【女子中学生の生理整頓】(2)

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「性転換手術するよ!」
と姉の亜蘭は宣言した。
 
「ちょっと待って。まだ心の準備が」
と言ってセナは焦る。
 
「お部屋の性転換手術だよ」
「へ?」
 
それで結局セナ自身も手伝って、まずは机や本棚を移動する。これだけで2時間かかる。現在の壁紙をよく拭いた上でその上に重ね張りで新しい壁紙を貼った。ライトピンク系オフホワイトの地に、薄いピンクとグリーンの花が多数描かれたものである。これまでのブルー系統の無地の壁紙とは大きく雰囲気が変わった。
 
家具を戻すが、机を交換する。今までセナが使っていた机を、物置状態になっていた2畳ほどの部屋に移動する。ここを片付けて、今まで部屋が無かった慧瑠(さとる)の部屋とする予定である(翌日作業)。姉が使っていた赤系統の学習机をセナの部屋に移動する。姉の部屋には、大人っぽい木製のワーキングデスクを入れた。
 
セナの部屋にはマイメロ!のカーテンを付け、姉の部屋にあるような大きな姿見も1個置いた。また布団カバーを交換し、手鞠・御所車などが描かれた敷き布団カバー、そしてフリル!付きのイチゴ模様の掛け布団カバー、ひまわり柄の枕カバーを取り付けた。
 
部屋の模様替えは母・姉・本人・弟の4人掛かり(父は出勤している)で、丸一日かかったのだが、物凄く女の子っぽい部屋に変化・・・というより本当に性転換しちゃった!
 
「ぼく、ここで寝るの?」
とセナは少し不安になって言う。
 
「可愛い女の子になってね」
と姉は言っていた。
 

ところで、河洛邑で富嶽光辞の解読をしていた千里(千里Y)だが、1月15日で切りのいい所まで進んだので、「続きはまた夏休みに」ということになり解放してもらった。
 
「帰りはたまにはのんびりと汽車の旅で」
と言われて、千里は翌日1月16日(金)、真理さんの車で大阪駅まで送ってもらい、トワイライト・エクスプレスに乗車したのである。
 
「何このオリエント急行みたいな重厚な雰囲気の列車は?」
「まあオリエント急行みたいな列車だと思うよ。ボン・ボワヤージュ!」
 
ということで、千里はこの列車に乗り、チケットに指定された“個室”まで行ったが「なんか凄ーい。高そう」などと思った。
 
(トワイライト・エクスプレスは料金の問題より“競争率”の高さが厳しい。真理は旅行代理店の人に頼み、1ヶ月前の予約開始日10時に予約を入れて、確保してもらっていた:真理は実は千里に命を助けてもらっているので、このくらいの便宜を図ってもいいと思う)
 

千里がもらったチケットは“シングルツイン”というもので、1人でも2人でも利用できる部屋(2人で使う場合は追加チケットが必要)。サンライズのものと同様のシステムである。
 
オリエント急行、もとい、トワイライト・エクスプレスは、この当時は次のようなダイヤで運行されていた(下記は主な停車駅)。これにわざわざ大阪から乗ったのである(むろん三重からは京都駅の方が近いが、“ゆったりした旅”を味わってもらおうという真理さんの親切心)。
 
大阪1200 京都1238 福井1426 金沢1531 富山1635 長岡1901 東室蘭719 苫小牧805 907札幌
 
(新津を1940に出た後は643洞爺までは乗降できる停車は無い。途中数ヶ所で乗員交替や機関車交換のための“運転停車”がある)
 
なおトワイライト・エクスプレスは、下り列車が月・水・金・土、上り列車は火・木・土・日の運行である(但し年末年始は毎日運行)。16日は金曜日で札幌行きの運行日であった。
 

部屋は狭い!けど向かい合うわりとゆったり目の椅子が進行方向およびその逆向きに置かれている。これが夜間はベッドになるようである。つまりベッドの向きは進行方向に対して平行である。上に固定された吊りベッドがあり、2人で乗車する場合は、1人はそこに寝ることになる。
 
椅子はきつね色というか明るい茶系統の色で、ほんとに落ち着いた雰囲気である。
 
なお千里が“きつね色”と言ったら、小春が「ん?」と声を出していた。
 
(玖美子やRの前に翌日現れた小春はエイリアスであり、本体はいつもYと一緒)
 
取り敢えず進行方向を向く座席に座り、ぼんやりと窓から見える景色を眺める。音楽が聴けるようになっているのでスイッチを入れて、洋楽のチャンネルを流した。イヤホンではなくスピーカーで聴けるようになっているので、リラックスして聴くことができる。
 
そして真理さんに買ってもらったステーキ弁当をのんびりと食べる。私、あまりお肉食べ慣れてないから、お腹壊さないかなあ、などと思っていたが、そもそも食べてる最中に寝ちゃった!
 
(なお千里Yに付いてきているカノ子は、大阪駅で買った八角弁当(はちかくべんとう)(*4)を食べた)
 
(*4) 八角弁当は長らく大阪駅の駅弁として親しまれていたが製造販売していた水了軒は2010年4月に破産した。しかし大垣市のデリカスイトという会社が同年7月ここの工場を買収、商号の権利も取得。工場の従業員の多くも再雇用して、八角弁当の生産・販売を再開した。再開後はむしろ新大阪駅の駅弁として親しまれているようである。なおこの物語は2004年なので、破産前の時代。
 

目が覚めた時は少し日が低くなり、海の近くを列車は走っていた。
 
「今どこ?」
「あと20分くらいで金沢だよ」
「金沢って金沢文庫のある所だっけ?」
「それは横浜の金沢!」
 
取り敢えずお弁当の残りを食べたが
「お腹空いた!」
と声を挙げた!!
 
「今ならまだ食堂車やってるよ、食堂車行く?」
「そだね」
 

それでカードキーで部屋をロックして3号車に設定されている食堂車に行った。カレーライスを頼んだが
「ステーキとかより、こういうメニューの方が落ち着く〜」
と千里は思いながら食べていた。
 
食べている内に金沢駅に到着する。
 
ここは2分間停車なので、カノ子に頼んで駅構内で非常食を買ってきてもらった。カノ子は発車時刻に間に合わなかった!が列車の速度がまだあまり上がらない内に、頑張って追いついて戻って来た。
 
「お疲れ様!」
「焦ったけどなんとか追いついた」
「置いてけぼりになったら大変だったね」
と言ってから
 
「あれ?置いてけぼり?置いてきぼり?」
「置いてけぼりが正しいです」
とカノ子は答える。
 
まだ息が荒い!!
 
「あ、そちらなんだ?」
 
「昔江戸のお堀に妖怪が出て『置いてけ』『置いてけ』と声を掛けられたことから“置いてけ堀(ぼり)”という言葉が生まれた。でも複合語の中で動詞を使う場合は“座り大将”とか“さわり心地”とか連用形を使うのが基本。だから“置いてきぼり”が正しいのではと思う人たちが出て、戦後一時期“置いてきぼり”という言葉が使われた時期もある。でもその後この言葉の語源が思い出されて“置いてけぼり”の方が主役を取り戻した」
 
「なんか言葉ひとつでも歴史があるんだね〜」
 
「『まんが日本昔ばなし』でこの怪談を放送したのを多くの人が見た影響もあると思う」
 
「へー。あれ面白かったよね」
「終了したのが残念だよね」
 
(この番組は局にもよるが2000-2003年で再放送が終了した。しかし2005年にまた再放送が再開される)
 

「だけど、金沢では、あまり乗り降りする人居なかった」
「移動のための列車じゃないからね〜」
「確かに。暇だけど、こういう旅もいいと思うよ」
「現代人は忙しすぎるよね」
 
食堂車からの帰り際、夕食ルームサービスで「プレヤデス弁当」というのがあるようだったので、(2個)予約した。
 
途中4号車に自販機があったので、お茶とポテトスティックを買って部屋に戻った。(千里は5号車)
 

取り敢えず、花絵さんから渡されている算数ドリルをしながら、窓の景色を見ているが、富山を出て少し経ったところ(魚津付近)で日没となった。
 
やがて「プレヤデス弁当」が配達されてくる。
 
「プレヤデスってお星様の形とかになってるのかなあ」
などと言いながら、ふたを開けてみたが、
 
普通の幕の内だった!
 
「どこらへんがスバルなんだろう?」
「うーん・・・何か気の利いたこと言おうと思ったが思いつかん」
「あはは」
 
味はさすがに美味しかったし、結構満腹した(さっきカレーライス食べたばかりだし!)
 
(お弁当は2個予約して1個はカノ子が食べた:小春は実体が無いから食べられないし、また食べる必要も無い)
 

夜景になっても千里はしばらく音楽を聴きながら、ドリルをしながら!窓の外を見ていたが、やがて眠ってしまった。
 
カノ子がオーディオを停め、千里をいったん床に降ろし、ベッドメイクをする。そしてベッドに寝せてあげて、毛布を掛けてあげた。カノ子も上段ベッドで横にならせてもらった(無賃乗車かも!?)。
 

千里が目を覚ました時、空は明るくなり始めていたが、まだ地上は暗い。
 
「もう青函トンネルは通ったのかな?」
と千里が独り言のように言うと、小春が
「もうすぐ青函トンネルに入るよ。今津軽海峡線を走ってる」
と答えた。
「さんきゅ。小春っていつ寝てるの?」
「だいたい千里と一緒に寝てるよ」
「寝てるのによく場所が分かるね」
「駅を通過する時に何となく駅名を認識してるからね。一部分起きてる神経が」
「なるほどー。じゃ1%くらい起きてるんだ」
「千里もでしょ?」
「それはあるけど、駅名まで意識してなかった。なまはげ人形は記憶に残ったけど」
「やはり僅かに起きてるね〜」
 
なお、カノ子はどうも熟睡してるようなので、起こさないようにした。
 

やがてトンネルに入る。
 
「これが青函トンネルだよ」
「これ通過するのに何分かかるの?」
「50kmくらいあるからね。トワイライト・エクスプレスの速度を時速100kmとして30分くらいだね」
「あ、今の割り算は私も分かった」
「やはり花絵さんに渡された練習問題でだいぶ鍛えられてきたね」
「でも私まだ九九があやふや〜」
「たくさん問題解いてればしっかりしてくるよ」
 
「でもトンネルなかなか抜けないね」
「30分くらいかかるからね」
「寝てよ」
 
と言って千里は本当に眠ってしまった。
 

千里が起きたのは列車がどこかに停まった時である。
 
「良く寝た〜!」
 
どうもカノ子は少し前から起きていたようである。
 
「洞爺だよ。もう北海道に戻ってきたよ」
「だいぶ明るくなったね」
「あと20分くらいで日の出かな」
「お腹空いた」
「そろそろ予約時刻だし、食堂車行こう」
「うん」
 
それで食堂車に行き、予約していた朝食を食べる。和洋の選択があったが、千里は和朝食はなんとなく想像が付くからと思って洋朝食を予約していた。
 
これが結構ボリュームがあった。ハムエッグにサラダにフルーツにと、かなり食べがいがあった。
 
「こういうのもたまにはいいかな」
 
千里は「お腹空きそうだから」と言って2人分予約していたので、1食分はカノ子が食べた。カノ子も「美味しい美味しい」と言って食べていた。もっともカノ子の姿は、普通の人には見えない筈である(見えるようにすることもできる)。
 

朝食が終わって部屋に戻ると、千里はまた音楽を聴きながら、算数ドリルをしながら景色を眺めていた。
 
8:24に南千歳を出る。次は40分ほどで終点・札幌である。
 
「あぁぁぁ!」
と唐突に小春が声を挙げた。
 
「どうしたの?」
 
小春は少し考えていたが
「ちょっと対策を考える」
と言った。
 

1/17(Sat) 9:07、トワイライト・エクスプレスは予定通り札幌に到着した。留萌方面に乗り継ぐ。
 
札幌10:00 (スーパーホワイトアロー17) 11:02深川11:08-12:04留萌
 
札幌をもっと早く出る特急もあるが、どっちみち留萌本線は11:06しかないので、早く深川についてもどうしようもない。それなら札幌駅で待ったほうがマシである。
 
千里は札幌駅で吉野家の牛丼を食べて
 
「何か落ち着いた!」
と言った。小春は千里が牛丼を食べている間も
 
「やはりそうなったか」
などと呟いていたが、牛丼屋さんを出てから
 
「お昼にパンでも買っておくといいよ」
と言うので、リトルマーメイドでパンを4個買った。
 

そして12:04に留萌駅に着くと
 
「取り敢えず時間調整しよう」
と小春が言うので、コンビニでおやつを物色した。なお荷物が多いので、大半の荷物はカノ子に自宅まで持ってってもらった。
 
「そろそろ行こうか」
と言われて、会計してコンビニを出る。
 
「どこに行くの?」
「市民体育館」
「へ?そんな所で何するの?」
「千里を待ってる人たちがいるんだよ」
「へー」
 

それで千里(千里Y)は、12:30頃、市民体育館に到着した。
 
「バスケットの大会があってるんだ?」
「うん」
 
そこに小春のエイリアスが来る。
「千里、待ってた。来て」
「いいけど」
 
小春に連れられて行くと、そこに留実子がいる。
 
「あれ?るみちゃん、バスケットの応援?」
と千里は尋ねた。“この千里”も留実子が応援団に入ったことは聞いていた。でもバスケ部に入ったことは知らない。
 
「ぼくはバスケット部員だけど。千里剣道はよかったの?」
「剣道って何だっけ?」
「だってさっき、剣道の試合に出なきゃと言って出ていったじゃん」
「へ?剣道なんて小学校を卒業した後はずっとやってないよぉ」
 
「向こうに出ないの?だったら午後の試合にも出てよ」
と久子が言う(この千里はこの人のことを知らない)。
 
「私が・・・何の?」
「バスケットの試合に決まっている」
 
「おお、参加してくれるなら歓迎歓迎」
と2人の女子(助っ人の子たち)が言った。
 

そういう訳で、“この千里”(千里Y)が午後のバスケットの試合に出ることになったのである。
 
体育館で履けるような靴を持ってないと思ったのだが、小春が
「これ使って」
と言って、バッシュを渡してくれる。これは千里Bのバッシュで、午前中の試合では千里Rが使用したものである。体操服にスポーツブラ!も小春から渡されたが、これは小春(のエイリアス)が自宅から持って来ていたものである。
 
「靴とか体操服にブラまで用意してるって用意がいいね」
と千里は小春に言った。
 
「でも女子バスケ部ってユニフォーム無いの?」
「予算が無いし、部員みんな貧乏だし」
「千里が寄付してくれるなら作ってもいいが」
「それっていくらくらいするの?」
「1着8000円くらいだと思うんだよね。それをホーム&アウェイで色違いの2枚作る必要がある。だから15人分作ると24万円になる」
「結構かかるね!」
「女子バスケ部の年間予算は生徒会からの補助が2000円と部費が月500円の5人で合計32000円(*5)」
 
(*5)留実子の部費は千里が一緒に払っている。留実子の家は貧乏である。
 
「確かに制作予算が取れそうにない」
「男子は5年前にOBさんが寄付してくれてユニフォーム作ったんだよ。ベンチ外の子用まで含めて30組で40万円掛かったらしい」
 
「へー。奇特な人いるね。女子にはそういう奇特な人がいないんだ」
「千里よかったらぜひ寄付を」
「宝くじでも当たったら考えてもいい」
 
取り敢えず千里は更衣室に行ってスポーツブラを着けた上で体操服に着替えた。そして、S中の控え場所で、札幌で買っておいたパンを食べたのであった。
 

13:20 S中とR中の試合が始まる。
 
千里は自分に背番号4の物凄く強そうな人が付いたのでびっくりした。
 
『この人すごいよー。なんで助っ人(と思っている)の私にこんな凄い人が付くの?』
と千里は思った。
 
千里は取り敢えずこの4番の人に完璧に封じられる。また留実子も向こうの5番の人に封じられるので、S中は攻撃方法が無い!むろんテニス部の2人は全く向こうの選手にはかなわない!
 
ということで、この試合前半は完璧なワンサイドゲームになった。第2ピリオドを終えて33-4である(4点の内2点は留実子が向こうの5番さんを振り切って決めたシュート、2点は久子が自分でシュートに行って決めたもの)。
 
ハーフタイムで休んでいる時、千里は尋ねた。
 
「点数がさ、一度に2点入る時と3点走る時があるのは何でだっけ?」
 
久子が呆れて頭を抱えている。午前中にスリーを千里に教えてあげた博実が再度教えてあげた。
 
「午前中も説明したけど、ゴールを中心に大きな半円が描かれているでしょ。あれがスリーポイントライン。あそこの外からシュートすれば3点になるんだよ」
 
「そんなルールがあったんだ!」
「まあミニバスには無いルールだよね」
「知らなかった。だったらあの外がらシュートすればお得じゃん」
「普通の人はあんな遠くからシュートしても入らないのだけど」
「そうだっけ?」
 
「じゃ次はあの外側からでも撃てるチャンスがあったら撃ってみなよ。たぶん4番の人も第3ピリオドでは休むと思うし」
 
「という説明を午前中にもして、君は第2試合でひたすらスリーを撃ったんだけどね」
と久子。
 
「え?私午前中はJRに乗ってたよ」
「へー、そうなんだ?」
 

そういう訳で、千里は第3ピリオドでは、とにかく“スリーポートライン”(←この千里の発言のママ)の外側からシュートしてやろうと思って出て行ったのである。
 
久子の予想通り、前半千里をずっとマークしていた4番の人、ずっと留実子をマークしていた5番の人はともに休んでいた。それで留実子も代わってマークに入った8番の人を結構振りきってシュートに行ったし、千里は代わってマークに入った12番の人からマークされてても気にせずスリーを撃った。
 
千里はスリーって、少々マークされてても撃てるじゃんと思っていた。近くまで寄ってからレイアップシュートしようとすると、その進入を阻まれるのだが、遠くからなら相手のガードしてない軌道でゴールを狙えばいいのである。
 
すると千里はこのピリオド6分までで10本のシュートを撃ちその内の9本を決めて27点を奪った。更に留実子も8得点してふたり合わせて35点である。R中側も10得点したので点数はここまでで43-39であるが、R中は完全にお尻に火が点いた。
 
4番さんと5番さんが出てくる。まだ疲れは取れてないだろうが、そんなことは言ってられなくなった。
 
実はもっと早く出たかったのだが、交替できるタイミングが無かったのである。結局、千里をマークしていた12番の人が(空気を読んで)わざとファウルして試合を停めた(千里はその後、しっかりフリースローを3本とも決めた)。
 

4番さんが本気で千里を停めに来る。“この千里”はバスケ初心者なので、“動き”は停められる。でもブロックされないように高い軌道で撃つと、確率はどうしても低下するものの、それでも結構入る。千里は第3ピリオドの残り4分間で4本のシュートを撃ち2本決めてフリースローの分まで入れて9点を取った。留実子も5番さんのブロックをかいくぐってシュート1本を決め、ファウルでもらったフリースローも1本決めて合計3点である。つまりこの4分間でふたり合わせて12点取った。一方R中側も9点取った。
 
結局、第3ピリオド終了時点で49-48とわずか1点差となる。第2ピリオド終了時点で33-4というオクトプル・スコアだったのが、先行きが予断を許さない所まで迫った。
 
第4ピリオド、R中は何と“千里に”ダブルチームを掛けて来た。どんどんスリーを放り込む千里の方が、留実子より危険と見てである。
 
元々“素人”の“この千里”はダブルチームを掛けられるとさすがにシュートが撃てない。それでもファウルを3回ももらって、フリースローを全部決めたのでそれで9点である。留実子も5番さんが厳しくマークするので得点できずフリースローを含めて3点に留まった。その間、R中は14点取ったので、最終的なスコアは63-60 と僅差でR中が逃げ切った。
 
でも4番さんも5番さんもファウルが4回であと1回でもおかせば退場になっていたところだった。万一退場になっていたら、そこからS中に逆転されていたであろう(後でファウルが多すぎるとして注意をくらった!負けてる側のファウルは戦術として認められているが勝ってる側のファウルには厳しい)。
 
それでともかくもこの大会はR中が優勝、S中が準優勝となった。
 
しかしこのR中との激戦は、S中に凄い選手が居るというのを、留萌地区全体に知らしめる大会となったのである。
 

なおバスケ部顧問の伊藤先生はずっと男子の方に付いていたので、女子がR中と3点差の接戦をしたと聞いてびっくりしていた。これまではいつも大差で負けていたのである。
 
男子は貴司の活躍で優勝を勝ち取った。男子はR中が準優勝だった。
 
貴司が翌日スコアを見て
「千里、女子の試合に出たんだ!?」
と驚いて訊いたが、尋ねられた千里(千里B)は
 
「私が女子の試合に出られるわけない。何かの間違いでは?」
と言った。
 
確かに千里Bは17日のバスケットの試合には出ていない!
 
(17日に試合に出たRもYも卵巣があるので間違い無く女子であったし、生徒手帳はセーラー服の写真で性別もちゃんと女子になっている。そもそも千里は戸籍上も女子なので、女子の試合に出る権利がある。Bは卵巣が無いので(*6)中性だし、生徒手帳では学生服姿で写っていて性別も男子になっている)
 
(*6)正確には小春の左側卵巣が入っているが、キツネの卵巣なので能力が小さい。実際にはBの身体は、女性ホルモン製剤により女性的に保たれている。1学期の頃は、鞠古君の身代わりで女性ホルモンの注射をされていたのも効いていた)
 

旭川にずっと行っているミミ子(朝日瑞江)に代わって、留萌での件をサポートしていた芳子(A大神の44番目の眷属!)は今日の3人の千里の動きを見ていて、疑問を感じて小春に尋ねた。
 
「30mルールって、基本的に2人の千里が接近した場合、静止しているか動きの少ないほうが残って、動いてた側あるいは動きの速い側が消えると言ってたでしょ?でも今日は、体育館にBがいた所にRが走って来たら停まってたBが消えて、走り寄ったRが残ったのはなぜなんですかね?」
 
「それだけど、私の仮説が検証された」
と小春は言った。
 
小春はYに付いて三重から戻ってきたカノ子、いつもBについているヒツジ子も呼び寄せてこの話をした。
 
(芳子・ミミ子はA大神の眷属、カノ子はP大神の眷属、ヒツジ子は留萌Q大神の眷属。Rが使役しているコリンはRが自分で見付けて契約を交わし眷属にしたもの。その立場は小春に近い。コリンも当然この場に居るが小春以外は彼女に気付いていない)
 

これまでの千里の30mルールでの主な消滅
 
4/14 Yが教科書を持って教室に行こうとしたが教室にBが居たのでY消滅
4/14 Rが生徒手帳の写真を撮影してから教室に行こうとしたが教室にBが居たのでR消滅
-/-- Bがバスケ練習に体育館に行こうとしても体育館内の剣道部にRがいるので辿り着けない
-/-- Rが買い物して帰宅し夕食を作っている所にP神社からYが帰宅しようとするとY消滅
6/29 Rの居る所にBが乗った保志絵の車接近で車内のB消滅
8/11 名古屋栄でYとBが接近。Yが消滅。
-/-- 2学期になり、部活終了時間RとBはほぼ同時に更衣室に向かうが、メイン体育館から更衣室に向かうRが先に更衣室に入るのでサブ体育館から向かうBは更衣室に辿り着けない
11/16 Bの居るカフェにタクシーで接近したYが消滅
11/16 Rが旅館に戻ると旅館で寝ていたBが消滅
12/30 大阪から戻ってきたBが帰宅しようとしたが先にRが帰っていたのでB消滅
 
小春とミミ子(瑞江)・カノ子たちは、30mルールでは“元から居る方が強く”接近した側が消滅すると考えていた。両方動いていた8/11のケースではYの方が“速く”動いていたので、移動速度の遅いBが残り速かったYが消えたと考えた。唯一の例外が11/16旅館での消失だが、これはBが寝ていたので負けたと考えた。
 
ところが上記の消失を見ていると別の解釈も成り立つことに小春は気付いた。
 
つまり3人の千里には強弱があり、R>B>Yの順に強く、残り易いという考え方である。すると11/16の旅館でのB消失まで含めて無理なく説明できるのである。
 
「でもRが消えることもあるよね?」
とカノ子が尋ねる。
 
「Rが消えるのは『めんどくさーい』とか『疲れたぁ』とか思った時だと思う」
「なるほどー」
「千里って面倒くさがり屋だもん」
「確かに確かに。面倒くさいと思ったらすぐ放棄する」
「だから実はBやYも結構勝手に消えてるかも」
「その可能性もあるね」
 
「強弱で説明できない唯一の例外が4/14の教室に行く途中のRの消失なんだけど、私も最初は分裂初期の混乱とも考えた。でもあの時、Rは必死でバス停まで走ってバスに飛び乗って、更にS町バス停から学校まで上り坂を必死に走った。だから疲れてるから休みたーいと思って消えた」
 
「ありそう!」
 
「それに毎晩買物してるのはほぼRだけど、夕食作ってるのはBとYが半々」
「確かに」
 
「買物だけで疲れて、後は手の空いてるほうに任せてるんだと思う」
「じゃRは自分が複数居ることに気付いてるの?」
「自分が複数居るというのは、千里は元々そう思ってたと思うよ。小さい頃から」
「もしかして私たちが見ている3人以外にも千里は居る?」
「むしろ他の千里が混じっていても、私たちは3人の中の誰かだと思って、気付いていない可能性がある」
 
「うーん・・・」
「疑問に思いだしたらキリがなくなる気もする」
「千里はひょっとしたら5-6人居るのかもしれないけど、その中の多分誰かが全体を管理してる」
 
「やはりそうだよね。なんか都合良く出没しすぎてるもん」
「なんか各々の得意分野を美事に分担してるのは誰か指示してるとしか思えん」
 
「今日の混乱は管理者も焦ったと思うけどね」
「私たちも大変だった!」
 
「全体の管理者がいるから、たぶんRは安心して消えるのだと思う。きっと、Rが消えたら管理者が適当な場所に誰か他の子を出現させるんだよ」
 

小春は考えていた。
 
元々の“千里たち”の成り立ちを考えると、R=C2 はオリジナルのひとりである。B=C1もオリジナルのひとりだが、卵巣が除去されていてR=C2よりパワーが落ちる。Y=C1p+Kは、C1のコピーなのでC1より少し劣化している。
 
つまり生命力を考えても、R=C2 > B=C1 >> Y=C1p+K と考えられる。すると強い方が残るというのも割と納得できる。
 
ただしY=C1p+Kは、自分自身の(iPSから作られた)卵巣を持っているので、その卵巣が成長してくると、母の卵巣が移植されているR=C2よりパワーが大きくなる可能性も秘めている。その頃には逆にR=C2の卵巣は年齢による機能低下でパワーが落ちていく可能性もある。
 
「でも多分それは千里の戸籍上の年齢が30歳過ぎてからだろうなあ」
と小春はひとりごとを言った。
 
その頃まで自分が生きているとは到底思えないので、自分はその時代を見ることがないだろうけど。
 
千里の体細胞の採取は2000年9月中旬に実施した。それをiPS細胞に変えて女性器に育てたから8.5ヶ月後の2001年6月頃誕生したようなものである。すると千里が30歳になる2021年、千里Yの女性器は20歳になる。おそらく千里Yは30歳をすぎた頃から40歳頃まで、その体力のピークを迎えることになるだろう。
 
(だから実は京平の出産はほとんど中学生が子供を産んだようなもの)
 
自分はたぶんあと5-6年の寿命かなあ、と小春は考えていた。自分は“思い人”が居たから結婚しなかったけど、小町にはいい雄キツネを世話してあげて、小町の子孫が代々千里をサポートしていけるようにしなくちゃ、などとも小春は考えていた(←ほとんど“世話焼きおばさん”)。
 

2004年1月19日(月).
 
始業式が行われ、3学期が始まった。始業式では、冬休み中に行われた大会の表彰が行われ、剣道団体戦で優勝した女子剣道部の代表で武智部長、個人戦で優勝した千里、3位の玖美子、バスケット男子で優勝した男子バスケ部部長の田臥君、準優勝した女子バスケ部部長の久子が順次壇上にあがって披露された。
 
「あれ?バスケ部、準優勝だったんですね。良かった」
と千里(千里R)が体育館のステージ横・控室で久子に言う。
 
「まあ午前中2勝したので、準優勝以上は確定していたんだけどね」
と久子。
 
「すみませーん。私が抜けて不戦敗になっちゃって」
と千里は言っている。
 
久子は「午後の試合でも出てもあわやの大活躍だったじゃん」と思っているが言わなかった。
 
武智は千里が午前中バスケの試合に出たかのような話をしているので、首を傾げていた!
 

この日、セナは学生服で登校していたが、玖美子に捕まる。ヘッドロックを掛けられて
 
「こぉらぁ、どうしてセーラー服着てない?」
と言われる。
 
玖美子のバストが顔にぶつかって焦っている:既に女性不感症になっているので、それで、あそこが大きくなったりはしない。
 
結局、セーラー服に着替えさせられていた(ちゃんと持って来ている)。
 
女子たちに取り囲まれた中で男子の目には触れないようにして着替えたが
 
「なんだ。下着はちゃんと女の子下着つけてるじゃん」
「もう男の子には戻れないんだから、潔くセーラー服着るべきよね」
「冬休み中にちんちん取っちゃったと聞いたけど」
などと他の女子たちから言われていた。
 
(完璧にセクハラだと思うが、結果的にセーラー服を着ることになって本人は喜んでいる!)
 
この日セナは1日セーラー服で過ごして授業もそれで受けたが、先生たちは誰も注意しなかった(*7)トイレも女子たちに連れられて女子トイレを使用していた。
 
(*7) 多分気付いていない。留実子の学生服姿の場合は先生たちが黙認している。ただし留実子はトイレ・更衣室は(保健室の清原先生に言われて)女子用を使用している。また、千里の場合は学籍簿上女子なので、セーラー服を着ていて全く問題無い。学生服姿の千里はほとんどの人が見ていない。目撃者は数えるくらいしかない。
 

授業が終わった後、セナは女子たちから声を掛けられた。
 
「セナちゃん、ナプキンは何使ってるの?」
「え?特に何も使ってないけど」
「でも女の子になったんでしょ?ナプキン買っておかなくちゃ」
「ぼくナプキンとか要るのかなあ」
「そりゃ女の子は生理があるんだからナプキン用意しておかなくちゃ」
 
ということで、セナは女子たちに連れられて(連行されて)、一緒に町のドラッグストアに行き、センターインの昼用と資生堂のパンティライナーを買ったのであった。
 
セナはこれまでナプキンコーナーは何度も“前を通過”したことはあったがゆっくりと見たことが無かったので、ドキドキしていた。セナは羽根つき・羽無しとか、昼用・夜用とかの違い、またパンティライナーのことも知らなかったので、女子たちに教えてもらった。また彼女たちのお勧めでナプキン入れも買い、早速ナプキン2個とパンティライナー2個をその中に入れて通学用カバンに入れておくようにした。
 

しかし結果的にこの日、セナは初めてセーラー服で下校した!
 
でもその格好で家に帰るのが恥ずかしくて、結局P神社に寄り(セーラー服のまま)勉強会に参加してから、学生服に着替えて帰宅した。
 
「軟弱な」
と恵香が言っていた。
 
しかしこの後、セナは毎日学生服で登校してきては、朝礼が始まる前にセーラー服に着替えるようになり、実質セナは女子中学生になってしまったのである。
 
(帰りはセーラー服のまま下校してP神社の勉強会に出たあと学生服に着替えて帰宅)
 

「とうとう女子15人男子13人になってしまった」
とクラス委員の田代君が言っていた。
 
4月頭には男子15人女子13人だったのが、沙苗が男子から女子に変更されて男女とも14人になり、今度はセナが勝手に?女子になって女子15人になった。
 
「次に女子になる男子は誰かな?」
「祐川君じゃない?」
「セーラー服着ないの?と言われて嬉しそうにしてたよね」
「祐川君のセーラー服姿、一度見たことある」
「私も見た。セーラー服可愛かったよね」
 
などと多くの子たちは噂していた(祐川君本人はこの話を聞いていない)。
 
「その内、男子全員女子になったりして」
「そしたらうちのクラス女子クラスになるね」
 

始業式の翌日1月20日には身体測定が行われた。男子保健委員の瀬戸君が
「これはそちらかな」
と言ってセナの書類を女子保健委員の玖美子に渡したので、女子の測定の時に玖美子は
「さあ、身体測定行くよ」
と言ってセナを保健室に連行した。
 
「身体測定はまずいよ〜」
と本人が抵抗するのを強引に連行する(やはりセクハラだと思う)。
 
「でもセナは男子と一緒には身体測定できないよ」
と恵香が言う。
「それどうしようかと思ってた。今日身体測定というの忘れてて、女の子下着つけてきてた」
 
「だから女子と一緒に測定するといいね」
と玖美子は言っている。
 

それで保健室の中に連れ込む。
 
みんな着衣のまま並んでいる。
 
「あれ?脱がないの?」
とセナは恵香に訊いた。
 
「冬は寒いからね。10月から3月までは着衣のまま身長体重測定する」
「良かったぁ」
「君だけ下着姿になってもいいが」
「着衣のままでお願いします!」
とセナ。
 
「私も着衣だと気楽〜」
と沙苗も言っていた。もっとも沙苗は5-7,9月は下着姿で他の女子と一緒に測定されている。沙苗は、千里と玖美子にたくさん鍛えられているので、女の子の下着姿や裸を見ても何も感じない。そもそも沙苗は恋愛対象が男の子である。
 

そしてこの日は体育があった!!
 
体育の授業では体操服に着替える!
 
セナはセーラー服のまま男子更衣室に入ろうとした。
 
が当然追い出される!
 
「女の子は女子更衣室を使いなさい」
 
それでセナが「どうしよう?」という顔で廊下に立っていたら、ちょうど遅れてきた、体育委員!の優美絵が
「セナちゃんどうしたの?」
と声を掛けてくれた。
 
「更衣室に入ろうとしたら追い出された」
「女子更衣室から追い出されたの?」
「ううん。男子更衣室から」
「そりゃ追い出されるよ!セナちゃん性転換しちゃったんでしょ。女子更衣室使わなきゃ」
「でもぼくが入ってもいいのかなあ」
「女の子は女子更衣室を使うんだよ。さ、一緒に入ろ」
と言って、優美絵が手を引いてくれて、セナは初めて女子更衣室に入った。
 

女子更衣室は、男子更衣室と特に変わらない!(当然だ)
 
ただ、そこに居るのが女子ばかりで、下着姿の子も多い。セナは思わず彼女たちを見ないように下を向いた。
 
でも女子たちはセナが入ってきても何も騒がない。
 
優美絵はセナに
「さあさ、着替えて着替えて」
と言って、自分も着替え始めた。
 
セナも、そうだよね。ここは着替えるための部屋だもん。ぼく別に悪いことするわけじゃないしと思い直し、セーラー服を脱いで体操服を身につけた。セナがセーラー服とその下に着ていた防寒用のシャツを脱ぎ、上半身はキャミソール、下半身はパンティだけになった時、さりげなくセナを見る視線が多数あったことに、セナは気付かなかった。
 
これがセナの女子更衣室初体験となったのである。
 

体育の授業でも、セナは女子たちと一緒に行動した。柔軟体操は沙苗が
「セナちゃん組もうよ」
と言って組んでくれたのでほっとした。でもセナは沙苗と組んでいて
「わぁ、沙苗ちゃん、身体が凄く女の子らしい」
と思っていた。
 
(2学期までセナは鞠古君や祐川君と組んでいた。また沙苗は千里と組んでいた。この日千里は玖美子と組んだ)
 

体育の授業が終わってからまた更衣室に入る。セナは体操服を脱いで、防寒用のシャツを着て、セーラー服の上下を着るだけだが、下着まで交換している子もある。千里などスポーツブラを外してバストを曝していたので、セナは一瞬それを見て、千里ちゃん、おっぱい凄く大きくなってるー。すごーい、などと思った。
 
もっとも、セナは下着まで脱いでいる女子たちはできるだけ見ないようにしていた。
 
でもこうしてセナは女子中学生として保健室での身体測定も。更衣室での着替えも体験してしまったのである。
 
そしてこれを体験したことにより、セナはもう男の子には戻れなくなってしまったのだが、そのことにセナは気付いていない。
 

1月21日(水)には、変形時間割で、実力テストが行われた。午前中に英語・社会・数学、午後に理科・国語である。“千里たち”は、例によって英語と社会をY、国語をR、数学と理科をBが分担して問題を解いた。
 
今回の勉強会グループの成績順位(春→夏→今回)
 
玖美子1-1-1 蓮菜2-3-2 田代3-2-3 美那22-14-12 穂花25-16-11 千里40-26-22 恵香43-32-28 沙苗65-41-36 留実子74-58-47 セナ78-81-68
 
セナが勉強会に毎日来るようになったのはこの冬休みからである。女装したさ(女装させられたさ)に参加するようになった。この学年は2学期以降82人なので夏の実力テストではブービー(*8)だった!
 
(*8) ブービー(booby)は本来は最下位のことであるが、日本では最下位の1つ上という意味での使用が定着している。これはブービー賞欲しさにわざと最下位を狙うプレイを排除するためとも言われる。それで日本では最下位のことは、ブービーメイカーと言うが、こういうboobyの使い方及びブービーメーカーという言葉は日本独自のもので、英米では通用しない。
 

1月24-25日、千里Rはいつものように高速バスで旭川に出て、きーちゃんの家にお邪魔した。フルートと龍笛(と、ついでにピアノ)の指導を受けるためである。
 
実際には旭川駅前で彼女の車(トリビュート)で拾ってもらったが、千里は彼女が着けている喪章に気付いた。
 
「誰か亡くなったの?」
「実は釧路で千里も会った佐藤小登愛が亡くなったのよ」
「え〜?まだ若かったのに。まだ20歳くらいだったよね?」
「23歳かな。私もちょっとショックだった」
「病気か何か?」
「なぜそう思った?」
「だって、子宮の調子が悪そうだったから」
「・・・・・」
 
実は小登愛の遺体は検屍された時に、死因とは関係無いものの、初期の子宮癌も見付かっていたのである。きーちゃんは彼女の病気には気付いていなかった。
 
「まあ事故のようなものかな」
「へー。ほんとに気の毒に。凄い才能の高い人だったみたいなのに」
「うん。凄い子だった。私、あの子が亡くなった時、海外に居て。何かそれも悔やまれる」
「自分を責めてはいけないよ」
「そうだけどね」
 
きーちゃんは小登愛には“霊的防御”をもっとしっかり指導しなければいけなかった、と後悔していた。
 

この日は、彼女の家でまずは龍笛を3時間、お昼を食べてからピアノを2時間、おやつを食べてフルートを3時間指導してもらった。
 
「千里はどんどんうまくなってる。ほんとに音楽的な才能がある」
「そうかな」
 
ピアノもこの日はついにツェルニーを卒業して次からはハノンをやろうと言われた。
 
「我流で弾いていた部分がきちんとした弾き方になって、弾きやすくなったでしょ?」
「そうなんだよね。なんか今までより小さなエネルギーで同じ曲を弾けるようになってきた」
「やはり長年の歴史で開発されてきた演奏法というのは合理的にできてるよね」
 

「千里」
ときーちゃんは笑顔で千里に声を掛けた。
「うん?」
 
きーちゃんはいきなり千里にエネルギー弾を撃った。千里は瞬間的にバリアを張って、それを跳ね返した。倍のエネルギーにして!!
 
「おお、さすが」
「びっくりしたぁ。脅かさないでよ。きーちゃんじゃなかったら、私反撃してたよ」
 
いや、しっかり反撃したじゃん!私が焦ったぞ。
 
「ちゃんと防御できたね」
「この程度は反射するよ。でなきゃ剣道の試合はできない」
「そっかぁ!あんたは剣道やるから瞬間的に反応できるんだ」
 
「今はきーちゃんが声を掛けたから、何でもできる体勢になってた。何も気配の無い所から攻撃されても、私防御できるよ」
「霊能者は剣道を覚えるべきだなあ」
「あ。それはいいと思う」
 

翌日は越智さんが来て午前中剣道の指導をしてくれた。千里が新人戦留萌地区大会で優勝したと言うと
「君の実力で地区大会なら優勝できるだろうね」
と言った。
 
「今年の夏の大会は全国大会に行けるよう頑張ろう」
「それ全道で2人しか行けないですぅ」
「だから道大会で優勝すればいいんだよ」
「厳しそう」
「次回からはもっとハイレベルの指導をする」
「きゃー!」
 
お昼を越智さんも入れて一緒に食べた後、午後からはまた、きーちゃんに龍笛とピアノの指導をしてもらった。そして天子のアパートに送ってもらい、天子・瑞江と3人で夕食を取った。
 
「あれ?最終バスに間に合う?」
「大丈夫、大丈夫、留萌まで走って帰るから」
 
JRの最終は19:16, バスの最終は18:20である。
 
実際には千里Rは18時半頃、瑞江に送ってもらって旭川駅まで行くと、最終列車にも乗らず、駅前の西武(*9)で買物した後、消えちゃった!
 
(面倒くさい時は消える!)
 
(*9) 旭川駅前の西武百貨店は1975年に開業し、2016年9月30日に閉店した。現在は2004年1月。
 

土日は(町中にある)留萌Q神社でご奉仕していた千里BがACOOPで買物をして帰り、御飯を作った。Bは
 
「なんか私、月に数回しか買物してない気がする」
などと、独りごとを言っていた。
 
(YはP神社で勉強会をしていたが、勉強会の後、帰宅途中で消滅)
 

剣道部では、女子の1年生3人(千里・玖美子・沙苗)はこの3人でも対戦するが、男子たちとも対戦させてもらっていた。でも半分くらい女子1年が勝つので
 
「お前らほんとに凄い」
と男子たちが感心していた。
 
「やはり男子に全勝できるように頑張ろう」
と玖美子は千里や沙苗にハッパを掛けていた。
 

さて、2月14日はバレンタインである。女の子にとっては1年で最大のお祭りである!?
 
P神社では例年のように、誰に贈るかとか、手造りするかとかいった話が1ヶ月くらい前から出ていた。千里たちのグループもだが、隣のテーブルで勉強会をしている5-6年生のグループも、勉強のことより、そちらのおしゃべりが多くなっていた。5-6年生だと、まだ「あげる相手」が居ないという子も多いようだ。
 
「蓮菜は当然田代君にあげるとして」
「え?雅文?要ると言うなら考えてもいいけど」
「千里はもちろん細川君にあげるとして」
「細川って誰だっけ?」
 
「なんか釣り上げた魚には餌を遣らない人が多いようだ」
 
(“この千里”は、千里が貴司と付き合ってるなどとは知らない!)
 

結局、1月31日(土)に、中1のグループ(恵香・美那・穂花・沙苗・セナ)で一緒にジャスコ(*10)まで行ってチョコを物色した。
 
(蓮菜と千里は「別に贈るあて無いし」と言ってパス。玖美子はこの手のイベントには興味ないのでパス)
 
(*10) ジャスコ留萌店は史実では1997年8月にオープンし、2012年6月には親会社の体制変更によりマックスバリュ留萌店としてリニューアルした。ただしこの物語では1994年に既にあったことにしている。ここは市街地から(深川方面に)かなり離れており、車で買物にくる前提の店舗である。でも車を運転できない中学生の恵香たちはバスでここに移動する。駅前で乗り換えるので結構大変である。
 

恵香たちのグループでは結局
 
「手造りするより買った方がいい!」
という結論に達したので、バレンタインの特設コーナーで少しゴージャスな感じのチョコを見た。
 
バレンタインコーナーは当然中高生の女子でいっぱいである。
 
沙苗もセナもこんな所に来たのは初めてだったので、ドキドキしながら見ていた。ふたりとも贈るアテは無いと言ったのだが
 
「バレンタインは雰囲気を味わうだけでもいいのよ」
といって、恵香たちに連行されたのである。
 
(結局沙苗もセナもP神社の宮司さんに渡して、宮司さんが嬉しがっていた!)
 

千里Bは2月7日(土)にQ神社でご奉仕した後、バスでジャスコまで行き、貴司に贈るチョコを買った。ロイズのトリュフとプラリネのセット2000円(+消費税100円)である。そして翌日8日(日)に、神社内でいつものようにマンガを読んでた貴司に
 
「これ、バレンタイン。来週は試験前で神社に来れないから」
と言って渡した。
 
「サンキュー!嬉しい!キスとかできないよね?」
「いいよ」
 
というので、貴司は千里の頬にキスをした。
 
(まだ唇と唇でキスする勇気はお互いに無い:千里は晋治とは1度だけ舌まで入れるキスをしているが貴司とはまだそこまで進んでいない)
 

千里Bも言ったように、S中では2月16-18日は期末試験があるので、2月14-15日はQ神社でのご奉仕もお休みにすることにしている。一方、P神社に来ている子たちは普通に勉強会をしているので、たまにお客さんが来れば巫女衣装で昇殿祈祷をすることもある。
 
しかし貴司は勉強などしない!ので、2月14日も15日も自宅からジョギングでQ神社まで(約4.5km)行き、ほとんど貴司の私室と化している倉庫部屋で『スラムダンク』を読んでいた。なおこの部屋に貴司のマンガが100冊以上置かれている。
 
お昼になったので、近所のチューオー(地場のスーパー)まで行ってパンでも買って来ようと思って出掛ける。
 
するとバッタリと千里(実は千里R)と遭遇する。
 
「あれ〜。貴司だ。何してんの?」
「神社でマンガ読んでた。千里は?」
「私は夕飯の買物しに出て来た」
 
「ね。急がないなら少しデートしない?」
「じゃ、お昼一緒に食べる?」
「うん!」
と貴司は嬉しそうに言い、結局一緒にマクドナルドに入る。
 
それで千里はベーコンレタスバーガーのセット、貴司はビッグマックのセットを頼んで一緒に食べた。楽しくおしゃべりしていた時
 
「そうだ。これバレンタイン。こないだ旭川に出たから買っといた。学校で渡すつもりだったけど、ちょうど会ったから」
と言って、千里は貴司にチョコを渡す。
 
先日旭川に行った時に駅前の西武デパートで買っておいたゴディバの生チョコ(2000円)である。ところが貴司は首を傾げる。
 
「え?でも千里、こないだもチョコくれたじゃん」
「は!?」
と言って、千里の顔が曇る。
 
「へー。チョコもらったんだ?人気のある貴司だから、チョコくれる女の子も多いだろうね」
 
「え?だってこないだQ神社で千里くれたじゃん」
「ふーん。Q神社にわざわざ訪ねてきて貴司にチョコを渡した女の子がいたのね。随分ご熱心じゃん。だったら、その子と仲良くすれば?」
と千里(千里R)は言うと
 
「私帰る」
と言って、席を立ち帰ってしまった!
 
訳が分からないのは貴司である。
 
「何で怒るんだよ!?自分で渡しといて!」
 
でも考えている内に「俺誰かと勘違いしたかなあ」と不安になった。チョコ自体は全部で10個くらいもらっているし、貴司にデートして下さいと言った子もいたが、丁寧にお断りしている。
 
 
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【女子中学生の生理整頓】(2)