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■春足(3)

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青葉はケイから“舞音ちゃんタロット”というのを作るから監修してくれないかと言われた。最初は電話でいろいろやりとりしていたものの、埒があかない。それでこないだ高岡に戻ったばかりなのだが、また東京に行くことにした。
 
ケイはだったらついでに、ラピスラズリが夏休みの内に『作曲家アルバム』の取材も頼むと言われたので、取材を8/26-29におこなうことにして(8/31にはラピスラズリの出演するネットフェスがある)、青葉は8/25に Honda-JetBlueで能登空港まで迎えに来てもらい、熊谷に飛んで、浦和の千里の家に入った。
 
この25日の夜、青葉、千里、丸山アイ!、それに制作を統括するコスモスと、舞音の話というと嗅ぎつけてどこからともなくやってくる雨宮先生とで、大田区のサテライトで制作方針を決める会議をした。この場所が選ばれたのは広い駐車場があるからである。
 
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舞音本人も出席させたかったのだが、舞音は現在ドラマ(『Girl from West』)の撮影をしていて疲れているので休ませたということであった。
 

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基本的な制作方針としては下記のようなことを決めた。
 
・88枚のフルデッキにする。
 
・小アルカナは全て絵カードとする。
 
・コートカードは、Page,Knight,Queen,Kingではなく Prince,Princess,Queen,Kingの方式とする。
 
・8正義と11力は入れ替えない。古典的な順序で行く。
 
他にもカードのデザインやサイズの問題、コートカードの“モデル”決めなともして、この日は深夜2時すぎまで打合せをしていた。さすがに明日に響くから解散することにしたが、細かい問題は専用のSNSで引き続き打ち合わせることにした。
 
また、撮影のための小道具を作るのに、絵の上手い夕波もえこにおおまかなデザインを描いてもらい、その絵をもとに小道具の製作を発注することにした。このあたりのコントロールは花咲ロンドが青葉と連絡を取りながら進めることにした。
 
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打合せが終わってから若干の雑談をするが、やはり現在の§§ミュージックの“群雄割拠”状態のことが話題になる。
 
「昨年ラピスラズリが出て来て、アクアと並ぶ核になるかと思ってたら今年は舞音ちゃんが出て来たからね」
 
「あれは嬉しい誤算ですよ」
「オーディションの12位から半年でデビューして、それでアクアに次ぐ核になってしまったのが凄い」
「ミリオン連発してるし、テレビへの露出も多いし」
 
「今忙しさでは、アクア、舞音、ビーナ、ラピスラズリ、という順になってますね。その周辺も忙しい。アクアのスタンドインの葉月、舞音との共演が多い水谷姉妹、ラピスラズリのスタンドインをすることの多い甲斐姉妹、それに舞音やビーナと一緒に使われることの多い長浜夢夜・三陸セレン・山鹿クロム、今あけぼのテレビの中核になってる鈴鹿あまめ」
 
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「あまめちゃんの露出度凄いね」
 
「あの子がいなかったらやばかったです。今年は大量にデビューしたから、信濃町ガールズの絶対数が不足してるんですよ。あの子であけぼのテレビはもっているようなもので」
 
「そういう新興勢力が台頭してる中で、カペラちゃんの今日発売のアルバムが凄い。あれカペラちゃんきっとブレイクする」
と丸山アイが言う。青葉も千里もまだ聞いていないというので、コスモスがその音源を流す。
 
雑談をしながら聴いていたのだが、雨宮先生が
「カペラってこんなに歌える子だったの?」
と驚いている。
 
千里も
「これ売れるよ」
と言い、青葉も
「このアルバムすごくよくできてる」
と言った。
 

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「まさにケイの言うとおり“群雄割拠・戦国時代”になってきたね」
 
「いつデビューさせてもいい予備軍がたまってきてるんですけど、マネージャーの数が足りないんですよ」
とコスモスが困っているように言う。
 
「マネージャーを10人くらい追加する必要がある」
「そのくらい足りてないです」
 
「そういえばロマンのマネージャーとエーヨのマネージャーを交換したんだね」
とアイが言う。
 
「交換?」
と青葉が訊く。
 
「エーヨを担当していた秋田有花は厳しい人なので、アバウトな性格のエーヨとはどうも相性が悪いようだったので、優しい性格の星野遙香と入れ替えたんですよ」
とコスモスは説明する。
 
「星野というのは、旧姓望月だよね?元KARION担当の」
と千里が訊く。
「そうそう」
 
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「まあエーヨの歌唱力では秋田さんは厳しいかもね」
「それで歌唱力のあるロマンの方が秋田を付ければ伸びるだろうと思ったんですよ」
 
「確かに確かに。クロールの息継ぎができない子に1500m泳がせるのは難しい」
と千里が言う。そのたとえで青葉も何となく理解した。
 
「この春からかなり大量に増員したから、相性とかを考える余裕もなく、採用した人をいちばん人手の足りない所に投入してたから。それでミスマッチも発生したんですよ」
 
「まだスワップは多少発生するかもね」
「かも知れないです」
 

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「エーヨが元男の子というのは、全く問題にされてないみたいね」
「ファンは全然気にしてないですよ。ちゃんと生理もあるから、半陰陽だったんだろうとみんな思ってくれてるし」
 
何か丸山アイが居心地の悪そうな顔をしているので、何だろう?と青葉は思った。
 
「エーヨって、アイドル性は高いんだけど、歌唱力がまたまだだし、それにあの子、結構ととしいし」
と丸山アイが言うと、みんな悩んでいる。
 
「あれ?もしかして“ととしい”って方言だっけ?」
「私は聞いたことない」
とコスモス。
 
「ごめーん。標準語でいうと何だろう。不注意とかいうのかな」
「ああ、それなら分かる。あの子、忘れ物多いし」
「言ったこと聞いてないし」
「遅刻が多いから、あの子にはわざと30分早い時間を伝えておくんですよ」
 
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「確かにそういう性格だと厳しい性格のマネージャーさんとは合わない」
 
「いや、あの子と最初に音源制作した時もさ、スタジオの入口でいきなり転ぶし」
「あの子、ドアを通り抜けられずにぶつかったりするし」
「なんかぼんやりしてることも多いよね」
 
「転んだ時は、足首掴まれたような気がしたけど気のせい、なんて言ってたけどね」
とアイ。
「妖怪足マガリだったりして」
と千里。
 
その時、青葉は「ん?」と思ったが、その場では何も言わなかった。
 

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打合せが終わった後、雨宮先生はSCCのドライバーさんに川崎の自宅まで送ってもらった。コスモスは夫の木取さんが仮眠しながら待機していたので、彼の運転する車で千住のマンションに帰る。アイは川越京華(旧姓楠本)の車で中野区のマンションに帰る。そして青葉と千里は、矢鳴さんの運転する車で浦和の自宅に戻った。
 
浦和の家では、桃香や子供たちは当然寝ているので、千里と青葉は地下のラウンジに入った。すると龍虎(アクア)が2人とも!来ている。
 
「大宮先生、おはようございます」
「龍ちゃんたちおはよう。2人揃っているのは珍しい」
 
「さっき仕事が終わってお腹が空いたから」
「大変だね!」
 
実はアクアは映画『白雪姫』の撮影中で、25日はクライマックスの王宮突入、白雪姫と王妃の対決のシーンが撮影された。予定を少し超えそうだったので、監督は22時でいったん終了を宣言した。そして22時半に、アクア×2!、七浜宇菜、雨梨美貴子の4人だけで追加撮影した。スタッフも河村監督と撮影をする美高助監督の2人だけである。時間の余裕がなく2人のアクアを使ったが、アクアが2人いるのに雨梨さんがびっくりしていた。
 
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「双子だったの?」
「すみませーん。従妹のマクラです」
「へー!」
 
「あまり話題にされたくないので、秘密で」
「いいよ」
 
しかし雨梨さんはアクアもマクラもどちらも上手いので
「あんたたち2人とも上手い。凄い」
と感心していた。
 
「ちなみにどちらも女の子だよね?」
「えーっと・・・」
とアクアが答えに窮していたら、宇菜が
 
「どちらも女の子であるのは確認済みです」
と言い、それで雨梨さんは納得していた。
 
撮影は深夜1:30頃終わった。無茶苦茶疲れたので、食料のたくさんある所を求めて、浦和に来たのであった。
 

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龍虎たちがかなり消耗しているようだったので、「休んでなよ」と言って、青葉と千里で手分けして、スパゲティを茹でたり、冷凍のシチューをチンしたりして晩御飯(夜食)を用意した。
 
「美味しそう!いただきまーす」
と言って食べ始める。よほど疲れていたのか、2人ともスパケディをお代わりして各々2皿食べた。
 
「焼肉でもする?」
「食べます!」
 
それでオージービーフを1kg!解凍してホットプレートで食べたが、龍虎たちはもりもり食べていた。各々400gくらい食べた。
 

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「龍ちゃんたち、普段ごはんはどうしてるの?」
と青葉が訊く。
 
「ボクは八王子に戻った時は自分で作りますよ」
「忙しいのによくやるね!」
 
(本当は竜崎由結が作ってくれることも多い)
 
「ボクは彩佳が御飯作って持って来てくれるから、それ食べてます。でも今日は代々木に帰る予定無かったから、彩佳もお休みで」
とM。
「彩佳が食事を作ってくれた日はそれを半分もらってくる日もあるけど」
とF。
 
「半分こ、したら足りなくない?」
「彩佳はいつも2人分作ってくれるんです。彩佳自身が食べる分も入れたら3人分ですけど」
「ああ、Mちゃんがたくさん食べることにしてるんだ?」
「彩佳はどうもボクたちが2人いることに気付いたみたいで」
と龍虎が言うと
 
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「それは気付かない方がおかしい」
と千里が言う。
 
「そんな気もします」
と龍虎。
 
「でも山村さん、まだ気付いてないんですよ」
「あいつは鈍いからねー」
と千里も笑っていた。
 

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その時、青葉はふと気になり、千里姉に尋ねてみた。
 
「さっき絵代子ちゃんが転んだの、足がかりじゃないかとか言ってたけど、それどんな妖怪?」
 
「足マガリね」
「足が曲がってるの?」
「そうじゃなくて、“まがる”というのか四国の方言で“まとわりつく”という意味なんだよ」
「へー!」
 
「目撃した人の話では綿みたいにしてたって」
「目撃もされてるんだ!」
 
「似たようなような妖怪で、すねこすりというのもいる」
「すねこすり?」
「犬みたいな形してるんだって。人のスネの間をすり抜けるから、それで人間は転ぶことがある」
 
「掴まれたというのなら、どちらかというと、まとわりつく方が近いのかも」
 

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龍虎が興味を示したので、青葉は甲斐絵代子が転んだ話をした。すると龍虎は言った。
 
「もしかしたら、あれもそれかも」
「ん?」
「6月にボク、唐突に『白鳥の湖』を踊ることになったんですけど」
「あれよくいきなり言われて踊れたね」
「間違っても仕方ないと開き直って踊ったんですけど、目立つようなミスは無かったと言われました」
「本番30分くらい前に言われたんでしょ?それで踊れるのはアクア以外に居ないよ」
 
「ただあの時ですね」
「うん」
「プリマの赤迫理奈さんが直前に怪我したんで、ボクに踊ってと言われたんですけど、その赤迫さんが転んだ時、何かに足首をつかまれた気がしたって言ったんですよ」
 
「うーん・・・」
と青葉は考え込んだ。これは・・・結構な問題かも知れない。
 
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「ああ、また火中の栗を拾おうとしている」
と千里から指摘される。
 
「あの場では言わなかったけど、実は私もそれに遭遇してるんだよ」
と青葉は言う。
 
それで青葉は先日、水連で足首を掴まれた気がして転んだことを話した。またジャネが披露宴で転んだこと、更にオリンピックの200m個人メドレーの代表の広嘴さんが、プールサイドで足首を掴まれ転倒して骨折。せっかのオリンピックに出場できなかったことも話した。
 
「まあそれで繰り上げ出場した金堂さんが金メダル取っちゃったから、水連の内部でやや揉めたみたいですけどねー。そもそもなんで彼女が代表に入ってなかったんだって。3人目の枠を使っても良かったんじゃないかって。彼女は世界水泳の400m個人メドレーの銀メダリストで、あの時、200m個人メドレーでも7位入賞してたし、そもそも200m個人メドレーの日本記録保持者だったし」
 
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「ああ」
 

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