広告:ここはグリーン・ウッド (第5巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・花の繋がり(7)

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「私たちにはとても作れん」と音羽が言う。
「右に同じ」とAYAも言う。
 
「資金的にも大変だよね」
 
「ケイも『Flower Garden』が作れたのは『天使に逢えたら』『A Young Maiden』
のミリオンヒットのお陰と言ってたけど、こちらも『雪うさぎたち』のミリオンヒットのお陰で資金が捻出できたよ」
 
「いや、そのヒット曲の利益をつぎ込める体制が凄い。普通の事務所だと演奏者に直接利益が還元されないからミリオン売れてもよくて数百万、どうかすると数十万円しか本人たちはもらえなかったりする所もある」
 
「やはりこういうアルバムはレアなんだね」
 
「結局幾らかかったの?」
「作り直しを決めてから6500万くらい。最初に使っていた1000万を除いてね。正確な数字は遅れて入ってくる伝票を整理しないと出ないけど」
と和泉は正直に答える。
 
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「うちのは幾ら?」と政子が訊く。
「9600万ちょっと。ギリギリ8桁」と私は答える。
 
「いや、どちらもよくその金額で抑えたね」とLondaが感心して言う。
 
「マリちゃんの食費も計上したら1億2千万くらいだったりして」
「いや、あれはさすがに経費にはできません」
と私は笑って言う。
 
和泉も言う。
「無駄は徹底的に省いているし。それにこの手のアルバムの制作費が膨らむのは、演奏料とスタジオ代、それに宣伝費が大きいんだけど、ケイの所にしてもうちにしても、テレビスポットとかは打ってないし、スタジオは気心の知れた所を最初から何ヶ月と言ってまとめて借りてるから負けてもらってるし、作詞作曲は身内だし、演奏者も身内や知合いばかりで、馬鹿高い客演演奏料を払わないといけない有名アーティストとか、高額のプロデュース料取る有名プロデューサーとか使ってないから」
 
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「あんたたち、どちらも自分で作曲してプロデュースしてるし、一通りの楽器が出来るスタッフが元々揃ってるのが大きいかもね」
とLondaは頷きながら言う。
 
「普通の歌手なら、その演奏スタッフを集めるのに金が掛かるし、なかなかちゃんとその歌手を理解して演奏してくれる演奏者も得がたい。演奏って技術だけの問題じゃないから」
 
「レベルが高くて自分たちを理解してくれている演奏者が身内や知り合いに居たというのが大きいかもね」
「うん、それは凄い財産だよ」
 

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「質問!」と政子が手を挙げる。
「何?」と私。
「セルフプロデュースと自主制作の違いは何だろ?」と政子。
 
和泉が答える。
「プロデューサー、サウンド技術者のレベルの問題でしょ。ケイは高校時代に一流のスタジオでバイトして、多数のトッププロのアルバム制作の現場を体験している。それで制作に関するセンスと音響の技術の両方を鍛えられている。更に当時その方面の専門学校に通ってた友人からテキスト見せてもらってかなり勉強している。実は水沢歌月もケイと似たような経歴を持ってるんだよ。その方面を相当鍛えられている。売れる作り方、注目を引く見せ方を熟知している。KARIONの音作りでも歌月の果たしている役割は物凄く大きいから」
 
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「へー!」
「資格も持ってたよね?」と小風。
「うん。3級だけどね」と私。
 
「その認定証の名前が『唐本冬子』なんだよなあ。高校1年で取ったものなのに」
と政子。
 
「ほほぉ」
「当然認定試験には女の子の服を着て行ってるんだよね?」
「まあ、いいじゃん」
「なるほど、少なくともその頃はケイちゃんってもう女の子だった訳か」
 
「でも和泉たちがデビューしてなかったら、もしかしたら私、サウンド技術者になってたかも知れないよ」と私。
 
「私たちが冬にKARION一緒にやろうよと随分誘ったし、結局加入しないということになった後も、うちの社長がじゃソロデビューしようって物凄い勧誘したからね。あれで冬は、プロの歌手になる気になったと思う」
と和泉。
 
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「うん。和泉たちの影響は大きい」と私。
「雨宮先生からもかなり発破かけられたし、○○プロの丸花社長からも熱心に勧誘されてたし、実は他にもXANFUSの事務所とか秋風コスモスの事務所とか、いくつかのプロダクションから誘われてたんだよ、実は。でもやはり和泉の存在が一番大きかったと思う」
 

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「それにしても、7千万、1億を投入できる所はそう多くないよね」
とCarol。
 
「うん。特に今音楽産業全体が不況だから、みんな経費を減らそう減らそうとしている。スタジオミュージシャン使わずに全部打ち込みでやってるアルバムが多すぎる。仕事がなくて困ってるスタジオミュージシャンさん多いって知人が言ってたよ」
と私。
 
「スタジオミュージシャンだけじゃないよ。長年バンドでやってたアーティストがバンドを解散してボーカルひとりのプロジェクトに形態変更する例も多い。バンド全員を食わせていくことができなくなってるんだよね。そして代わりに打ち込みで伴奏作っちゃう。素人には生楽器と打ち込みの違いは分からない。ライブの時だけツアーミュージシャン使う」
 
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「ごめんなさい。それ私です」とAYA。
「あ、そうか。AYAの音源制作はだいたい打ち込みか」
「そうそう。下川先生の所で打ち込みで伴奏音源作ってもらって、それに歌を吹き込む。ライブではポーラスターと一緒にやるけどね」
 
「でもボカロイドの技術が上がってきているから、どうかしたアイドル歌手はもう歌わなくていい、音素だけ取って専用ボカロイド作って、それに歌わせるから、なんて話になってくるかもね。ライブは全部口パク」
 
「まあ、音痴としかいいようのないアイドルいるからなあ」
「アイドルじゃなくても音痴な歌手は結構いるよね」
 
「なんかその言葉、胸に突き刺さるんですけどぉ」
 
「でも、楽器の音は全部プログラム、歌声はボカロイドって、それで本当に人を感動させられる演奏ができるのかなあ。聴くのは機械じゃないよ。人間が聴くんだからさ」
と政子が少し憤慨するように言う。
 
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「でもね、この音楽界には、打ち込み以下の演奏者、ボカロイド以下の歌手がたくさんいるんだよ」
と私は言う。
 
「うむむむむ!!」
 
「更に胸に突き刺さる言葉!」
「ボカロイド以下だと言われないように練習頑張ろう」
 
「私も随分Eliseからリズムボックス以下だと言われたなあ」とCarol。「私もLondaから、そんなギターならMIDIに弾かせるぞとよく言われる」とElise。
 

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「まあ、そういう私も高校時代に雨宮先生から、そんなサックスならMIDIの方がマシなんて随分言われて鍛えられたんだけどね」
と私も言っておく。
 
「冬、雨宮先生から指導受けてたんだ?」
「うん」
「あの人にホテルに連れ込まれそうになったことは?」
「ああ、よくそれを賭けてカラオケ対決してたけど、私の全勝」
「なるほど」
「どういう対決?」
 
「お互いに目を瞑って番号を打ち込む。そして相手が呼び出した曲を歌う」
「どのくらい歌えるもの?」
「雨宮先生は8〜9割歌える。だからこれに負けてホテルに連れ込まれた子は多数いるみたい」
「きゃー」
「被害者は女の子が多いけど、男の子もかなりやられてる感じ。先生バイだから」
「よく訴えられないな」
 
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「まあ相手も騒動にするとイメージダウンだし。でもそういう子に雨宮先生はインサートはしないよ。キスもしない。指と言葉だけで逝かせてしまう。触るのも服の上からだけ。何人か実際に負けた子から聞いた話」
「へー、それは知らなかった」
「基本的にあれはゲームなんだよ。恋愛遍歴とは別」
「なるほど」
 
「更に先生自身言ってたけど、ホテルに連れ込んで泣き出しちゃった子は何もせずにそのまま帰したって」
「じゃ、負けたら泣くに限るな」
「嘘泣きはバレるって」
 
「冬はどのくらい歌えたの?」
「私は歌えなかった曲は無い」
「凄い」
「和泉も100%歌えるでしょ」
「うん。多分」
「ハイレベルな戦いだ」
 
「そういう対決で冬や和泉に対抗できそうなのは浜名麻梨奈くらいかな」
「浜名さんって、そんなに凄い?」
「頭の中にある曲のライブラリが物凄いみたい」
「へー。じゃ浜名さんって歌もうまいんだ?」
「うん。上手いと言えば上手いんだけど・・・・」
「何か問題でも?」
「彼女が歌うと、演歌だろうと、フォークだろうと、全てディスコになる」
「ああ!」
 
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その日は郡山市内のホテルに泊まったのだが、お昼近くまでぐっすりと寝て帰ろうとしていたら、XANFUSのふたりとちょうどホテルのフロントの所で遭遇した。それで一緒に帰ることにする。4人でタクシーを相乗りして郡山駅まで行き、新幹線の普通車続きの席を取って、向かい合わせにして4人で座る。
 
音羽のギター、私のギターは棚に上げたが、政子のヴァイオリンも昨日使ったのは安価なサイレント・ヴァイオリンなので、セキュリティ・ケーブルなどは使わず、やはり棚に置いてしまう。
 
「冬たち普段はグリーン車?」
「そんなのもったいない。普通車だよ」
「新幹線の座席は普通車でも凄く楽チンだもん」
 
「織絵たち、あまりマネージャーも付き人さんも連れてないね」
「ケイたちも連れてるの見たことない」
「デビューしたての頃だけだよね。マネージャーと一緒だったのは」
「KARIONも最近はだいたい3人だけで行動してるね」
「ただし美空は遅刻魔だから置いて行かれて結果的に1人だけ別のこともある」
 
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「スリーピーマイスの場合は、3人バラバラで行動する主義みたい」
「あの3人はお互いの波長が違うから、一緒に行動するよりバラバラの方が気楽っぽいね。そもそもお互いのスケジュールも知らんと言ってた」
「不思議なユニットだね」
 
「08年組で専属マネージャーさん連れてるのはAYAだけだったね」
「まあ他の人がいるとイチャイチャできんという問題はある」と政子。「ああ、あるある」と音羽。
 
「私たちの中ではAYAがやはりいちばん普通の歌手っぽいよね。他の4組はみんな色々変だ」
「高い年齢でデビューしたスリーピーマイスを除けば、みんな最初はアイドル風の売り方だったけど、AYA以外はみんなどこかでその路線から外れてるもんね」
 
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「自分たちの楽曲をやるようになった辺りからそれは変わってるよね」
「でも一番変なのはやはりローズ+リリーだろうね」
「うん、自覚してる」
 
「だいたいファンクラブも作ってないというのが不思議」
「ファンクラブだけに出せるメリットってのが無いからなあ。ライブもこれまでやってなかったから、ファンクラブ先行みたいな売り方もできなかったし、情報はどんどんホームページやツイッターで流してるから、特定の人だけに伝えるようなものって特に無かったし。グッズは普通に売ってるし」
 
「まあファンクラブの会員証を発行して、年に6回くらいファンクラブ通信出すだけでも、喜ぶファンは多いと思うよ」
「そのファンクラブ通信に出すようなことは既にホームページに上げてるから」
 
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「その付近の切り分けは難しいかもね」
「いっそファンクラブ通信にファンクラブ限定のグッズを付けるとか」
「あ、その手は使えるかも知れん」
「ローズ+リリー・ファミリー・クラブという感じだな」
 

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新幹線の中ではそのほか、主として海外のアーティストの話題で盛り上がった。Adele, Taylor Swift, Rihanna, Celtic Woman などの作品も論評しあう。
 
あまりにも話が盛り上がったので、東京駅に着いたあと、そのままふたりを私たちのマンションに連れて行き、お茶を入れてお菓子をつまみながら更におしゃべりを続ける。
 
「ここ、客用寝室もあるから、泊まっていってもいいからね」
「防音性がいいから、多少の声出しても大丈夫だよ。まあ多少じゃない声を上げてしまってもお互い聞こえなかったことにするということで」
「OKOK」
「蝋燭とか必要なら分けてあげるけど」と政子。
「要らん、要らん」
 
「でも明日は朝から予定入ってるけど今日はオフだから、泊まって行こう」
 
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「おやつは何だか随分あるみたいね」
「ファンからの贈り物で事欠かないよ」
「お、信玄餅だ」
「残念。これは筑紫もち」
「あぁ!」
「似てるよね、そのふたつ」
「うん。どちらも好きだけどね」
「美味しいよね」
 

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「アルバムの企画は進んでる?」と私は訊いてみた。
 
「ローズ+リリーはローズ+リリー、KARIONはKARIONで、私たちは私たちの流儀でやろうという方針だけは再確認した」
「うん、それでいいと思う」
 
「過去のアルバムでは神浜(神崎美恩作詞・浜名麻梨奈作曲)の曲は2〜3曲でそれ以外は他の作曲家さんに依頼して作ったもらってたんだけど、今回は全曲自分たちで用意しようという線も固めた」
 
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