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■夏の日の想い出・高校1年の春(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2012-10-26
 
ボクが◆◆高校に合格した、その合格発表があったのは3月1日の木曜日で、その翌日金曜日、母と一緒に入学手続きに行ったのだが、ボクはその日なぜか「女子制服の採寸」をされてしまった。そしてそのことがきっかけで、帰り道、ボクはとうとう母に自分の女性志向のことを話した。
 
話してしまったので少し気楽になって、大胆にもなって翌日の土曜日は父が休日出勤で出かけてるのをいいことに、日中スカートを穿いて家の中で過ごしていた。
 
「あんた、そんな服、どこに隠してたの?」
などと訊かれるが
「えへへ」
と言ってボクは適当に誤魔化していた。
 
16時頃。そろそろズボンに穿き換えて晩御飯の買い物にでも行ってくるかな、と思っていた頃(スカートのまま近所の出歩きは禁止と母から言われた。実はけっこう既に出歩いてるんだけど!)、玄関のチャイムが鳴る。母はちょうど電話をしていたので
「冬、ちょっと出て。宅急便屋さんだと思う」
と言う。
 
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それでボクはスカート姿のまま玄関に出て行ったのだが、宅急便屋さんでは無かった!
 
「こんにちは。**信用金庫のものですが」
などと言われる。母にその旨伝えると、「あらら」と言って、電話していた友人に「ごめん、後で掛け直す」と言って電話を切り、玄関に出た。ボクも何となくそのまま玄関の所に付いて行った。
 
信用金庫の人は、どうも新人研修を兼ねて新人さんと先輩の2人組で口座開設の営業に回っていたようであった。主にその新人さんが話していたが、その人の雰囲気が何だか爽やかで、とても良さげだったので、母は好感して、しばし話に付き合ってあげた。
 
「お子様は何人ですか?」
「あ、えっと、この子が今年高校に入るのと、あと1人、成人式迎えたばかりの姉と」
「あら、それでしたら妹さんの方は大学進学に向けて学資の積み立て、お姉さんの方は結婚式の資金積み立てなど、なさいませんか?」
 
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まあボクは「妹」に見えるだろうね、「弟」じゃなくて!
 
「いや、毎月積み立てられるほどお金が無いので」
「それでしたら、普通預金とのセットにして、毎月少しずつ普通預金に入れてある程度残高に余裕がある時に、積み立ての方に振り替える手もありますよ」
「ああ、そうですね・・・」
 
などと話したりしている内、まあ口座作るだけならいいか、ということになる。
 
それで、母はボクと姉の名前を口座開設届の用紙に書いた。まず「唐本萌依」
と書き、1986年5月11日生・女と書いてから、ボクの顔をチラっと見て、「唐本冬子」1991年10月8日生・女と書いた。
 
本人確認書類を求められ、母は自分の健康保険証を出した。
「お子様の健康保険証はありますか?」
と尋ねられたが、母は「姉は自分で持って出ているので」と言う。新人さんがどうしましょ? という感じで先輩さんを見るが、先輩さんは
「お母様の保険証を確認しましたから、良いでしょう」
と言って、それでいいことになってしまった。
 
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ボクはわりとアバウトなんだな、と思ったが、口座開設できそうな時にここであまり厳格なことを言って、断られたらという雰囲気だった気もする。もう夕方近くで、たぶんその日あまり実績が取れなかったので、ここは口座を取りたい、ということで緩くなったのかも知れないという気もした。
 
母は姉の健康保険証が今手許にないことだけを言ったのだが、ついでにボクの方の健康保険証に関してもパスになってしまった感じだった。
 
一週間後にその信用金庫から、総合口座の通帳とカードが送られてきた。姉は「私別にここの信用金庫、使わな〜い」と言っていたが、ボクはもらって大事に机の中にしまった。
 
かくしてボクの1つ目の「唐本冬子」名義の通帳はできたのであった。
 
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(2つ目の「唐本冬子」名義の通帳は、1年半後に美智子が大手都市銀行で《通称使用》の形で開設した。通称使用は特別永住者の歌手の口座開設で経験して知っていたらしい。また、大手なので逆に銀行側も性同一性障害の人の通称使用についても既に内規ができていた。更に美智子がアイドル歌手のマネージングなどしていて銀行に顔が利いたこともありスムーズに作れたらしい)
 

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やがて4月になり入学式がある。ボクは生徒手帳を受け取ってから、その最後のページに転写されている自分の写真が女子制服を着た写真であったことにぶっ飛んだのだが、気を取り直して、その日帰宅してから通学用の定期券を買いに行った。ボクは母にお金をもらうと中学の制服を着て出かける。
 
「あんた・・・その服どうしたの?」
「え?これは中学の時の制服じゃん」
「そんな服、持ってたんだっけ?」
「うん。これで通学してたけど」
「えー!?」
 
「じゃ、行ってくるね」
「ちょっと待って、それで買いに行くの?」
「うん。ちょっとそんな気分だから」
「ね、あんた、今からでも高校の女子制服頼む?」
「うーん。取り敢えずボク、男子制服で通学するから」
「そ、そう?」
 
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電車の駅まで行き、申込書を書いた。「唐本冬彦・15歳・男」と書いて生徒手帳と一緒に提出する。ところが生徒手帳に写っているのはどう見ても女子生徒の写真だ。
 
窓口の50代くらいの感じの女性は「ん?」という感じで悩んだ感じがした。「えっと・・・ご本人ですか?」と訊かれた。
「はい」とボクは女声で答える。彼女はこちらを見つめるが、そこにはセーラー服を着た少女が見える。服は違うものの生徒手帳に写っている少女と同じ顔に見える。
 
そして生徒手帳の名前は確かに「冬彦」で申込書の名前と一致している。つまり何の問題も無い気がするが、どこか変な気がする。3秒ほど間があってから「あ、そうか」と窓口の人は言った。
 
「あなた性別が間違ってるわよ」
と窓口の女性は言い、申込書の性別の所を「女」に修正した。
 
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そして定期券を発行してくれた。
定期券の券面には「唐本冬彦・15歳・女」と印刷されていた。
 
その後はずっとこの定期の期限更新で行ったので、ボクは3年間自動改札で(女性を表す)赤いランプの付く定期券で通学した。
 

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入学してすぐのある日の昼休み、ボクは図書館に行ってみた。中学の図書室の倍くらいの広さがあり、本棚の高さもかなりある。歴史の古い高校だけあって蔵書数は書庫の分まで入れて8万冊ということだった。
 
ボクは美術史の本に目を留め、近くの机に座って読み始めたが、昼休み終了5分前のチャイムが鳴ってしまう。禁帯出ではないので、借りていこうかと思い、受付のところに行った。昼休み終了なので列ができていたが、並んでしばらく待ち、自分の順番が来る。最初に生徒手帳裏面のバーコードをスキャンする。
 
すると図書委員の子が言った。
「あれ?これ違いますよ」
 
見るとモニターに女子制服を着ているボクの写真が出ている。あはは、そりゃ別人と思うよね〜。だってボク学生服着てるし。
 
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「あ、すみません。さっきぶつかって落とした時に反対に拾ったのかも」
と言うと、ボクは読んでいた本を元の所に戻して、図書館を出た。
 
うーん。。。。これは問題だ!
 
これじゃ図書館、使えないじゃん!!
 

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高校入学して最初の週の金曜日。1時間目は予定を変更して頭髪・服装検査と言われた。
 
うちの中学から多くの生徒が進学した※※高校とかは規則が厳しいらしく、どこどこが何cmとか定規で測られるとか言っていたが、うちの高校はそのあたりが緩くて、
「髪型は男女とも自然で端正なものであること、パーマ・染色・脱色禁止」
ということだけであった。
 
それでも「これは長すぎる」とか「こら、パーマ掛けただろ?」などと注意されている子がいる。女子の方は女の先生がチェックしていたが、髪型ではあまり注意されていなかったものの「スカート短すぎ」「ウェスト下げて誤魔化そうとしてもダメ」などと注意されている子が数名いた。
 
男子の方も、ボクの前にいた子は春休み髪を放置していたっぽく
「横髪は耳に掛からないようにしろ。後ろ髪は学生服のカラーに掛からないように。前髪は眉に掛からないように。月曜までに切って来い」
などと言われていた。
 
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そして次に先生はボクの髪型を見て「うーん」と一瞬うなった。
 
ボクの髪は横では完全に耳を覆って顎の下まであるし、前髪は眉毛どころか目の下くらいまでの長さなのを左右に掻き分けている。後ろ髪は肩に少し掛かっている。
 
「後ろ髪は肩に掛からないように。少し切って来い」
とだけ言われた。
「はい」
とボクは素直に返事をした。
 
先に検査を終えて後方で見ていた紀美香が
「明らかに飯田君と唐本君の検査基準が違う」
などと言う。すると近くに居た菊池君が
「唐本が耳出るくらいのベリーショートにしちゃうと、自然な髪型ではなくなってむしろ校則違反」
と言う。
 
「そうだよねー」と紀美香も言った。
 

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頭髪服装検査が終わった後、みんな席につく。教室はざわざわとしていたが、
「席についたか? 静かにして」
と担任は言う。そしてその次に担任が言った言葉は一瞬にして教室にパニックを引き起こした。
 
「今から新入生実力テストを行う」
 
「エー!!?」という声が起きたが、廊下を通して他の教室からもやはり「うっそー」とか「えー!」という声が聞こえてくる。ボクは隣の席の紀美香と顔を見合わせて「参ったね」という顔をした。
 
「そんな話、聞いてません」と仁恵が言う。
「うん。今言ったから」と先生。
 
2時間目から6時間目までの5時間を使って、実力テストをするということらしい。後で聞いた話では、5月の連休明けから始まる補習のクラス分けに使うということだった。補習(参加は自由)のクラスは完全に成績順らしい。
 
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ボクはその日たまたま女子下着をつけていた。体育のある日は自制して男子下着を着けて学校には出てきていたのだが、その日は体育が無いので安心してブラとショーツを着けていたのである。そういう日で良かった!とボクは思った。ボクは女子下着を着けている時と男子下着の時では、テストの点が10点は違う。
 
更にボクはいつも持ち歩いているスポーツバッグの中から小さなポーチを取り出し、試験が始まる前にトイレ(自制的に男子トイレ)に行き、個室の中でそこに御守り代わりに入れていたシフォンスカートを取り出すと、ズボンの内側に穿いた。自分がスカートを穿いているという意識だけで、また更に点数を上積みすることができるはずである。
 
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果たして、ボクはその日の突発実力テストをかなり快調に解くことが出来た。
 
なお、後で聞いた話だが、この日、政子は例によって試験中ボーっとしていて何も書かなかったらしく全科目白紙答案(正確には答案用紙の裏に詩を書いていた)だったらしい。それで「お前ふざけるな」と担任に叱られ、翌日土曜日に学校に出てきて、ひとりだけ試験を再度受けさせられることになったらしい。
 

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その政子がひとり試験を再度受けさせられていた日、ボクはひとりで町に出た。服装はレモンイエローのポロシャツに薄ピンクの春物セーター、黒いハーフパンツといういでたちである。出がけに母から
「うーん・・・女装ではないが、ふつうに女子高生に見える」
などと言われた。
 
その日の用事は英語の辞書の物色であった。これまで中学で使用してきた辞典は収録語数が6万語ほどで、英語の小説などを読んでいて、しばしば載ってない単語があり、けっこう困っていた。一応分からない単語はネットで調べればいいのだが、紙の辞書である程度の語数をカバーしているものを持っておきたかった。
 
よく推奨されているのを見かけるいくつかの辞典を手に取ってみたのだが、微妙に満足出来ない。試しにいくつかの単語を探してみたのだが、載ってないのである。うーん。。。。と悩んでいた時、ふと少し巨大なサイズの英和辞典が目に付いた。
 
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さすがにこのサイズの辞典をカバンに入れて学校には持って行けないよな、とは思うものの、開いて先程から試していたいくつかの単語を探してみると、全部載っている。これ、凄い!欲しいと思って値段を見てみる。
 
18900円!?
 
ひぇー!!
 
さすが良いお値段する。買えない! 親にも買ってとは言えない!
 
うーん。。。バイトでもするかなあ。。。  とボクは思った。
ふと以前若葉から「高校に入ったらバイトしてごらんよ。女の子として」と言われたことを思い出した。
 
よし。バイトしてお金貯めて、これ買おうと思い、その日は取り敢えず学校に持って行くための辞典として、ロングマン英和辞典(収録語数10万)を買って本屋さんを出た。この辞書は出たばかりで新しいこととコーパス(最新の統計にもとづき使用頻度順に語義を並べる)を採用しているのを好感した。
 
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夏の日の想い出・高校1年の春(1)

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