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■夏の日の想い出・花の女王(6)

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「鷹野さんが病気で、代わりのベース奏者が必要なの?」
 
「うん。今度の土曜の横浜と日曜の大阪。大会場だから、舞台度胸のある演奏者でないといけないし、ベースはバンドの中心だからセッションセンスのある人でないと無理だし、譜面を覚える時間が明日1日しかなくて、その1日で演奏する11曲を覚えてもらわないといけないし。マキが使えたらいいんだけどテレビ番組とぶつかるんだよ」
と私は説明する。
 
「だったら、ここに1人、ベース奏者がいる」と和泉。
「ん?」
 
私は思わず和泉の視線の先を見た。
「へ?」
と美空が見つめられて声をあげる。
 
なるほど! 美空はローズ+リリーの曲は(ライバルなので)全部聴いてるはずだ。しかも彼女は元々、曲を聴く時に無意識にベースラインを追いかける癖がある。ということは、ローズ+リリーの曲のベースラインを、普段から頭の中でシミュレーションしているはずだ。しかも元々他人の演奏に合わせるのが上手い。最高の人材じゃん!
 
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「みーちゃん、ちょっとローズ+リリーのライブに出てみない?卒論の気分転換」
と私は笑顔で言う。
 
「えーー!?」
 
「ああ。それもいいね。友情出演で出てあげなよ」
と畠山さんまで言い出す。
 
「そうだ。みーちゃんをローズ+リリーの第4のメンバーに任命しよう」
 
「第4のメンバーって、3人目は?」と美空が訊くので
「和泉だよ」と答える。
 
「そうだったのか!」
「待て。いつの間に私、3人目になったんだ?」と和泉。
「マリが決めた」と私。
 
「へー、いっちゃんが3人目、みーちゃんが4人目か」
と小風が言うので
「じゃ、こーちゃんを5人目ということで」
と私は返した。
 

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それで私は演奏予定の曲目のMIDIを開き、取り敢えず流してみた。
 
「何とかなりそうな気はする。曲自体はみんな良く聴いてる曲ばかりだし」
「じゃマイナスワンで流すから弾いてみてくれない?」
「うん」
 
まずはプリンタで譜面を全部印刷する。美空はプリントされている間に順次譜面を読んでいた。スタジオのベースを借りて、MIDIをベースだけオフにしたマイナスワン状態で流す。美空が演奏する。「ひとりでは寂しいよぉ」と言われたのでギターもMIDIをオフにして、私がギターを弾いて、ふたりで演奏し、ついでに私が歌も歌って、11曲演奏した。
 
「できるじゃん。凄い」
「いや、今のは何とか弾いたというだけ。弾ける状態にするには少し練習しないと」
「それを今夜もう一度と、明日やろう」
 
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「じゃ自分のベースを取ってくるよ」
 

ということで、この場はいったん解散し、夕食後、あらためて私と七星さん、美空が集まることにした。美空が演奏することについて、その場にいた畠山さんは了承というより面白がっていたので、私は、花枝と氷川さんに連絡して承認を求めた。ふたりとも驚いていたが、了承してくれた。
 
美空が自分のベースを取りに行った間に、私はアスカに電話した。取り敢えず土日の都合を訊いてみたのだが「ごめーん。日曜日に新潟でリサイタルやる」
ということであった。
 
「でもそれ緊急事態だよね?」
「うん。困ってる」
「じゃさ、私の後輩を紹介するよ。凄く初見に強い子がいるんだよ。本人ロックも好きで、レッド・ツェッペリンとかダークネスとか聴いてたみたいだから行けると思う。本人の承諾が得られたら、連絡するから」
「助かります」
 
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やがて美空が自分のベースを持って戻ってくる。氷川さんと花枝も来た。夕食を終えた七星さんも戻り、近藤さんと酒向さんも来てもらって練習をした。ついでに晩御飯を食べ損なった政子まで出てきた。ピザの出前を取ってあげたら喜んで食べていた。
 
「私にも少し取っておいて〜」と同じく晩御飯を食べ損ねた美空は言っていたが「無理」と政子はひとこと言う。私は笑って「練習が終わったら焼肉にでも行こう」と言った。
 
「みーちゃん、練習が終わったら冬の女子高生ヌード見せてあげるよ」
などと政子が言っている。
「う、それはちょっと見てみたい気がする」と美空。
 
「ちょっとぉ、そんなの人に勝手に見せないでよ」
「いいじゃん、減るもんじゃなし」
「そもそも、そんな写真iPhoneに入れて持ち出さないでよ。落としたりしたらどうすんのさ?」
「話題にはなっても別にスキャンダルにはならないと思うけど。セックス中の写真とかじゃないし」
「もう・・・」
 
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「冬は晩御飯食べた?」
「食べてないけどいいよ。マーサ食べてて」
「うん。食べてる」
 
実際に近藤さんがギター、酒向さんがドラムスを打って合わせてみる。
 
「君、うまいねー」
と近藤さんが感心していた。
 
「美空は、お姉さんが組んでいたバンドでずっとベースを弾いてたんですよ。KARIONとしてデビューした後でも、結構休日のライブとかに引っ張り出されているみたい」
 
「へー。やはり普段から弾いてるからかな。弾き慣れている感じがあるよね」
「だいたいバレてないんですけどねぇ。春休みに大会出て行った時、審査員がゆきみすず先生だったんですよー。あんた何してんの?って言われましたけど」
「あはは」
 
ゆきみすず先生はKARIONの初期のプロデューサーである。
 
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「一応、歌手のプロではあるけど、ベースのプロではないということで勘弁してもらいました」
「いや、充分にプロ級だと思う」
と近藤さんは言っていた。
 

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翌日、午前中、私はアスカの家に行き、アスカの後輩の更紗さんという人を紹介してもらった。現在♪♪大学の2年生ということだった。
 
「私、基本的にはあまりポップスはやらないんですけどね。でも冬子さんも凄いヴァイオリニストだから、ヴァイオリニスト同士のよしみで助けてあげてと言われました。だから冬子さんの腕前を見せてくれませんか? 下手だったらこの話お断りします」
 
などと言われる。この気の強さはさすがアスカと相性が良さそうである。
 
「うーん。じゃ何か演奏しようか?」
 
ということで3人で地下の練習室に降りて行く。
 
「ヴァイオリンはこの子を貸してあげるよ」
とアスカは《Angela》を貸してくれた。アスカが中学時代から大学3年生の時まで使用していたヴァイオリンで数々のコンクールに入賞した、いわばアスカにとっての出世時期の愛用楽器である。18世紀に制作された古楽器であり、購入価格は6000万円くらいと聞いている。
 
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「お借りします」
と言って受け取り、ケースから出してちょっと撫で撫でする。調弦する。
 
「ツィガーヌか、カルメン幻想曲あたりでも弾きましょうか?」
と私が言うと
 
「じゃ、カルメン幻想曲弾いてください」
と更紗は言う。どちらも難曲だが、こちらが少しだけ難しい。でもアスカはニコニコしている。
 
「私がピアノ弾いてあげるね」
と言ってアスカはYamaha S6A の前に座る。
 
ミッミミ・ミファ・ソファ、ミッミミ・ミレ・ドレ、・・・・
 
という格好良いスタッカートのピアノ前奏に引き続き、私はこの曲を弾き出した。ビゼーの『カルメン』の中の曲を利用してサラサーテが作った12分ほどの作品である。サラサーテは一般の人には『ツィゴイネルワイゼン』の作者として知られるが、ヴァイオリニストの間では、この曲もよく弾かれる。本来はオーケストラと一緒に演奏する曲だが、ピアノ伴奏で弾くことも多い。そして!ピアノ伴奏で弾く方が難しい曲である。
 
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更紗は椅子に座ってじっと聴いている。私の左手の指の動きを注視している感じもある。
 
そして私たちが弾き終わると笑顔で拍手してくれた。
 
「凄いですね! こんなに弾けるとは思ってませんでした。解釈が凄く深い。私も『あ、そうか』と思った所が何ヶ所かあった。ヴァイオリニストに転向しません?」
と更紗。
 
「それやると、★★レコードが倒産するから」
「ああ、それはまずいですね」
 
「でもさすがだね、冬。ちゃんと《Angela》を弾きこなすね」とアスカが言う。
「いや、弾きこなせてません。この子、凄い子です。政子の言葉を借りると、ブロントサウルスに乗ってる感じでした。普段弾いてる《Rosmarin》なら、馬に乗ってる感じなんですけど」と私は言う。
 
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「そうですか?ちゃんと弾きこなしているように見えましたけど」と更紗。
「いや、この子を弾きこなすには私、10年は掛かりそう」
などと言うと
 
「なんなら10年くらい貸与しようか? 格安で」
などとアスカに返される。
「あはは。アスカさんの格安って怖いなあ」
 
「でも、ヴァイオリン科の学生ですと言っても充分信用してもらえるよね」
とアスカ。
「まあ、ヴァイオリン科の学生と言ってもピンからキリまであるから」
と私。
「いや。♪♪か芸大のヴァイオリン科の学生と言って信用してもらえると思います。というか、うちのクラスに入ってもこの腕ならかなり上位ですよ」
「それはさすがに褒めすぎ」
 
「でもまあ確かに音楽大学にもピンからキリまでありますよね」
と更紗。
「あるある。凄いとこもある」
 
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「こないだ、うちの教授が言ってましたよ。講師で行ってる私立の音大で、ヴァイオリン科の学生で、300-400万しそうな楽器持ってるのに、音階が弾けない新入生がいるって」
 
「へ?」
「話にならないから、まずはそれ弾けるようになるようにと課題出してるんだけど春から一向に改善されないらしくて。極端に音感が悪いみたい」
と更紗は言う。
 
「それ、何のためにヴァイオリン科に来たのかな?」
「というか、よくそれでヴァイオリン科に合格したよね!」
「まあ、世の中いろいろ不思議なことはある」
「うーん・・・」
 
「でもこの『カルメン・ファンタジー』はかなり弾いてたんですか?」
「私が高校1年でアスカさんが大学1年の頃かな、かなり一緒に練習しましたね。ノンストップ10時間コースとかで、この地下練習室で」
「へー。どんな感じで練習するんですか?」
「ヴァイオリンとピアノを1回交替でノンストップ」と私。
 
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「だいたい夜10時くらいから始めて朝8時くらいまでかな」とアスカ。
「ひゃー!!」
 
「休憩はトイレに行く時だけ」と私。
「水とコーヒー・紅茶は飲み放題、但し砂糖無し」とアスカ。
「だからダイエットに良い」
 
というより、こんな練習してて砂糖を取っていたら絶対身体に良くないから砂糖無しなのである。
 
「最近は8時間コースになっちゃいましたね。深夜1時から朝9時まで」
「最近でもやってるんですか!?」
「今年はモーツァルトの(ヴァイオリン協奏曲)5番をひたすら弾いてる」
「わぁ・・・」
「たまに気分転換に3番や4番も弾く」
 
「更紗ちゃんも一緒にやらない?」
「ごめんなさい。パス。そこまで私体力に自信無い」
 
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そういう訳で、更紗は快く土日の鷹野さんの代役を引き受けてくれたので、その後は演奏予定の譜面を渡して弾いてもらった。さすがアスカが推薦するだけのことはある。一発できれいに演奏してくれた。
 
「彼女入れると、『花園の君』の新譜でも弾けるよ」
とアスカが言う。
「どんな譜面なんですか?」
と訊くので、見せると「ぎゃっ!」と声をあげた。
 
「これ、アスカ先輩、弾いたんですか?」
「うん」
 
「アスカさんは初見で弾いちゃったね」と私。
「きゃー。ちょっと初見では自信が無い」と更紗。
「じゃ5分準備時間のあと弾いてみよう」とアスカ。
 
更紗が必死に譜面を読んでいる。時々指を動かすような動作もした。
 
「じゃ、私がパート2、冬がパート3というのでやってみようか」
「うん」
「頑張ります」
 
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それで3人で弾いてみる。更紗は何ヶ所か間違ってしまったものの、全体的には何とか弾きこなした。
 
「難しかった! アスカ先輩、これ初見でノーミスで弾けました?」
「うん」
「アスカさんは、いきなり完璧に弾けたね」
「凄い! 私も頑張ろう」
 
私は松村さんに電話し、まずは鷹野さんが病気で倒れて今度の土日は出られないことを伝えて、ピンチヒッターのヴァイオリニストにアスカの後輩で《凄い腕》の人を確保したので、その人に『花園の君』の新譜のパート1を弾いてもらうので松村さんには新譜のパート2を弾いてもらえないかと打診した。松村さんは「了解です」と答えたが、
 
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夏の日の想い出・花の女王(6)

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