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■夏の日の想い出・熱い1日(6)

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ということで、私が渡した色紙に4人でサインを書いてくれた。カタカナで《カリオン》と書かれている。カは小風、リは美空、オを和泉が書いて、最後のンをラムコが書いた。
 
「これ4枚目のサインだ」と小風。
「1枚目は誰に書いたの?」と私が訊くと
「練習半分で書いたんだけどね。私が持ってる」と和泉が言った。
 
しかし4人が和気藹々としていたのは、ここまでだった。
 

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少し遅れて畠山さんも来てまずは既存の伴奏を流し練習をする。私は副調で山鹿さんの隣に座り、操作の手伝いをしていたのだが、畠山さんはその私の隣に座って、歌唱の様子を見ていた。
 
何やら難しい顔をしている。
 
「なんか、アルトの子2人が歌いにくそうにしてますね」
と山鹿さんは言った。
 
「済みません。ソプラノ2の子が、今日初めてなので、その音に慣れてないようで」
 
「彼女、絶対音感持ちだね?」
と山鹿さん。
 
「はい、そうです」
と畠山さんは答えて、それでその場は沈黙となる。私は余計なことを言わないように気をつけていた。
 

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やがて休憩になるが、和泉が私の方に向かって言った。
 
「あ、音響助手さん、ちょっとお願いしたいことがあるのですが」
「はい?」
「社長もちょっといいですか?」
 
ということで、私と畠山さんは和泉に促されて、スタジオ内のブースに入った。
 
マイクのスイッチが切れていることをしっかり確認してから和泉が言う。
 
「疲れます」
「だろうね」
 
「ラムコちゃん、絶対音感を持ってるから、譜面通りに正しい音を出しちゃうんですよね。それでハーモニーが崩れてしまうから、美空も小風も凄く歌いにくそうにしてる」
 
KARIONの音はハーモニーを重視しているので、楽器の音にピタリと合わせるのはメロディーを歌っている和泉だけでなければならない。美空と小風はその音に響く高さの音で歌うから、譜面に書かれている音とは微妙に違う音を歌うのである。私が入って歌っていた時は、私もちゃんと純正律的に響く音を出していた。
 
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ところがラムコは絶対音感を持っているので、ハーモニーと関係無く、譜面に書いてある通りの音で歌ってしまう。するとそこでハーモニーが崩れてしまうし、美空と小風は、和泉の音に合わせるべきか、ラムコに合わせるべきか迷いが生じてしまうのである。
 
要するにラムコが上手すぎるゆえに、合わなくなってしまうのだ。普通の人なら絶対音感が無いから自然に響く音に合わせる。
 
こういう問題が起きるのは平均律の根本的な欠点だ。平均律では移調や転調が容易になるように本来響く音から少しずれた音を採用している。楽器はやむを得ないが、歌う場合は、その平均律の音ではなく、メロディーの音にちゃんと響き合う音で歌うのが、合唱・重唱での基本である。
 
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しかしラムコは響きを気にせず平均律の音で歌ってしまう。恐らくラムコは合唱などの経験が少ないか、これまでその問題を指摘されたことが無いのだろうと思った。
 
もっとも「響き合う音」と「平均律の音」の微妙な違いが分かるのはとても精密な耳を持っている人に限られる。普通の人には、数Hz程度の差は分からず、充分きれいなハーモニーに聞こえる。
 
ても、和泉も小風・美空も、そして畠山さんも山鹿さんも、この僅かなピッチのずれが分かる耳を持っている。平均律で歌ってしまうのは「KARIONの音」
ではない。
 
「いっそ、ラムコちゃんにソプラノ1を歌わせたらどうでしょう?私が2に回ります」
と和泉は言った。
 
畠山さんは少し考えていたが否定した。
 
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「いや。このユニットのリーダーは和泉ちゃんでなければならない。だから和泉ちゃんがメロディーを歌わなければならない」
 
「私もそう思います」
と私も言った。
 
「仕方無いです。小風と美空には、ラムコの音を聴くな、和泉の音だけを聴いて歌えと言いましょうよ」
と私は提案した。
 
「うん。それしかないだろうな。そういうことにしてくれない?」
と畠山さんも言う。
 
「うーん。。。。でも、そういう方法で今後ずっと彼女とやっていくんですか?」
と和泉は問う。
 
「和泉、気持ちは分かるけど、対策は後で考えようよ。だって今ラムに、譜面の音で歌わずに、和泉の声に調和するピッチで歌ってくれと言っても、彼女がそれができなかった場合、ラムちゃん自身が混乱して、もっと変な歌になってしまう危険がある。時間が無い中での録音だから冒険はできない」
と私は言う。
 
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「それはそうかも知れないけど・・・」
と和泉は全然納得していない。
 
「和泉ちゃん、申し訳無い。その問題については、今後の課題にさせて欲しい。今はとにかく音源を作らなければならない」
と畠山さんは言う。
 
「分かりました」
和泉は渋々承諾した。
 

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ちょうどラムコがトイレに行っていたので、和泉が小風と美空にその件を伝える。ふたりも不満そうであったが、やがてラムコ本人がトイレから戻って来たので、3人はふつうの雑談に顔色ひとつ変えずに切り替えた。こういうのは女の子は普段のおしゃべりでもやっていることなので、不自然さが無い(女の子の怖さである)。
 
15分休憩してから練習を再開する。今度は美空と小風も迷わず歌っている。
 
「でも、この音を聴かせたら、ゆき先生に叱られるかも知れないなぁ」
と畠山さんが困ったような顔で言う。
 
ゆき先生も当然この微妙なピッチの違いが分かる人である。
 
「録音が終わった後で、ラムコちゃんの歌った部分をDAW上でピッチ修正するわけにはいきませんかね?」
と私は言ってみた。
 
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「それは難しい。あの子が歌っている声はあの子のマイクにだけ入っているのではなく、他の子が使っているマイクにも少し入っているから。その分まで修正するとなると、かなりの手間が掛かる」
と山鹿さん。
 
「そうすると、12月17日朝には間に合いませんよね?」
「厳しいです。その後でミクシングしてマスタリングまでしないといけないですから」
 
「僕の選任ミスだ。申し訳ない。和泉ちゃんも美空ちゃんも小風ちゃんも、物凄く歌がうまいから、彼女たちに匹敵する歌唱力の子と思って選んだんだけど、絶対音感というのは盲点だった」
 
「でも選んでしまった以上、何とかやっていくしかないです。彼女に調和して歌う訓練をさせるしかないですよ。いや、こういう問題の原因を作った私が言うのも何ですが」
と私が言うと
 
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「うん。そうだ。蘭子が悪い」
と畠山さんは結構マジな顔で言った。
 

結局12月3日だけでなく4日まで掛けて練習した。
 
5日(水)から録音に入り6日(木)まで2日掛けて何度もテイクを録り、あとはスタジオ側の作業ということにした。スタジオのミクシング技術者さんも大急ぎで新しい録音のミクシング作業を進めてくれた。
 
その間に、和泉たちはCDジャケット用とCDレーベル用の写真を撮影したり、テレビスポット用のビデオやもっと長めのプロモーション・ビデオの撮影をしていた。実際にカリヨンを持っている遊園地に行って、その演奏装置の前で『幸せな鐘の調べ』を歌ったり、撮影スタジオに多数の鏡を立てて『鏡の国』
の撮影をしたりしていた。
 
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ただそういう作業をしている間、小風が凄く面白くなさそうな顔をしているのが私は気になった。
 
一応のミクシングが9日(日)までに終わったので、私と畠山さんと和泉で話し合い、ラムコの音を、長い音符やフレーズの最後の音に限ってピッチ調整を試みることにした。この作業には私も学校を休んで参加した(母からかなり文句を言われた)、というか私がメインで行った。
 
ラムコのマイクから拾ったトラックに関して、私の耳の感覚で、きちんと響き合う音に直し、他の3人のマイクから拾ったトラックに含まれるラムコの声のピッチは、スタジオの技術者さんたちの手で、私が調整したのと同じピッチに修正してもらったのである。
 
この作業が12日(水)までに何とか終わり、その調整したボーカルを技術者さんの手で再度ミックスしてもらう。そしてこの改訂版の音源が14日(金)に仕上がり、15日(土)に再マスタリングを終えた。
 
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マスター音源は週明けの17日(月)の朝1番にCDをプレスする工場に持ち込まなければならないので、ギリギリの完成であった。
 

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ピッチ合わせの問題については週明けにも、畠山さんが∴∴ミュージックに所属する先輩女性アーティストで、アメリカの音楽学校で学んだことのある人に同席してもらって、ハーモニーの重要性と、平均律とのずれの問題を英語で説明し、ラムコに歌い方を変えてくれるよう要請し、必要であればその後、和泉とふたりで練習させようということで話がまとまった。
 
私と和泉と畠山さんは土曜日の午後、事務所でマスター音源を聞きながら話していた。
 
「よくここまで短時間で修正したなぁ」
と畠山さんが感心している。
 
「不満です。全てをやり直したいくらい不満です」
と私は答えた。
 
「私は冬に戻って来て欲しい」
と和泉は言った。
 
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私は敢えてそれには答えず発言した。
 
「問題は4つありますね」
と私は言った。
 
「4つも?」と畠山さんが尋ねる。
 
「第1の問題はラムがこの問題を理解してくれるか」
「第2の問題はラムがそういう歌い方に同意するか」
 
「第3の問題はラムがそれで歌えるか。小風や美空は精密な相対音感を持っているから、きちんとハーモニーで歌えるけど、絶対音感に頼ってると相対音感が弱い可能性ある」
 
「というか彼女まさにそのタイプという気がするよ。試しに楽器のピッチを変更して演奏してみてもらったけど、気にせず自分の音で歌ってたのがその証拠」
と和泉は難しい顔をして言う。
 
「第4の問題はそういう歌い方をした時に、ラムの歌がおかしくなってしまわないか。だって彼女、自分は歌が上手いっていう凄い自信持ってるから、その根本を否定されると意外に脆い可能性ある」
 
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「自信家ほど挫折に弱いからね」
 
「彼女はやはりソロシンガーです。私は彼女をいっそ半年か1年くらいでKARIONから卒業させてソロ歌手にしてしまうのも手だと思います」
 
「冬ちゃん、その後に君が加入してくれるなら、その話に乗ってもいい」
「うっ・・・・」
 
和泉が笑っていた。
「その間に冬は性転換手術しちゃえばいいね。そうしたら純粋に女の子のユニットだから、冬が懸念する問題も消える」
「うーん。。。手術したいけど」
 
「だけどさ」
「ん?」
「冬って、まるでKARIONのプロデューサーみたい」
「へ?」
「ほんとにこのユニットのこと理解してるし考え方が戦略的」
「プロデューサーは、ゆきみすず先生だよ」
「じゃ、リーダー」
「リーダーは和泉」
「じゃ、社長」
「それは畠山さん!」
 
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そして運命の12月16日(日)が来た。
 

その日、私はドリームボーイズの蔵田さんに呼び出されて、朝から取り敢えずAKB48論に付き合わされ、お昼頃、青山の★★スタジオのいちばん上の階にある青龍の部屋に入り、いつものように蔵田さんの創作のお手伝いでピアノやヴァイオリンなどを弾いたり、試唱したりしていた。
 
そして15時頃であった。蔵田さんの携帯のバイブが鳴る。最初蔵田さんは無視していたが、あまりに鳴るので仕方無く取った。
 
「今日は創作に集中したいから電話しないでと言ったじゃん!」
といきなり文句を言ってから、
「あ!社長!? 何かありましたか?」
と言う。
 
事務所からの電話だったようで、最初はドリームボーイズのマネージャーの大島さんだろうと思ったのだろうが実際には電話してきたのは、社長の前橋さんだった。
 
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「へ? 洋子ですか? はい、代わります」
 
「おい、洋子、社長から」
と言われるので、びっくりして電話を替わる。
 
「おはようございます。ご無沙汰しております」
 
「洋子ちゃん、実は大変な事態が起きているらしくて、すぐ**市の**スタジオに急行して欲しいんだけど」
と前橋さんは言った。
 
「はい?」
 
前橋さんが説明する。
 
「君、今∴∴ミュージックさんとこの音源制作に関わっているでしょ?」
「はい」
 
「それで月曜日にプレスに回さないといけない音源で、参加していたメンバーのひとりが突然辞任したらしいんだよ」
「えーーー!?」
 
その瞬間、私の脳裏に小風の顔が浮かんだ。小風、物凄く不満そうな顔をしていた。まさか軽はずみなことしないよな?
 
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「それで至急その対策をしたいから来て欲しいと、これ∴∴ミュージックの畠山社長から君の自宅に連絡が入って、それで君のお母さんが洋子ちゃんの携帯に電話したものの電源が切ってあってつながらないというので、うちの事務所に連絡が入って。それで僕が直接畠山さんと電話して状況を確認した。ぜひとも君の力が必要だと畠山さんが言っている。行ってあげて欲しい」
 
「はい。でも・・・」
と言って私は蔵田さんを見る。
 
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■夏の日の想い出・熱い1日(6)

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