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■夏の日の想い出・花の咲く時(6)

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「08年組とかいってコラボしてたけど、ローズ+リリー、XANFUS、KARION、3組とも凄く歌唱力があるよね」
 
「お互い気を抜けないライバルだと思ってます」
 
「歌唱力がある上に楽曲も凄くいい作品を歌ってる。浜名麻梨奈さんは凄く格好いいダンスナンバー書くし、ケイちゃんは構成のしっかりした作品を書くし、水沢歌月さんはとにかく美しい作品を書く」
 
「浜名麻梨奈さんも水沢歌月さんもプロフィールが公開されてないですけどたぶんケイちゃんと同世代ですよね。だから若手女性作曲家の三巨頭」
と向こうから花枝が言う。
 
「ああ。3人とも同世代ですよ」
と政子が言った。
 
「あんたたち会ったことあるの?」
と保坂さん。
 
「浜名麻梨奈さんには一度XANFUSの事務所で会ったよね」
と私は言う。
「凄いエネルギッシュな人だったね。なんか憧れちゃった」
と政子。
「性別非公開となってるけど、女性だよね?」
「うーん。。。女性に見えたけど、本当に女性か、それとも女性に見える男性なのかは、私には何とも」
と政子。
「いや、女性ですよ。少なくとも女子高に入学できる人」
と私は笑って補足する。
 
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「でもケイだって女子高を受験して合格したと聞いた」と政子。
「あれは何かの手違いか間違いだよ」と私。
 
「何か凄い話を聞いた気が。水沢歌月さんは?」
と保坂さんは訊く。
 
「あ、あの人とはよく会ってます。ちょっと可愛い人です」
と政子は言った。ほほぉ。
 
「へー!そんなに会ってるんだ!」
「ケイの最大のライバルですね。向こうもかなり意識してる雰囲気」
と政子。
 
「まあ、私たち、KARIONとは縁が深いしね」
と私も言う。
 
「うん。XANFUSとは仲良し。KARIONとは縁が深い。私もいづみちゃんと詩人として良きライバルだし、ケイはいづみちゃんと歌のライバルっぽい話をよくしている」
と政子は笑顔で言う。
 
七星さんが微笑んでそんな私たちを見つめているような気がした。
 
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「今気付いたけど、マリちゃん、よく食べるね」
とかなり時間が経ってから保坂さんは言った。
 
「はい!私、ケイに歌では勝てないけど、食なら圧勝です」
と政子。
 
「ケイちゃん、特に食が細いもんね」
と私の隣に座る七星さんが言う。
 
「今日、これ割り勘だったっけ?」
と保坂さんが心配そうに言うが
 
「私が全部払いますから大丈夫ですよ。保坂さんも好きなの取って食べてくださいね」
と私は笑顔で言った。
 
その日の会計は結局5200米ドルで済んで(済んだというべきなのか・・・・・)私はホッとした。
 
(人数は私・政子・保坂・松村、花枝・悠子・氷川・加藤、台湾側のスタッフ3人、RQ4人、SK7人で合計22人)
 

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台湾公演の翌週から国内5ヶ所のホールツアーを行う。
 
ローズ+リリーのツアーは実に2008年11月以来、4年8ヶ月ぶりである。チケットはどの会場も瞬殺で売り切れていた。私たちはファンクラブも組織していないし、全部一斉売りでも良かったのだが、販売サイトの処理能力の問題で通常の前売りの前に「先行予約」を設定して、半分ずつ売ることにし、また各公演の発売日をずらした。結果的に購入希望者は10回の購入チャンスが与えられる形になり、そのため結果的には北海道の人が沖縄のチケットをゲットしたり、愛媛の人が富山公演をゲットしたりなどというケースも多々あったようであった。
 
チケットはダフ屋排除のため記名式で、携帯電話または写真付身分証明書での本人確認が入場の際に必要だが、公式のチケット交換サイトで、北海道の人で沖縄公演が取れてしまった人と沖縄の人で北海道公演が取れてしまった人同士で交換、などというのも結構成立していたようであった。(公式交換サイトで交換すれば、新たな記名チケットが発行される)
 
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幕間のゲストは公演によって異なり、愛媛では小野寺イルザ、札幌では山村星歌、静岡では富士宮ノエル、富山では鈴鹿美里、沖縄では坂井真紅と、マリ&ケイ・カズンズのアイドル歌手たちが出演してくれた。
 

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オープニングアクトもそれぞれの公演で工夫した。
 
愛媛では「坊ちゃん」の寸劇を演じた。私が山嵐、マリが坊ちゃん、そして鷹野さんがマドンナという配役で、女装させられた鷹野さんは「私、道を間違ったらどうしよう」などと言って観客の笑いを呼んでいた。
 
札幌では「大漁」の文字入りの法被を、スターキッズのメンバーと合わせて全員で着て「ソーラン節」を踊った。マリが前面に立ち、スターキッズのメンバーがその後ろに並ぶ。そして私が唄う。すると会場からも一体になって唄声が響き(踊ってる人たちもいた)、いきなり超盛り上がりムードになった。私がローズ+リリーの公式ライブやキャンペーンで民謡を唄ったのは実は初めてであった(ローズクォーツではたくさん唄っている)。
 
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「ケイって実は民謡の名取りさんなんですよね〜」
とマリは言ったが
 
「いや、まだもらってません。大学を卒業したら若山冬鶴という名前をあげると言われてます」
 
と私は答える。私が民謡のプロであることは知らない人が多いので「へー」という反応が返ってくる。するとマリは
 
「じゃ、卒論頑張らなきゃね〜。ここしばらく全然進んでないでしょ?」
と言われる。
「9月になったら頑張るよ」
と私は答えておいた。
 

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札幌公演の後ツイッター上で私の民謡スキルのことで話題が広がった(私が結構民謡の大会などの伴奏で出ていたことはネット上では知っている人も多かった)のを受けて、静岡では、悪乗りして、私と政子のふたりで茶摘み娘の服を着てオープニングアクトに臨んだ。衣装が衣装だし、私が三味線を持っているので、てっきり「ちゃっきり節」を唄うのかと思われたようであるが、私は三味線で米米CLUBの『FUNK FUJIYAMA』を弾き出し、ふたりで歌った(マリが石井さんのパート・私が小野田さんのパート)ので、これはまた別の意味で最初から会場が盛り上がった。
 
「この衣装渡されたから、私ちゃっきり節でも歌うのかと思った」
とマリ。
「あ、私、小学生の時、初めて出た民謡大会で、ちゃっきり節唄ったんだよ」
「へー。じゃちょっと歌ってみせてよ」
 
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と言うので、一節だけ三味線を弾きながら唄う。
 
「うたは、ちゃっきりぶ〜し〜、男は〜次郎〜長〜〜〜
花はた〜ち〜ば〜〜〜な、夏はた〜ち〜ば〜〜〜な、茶のか〜〜お〜〜り〜〜
きゃあるが啼くんて、雨づ〜〜ら〜〜よ〜〜〜〜」
 
拍手が来る。
 
「この歌、なんか難しい」
とマリは言う。
 
「そそ。この曲、この短い間に2度も転調が入るから、凄く音程を取りにくい。特に無伴奏で唄うと間違いやすい」
 
「ふーん。じゃ、無伴奏で唄ってよ」
「はいはい」
 
私は笑って今度は無伴奏で唄ってみせた。大きな拍手が来た。ということで結果的には『ちゃっきり節』を唄うことになった。
 

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富山では私は『越中おわら節』の胡弓を弾いた。マリはそれに合わせて踊る。この踊りは埼玉の従姉、友見に指導してもらって半日ほどの特訓をしたものであるが、観光客の踊りよりは少しはマシなものになったのではないかと思う。
 
私たちはこの富山公演のために作った『Mari&Kei』と染め抜いた青い浴衣(本物のおわらの浴衣と同様に絹製)を着たのだが、公演後「あの浴衣が欲しい」
という問い合わせが殺到し、富山市内の呉服店と共同企画して、絹製で結構値の張るタイプ10着と、綿製で比較的安価なもの100着を数量限定で販売したところ、発売が9月になってしまったのに、あっという間に用意した数が売り切れてしまい、更に欲しいという声があったので、来年の夏前に再度販売することにした。
 
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おわらの「平踊り」を2回リピートした後で、私の胡弓は『聖少女』の前奏を弾き始める。客席から拍手が来る。マリがメインメロディーを歌い始める。私は無理すれば弾き語りできないこともないが、腹筋がちょっと辛いので胡弓に専念した。そして間奏部分になった時、私たちと同様『Mari&Kei』の浴衣を着て、ピンクゴールドのアルトサックスを持った少女が出てきて、メロディーのバリエーションを吹く。
 
サックスを吹く女性が出てきたので、後ろの席に座っていた人の中には七星さんかと思った人も結構あったようである。
 
間奏が終わってまたマリが歌い始める。サックスは胡弓の音色にサウンドの厚みを付けるかのように吹いた。
 
やがて終曲。大きな拍手が来るが私がマイクを持ち
 
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「『聖少女』の共同作曲家、Leafさんでした」
と紹介すると
 
「えー!?」とか「わあ」という声とともに新たな拍手がある。サックス少女はその拍手に応えるようにお辞儀して手を振り下がった。
 
それから私たちは
「こんにちは!ローズ+リリーです!」
と叫んだ。
 

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富山公演でのゲストは鈴鹿美里だったのだが、鈴鹿本人もその先生と一度会ってみたいと言ったので、当日の午前中、例の病院に連れて行った。美里も付き添いで付いて行ったが、松井先生は鈴鹿のことがとても気に入ったようであった。
 
鈴鹿は都内の病院で一応GIDの診断書を小学生の時点でもらっていたのだが、松井医師もセカンド・オピニオンということでGID診断書を出したので、一応この2枚の診断書があれば、20歳になれば性転換手術を受けることができる。(それぞれの特殊な事情により、もっと低い年齢で受けられる場合もある)
 
その件を言われたのが嬉しかったのか、また色々話を聞いてもらえて気持ちがスッキリしたのか、お母さんとふたりで診察室を出てきた鈴鹿は笑顔だった。松井医師も診察室から出てくる。
 
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「ね、ね、ここだけの話、本当は特例でも16歳以上でないと手術できないんだけどさ、内緒で今から手術しちゃおうか。性転換したことを18歳くらいまでは黙っておく条件」
などと言って
「ちょっと、待って。少し考えさせてください」
と鈴鹿は焦っていた。お母さんは冗談だと思ったようで笑っていたが、本当に冗談なのか、この先生の場合、けっこう怪しい気もする。
 
「付き添いの妹さんの方は手術する気は?」
「私は生まれた時から、おちんちん付いてなかったので」
「なーんだ、つまらない」
と本当に松井先生は詰まらなそうな顔をした。
 
「冬はさぁ、19歳で性転換手術受けたというのが公式見解だけど、本当はこっそり、中学生くらいの内に性転換していて、19歳までそれを内緒にしてたってことはないの?」
などと政子が訊く。
 
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「高校生の時に付いてるのを見てるくせに」
「いや、ディルドーとかであたかも付いているかのように誤魔化してたのかも知れん。あれって伸び縮みするタイプもあるから」
「まさか! ってか、そんな話を中学生の前でするなよ」
 
「睾丸はさすがに高校生以前に取ってたよね?」
「それも付いてるの見たでしょ〜」
 
「いや、本物を取った後でシリコンのダミーを入れてたのかも」
「そんな馬鹿な」
 
すると鈴鹿が松井先生に訊く。
「先生、性転換手術は私、やはり18歳くらいまで待とうかと思うけど、それ以前に睾丸を取ることはできますか?」
「まあ、状況次第では可能だよ」
と松井医師は言い、鈴鹿も頷いていた。お母さんも頷いていたので、そのくらいは構わないと思っているのだろう。
 
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「けっこう低年齢で去勢手術してくれる病院は存在するみたいだけどさ。技術力の問題やメンテナンスの問題もあるし、よかったらうちに来なよ。倫理委員会に掛けてあげるから」
「はい」
 
「そもそも、あなたの睾丸は既に機能停止してるみたいだよね」
「はい、たぶんそうだと思います。というか、私のって最初から機能してなかった気もします」
 
「なるほどね。その睾丸の状態、経過観察させてもらえない? 機能停止した睾丸はトラブルが起きやすいから、その状況次第ではむしろ医学的な判断で、摘出した方がいいということになるかも知れない」
 
「あ、それじゃ定期的にこちらで診察受けさせてください」
 
ということで鈴鹿は年内にもこちらの病院を再訪することになった。
 
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ローズ+リリーの各々の公演でのセットリスト、オープニング・アクト、幕間のゲスト、そしてアンコール曲は各公演終了後速攻でネットにレポートされていたが、途中でこんな質問がツイートされた。
 
「ひょっとして今回のオープニングアクトは全てマリちゃんが主役なのでは?」
 
私は特にそれにお返事をし、「そうです。今回のツアーはいわばマリ復活ツアーなので基本的にマリが主役です」と明言した。
 
その私の答えがまた大量にリツイートされていた。
 

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KARIONのアルバムの伴奏の収録は、ローズ+リリーのホールツアーの合間を縫って7月頭から8月の上旬くらいまでに掛けて行い、その最後の方に少し重なるくらいの日程で、8月1〜8日に小風・美空を呼び出して、和泉・私と4人で歌の収録を行った。(8月後半にコーラスの人を呼んでコーラスを入れる)
 
半分の歌は一度歌ったものなのでスムーズに進行したが、伴奏音源が前回収録した時とは見違えっているのでふたりとも驚いていた。
 
「なんかこないだ歌った時と同じ歌とは思えん」と小風。
「『アメノウズメ』格好いい〜。携帯の着メロに使いたい」と美空。
 
「あ、いいと思うよ。プロモーションになるかも」
ということで私が着メロのデータに変換して渡してあげた。
 
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夏の日の想い出・花の咲く時(6)

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