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■夏の日の想い出・浴衣の君は(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2013-11-17
 
後半は伴奏陣はコスプレをやめて、普通の衣装である。普通と言っても、水兵さんのイメージのセーラー服を着ている。
 
セーラー服と聞いた時、最初MINOさんが
「えー!?女装なんですか?」
と言ったが、水兵さんの服と分かって、ホッとしたような顔をしていた。
 
「いや、MINOだけ可愛い女子中生のセーラー服姿でもよいが」とTAKAO。「勘弁してよぉ」とMINO。
「あ、今度全員女装で伴奏しない?」とSHIN。
「それお客さん逃げてくから」とHARU。
 

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それでこの後半では、私は実は舞台セットのロケットの中に隠れて電子キーボード(Yamaha MOTIF XS8)を弾いたのである。舞台上では夢美のお姉さんの響美(おとみ)さんがステージ上のキーボード(私のと同型のXS8)の所に居て、さも弾いているかのようにしているが、実はそもそもキーボードの電源を入れていない! それで音を実際に出しているのは私という仕組みである。
 
後半は泉月の作品をひたすら並べる。
 
出たばかりのシングルの曲『愛の悪魔』に始まって、まずピアノの超絶パートを含む『遠くに居る君に』『優視線』を弾くが、その難しいフレーズの後で客席から拍手が来る。それに対して弾いてる振りをしている響美さんがVサインを出して、それにまた拍手が来ていた。なかなかの役者だ!
 
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その後、『恋愛貴族』『空を飛びたい』『水色のラブレター』『Diamond Dust』
『Snow Squall in Summer』と歌ってから、活動休止中のローズ+リリーへのエールと称して、ローズ+リリーの《未発表曲》『坂道』を歌ったのには大きなざわめきが起きていた。
 
「この曲はローズ+リリーがデビュー前にレコード会社に売り込むべく作っていたデモ曲だそうで、11月に発売されるとケイちゃんから聞きました」
と和泉が説明すると、更にどよめきが起きていた。
 
そして最後は華やかに多彩な楽器の音の入ったアルバム内の曲『コスモデート』、そして『恋のクッキーハート』で締めて後半のステージを終えた。この『コスモデート』だけは、響美さんもキーボードのスイッチを入れて演奏を手伝ってくれた。これの音源制作の際には、私と和泉、夢美に穂津美さん(エルシー)まで入れた4人でキーボードを弾いている。
 
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アンコールで呼び戻される。私はロケットの中に入ったままである。
 
デビュー曲『幸せな鐘の調べ』を、いつものようにTAKAO, HARU, DAI, SHIN, MINO の5人だけの演奏で歌唱する。ここでは私もキーボードを休み、歌だけで参加した。
 
そしてセカンドアンコールはいつものように『Crystal Tunes』である。グロッケン奏者と響美さんが入って来て、響美さんがキーボードの所に就くが、キーボードのスイッチは切ってある。そして実際にはロケットの中にいる私がキーボードを弾きながら和泉たちと一緒に歌った。
 
そのようにして、2009年夏休みのツアー、初日札幌公演は終了した。
 

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翌日は新千歳9:15のエアドゥ便(チケットはANAのコードシェアで取っているのでマイルは貯まる)で新潟空港に移動する。そこから上越新幹線でフェスの会場最寄り駅・越後湯沢に入り、そこから手配していたバスで会場に向かう。
 
和泉・美空・小風に私、トラベリングベルズの5人、コーラスの3人、夢美と響美、サポートのグロッケン奏者、フルート奏者、畠山さん、望月さんの他、事務所の男性スタッフ2人を入れて総勢20名に楽器まであるので充分大型バス1台を占有する。
 
青島リンナは三島さんが付き添って直接東京に帰っている。次は28日金沢での共演になる。
 
越後湯沢に着いたのが12:01で、会場に入ったのは12:30くらいであった。
 
「天気悪いですね」
とTAKAOさんが空模様を見て言う。
 
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「母が前夜祭から入っているんですが、今年は雨が凄くて大変だそうです。一部の行事が取りやめになったりしたようですね」
と私。
 
「あ、私のお母ちゃんも来てる」
と小風。
「KARION見るからねと言われたけど、見ないでーと言った」
 
「なぜ?」
「恥ずかしいじゃん」
「何を今更?」
 

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ロックフェスティバルなるものに来たのはこれが初体験だ。初体験で日本で最高のフェスを経験し、しかも先に演奏する側になるとは思いも寄らなかった。
 
母は木曜日の前夜祭から参加しているが、金曜日にお目当てのクレマスが今度こそはちゃんと出てきてまともに演奏したというので、大喜びだった様子が、母からのメールの文面から読み取れた。なお、クレマスはこのフェスの直後に正式に解散したので、これが結局日本で見ることのできた最後のステージになってしまった。
 

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演奏は15:00からなので14:20に再集合することにし、少しだけ自由時間となった。TAKAOさんたちは雨なので室内で待機していると言ったが、私や和泉たちは雨合羽を着て、とりあえず会場の中を歩き回り「フェスの空気」を満喫した。最初は4人で歩いていたのだが、途中で別れる。
 
それで少し歩き回ってから、ぼんやりと売店を眺めていたら
「あれ〜?冬」
と声を掛けられた。
 
政子であった。雨合羽の上に傘も差している。
 
「マーサ、苗場ロック見に来たんだ!」
「うん。今日1日だけの券を伯母ちゃんからもらったんだよ」
「へー! じゃ、例のデモ音源制作はまた今度にする?」
「ううん。夕方東京に戻れる新幹線で帰ろうと思ってた」
 
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「・・・じゃさ、東京に戻らずに長岡に行かない? ボク機材は持って来てる」
 
色々チェックをするためにエフェクターは持って来ていたのである。
 
「あ、それイイネ! じゃ何時にしよう?」
「ちょっと待って」
 
長岡市内で以前使ったことのあるスタジオに電話してみた。いろんなアーティストの伴奏で全国あちこち行っているので、この手のリストが携帯の中に眠っている。電話で聞いてみたら18時以降なら部屋が確保できるということだった。新幹線の時刻表を見ると東京に戻れる最終新幹線は22:23発だ。それで私は19時から22時まで予約した。このスタジオは長岡駅の近くにあるので5分で駅に移動できる。
 
「19時から予約したよ」
「じゃここを何時に出ればいいの?」
「えっと17:30のシャトルバスに乗ろうか」
「OK」
 
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「バナナマフィン作りはまた今度にしようか」
「明日の朝」
「いいよ」
「よし」
 
「マーサは今日は特にお目当てのアーティスト居るの?」
「あ、→Pia-no-jaC←(ピアノジャック)は見たいなと思ってた」
 
私はタイムテーブルを見て、一瞬悩む。
 
「マーサ。→Pia-no-jaC←は今演奏中だけど」
「えーーー!?」
 
「あと15分ほどで終わりそう」
「うっそー!」
「すぐ走って行ったら、少しは見られるかも」
 
「うん。じゃ17:20くらいにバス乗り場で」
「うん。楽しんでね!」
 
私は微笑んで雨の中、政子の走って行く姿を見送った。
 

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集合時刻に美空が来ていなくて、ちょっと焦ったものの、電話で呼び出したら慌てて飛んできた。簡単に打ち合わせした後、出演するステージの裏手に行ってスタンバイする。ここは1200人ほど入る野外ステージである。昼間だが厚い雨雲が出ていて暗いので照明が点いている。ちょっと夜の公園にでもいるような雰囲気だ。
 
雨が少し小降りになってきたので、このままあがるといいけど、などと言い合う。今日のイベントでは基本的にはキーボードは響美さんに弾いてもらう。でも蘭子も何かしろと言われたので、機材設置の手伝いをすることにしていた。髪をまとめて、スタッフ用の帽子をかぶる。スタッフ用の青い雨合羽に着替える。
 
なお今回は雨に濡れる可能性もあるということでヴァイオリンはプラスチック製の電気ヴァイオリン(英国製)を使用することにした。フルートの人も「今日は濡れても平気な安いフルート使います」と言っていた。
 
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やがて前の演奏者が終わり、機材の入れ替えをする。私はドラムスセットの一部を持ってステージに上がる。ケーブルのつながり具合を確認する。PAさんと連絡を取りながら音の確認をする。
 
設置OK。KARIONと伴奏者がステージに登る。私は望月さんと共に天候急変に対応するため、ステージの端、後方で待機した。
 
元気よく3人が「こんにちは! KARIONです」と挨拶し、演奏が始まる。最初は『水色のラブレター』だ。私は「ああ、演奏に参加したい!」という気持ちを抑えながらステージの端でみんなの演奏と歌を見ていた。特に自分が札幌で弾いたキーボードまでは自分が立っている所から3mも離れていない。その3mがその時は、物凄く遠い距離に思えた。
 
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2曲目『渚の恋人たち』を演奏する。頭の中で指が動く。声が出る。でも今自分は何もできない。物凄い無力感。
 
そして『渚の恋人たち』の2コーラス目を歌い終えた時だった。
 
突然落雷。
 
そして電源が全部落ちた。
 
次の瞬間、和泉が大きな声で叫んだ。
「皆さん。落ち着いて下さい!」
 
このサイズの会場なら和泉の声なら、充分肉声で通るはずだ。
 
「勝手に移動したら危険です! 係員の指示に従ってください。念のため金属製のものは身体から外しましょう。ヘアピン、イヤリングやピアス、ベルト、メガネ、腕時計、携帯電話、などは身体から外して荷物の中へ」
 

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この和泉の適切な指示で、観客のパニックは防げた感じであった。
 
ステージの下で畠山さんが運営スタッフの人と何か話している感じだ。が暗くてよく分からない。昼間だというのに雨雲で真っ暗である。
 
5分ほど経ったところで突然楽器の電源だけ回復した。しかし照明は回復しない。畠山さんがステージに登ってきた。全員そこに集まる。私も行く。
 
「照明の系統の電気施設に落雷して、照明の回復はすぐには無理っぽい」
「わあ」
「それで真っ暗な中で申し訳無いけど、演奏可能ならしてということなんだけど」
 
「やりましょう」
「よし」
 
それで各自自分の場所に戻ろうとしたのだが、響美さんが言った。
 
「冬ちゃん、この後は冬ちゃんがキーボード弾きなよ」
「え?」
「照明が落ちて、真っ暗で誰が誰だか分からないもん」
「ああ、それは絶好の機会だね。ステージ始まる時、キーボードの位置には響美姉ちゃんが就いたのをお客さんは見てる。この後、冬が弾いても、弾いてるのは響美姉ちゃんだと思う」
と夢美が言う。
 
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「うん。それで行こう!」
と和泉が言い、私も了承する。
 
ステージの後ろの方に行き、暗いのをいいことに、ドラムスセットの後ろで私がスタッフ用の青い雨合羽を脱ぎ、それを響美さんが着る。私がかぶっていた帽子を響美さんが髪をまとめてかぶる。
 
私は長い髪を垂らして、キーボードの所に就いた。するとそこに望月さんが駆け上がってきて、私にヘッドセットマイクを渡した。私は微笑んで受け取った。
 

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「みなさん、照明の方の故障が直るのに時間が掛かるそうです。でも楽器の方は電気が来ているので、これで演奏します。暗くて少し肌寒い中ですが、私たちの演奏で少しでも心が明るくホットになりますように」
 
そう和泉は観客に向かって言い、演奏を再開した。
 
最初は最新シングルの中から『三段畑でつかまえて』だ。暗くて譜面は見えないが、全部頭の中に入っているので問題無い。キーボードを弾きながら歌唱にも参加する。
 
さっきまでステージの端に立ってみんなの演奏を見ていたのとは全然気分が違う。やはりこれ良い! やはり音楽って、演(や)るのが楽しいよね。見てるだけじゃ詰まらない!
 
指が鍵盤の上で踊る。声が喉から出ていく。なんて素晴らしいんだろう!!
 
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更に『愛の悪魔』『恋愛貴族』と演奏していき、やがて『優視線』になる。ピアノの超絶プレイを難なく弾きこなす。観客から拍手が来る。快感!!!
 
次の『遠くに居る君に』も難しいピアノパートが組み込まれている。ここもいとも簡単に弾く。また拍手が来る。嬉しい!
 
そうだ、音楽ってこんなに快感なんだもん。絶対これを政子にも体験させたい。私はそう思いながら、演奏し、そして歌っていた。
 
最後『コスモデート』を演奏して、40分間(中断を入れると48分)のステージを終えた。
 
「ありがとう!」と言って和泉たちは降りる。伴奏陣はスタッフと一緒に楽器をステージから降ろした。
 

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