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■夏の日の想い出・熱い1日(3)

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駅前でタクシーを降りて、駅舎に入ろうとした時だった。
 
「あれ、唐本ちゃん!」
と声を掛ける人が居る。
 
「麻布先生?」
「あ、どこか行く所?」
「あ、いえ。大した用事ではないのですが」
「そしたら、良かったらちょっと手伝ってくれない? 今日は新人アイドル歌手ユニットの録音をするんだけど、**君も**君も休みで、町田ちゃん(有咲)ひとりなんだよ」
「あ、はい」
 
私は若葉と顔を見合わせたが、若葉も無理はしない感じだ。それで私は麻布先生に付いてスタジオに行く。何となく流れで若葉も付いてきてしまった。
 
物凄く後になって考えたのだが、この遭遇は本当に私の運命を変える遭遇だったが、それを引き起こしたのは若葉の行動であった。
 
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居るものは誰でも使えの精神で、録音準備作業には若葉も徴用する。麻布先生は若葉が、有咲とも知り合いであったことに驚いていたが、今日は人手が足りないし、薄謝を出すから手伝ってと若葉に言った。
 
「今日は何というユニットなんですか?」
「うん《KARION》(カリオン)というユニットらしい。ゆきみすずさんがプロデュースするらしいけど、ゆきさんは明日からということなんで、今日はたぶん練習中心になるんじゃないかとは思うんだけどね」
「へー」
 
そこに、女の子3人の集団がやってくる。
 
「あれ?和泉!?」
「あ、冬!? それに若葉まで。あんたたち何?」
「ここのスタジオのスタッフ」
「え?」
 
「あ、まさか、今日から録音をするアイドルユニットって、もしかして?」
と私が訊くと。
 
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「私たちだったりして」
と和泉。
 

それで取り敢えず、和泉は小風と美空に私たちのことを
 
「私の同級生の若葉ちゃん」
「私が秋にリハーサル歌手してた時のパートナーの冬子ちゃん」
 
と紹介した上で和泉は付加的な説明をする。
 
「若葉のお家はすっごいお金持ちだから」
と和泉。
 
「そんなことないよー」
と若葉がさすがにちょっと照れて答える。
 
「冬子はこうしてるとまるで美少女女子高生だけど、実は男だから」
といきなりバラす。
「あはは。戸籍上は男です。すみませーん」
と私が言うと、小風たちが
「うっそー!」
と叫んだ。
 
それから和泉は小風と美空を私たちに紹介してくれた。それからしばらく5人でおしゃべりしていたのだが(有咲は録音の準備作業をしている)、そのうち若葉が
「ね、ね、KARIONさんの記念写真撮ってもいい?」
 
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などと言い出す。
 
「あ、それは私も欲しいな」
と小風も言う。
「私たち、今日から活動開始だもんね」
「結成は初顔合わせの先週5日だったけど、実際に一緒に歌うのは今日からだからね」
 
ということで、小風・和泉・美空と並んでいる所を、若葉の持参のカメラで数枚と、小風の携帯で数枚撮影した。
 

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ちょうどそこに「ごめん、ごめん。電話が長引いちゃって」などと言って畠山さんが入ってくる。そして私を見て
「あれ? もしかして参加する気になってくれたの?」
と言った。
 
「いえ、私、このスタジオのスタッフです」
「えーーー!?」
と畠山さんは本当に驚いたふうであった。
 
「しかし凄い縁だね。きっと洋子ちゃんは、このユニットと赤い糸で結ばれているんだよ」
「あはは。乗せられませんよ」
 
「ね。せっかくここに居るんなら、ちょっとマイクの前に立って歌ってみない?」
「いえいえ、私はその歌を録音する側ですから」
 
なんてことを言っていたら、有咲が
「でも冬って、しばしば音源自体にも参加してるよね。伴奏のピアノやヴァイオリン弾いてみたり、コーラス入れてみたり」
などと言い出す。
 
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「冬が伴奏やコーラスで参加したメジャーCDは多分これまでに30枚以上存在する」
などと若葉まで言う。
 
「ほほぉ。だったらさ、唐本ちゃん、コーラスしない?」
「でもコーラス隊は手配なさっているのでは?」
「うん。もうすぐ来ると思うけど、女の子2人頼んでる。そこに洋子ちゃんも加わってもらえばいいかな」
 
熱心に口説かれて結局私はコーラスに参加することに同意してしまう。そんなことをしている内にコーラスの子、千代子と久留美(ふたりはこの時の出会いが縁で後に《ミルクチョコレート》を結成する)が到着する。それで挨拶、自己紹介などする。
 
千代子が言った。
「あれ?柊洋子さんですよね? 2〜3年前に何度かテレビ局でお見かけした記憶がある」
 
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「そうですね。中学1〜2年の頃、結構色々な歌手の伴奏とかしてましたから」
 
「わあ、何なさるんですか?」
と久留美が訊く。
 
「あ。だいたいキーボードかヴァイオリンです」
「すごーい。ヴァイオリンが上手いんだ?」
「そんなに上手くないんですけどねー」
 

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「社長、何時頃から開始ですか?」
「伴奏の人たちが到着したら・・・って、そういえばまだ誰も来てないな」
 
畠山さんはアーティストの手配会社に連絡して到着時刻の確認をしようとした。ところが
 
「え!?」
 
と声をあげる。なんと伴奏者は明日11日からの手配になっていたらしい。
 
困ったというので、この日は休みにすることも考えたものの、あまり日程に余裕が無いので、できるだけ前倒しで作業を進めたい。それでどうしようかと畠山さんが悩んでいた時、和泉が言った。
 
「冬って、キーボードもギターもベースもドラムスも弾けるよね?」
 
それで、結局私がひとりでキーボード、ドラムス、ギター、ベースを弾いて、多重録音で(暫定的な)伴奏音源を作ってしまったのである。
 
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「すごーい。ひとりでバンドが組めますね」
などと小風と美空に言われた。
 
「だけど、これボーカルパートが4つあるんですね?」
と私はスコアを見て言った。
 
「君が参加してくれるものと思って4パートで編曲してもらったんだよ」
と畠山さん。
「あはは」
 
「一応和泉ちゃんに2つ歌ってもらって多重録音で仕上げるつもり。でも折角だから、ソプラノ2のパート、歌わない? すると多重録音しなくて済む」
「あはは」
 

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初日は練習だけで終わり、2日目からいよいよ録音作業に入ることになる。いつもの専門学校生の助手さんがこの日も休みということだったので、若葉にまた出てきてもらった。なお、午後からはプロデューサーの、ゆきみすず先生も来ることになっていた。
 
この日は朝から伴奏者がちゃんと来た・・・と思ったらキーボード奏者が来てない。慌てて確認すると、そもそもキーボード奏者は手配されていなかったことが分かる。
 
温厚な畠山さんがさすがに手配を担当した若い男の子を怒鳴り飛ばしていたが、何とかしなければならない。畠山さんは事務所のアーティストでピアノが堪能な子を呼び出す手、この際、和泉にピアノを弾いてもらう手なども考えていた。その時、また和泉が
 
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「冬って、キーボードはプロ級だよね?」
 
と言った。
 
するとそういえば昨日の暫定伴奏でも、キーボードだけは上手かったね、という話になり、結局私がスタジオミュージシャンの人たちと一緒にピアノ伴奏をすることになってしまったのであった。
 
最初は女子高生がピアノを弾くというので、ミュージシャンの人たちは不安そうな顔をしていたが、ちょっと合わせてみると私が結構弾くので「おお」という感じで、彼らに受け入れてもらった。
 
「あ、君、以前テレビで、篠田その歌の伴奏でキーボード弾いてたよね? いやヴァイオリンだったっけ?」
とベースの人が気付いたように言った。
 
「はい、そんなこともしてました」
と私は照れながら答える。
 
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「あ、じゃ君もスタジオミュージシャン?」
「ある人から実質そうだねと言われたことはあります」
「へー」
 
「技術も高いし、セッション感覚も良いね」
「ありがとうございます」
 

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それで午前中はあらためて、伴奏音源を録音し直し、それに合わせて和泉・美空・小風、それにコーラス隊の2人にも再度練習してという作業をして、午後から、ゆきみすず先生が来たら、これを見て頂いて、よければ録音に入ろうということで、昼休みにする。
 
そして昼食の後、午後1時ピッタリに、ゆきみすず先生はスタジオに来訪した。
 
そして私を見るなり言う。
「あら、柊洋子ちゃんだ」
 
「おはようございます、ご無沙汰して失礼しておりました」
と私は挨拶する。
 
畠山さんが驚いて「この子をご存じですか?」と訊くと
「しまうららちゃん、とこの子だよね?」
と言う。
 
私は松原珠妃の関連で、しまうららさんの伴奏やバックコーラスも務めたことがあるので、その時、元同僚である、ゆきみすずさんにも何度か会っている。しかし、伴奏者の名前まで覚えておられたというのはびっくりした。
 
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「契約関係は無いのですが、何度か伴奏やコーラスをさせて頂きました」
と私は答える。
 
「コーラスに上手い子がいるなあと思って覚えてたのよ。兼岩ちゃんに、あの子、ソロデビューさせなさいよと言ったら、松原珠妃が彼女は自分の妹分なのでうちからはデビューさせないでくれ。他の事務所でないと全力でライバルとして戦えないからと言っていると聞いて。じゃ、私がどこか事務所紹介しようか、なんて言ってたんだけどね」
と、ゆき先生。
 
「へー!」
と畠山さんは驚いた様子。
 
「だったら、うちからデビューしてくれないかなあ」
 
などと言って私を見た。私は笑って誤魔化しておいた。
 

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それで私はピアノ伴奏で入って、和泉・美空・小風の3人、そしてコーラスの2人も入って、デビュー予定曲『幸せな鐘の調べ』を歌う。生演奏なのでソプラノ2は省略である。
 
ところがその歌を聴いて、ゆき先生は腕を組んで考え込んでしまった。
 
何だか声を掛けるに掛けられない雰囲気だったので、私たちはじっと待った。
 
「あんたたち、上手すぎる!」
と5分ほどの沈黙の後で、ゆき先生は言った。
 
「私はもっと下手なアイドルに歌わせるのかと思って、この曲を作ったんだけど、あんたたちみたいな上手い子に歌わせるなら前提が変わっちゃう」
 
ゆき先生はそう言ってその場で作曲者の木ノ下大吉先生に電話して
 
「こないだ書いてもらった『幸せな鐘の調べ』ですけど、今録音現場に来てるんですけどね。想定していたのと歌唱力が違いすぎるので、少し変えたいんですが、曲まで変えちゃっていいですか?」
 
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などと言っている!
 
ゆき先生は基本的には作詞家で、よく、すずくりこ先生とのペアで曲作りをしているが、作曲家のすずくりこ先生が耳が不自由なこともあり、実際には曲の部分も、ゆき先生が結構関与しているっぽいことをこの時私は察した。
 
それで木ノ下先生の許可を取った上で、ゆき先生は譜面の歌詞も曲もいじり始めた。
 
「これ書き上げたら、またちょっと演奏してみて」
と言ってから、ゆき先生は
 
「あれ?この曲、4ボーカルだよね。ボーカルもうひとりはどうしたの?風邪でも引いた?」
 
と尋ねる。
 
「済みません。もう1人勧誘するつもりで4声で作ってもらったのですが、1人離脱してしまいまして」
と畠山さんが説明する。
 
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「それで和泉に多重録音で2パート歌わせるつもりです」
 
「うーん。多重録音だと重ねてみるまで、出来が分からないからなあ」
とゆき先生はちょっと悩んだ後、唐突に言った。
 
「そうだ!洋子ちゃん、あんたソプラノ2を歌いなよ」
「え?」
 
「あんた話してる声はアルトっぽいけど、確か声域広いから、ソプラノ大丈夫だよね?」
「はい。歌えます」
 
「お、いいお返事。あんた、いつもそんな感じだもんね」
と言って、ゆき先生は笑っている。
 
ああ、性格まで見抜かれている、と思う。
 

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しかしこれが「4人のKARION」が誕生した瞬間であった。
 
「まあ多重録音するんなら最終的に、洋子ちゃんのパートを和泉ちゃんが歌って重ね直せばいいよね」
 
などと畠山さんは言っていたが、多分録り直す気は全く無かったと思う。
 

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「でも、彼女にピアノを弾かせていたのですが、どうしましょう? 弾き語りさせましょうかね」
 
と畠山さんは自問するように言った。私が本来スタジオのスタッフであるということは既に忘れられている。
 
「あ、若葉もピアノ弾けるよね?」
と和泉が言う。
 
「うん、まあ」
「あ、君、ピアノ弾けるの? じゃお願いできる?」
 
ということで、若葉がピアノ伴奏に駆り出されることになった。
 

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ゆき先生は30分ほどで譜面(4ボーカルとピアノ伴奏の6段譜・ギターコード付)を修正し、新たな歌詞・メロディーで演奏してと言った。
 
伴奏陣は、私の代わりに若葉がキーボードの所に就く。私は少し遠慮がちに和泉たちの所に行ったが
 
「冬はここに入りなさい」
と和泉に言われて、和泉と美空の間に並ぶことになった。
 
「スクラム、スクラム」
なんて言われて、肩を組む。和泉と美空の手が私の背中に掛かり、私も両手を和泉と美空の肩に掛けた。3人と微笑み合う。
 
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■夏の日の想い出・熱い1日(3)

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