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■夏の日の想い出・花の繋がり(6)

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私のスティックの音を合図に演奏が始まる。最初は『ラブレター』である。
 
音羽のリードギター(Yamaha Pacifica-112C2/RM)、小風のリズムギター(Fujigen EOS-ASH/STR)、美空のベース(Fender JB62/FRD)は各々自前の楽器を弾いている。3人とも赤いギター・ベースである。私が叩いているドラムセットと和泉が弾いているキーボードはスイート・ヴァニラズのものでピンク色にペイントされている。マリは自分のサイレント・ヴァイオリン(SV-200)、光帆も自前のYamahaのフルート(YFL-271:私が以前使っていたものと同じ製品)、AYAはメーカーが提供してくれた試作品のオタマトーンを弾いている。
 
ここまでの演奏で観客がノっていることもあり、私たちの演奏にも良い反応をしてくれる。間奏部分で本来Eliseが弾く結構テクを要するギターソロを音羽が危なげなく弾きこなすと、観客から「おぉぉ」という感じの反応があった。
 
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昨日にしても今日にしても、私たちは「期待していなかった分感激される」というハンディをもらっている。こういうセッションの機会はローズ+リリーとKARIONの休養が入るので次は来年の春まで有り得ないが、次する時は今度はもうハンディが無いので、実際の自分たちの技術を上げておかないと、無茶苦茶言われるであろう。
 
もっとも音羽はXANFUS結成以前に、浜名麻梨奈と更にもう1人の同級生と3人でいろいろなバンドのコピー演奏などをしていた時期があり、ギターは結構年季が入っているのである(浜名麻梨奈がキーボード、もうひとりの子がベースを弾いていた)。今日弾いているのも当時から使用していたギターである(中古楽器屋さんで2万で買ったらしい)。当時スイート・ヴァニラズの曲もよく弾いていて「Elise風のソロ」も当時かなり練習していたらしい。
 
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私たちはスイート・ヴァニラズがやるように、曲ごとにメインボーカルを変えながら、彼女たちの曲を演奏していった。
 
11曲演奏する予定の6曲まで演奏した時、ステージに突然Londaが駆け上がって来た。MCをしようとしていた美空が何だろう? という感じで様子を見る。
 
「ご来場の皆さん、ご声援・手拍子ありがとうございます。この子たち結構うまいですね。スイート・ヴァニラズ・ジュニアのステージもここで折返し点ですが、ちょっとだけお楽しみタイムです。この中でギター弾ける人?」
 
と言ってこちらを見るので、音羽・小風・和泉に私の4人が手を挙げる。
 
「ちょっと出てきて」
というので、私と和泉もドラムスとキーボードから離れて前に出てくる。
 
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「一応この4人が弾けると事前リサーチをしていたので、今日は、いづみとケイの愛用ギターも持って来てもらっている。各々の家族に頼んで持ち出した」
 
と言うと、MinieとCarolが1本ずつギターを持って駆け上がってきて和泉と私に渡す。私に渡されたのはGibson SGだ。和泉はSquire Stratocaster のようである。私のはたぶん姉に頼んで出してもらったのだろう。続けて登ってきたSusanは譜面を持っていて、4人に配る。『だから言ったのに』とタイトルは書かれている。
 
「スイート・ヴァニラズ・ジュニア8人のメンバーの中で譜面が読める子は6人なんだけど、6人とも初見に強いみたいなんだよね。で、取り敢えずその中のこの4人に今から初見で1曲弾いてもらおうというのが、このお楽しみタイム。今4人に配ったのは数日前にスイート・ヴァニラズで書いて年末か年明けくらいのアルバムに入れようかと思っていた曲。これをElise以外の私たち4人で歌うから、その伴奏をやってもらおうという訳」
 
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観客席から歓声と拍手が来る。
 
「そういう訳で、弾いてくれるかな?」とLondaが言うので、私たち4人は心で焦りながらも笑顔で声を揃えて「いいとも!」と言った。全員ハッタリの得意な子ばかりである。
 
私たちは10秒で弾き方を決めた。
「私の所に来てるのがリードギターみたい。これ音羽弾いてよ」
「OK」
と言って和泉と音羽が譜面を交換する。
 
「私の譜面はひたすらバッキングみたい」と小風。
 
「じゃしっかりそれでリズムを刻んで。私と和泉はそのタイミングに合わせる」
「了解」
 
音羽がギターのボディを手で叩いてリズムを取り、まずはその音羽のリードギターが前奏を弾き始める。それに小風が和音でリズムを刻み、私と和泉はそのリズムを聴きながら指定の譜面を弾いていく。クラシックギターでは三重奏や四重奏はよくあるが、エレキギターではあまりやらないので、観客も「へー」
という感じで聴いている。実際のサウンドは物凄く重層感のある音である。タイミングがずれると目立つので、私も和泉も小風の演奏を心で感じながらそれに合わせて弾いていった。
 
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そして私たち4人の出す音に合わせて、Londa, Minie, Carol, Susan の4人が歌う。
 
その歌に合わせて思いだしたかのように手拍子が鳴り出す。私たちは譜面を必死に追いながら演奏していった。
 
Aメロ・Bメロ・サビと終わった所で私はギョッとする。何だか物凄いバリエーションが指定してある。ギョギョギョと思ったが、初見でさすがにこの音符は追えない。私は開き直って、勝手に作曲しながら、この曲に合いそうなギターソロを適当に格好良い感じで演奏した。何だか拍手をもらった。やったね!
 
それが終わった所でまたAメロ・Bメロ・サビと行く。ここで転調している!ひゃー。頭を切り換える!左手の基本ポジションをずらす! Cメロ・Bメロと進むと再び転調して元の調に戻っている。元の調に戻すのは割と簡単に頭も指も付いていく。その元の調でサビを2回演奏し、私はその後は普通の演奏になっていたのでホッとしていたら、隣で弾いていた和泉が華麗なバリエーションを弾き、それでコーダとなった(やはりとても音符を追えなかったのでアドリブだったらしい)。
 
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物凄い拍手が来た。
 
どうも、ひとりひとりに見せ場があるようなアレンジがされていたようだが、リズム感は良いものの、そういうバリエーションを弾くのが苦手な小風には、上手い具合に単純なバッキングを基本にしたパートが当たったようで、運が良かった。
 
歌い終わったスイート・ヴァニラズの4人も拍手をしてくれて私たちに前に出てくるよう言い、一緒にお辞儀をした。歌っていた4人とギターを弾いた4人で握手をする。そのあと、私と和泉は弾いていたギターをCarolとSusanに渡し、全員元の位置に戻る。スイート・ヴァニラズの4人もステージを降りる。
 
後ろで椅子に座って見学していた美空(ベース担当)が出てきて
 
「いや、凄かったですね〜。転調ありソロありの初見演奏なんて恐ろしい。私、ギターできなくて良かった」
と言って笑いを取り、本来のMCに入った。
 
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そのMCの後で、またスイート・ヴァニラズ・ジュニアで5曲演奏した。最後の曲『甘い生活』を演奏してから最後の締めのMCを和泉がする。そして
 
「それでは真打ち登場!本物のスイート・ヴァニラズです!」
という和泉の紹介に、Eliseを含めたスイート・ヴァニラズの5人がステージに上がってくる。Eliseはこの直前まで会場内の空調の効いた部屋で涼みながら私たちの演奏を聴いていたらしい。
 
Eliseが和泉からマイクを受け取り、
「ありがとう! 将来のバンド少女たち!」
と言うと、観客から拍手が来る。
 
それで私たちはスイート・ヴァニラズのメンバーと適宜握手をしながらステージを降りた。
 
最後の曲スイート・ヴァニラズによる『情熱』が演奏される。ライブは熱狂している。それまで座ったり寝て聴いていた聴衆も最後の曲とあってみな立ち上がって手拍子を打っている。飛び跳ねている子たちもいる。
 
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私たちはステージ下でそれを見ていた。音楽って本当にいいなと思う時間である。
 
この1曲だけに全力投入するEliseの熱いボーカルが響き渡る。他の面々も熱く演奏する。
 
そして5分間の演奏者・観客全員の「情熱」が過ぎ去り、演奏は終曲を迎えた。
 
物凄い拍手、歓声が響く中、スイート・ヴァニラズの5人は一緒に
「ありがとう!」
と叫び、手を振ってステージを降りた。
 

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しかし拍手は鳴り止まない。
 
昨日のライブはスイート・ヴァニラズの後にスカイヤーズが控えていたので良かったのだが、今日はトリである。
 
スイート・ヴァニラズがステージを降りた後、5分たっても拍手は鳴り止まないし、観客の熱狂は収まりようもない。
 
EliseとLonda, 町添さんが何か話している。それでEliseが私たちの方に来て言った。
 
「すまん。アンコールやってくれ」
 
「えーー!?」
と私たちはお互いに顔を見合わせたものの、確かにこの場は私たちが演奏する以外、無いようだ。
 
「何を演奏する?」
「何にしよう?」
 
スイート・ヴァニラズの曲でスコアを用意していたものは全て演奏してしまった。スイート・ヴァニラズの曲で演奏していない何かをぶっつけ本番で弾く?
 
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「冬、ここはあれだよ。『花が咲くよ』」
と政子が言った。
「『花は咲く』?」
「あ、それそれ」
 
NHKの震災支援プロジェクト番組のテーマ曲で、紅白歌合戦でも演奏された曲だ。
 
「みんな行ける?」
「もうぶっつけ本番、アドリブ100%」
「よし、行こう。みんな自分のパートは他の人の音を聴きながら適当に」
 
「全体のコントロールは音羽よろしく」
「うん。適当にコントロールする」
 
それで8人でステージに駆け上った。
 
和泉が挨拶する。
 
「アンコールありがとうございます。本当はスイート・ヴァニラズが演奏すべきところなのですが、お医者様の指示でEliseは1回しか演奏できません。それで私たちがアンコールの代理を頼まれました。でもここは、私たちだけでなく会場のみんなでアンコールしませんか? 曲は『花は咲く』です」
 
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というと会場内に「わあ」という声が広がる。このライブはそもそも復興支援ライブである。
 
和泉が挨拶していた間に手早く楽器のケープルを接続していた。音を出してみて、全員ちゃんと出ることを確認する。
 
音羽の視線に応じて私がスティックを鳴らしてタイミングを取り、ギター・ベース・キーボードが鳴り始める。8小節の前奏の後、みんなで歌い始める。会場の人たちも一緒に歌ってくれる。AYAはオタマトーンはもう適当に鳴らしながら歌の方に集中している。光帆はフルートを手に持ったままやはり歌う。政子もヴァイオリンの弓を振り回しながら歌っている。ここはみんなひたすら歌う。
 
ステージと会場が一体になり「花は、花は、花は咲く」と熱唱する。
 
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私はこの、いわき市の会場からあふれ出たエネルギーが、福島県全体に広がっていき、その「気」を動かして浄化を進める力となるようなイメージを想像しながらドラムスを打っていた。
 
やがて終曲。
 
ステージ上の8人も会場もみんな拍手する。そして私たちは8人横に並び、お辞儀をした。そして手を振りながらステージを降りた。
 
主催者スタッフの女性が
「本日の演奏はこれで全て終了しました。最後まで応援ありがとうございました」
と締めのアナウンスをした。
 

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08年組の8人とスイート・ヴァニラズの5人で打ち上げに行った。いわき市内では観客とぶつかりそうなので、車で磐越道を通り郡山市に移動して、郡山市内のビストロを貸し切りにした。
 
スイート・ヴァニラズのElise以外の4人は大いに飲み、XANFUSの2人は少し飲むが、私と政子、KARIONの3人はもっぱらお茶である。Eliseは飲みたそうにしながらもお茶である。政子はよく食べる。
 
「Eliseさん飲めなくて辛そう」
「Eliseのマンションからはアルコール類全部回収した」とLonda。
「代わりに大量のコカコーラゼロが置かれている。カロリーも摂りすぎるなと言われてるから。しかしアルコール欠乏症だ」
「やはりたまには肝臓を休ませないと」
 
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「ケイはあまりお酒飲まないな」
「女性ホルモンとの兼ね合いもあるんですよ。女性ホルモンが肝臓に負荷を掛けるので、アルコールはそもそもあまり飲めないんです」
「ああ、そういうのがあるのか」
「天然女性でも肝臓のパワーが男性ほど無いから、女性は一般にお酒に弱いとも言うね」
「Eliseの肝臓は男性並みという気もする」
「あるいは肝臓を4個くらい持ってるとか」
「それは凄い」
 

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「和泉〜、新しいアルバムの音源聴かせてよ」
と音羽が言うので
 
「うん。まあ、このメンツならいいか」
ということで、まだコーラスを加えていないし今はまだ仮ミクシングというのを断った上でパソコンを開いて流す。
 
「きれいに出来たね」
「ローズ+リリーのがすげーと思ったけど、こちらもなかなかの出来じゃん」
「まあ1年掛けて作った人たちにはかなわないけどね」
 
「普通のアルバム5〜6枚作る手間と予算をつぎ込んだな。ローズ+リリーのは多分2億か3億、このKARIONのも1億2〜3千万掛かったろ?」
とEliseが言う。
 
「さすがにそんなには掛かってません」
「お金より、こういうものを作れる時間が取れたのも凄い」と光帆。
 
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和泉が頷きながら答える。
「今年だからできた。ちょうど卒論のための休養期間に入ったから。音源制作以外のことを何もせずに済んだ。普通に活動しながらは作れないよ」
 
「こういうのは少なくとも3ヶ月くらい休業しないと作れないだろうね」
と私。
 
「いや、この品質のものを3ヶ月で作ったいづみちゃんが凄いと思う」
「かなり集中して作業したからね」
「卒論は大丈夫? いづみも歌月さんも?」とAYAが心配そうに訊く。
「それは言ってくれるな」
 
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■夏の日の想い出・花の繋がり(6)

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