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■夏の日の想い出・失恋の想い出(4)

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11月の初め頃。ボクはぼんやりして歩いていて、曲がり角で人とぶつかりそうになった。
「あ、ごめん」「ごめーん」
「あ」「なーんだ。冬か」「絵里花先輩」
 
「ね。貞子から聞いたよ。失恋したんだって?」
「貞子には言ってないんだけどな・・・分かっちゃうのか」
「その顔を見たらね。冬、私失恋しましたって顔に書いてあるよ」
「そんな顔してる?」
 
「こういう時はパーっと女装しようよ」
「そうだね」
ボクはそれもいいなと思った。確かに気分転換にはなりそうだし。
 
ボクは絵里花の家に行き、いつものように女の子の服を着せてもらった。今日の衣装は白いお嬢様風のワンピースだ。
 
「これ凄くいい服なんじゃない?」
「うん。でも冬子に着てもらうんだったらいいよ」
「ありがとう。じゃ今日はこれで過ごさせてもらおう」
 
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その日は甘ーいミルクティーをもらって飲んだ。昨日の残り物というチョコケーキをもらって食べる。
「美味しいよぉ」
ボクはそんなことを言いながら涙が出て来た。
「やっと涙が出たね」
「悲しいよお」
「よしよし」
「もう男の子なんて嫌だ。今すぐ女の子になりたい」
「取り敢えず泣きなさい。たくさん泣いて泣き尽くすまで泣いたら去勢してあげるから」
「うん」
 
涙が次から次へとあふれてきた。ハンカチが涙でじゅっくりと濡れてしまい、絵里花が新しいハンカチを渡してくれた。そのハンカチもずぶ濡れになるほど、ボクは泣いた。
 
その後少し落ち着いてきて、絵里花とは部活の話とか、おやつの話とか、更にはお互いの過去の恋の話までした。
「でも、冬子の話聞いてると、女の子との恋より男の子との恋の方が圧倒的に多いじゃん」
「うん。もうボク男の子辞めちゃいたい。性転換したい気分」
「これ飲む?」
といって絵里花はシート状の錠剤を出した。
 
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「大会に生理がぶつかると困るから調整用に処方してもらってるの」
「ピル?」
「そう。エストロゲンとプロゲステロンの混合製剤だよ」
「飲んじゃおうかな・・・・」
絵里花はシートから3個錠剤を取り出した。
 
「さて。この3つの内、2個は本物のピルです。1個は休薬用のプラセボです。1錠だけあげる。本物に当たる確率は3分の2」
「え?え?」
ボクはじっと錠剤を見つめ1錠取って飲んだ。
 
「さあ、今飲んだのは本物かあるいは偽薬か。それは神のみぞ知るだね」
「うん」
絵里花は薬を片付けた。
 
「これあげるから持って帰って」と絵里花は紙袋を渡した。
「これは・・・・」
「中学の女子制服。もし着て学校に行きたいと思っても今月いっぱいは我慢しなさい。来月になってもまだこれを着て学校に行きたい気分だったら、着て行くといいよ」
「今とってもこれ着て学校に行きたい気分」
「それやるともう後戻りできなくなるから」
「かもね」
「ね、その服を着ずに手に持って、町で少し遊んでおいでよ」
「ああ」
「いつでもその服に着替えられるという気持ちがあると、けっこう女の子の気持ちでいられるでしょ?」
「うん」
 
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ボクは下着は女の子下着のまま、上着は男の子の服に戻し、絵里花からもらった女子制服の紙袋を持って絵里花の家を出、バスに乗って町に行った。女の子下着を着けたままという気持ちがあると、これで散歩しているだけでも結構気が晴れる思いがした。それにさっき女性ホルモンを飲んじゃった・・・かも知れないというのはボクの気持ちを凄く落ち着かせた。
 
タピオカドリンクの店でジャスミンティーを頼み、飲みながら周囲を見回していると、少し離れたテーブルにボクと同じくらいの年の女の子がいて、何やら便箋に書いていた。誰へのお手紙書いているんだろうと思いながら見ていたら、その子の友人かな?と思う感じの子が寄ってきた。
「政子、何書いてるの?」
「詩。ぽえむ」
「へー。。。どれどれ。うーん。メランコリック。ちょっと病的な気がするぞ」
「私、こういう壊れた感じの詩が好きなの」
「こんなのばかり書いてると、その内頭も壊れちゃうよ」
「うーん。私、既に壊れてるかも」
「自覚があるならいいか。でさ、高校どこに行くか決めた?」
「私◆◆を受けようかなあ」
 
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「へ?なんでまたそんな進学校を」
「こないだ電車に乗ってて、バッグを落としたのを女子高生が拾ってくれたのよね。その人が◆◆の制服着てたんだ。それでああ、◆◆もいいかなと思って」
「でもあそこ結構レベル高いよ。大丈夫?」
「勉強する」
 
その子たちはまだ長く話していたが、ボクはそろそろ帰らなきゃと思ってジャスミンティーの飲みがらを潰してからゴミ箱に入れ、バス停の方へ行った。そうだ。ボクも進学する高校を決めないと。
 

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その晩、ボクは物凄く久しぶりにオナニーをした。お風呂からあがったあと、布団の中で裸になってしたけど、何だかとても濃いのが出た。そして出した後しばらくボクは放心状態になっていた。そしてボクはそのまま眠ってしまった。
 
目が覚めてからボクは服を着ると(女の子下着を着けて、その下着を汚さないようにトイレからこっそり調達してきていた生理用ナプキンを付けた)、Sから来た手紙の類をビニール袋に入れて持ち、まだ起きていた母に「そのあたりを少し散歩してくる」と言って外に出た。
 
夜11時を回っている。住宅街はほとんど人通りがない。ボクは公園まで来ると手紙を出して便箋を1枚ずつライターで火を付けて燃やして行った。
 
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燃えろ、燃えろ、悲しい想い出なんて残さなくていい。全部燃えてしまえ。ボクの心の中から消えてしまえ。そう祈りながら、ボクは手紙や、一緒に行った映画の半券や、一緒に撮ったプリクラなどを燃やして行った。燃やし尽くすまでに幸いにも誰も通りかからなかった。
 
全部燃やしてしまうとボクは持参のペットボトルに入れていた水を掛けて万一にも火事のもとになったりしないようにしてから、家路についた。ちゃんと立ち直るまで少し時間がかかるかも知れないけど、もうこの恋を引きずるのはやめよう。また明日から頑張ろう。ボクはそう心に誓った。
 
家に戻ってからパジャマに着替え、姉の部屋をトントンと叩く。「はーい」と言って姉が襖を開ける。
「ちょっとお願いがあるの」
「ん?」
取り敢えず中に入れてもらう。
 
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「冬彦、何か気持ちの切り替えが出来たね」
「うん」
「ここしばらくずっと放心状態だったよね」
「うん。さすがに今回は参った」
「でもまた元の冬彦に戻ってる」
「うん。ボク頑張る。それでね、これをお姉ちゃんの部屋に置かせてもらえない?」
といって紙袋を渡した。
 
「女子制服!?」
「うん。去年卒業した先輩からもらったの。実は春頃からあげると言われてたんだけど、隠し場所に困るからといって保留してたのよね。でも、とうとうもらっちゃった」
「私の部屋に置いておいて時々着たいのね」
 
「ほんとうはそれ着て学校に出て行きたいんだけど、それやるともう後戻りができなくなるから、そんなことするかどうかは年末までに考える。もしかしたら3学期はそれ着て出て行っちゃうかも」
「いいけど、それしたかったら、ちゃんとお母ちゃんとお父ちゃんを説得しなさい」
「もちろんそうするよ、そういう気持ちになったら」
「うん。それだけの覚悟があるならいい」
 
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「でもそこまでするかどうかとは別に、時々その服を着たいの」
「まあ、いいんじゃない?じゃ、私のロッカーの端に掛けとくから自由に着て」
「うん」
 
姉は制服をハンガーに掛けると、自分のロッカーの端に掛けた。端だとけっこう目立たないので母もすぐには気付かないだろう。
 
「冬彦、失恋したの?」
「そうだけど」
「・・・・ふーん。返事できるようにはなったんだ」
「まあね」
「この1ヶ月くらいはとてもそういう質問ができない感じだったぞ」
「もうすぐ高校受検だし。受検勉強頑張る。それ頑張ってたら、失恋のことも忘れられるかも知れないし」
「そうだね。何かに気持ちを集中するのはいいことだよ」
「うん。じゃおやすみ」
「おやすみ・・・ね、パジャマの上からブラ線が見えてるよ」
「あ・・・・」
「起きたらブラは外してから出て行きなよ」
「うん」
 
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学校でボクが志望校を◆◆高校にすると言ったら担任の先生は驚いた。
 
「あそこは進学校だから厳しいぞ。今の成績ではかなりきつい。特にここ2ヶ月ほど、お前かなり成績落としているし」
「頑張ります」
「そうか。しかしあそこは勉強さえできれば生活面についてはあまりうるさく言わないって学校で、公立にしては自由な校風だし、あるいは唐本の性格には合っているのかもな。でも今年、あそこを受ける生徒は他にいないぞ」
 
「いいです。どうせボク友だちいないし」
「そうだな。お前のことは1年に入ってきた時から友だちを作らない奴だなと少し心配していたけど、結局ずっと作らなかったな。陸上部関係の女の子たちとは時々話をしているようだけど」
「ええ。前村さんがボクにとっては最大の親友です」
「確かに仲がいい感じだな。でも異性では話しにくいこともあるだろう」
「そうですね・・・」
 
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ボクも貞子も「同性」感覚だから、けっこうお互いに何でも話せるんだけどね。ただそれでも失恋の件は貞子にも言えなかった。あれは本当に凄まじい衝撃だった。
 

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その日、ボクが帰ろうと思って下駄箱の所まで行くと、ちょうどSが帰ろうとしているところだった。
 
「元気?」とボクは声を掛けた。
「うん。唐本君、ここ一週間くらいまた元気になったみたい」
「うん。さすがに立ち直るのに時間かかった。というか、まだ実は全然立ち直ってないんだけどね。取り敢えず立ち直ろうという気持ちにだけはなった」
「そう」
 
「彼氏とうまく行ってる?」
「・・・ごめん。その質問はしないで」
「いいよ。でもボクはSさんの気持ちはもう受け止められないからね」
「うん。分かってる。自分で選んだ道だもん」
「高校どこ行くの?」
「何となく流れでみんなと同じ※※高校かな、と。でも少し迷ってて」
「ボクは◆◆高校を受けるよ。離ればなれになるけど頑張って」
 
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「まさか私に配慮してわざと別の高校を受けるんじゃないよね?」
「ボクもさすがにそこまで優しくはないよ」
とボクは初めて彼女に嘘をついた。
「だったら良かった。でも私唐本君のこと今でも・・・・」
 
ボクは彼女の唇に人差し指を置いて、それから自分の唇の前にも置いて、それ以上言うなと伝えた。
「じゃ、また」
ボクは手を振って帰って行った。あれ?唇に何気なく指を置いちゃったけどこれ間接キスだったりして・・・・
 

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ボクはそれから猛勉強をして何とか◆◆高校に合格した。Sも順当に※※高校に合格した。ボクは凄く迷ったけど、結局3学期に女子制服で学校に出て行ったりはせず、学生服で最後まで通学したし、自分の性別のことを母や父に言うこともなかった。
 
卒業式の日、ボクはSに声を掛けた。
 
「ね。ひとつだけボク、謝らなければいけないことあるんだ。それを伝えたいから、もし良かったら明日の午後2時に、△△町のドーナツ屋さんに来てくれない?」
「あ、うん」
「縒りを戻したいとか、そんなことは絶対言わないから」
「分かった」
 

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ボクはタロットカードをテーブルの上に置いて彼女を待っていた。約束の時刻を30分過ぎてからSが入ってくるのを見て、ボクは立ち上がって手を振った。
 
「え・・?恵子さん?うちの学校だったんだっけ?」
ボクは学校の女子制服を着ていた。
 
「Sちゃん。ボクだよ」とボクは男の子の声で言った。
「えー!?」
「でも今日はこちらの声で話しちゃう」と女の子の声に戻して話す。
「うそ・・・」
 
ボクたちはカフェオレを飲みドーナツを食べながら話した。
「あの占いはあくまでカードに出たのをそのまま話した。自分に関わる占いだからといって内容をねじ曲げてはいないよ」
「あの占いは、すごく納得できたもん。嘘が混じってたら違和感あったと思う」
 
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「ただ、あの占いをしたことで、ボク自身の気持ちも固まったし、それでこちらもお手紙書いたんだけどね」
彼女は頷いていた。
 
「ボク、自分の性別意識に揺れがあるんだよね。でも普段めったにこういう格好はしない。タロットをした時は、そのごく珍しい時だった。今日はあの時以来だよ。女の子の服を着て町に出て来たの」
「そうか・・・唐本君って男らしくないんじゃなくて女らしかったのか」
「でも自分の性別は性別として、Sちゃんへの気持ちは本物だった。それは嘘ついてないから」
「うん」
 
「あの占いをしたのがボクだったことを言わないままというのは不誠実だと思ったから、今日呼び出したの」
「ほんとに唐本君・・・いや唐本さんって優しいのね」
「でもこれでボク自身は気持ちの区切りがついた気がする。Sちゃんも次はいい男の子と巡り会えるといいね」
 
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「うん。。。。ね。カード2枚引いてよ」
「何占うの?」
「1枚は私のために。高校でいい恋に巡り会えるか」
ボクはカードを1枚パイルから抜いてその場に置いた。
「もう1枚は冬ちゃんのために。高校でいい彼氏か彼女に巡り会えるか」
ボクはもう1枚カードを引いて隣に置いた。
 
1枚目のカード。恋人。
「Sちゃん、いい恋ができるよ」
「そう」
 
2枚目のカード。聖杯の王女。
「ボクは女の子の恋人ができそう」
「それ、冬ちゃんにとってはレスビアンなのね」
「そうかも」
 
ボクはこの占いを最後に、その後5年くらいタロットに触らなかったし、それ以外の占いからも遠ざかっていた。
 

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高校の入学式が終わり、そのあと体育館でクラブの勧誘を見てて、何となく書道部に入り部室に行ったら、あのタピオカドリンクのお店で見た子がいた。ああ、この子も合格したのか。向こうから声を掛けられ、苗字の読み方を訊かれた。
 
「からもと、だよ。そちらは、なかたさん?なかださん?詩を書くんだっけ」
「なかた、だよ。詩は好き。あ、そうそう。私恋人いるからね。念のため」
「あ、こちらも恋愛要素無しの方が気楽。ボク小学校でも中学校でも女の子の友だちしかできなかったから。高校でもそんな感じになりそうで」
「ふーん。なんか面白そうな人。じゃ、とりあえず握手」
 
 
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