
と千里は言った。
 
「うん、それに近いよね。ロイヤルホストはそれでも本職の料理人さんが各店舗に1人いるから、ファミレスの中では別格的に美味しいんだけどね」
と政子。
 
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私は微笑んでその会話を聞いていたが、ハッとした。
 
千里は《花園》と言った。
 
花園・・・・『Flower Garden』か!
 
その瞬間、私はなぜ千里が帝国ホテルのディナーをおごってくれたのか、その意図に気付いてしまった。《巫女》を自称する千里のことだ。恐らく彼女はその後で、私たちがファミレスに来ることまで読んでいたんだ。
 
つまり『雪月花』をファミレスの食事にしてはいけない。
 
『Flower Garden』の素晴らしさに酔ったファンの人たちが『雪月花』を聴いてがっかりしてはいけないんだ。
 
その瞬間、私は『雪月花』の発売をずらしても充分な制作期間を取るべきだということを決断した。
 
「ごめん。ちょっと電話してきていい?」
と私は言う。
 
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「どうぞ、どうぞ」
と千里。
 
「あ、だったらこのステーキ、私が食べてていい?」
と政子。
「いいよ」
と私は微笑んで言ってから席を立ち、店の外に出る。そして深夜ではあったが町添部長に電話をした。
 
町添さんはまだ会社に居た。私と町添部長の電話対談は1時間に及んだが、町添さんは私のわがままを許してくれた。それで、『Heart of Orpheus』の発売記者会見の席で、雪月花の発売を12月に延期することを発表するに至るのである。
 
私は夏のツアーをしないことで発生する会場のキャンセル代はこちらが払うと言ったのだが、町添さんはそれはこちらが勝手に予約していたものだからと言って★★レコードで持つと言ってくれた。
 
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ただあちこちを納得させるための交換条件として1日だけ横浜エリーナでの公演をすることを決めたのであった。
 

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私が町添部長との電話を終えて席に戻ると、政子は自分が頼んだステーキ2つと私が食べなかったステーキをきれいにたいらげた上でクラブハウスサンドイッチにカレーを3杯食べていた。私はやはり政子を帝国ホテルに連れて行くのは無意味という気がしてきた。帝国ホテルを素通りして、近くのマクドナルドかロッテリアでもいいのではなかろうか??
 
タクシーに乗って、千里の車を駐めている駐車場まで行く。そこで後部座席に政子と2人で乗り込む。千里がインプレッサ・スポーツワゴンを発進させる。ワインの最後の一口を飲んだのは19時頃だ。千里はワインは2杯しか飲まなかった。現在深夜1時すぎ。既に充分酔いは醒めている。
 
駐車場は千里中央駅の近くで車は千里(せんり)ICから上の道に乗り、そのまま名神高速に入る。
 
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「トイレ休憩とかが必要なら、桂川PAに入れるけど」
「あ、大丈夫でーす」
「だったら、京滋バイパス通るね」
 
「千里、いつこちらに来たの?」
「日曜日だよ」
「だったら、6日間駐めてたんだ?」
「うん。ここは管理者に言っておけば何日か駐めてもいいんだよ。1日の駐車料金もmax2000円だし。こういう便利な駐車場は、大阪の中心部には無いんだよね。だからいつもここに駐めてる」
「確かに中心部の駐車場は高いし、夜間は出入りできない所も多いよね」
「そうそう」
 
「だったら、その駐車場代と東京までのガソリン代・高速代は私が出すよ」
「そうだね。もらっておこうかな」
 

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「でも政子、今夜はそもそも貴昭君の所に泊まるのかと思ってた」
 
居るのが千里だけなので、私は政子と彼氏の話を出す。
 
「彼は今社員寮暮らしだから、女の子連れ込む訳にはいかないみたい」
「ホテルに泊まる手もあるでしょ」
「うん」
 
と言ったまま政子は黙り込んでしまう。彼とうまく行ってないのだろうか。
 
「実は彼、恋人がいるみたいなんだよね」
と政子は言った。
 
「うーん。今までの政子の態度だと、そういう人ができても仕方無い気がするよ。彼が恋人になりたいと言ってたのを拒否して、あくまでも友だちでなんて言ってたでしょ?」
と私は言う。
 
「うん。あくまで貴昭とは友だち。でも私は貴昭と別れるつもりはないし、彼も私との関係は続けたいみたい」
 
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「まあ、二股もいいんじゃない?」
「うん。それでもいい気はする。彼がもし向こうの彼女と結婚すると言い出したら仕方無いけど、そうなるまではこちらも頑張ってみようかな」
 
そんなことを言っていたら、運転席の千里が大胆なことを言う。
 
「結婚しちゃっても、好きだったら関係は続ければいい」
「おっ」
 
「と思わない?政子」と千里。
「そうだなあ。そういうのもいいかな」と政子。
 
「世間的には不倫だとか騒がれるかも知れないけど、マリちゃんの男性関係なんて、今更でしょ?」
と千里。
 
「ああ。私って友だちには恋多き女と思われてるみたい」
と政子。
 
「いや、実際に恋多き女だと思う」
と私も言う。
 
政子が大学時代の4年間にある程度の期間付き合った彼氏は貴昭以外に3人だが、数回デートしただけの相手なら、私も人数を把握できないくらい居る。
 
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「でも千里、まるで自分が不倫したことあるみたいな言い方」
「世間的には不倫と思われるかもね。私も彼もそういうつもりではないんだけど」
「不倫してるの!?」
 
「あくまで友だちとして付き合っているだけだよ」
「千里は桃香さん一筋かと思ったのに」
「桃香一筋だよ。だから彼との関係はあくまで友だち」
「分からん!」
 
「冬子と政子が事実上の夫婦関係にあるのに、各々彼氏も持っているというのも、なかなか理解されないところだろうけど、あまり矛盾は感じてないでしょ?」
 
「ああ。男の子を好きになるのと女の子を好きになるのは、ちょっとチャンネルが違うんだよ」
などと政子は言う。
 
「というよりも男女関係無く4人くらいまでは同時に愛せると思わない?」
と千里。
 
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「あ、それは多分4人くらいが逆に限界だと思う」
と政子。
 
「千里も桃香さんへの愛と、その彼氏との友情が両立してるんだ?」
「うん」
 
「彼氏とセックスするの?」
「彼が結婚した後はしてない」
「あ。彼氏、結婚してるんだ?」
「もしかして先週大阪に来た時って?」
「うん、デートしたよ。セックスもキスもしてないし、手も握ってない。一緒にドライブして散歩して食事しただけ」
「それでもやはり不倫という気が」
 
「世間的にはそう思うかもね。彼が奥さんと結婚したのは去年の夏なんだけど、実はその前に私と彼も結婚してるんだよ。だから彼も私も重婚なんだよね。一応いったん別れたし、その後、自分たちの関係は友だちということにしているけど、一方で実は夫婦意識も継続してるんだよ、お互いに」
 
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「そうか、千里は桃香さんとも実質夫婦だよね?」
「実質でなく、本当に夫婦のつもり。実は桃香とも結婚式をしてるんだよね」
「そうだったのか!」
 
「冬子と政子も多分既に結婚式してるよね?」
「うん」
 
「彼の方と結婚したのは実は高校時代なんだ。三三九度もしたし初夜もしたし」
と千里が言うと
「初夜か・・・それってどこ使ってしたの?スマタ?後ろ?」
と政子が質問する。
 
「初夜だもん。当然ヴァギナだよ」
と千里は答えた。
 
「高校時代に千里、ヴァギナがあったの!?」
「そのあたりが自分でもよく分からないところで」
「へ?」
 
「結局自分はいつから女の身体で生きているのかというのを考えれば考えるほど分からなくなってくるんだよね」
「でも、千里、一昨年性転換手術を受けたよね?」
「うん。確かに性転換手術を受けたのは一昨年の夏。でもなんか時系列とか因果律が混乱してるんだよね」
「何だか分からん!」
 
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その晩は千里の因果律問題?で話が混沌としてしまい、不倫問題はうやむやになってしまった感もあった。
 

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千里(ちさと)が運転する車は快調に深夜の高速を走っていった。京滋バイパス、新名神、伊勢湾岸道、新東名と走りやすい道を走って行ったが、政子は新名神に入ったあたりで眠ってしまった。
 
千里はピタリと制限速度を守って走って行く。そしてカーブでは最も加速度が掛からない走り方をする。直線でも速度が安定していて多少の上り坂・下り坂でも速度は変わらない。
 
さすがに東京まで1人で運転するのは辛いよと言って私が御在所SAから浜名湖SAまでを運転した。昨年秋にイギリスに行った時MT車を運転したのでまだ身体が覚えていた。
 
「千里、物凄く運転が巧かった。それに絶対安全運転なんだね」
 
「雨宮先生が言ってたんだよ。高岡さんが飲酒して車を暴走させて激突死して、それでワンティスは活動停止に追い込まれたでしょ? だからその後、残ったメンバーで誓ったんだって。絶対速度厳守。飲酒運転や疲労運転の絶対禁止。だから上島さんも雨宮先生もゴールド免許。私もそれ聞いてきちんと交通規則を守らなきゃと思ったんだよ」
 
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「千里ゴールド免許だっけ?」
「ゴールドだよ」
「凄い!」
「冬子もゴールドでしょ?」
「私は免許取ってからまだ5年経ってないんだよ。和泉は16歳で原付と小特を取ってたから既にゴールドなんだけど」
 
「和泉ちゃんはフルビッター狙いか」
「そうそう。大学卒業するまでにフルビッターになりたかったらしいけど、仕事が忙しくてなかなか取りに行けないみたいだね」
 
「冬子、免許取ったのはいつ?」
「2009年10月23日」
と私は免許証を確認して言う。
「だったら、今年の12月中旬以降に自動二輪でも中型でもいいから免許を取ればゴールドにできる」
「ああ!その手があったか」
 
「私もそれでゴールドにしたんだよ。私は2009年3月30日に免許を取ったから、2014年5月10日で5年と41日が経過したんだ。それで5月15日に大型免許を取得してゴールドにした」
「うまいね!じゃ、千里、大型も持ってるんだ!」
「うん。それでさっそくこないだ雨宮先生に12トントラック運転させられた」
「う・・・」
 
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■夏の日の想い出・食事の順序(6)

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