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■春足(4)
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「でも結構妖怪足つかみ、出没してるみたいですねー」
と龍虎。
どうも“妖怪足つかみ”になってしまったようだ。
「まあ放送局で似た経験をしてないか体験談を募集してみる価値はあるかもね」
と千里。
「それ連絡する」
それで青葉が皆山幸花にメールしたら
「明日の放送分に入れる」
というお返事が翌朝帰って来た。
霊界探訪の放送は27日の深夜である。2日で再現ドラマを作るつもりなのだろう。彼女はジャネが披露宴で転んだ所をリアルタイムで見ているし、あのビデオは保存してあるはずだから、それをたぶんコピーさせてもらうかも知れない。
青葉は自分が転んだ時の状況も幸花と直接電話で話して伝えた。他に転んだ人として、絵代子を紹介し、千里が本人に直接電話して取材OKを取った。26日の夕方くらいは時間が取れるということだったので、絵代子の方から仕事の切れ目に幸花に電話してくれることになった。
それで幸花はきっと明恵や真珠を使って再現ドラマを作るのだろう。
「だけど妖怪だったとして、どうやって収拾するのさ?あちこちで出没しているのがひとつの妖怪とは限らないよ」
と千里は言う。
「むしろ全部別の個体だろうね」
「一匹封印できたとしても、たくさん残る」
「それはあるよね」
この時点では青葉も“対処法”を全く思いつかなかった。
実際、27日の放送では、明恵・真珠・吉田君!の3人で再現ビデオを作ったのを流していた。転ぶ役はもちろん吉田君である!
「だって万一本当に怪我したら困るもんねー」
「俺なら骨折してもいいのかよ!?」
などと言いながらもやってくれた。
反響は大きく、かなり多くのメッセージが寄せられたが、9割は妖怪とは無関係と思われた。幸花・明恵・真珠の3人は、寄せられたメッセージの中で(仮名)“妖怪足つかみ”?の可能性があるかもと思うものを抜き出し、取材が可能かを問い合わせ、OKの人とはZoomなどでの取材を試みた。
青葉のほうだが、作曲家アルバムの、今回の取材対象は下記であった。
8.26 神崎美恩・浜名麻梨奈
8.27 醍醐春海
8.28 ゴールデンシックス
8.29 ステラジオ
8月29日のステラジオの取材は、ケイが欠席し、代わりに千里姉に同行してもらった。ケイは気にしていない(と言っている)のだが、ステラジオの特にホシがケイを物凄くライバル視しているので、遠慮したのである。
29日、ラピスが空くのは夕方からなので、青葉はその日の午後、千里と一緒にさいたま市内の病院を訪れた。
実はここに200m個人メドレーで日本代表になっていたものの、前日に転んで骨折し、涙の出場辞退となった広嘴さんが入院しているのである。コロナ下なので、無関係の人は病棟に入れない。水連に紹介状を書いてもらい、面会は30分以内と言われた。
青葉も千里もワクチンの接種済み証明を提示し、検温の上で病院内に入る。
「こんにちは〜」
「あら、川上さん!」
と彼女は意外な訪問者に驚いているようである。
「こちらはうちの姉でバスケット日本女子代表でオリンピックに出たんです」
「バスケット、銀メダルって凄いですね!」
「まあ今回は組みあわせが良かったというか」
「予選リーグで日本が入った組の1〜3位がそのまま決勝トーナメントで1〜3位になったから」
「それは地獄の組という気がする」
「それでね。今回は実は金堂さんからの依頼で来たんですよ」
「はい?」
「金堂さん、広嘴さんが怪我したので自分が繰り上げ出場できたことを気にしてて。広嘴さんに悪い気がすると言ってて」
「いや、それでしっかり金メダル取ってるから凄いですよ。日本選手権でも彼女と私、0.02秒差だったんですよねー」
「それで実は金堂さんから、広嘴さんにヒーリングしてあげられないかと頼まれたんですよ」
「ヒーリング?」
すると千里が説明した。
「この子、実はヒーリングの達人で、交通事故にあった人を速く回復させたりとか、台風のさなか、離島で病院に連れて行けない盲腸の患者の痛みを翌朝自衛隊が来てくれるまで抑えてたり(盲腸自体が治っていたことまでは言わない)とかもしてて」
「すごい」
「実は幡山ジャネが1年間意識不明になっていたのを回復させたのもこの子のヒーリングがきっかけなんですよ」
「わぁ!」
「まあ効く人効かない人あるし、ジャネさんの場合は偶然私のヒーリングと相性が良かったんだろうけどね」
「それで、半ばおまじないみたいなものですけど、広嘴さんにヒーリングしてもいい?」
「やって、やって。正直今は罠(わな)をも掴みたい気分で」
「わな?」
「あれ?何かそういうことばありませんでした?」
「藁(わら)をもつかむかな」
「あれ〜?私間違って覚えてたかも」
「あるある」
「罠を掴んだら怪我しますよ」
「確かに!」
それで青葉は面会時間いっぱい、彼女の骨折箇所をヒーリングしてあげたのである
「なんかこの30分で凄く痛みが取れた気がする。これまたお願いできません?」
「9月いっぱいは仕事の関係で東京にいますから、その間はまた来ますよ」
「お願いします!」
それで青葉は週に2回、病院に来て広嘴さんの骨折のヒーリングをすることにしたのである。
舞音のタロットの制作はとても楽しいものだった。
青葉はこの子が売れてる訳が分かるよと思った。全てに全力投球である。よくこんなに頑張れるものだと心配になるくらいである。
今回の作業の手伝いをしてくれている、夕波もえこ、水谷姉妹、長浜夢夜、三陸セレン・山鹿クロムも、ほんとに元気で、青葉の方が負けそうと思った。
しかし青葉はセレンとクロムが男の娘なのにはすぐ気付いたものの、夢夜はふつうの女の子だと思い込んでいて、本人が
「ボク男の子ですよー」
と言うので
「うっそー!」
と思ったのであった。
「だって波動が女の子なのに」
「あ、それは以前も占い師さんに指摘されたことあります」
「睾丸は取ってるよね?」
「あんなの小学校に入る前に取るべきものですよ」
などと夢夜が言うと
「ボクたちも取りたーい」
とセレンとクロムが言っていた。
彼らは睾丸は取りたいけど、まだ踏ん切りが付かないのだと言っていた。彼らはかなりお仕事をしているので、去勢手術代くらいは簡単に出せそうだから純粋に気持ちの問題なのだろう。
「それは迷いがある内は、手術しちゃダメだよ」
「コスモス社長からもケイ会長からも言われました。ゆりこ副社長はさっさと取っちゃえばいいのにと言うんですけど」
「あはは」
撮影は楽しく進んでいく。
小道具の金貨が転がっていっても、剣が折れちゃっても!めげない。折れた剣は他のカードの撮影をしている間に道具係さんが30分で新しいのを作ってくれたので、それで撮影した。
金貨のエースの撮影に使用した160cmの巨大金貨もよく転がり、最後は釘で床に打ち付けて!撮影した。
「床に釘とか打っちゃっていいんですか?」
「床のブロックを交換すればOK」
と雨宮先生は言っていたが、後でそこを見た花ちゃんは
「1個だけ交換すれば目立つ」
と文句を言っていた。結局、穴埋め材で補修したようだ。ごめんなさい!
今回タロットのビデオ版(ビデオタロット?)とおまけで、メイキング?ビデオも公開するということで、舞音が白鳥の湖のオデット(聖杯の王女)に扮してアラベスクのポーズをしている後(うしろ)で黒鳥の衣裳を着けた三陸セレンがグランフェッテをしている所などが収録された。
セレンは先日ローズ+リリーの制作でもグランフェッテをしたらしく、その後かなり練習したので、だいたい3回に1回くらいは32回転に成功するようになったという話だった。それでやってもらったら1発で成功した。
しかしその間、アラベスクのポーズをキープした舞音も大したものである。舞音はバレエは習ったことがないと言っていたし、この日の撮影もトウシューズではなくバレエシューズでおこなったが、身体も柔らかいし、バランス感覚が物凄くいいようだ。
ナポレオン(棒の王)は白い馬に乗って撮影したが、舞音は3時間乗馬のレッスンを受けただけらしいが、ちゃんと安定して乗っていた。おとなしい馬を貸してもらったのもあるが、やはり彼女の運動神経の良さだろう。
7本の棒をお手玉するところは、最初ためしにリアルで挑戦してみたものの
「これ絶対無理」
ということになり、棒をピアノ線で吊って撮影した。
棒のAでは、千里姉が本物の!龍を連れてきて撮影したが
「これメイキングを公開できないじゃん」
と青葉は文句を言った。舞音は
「私美味しくないからね」
などと言って撮影されていた(龍は笑っていた)が、逃げ出さないのはさすがである。
恐らく、千里姉の眷属なのだろうが、千里姉が自分の眷属を青葉に見せてくれたのは初めてである。青葉はその龍を見て、千里姉のパワーの凄まじさを感じた。この龍は千里姉からパワーを分けてもらって存在しているようなのである。
このシーンは、青葉・舞音・千里(と龍!)だけで撮影している。撮影したのは、青葉である。(千里姉がカメラを扱ったら絶対何も映っていない)。
青葉は正直、龍がカメラに映るのか?と心配したのだが、ちゃんと映っていた。
雨宮先生には龍はCGですと説明したが
「まるで本物みたい。上手なお絵描きさんね」
と感心していたようである。
メイキングビデオでは、背景に何もないところで舞音がポーズを取っているシーンを収録した。
撮影は最初の8日間で小アルカナ56枚の撮影をおこない、大アルカナは1枚を1日かけて撮影している(ただし『月』のように既に撮影が終わっているものもある)。実際に撮影に使う時間は毎日4時間くらいで、舞音はどこかに出かけては、テレビ番組の撮影、雑誌などの取材、CM撮影などをこなしていた。
「よく体力持つね〜」
「南田容子さんがリハーサル役をしてくれているから、ほぼ本番だけ出ればいいんですよ」
何でも先月までは佐藤ゆかがリハーサル役をしてくれていたが、松梨詩恩のリハーサル役をしていたビーナが、自身忙しくなってしまい、とてもリハーサル役までできなくなったので、佐藤ゆかが松梨詩恩のリハーサル役をすることになったらしい。それで舞音のリハーサル役は南田容子に交替したということであった。
「詩恩ちゃんが忙しいのは、アクアの仕事を詩恩にかなり振り替えているからなんだけどね」
「根本はアクアの忙しさか」
「アクアにオファーのあった仕事のだいたい半分を、松梨詩恩・羽鳥セシル・常滑真音・水森ビーナに流している」
と千里が言う。
「アクアの仕事の半分の4分の1を負担するだけで4人とも超多忙になる訳だ?」
「ほんとアクアちゃんの仕事の量が信じられません」
と舞音は言っているが
「きっと舞音ちゃんの仕事の量が信じられないとみんな言ってるよ」
と雨宮先生は言った。
「私、アクアちゃんの体力も舞音ちゃんの体力も信じられません」
と夕波もえこが言っていた。
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