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■夏の日の想い出・高校1年の春(3)

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翌日土曜日、ボクは、お店で動きやすそうな服装、白いポロシャツにグレーのショートパンツを穿き、朝からそのお店に行った。時間が早いのでお客さんがほとんどいない。まずは筆記試験を受けさせられた。答案用紙に「唐本冬子」
と署名すると気持ちが引き締まる。
 
いくつかの場面での基本的な客への対応を問われる問題だったが、ボクはこれに全問正解した(常識があれば全問正解できる問題)。その上で店長さんの面接を受けるが、しばらくやりとりをした結果、即決で採用と言われた。結構内心はドキドキしていたのだが、こちらの性別には何も疑問を持たれていないようであった。
 
給料は振り込みなので、銀行と口座番号を登録する。ここで、この春に作ったばかりの、信用金庫の「唐本冬子」名義の通帳を使うことになった。この通帳が無いと、女ということにしたまま仕事をすることはできないところだった。ボクは母に感謝した。
 
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早速店内で研修を受けることになる。
 
「あなた、身長と体重、ウェストは?」
とサブマネージャーさんから聞かれる。
「167cm, 48kg. ウェストは64です」
「ああ。身長の割に、細いわねえ。それならMかなあ」
 
ということでボクはMの制服を支給され、更衣室で着替えてくるように言われる。
 
「うちの更衣室、男女で共用しているのよ。だから、中に入る時はインターフォンで中に誰かいるかどうか確認してから入ってね」
と言いながらサブマネージャーはインターフォンを押して
「誰かいますか?」
と聞いた。
 
「はい。絹川ほか2名です」
という声が帰って来たが、ボクはその声を聞いて「え?」と思った。
 
「あ、女の子ならOKね」
と言ってサブマネージャーさんはドアを開け、ボクを連れて中に入る。ボクは手を振った。
 
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「冬! あんたもここでバイト?」と和泉。
「うん。今採用された」とボク。
「あれ?知り合い?」とサブマネージャー。
「はい。お友だちです」とボクと和泉は言った。
「それは良かった。分からない所とかお互いに教え合って頑張ってね」
「はい」
 
そういう訳で、ボクと和泉はバイト先で一緒になることになったのである。和泉は昨日採用され、簡単な訓練を受けて、今日から勤務らしい。
 

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ふつう、ここのハンバーガーチェーンでのバイトはある程度の日数の訓練を経てからということになるらしいのだが、ボクや和泉は先週急に辞めることになった人の穴埋めらしく、特にゴールデンウィーク要員という雰囲気だった。それで短時間の訓練での実戦投入になるようであった。
 
「最初からこんなこと言って申し訳ありません。28日と29日は外してもらってもいいですか?」
「ああ。大丈夫だよ。最初から言っていてもらえば調整はきくから。でも試験の時以外は、週に2回以上シフトを入れてね」
「はい」
 
ボクは最初30分ほどのDVDを見せられた後、簡単なマニュアルを読まされ、衛生管理に関する注意事項なども読まされた。その上で基本的な仕事の流れを再度説明してもらったが、その辺りはむしろ後で他の先輩たちからいろいろ教えてもらって覚えていった。分厚いマニュアルもあったが「ああ、あれ読んだ人はいない」などと先輩から言われた。
 
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初日の午前中に、注文を受けてレジを打つ練習をさせられたが、割とスムーズに応対できたので、優秀優秀と言われる。何といっても客として何度もこのチェーンには来ているので、だいたいの対応の仕方は分かっている。クーポンや携帯電話を使った注文も、いつも姉がしているのを見ていたので、受け方も見ている。
 
和泉が「この子、料理得意ですよ」と言ってくれたので、キッチンでのハンバーガー作りやポテトを揚げる作業もさせられたが、一度作っているところを見せてもらったら、その通り手際よく作ることができて、
「じゃ今日はキッチンメインで。また午後時間が空いたころにレジやってもらうから、他の子がしている所を良く見ててね」
と言われた。
 
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和泉の方はむしろハンバーガー作りはあまりうまくなかったので主としてフロアを回って、掃除したり下げられたトレイや皿を洗ったりする作業をメインにしつつレジ係もやっていた。店内を巡回しているとお客様から色々声を掛けられていたが、彼女は人当たりがソフトなので、そつなく対応していた。ボクはそういう彼女の動きや対応の仕方も見て、自分が声を掛けられた時のシミュレーションを頭の中でしていた。
 

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21-22の2日間働いたのでけっこう感覚が分かり、その次は24(火) 26(木)の夕方働き、28-29日は友人の集まりがあったのでパスして30(祝)は1日働いてから、連休後半は3〜6日の4日間、フル稼働した。
 
その後は、土日に6時間ずつと水曜日の夕方に3時間シフトを入れるようにした。偶然にも、これが和泉のシフトと同じであった。
 
「あれ?君たち、話し合って同じ時間にしたの?」
「いえ偶然です。でも私たち仲が良いので、よかったら一緒の時間にさせてください」
「うん、いいよ。協力し合って、頑張ってね」
と店長さんは言った。
 
ボクたちはおかげで、色々教え合うこともできたし、また少し時間が取れるような時は厨房の奥や更衣室で音楽のこともあれこれ小声で話していた。
 
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「へー。冬、コーラス部には入らなかったんだ?」
「だって女子だけなんだもん。うちのコーラス部は」
「でも冬は、中学でも女子の合唱部にいたんだよね?」
 
「えへへ。でも和泉もコーラス部には入らなかったんだ?」
「うん。当面は★★レコードでのレッスン優先」
「すごいね〜。ほんとそちらも頑張ってね。デビューできるといいね」
「うん。もしかしたら秋くらいに取り敢えずインディーズでCD出してもらえるかも」
「おぉ、凄い! 出たらすぐ買うからね」
「うん。よろしくー。サイン書いてあげるからね」
「うん。お願ーい」
 
ボクが実は男の子であるというのは、和泉だけが知っていたのであるが、誰もボクの性別に関しては疑念を持ったりすることも無かったようであった。和泉とはこれまで何度か偶然会って話しただけだったのだが、このバイトでずっと長時間接していて、とても仲良くなった。
 
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この高1の初期の頃、ボクはバイトのある水曜日以外は、授業が終わるとまずは書道部の部室に行き、人が来るのを待ち、誰か来れば練習をするものの、30分くらい待っても誰も来ない場合は、体育館に行って用具室にあるピアノを弾いていた。そして、しばしばそこにコーラス部の詩津紅(しづく)が来て、ボクは彼女とデュエットで色々な歌を歌っていた。
 
詩津紅もボクが来てないかな? と様子を見に来るのを常にしていた感じであった。コーラス部の練習はこの年、月水金のみだったので、火曜と木曜は、彼女も暇だったのである。それで逆に火曜・木曜はボクも書道部の方には顔を出さずに最初から体育用具室に行くこともあったし、また詩津紅が書道部の部室まで来ることもあった。
 
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「私、誤解してた」
とある時、詩津紅は言った。
「何を?」
「私、最初、冬は女の子の声が出る男の子だと思ってたんだよね」
「へ?違うの?」
「違うよ。冬はむしろ男装女子高生だよ。冬って中身も女の子なんだもん」
「そうかな?」
「私、うっかり冬に恋しちゃうとこだった」
「ごめーん。ボク、女の子には恋愛的な興味無いから」
「うん。そんな感じね」
と言って詩津紅は微笑んだ。
 
デュエットは和泉ともよくやっていた。土日のバイトは7時〜13時の時間帯にしていたが、土曜日は和泉がその後、★★レコードで受けている歌のレッスンに行くものの、日曜日はだいたい空いているので、カラオケ屋さんに行って2時間くらい一緒に歌っていた。お互いの歌を聴いていろいろ注意し合ったりもしたが、デュエットもかなりした。
 
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ボクが色々な歌手の歌をデュエット曲に編曲してきたので、その譜面でふたりでよく歌っていた。おおむね和泉の方が高音が出るので、和泉がメインメロディーを歌い、ボクはその3度下を歌っていた。一方体育用具室での、ボクと詩津紅とのデュエットでは、たいていボクがメインメロディーをソプラノで歌い、アルトの詩津紅がそれにハモるように歌っていた。
 
しかしこの時期、和泉にも詩津紅にも言われていたのは
「こんなにきれいな女声が出るんなら、もう性転換して女子高生になりなよ」
ということだった。
 
この時期、体育館で練習している部活の人たちがボクと詩津紅の歌を聴いていたものの、みんな、詩津紅と誰か他の女の子がデュエットしていてボクはピアノ係だと思い込んでいたらしい。この時期、ボクが女声を持っていることを知っている子はそう多くなかった。
 
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一方でボクは有咲がバイトしているスタジオにもよく顔を出していた。土曜日のハンバーガーショップでのバイトの後、和泉が歌のレッスンに行くので、ボクはその後、スタジオに顔を出していた。
 
ボクは見よう見まねで、副調内のほとんどの機器の操作がだいたい飲み込めていったので、半ばアシスタントに近いことをしながら、麻布さんや、その助手さんたちからいろいろと技術的なことも教えてもらっていた。
 
「うーん。。。唐本ちゃんにもバイト代払った方がいい気がしてきた」
などと麻布さんは言ったが
「他のバイトもしてて週1度しか顔を出せないし、色々先生から教えて頂いていることとバーターということで」
などとボクは言っていた。
 
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プロのアーティストのレコーディングは長丁場である。特に追い込みになると何日も連続して作業しているので、食事などもしながらになる。ボクはよくコーヒーなどを入れてミュージシャンやスタッフの人たちに配ったり、また時には、付属のキッチンで、ラーメンやカレーライス程度のものを作って出したりもしていた。有咲が「この子、料理がすごっく上手いですから」などというのでさせてもらった感じであった。
 
このスタジオは都心からは大きく離れているが、それだけに集中して作業に打ち込みやすいというので、結構大物のアーティストがレコーディングに来ていた。しかしそういう不便な場所ゆえに、食事などで困ることもあったようである。ボクの住んでいる地区の近所に24時間営業のスーパーがあるので、何度か夜かなり遅く有咲から電話が掛かってきて、食糧を調達してタクシーで持って行ったこともあった。
 
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「えっと・・・高校生って確か夜10時以降は仕事ができなかった気が・・・」
「硬いこと言わない」
 
さすがにそういう夜遅くの対応はそうそうは無かったが、平日の夕方に頼まれて食材を買っていき、そのままボクが調理して、などということはしばしばあった。
 
そして・・・・このスタジオでもボクは完全に女の子ということで通していた!
 

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夏の日の想い出・高校1年の春(3)

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