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■夏の日の想い出・ダブル(7)
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目次 8
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「でも何か新幹線も混んでいたし、京都市内もふだんより混んでいるみたい」
と私は言う。
「うん。今インターハイやってるから、それで混んでいるみたいだよ」
とくっく。
「へー!」
「結婚式は今日は私たちだけらしいんだけど、ふだん披露宴に使う部屋の幾つかは臨時の食堂に仕立てて、インターハイ参加の高校生もさばくとか言っていた」
とくっく。
「わあ、たいへんだね」
「けっこうたくさん体格のいい高校生たちを見るよ」
とのんの。
「なるほど」
「ほら、あそこにも来た」
とのんのが言うので見ると、見知った顔だ。
「青葉!?」
「ケイさん!?」
向こうもびっくりしたようで、こちらに寄ってくる。同年代の女子1人と男子1人との3人連れである。
「青葉、もしかしてインターハイの応援?」
「いえ、選手です」
「青葉、合唱軽音部じゃなかったっけ?」
「水泳部も兼部なので」
「あ、そうか!そんなこと言ってたね。凄いね。それでインターハイに出るなんて」
「まあギリギリで北信越予選を通過したんですけどね。あ、こちら男子水泳部部長の魚さんと、女子水泳部部長の竹原さんです」
「はじめまして、魚です」
「はじめまして、竹原です」
「こちらはローズ+リリーのケイさんとマリさん、そちらはえっと・・・すみません」
と青葉は言いよどむ。パラコンズを知らないのであろう。それで私が紹介する。
「こちらパラコンズのくっくさん、のんのさん、そしてそれぞれの婚約者さん。今日このホテルで結婚式をあげるんだよ」
「お盆にですか!?」
と青葉が驚く。
「ふたりとも無宗教らしいので。だから人前結婚式」
と私。
青葉は最初戸惑うような顔をしていたが、すぐに厳しい顔になった。
「あの・・・・失礼ですが、そちらの男性お二方が、この女性お二方の婚約者で今日結婚なさる予定なんですか?」
「ええ、そうですけど」
と男性ふたりが言う。
「籍は?」
「婚姻届けは書いたので、挙式の後、原さん(くっく)と近藤さん(のんの)の各々のお父さんに出して来てもらうことになっています」
とくっくの彼氏が言う。
すると青葉は、くっくをじっと見つめた。
「くっくさん、お名前、何でしたっけ?ご本名」
「原玖美子ですが」
「原玖美子さん、本当にこの男性と結婚するんですか?」
と言って青葉はくっくを強い視線で見つめた。
「え!?」
とくっくは最初戸惑うような表情を見せたものの、しばらく青葉に見つめられている内に唐突に言い出した。
「私、結婚やめます。この人とは別れます」
「え〜〜〜〜!?」
「のんのさん、そちらはお名前なんでした?ご本名」
と青葉は今度は、のんのを強い視線で見つめる。
「近藤徳子ですが」
「近藤徳子さん、本当にこの男性と結婚するんですか?」
と言って青葉はのんのを強い視線で見つめた。
「え!?」
とのんのも最初戸惑うような表情を見せたものの、しばらく青葉に見つめられている内に唐突に言い出す。
「私、結婚やめます。この人とは別れます」
「え〜〜〜〜!?」
「ね、くっく」
「うん、のんの」
「なんで私たち、こいつらと結婚しようと思ったんだろう?」
「私も分からない」
「ちょっと、君たち何を言い出すんだ?」
とくっくの彼氏が怒るように言う。
「あんた、同棲している女がいるよね。**さん」
とくっく。
「え!?なんでそんなこと知ってる?あ!?」
と自分で言ってしまってから口を押さえているが、もう遅い。
のんのも自分の彼氏に向かって言う。
「あんた、子供が3人いること、私に隠してたよね。**ちゃん、**ちゃん、**ちゃん」
「嘘!?誰にも言ってなかったのに。あ!」
とこちらも口を押さえているが、もう遅い。
「破談だね」
とくっく。
「こちらも破談だね」
とのんの。
「ということで、ケイさん、マリさん。済みません。結婚式は中止です」
と、くっく・のんのは言う。
「うっそー!?」
と私は声を挙げた。
青葉たちは朝食を取りに来ていたらしい。それで青葉だけ残って、魚さんと竹原さんは少し離れたところのテーブルに行き、朝食を注文していた。
くっくとのんのは事務所の社長を呼び、事情を説明し、婚約を破棄し、結婚式も中止すると述べた。社長は驚いていたが、各々の婚約者に問い糾す。なお、会話の内容は私が録音させてもらった。
「同棲している人がいるというのは本当ですか?」
「すみません。結婚式までに別れるつもりだったのですが、揉めてしまって、まだ完全に切れていません」
「お子さんがいたというのは本当ですか?」
「申し訳ありません。その内、言うつもりだったのですが」
「その母親とは切れているのですか?」
「3人のうち2人とは切れているのですが、もうひとりとは実はまだくすぶっていて。養育費のことでも揉めていますし」
「じゃ、未清算の異性関係があるのですね?」
「すみません」
「どちらも婚約を破棄するのに相当する正当な事由ですね」
と私は横から言った。
「今後のことはまた話し合うことにして、とにかく今日の結婚式は中止しましょう」
と社長は言った。
それで2人は取り敢えず帰って行った。
「今の会話の録音が明確な証拠にもなります。あとは弁護士さんのお仕事ですよ」
と私は社長に言い、ICレコーダをそのまま渡した。
「うん。そうしよう。君たちは婚約破棄で異存は無いね?」
と社長は、くっく・のんのに問う。
「ええ。なんか突然醒めちゃったんです。なんでだろう?」
とくっく。
「私も醒めちゃった。なんであんな男に熱を上げたんだろう」
とのんの。
「あの人たちが邪法を使っていたからですよ」
と青葉が言う。
「え〜〜〜!?」
「まあ私の敵では無いので、その邪法を破りました。それでおふたりとも冷静になることができたのだと思います」
と青葉は言う。
「すみません。どなたでしたっけ?」
と社長。
「日本で五指に入る霊能者、川上青葉さんです。あの竹田宗聖さんや火喜多高胤さんが、難しい案件を処理する時に力を借りている人ですよ」
と私は紹介した。
「そんな凄い人が!」
「たまたまインターハイに出るのに京都に来ていたんですよ」
「まだ高校生ですか!」
「ああ、おとなびているから女子大生くらいに見えるよね」
と政子。
政子はここまで何も発言していなかった。政子は私より霊感が強いので、多分明確に何かを感じ取っていたのだろう。
「こないだ小学生の子供に《おばちゃん》って言われた」
と青葉。それはあとで知ったが千里の子供・京平だったらしい。実際に青葉は京平の叔母には当たるのだが。
「ああ、私も18歳の時に《おばちゃん》と言われたことある」
と私が言うと
「ケイは《おにいちゃん》とか《おじちゃん》と言われたことはないはず」
と政子が茶々を入れる。
それで、ついくっく・のんのも笑っていた。
結婚式に出席するために集まっていた人たちは一様に突然の結婚式の中止に驚いていた。
「やはり盆の中日に結婚式なんて縁起が悪かったのでは」
「いや、きっと変な人たちだから、そういう日に挙げたくなったのでは?」
男性側の招待客も式の中止に驚いていたものの、本人達がもう帰ったと聞き、各々出していた御祝儀を返してもらって引き上げて行った。しかし見ているとどうも目つきの悪い人、あきらかにヤ○○っぽい人たちが随分混ざっていた。
女性側の招待客にもとにかく御祝儀を返していったが、私たちはくっくとのんのに言った。
「これキャンセルに伴う出費が凄いでしょ。私たちの御祝儀をそのキャンセル代の足しにしてよ」
「う、実はそれ辛いなと思っていた所です。じゃ取り敢えず貸してください」
「うん。貸したことにしておいてもいいよ。次にまともな人と結婚する時までの貸しで」
「すみません」
それでくっく・のんの・その親と社長が、ホテル側と話し合った結果、せっかくこれだけの芸能関係者が集まっているし、料理も用意されているので、単純な食事会として実施しましょうということになる。
それで私たちは12時に大広間に入り、食事会をすることになった。
くっくとのんのが前に出て、いつものようにふたりでキスした上で
「せっかく集まって頂いたのに申し訳ありませんでした。婚約破棄記念パーティーということで」
と言うと、一同から笑い声が出る。
招待客の中でいちばん年長っぽかった、卍卍プロの三ノ輪会長が
「ではふたりの婚約破棄と、新しい旅立ちを祝して乾杯」
と言って乾杯して、食事会は始まった。
私は三ノ輪さんも何かとトラブルに関わっていること多いよなあと思って見ていた。後から聞くと、くっくとのんのは、卍卍プロに紹介されたお仕事をした時にそのふたりの男性と知り合ったらしい。
しかし取り敢えず政子は、すぐに食事を食べられることに大満足である。普通の披露宴というと、特に芸能関係のものは、ケーキ入刀の前にスピーチが1時間以上続いたりして、出席者は食事を目の前にして、じっと我慢の子を強いられることが多い。
「余興やろう、余興」
という声があがる。若手のピアニストさんが前に出て行って伴奏を買って出てくれて、そのあと2時間ほど、出席者の歌やコントなどの余興が続いた。
なお、くっくとのんのは、まるでふたり同士で結婚するかのような雰囲気で大振袖を着て雛壇に座っていたが、各々の親が、招待客に酌をしてまわって、不手際を謝ってまわっていた。
私たちは翌16日に北海道でライブがあるので関空を19:20の新千歳行きに乗る予定であった(京都17:15の《はるか》に乗る)。しかし青葉と話したかったので、連絡を取った結果、今日の指定練習場所での練習が終わった後、15時くらいからなら会えるということであったので、京都駅で会った。
「あそこに入って行った時、わあ、低級霊憑けてる人が居るなあと思ったんですよ」
と青葉は言う。
「それって本人も意識しているの?」
「微妙ですね。でもその低級霊の力を使って彼女をたぶらかしているのは見るからに明らかでした。あれだけ酷かったら冬さんたちも変な感じがしたでしょ?」
「何か蛇でも見たような気分だった」
「ああ、それに近いと思いますよ」
と青葉は言った。
「ああいう人と付き合うだけで、あの女性2人、かなり運気を落としていたと思います」
「あの2人、去年の春から休業していたんだよ」
「関係があるかも知れませんね」
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